【解決手段】金属基材の表面に、該金属基材を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属Aを含有するめっき層、および該めっき層の上に形成された2層以上のポリマー層を有し、該2層以上のポリマー層がリン酸化合物、ホスホン酸化合物および前記金属基材を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物を含む修復性めっき基材であって、前記イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物は、前記2層以上のポリマー層のうち、前記リン酸化合物または前記ホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層とは異なるポリマー層に含まれている、修復性めっき基材。
金属基材の表面に、該金属基材を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属Aを含有するめっき層、および該めっき層の上に形成された2層以上のポリマー層を有し、該2層以上のポリマー層がリン酸化合物、ホスホン酸化合物および前記金属基材を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物を含む修復性めっき基材であって、
前記イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物は、前記2層以上のポリマー層のうち、前記リン酸化合物または前記ホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層とは異なるポリマー層に含まれている、修復性めっき基材。
前記イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物が含まれるポリマー層において、前記イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物は、該ポリマー層全量に対して、1〜20重量%で含まれ、
前記リン酸化合物が含まれるポリマー層において、前記リン酸化合物は、該ポリマー層全量に対して、0.1〜20重量%で含まれ、
前記ホスホン酸化合物が含まれるポリマー層において、前記ホスホン酸化合物は、該ポリマー層全量に対して、0.1〜20重量%で含まれている、請求項1〜7のいずれかに記載の修復性めっき基材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[修復性めっき基材]
本発明の修復性めっき基材は、めっき基材のめっき層の上に形成されたポリマー層を有する。本発明の修復性めっき基材は、ポリマー層に修復剤を含むため、ポリマー層表面から金属基材に達する欠陥が形成されたとき、欠陥の内側表面、特に露出した金属基材の表面に保護皮膜を形成し、修復性(特に自己修復性)を有するようになる。以下、本発明を、図面を用いて詳しく説明するが、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”、“左右方向”および“表裏方向”はそれぞれ、図中における上下方向、左右方向および表裏方向に対応した方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材または同じ意味内容を示すものとする。
【0012】
(めっき基材)
めっき基材10は、
図1Aに示すように、金属基材1および当該金属基材表面に形成されためっき層2を有する。金属基材1は、金属を含むあらゆる基材であってよく、通常、鉄を含み、所望により、炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄等を含んでもよい。金属基材において、炭素の含有量は1重量%以下、特に0.8重量%以下であり、ケイ素、マンガン、リン、硫黄等の含有量はそれぞれ0.5重量%以下、特に0.3重量%以下であり、残部が鉄である。
【0013】
金属基材1としては、自動車部品の分野においては、鋼板が好ましく、より好ましくはいわゆる炭素鋼板、特に高張力鋼板(ハイテン材料)である。
【0014】
めっき層2は、金属基材1を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属を主成分として含有する。めっき層の主成分として含有される当該イオン化傾向が高い金属を、以下、「イオン化傾向が高い金属A」ということがある。金属基材1が鋼板である場合、金属基材1を構成する金属とは鉄のことである。鉄よりもイオン化傾向が高い金属として、例えば、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウムからなる群から選択される1種以上の金属が挙げられる。好ましくは亜鉛である。このようなめっき層2に含有されるイオン化傾向が高い金属Aは通常、イオンの形態で、後で詳述する保護皮膜の形成に寄与する。
【0015】
めっき層2は、金属基材1の露出表面での保護皮膜の形成の観点から、亜鉛めっき層であることが好ましい。亜鉛めっき層とは、亜鉛を含むめっき層のことであり、好ましくは亜鉛合金層である。
【0016】
めっき層2の形成方法としては、あらゆるめっき法を採用してもよく、例えば、いわゆる電気めっき法、無電解めっき法および溶融めっき法等の湿式めっき法;ならびにいわゆる真空めっき法(物理気相成長法(PVD法))、化学蒸着法(CVD法)および衝撃めっき法等の乾式めっき法が挙げられる。好ましくは乾式めっき法、特に衝撃めっき法である。衝撃めっき法は、中心部(例えば鉄核)の外殻部にめっき層の構成金属粒子を有する複合粒子を被処理物(金属基材1)に投射することにより、めっき層(皮膜)を形成する方法である。
図1Aにおいて、めっき層2が衝撃めっき法により形成され、めっき層2の内部において構成金属粒子の界面および間隙が存在するめっき基材の概略断面図が示されているが、めっき層は他の方法により形成されて、構成金属粒子の界面および間隙が存在しない形態を有していてもよい。
【0017】
めっき層2の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上であってもよく、通常は1〜50μm、特に1〜10μmである。
