基板16の周囲に配置されるアノード電極17の短辺の部分の上にブロック電極18a、18bを配置し、ターゲット13と接地電位との間の距離をブロック電極18a、18b上で短くする。トラック形形状のプラズマ領域10の両端付近に近い基板16上の場所に強度の大きいプラズマが形成され易いが、ブロック電極18a、18b上に強度の大きいプラズマが形成されるため、基板16上ではプラズマが均一化し、基板16に形成される薄膜の面内の特性分布が均一になる。
前記TB距離は、前記ターゲットの表面と前記基板配置部に配置された前記基板の表面との間のTS距離の10%より大きく、90%より小さくされた請求項1記載のスパッタリング装置。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング方法による薄膜形成は広く用いられている技術であり、近年では大型基板に薄膜を形成するために、大面積基板に特性分布が均一な薄膜を形成する技術が求められている。
【0003】
図6(平面図とE−E線、F−F線截断断面図)のプラズマ装置102は、カソード電極112の表面にターゲット113が配置され、裏面に外周磁石125と内側磁石126とがヨーク127に配置された複数の磁石装置115
1〜115
5が設けられており、ターゲット113がスパッタされると、ターゲット113と対面して基板配置部114上に配置された基板116の表面に薄膜が形成される。
【0004】
基板116の外周上には、アノード電極117が配置されており、ターゲット113表面に形成されるプラズマが均一になるようにされている。
しかしながら基板116が一層大型化し、それに連れてターゲット113や磁石装置115
1〜115
5が大型化してきたところ、基板116の短辺に近い領域と、その間の中央の部分とでは、形成される薄膜の特性の差が大きくなってきた。
【0005】
短辺部分の薄膜の抵抗値と中央部分の薄膜の抵抗値が大きく異なると、基板表面に形成される発光層の発光分布が異なってしまい、不均一な明るさの画面となる。
【0006】
下記特許文献には、移動可能なマグネトロンプラズマに連動した接地電位電極を配置して膜質や膜厚の均一化を図った大型基板対応のマグネトロンスパッタ装置が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1の符号2は、本発明のスパッタリング装置であり、真空槽11を有している。
図2は、後述するアノード電極17の外周よりも内側の部分の平面図と、そのA−A線截断断面図とB−B線截断断面図である。
【0013】
真空槽11の内部には、長方形形状のターゲット13が配置されており、そのターゲット13の裏面側には、カソード電極12が配置されている。
カソード電極12の表面はターゲット13の裏面に接触されている。
【0014】
カソード電極12の裏面側には、磁石ケース51が配置されており、磁石ケース51の内部には複数(ここでは5個)の磁石装置15
1〜15
5が配置されている。磁石装置15
1〜15
5はマグネトロン磁石と呼ばれている。
【0015】
カソード電極12の裏面側に配置された磁石装置15
1〜15
5は、基本的に同じ形状、同じ大きさであり、
図3に、1個の磁石装置15
1〜15
5の平面図と、そのC−C線截断断面図とD−D線截断断面図とを示す。
【0016】
磁石装置15
1〜15
5はリング形形状の外周磁石25と、外周磁石25の中に配置された直線形形状の内側磁石26とを有しており、外周磁石25と内側磁石26とはそれぞれ細長にされており、各磁石装置15
1〜15
5は細長になり長手方向を有している。
【0017】
ここでは、各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離は等しくされており、また、各磁石装置15
1〜15
5の内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離も等しくされているが、本発明はそれに限定されるものではなく、膜厚の分布や膜質の分布を均一にするために、磁石装置15
1〜15
5とターゲット13の裏面との間の距離が異なっていたり、磁石装置15
1〜15
5とターゲット13の裏面との間が非平行に配置されていてもよい。
【0018】
また、ここでは、各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離と、内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離とも等しくされているが、各磁石装置15
1〜15
5の中で、内側磁石26とターゲット13の裏面との間の距離が異なる磁石装置15
1〜15
