【解決手段】大気に開放された大気領域11と、大気圧に対して減圧され、トレイTに取り付けられた成膜対象Sに対して酸化インジウムを主成分とする透明導電膜を形成するスパッタ室12と、スパッタ室12に接続され、大気に開放された状態と大気圧に対して減圧された状態とを有し、成膜前の成膜対象Sが取り付けられたトレイTをスパッタ室12に搬送し、成膜後の成膜対象Sが取り付けられたトレイTをスパッタ室12から搬出する搬出入室13とを備える。大気領域11および搬出入室13のなかで、搬出入室13が、トレイTを搬送するトレイ搬送室を構成し、トレイ搬送室が、トレイTを加熱する加熱部を備え、加熱部は、スパッタ室の外部においてトレイTの温度が60℃以上の温度に維持されるように、トレイTを加熱する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、成膜対象に対して透明導電膜が形成されるときには、成膜対象に加えてトレイにも酸化インジウムを主成分とするスパッタ粒子が付着する。トレイの付着物は、トレイが大気に開放されると、大気中の水を吸着する。水を吸着した付着物がトレイとともに減圧された成膜室に搬入されると、トレイが配置された環境での水の飽和蒸気圧が変わることによって、付着物に吸着された水が、成膜室内に放出される。これにより、成膜室内の水の圧力が、付着物から放出された水によって左右され、結果として、成膜室の状態にばらつきが生じる。こうしたばらつきは、成膜対象に形成される透明導電膜の特性がばらつく一因であるため、トレイに対する水の吸着を抑えることが求められている。
【0005】
本発明は、トレイに対する水の吸着を抑えることを可能としたスパッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのスパッタ装置は、大気に開放された大気領域と、大気圧に対して減圧され、トレイに取り付けられた成膜対象に対して酸化インジウムを主成分とする透明導電膜を形成するスパッタ室と、前記スパッタ室に接続され、大気に開放された状態と大気圧に対して減圧された状態とを有し、成膜前の前記成膜対象が取り付けられた前記トレイを前記スパッタ室に搬送し、成膜後の前記成膜対象が取り付けられた前記トレイを前記スパッタ室から搬出する搬出入室と、を備える。前記大気領域および前記搬出入室のなかで、少なくとも前記搬出入室が、前記スパッタ室の外部において前記トレイを搬送するトレイ搬送室を構成し、前記トレイ搬送室が、前記トレイを加熱するために用いられる加熱部を備え、前記加熱部は、前記スパッタ室の外部において前記トレイの温度が60℃以上の温度に維持されるように、前記トレイを加熱する。
【0007】
上記構成によれば、トレイが大気に暴露されるスパッタ室の外部において、トレイが60℃以上の温度に維持されるため、トレイの加熱が行われない場合と比べて、トレイに水が吸着することが抑えられる。
【0008】
上記スパッタ装置において、前記成膜対象は、非晶質状の薄膜を含み、前記加熱部は、前記スパッタ室の外部において、前記トレイの温度が200℃以下に維持されるように、前記トレイを加熱してもよい。上記構成によれば、成膜対象に含まれる非晶質の薄膜が変性することを抑えつつ、トレイに対する水の吸着を抑えることができる。
【0009】
上記スパッタ装置において、前記加熱部は、放射によって前記トレイを加熱してもよい。
上記スパッタ装置において、前記加熱部は、ランプヒーターおよびシーズヒーターの少なくとも一方を含んでもよい。上記構成によるように、放射によってトレイを加熱する加熱部は、ランプヒーターおよびシーズヒーターの少なくとも一方を含むことができる。
【0010】
上記スパッタ装置において、前記加熱部は前記ランプヒーターを含み、前記トレイ搬送室は、前記成膜対象と前記ランプヒーターとの間に位置し、前記成膜対象を覆うマスクであって、前記ランプヒーターから放出される光の少なくとも一部を反射するマスクをさらに備えてもよい。
【0011】
上記構成によれば、トレイはランプヒーターによって加熱される一方で、成膜対象への入熱はマスクによって抑えられるため、トレイに対する水の吸着を抑えつつ、成膜対象が入熱によって変性することを抑えることができる。