【0018】
(修復剤)
修復剤はリン酸化合物、ホスホン酸化合物および金属基材1を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属を含有する化合物(以下、化合物Bということがある)を含む。修復剤とは、金属基材の露出表面に保護皮膜を形成する薬剤のことである。
【0019】
リン酸化合物は、リン酸(H
3PO
4)およびリン酸塩からなる群から選択される1種以上の無機系リン酸化合物である。保護皮膜の形成の観点から好ましくはリン酸塩である。リン酸塩とは、第1リン酸イオン(H
2PO
4−)、第2リン酸イオン(HPO
42−)または第3リン酸イオン(PO
43−)等のリン酸イオンと、陽イオンとの塩のことである。保護皮膜の形成の観点から好ましいリン酸イオンは第1リン酸イオン、第2リン酸イオンであり、より好ましくは第1リン酸イオンである。陽イオンは、1価金属イオン、2価金属イオン、3価金属イオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種以上のイオンである。好ましくは1価金属イオンおよびアンモニウムイオンである。1価金属イオンを構成する金属としてはアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)が挙げられ、好ましくはナトリウム、カリウムである。2価金属イオンを構成する金属としてはアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)およびマンガンが挙げられ、好ましくはカルシウム、バリウムおよびマンガンである。3価金属イオンを構成する金属としては、例えば、クロム、アルミニウムが挙げられ、好ましくはクロムである。
【0020】
保護皮膜の形成の観点から好ましいリン酸化合物の具体例として、例えば、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素バリウム、リン酸二水素マンガン、リン酸二水素リチウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素バリウム、リン酸水素マンガン(II)、リン酸クロム(III)、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、および縮合リン酸化合物が挙げられる。縮合リン酸化合物は、例えば、トリポリリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、亜リン酸等の陰イオンと陽イオンからなる化合物であり、当該陽イオンは、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび両性金属イオン(亜鉛イオン、アルミニウムイオン)から選択される。
【0021】
保護皮膜の形成の観点からより好ましいリン酸化合物としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、縮合リン酸化合物が挙げられる。好ましい縮合リン酸化合物の具体例として、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウム、トリポリリン酸カルシウム、トリポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛等が挙げられる。
【0022】
リン酸化合物は市販品として容易に入手可能である。リン酸化合物として2種以上の化合物を使用してもよい。
【0023】
ホスホン酸化合物は、保護皮膜の金属基材1への吸着に寄与する非共有電子対を有する原子を含有するものであれば特に限定されず、例えば、窒素含有ホスホン酸化合物およびその塩からなる群から選択される1種以上の有機系ホスホン酸化合物である。有機系ホスホン酸化合物とは有機基およびホスホノ基を有する化合物という意味である。有機基としては、アルキレン基が挙げられ、特に炭素原子数1〜3のアルキレン基が好ましい。ホスホノ基は−P(=O)(OH)
2で表され、塩形態を有していてもよい。ホスホノ基が塩形態を有するとは、ホスホノ基の水酸基における水素イオンが遊離して、金属イオン等に置換されてもよいという意味である。金属イオンとして、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンが挙げられる。
【0024】
窒素含有ホスホン酸化合物としては、窒素原子およびホスホノ基を含有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、アミノトリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)(構造式:N[CH
2PO(OH)
2]
3)、アミノトリス(エチレンホスホン酸)(構造式:N[CH
2CH
2PO(OH)
2]
3)、およびこれらの金属塩等のホスホノ基含有アミンが挙げられる。金属塩は、当該化合物が1分子中、2個以上の水酸基を有する場合、一部の水酸基における水素イオンが金属イオンに置換されたものであってもよいし、または全ての水酸基における水素イオンが金属イオンに置換されたものであってもよい。
【0025】
ホスホン酸化合物は市販品として容易に入手可能である。ホスホン酸化合物として2種以上の化合物を使用してもよい。
【0026】
リン酸化合物およびホスホン酸化合物は通常、10/90〜90/10の重量割合(リン酸化合物/ホスホン酸化合物)で含まれ、保護皮膜の形成の観点から好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは40/60〜80/20、さらに好ましくは45/55〜65/35の重量割合で含まれる。リン酸化合物として2種以上の化合物を使用する場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。ホスホン酸化合物として2種以上の化合物を使用する場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0027】