5や、外周磁石25とターゲット13の裏面との間の距離が異なる磁石装置15
1〜15
5が含まれていてもよい。
【0019】
外周磁石25の二個の磁極のうち、一方の磁極がカソード電極12に向けて配置され、他方の磁極がカソード電極12とは反対側に向けられて、ヨーク27の表面と接触して配置されており、また、内側磁石26の二個の磁極のうち、一方の磁極がカソード電極12に向けて配置され、外周磁石25のカソード電極12に向けられた磁極と内側磁石26のカソード電極12に向けられた磁極との間に磁束が形成され、その磁束はターゲット13表面に漏洩され、アーチ形形状に湾曲される。
【0020】
外周磁石25と内側磁石26との他方の磁極はカソード電極12とは反対側に向けられて、外周磁石25の磁極が接触したヨーク27の表面と接触して配置されている。
【0021】
外周磁石25のカソード電極12に向けられた磁極と、内側磁石26のカソード電極12に向けられた磁極は一方がN極であり、他方がS極であり、カソード電極12に向けられた磁極間で形成される磁束はターゲット13の表面にアーチ形形状に漏洩し、ターゲット13表面の電子密度を増加させるようになっている。
【0022】
真空槽11内のターゲット13と対面する位置には、基板配置部14が配置されている。
基板配置部14は長方形形状であり、基板配置部14の上には成膜対象である長方形の基板16が配置されている。
【0023】
基板16はターゲット13よりも小さくなっており、以下、基板配置部14上の基板16の表面が位置する平面に投影した場合の位置関係で内側と外側を決めるものとすると、基板16の外周はターゲット13の外周よりも内側に配置されている。
【0024】
ターゲット13と基板16とは、ターゲット13の長辺と基板16の長辺とは平行になるように配置されており、ターゲット13の表面と基板16の表面とも平行になるように配置されている。
【0025】
磁石装置15
1〜15
5の長手方向の長さは、ターゲット13の長手方向の長さとほぼ同じ長さであり、基板16の長辺はターゲット13の長手方向の長さよりも短くされ、また、基板16の長辺は磁石装置15
1〜15
5の長手方向の長さよりも短くされている。
【0026】
各磁石装置15
1〜15
5は、ヨーク27の裏面側が移動板52に接触して移動板52上に配置されている。
各磁石装置15
1〜15
5は、長手方向が互いに平行にされて、ターゲット13と基板16の長辺と平行にされて、短辺が伸びる方向に一列に並べられている。
【0027】
真空槽11の外部には移動装置53が配置されており、移動装置53が動作すると移動板52はターゲット13の表面と平行な平面内で移動し、各磁石装置15
1〜15
5は移動板52と一緒に移動する。
ターゲット13の表面に漏洩した磁束は、磁石装置15
1〜15
5の移動と共に移動する。
【0028】
移動の際に各磁石装置15
1〜15
5は、外周磁石25とターゲット13の表面との間の距離及び裏面との間の距離に変化はなく一定距離が維持される。また、内側磁石26とターゲット13の表面との間の距離及び裏面との間の距離に変化はなく一定距離が維持される。
【0029】
従って、各磁石装置15
1〜15
5は移動板52の移動と共に、一緒にターゲット13の表面と平行な平面内を移動する。
図4(a)は、各磁石装置15
1〜15
5のそれぞれが移動する範囲の中央に各磁石装置15
1〜15
5が位置する状態を示し、同図(b)は、図面右端に位置する状態、同図(c)は図面左端に位置する状態を示しており、同図(b)の状態と同図(c)の状態の間を繰り返し移動する。
【0030】
次に、基板16とターゲット13との間には、接地電位に接続されたアノード電極17が配置されている。
アノード電極17は四角リング形形状であり、中央に開口19が形成されている。アノード電極17の外周と内周とは長方形形状であり、アノード電極17の外周は基板配置部14に配置された基板16の外周よりも外側に位置するようにされている。
【0031】
この例では、アノード電極17の内周は基板16の外周よりも内側に位置するようにされており、アノード電極17の四角リング形形状の二本の長辺部分は基板16の長辺上に配置され、二本の短辺部分は基板16の短辺上に配置され、基板配置部14上の基板16の外周はアノード電極17によって覆われて開口19の底面には、基板16の外周よりも内側の部分が露出されている。
【0032】
真空槽11には真空排気装置21とガス導入装置23とが接続されており、真空槽11は真空排気装置21によって真空排気され、真空槽11の内部には真空雰囲気が形成されている。
【0033】
