特開2019-188318(P2019-188318A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特開2019188318-アニオン交換樹脂の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-188318(P2019-188318A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】アニオン交換樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 47/127 20170101AFI20191004BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20191004BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20191004BHJP
【FI】
   B01J47/127
   B01J41/05
   B01J41/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-83398(P2018-83398)
(22)【出願日】2018年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 敦
(72)【発明者】
【氏名】服部 孝博
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
(57)【要約】
【課題】クロム酸イオン等のアニオン吸着能がより優れたアニオン交換樹脂を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るアニオン交換樹脂の製造方法は、ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に、繊維状基材を浸漬させる浸漬工程と、モノマー溶液に浸漬させた基材に電離性放射線を照射し、モノマーを基材にグラフト重合させ、グラフト重合基材を得るグラフト重合工程と、グラフト重合基材に三級アミンを修飾する修飾工程と、を有し、その基材は、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維又は繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、及び繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状からなる群から選択される1以上の状態である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に、繊維状の基材を浸漬させる浸漬工程と、
前記モノマー溶液に浸漬させた基材に電離性放射線を照射し、前記モノマーを該基材にグラフト重合させ、グラフト重合基材を得るグラフト重合工程と、
前記グラフト重合基材に三級アミンを修飾する修飾工程と、を有し、
前記基材は、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維又は繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、及び繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状からなる群から選択される1以上の状態である
アニオン交換樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ工場の廃水、セメントを使用する現場の廃水、鉱山廃水等に含まれ得る六価クロムによる環境負荷を軽減させるため、廃水中の六価クロムの除去方法が開発されてきた。
【0003】
最も知られた六価クロムの除去方法として、例えば、六価クロムを還元剤処理により環境負荷の極めて小さい三価クロムへ還元する方法が挙げられる。しかしながら、還元剤処理には専用の設備が必要である上、その工程は複雑である。また、鉱山廃水等自然に流れ出る廃水に対し、このような還元剤処理を適用することは困難である。さらに、この還元工程において生ずるスラッジの処理も容易ではない。
【0004】
特許文献1には、六価クロムを含有する廃水をpH1〜6に調整した後、酸化還元電位(ORP)が+100〜−100mVの範囲に維持されるように第1鉄塩水溶液を添加するとともに、pHの値を、前述のとおり調整したpHの値に対し±0.5の範囲に維持されるように還元処理する、六価クロムの除去方法が開示されている。しかしながら、引用文献1の方法は、大規模な設備と精度の高いpH制御を要するという問題がある。
【0005】
一方で、六価クロムを還元するための設備を有しない現場においても、廃水から効率良く六価クロムを除去するために、三価クロムへの還元処理を要さず、六価クロムを短時間で吸着することができる六価クロム吸着材が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、アカマツやアカシアの樹皮、樹葉等の天然物を用いた六価クロム回収材や、セルロース等の多糖を基材に用い放射線グラフト重合により金属を吸着する官能基を導入した吸着材が報告されている。しかしながら、これらの吸着材は、基材に糖を使用しており、生分解性を有するため、屋外で長期間使用するには耐久性に問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、基材に無機材料を用いた六価クロム吸着材の報告もされているが、基材と吸着基との化学的な結合が無いため、耐久性に問題がある。
【0008】
ところで、吸着材の経済性及び耐久性を高める観点からは、経済性及び耐久性を併せ持つポリオレフィン等の汎用樹脂を基材として使用することが望ましい。しかしながら、汎用樹脂を基材として効率よく六価クロムを回収することができる六価クロム吸着材は、これまで殆ど提案されていない。
【0009】
