特開2019-189473(P2019-189473A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧
特開2019-189473Sn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法
<>
  • 特開2019189473-Sn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-189473(P2019-189473A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】Sn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20191004BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20191004BHJP
【FI】
   C04B35/453
   C23C14/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-80530(P2018-80530)
(22)【出願日】2018年4月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】安東 勲雄
(72)【発明者】
【氏名】有泉 秀之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓一
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC24
(57)【要約】
【課題】スパッタリングターゲットに加工される際に導電性の低下が起こり難いSn-Zn-O系酸化物焼結体とその製造方法を提供する。
【解決手段】この酸化物焼結体は、原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.15以上0.6以下の割合でSnを含有し、Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素Mとし、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素Xとした場合、
全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で上記第1添加元素Mを含有し、全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で上記第2添加元素Xを含有すると共に、焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.15以上0.6以下の割合でSnを含有し、
Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素Mとし、かつ、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素Xとした場合、
全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で上記第1添加元素Mを含有し、
全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で上記第2添加元素Xを含有すると共に、
焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%以上であることを特徴とするSn−Zn−O系酸化物焼結体。
【請求項2】
平均結晶粒径が10μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法において、
ZnO粉末とSnO2粉末、Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを含有する酸化物粉末、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを含有する酸化物粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合しかつ湿式粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する造粒粉末製造工程と、
得られた造粒粉末を加圧成形して成形体を製造する成形体製造工程と、
得られた成形体を焼成炉で焼成して焼結体を製造する焼結体製造工程を具備し、
上記造粒粉末製造工程における湿式粉砕された粉末の90%粒径が0.5μm以上2μm以下であり、
上記焼結体製造工程における焼成炉内の酸素濃度が70体積%以上の雰囲気下、1200℃以上1450℃以下、かつ、10時間以上30時間以内の条件で成形体を焼成することを特徴とするSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、液晶表示素子、タッチパネル等に用いられる透明導電膜、あるいは、LOW−Eガラス、有機EL素子等の劣化を防止するガスバリア性透明酸化物膜をスパッタリング法で成膜する際にスパッタリングターゲットとして使用されるSn−Zn−O系酸化物焼結体に係り、特に、インジウム合金等から成るボンディング材を用いてスパッタリングターゲット用バッキングプレートに接合される際に導電性の低下が起こり難いSn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、液晶表示素子、タッチパネル等に用いられる透明導電膜として、酸化インジウムスズ、いわゆるITOが広く使用されている。しかし、インジウム金属は、地球上で希少金属であることと毒性を有するため非インジウム系の材料が要望されており、非インジウム系の材料として酸化スズ亜鉛(Sn−Zn−O)系材料が開発されている。
【0003】
また、Sn−Zn−O系の膜は透明かつ緻密性を有し、酸素ガスや水蒸気の侵入を抑制できるため、LOW−Eガラスにおける金属膜の酸化劣化や、有機EL素子における有機層の湿度劣化を防止するガスバリア性透明酸化物膜としてその適用が検討されている。
【0004】
そして、Sn−Zn−O系の膜は主にスパッタリング法で成膜され、この成膜法で使用されるスパッタリングターゲットとして、Sn−Zn−O系酸化物焼結体が検討されている。しかし、スパッタリングターゲットに要請される十分な強度、緻密性および導電性をSn−Zn−O系酸化物焼結体に具備させることが困難な欠点を有していた。
