【解決手段】本発明は、管状のチャンバ10と、前記チャンバの内部に配され、III族窒化物半導体からなる被処理体Sを保持する支持体30と、前記チャンバの外部に配され、該チャンバを介して前記被処理体を加熱する昇温手段20と、を含む熱処理装置である。前記支持体は、被処理体を載置する平板状の第一部位31、及び、前記第一部位と接して一体を成すことにより、前記プロセスガスの一方向の通気を可能とする内部空間30Kと該内部空間の入口、出口となる2つの開口部を形成する第二部位32、から構成されている。前記第一部位と前記第二部位は、少なくとも前記内部空間に臨む内面が、炭化ケイ素からなる。
管状のチャンバと、前記チャンバの内部に配され、III族窒化物半導体からなる被処理体を保持する支持体と、前記チャンバの外部に配され、該チャンバを介して前記被処理体を加熱する昇温手段と、を含む熱処理装置であって、
前記チャンバは、該チャンバの内部を減圧する手段Aと該チャンバの内部においてプロセスガスを一方向へ誘導する手段Bとを備え、
前記支持体は、被処理体を載置する平板状の第一部位、及び、前記第一部位と接して一体を成すことにより、前記プロセスガスの一方向の通気を可能とする内部空間と該内部空間の入口、出口となる2つの開口部を形成する第二部位、から構成されており、
前記第一部位と前記第二部位は、少なくとも前記内部空間に臨む内面が、炭化ケイ素からなることを特徴とする熱処理装置。
【背景技術】
【0002】
近年、GaNを用いたパワーデバイスの開発が盛んに行われている。このようなデバイスを構成するp型GaN層は、MOCVD法などの気相成長法を用いて成長させることが公知である。たとえば、水素からなるキャリアガスまたは水素と窒素からなる混合ガス中において、Ga原料[たとえば、TMG(トリメチルガリウム:Ga(CH
3)
3)]、N原料[たとえば、アンモニア(NH
3)]、およびp型ドーパント[たとえば、シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp
2 Mg)]を、加熱された基板[たとえば、サファイア、SiC、Si、GaAs、GaN]上に供給し、熱分解反応により、MgドープGaN層(p型GaN層)を成長させる手法が挙げられる。このように成長させたMgドープGaN層は高抵抗な膜であり、p型ドーパントを活性化させる必要があった。この活性化には、成膜後に結晶内に内在する水素を取り除くために、窒素雰囲気あるいは真空雰囲気や不活性ガス雰囲気において熱処理を行う手法が用いられている(特許文献1)。
【0003】
また、n型やp型の領域を形成するためには、それぞれSiやMgをGaN結晶へイオン注入する方法がある。イオン注入によって注入された原子は主に結晶格子間に入るが、このままではドナーあるいはアクセプタとして活性化しないので、たとえばGa等III族原子サイトに再配置させる必要がある。再配置には、n型は1100℃以上の高温が必要であり、p型は1200℃以上の高温が必要とされている。
【0004】
本発明者らは、p型ドーパントを活性化するために高温で熱処理した場合、
図3Bに示すように、MgドープGaN層の表面に荒れが発生する現象を確認した。ここで、表面の荒れとは、
図3Bの写真において、黒い粒状に見える箇所(凸部)が存在することを意味する。このような荒れが存在する面に対して、次工程の処理(たとえば、成膜やエッチングなど)が行われた場合、処理面の平坦性が確保されない、あるいはMgドープGaN層からなる微細な回路に欠陥が生じる、などの不具合を誘発するため、改善策の開発が期待されていた。
【0005】
この成膜やイオン注入後に、窒素雰囲気あるいは真空雰囲気や不活性ガス雰囲気において熱処理を行った結果、処理面に荒れが発生する問題は、高温で熱処理が求められるp型ドーパントを活性化する際に顕在化する。しかしながら、この問題は、p型ドーパントの活性化に限定されるものではなく、n型ドーパントを活性化するための熱処理や、GaN層自体あるいはGaN基板を熱処理する場合においても、発生頻度の違いはあるが、同様に生じることが分かった(
図3B)。すなわち、この高温で熱処理した際に処理面に発生する荒れの問題は、III族窒化物半導体の被処理体における課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、高温で熱処理を行った際に、III族窒化物半導体の被処理体の表面に荒れが発生しにくい、熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の熱処理装置は、管状のチャンバと、前記チャンバの内部に配され、III族窒化物半導体からなる被処理体を保持する支持体(ホルダー)と、前記チャンバの外部に配され、該チャンバを介して前記被処理体を加熱する昇温手段と、を含む熱処理装置であって、