汎用樹脂を基材とする六価クロム(クロム酸イオン)を始めとするアニオン吸着材の製造方法の一例として、特許文献4には、グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合し、塩酸処理後トリエチレンジアミンを修飾する製法が示されている。この製法は、基材に電離性放射線を照射しラジカルを生成させてから、GMAをグラフト重合し、塩酸で処理した後、トリエチレンジアミンを修飾する四段階の工程となっている。また、クロロ基をもつモノマーとしてクロロメチルスチレンが紹介されているが、重合禁止剤を取り除く精製工程が必要であると示されており、製造工程が多くなることから大量生産には適さない。
【0010】
これに対し出願人は、特許文献5において、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーの溶液に浸漬させた高分子基材に電離性放射線を照射して、高分子基材にグラフト重合鎖を形成した後、そのグラフト重合鎖に三級アミンを修飾してアニオン交換樹脂を得ることを報告している。このような方法では、電離性放射線の照射とグラフト重合を同時に行うため、製造工程の段数を省略し得るものである。
【0011】
このような方法において得られるアニオン交換樹脂は、優れた吸着性能を有するが、より優れた吸着能を有するアニオン交換樹脂が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−304578号公報
【特許文献2】特開2011−120973号公報
【特許文献3】特公昭61−52741号公報
【特許文献4】特開2015−39698号公報
【特許文献5】特開2017−25316号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】斎藤恭一,藤原邦夫,須郷高信,「グラフト重合による高分子吸着材革命」,丸善出版,2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、クロム酸イオン等のアニオン吸着能がより優れたアニオン交換樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、特定のモノマー溶液を用い、そのモノマー溶液に基材を浸漬させておき、その後電離性放射線を照射し得たグラフト重合基材に、3級アミンを付加するアニオン交換樹脂の製造方法により得られるアニオン交換樹脂が高いアニオン吸着能を有すること、基材として繊維状のものを用いた場合にその繊維がなす形状によって繊維内でもアニオン交換能に不均一性が生じアニオン交換樹脂を効率的に製造できないこと、及び繊維状の基材として、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、又は繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状のものを用いることで、そのような不均一性を低減させアニオン交換樹脂を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に、繊維状の基材を浸漬させる浸漬工程と、前記モノマー溶液に浸漬させた基材に電離性放射線を照射し、前記モノマーを該基材にグラフト重合させ、グラフト重合基材を得るグラフト重合工程と、前記グラフト重合基材に三級アミンを修飾する修飾工程と、を有し、前記基材は、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維又は繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、及び繊維又は繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状からなる群から選択される1以上の状態である、アニオン交換樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クロム酸イオン等のアニオン吸着能がより優れたアニオン交換樹脂を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】アニオン交換樹脂の製造における反応の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について説明するが、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
≪1.アニオン交換樹脂≫
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂は、アニオンを含有する廃液中からアニオンを効率的に回収することができる樹脂である。具体的に、アニオン交換樹脂は、高分子材料である繊維状の基材と、グラフト鎖とから構成されている。
【0021】
[基材]
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂において、基材としては、特に限定されるものではなく、様々な有機系高分子材料を使用することができる。具体的には、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等、汎用樹脂を用いることができる。特に、安価で環境負荷の小さいアニオン交換樹脂を得ることができる点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドを用いることが好ましい。また、アニオン交換樹脂は水中で用いられるという観点から、高強度で親水性の高いアニオン交換樹脂を得ることができる点で、ポリアミドを用いることがより好ましい。
【0022】
例えば、基材に用いるポリエチレンとしては、ポリエチレン構造を主骨格とするものであれば特に限定されないが、後述のグラフト率を高くできる点で、低結晶性である低密度ポリエチレンであることが好ましい。ここで、低密度ポリエチレンとは、旧JIS K6748:1995によるものであり、密度0.910g/cm以上、0.930g/cm未満のポリエチレンをいう。また、基材に用いるポリエチレンとしては、ポリエチレンのみからなるものや、吸着性能に悪影響を与えない限りにおいて他の成分を含むものを用いることができる。