化合物Bは、金属基材1を構成する金属よりもイオン化傾向が高い金属を含有する化合物である。本明細書中、修復剤に含まれるこのような化合物Bに含有されるイオン化傾向が高い金属を、前記めっき層に含まれるイオン化傾向が高い金属Aと区別して、「イオン化傾向が高い金属B」ということがある。このようなイオン化傾向が高い金属Bも、イオンの形態で、保護皮膜の形成に寄与する。イオン化傾向が高い金属Bは、前記したイオン化傾向が高い金属Aと同様の範囲内の金属から選択されればよく、好ましくはイオン化傾向が高い金属Aと同種の金属である。
【0028】
イオン化傾向が高い金属Bは、水中において当該金属がイオンの形態で存在できる限り特に限定されず、例えば、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル、クロム、銀、ジルコニウム、アルミニウム等が挙げられる。水中での錯体の形成の観点、特にATMPとの錯体の形成の観点から、これらの金属のうち、2価〜4価(望ましくは2価および4価)の金属、特に亜鉛、鉄、ニッケル、ジルコニウムが好ましく、亜鉛がより好ましい。イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物は、水中において当該金属がイオンの形態で存在できる限り特に限定されない。イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物の好ましい具体例として、例えば、硫酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸ニッケル、硫酸ジルコニウム、硝酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。
【0029】
イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物Bは、リン酸化合物とホスホン酸化合物との合計量100重量部に対して10〜400重量部で含有されることが好ましく、保護皮膜の形成促進の観点から、特に好ましくは30〜300重量部、より好ましくは80〜300重量部、さらに好ましくは80〜200重量部、最も好ましくは110〜150重量部で含有される。イオン化傾向が高い金属Bを含有する化合物Bは2種以上の化合物を使用してもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0030】
修復剤がリン酸化合物、ホスホン酸化合物および化合物Bを組み合わせて含有することにより、欠陥の形成により露出した金属基材表面に、非導電性および密着性に優れた保護皮膜を形成することができ、耐食性がより十分に向上する。リン酸化合物の代わりに、硝酸化合物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、クロム酸化合物、ケイ酸化合物、フッ化金属、金属酸化物等の化合物を用いても、またはホスホン酸化合物の代わりに、芳香族または脂肪族カルボン酸または有機アミンを用いても、保護皮膜は形成されないか、または形成されたとしても、保護皮膜の非導電性または密着性の少なくとも一方が低下するため、十分な耐食性は得られない。また修復剤が化合物Bを含有しないと、保護皮膜は十分に形成されないため、十分な耐食性は得られない。本明細書中、非導電性とは、体積抵抗率が10
12Ω・cm以上である絶縁性のことである。
【0031】
本発明においては、イオン化傾向が高い金属AおよびB、リン酸化合物およびホスホン酸化合物が露出した金属基材の表面に保護皮膜を形成する。すなわち、保護皮膜の形成時において、リン酸化合物のリン酸イオンは、めっき層に含まれる前記イオン化傾向が高い金属Aのイオンおよび化合物Bに含まれるイオン化傾向が高い金属Bのイオンとの反応(例えば、下記概略反応式(I))により、皮膜の主要骨格成分として非導電性化合物を生成する。他方、ホスホン酸化合物は、前記イオン化傾向が高い金属AおよびBのイオンと錯体を形成するとともに(例えば、下記概略反応式(II))、ホスホン酸化合物部分に含まれる窒素原子がその非共有電子対により、金属基材表面との吸着作用を発揮する。しかも、ホスホン酸化合物錯体の存在により、皮膜の非晶質化が促進され、皮膜の金属基材表面に対する柔軟性および密着性が向上する。これらの結果、非導電性および密着性に優れた保護皮膜が形成され、耐食性がより十分に向上するものと考えられる。なお、以下の概略反応式は保護皮膜の形成に係わる主要な物質に由来する生成物の形成を概略的に示すものの一例である。
【0033】
本明細書中、耐食性とは、腐食に抵抗する特性のことであり、特に欠陥が形成されて金属基材が露出しても、腐食に対して十分に抵抗し得る特性のことである。耐食性は自己修復性を包含する概念で用いるものとする。自己修復性とは、欠陥の形成により金属基材が露出しても、当該露出した金属基材の表面に保護皮膜が形成されることにより、欠陥を修復するような挙動を示す特性のことである。
【0034】
修復剤はナノファイバを必ずしも含まなくてもよいが、含むことが好ましい。ナノファイバは直径がナノオーダーの繊維のことである。このようなナノファイバを修復剤に含有させることにより、修復性めっき基材が、より一層、十分な耐食性を示すようになる。修復剤がナノファイバを含有することにより、修復性めっき基材がより一層、十分な耐食性を示すようになるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下の原理・原則に基づくものと考えられる。ナノファイバが含有されると、リン酸化合物、ホスホン酸化合物、および化合物B(以下、リン酸化合物等ということがある)等の成分は、ナノファイバの表面を伝って移動するようになる。このため、欠陥(傷)が形成されると、これらの成分の、後述するポリマー層内での移動が促進され、当該層からの滲出が促進される。その結果として、傷部における金属基材の露出表面に保護皮膜(修復皮膜)がより効果的に形成され、十分な耐食性を示すようになるものと考えられる。
【0035】