前記チャンバは、該チャンバの内部を減圧する手段Aと該チャンバの内部においてプロセスガスを一方向へ誘導する手段Bとを備え、前記支持体(ホルダー)30は、被処理体を載置する平板状の第一部位(サセプター)、及び、前記第一部位と接して一体を成すことにより、前記プロセスガスの一方向の通気を可能とする内部空間と該内部空間の入口、出口となる2つの開口部を形成する第二部位(リッド)、から構成されており、前記第一部位と前記第二部位は、少なくとも前記内部空間に臨む内面が、炭化ケイ素(SiC)からなることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の熱処理装置は、請求項1において、前記炭化ケイ素が、前記第一部位と前記第二部位の前記内部空間に臨む内面に形成された被膜であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の熱処理装置は、請求項1において、前記炭化ケイ素が、前記第一部位と前記第二部位の本体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る熱処理装置は、たとえばGaNからなる被処理体を熱処理する際に、被処理体が支持体(ホルダー)によって保持される。この支持体(ホルダー)は、被処理体を載置する平板状の第一部位(サセプター)、及び、前記第一部位と接して一体を成すことにより、プロセスガスの一方向の通気を可能とする内部空間と該内部空間の入口、出口となる2つの開口部を形成する第二部位(リッド)、から構成されている。前記第一部位と前記第二部位は、少なくとも前記内部空間に臨む内面が炭化ケイ素(SiC)からなる。つまり、本発明の熱処理装置では、熱処理中の被処理体が、前記内部空間において、一方向に流動するプロセスガスに曝されると共に、炭化ケイ素(SiC)で取り囲まれた状態となる。
【0010】
このような配置としたことにより、熱処理によって、被処理体を取り囲む周辺部材である支持体(ホルダー)から、GaNからなる被処理体の表面に向けて、水素(H
2)や水(H
2O)、有機物が拡散する現象を抑制できる。よって、GaN表面に水素(H
2)や水(H
2O)、有機物が拡散した場合に発生していた、GaNからなる被処理体の表面の荒れ(いわゆる、GaN表面からのN抜け)」という現象の発生が低減される。これにより、GaNからなる被処理体の耐熱性が向上し、表面の荒れが発生する温度を高温化することができる。
したがって、本発明は、高温で熱処理を行った際に、GaN系の被処理体の表面に荒れが発生しにくい、熱処理装置の提供に貢献する。
【0011】
上述した作用・効果は、前記炭化ケイ素が、前記第一部位と前記第二部位の前記内部空間に臨む内面に形成された被膜である形態において達成される。当然に、前記皮膜は、第一部位と前記第二部位の前記内部空間に臨む内面以外の面(外面や側面など)も覆う構成としてもよい。
また、上述した作用・効果は、前記炭化ケイ素が被膜に限定されるものではない。すなわち、前記炭化ケイ素が、前記第一部位と前記第二部位の本体である形態においても有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0014】
<熱処理装置>
図1は、本発明に係る熱処理装置の一実施形態を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、本発明の熱処理装置は、管状のチャンバ10と、チャンバ10の内部に配され、GaNからなる被処理体Sを保持する支持体(ホルダー)30と、チャンバ10の外部に配され、該チャンバ10を介して被処理体Sを加熱する昇温手段20と、を含んでいる。管状のチャンバ10は、耐熱性が高く透光性に優れた部材が好ましく、たとえば石英が挙げられる。
【0015】
チャンバ10は、該チャンバ10の内部10Kを減圧する手段A(不図示)として所望の真空ポンプを備え、必要に応じて該チャンバ10の内部10Kを排気可能とされている。また、チャンバ10は、該チャンバ10の内部10Kにおいてプロセスガス(
図1には、太い矢印にてN
2フローと表記」)を一方向へ誘導する手段B(不図示)を備えている。
図1においては、チャンバ10の右側10K
ENTがプロセスガスを導入する側であり、左側10K
EXTがプロセスガスを排出する側である。チャンバ10の内部10Kでは、プロセスガスは流れる位置に依存せず、右側10K
ENTから左側10K
EXTへ向けて、均等にかつ並行して流れるように構成されている。
【0016】
支持体(ホルダー)30は、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32から構成されている。