【0023】
また、基材に用いるポリアミドとしては、ポリアミド構造を主骨格とするものであれば特に限定されないが、例えばナイロンが挙げられる。その中でも後述のグラフト率を高くできる点で、結晶化度が20〜60%であるポリアミドを用いることが好ましい。ここで、結晶化度とは、熱分析法、X線回折法等で測定した値をいう。また、基材に用いるポリアミドとしては、ポリアミドのみからなるものや、吸着性能に悪影響を与えない限りにおいて他の成分を含むものを用いることができる。
【0024】
また、基材の形状は、特に限定されるものではなく、その繊維から構成される糸さらに糸を織って製造された織布、不織布、組み紐等のものを用いることができる。なお、後述する製造方法では、繊維状の基材として、特定の状態のものにグラフト重合処理及び三級アミン処理を施してアニオン交換樹脂を製造するが、基材の状態はアニオン交換樹脂の製造時においてこのような形状をなしていればよく、その後、さらに加工して例えば糸、織布、不織布、組み紐等を構成してもよい。
【0025】
[グラフト鎖]
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂においては、グラフト鎖は、炭化水素部位とハロゲン化四級アンモニウム塩部位とを含む。
【0026】
(炭化水素部位)
炭化水素部位は、主としてグラフト鎖の骨格を形成する。必須の態様ではないが、炭化水素部位としては、ベンゼン環部位やベンゼン誘導体部位を有するものであることが好ましい。グラフト鎖を構成するモノマーがこのような部位を有することで、同時照射によっても、効率的にグラフト重合反応を進行させることができる。
【0027】
(ハロゲン化四級アンモニウム塩部位)
ハロゲン化四級アンモニウム塩部位は、アニオン吸着能を有する部位である。ハロゲン化四級アンモニウム塩を含むグラフト鎖は、ハロゲン化炭化水素の重合体のハロゲン原子に対し、三級アミンを付加することで合成することができる。
【0028】
グラフト鎖に付加された三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、N,N’−ジメチルエチルアミン、N,N’−ジメチルイソプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、トリス(ジメチルアミノ)メタン、N,N’−ジエチルメチルアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、N−ブチルジメチルアミン、N,N’−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン等を用いることができる。その中でも、高いアニオン交換能を有することから、トリエチレンジアミンが好ましい。
【0029】
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂は、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーを、基材に直接グラフト重合させた後、メンシュトキン反応により、このグラフト鎖に三級アミンを付加することが好ましい。詳細は後述するが、グラフト重合に際しては、同時照射法を用いることが好ましい。
【0030】
アニオン交換樹脂におけるグラフト鎖の割合としては、特に限定されるものではないが、下記式(1)によって算出されるグラフト率は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。アニオン交換樹脂のグラフト率を10%以上にすることで、アニオン交換樹脂がアニオンを効果的に吸着できる。アニオン交換樹脂のグラフト率を30%以上にすることで、アニオン交換樹脂のアニオンに対する飽和吸着量を高めることができる。一方で、グラフト率は、200%以下であることが好ましく、150%以下であることがより好ましい。なお、アニオン交換樹脂のグラフト率が200%を超えると、アニオン吸着能の向上効果は少なく、むしろ樹脂の強度が低下するおそれがある。
【0031】
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100 ・・・ (1)
ここで、Wは基材に対しハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーをグラフト重合したグラフト重合基材の質量であり、Wは原料として用いた(グラフト重合前の)基材の質量である。
【0032】
アニオン交換樹脂が吸着可能なアニオンとしては、特に限定されるものではない。アニオンは、いずれも負電荷を有しており、上述したハロゲン化四級アンモニウム塩の窒素原子上の正電荷に引き寄せられるため、いずれのアニオンも吸着可能であり、特に、クロム酸イオン(CrO2−)及び二クロム酸イオン(Cr2−)を効率的に吸着可能である。また、アニオンとしては、クロム酸イオン(CrO2−)及び二クロム酸イオン(Cr2−)以外に、例えば、硫酸イオン、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、シアン化物イオン、リン酸イオン等が挙げられる。なお、以下、クロム酸イオン(CrO2−)及び二クロム酸イオン(Cr2−)を、「六価クロム」又は「Cr6+」と表記する。
【0033】
≪2.アニオン交換樹脂の製造方法≫
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂は、電離性放射線の照射によって、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーを繊維状の基材に対しグラフト重合した後、メンシュトキン反応によりそのグラフト重合体のハロゲン部に三級アミンを付加することによって製造することができる。このとき、本実施の形態においては、基材として、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、又は繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状のものを用いることを特徴としている。