【0012】
上記スパッタ装置において、前記トレイは金属製であり、前記トレイに電圧を印加するための2つの端子を備え、前記加熱部は前記トレイの前記端子間に電圧を印加するための直流電源を備えてもよい。上記構成によれば、電圧の印加によってトレイそのものが発熱するため、トレイの加熱が可能である。
【0013】
上記スパッタ装置において、前記加熱部は、誘導加熱によって前記トレイを加熱してもよい。
上記スパッタ装置において、前記トレイは、前記トレイの内部に位置する配線と、前記配線に電流を供給するための2つの端子と、を含み、前記加熱部は、前記配線に電流を供給するための交流電源を含んでもよい。
【0014】
上記構成によるように、誘導加熱によってトレイを加熱する加熱部は、トレイ内に位置する配線に対して交流電源を供給する交流電源を含むことができる。配線に交流電流が供給されることによってトレイに渦電流が生じる。これによって、トレイそのものが発熱し、トレイを加熱することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から
図8を参照して、スパッタ装置の一実施形態を説明する。以下では、スパッタ装置の構成、トレイの構成、加熱部の構成、および、試験例を順に説明する。
【0017】
[スパッタ装置の構成]
図1を参照してスパッタ装置の構成を説明する。
図1が示すように、スパッタ装置10は、大気領域11、スパッタ室12、および、搬出入室13を備えている。大気領域11は、大気に開放されている。スパッタ室12は、大気圧に対して減圧され、トレイTに取り付けられた成膜対象Sに対して酸化インジウムを主成分とする薄膜を形成する。搬出入室13は、スパッタ室12に接続され、大気に開放された状態と大気圧に対して減圧された状態とを有する。搬出入室13は、成膜前の成膜対象Sが取り付けられたトレイTをスパッタ室12に搬送する。また、搬出入室13は、成膜後の成膜対象Sが取り付けられたトレイTをスパッタ室12から搬出する。
【0018】
大気領域11および搬出入室13のなかで、少なくとも搬出入室13が、スパッタ室12の外部においてトレイTを搬送するトレイ搬送室を構成する。トレイ搬送室が、トレイTを加熱するために用いられる加熱部を備えている。加熱部は、スパッタ室12の外部においてトレイTの温度が60℃以上の温度に維持されるように、トレイTを加熱する。これにより、トレイTが大気に暴露されるスパッタ室12の外部において、トレイTが60℃以上の温度に維持されるため、トレイTの加熱が行われない場合と比べて、トレイTに水が吸着することが抑えられる。
【0019】
本実施形態では、大気領域11は、成膜前の成膜対象Sを収納するストッカーを備えている。大気領域11は、ストッカーが配置される空間を区画する区画部を備え、区画部の内部が、大気に開放されている。また、大気領域11は、ストッカーに収納された成膜対象Sを搬出入室13に搬送し、かつ、搬出入室13に配置されたトレイTに成膜前の成膜対象Sを取り付ける搬送ロボットを備えている。なお、搬送ロボットは、成膜後の成膜対象SをトレイTから受け取り、大気領域11に搬送する動作も行う。
【0020】
搬出入室13は、搬送ロボットとの協働によって、成膜前の成膜対象SをトレイTに取り付けること、および、成膜後の成膜対象SをトレイTから取り外すことが可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、大気領域11および搬出入室13のなかで、搬出入室13が、スパッタ室12の外部においてトレイTを搬送するトレイ搬送室を構成する。
【0021】
スパッタ装置10は、大気領域11と搬出入室13との間、および、搬出入室13とスパッタ室12との間に、ゲートバルブ14を1つずつ備えている。各ゲートバルブ14が開くことによって、ゲートバルブ14を介して接続された2つの処理室が互いに連通する。一方で、各ゲートバルブ14が閉じることによって、ゲートバルブ14を介して接続された2つの処理室が互いから遮断される。
【0022】