ナノファイバは、直径がナノオーダーを有する限り、その構成材料は特に限定されない。ナノファイバの具体例として、例えば、セルロースナノファイバ、キトサンナノファイバ、ゼラチンナノファイバ等の天然高分子ナノファイバ;ポリオレフィンナノファイバ、ポリアミドナノファイバ、ポリフッ化ビニリデンナノファイバ、アクリル系ナノファイバ、エポキシ系ナノファイバ、ポリウレタンナノファイバ、ポリイミドナノファイバ等の合成高分子ナノファイバ;およびカーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ等が挙げられる。リン酸化合物等の滲出のさらなる促進の観点から、好ましいナノファイバは天然高分子ナノファイバ、特にセルロースナノファイバである。セルロースナノファイバは植物から得られる植物繊維をナノサイズまで細かくほぐすことによって得られる繊維であり、プラスチックの分野でいわゆる補強用繊維として知られているものが使用可能である。
【0036】
ナノファイバの平均繊維径は通常、1nm以上1000nm以下であり、リン酸化合物等の滲出促進の観点から、好ましくは1〜500nm、より好ましくは10〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmである。
【0037】
ナノファイバの平均繊維長は通常、10〜1000μmであり、リン酸化合物等の滲出促進の観点から、好ましくは50〜800μm、より好ましくは100〜500μm、さらに好ましくは200〜400μmである。
【0038】
ナノファイバの平均繊維径および平均繊維長は顕微鏡写真(SEM)から測定された任意の200本の値の平均値を用いている。
【0039】
修復剤がナノファイバを含む場合、ナノファイバは、リン酸化合物とホスホン酸化合物との合計量100重量部に対して1〜200重量部で含有されることが好ましく、リン酸化合物等の滲出促進の観点から、特に好ましくは5〜100重量部、より好ましくは10〜80重量部、さらに好ましくは10〜60重量部、最も好ましくは20〜40重量部で含有される。ナノファイバは2種以上の化合物を使用してもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0040】
(ポリマー層)
ポリマー層は2層以上の多層型構造を有し、修復剤を含む。例えば、ポリマー層が2層構造を有する場合、
図1Bに示すように、めっき層2の上に、第1ポリマー層41および第2ポリマー層42が順次形成(または積層)され、結果として当該2層構造のポリマー層は、めっき層2の上に積層された第1ポリマー層41および当該第1ポリマー層41に積層された第2ポリマー層42を含む。また例えば、ポリマー層が3層構造を有する場合、
図1Dに示すように、めっき層2の上に、第1ポリマー層41、第2ポリマー層42および第3ポリマー層43が順次(または積層)形成され、結果として当該3層構造のポリマー層は、めっき層2の上に積層された第1ポリマー層41、当該第1ポリマー層41に積層された第2ポリマー層42、および当該第2ポリマー層42に積層された第3ポリマー層43を含む。本明細書中、各ポリマー層は、修復剤を構成するリン酸化合物、ホスホン酸化合物、ナノファイバおよび化合物Bの成分のうち、少なくとも1成分を含む。従って、各ポリマー層は、保護皮膜の形成に寄与する観点から、修復性ポリマー層とも呼ばれ得る。
【0041】
ポリマー層を構成する2層以上のポリマー層は相互にその組成が異なる。組成が異なるとは、ポリマー層に含まれる修復剤の成分の種類および量、ならびにポリマー層を構成するポリマーの種類からなる群から選択される少なくとも1つが異なるという意味である。当該2層以上のポリマー層は通常、含まれる修復剤の成分の種類が相互に異なる。
【0042】
本発明においては、化合物Bは、2層以上のポリマー層のうち、リン酸化合物またはホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層とは異なるポリマー層に含まれている。詳しくは、化合物Bは、リン酸化合物もホスホン酸化合物も含まれていないポリマー層に含まれている。より詳しくは、化合物Bは、リン酸化合物またはホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層とは分離されて隣接する別のポリマー層に含まれている。分離とは、2つのポリマー層間の界面を隔てたポリマー層の存在形態のことである。本発明においては、化合物Bを、リン酸化合物もホスホン酸化合物も含まれていないポリマー層に含ませることにより、修復性めっき基材がより一層、十分な耐食性を示すようになる。そのメカニズムの詳細は明らかではないが、以下の原理・原則に基づくものと考えられる。化合物Bが1つのポリマー層内にリン酸化合物および/またはホスホン酸化合物とともに含有されると、当該ポリマー層内において前記反応(I)および/または(II)が起こり、生成物が生じるため、各成分の層外への滲出および放出が妨げられる。そこで、化合物Bを、リン酸化合物および/またはホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層とは異なるポリマー層に含有させた場合、層内での前記反応(I)および/または(II)が抑制されるため、
図1Cおよび
図1Eに示すような金属基材1に達する欠陥13が形成されると、各成分が層外へ円滑に滲出および放出される。その結果として、傷部における金属基材の露出表面に保護皮膜(修復皮膜)14がより効果的に形成され、より一層、十分な耐食性を示すようになるものと考えられる。各ポリマー層から滲出した各成分の金属基材1の露出表面への移動は、欠陥13に付着する水分(例えば雨水)により達成されてもよいし、空気中の水分により達成されてもよいし、または欠陥13が形成された修復性めっき基材を水中に浸漬することにより達成されてもよい。化合物Bを、リン酸化合物および/またはホスホン酸化合物の少なくとも一方が含まれるポリマー層に含有させると、当該ポリマー層内において前記反応(I)および/または(II)が起こり、生成物が生じるため、各成分の層外への滲出および放出が妨げられ、当該修復性めっき基材は十分な耐食性を示さない。
【0043】
本発明の修復性めっき基材において、保護皮膜14は金属基材1の露出表面に選択的に形成される。これは、特定の理論に拘束されることを意図するわけではないが、以下の理由によるものと考えられる。