【0034】
図1は、アニオン交換樹脂の製造過程の概要を模式的に示した図である。なお、図1に示す例において、高分子材料である基材としては低密度ポリエチレン(LDPE)を、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーとしては4−(クロロメチル)スチレンを、三級アミンとしてはトリエチレンジアミンを用いる場合を示しているが、これに限定されるものではない。
【0035】
本実施の形態に係るアニオン交換樹脂の製造方法は、ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に、繊維状の基材として、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、又は繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状のものを浸漬させる浸漬工程(I)と、モノマー溶液に浸漬させた基材に電離性放射線を照射し、モノマーをグラフト重合させてグラフト重合基材を得るグラフト重合工程(II)と、得られたグラフト重合基材に三級アミンを修飾する修飾工程(IV)と、を含む。また、グラフト重合工程(II)と修飾工程(IV)との間に、グラフト重合基材をルイス塩基性有機溶剤で洗浄する洗浄工程(III)を設けることもできる。
【0036】
[浸漬工程(I)]
浸漬工程(I)は、ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に基材を浸漬させる工程である。このように、モノマー溶液に基材を浸漬させて、その基材表面にモノマー分子を接触させておくことで、続くグラフト重合工程(II)におけるグラフト重合反応を速やかに進行させることができる。
【0037】
そしてこの際、繊維状の基材として、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、又は繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状のものを用いる。これらのような形状を有する繊維状の基材では、繊維の間や内部であってもモノマー溶液が連続的に供給される。したがって、続くグラフト重合工程(II)において繊維全体にわたって均一にグラフト重合鎖が形成される。そして、これにより繊維全体にわたって均一なアニオン交換能を有するアニオン交換樹脂が製造できる。
【0038】
ここで、「カセ」、「モールコード」とは、繊維を大量に(例えば、数百kg〜数t)扱うときに一般に用いられる繊維の状態である。繊維を大量に扱うときに用いられる状態としては、これらの他に例えば「チーズ」等の状態が存在する。詳細は後述するが、同時照射のグラフト重合法では、反応液への浸漬、洗浄等、各工程において操作が必要になるため、これらのような形状のものを用いることで、製造時におけるハンドリング性を高めることができる。
【0039】
「カセ」(綛)とは、一定の長さの糸を一定の枠に巻いて束ねたものである。紡いだ糸を巻き取るH型やX型の道具そのものをいうこともあるが、ここでは、その道具から外した糸の束をいう。繊維重量あたりの嵩がチーズより高い。また、繊維に張力がかかっていないため、反応液が繊維に行き渡りやすい。なお、「チーズ」とは、ボビンと呼ばれる円筒状の芯材に、張力をかけながら糸を円柱状に巻きつけたものである。
【0040】
「モールコード」(モール)とは、細かな繊維を編み上げた組み紐状や、特殊ループ構造状のものである。モールコードは細かな繊維を編み上げた特殊ループ構造を有しており、河川、湖沼、ダム等の濁水中の土粒子(懸濁固形物:Suspended Solids(SS))を捕集して水を浄化するために用いられている。したがって、アニオン吸着能を有する繊維を用いてモールコード状に編み上げれば、繊維そのもののアニオン吸着能により吸着すると同時に、特殊ループ構造のSS捕集能によりSSを捕集することも可能である。
【0041】
高分子材料である基材としては、特に限定されず、上述したように、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド(ナイロン等)、ポリウレタン等の汎用樹脂を用いることができる。
【0042】
ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーとしては、特に限定されないが、効率よくグラフト重合を進行させることができる点で、ベンゼン環部位を含むモノマーが好ましく、ビニルベンジル部位を含むモノマーがより好ましい。具体的には、例えば、2−(クロロメチル)スチレン、3−(クロロメチル)スチレン、4−(クロロメチル)スチレン、2−(ブロモメチル)スチレン、3−(ブロモメチル)スチレン、4−(ブロモメチル)スチレン、2−(ヨードメチル)スチレン、3−(ヨードメチル)スチレン、4−(ヨードメチル)スチレン、2−(フルオロメチル)スチレン、3−(フルオロメチル)スチレン、4−(フルオロメチル)スチレン等から選択される1以上のモノマーを用いることができる。この中でも、グラフト重合反応の反応性やグラフト鎖の立体構造によるアニオン交換能の観点から、4−(クロロメチル)スチレンを用いることが好ましい。
【0043】
このようなモノマーは、次のグラフト重合工程(II)における重合反応によってグラフト鎖を形成するが、形成されたグラフト鎖は、モノマー由来の多数のハロゲン元素を有する。このハロゲン元素は、後述する修飾工程(IV)において、メンシュトキン反応により三級アミンと反応し、ハロゲン化四級アンモニウム塩部位を形成する。したがって、グラフト化後に塩酸等による前処理を施すことなく、一段階の反応によって簡易にハロゲン化四級アンモニウム塩部位を形成することができる。また、このようなモノマーを使用することで、次のグラフト重合工程(II)において同時照射法を適用しても、ホモポリマーの生成を抑えることができ、基材に対するグラフト重合を効率的に進行させることができる。