真空槽11の外部にはカソード電極12に接続されたスパッタ電源22が設けられており、真空雰囲気が形成された真空槽11の内部にガス導入装置23からスパッタリングガスを導入し、内部が所定圧力で安定したところでスパッタ電源22からスパッタリング電圧を出力し、カソード電極12に印加する。
【0034】
ターゲット13は金属が板状に成形された平板状ターゲットであり、その表面近傍にスパッタリングガスのプラズマが形成され、プラズマ中の正イオンが加速され、スパッタリングガスの粒子がターゲット13に入射し、ターゲット13はスパッタリングされ、ターゲット13を構成する物質の粒子がスパッタリング粒子としてターゲット13の表面から放出され、基板16に向けて飛行し、基板16の表面に到着して薄膜を成長させる。
薄膜が所定膜厚に形成されると、基板16は真空槽11の外部に搬出される。
【0035】
このように本発明によって基板16の表面に薄膜が形成されるが、大型の基板16表面に形成された金属薄膜の抵抗値は、基板16の位置によって異なることになる。
【0036】
抵抗値の分布はプラズマの強度分布と密接な関連があり、本スパッタリング装置2のプラズマを説明すると、先ず、各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25と内側磁石26との間に位置するターゲット13の表面に大きな強度のプラズマが形成される点にマグネトロンスパッタリングの特徴がある。
【0037】
各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25はスパッタリングされるターゲットの面積を大きくするために細長のリング形形状にされており、内側磁石26は直線形形状であるから、外周磁石25と内側磁石26との間は、細長のリング形形状になる。従って、形成される強度が大きいプラズマも、磁石装置15
1〜15
5毎に形成されるリング形形状になっている。
【0038】
細長のリング形形状のプラズマは直線部分よりも端部の方がプラズマ強度が大きくなることが知られており、特に、複数の細長のリング形形状のプラズマが平行に並べられると、リング形形状のプラズマの端部が並べられた部分のプラズマ強度の方が、リング形形状のプラズマの長辺の部分のプラズマ強度よりも大きくなる。
【0039】
並べられた端部のプラズマは基板16の短辺の近くに薄膜を成長させ、プラズマの長辺部分は基板16の長辺の近くに薄膜を成長させる場合は、基板16表面の中央と短辺部分と長辺部分とで薄膜の特性が異なってしまう。
【0040】
このスパッタリング装置2では、各磁石装置15
1〜15
5の端部が並べられた領域と平行して、アノード電極17の短辺がそれぞれ配置されており、アノード電極17の二個の短辺部分の表面上の、基板16の外周よりも外側であって、ターゲット13の外周よりも内側の位置に、厚みが一定のブロック電極18a、18bがそれぞれ配置されている。
【0041】
各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25とその内側に位置する内側磁石26との間の領域をプラズマ領域10とすると、各磁石装置15
1〜15
5の外周磁石25の両端は半円形に湾曲され、それに伴ってプラズマ領域10の両端も半円形に湾曲されて、外周磁石25とプラズマ領域10とはそれぞれトラック形形状になっている。
【0042】
各磁石装置15
1〜15
5のプラズマ領域10の長手方向の長さは等しくされており、各プラズマ領域10のアノード電極17に対する距離が等しいものとすると、各プラズマ領域10の両端の湾曲した部分のうちの一方の端部の湾曲した部分は横一列に並び、反対側の端部の湾曲した部分も横一列に並ぶようにされている。
【0043】
各プラズマ領域10の両端の湾曲した部分のうち、一方の端部であって横一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間には一本のブロック電極18aが配置され、反対側の端部であって横一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間には、他の一本のブロック電極18bが配置されている。
【0044】
真空槽11の壁と、アノード電極17と、ブロック電極18a、18bとはそれぞれ接地電位に接続されており、ターゲット13の表面は、アノード電極17の長辺部分上ではアノード電極17の長辺部分と向き合っており、アノード電極17の短辺部分上ではブロック電極18a、18bの表面と向き合っている。
【0045】
ターゲット13表面と基板16表面との間の距離をTS距離、ターゲット13表面とアノード電極17の長辺部分との間の距離をTA距離、ターゲット13表面とブロック電極18a、18bとの間の距離をTB距離とすると、次の三式がなりたつ。
【0047】