スパッタ室12および搬出入室13には、各処理室を所定の圧力に減圧する排気部15が接続されている。各排気部15は、例えば各種のポンプおよび各種のバルブを備えている。各排気部15が駆動されることによって、各処理室の内部は、大気圧よりも減圧された状態、言い換えれば真空の状態にされる。
【0023】
搬出入室13は、成膜前の成膜対象SをトレイTに取り付けるとき、および、成膜後の成膜対象SをトレイTから取り外すときに、大気に開放される。このとき、大気領域11と搬出入室13との間のゲートバルブ14は開けられる。これに対して、搬出入室13とスパッタ室12との間のゲートバルブ14は閉じられる。搬出入室13は、成膜前の成膜対象SをトレイTとともにスパッタ室12に搬入するとき、および、成膜後の成膜対象SをトレイTとともにスパッタ室12から搬出するときに、真空に減圧される。このとき、大気領域11と搬出入室13との間のゲートバルブ14は閉じられる。これに対して、搬出入室13とスパッタ室12との間のゲートバルブ14は開けられる。
【0024】
スパッタ室12は、カソード12Cと、搬送レーン12Lとを備えている。カソード12Cは、酸化インジウムを主成分とするターゲットを備えている。酸化インジウムを主成分とするターゲットには、例えば、ITOターゲット、IGZOターゲット、IGOターゲット、および、IZOターゲットなどを挙げることができる。本実施形態において、ターゲットの主成分はITOである。
【0025】
搬送レーン12Lは、スパッタ室12内において所定の搬送速度でトレイTを搬送する。スパッタ室12では、搬送レーン12LがトレイTを搬送している間に、成膜対象Sに対してITO膜が形成される。ITO膜は、酸化インジウムを主成分とする透明導電膜の一例である。なお、搬送レーン12Lは、搬出入室13から搬入したトレイTをスパッタ室12の所定の位置まで搬送し、かつ、スパッタ室12内における所定の位置においてトレイTの位置を固定してもよい。スパッタ室12では、搬送レーン12LがトレイTの位置を固定している間に、成膜対象Sに対してITO膜が形成されてもよい。
【0026】
また、スパッタ室12では、成膜対象Sにおいて対向する一方の面のみにITO膜が形成されてもよいし、成膜対象Sにおいて対向する両面にITO膜が形成されてもよい。成膜対象Sにおいて対向する両面にITO膜が形成される場合には、スパッタ室12は、トレイTを回転させることによって、カソード12Cと対向する面を変更する機構を備えていればよい。
【0027】
また、成膜対象Sにおいて対向する両面にITO膜が形成される場合には、スパッタ室12は、搬送レーン12Lが延びる方向と直交する方向において、搬送レーン12Lに対する一方側と他方側とにカソード12Cを備えてもよい。これにより、一方側に位置するカソード12Cを用いて、成膜対象Sにおける一方の面にITO膜を形成し、かつ、他方側に位置するカソード12Cを用いて成膜対象Sにおける他方の面にITO膜を形成することができる。
【0028】
また、スパッタ装置10は、第1スパッタ室と第2スパッタ室とを備えてもよい。この場合には、搬送レーンは第1スパッタ室および第2スパッタ室の両方に敷設されている。第1スパッタ室は、搬送レーンが延びる方向と直交する方向において、搬送レーンに対する一方側に位置するカソードを備えている。これに対して、第2スパッタ室は、搬送レーンが延びる方向と直交する方向において、搬送レーンに対する他方側に位置するカソードを備えている。スパッタ装置10は、成膜対象Sを第1スパッタ室内において搬送レーンによって搬送する間に、成膜対象Sにおける一方の面にITO膜を形成する。また、スパッタ装置10は、成膜対象Sを第2スパッタ室内において搬送レーンによって搬送する間に、成膜対象Sにおける他方の面にITO膜を形成する。
【0029】
本実施形態では、成膜対象Sは、非晶質状の薄膜を含んでいる。加熱部は、スパッタ室12の外部において、トレイTの温度が200℃以下に維持されるように、トレイTを加熱する。これにより、成膜対象Sに含まれる非晶質の薄膜が変性することを抑えつつ、トレイTに対する水の吸着を抑えることができる。非晶質状の薄膜には、例えば非晶質状のシリコン膜を挙げることができる。
【0030】