図1の右側に配置された横断面図に示すように、第一部位(サセプター)31は、被処理体Sを載置する平板状のカーボン部材が本体を構成している。第二部位(リッド)32は、第一部位(サセプター)31において被処理体Sを載置する面(上面)31aに対して、横断面が下向きに開放されたコの字状を成すカーボン部材が本体を構成している。第二部位(リッド)32は、第一部位31の上面31aの外域部と接して一体を成すように配置される。これにより、前記プロセスガスの一方向の通気を可能とする内部空間30Kと、この内部空間30Kの入口、出口となる2つの開口部30K
ENT、30K
EXTを形成している。
【0017】
本発明の熱処理装置における支持体(ホルダー)30、すなわち、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32は、少なくとも内部空間30Kに臨む内面が、炭化ケイ素(SiC)からなる。ここで、内部空間30Kに臨む内面とは、第一部位(サセプター)31においては被処理体Sを載置する面(上面)31aであり、第二部位(リッド)32においては内側面32a、32b及び内底面32cである。
【0018】
本発明では、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の内部空間30Kに臨む内面31a、32a、32b及び32cを全て、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成とした。これにより、高温で熱処理した際に、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の本体を成すカーボンから放出される、水素(H
2)や水(H
2O)、有機物などが被処理体Sの表面に及ぼす影響を低減できる。その結果、被処理体Sの表面に生じる荒れを抑制することが可能となる(
図2B)。
【0019】
カーボン本体を炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆うことによる効果は、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の内部空間30Kに臨む内面31a、32a、32b及び32c以外の面まで、すなわち、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の外面まで、カーボン本体を炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆っても構わない(
図2C)。この構成とするならば、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の内面、外面に関わらず、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の表面全域に亘って、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜を形成すればよいので、作製の容易性が得られる。
【0020】
なお、上述したカーボン本体を炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う効果は、カーボン本体に代えて、炭化ケイ素(SiC)を第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の本体としても得られる。したがって、本発明においては、前記炭化ケイ素が、前記第一部位と前記第二部位の本体である構成としてもよい。
また、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の一方に、上述したカーボン本体を炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成を採用し、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の他方に、前記炭化ケイ素からなる本体を用いる構成を適用してもよい。
【0021】
第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32からなる支持体(ホルダー)30は、移動手段33の先頭部33aに載置された状態で、チャンバ10の外部と内部との間を移動可能とされている。熱処理中の支持体(ホルダー)30は、移動手段33に載置された状態で保持される。したがって、移動手段33についても、上述した第一部位(サセプター)31や第二部位(リッド)32と同様の構成、すなわち、カーボン本体を炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成を採用することが好ましい。