基板16の長辺の真横位置ではターゲット13に最も近い接地電位の部材はアノード電極17のターゲット13に対面する表面であり、基板16の長辺の真横位置ではターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間はTA距離だけ離間されている。
【0048】
基板16の短辺の真横位置ではターゲット13に最も近い接地電位の部材はブロック電極18a、18bのターゲット13に対面する表面であり、基板16の短辺の真横位置ではターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間はTB距離だけ離間されている。
【0049】
従って、ターゲット13とターゲット13に最も近い接地電位の部材の表面との間の距離は、基板16の長辺の真横位置よりも短辺の真横位置の方が短くなる。
【0050】
ブロック電極18a、18bにより、基板16の外周よりも外側の位置で接地電位との距離が短くなり、基板16の外周よりも内側のプラズマを引きつけて、基板16の外側でブロック電極18a、18bが位置する部分のプラズマ強度が大きくなる。その結果、基板16上のプラズマ領域10の両端に近い部分のプラズマ強度は小さくなる。要するにブロック電極18a、18bにより、基板16上のプラズマ領域10の両端に近い部分のプラズマ強度が小さくなり基板16上のプラズマ強度が均一化されるから、形成される薄膜の特性分布が均一化される。
【0051】
TB距離は、ターゲット13の表面と基板配置部14に配置された基板16の表面との間のTS距離の10%より大きくしないと却って特性分布が悪化し、90%より小さくしないと効果が薄い。
【0052】
図5は、ターゲット13に平板状の金属モリブデンターゲットを用い、電極として使用されるモリブデン薄膜を形成した場合のシート抵抗Rsの分布を示すグラフであり、横軸がシート抵抗Rs、縦軸が基板16上で長辺方向の位置(
図2の上端がゼロ点であり、縦軸の上端と下端に基板の短辺が位置する。)である。
【0053】
ブロック電極18a、18bが設けられていない場合のモリブデン薄膜のシート抵抗Rsの曲線aは、シート抵抗の最大値と最小値の差が大きいのに対し、このスパッタリング装置2(ブロック電極18a、18bが設けられた場合)の曲線bはシート抵抗の最大値と最小値の差が小さくなっている。
【0054】
プラズマ領域10の両端である湾曲した部分の上にブロック電極18a、18bが設けられ、ブロック電極18a、18b上でターゲット13と接地電位との間の距離が短くなっていることにより、ブロック電極18a、18b上のプラズマ強度が増大する。ブロック電極18a、18bは基板16よりも外側に配置されており、基板16の外側のプラズマ強度が増大した結果、ブロック電極18a、18bが近接する基板16の縁付近の基板16上ではプラズマ強度が減少するため、基板16上のプラズマ強度が均一化され、基板16の表面内の抵抗値分布が均一になっている。
【0055】
プラズマ領域10は、無端状、リング形形状であればよく、外周磁石25の両端が方形である場合や楕円形である場合も本発明に含まれる。
また、各磁石装置15
1〜15
5の端部を同一直線上に配置しない場合や、各磁石装置15
1〜15
5の端部とカソード電極12との距離を一定にしない場合も本発明に含まれる。
【0056】
なお、上記ブロック電極18a、18bは、アノード電極17の辺上に位置し、基板16の辺よりも外側であって、ターゲット13の辺よりも内側に位置している。
【0057】
二個のブロック電極18a、18bはそれぞれ直線形形状であり、プラズマ領域10の両端のうち、プラズマ領域10の一方の端部の一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間に一個のブロック電極18aが配置され、プラズマ領域10の反対側の端部の一列に並んだ湾曲した部分と基板16の表面が位置する平面との間に他の一個のブロック電極18bが配置されており、プラズマ領域10の湾曲した部分の一部と基板16の表面が位置する平面との間にブロック電極18a、18bが位置している。
【0058】
また、ブロック電極18a、18bは一部分がプラズマ領域10の湾曲した部分の外側にはみ出していてもよいし、内側にはみ出していてもよい。更にまた、両方からはみ出していてもよい。
【0059】
なお、上記ターゲット13は金属モリブデンであったが、本発明は金属モリブデンに限定されるものではなく、本発明のスパッタリング装置2は、金属チタン、モリブデン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金属タングステン、純銅、銅合金、タンタル等の金属から成るターゲット13に対して本発明の効果を奏することができる。