スパッタ装置10は、スパッタ装置10の駆動を制御する制御部10Cをさらに備えている。制御部10Cは、例えば、各ゲートバルブ14、各排気部15、および、搬送レーン12Lに電気的に接続し、各部に制御信号を出力することによって、各部の駆動を制御する。制御部10Cは、搬出入室13が備える加熱部にも電気的に接続し、加熱部に制御信号を出力することによって、加熱部の駆動を制御する。
【0031】
こうしたスパッタ装置10では、大気に開放された搬出入室13内にトレイTが位置し、トレイTに対して成膜前の成膜対象Sが取り付けられる。次いで、搬出入室13内が減圧され、搬出入室13とスパッタ室12とが連通される。そして、トレイTが搬出入室13からスパッタ室12に搬入された後、搬出入室13とスパッタ室12との連通が遮断され、スパッタ室12にスパッタガスが供給される。その後、ターゲットに電力が供給されることによってスパッタ室12内にプラズマが生成され、プラズマ中のイオンによってターゲットがスパッタされる。これにより、成膜対象Sの表面に、ITO膜が形成される。成膜後の成膜対象Sは、搬出入室13を介して大気領域11に搬出される。
【0032】
[トレイの構成]
図2を参照してトレイTの構成における一例を説明する。
図2が示すように、トレイTは格子状を有し、トレイTが区画する各格子には、1つの成膜対象Sが取り付けられる。トレイTにおいて、2つの成膜対象Sによって挟まれる部分が第1部分T1であり、トレイTの縁を含み、かつ、第1部分T1よりも外側に位置する部分が第2部分T2である。
【0033】
第2部分T2は矩形枠状を有し、第2部分T2を構成する各辺が延びる方向と直交する方向の長さが、第2部分T2の幅である。第1部分T1において、第1部分T1が延びる方向と直交する方向の長さが、第1部分T1の幅である。第2部分T2の幅は、第1部分T1の幅よりも大きい。
【0034】
トレイTが枠状を有することによって、成膜対象Sにおいて対向する2つの面のうち、一方の面のみにITO膜を形成することも可能であるし、また、2つの面にITO膜を形成することも可能である。なお、成膜対象Sにおける1つの面のみにITO膜を形成する場合には、トレイTが複数の凹部を有し、各凹部内に成膜対象Sが取り付けられる構成でもよい。
【0035】
トレイTを形成するための材料は、金属である。金属には、例えば、ステンレス鋼を用いることができる。
【0036】
[加熱部の構成]
図3から
図7を参照して、加熱部の構成を説明する。以下では、加熱部の構成として5つの例を説明する。また、本実施形態では、上述したように、搬出入室がトレイ搬送室を構成し、かつ、加熱部を備えている。なお、
図3から
図7では、図示の便宜上、トレイTが2つの成膜対象Sを支持し、かつ、トレイTの1つの面上に成膜対象Sが位置するようにトレイTおよび成膜対象Sが図示されている。
【0037】
[第1例]
加熱部は、放射によってトレイTを加熱するように構成することができる。放射によってトレイTを加熱する加熱部は、ランプヒーターを挙げることができる。
【0038】
図3が示すように、搬出入室13は、ランプヒーター21を備えている。搬出入室13は、成膜対象Sとランプヒーター21との間に位置し、成膜対象Sを覆うマスク22をさらに備えている。マスク22は、ランプヒーター21から放出される光の少なくとも一部を反射する。これにより、トレイTはランプヒーター21によって加熱される一方で、成膜対象Sへの入熱はマスク22によって抑えられる。そのため、トレイTに対する水の吸着を抑えつつ、成膜対象Sが入熱によって変性することを抑えることができる。
【0039】
ランプヒーター21は、赤外線を放出する。言い換えれば、ランプヒーター21は、0.8μm以上1mm以下の範囲に含まれる波長の光を放出する。マスク22は、ランプヒーター21から放出される光のうち、一部の波長の光のみを反射することが可能な構成でもよいし、ランプヒーター21から放出される光の全てを反射することが可能な構成でもよい。
【0040】
[第2例]
放射によってトレイTを加熱する加熱部には、シーズヒーターを挙げることもできる。