【0022】
また、支持体(ホルダー)30が移動手段33の上で所定の位置を保ち、移動時や熱処理時に支持体(ホルダー)30が移動手段33から外れる等の不具合を防止するために、移動手段33の先頭部33aに配置された、支持体(ホルダー)30の第一部位(サセプター)31が移動手段33と接する領域おいて、移動手段33の上面に第一部位(サセプター)31が若干埋まるような凹部(たとえば1mm程度の深さの凹部)を設ける構成が好ましい。
【0023】
以下では、本発明の熱処理装置(
図1)を用いて、GaNからなる被処理体を、表1に示す活性化プロセス条件で熱処理する実験例について説明する。
後述する実験例では、一部を除き、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の内部空間30Kに臨む内面31a、32a、32b及び32cを全て、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成とした支持体(ホルダー)30を用いた。移動手段33についても、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成とした。第一部位(サセプター)31、第二部位(リッド)32、及び移動手段33は何れも、本体はカーボン(C)である。
【0025】
表1に示すように、上記活性化プロセスの熱処理は大気圧とした窒素雰囲気中で行われるが、熱処理前にチャンバ内部を一度、真空引きする操作を行った。
以下では、本発明の熱処理装置(
図1)を用い、活性化プロセス条件で熱処理した実験例のプロセス手順について述べる。
(1)第一部位(サセプター)31に被処理体(GaN基板)Sを設置する。
(2)第二部位(リッド)32を第一部位(サセプター)31に設置し、支持体(ホルダー)30とする。
(3)支持体(ホルダー)30を移動手段33に設置する。
(4)石英管からなるチャンバ10の内部10Kに、移動手段33に載置された状態にある支持体(ホルダー)30ごと、被処理体(GaN基板)Sを設置する。
【0026】
(5)チャンバ10の内部10Kを減圧する手段A(不図示)を用い、チャンバ10の内部10Kを10Pa以下まで真空引きする。
(6)チャンバ10の内部10Kに、N
2からなるプロセスガスを導入する。
(7)チャンバ10の内部10Kを大気圧にする。その際、
図1に示すように、チャンバ10の右側10K
ENTから左側10K
EXTに向けてプロセスガスを一方向へ誘導する手段B(不図示)を用い、N2フロー(プロセスガスの一方向への流れ)を維持する。
【0027】
(8)ランプからなる昇温手段20を用い、チャンバ10を介して被処理体Sを加熱する。
(9)被処理体Sの温度が1100℃〜1300℃の範囲において、所定の温度となるまで加熱し、その所定の温度を30秒間維持する。
(10)上記(8)〜(9)の熱処理を行った後、被処理体Sの温度が100℃以下になるまで自然冷却した。この間、N2フローを維持する。
(11)被処理体Sの温度が100℃以下になった後、N2フローを停止する。
(12)被処理体Sをチャンバ10の内部から外部へ取り出す。
【0028】
以下の各実験例は、上述したプロセス手順に基づき熱処理を行った。
(実験例1)
実験例1は、1100℃にて熱処理した場合であり、本発明を代表する事例である。
本例は、
図2Aに示す支持体(ホルダー)30を用いた。すなわち、
図2Aに示す支持体(ホルダー)30とは、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の内部空間30Kに臨む内面31a、32a、32b及び32cを全て、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆う構成とした支持体(ホルダー)30を用いた場合である。
図2Bは、本例の熱処理処理後の被処理体(GaN)の表面を示す写真である。後述する実験例2(従来)において発生した「表面の荒れ」は、
図2Bの写真には観測されなかった。
【0029】
(実験例2)
実験例2は、実験例1と同様に、1100℃にて熱処理した場合である。ただし、実験例2では、
図2Aに示す支持体(ホルダー)に代えて、
図3Aに示すように、カーボン(C)本体のみからなる第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の構成とした支持体(ホルダー)30を用いた点が実験例1と異なる。すなわち、実験例2は、カーボン(C)本体からなる第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32が、炭化ケイ素(SiC)からなる被膜で覆われていない場合である。