(1)金属基材1は初期に腐食電位(負)を有するため、イオン化傾向が高い金属AおよびBが正イオンとして金属基材1の露出表面に静電気的に引き寄せられると、保護皮膜の他の構成材料も静電気的に当該正イオンに引き寄せられる。
(2)引き寄せられたイオンは金属基材1の表面に吸着した後に、相互に結合し、皮膜を形成する。これらは2次元、あるいは3次元膜を形成すると同時に、金属基材1の表面に強く吸着あるいは結合し、密着性の高い皮膜となる。
【0044】
保護皮膜14が金属基材1の露出表面に形成されていることは、当該表面のSEM写真によっても、または当該表面にある皮膜のXRD(X線回折法)による分析によっても、容易に確認することができる。
【0045】
本明細書中、欠陥13はポリマー層の表面から金属基材1に達する深さを有するものであり、引っかき傷(スクラッチ)ともいう。
【0046】
本発明におけるポリマー層構成の具体例として以下の構成例が挙げられる。なお、以下の表記において、ポリマー層が2層型の場合、左側に記載の成分が第1実施態様41に含まれる成分であり、右側に記載の成分が第2ポリマー層42に含まれる成分である。ポリマー層が3層型の場合、左側に記載の成分が第1実施態様41に含まれる成分であり、中央に記載の成分が第2ポリマー層42に含まれる成分であり、右側に記載の成分が第3ポリマー層43に含まれる成分である。
【0047】
2層型:第1ポリマー層41/第2ポリマー層42
構成例A1=化合物B/リン酸化合物+ホスホン酸化合物
構成例A2=リン酸化合物+ホスホン酸化合物/化合物B
【0048】
3層型:第1ポリマー層41/第2ポリマー層42/第3ポリマー層43
構成例B1=化合物B/ホスホン酸化合物/リン酸化合物
構成例B2=化合物B/リン酸化合物/ホスホン酸化合物
構成例B3=ホスホン酸化合物/化合物B/リン酸化合物
構成例B4=ホスホン酸化合物/リン酸化合物/化合物B
構成例B5=リン酸化合物/化合物B/ホスホン酸化合物
構成例B6=リン酸化合物/ホスホン酸化合物/化合物B
【0049】
本発明においては、例えば、めっき層2の上に第1ポリマー層41および第2ポリマー層42が順次、形成される場合、構成例A1およびA2のように、化合物Bは第1ポリマー層41および第2ポリマー層42のうち一方のポリマー層に含まれており、かつ、リン酸化合物およびホスホン酸化合物は、他方のポリマー層に含まれている。このとき、修復性めっき基材の耐食性のさらなる向上の観点から、構成例A1のように、化合物Bは第1ポリマー層41に含まれており、かつリン酸化合物およびホスホン酸化合物は第2ポリマー層に含まれていることが好ましい。
【0050】
また例えば、めっき層2の上に3層のポリマー層(符号41〜43)が形成される場合、構成例B1〜B6のように、化合物Bは、当該3層のポリマー層のうち、いずれか1層のポリマー層に含まれており、かつ、リン酸化合物およびホスホン酸化合物はそれぞれ、化合物Bを含むポリマー層以外の2層のポリマー層のうち、相互に異なるポリマー層に含まれている。めっき層2の上に第1ポリマー層41、第2ポリマー層42および第3ポリマー層43が順次、形成される場合、修復性めっき基材の耐食性のさらなる向上の観点から、構成例B1およびB2のように、化合物Bは前記第1ポリマー層41に含まれており、リン酸化合物は、第2ポリマー層42または第3ポリマー層43の一方のポリマー層に含まれており、かつホスホン酸化合物は、他方のポリマー層に含まれていることが好ましい。修復性めっき基材の耐食性のさらなる向上の観点から、より好ましくは、構成例B1のように、化合物Bは前記第1ポリマー層41に含まれており、リン酸化合物は第3ポリマー層43に含まれており、ホスホン酸化合物は第2ポリマー層42に含まれている。
【0051】
上記の各構成例では、全てのポリマー層にナノファイバが含まれていないが、各成分のより一層、円滑な滲出の観点からは、ナノファイバは修復剤の他の成分が含まれるポリマー層に含まれることが好ましい。他の成分とは、リン酸化合物、ホスホン酸化合物および化合物Bのうち少なくとも1種の成分のことである。詳しくは、ナノファイバは、各成分の滲出のさらなる促進の観点から、リン酸化合物、ホスホン酸化合物および化合物Bからなる群から選択される1種以上の成分を含むポリマー層に含まれていることが好ましく、より好ましくは当該群から選択される1種以上の成分を含む全てのポリマー層に含まれている。
【0052】
各ポリマー層(例えば、第1ポリマー層41、第2ポリマー層42および第3ポリマー層43)を構成するポリマーは修復剤成分を埋包できる限り特に限定されず、例えば、硬化ポリマーまたは熱可塑性ポリマーであってもよい。硬化ポリマーは通常、基体樹脂と架橋剤(または硬化剤)から構成される。基体樹脂は通常、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、シラノール基、アルコキシシリル基のような架橋性官能基を有する樹脂である。基体樹脂の具体例として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤は、基体樹脂に応じて選択される。架橋剤の具体例として、例えば、メラミン樹脂、アミノ(尿素)樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物、アルコキシシリル基含有化合物、ポリアミドアミンなどが挙げられる。第1ポリマー層41、第2ポリマー層42および第3ポリマー層43を構成するポリマーは、それぞれ独立して、上記ポリマーから選択されてよいが、各層からの成分の滲出速度を合わせて、保護皮膜をより一層、十分に形成する観点から、同種のポリマーであることが好ましい。
【0053】
各ポリマー層(例えば、第1ポリマー層41、第2ポリマー層42および第3ポリマー層43)は、例えば、所望の修復剤成分と、ポリマーまたはその前駆体とを混合して得られたコート液をコートすることにより製造することができる。ポリマーまたはその前駆体が硬化性を有する場合、通常は加熱または光照射により硬化させればよい。例えば、加熱による硬化の場合、加熱温度および加熱時間はポリマーの種類に応じて適宜設定されればよい。例えば、エポキシ樹脂およびポリアミドアミンを用いる場合、加熱温度は50〜120℃、特に60〜100℃が好ましく、加熱時間は1〜10時間、特に5〜10時間が好ましい。