図4が示すように、搬出入室13は、シーズヒーター31を備えている。シーズヒーター31は、トレイTとシーズヒーター31とが重なる方向から見て枠状を有している。シーズヒーター31は、トレイTとシーズヒーター31とが重なる方向から見て、成膜対象Sと重なる位置に貫通孔31aを有している。そのため、シーズヒーター31は、成膜対象Sと重なる部分には位置してない。これにより、トレイTはシーズヒーター31によって加熱される一方で、成膜対象Sはシーズヒーター31によって加熱されにくい。
【0041】
[第3例]
図5が示すように、金属製のトレイTは、トレイTに電圧を印加するための2つの端子Taを備えている。加熱部はトレイTの端子Ta間に電圧を印加するための直流電源41である。こうした構成では、トレイTが抵抗として機能するため、トレイTに電圧が印加されることによって、トレイTが加熱される。言い換えれば、電圧の印加によってトレイTそのものが発熱するため、トレイTの加熱が可能である。
【0042】
上述したように、成膜対象Sは非晶質状の薄膜を含んでよく、非晶質状の薄膜には、非晶質状のシリコン膜を挙げることができる。この場合、成膜対象Sの抵抗値は、トレイTの抵抗値よりも高い。そのため、トレイTに電圧を印加したときに、成膜対象SはトレイTよりも温度が上がりにくい。結果として、トレイTに対する水の吸着を抑えつつ、成膜対象Sの加熱によって成膜対象Sが変性することも抑えられる。
【0043】
[第4例]
図6が示すように、加熱部は、誘導加熱によってトレイTを加熱するように構成することができる。誘導加熱によってトレイTを加熱する場合には、トレイTは、トレイTの内部に位置する配線Tbと、配線Tbに電流を供給するための2つの端子Tcとを含んでいる。加熱部は、配線Tbに電流を印加するための交流電源51である。交流電源51が配線Tbに交流電流を供給すると、配線Tbの周りに位置するトレイTに渦電流が生じる。これにより、トレイTが発熱し、トレイTが60℃以上200℃以下の温度に加熱される。
【0044】
トレイTの表面と対向する平面視において、配線Tbは、トレイTの第1部分T1および第2部分T2の両方に位置するように敷設されている。配線Tbは、トレイTの第2部分T2に位置する一方で、第1部分T1に位置していなくてもよい。上述したように、第2部分T2の幅は第1部分T1の幅よりも大きいため、トレイTの第2部分T2に配線を敷設することが容易である。配線Tbのなかで、トレイTの外部に露出する2つの端部に端子Tcが、1つずつ位置している。配線Tbは、例えば、導線と、導線の周りを覆う絶縁層とから構成されている。
【0045】
[第5例]
図7が示すように、誘導加熱によってトレイTを加熱する加熱部には、トレイTの外部に位置するコイル61と、コイル61に電流を供給する交流電源62とを備える加熱部を挙げることができる。交流電源62がコイル61に交流電流を供給すると、第5例と同様、コイル61の近傍に位置するトレイTに渦電流が生じる。これにより、トレイTが発熱し、トレイTが60℃以上200℃以下の温度に加熱される。
【0046】
第1例から第5例の加熱部のなかで、第1例および第2例の加熱部は、それぞれスパッタ装置10の稼働中にわたって、搬出入室13内を60℃以上200℃以下の範囲に含まれる所定の温度に加熱することが好ましい。これにより、搬出入室13に搬入された成膜対象Sの温度が、スパッタ室12の外部において、60℃以上200℃以下に維持されやすい。
【0047】
これに対して、第3例から第5例の加熱部は、それぞれ成膜後の成膜対象Sが取り付けられたトレイTが、スパッタ室12から搬出入室13に搬入され、かつ、各電源に接続された時点から、トレイTの加熱を開始することが好ましい。一方で、各加熱部は、成膜前の成膜対象Sが取り付けられたトレイTが、搬出入室13からスパッタ室12に搬出されるために各電源に対する接続が解除された時点で、トレイTの加熱を終了することが好ましい。
【0048】
上述した第1例から第5例では、複数の加熱部を適宜組み合わせることができる。
【0049】
[試験例]
図8を参照して試験例を説明する。
トレイを60秒間大気に暴露した後に、減圧されたスパッタ室内にトレイを搬入した。そして、トレイを搬入してから60秒後におけるスパッタ室内の水の分圧を測定した。なお、トレイを搬入する前において、スパッタ室内の水の分圧を3.4×10