図3Bは、本例の熱処理処理後の被処理体(GaN)の表面を示す写真である。
図3Bの写真から、実験例2の熱処理した被処理体には「表面の荒れ(黒い粒状に見える箇所(凸部)」が存在することが分かった。
【0030】
しかしながら、実験例1(SiCコート)と実験例2(標準)では、被処理体の温度プロファイルには有意差がないことが確認された。
【0031】
本発明者らは、上述した実験結果(
図2B、
図3B)を踏まえて、SiCコートを設けたことにより「表面の荒れ」が抑制された原因について検討した。
図4Aと
図4Bは、被処理体の表面荒れの原因を検討した模式断面図であり、
図4Aは熱処理前の状態を、
図4Bは熱処理後の状態を、それぞれ表している。
【0032】
熱処理前の状態にあるGaNからなる被処理体Sは、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32で構成された支持体(ホルダー)30の内部空間30Kに内在されている。第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32がカーボン本体からなる場合(実験例2:標準)には、カーボンが吸湿性が高いので、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32は、その表面や本体内に、残留水分や酸素が存在している。
【0033】
これを熱処理すると、
図4Bに示すように、第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32の表面や本体内に存在した残留水分や酸素が、GaNからなる被処理体Sの表面に拡散し、GaNからなる被処理体Sの表面と化学反応を起こしN抜けを促進した結果、GaNからなる被処理体Sの表面に「荒れ」が発生したのではないかと、本発明者らは考察した。
【0034】
本発明者らは、この考察を検証するため、後述する4つの試料A〜Dを用い、昇温脱離ガス分析法(TDS:Thermal Desorption Spectrometry)により、各試料から放出されるガス成分を調査した。
【0035】
試料Aは、未処理のカーボンバルク(実験例2のカーボン本体からなる支持体に相当)である。試料Bは、試料Aのカーボンバルクに対して、1100℃で30秒間の熱処理を施したものである。試料Cは、試料Aのカーボンバルクを、純水に60分間浸漬させた後、自然乾燥させたものである。試料Dは、未処理のSiC焼結体バルク(実験例1のSiC被覆された支持体に相当)である。
【0036】
図5Aは試料A〜DのTDS分析結果を示すグラフであり、圧力依存性を示している。
図5B〜
図5Eは試料A〜DのTDS分析結果を示すグラフであり、質量電荷比に応じて分離、測定された、水素(H
2)の結果が
図5B、水(H
2O)の結果が
図5C、酸素(O
2)の結果が
図5D、有機物(M/z43)の結果が
図5Eである。
【0037】
図5A〜
図5Eより、以下の点が明らかとなった。
(5a)SiCバルク(試料D)と比較して、カーボンバルク(試料A〜C)は圧力上昇が観測された(
図5A)。
(5b)カーボンバルク(試料A〜C)では昇温中かつ比較的低い温度帯域(100℃〜500℃)から、水素(H
2)や水(H
2O)、有機物(M/z43)が観測された(
図5B、
図5C、
図5E)。
(5c)水(H
2O)については、空焼き[1100℃で30秒間の熱処理]の効果が観測された(
図5C)。
(5d)有機物(M/z43)については、カーボンバルク(試料A〜C)に比較して、SiCバルク(試料D)が圧倒的に少ないことが分かった(
図5E)。
【0038】
本発明者らは、上述した実験結果(
図5A〜
図5E)を踏まえて、SiCコートを設けたことにより「表面の荒れ」が抑制された原因について再度検討した。
図6は、被処理体の表面荒れの原因を検討した模式断面図であり、熱処理後の状態を表している。
熱処理によって周辺部材[第一部位(サセプター)31と第二部位(リッド)32)]から、GaN基板(被処理体)の表面に、水素(H
2)や水(H
2O)、有機物(M/z43)が拡散する。これにより、GaNからなる被処理体の表面と化学反応を起こしN抜けを促進した結果、GaNからなる被処理体Sの表面に「荒れ」が発生したのではないかと、本発明者らは考察した。また、これに伴い、GaN基板の耐熱性の低下も発生したと考えられる。
【0039】
このように、本発明の熱処理装置によれば、高温で熱処理を行った際に、GaN系の被処理体の表面に荒れが発生しにくい、熱処理プロセスを構築することが可能となる。つまり、本発明は、GaNを用いたパワーデバイス用途に好適な熱処理装置の提供に貢献する。