【0005】
この欠点を改善するため、特許文献1には、ZnO粉末とSnO粉末を混合し、一度低温で仮焼成してZn2SnO4粉体を合成した後、これを再度粉末化して成形し、得られた成形体を高温で本焼成する方法が記載されている。特許文献1の方法によれば、焼成時間が短縮されることからZn2SnO4相の平均結晶粒径が1〜10μmとなり、結晶粒径の粗大化が抑制された機械的強度の高い焼結体を製造できるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、スパッタリング成膜中におけるターゲットのクラックが、Sn−Zn−O系酸化物焼結体の配向性を調整することで低減できるという技術的知見に着目した方法が記載されている。すなわち、特許文献2には、配向性を調整したSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造法として、当該焼結体製造工程を、焼成炉内に酸素を含む雰囲気中において800℃〜1400℃の条件で成形体を焼成する工程と、最高焼成温度での保持が終了してから焼成炉内をArガス等の不活性雰囲気にして冷却する工程とで構成する方法が記載されている。この製造法によれば、焼結体の平均結晶粒径が4.5μm以下で、CuKα線を使用したX線回折によるZn2SnO4相における(222)面、(400)面の積分強度をI(222)、I(400)としたとき、I(222)/[I(222)+I(400)]で表される配向度が標準(0.44)よりも大きい0.52以上とした焼結体を製造することができるとしている。配向性が調整された焼結体は、機械的強度が高いため、焼結体を加工する際に破損が起こり難く、スパッタリングターゲットとして使用された際においてもスパッタリング成膜中に焼結体の破損やクラックが起こり難い。
【0007】
しかし、特許文献1〜2に記載されたこれ等方法では、ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、機械的強度に耐える焼結体強度は得られるものの、十分な密度や導電性を得ることが難しく、量産現場でのスパッタリング成膜に必要とされる特性としては満足いくものではなかった。すなわち、常圧焼結法において、焼結体の高密度化や導電性という点に至っては課題が残っている。
【0008】
このような技術的背景の下、本出願人は、高密度で導電性に優れたSn−Zn−O系酸化物焼結体を既に提案している(特許文献3参照)。
【0009】
すなわち、特許文献3に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体は、
原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.1以上0.9以下の割合でSnを含有し、
Si、Ti、Ge、In、Bi、Ce、Al、Gaから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素M(焼結体の緻密化に寄与する元素)とし、かつ、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素X(焼結体の導電性に寄与する元素)とした場合、
全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で上記第1添加元素Mを含有し、
全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で第2添加元素Xを含有すると共に、
相対密度が90%以上かつ比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−037161号公報(請求項13、請求項14参照)
【特許文献2】特開2013−036073号公報(請求項1、請求項3参照)
【特許文献3】特開2017−145185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、高密度で導電性に優れた特許文献3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体がスパッタリングターゲットに加工される際、インジウムやインジウム合金等のボンディング材を用いてバッキングプレートと呼ばれる銅製板にSn−Zn−O系酸化物焼結体を接合すると酸化物焼結体の導電性が低下する現象が確認され、特に、SnO2相やZnO相よりもZn2SnO4相の割合が多くなる原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.15以上0.6以下の範囲で顕著であった。このため、Sn−Zn−O系酸化物焼結体の導電性が低下する現象はZn2SnO4相の粒界剥離が関与していると考えられる。すなわち、導電性を低下させる粒界剥離は、ボンディング時における加熱の際、熱膨張率の高い銅製板にSn−Zn−O系酸化物焼結体が接合されることで該焼結体に強い熱応力が作用し、更に、加熱の際、Zn2SnO4結晶粒中のZnが揮発し易いため粒界の結合が弱くなり、その結果、生じる現象と考えられる。そして、粒界が剥離すると導電経路が切断されるため、Sn−Zn−O系酸化物焼結体の導電性は低下してしまう。
【0012】
このように特許文献3に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高導電率化が図れる反面、スパッタリングターゲットに加工される際のボンディング時においてSn−Zn−O系酸化物焼結体の機械的強度が低下する現象(粒界剥離)が確認され、機械的強度と高導電率を両立させる改善策が要望されている。
【0013】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とすることは、原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.15以上0.6以下のSn−Zn−O系酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング(接合)する際、Zn2SnO4結晶粒の粒界剥離を抑制できるSn−Zn−O系酸化物焼結体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、ボンディング時におけるZn2SnO4結晶粒の粒界剥離を抑制するため、Zn2SnO4結晶粒同士の結合を強くする方法について検討を行った。