−4Paに設定した。また、トレイを大気に暴露している間において、トレイの温度を25℃から100℃の間における複数の値に変更した。スパッタ室内の水の分圧を測定した結果は、
図8に示す通りであった。
【0050】
図8が示すように、トレイの温度が60℃以上であれば、スパッタ室内の水の分圧が、7.0×10
−3Pa以下となり安定であることが認められた。言い換えれば、トレイの温度が60℃以上であれば、大気に暴露されたトレイがスパッタ室に搬入されても、トレイが搬入される前後において、スパッタ室内の水の分圧がほぼ変わらないことが認められた。こうした水の分圧であれば、水の分圧における変化が、スパッタ室内にて形成されたITO膜の特性に対して影響することが抑えられる。
【0051】
以上説明したように、スパッタ装置の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)トレイTが大気に暴露されるスパッタ室12の外部において、トレイTが60℃以上の温度に維持されるため、トレイTの加熱が行われない場合と比べて、トレイTに水が吸着することが抑えられる。
【0052】
(2)成膜対象Sに含まれる非晶質の薄膜が変性することを抑えつつ、トレイTに対する水の吸着を抑えることができる。
【0053】
(3)トレイTはランプヒーター21によって加熱される一方で、成膜対象Sへの入熱はマスク22によって抑えられる。そのため、トレイTに対する水の吸着を抑えつつ、成膜対象Sが入熱によって変性することを抑えることができる。
【0054】
(4)電圧の印加によってトレイTそのものが発熱するため、トレイTの加熱が可能である。
【0055】
(5)配線Tbに交流電流が供給されることによってトレイTに渦電流が生じる。これによって、トレイTそのものが発熱し、トレイTを加熱することができる。
【0056】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[トレイ搬送室]
・トレイ搬送室は、大気領域11と搬出入室13とによって構成されてもよい。この場合には、大気領域11および搬出入室13が、スパッタ室12の外部であって、かつ、トレイTが大気に暴露された状態で、トレイTの搬送を行う。大気領域11は、成膜前の成膜対象SをトレイTに取り付け、かつ、成膜後の成膜対象SをトレイTから取り外すことが可能に構成される。
【0057】
また、大気領域11および搬出入室13の少なくとも一方が、加熱部を備えていればよい。大気領域11および搬出入室13の両方が加熱部を備える場合には、大気領域11が備える加熱部の構成と、搬出入室13が備える加熱部の構成とが、互いに異なってもよい。
【0058】
トレイ搬送室が、大気領域11と搬出入室13とによって構成される場合にも、加熱部が、スパッタ室12の外部において、すなわち、大気領域11および搬出入室13にトレイTが位置する場合において、トレイTの温度を60℃以上に維持すればよい。これにより、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0059】
[制御部]
・制御部10Cは、特定の期間のみにおいて加熱部がトレイTを加熱するように加熱部の駆動を制御してもよい。例えば、搬出入室13内に加熱部が位置する場合には、制御部10Cは、搬出入室13内が大気圧であるときに限り、加熱部がトレイTを加熱するように、加熱部の駆動を制御してもよい。また、大気領域11内に加熱部が位置する場合には、制御部10Cは、大気領域11にトレイTが位置するときに限り、加熱部がトレイTを加熱するように、加熱部の駆動を制御してもよい。また、大気領域11内および搬出入室13内の両方に加熱部が位置する場合には、制御部10Cは、大気領域11内に位置する加熱部と、搬出入室13に位置する加熱部とが互いに異なるタイミングでトレイTを加熱するように、各加熱部の駆動を制御してもよい。
【0060】
[スパッタ装置]
・スパッタ装置10は、搬出入室13とスパッタ室12との間に、成膜前の成膜対象Sおよび成膜後の成膜対象Sの少なくとも一方に対して所定の処理を行う処理室をさらに備えてもよい。