【0054】
リン酸化合物が含まれるポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)において、リン酸化合物の含有量は通常、当該リン酸化合物が含まれるポリマー層全量に対して、0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは0.5〜5重量%である。リン酸化合物が2層以上のポリマー層に含まれる場合、各ポリマー層において、リン酸化合物の含有量が上記範囲内であればよい。
【0055】
ホスホン酸化合物が含まれるポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)において、ホスホン酸化合物の含有量は通常、当該ホスホン酸化合物が含まれるポリマー層全量に対して、0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは0.5〜5重量%である。ホスホン酸化合物が2層以上のポリマー層に含まれる場合、各ポリマー層において、ホスホン酸化合物の含有量が上記範囲内であればよい。
【0056】
化合物Bが含まれるポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)において、化合物Bの含有量は通常、当該化合物Bが含まれるポリマー層全量に対して、1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは2〜8重量%である。化合物Bが2層以上のポリマー層に含まれる場合、各ポリマー層において、化合物Bの含有量が上記範囲内であればよい。
【0057】
ナノファイバが含まれるポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)において、ナノファイバの含有量は通常、当該ナノファイバが含まれるポリマー層全量に対して、0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは0.5〜5重量%である。ナノファイバが2層以上のポリマー層に含まれる場合、各ポリマー層において、ナノファイバの含有量が上記範囲内であればよい。
【0058】
各ポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)において、修復剤成分の合計含有量は通常、当該各ポリマー層全量に対して、0.5〜40重量%であり、好ましくは2〜30重量%であり、より好ましくは5〜20重量%である。修復剤成分の合計含有量とは、例えば、1つのポリマー層にリン酸化合物、ホスホン酸化合物およびナノファイバが含有されている場合、これらの合計含有量のことである。修復剤成分の合計含有量とは、また例えば、1つのポリマー層に化合物Bおよびナノファイバが含有されている場合、これらの合計含有量のことである。
【0059】
各ポリマー層(例えば、第1ポリマー層、第2ポリマー層または第3ポリマー層)の厚みは、各成分の滲出の観点から、厚いほど好ましいが、各成分の滲出とコストとのバランスおよび自動車用途の観点からは、通常、それぞれ独立して、1〜100μmであり、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜40μmである。
【0060】
めっき層2とポリマー層との間には絶縁層が形成されてもよい。絶縁層とは、体積抵抗率が10
12Ω・cm以上である絶縁性を有する層(特にポリマー層)という意味である。絶縁層の形成により、ナノファイバより侵入した水分が金属と直接接触するのを防ぐことができる。絶縁層には、修復剤の成分は含まれるものではなく、通常は、ポリマー層(例えば、第1ポリマー層41)と同様の範囲内の材料および方法により製造することができる。絶縁層の厚みは通常、1〜100μmであり、絶縁性の観点から、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜40μmである。
【0061】
本発明の修復性めっき基材において、ポリマー層の最表面には、いわゆるハードコート層等のあらゆるコート層が形成されていてもよい。
【0062】
本発明の修復性めっき基材はめっき層を必ずしも有さなければならないというわけではない。本発明の修復性めっき基材は、めっき層を有さない場合、「修復性金属基材」と称することもできる。本発明の「修復性金属基材」は、めっき層を有さないこと、および金属基材1表面に直接的に形成された前記した多層型のポリマー層を有すること以外、前記修復性めっき基材と同様である。
【実施例】
【0063】
(材料)
以下の材料を用いた。
・エポキシ樹脂(ハイポン20デクロ グレー;日本ペイント株式会社製、硬化剤=ポリアミドアミン、塗料液:硬化剤=85:15(重量比))
・炭素鋼板(ハイテン材料)(12mm×12mm)(含有割合:炭素0.5重量%、ケイ素0.02重量%、マンガン0.2重量%、リン0.1重量%、硫黄0.1重量%、残部;鉄)
・硫酸亜鉛(以下、「Zn」と略記することがある)
・セルロースナノファイバ(セリッシュ;ダイセル製、平均繊維長0.3mm、平均繊維径0.2μm)(以下、「CNF」と略記することがある)
・リン酸二水素ナトリウム(以下、「PO
4」と略記することがある)
・ATMPナトリウム塩(以下、「AT」と略記することがある)
【0064】
(実施例1)
図2に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
【0065】
・絶縁層40の形成
エポキシ樹脂を炭素鋼板に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、絶縁層40を形成した。
【0066】
・第1ポリマー層41の形成
硫酸亜鉛およびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。硫酸亜鉛およびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して4.6重量%および1.0重量%であった。