【0044】
なお、モノマーには、保存や流通時における自発的重合を防止するために、重合禁止剤が含まれることがある。一般的な重合方法においては、このような重合禁止剤によって意図した重合が停止してしまうおそれがあり、そのため、重合禁止剤の除去工程が必須となる。一方で、本実施の形態に係るアニオン交換樹脂の製造方法では、グラフト重合工程(II)において電離性放射線を照射してグラフト重合させるため、重合禁止剤の存在下でも重合反応が進行する。このことから、重合禁止剤の除去工程は必ずしも要しない。
【0045】
ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液の溶媒としては、そのモノマーが十分に溶解するものであれば特に限定されず、例えば、水、アルコール、アセトン、酢酸エチル等の一般的な溶媒や、上述の溶媒の2種以上の混合溶媒を用いることができる。その中でも、水による引火点の上昇及びアルコールによる非水系のモノマーに対する高い溶解性の両方が得られるという点や経済性の観点から、水と有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。
【0046】
混合溶媒を用いる場合、モノマー溶液中の有機溶媒の量は、特に限定されるものではないが、モノマー溶液の体積に対する有機溶媒の体積の比(有機溶媒の体積/モノマー溶液の体積)が0.2以上であることが好ましい。モノマー溶液の体積に対する有機溶媒の体積の比が0.2以上であることにより、高い引火点及び高い溶解性を兼ね備えた溶媒となる。なお、有機溶媒としては、特に限定されないが、アルコールを用いることが好ましく、非水系のモノマーの溶解性の観点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールを用いることがより好ましい。
【0047】
ここで、浸漬工程(I)において、例えば、モノマーの添加量、有機溶媒の添加量、純水の添加量等の条件を調整することによって、後述するグラフト重合工程(II)において、グラフト率を制御することができる。上述したような範囲のグラフト率を達成するためには、基材の質量に対するハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーの添加量(ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマー/基材)の質量の比としては、0.1〜3とすることが好ましく、0.5〜2とすることがより好ましい。特に、基材に対するハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーの添加量を、0.5〜2とすることにより、高いグラフト率、アニオン回収率及びアニオン飽和吸着量を併せ持つアニオン交換樹脂が得られる。また、添加する有機溶媒はモノマーの2倍〜20倍量、添加する純水は3倍〜30倍量とすることが好ましい。
【0048】
基材の質量に対するモノマー溶液の質量の比(モノマー溶液/基材)としては、特に限定されず、例えば、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。基材の質量に対するモノマー溶液の質量比が1以上であることにより、モノマー溶液に基材を十分に浸漬させることができる。また、基材の質量に対するモノマー溶液の質量の比としては、例えば、30以下であることが好ましく、20以下であることが好ましい。基材の質量に対するモノマー溶液の質量の比が30以下であることにより、特に高いグラフト率、アニオン回収率及びアニオン飽和吸着量を併せ持つアニオン交換樹脂が得られる。
【0049】
なお、基材として、例えば中空状の繊維等、嵩高いものを用いることによりアニオンの吸着特性が向上することがある。このような場合には、グラフト反応を均一に進行させるために、モノマー溶液量を増加させる必要があり、その結果基材の質量に対するモノマー溶液の質量の比が30超となることもある。このような場合には、モノマー溶液の質量に対するモノマーの質量の比(モノマー/モノマー溶液)を、例えば、1.0以上にすることが好ましい。
【0050】
基材の質量に対するモノマーの質量の比(モノマー/基材)としては、特に限定されず、例えば、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。基材の質量に対するモノマーの質量の比が0.5以上であることにより、基材にグラフト鎖を十分にグラフト重合させることにより、平衡時のクロム吸着量を向上させることができる。また、基材の質量に対するモノマーの質量の比としては、例えば、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。基材の質量に対するモノマーの質量の比が5以下であることにより、アニオン交換樹脂表面に露出しないモノマーの量を抑制し、モノマーの使用量を削減できる。
【0051】
なお、浸漬工程(I)では、必須の態様ではないが、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーを含むモノマー溶液に不活性ガスを吹き込み、溶存酸素を除去しておくことが好ましい。これにより、続くグラフト重合工程(II)においてモノマー溶液中の溶存酸素による重合停止反応を抑制し、グラフト率を向上させることができる。
【0052】
また、浸漬工程(I)における雰囲気としては、特に限定されないが、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。これにより、グラフト重合工程(II)での重合反応時におけるモノマー溶液中の溶存酸素量を低減させることができ、その溶存酸素による重合停止反応を抑制してグラフト率を向上させることができる。
【0053】
[グラフト重合工程(II)]
グラフト重合工程(II)は、ハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に浸漬した基材に、電離性放射線を照射し、モノマーを基材にグラフト重合させ、官能基修飾前の樹脂であるグラフト重合基材を得る工程である。