コート液を絶縁層に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、第1ポリマー層41を形成した。
【0067】
・第2ポリマー層42の形成
リン酸二水素ナトリウム、ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。リン酸二水素ナトリウム、ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して1.9重量%、1.5重量%および1.0重量%であった。
コート液を第1ポリマー層に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、第2ポリマー層42を形成した。
【0068】
・トップコート層60の形成
絶縁層40の形成方法と同様の方法により、トップコート層60を第2ポリマー層42に形成した。トップコート層60は、後で形成する引っかき傷以外からの修復剤の溶出を防ぐための層である。
【0069】
・引っかき傷の形成
作製した試験片に、スクラッチ試験機を用いて500gの荷重で長さ4mmおよび深さ30μm(炭素鋼板のみでの深さ)の引っかき傷(スクラッチ)を付与した。
【0070】
(実施例2)
図3に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
第1ポリマー層41および第2ポリマー層42の形成にセルロースナノファイバを用いなかったこと以外、実施例1と同様の方法により、試験片を製造した。
【0071】
(比較例1)
図4に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
第2ポリマー層42を形成しなかったこと、および第1ポリマー層41の形成に以下のコート液を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、試験片を製造した。
・第1ポリマー層41のコート液
硫酸亜鉛、リン酸二水素ナトリウム、ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。硫酸亜鉛、リン酸二水素ナトリウム、ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して4.6重量%、1.9重量%、1.5重量%および1.0重量%であった。
【0072】
(比較例2)
図5に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
第1ポリマー層41の形成にセルロースナノファイバを用いなかったこと以外、比較例1と同様の方法により、試験片を製造した。
【0073】
(参考例1)
図6に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
第1ポリマー層41の形成に硫酸亜鉛、リン酸二水素ナトリウム、ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバを用いなかったこと以外、比較例1と同様の方法により、試験片を製造した。
【0074】
(実施例3)
図7に示す模式的断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
第1ポリマー層41の形成に第2ポリマー層42のコート液を用いたこと、および第2ポリマー層42の形成に第1ポリマー層41のコート液を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、試験片を製造した。
【0075】
(実施例4)
めっき層2の代わりに絶縁層を形成したこと、および引っかき傷を付与したこと以外、
図1Dに示す模式的断面構造と同様の断面構造を有する試験片を製造した。詳しくは、以下の通りである。
【0076】
・絶縁層の形成
実施例1の絶縁層の形成方法と同様の方法により、絶縁層を炭素鋼板に形成した。
【0077】
・第1ポリマー層41の形成
硫酸亜鉛およびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。硫酸亜鉛およびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して4.6重量%および1.0重量%であった。
コート液を絶縁層に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、第1ポリマー層41を形成した。
【0078】
・第2ポリマー層42の形成
ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。ATMPナトリウム塩およびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して1.5重量%および1.0重量%であった。
コート液を第1ポリマー層に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、第2ポリマー層42を形成した。
【0079】
・第3ポリマー層43の形成
リン酸二水素ナトリウムおよびセルロースナノファイバをスパチュラで混合し、その混合物をエポキシ樹脂に添加し、撹拌機で攪拌および脱泡してコート液を調製した。リン酸二水素ナトリウムおよびセルロースナノファイバの含有量はそれぞれ、全量に対して1.9重量%および1.0重量%であった。
コート液を第2ポリマー層に、バーコート法により、コーティング厚み(乾燥後)が20μmになるようコートし、80℃で3時間保持して硬化させ、第3ポリマー層43を形成した。
【0080】
・トップコート層の形成
実施例1のトップコート層の形成方法と同様の方法により、トップコート層を第3ポリマー層43に形成した。
【0081】
・引っかき傷の形成
作製した試験片に、スクラッチ試験機を用いて500gの荷重で長さ4mmおよび深さ30μm(炭素鋼板のみでの深さ)の引っかき傷(スクラッチ)を付与した。
【0082】
(評価1)