【0054】
ここで、基材として、繊維状そのまま、繊維を撚ってなる糸状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸を束ねてなる束状、繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるカセ状、又は繊維若しくは繊維を撚ってなる糸から構成されるモールコード状のものを用いることにより、このグラフト重合工程(II)において、繊維の間や内部であってもモノマー溶液が連続的に供給され、繊維全体にわたって均一にグラフト重合鎖が形成することができる。
【0055】
また、グラフト重合工程(II)における電離性放射線の照射は、上述したようにハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に基材を浸漬し、その後、モノマー溶液に浸漬させた状態の基材に対して行う(以下、「同時照射」という)。具体的には、所定の容器内でハロゲン化炭化水素部位を有するモノマーを含むモノマー溶液に基材を浸漬し、その後、例えばその容器ごとガンマ線を照射することによりグラフト重合させる。
【0056】
ここで、モノマーを基材にグラフト重合させる場合、同時照射ではなく、モノマー溶液に基材を浸漬する前に電離性放射線の照射を施しておき、予め基材にラジカル活性点を発生させる手法(以下、「前照射」という)を用いて行うことが一般的である。このことは、非特許文献1にも示されており、モノマーの溶液に浸漬した基材に電離性放射線を照射する、いわゆる同時照射を施すと、その溶液中のモノマー間での重合のみが進行してホモポリマーを生成させ、基材へのグラフト化が殆ど進行しないと考えられている。
【0057】
これに対し、ハロゲン化炭化水素部位、好ましくはベンゼン環等の芳香族環構造を有するモノマーを用いることで、ホモポリマーの生成を抑えることができ、且つ同時照射によって基材へのグラフト化が効果的に進行する。このような同時照射によれば、例えば、モノマー溶液への基材の浸漬及び電離性放射線の照射を同一の装置内で行うことができるという利点を有し、簡易な方法により製造することができる。
【0058】
グラフト重合工程(II)における雰囲気としては、特に限定されないが、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。これにより、モノマー溶液中の溶存酸素による重合停止反応を抑制し、グラフト率を向上させることができる。
【0059】
照射する電離性放射線の線量としては、特に限定されないが、1kGy以上とすることが好ましく、5kGy以上とすることがより好ましく、10kGy以上とすることがさらに好ましく、20kGy以上とすることが特に好ましい。1kGy以上の電離性放射線を基材に照射することで、グラフト重合の開始点となる、ラジカル活性点を十分に生成させることができる。一方で、基材に照射する電離性放射線の線量としては、200kGy以下とすることが好ましく、100kGy以下とすることがより好ましく、80kGy以下とすることがさらに好ましく、60kGy以下とすることが特に好ましい。基材に照射する電離性放射線の線量が200kGyを超えると、基材を構成する分子が切断され、基材に損傷が生じる可能性が高まる。また、照射する電離性放射線の線量が、特に20kGy以上60kGy以下であることにより、高いグラフト率、アニオン回収率及びアニオン飽和吸着量を併せ持つアニオン交換樹脂が得られる。
【0060】
また、基材に照射する電離性放射線としては、特に限定されるものではなく、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、電子線、紫外線等を用いることができる。その中でも、工業的に適用が容易である点でガンマ線又は電子線を用いることが好ましく、物質への透過性が高い点でガンマ線を用いることが特に好ましい。
【0061】
グラフト重合工程(II)におけるグラフト重合の、上記式(1)によって算出されるアニオン交換樹脂のグラフト率としては、特に限定されないが、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上となるように反応させる。アニオン交換樹脂のグラフト率を10%以上にすることで、アニオン交換樹脂がアニオンを効果的に吸着できる。アニオン交換樹脂のグラフト率を30%以上にすることで、アニオンの吸着量を高めることができる。一方で、グラフト率は、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下となるように反応させる。アニオン交換樹脂のグラフト率が200%を超えると、アニオンの吸着能の向上効果は少なく、むしろ樹脂の強度が低下するおそれがある。
【0062】
[洗浄工程(III)]
洗浄工程(III)は、グラフト重合によりハロゲン化炭化水素が導入されたグラフト重合基材を、ルイス塩基性有機溶剤で洗浄し、モノマー同士の反応により生成した不純物としてのホモポリマー(副生成物)を洗浄除去する工程である。
【0063】
上述したように、ハロゲン化炭化水素部位を含むモノマーを使用することで、グラフト重合工程(II)において同時照射法を適用しても、ホモポリマーの生成を抑えることができるが、それでも少量のホモポリマーは生成する可能性がある。
【0064】
そこで、グラフト重合工程(II)において生成する副生成物としてのホモポリマーを洗浄することにより、グラフト重合基材から、効率的にホモポリマーを処理でき、その結果として得られるアニオン交換樹脂は、高いアニオン吸着能を有する。
【0065】
洗浄溶媒としては、炭化水素系溶媒(ヘキサン、トルエン等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ルイス塩基性有機溶剤、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。このうち、環境負荷への影響やホモポリマーに対する洗浄能力の観点から、ルイス塩基性有機溶剤又は水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0066】