図8に示す電気化学測定装置50において、試験片を作用電極51として、腐食液52に浸漬し、交流インピーダンスを48時間測定し、分極抵抗の経時変化を測定し、試験片の自己修復性を評価した。腐食液52には0.5重量%の食塩水を35℃に恒温し、空気飽和させたものを用いた。対極53としては白金電極を、参照電極54としてはAg/AgCl電極を用いた。55はポテンショスタットであり、56は周波数応答分析器(FRA)である。
【0083】
各試験片における分極抵抗の経時変化を
図9A〜
図9Bに示す。これらの図において縦軸は分極抵抗を示し、横軸は浸漬時間を示す。分極抵抗が高いほど傷部での腐食反応が生じにくいことを表している。なお、実施例4の試験片の経時変化を示すグラフは省略した。実施例4については、後述の評価2において分極抵抗の平均値およびその誤差範囲(最大値と最小値)を
図15に示した。
【0084】
参考例1においてエポキシ樹脂のみをコートした場合(Plain)、浸漬初期には高い分極抵抗を示したが、その後徐々に抵抗値が減少した。傷部における鋼板の露出表面で腐食が進行しているものと考えられる。
【0085】
実施例1、3および4と比較例1との比較、および実施例2と比較例2との比較より、ポリマー層を2層以上にし、Znを含む層と、PO
4およびATを含む1層以上の層とに分けることで、分極抵抗が上昇し、腐食がより十分に抑制されることが明らかとなった。これは、Zn、PO
4およびAT等の成分を1層のポリマー層に含有させた場合(比較例1および2)、前記反応式(I)および(II)の反応が1層のポリマー層中で起こり、各成分の傷部への滲出および放出が妨げられたため、分極抵抗が十分に上昇しなかったと考えられる。それに対し、Zn、PO
4およびATを、Znを含む層と、PO
4およびATを含む1層以上の層とに分けて含有させた場合、各成分は層から円滑に滲出した後、反応式(I)および(II)の反応が起こり、傷部における鋼板の露出表面に保護皮膜(修復皮膜)がより効果的に形成されたため、腐食がより十分に抑制されたものと考えられる。
【0086】
実施例1と実施例3との比較より、ポリマー層を2層以上にし、Znを含む層を、PO
4およびATを含む1層以上の層よりも下方に位置付けることで、腐食抑制効果がより一層、十分に高くなることが明らかとなった。
図10に示すように、腐食の抑制により効果的なZnリッチ層が、Zn+PO
4+ATの複合生成物からなる層よりも、金属基材の露出表面に形成され易くなるため、腐食抑制効果がより一層、十分に高くなるものと考えられる。
【0087】
実施例1において、浸漬時間48時間経過時の傷部における鋼板露出表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影したところ(
図11A)、直径1μm程度の生成物が露出表面を覆っているのが確認された。また、これと併せて、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)により、元素マッピング像を得た。
図11B〜
図11Fはそれぞれ、
図11AにおけるFe,Zn,P,OおよびN元素のマッピング像である。
図11Gは、
図11Aにおける白線による囲み部分の拡大写真である。
図11Hは、
図11Bにおける白線による囲み部分の拡大写真である。
図11Iは、
図11Eにおける白線による囲み部分の拡大写真である。
図11Jは、
図11Cにおける白線による囲み部分の拡大写真である。
図11Kは、
図11Dにおける白線による囲み部分の拡大写真である。
図11A〜
図11Kの写真(現物:カラーコピー)ならびに後述の
図12A〜
図12F、
図13A〜
図13Fおよび
図14A〜
図14Eの写真(現物:カラーコピー)を参考資料(参考写真)1として物件提出書で提出する。
【0088】
図11G、
図11Hおよび
図11Iより、FeおよびOは異なる領域で検知されている。このことより、検知されたFeは金属表面由来のものであることがわかる。
図11I、
図11Jおよび
図11Kより、Zn、PおよびOは同じ領域で検知されている。このことより、検知されたZn、PおよびOは反応式(I)および(II)の反応生成物由来のものであることがわかる。
【0089】
実施例1において、浸漬時間3時間経過時の傷部における鋼板露出表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した(
図12A)。また、これと併せて、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)により、元素マッピング像を得た。
図12B〜
図12Fはそれぞれ、
図12AにおけるFe,Zn,O,PおよびN元素のマッピング像である。
【0090】
参考例1において、浸漬時間48時間経過時の傷部における鋼板露出表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した(
図13A)。また、これと併せて、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)により、元素マッピング像を得た。
図13B〜
図13Fはそれぞれ、
図13AにおけるFe,Zn,O,PおよびN元素のマッピング像である。
【0091】
実施例3において、浸漬時間48時間経過時の傷部における鋼板露出表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した(
図14A)。また、これと併せて、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)により、元素マッピング像を得た。
図14B〜
図14Eはそれぞれ、
図14AにおけるFe,Zn,OおよびP元素のマッピング像である。
【0092】
(評価2)
実施例1、3および4、比較例1および参考例1について再現性を検証した。各実施例/比較例/参考例において試験片を3個以上作製し、評価1と同様の方法により、交流インピーダンスを48時間測定し、浸漬48時間のときの分極抵抗を測定した。当該分極抵抗の平均値およびその誤差範囲(最大値と最小値)を
図15のグラフに示す。
図15のエラーバーが誤差範囲を表す。
図15において縦軸は分極抵抗(Ω・cm
2)を示す。