ルイス塩基性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸−2−メトキシ−1−メチルエチル、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルブチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン)、エーテル類(ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジオキサン)、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ピリジン、ブチロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、エタノールアミン、ジプロピルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、トリエチレンアミン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ビチロニトリル、カクロニトリル、ベンゾニトリルプロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド等を用いることができる。その中でも、洗浄能が高く、環境や人体への負荷の観点から、酢酸−2−メトキシ−1−メチルエチルを用いることが好ましい。
【0067】
ルイス塩基性有機溶剤で洗浄する場合、その後さらに、アルコール類又はアセトン等の水溶性有機溶剤を用いて洗浄して親水化することが好ましい。非水溶性のルイス塩基性有機溶剤により洗浄し、このルイス塩基性有機溶剤がグラフト重合基材に残存すると、後述する修飾工程(IV)における三級アミンの修飾反応を阻害する。したがって、アルコール類又はアセトン等の水溶性有機溶剤を用いて、グラフト重合基材の表面及び内部を親水化することにより、修飾工程(IV)における三級アミンの修飾反応をスムーズに進行させることができる。このような理由から、グラフト重合基材をルイス塩基性有機溶剤で洗浄した後に、すぐに水で洗浄せずに、水溶性有機溶剤を用いて洗浄することが好ましい。
【0068】
アルコール類としては、水酸基を有する溶媒であれば、特に限定されるものでなく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等を用いることができる。このうち、沸点の高さに基づく取扱いの容易性、ホモポリマーの除去能等の観点から、2−プロパノールを用いることが好ましい。
【0069】
水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましく、1.0mol/L以上であることがさらに好ましい。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が0.1mol/L以上であることにより、特に高い洗浄能を有する。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、10mol/L以下であることが好ましく、8mol/L以下であることがより好ましく、5mol/L以下であることがさらに好ましい。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が10mol/L以下であることにより、基材が劣化せずに強度を維持することができる。
【0070】
洗浄の具体的手段としては、特に限定されず、洗濯機やチーズ染色機を用いることができる。また、超音波洗浄機を用いることができる。
【0071】
洗濯機としては、家庭用のもの及び工業用のものいずれを用いることもできる。また、洗濯機としては、洗濯槽を真横や斜めに回転させ、ルイス塩基性有機溶剤を吸った繊維が上から下に落ちることで叩き洗いをするドラム式洗濯機や、縦型の洗濯槽にルイス塩基性有機溶剤を溜めて繊維を浸し、洗濯槽の底の回転羽根を回して撹拌流水によって繊維を撹拌してもみ洗いをする縦型洗濯機等を用いることができる。
【0072】
チーズ染色機は、一般にはボビンに巻かれた繊維又は糸の染色のために用いるものであるが、これをボビンに巻かれた繊維又は糸の洗浄のために用いる。このように、チーズ染色機を用いることにより低コストでグラフト重合基材を洗浄することができる。
【0073】
基材として例えば繊維状のナイロンを用いる場合において、繊度が800dtex程度を超えると嵩高くなり、繊度1000dtexのナイロンを1kg洗浄するために10Lの容器が必要となるが、洗濯機やチーズ染色機を用いると、例えば超音波洗浄等と比較して、防爆型の高額な設備を要さずコストを低くしながら大量生産が可能となる。
【0074】
[修飾工程(IV)]
修飾工程(IV)は、グラフト重合によりハロゲン化炭化水素が導入されたグラフト重合基材に対して三級アミンを反応させ、ハロゲン化四級アンモニウム塩を形成させることで、そのグラフト重合基材にアニオン交換能を付与する工程である。
【0075】
上述のハロゲン化炭化水素と三級アミンとによりハロゲン化四級アンモニウム塩を形成する反応は、メンシュトキン反応と呼ばれる。この反応により生成したハロゲン化四級アンモニウム塩は、アニオン交換能を有する。
【0076】
修飾工程(IV)における三級アミンのグラフト鎖に対する付加反応の反応条件としては、一般的なメンシュトキン反応の条件を採用することができる。
【0077】
三級アミンとしては、三級のアミノ基を含む化合物であれば特に限定されないが、具体的には、トリメチルアミン、N,N’−ジメチルエチルアミン、N,N’−ジメチルイソプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、トリス(ジメチルアミノ)メタン、N,N’−ジエチルメチルアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、N−ブチルジメチルアミン、N,N’−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン等を用いることができる。この中でも、高いアニオン交換能を有することから、トリエチレンジアミンが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
〔実施例1〕
(試料の調製)
高分子材料である基材として、ナイロン6繊維(東レ製940T−68−255)を1束あたり200g単位でカセ巻きし、5束のカセ(計1kg)を、φ210mmの14L円筒容器に量り取った。
【0080】
次いで、円筒容器に、4−(クロロメチル)スチレン(AGCセイミケミカル社製CMS−14)1.5Lと、2−プロパノール4.25Lと、純水4.25Lとからなるモノマー溶液を入れ、基材をモノマー溶液中に浸漬させた。容器内は窒素ガスで置換して酸素を除去した後密閉した。
【0081】
その後、60Coを線源に持つガンマ線照射装置により、容器ごとガンマ線を40kGyの線量で照射した。
【0082】
ガンマ線照射後に得られた試料を、反応容器の半径方向に5等分、上下方向に3等分した計15点から試料採取し、酢酸−2−メトキシ−1−メチルエチルを用いて、超音波洗浄で試料を洗浄した。洗浄した基材は、2−プロパノールを用いて基材を親水化し、さらに水で洗浄した。得られたグラフト重合試料をウォーターバスに入れ、トリエチレンジアミン(TEDA)の5質量%水溶液中で、85℃で3時間反応させた。その後、洗浄し、室温で乾燥し、アニオン交換樹脂試料を得た。
【0083】
(平衡クロム吸着量の測定)
得られたアニオン交換樹脂のアニオン交換能を確認するため、アニオン交換樹脂をクロム溶液に浸漬した後、平衡に達した後のアニオン交換樹脂に対するクロム吸着量を算出した。
【0084】
具体的には、容量100mlビーカーに、得られたアニオン交換樹脂(クロム吸着用樹脂)50mgと、pH8.0に調整したCr6+濃度100mg/lの二クロム酸カリウム水溶液を入れ、室温で24時間撹拌した後に、濾過により吸着樹脂とCr6+濾液とを分離した。回収された濾液について誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES分析)を行い、Cr6+濃度を測定し、以下の式(2)に基づき、Cr6+吸着平衡時のCr6+吸着量を算出した。
【0085】
平衡クロム吸着量[mg/g−adsorbent]
=(Cr6+初期濃度[mg/l]−Cr6+吸着後濃度[mg/l])×二クロム酸カリウム水溶液の容量[l]/イオン交換樹脂質量[g] ・・・ (2)
【0086】
採取した試料の平衡クロム吸着量にはばらつきがあり、これらのうち平衡クロム吸着量の最大値に対する最小値の比は0.8であった。最大値は容器の外側付近から採取した試料から、最小値は容器の内側付近から採取した試料から得られており、ガンマ線照射量がより大きい外側でグラフト重合がより進行したと考えられる。
【0087】
〔実施例2〕
基材として、ナイロン6繊維(東レ製940T−68−255)1kgを繊維状のまま60cm×60cmの洗濯ネットに詰めて用いた以外、実施例1と同様に試料を作製した。
【0088】
採取した試料の平衡クロム吸着量にはばらつきがあり、これらのうち平衡クロム吸着量の最大値に対する最小値の比は0.8であった。
【0089】
〔実施例3〕
基材として、ナイロン6繊維(東レ製940T−68−255)を組紐加工し、モールコード状に加工し、1kg切り取って用いた以外、実施例1と同様に試料を作製した。
【0090】
採取した試料の平衡クロム吸着量にはばらつきがあり、これらのうち平衡クロム吸着量の最大値に対する最小値の比は0.6であった。
【0091】
〔比較例1〕
基材として、ナイロン6繊維(東レ製940T−68−255)1kgをボビンに巻きとり、巻き密度0.2のチーズ形状に加工して用いた以外は、すべて実施例1と同様に作業した。
【0092】
採取した試料の平衡クロム吸着量にはばらつきがあり、これらのうち平衡クロム吸着量の最大値に対する最小値の比は0.2であった。
【0093】
表1は、実施例1〜3及び比較例1の基材たる繊維がなす形状、その基材中の繊維に印加されている張力及び平衡クロム吸着量の最小値/最大値を示す。
【0094】
表1から、繊維が密集していないカセ巻きの繊維を用いた実施例1やほどいた繊維を用いた実施例2では、同じロットから複数採取した試料において平衡クロム吸着量の最小値/最大値が0.8であり、また、モールコード状の繊維を用いた実施例3では平衡クロム吸着量の最小値/最大値が0.6であり、同じロット内での差異が小さかった。これに対し、チーズ状の繊維を用いた比較例1では、平衡クロム吸着量の最小値/最大値が0.2であり、実施例1〜3に比べて同じロットでも差異が大きかった。
【0095】
比較例1において、チーズの内部では繊維のグラフト重合が十分に進行せず、それにより三級アミンにより修飾されず、同じロット内で平衡クロム吸着量の差異が大きかったと考えられる。より具体的には、チーズ状の繊維のように繊維に張力をかけて巻かれたものは、繊維同士が密着しており、繊維間へモノマー溶液が供給されにくく、繊維同士が密着している部分にラジカルが発生しても、モノマーが供給されにくいためにその部分だけグラフト重合が進行しなかったと考えられる。
【0096】
また、カセ巻きを用いた実施例1や繊維をそのまま用いた実施例2は、モールコード状の繊維を用いた実施例3に比べて、同じロット内で平衡クロム吸着量の差異が小さかった。これはカセ巻きの繊維や繊維そのままの場合には、繊維が密集する部分がないのに対し、モールコード状の繊維では芯材付近は編みこまれていて柔軟性がなく、繊維同士が密に接しており、その部分だけグラフト重合が進行しなかったと考えられる。
【0097】
以上のことから、繊維に張力が印加されていなく、また繊維が密集していない形状の基材を用いることで、より高いアニオン交換能を得られることが分かった。
【0098】
【表1】
図1