【0015】
まず、Zn2SnO4結晶粒同士の結合を強くするにはSn−Zn−O系酸化物焼結体の焼結時における「粒界拡散」を高める必要があると考えた。しかし、焼結温度を高くして「粒界拡散」を高めようとした場合、Zn2SnO4結晶粒は成長するがZnの揮発も進むため、結晶粒同士の結合は強くならない。他方、焼結温度を低くすると「粒界拡散」が不足して焼結密度を高くすることができない。
【0016】
そこで、上記焼結温度以外の条件として、造粒粉末工程のスラリー中における原料粉末の粒度を調べたところ、スラリー中における原料粉末の90%粒径(D90)が0.5μm以上2μm以下である場合、焼結時における「粒界拡散」が高まってZn2SnO4結晶粒同士の結合が強くなることを発見するに至った。更に、得られたSn−Zn−O系酸化物焼結体を破断して破断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を撮影し、そのSEM撮像図から粒内割れ面積率を調べたところ50%以上であり、かつ、SEM撮像図からSn−Zn−O系酸化物焼結体の平均結晶粒径は10μm以上であることが確認された。本発明はこのような技術的発見と分析により完成されたものである。
【0017】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
ZnおよびSnを主成分とするSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
原子数比Sn/(Sn+Zn)として0.15以上0.6以下の割合でSnを含有し、
Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種を第1添加元素Mとし、かつ、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種を第2添加元素Xとした場合、
全金属元素の総量に対する原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下の割合で上記第1添加元素Mを含有し、
全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.1以下の割合で上記第2添加元素Xを含有すると共に、
焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%以上であることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体において、
平均結晶粒径が10μm以上50μm以下であることを特徴とする。
【0018】
次に、本発明に係る第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造する方法において、
ZnO粉末とSnO2粉末、Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを含有する酸化物粉末、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを含有する酸化物粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合しかつ湿式粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する造粒粉末製造工程と、
得られた造粒粉末を加圧成形して成形体を製造する成形体製造工程と、
得られた成形体を焼成炉で焼成して焼結体を製造する焼結体製造工程を具備し、
上記造粒粉末製造工程における湿式粉砕された粉末の90%粒径が0.5μm以上2μm以下であり、
上記焼結体製造工程における焼成炉内の酸素濃度が70体積%以上の雰囲気下、1200℃以上1450℃以下、かつ、10時間以上30時間以内の条件で成形体を焼成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体によれば、
焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%以上であることから酸化物焼結体におけるZn2SnO4結晶粒同士の結合が強くなっている。
【0020】
従って、上記酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング(接合)する際、酸化物焼結体中におけるZn2SnO4結晶粒の粒界剥離が抑制されるため、機械的強度と高導電率が両立されたSn−Zn−O系酸化物焼結体を提供できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の破断面におけるSEM(走査型電子顕微鏡)撮像図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
(1)Sn−Zn−O系酸化物焼結体
特許文献1と特許文献2には、Sn−Zn−O系酸化物焼結体の平均結晶粒径を1〜10μmまたは4.5μm以下にすることで酸化物焼結体の機械的強度を高められることが記載されている。
【0024】
また、特許文献3には、Si、Ti、Ge、In、Bi、Ce、Al、Gaから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素(焼結体の緻密化に寄与する元素)と、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素(焼結体の導電性に寄与する元素)を酸化物焼結体に含有させることで、高い導電性と高い密度を両立させたSn−Zn−O系酸化物焼結体を提供できることが記載されている。
【0025】
しかし、SnO2相やZnO相よりもZn2SnO4相の割合が多くなる原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.15以上0.6以下であるSn−Zn−O系酸化物焼結体の場合、上記Zn2SnO4相に粒界剥離が生じ易いため、機械的強度が失われて導電性の低下を招いてしまう新たな問題が確認された。
【0026】
この問題に対し、本発明者等は、焼結時における「粒界拡散」を高める方法を採ることでZn2SnO4結晶粒同士の結合が強くなり、その結果、Zn2SnO4相の粒界剥離が抑制されて機械的強度と高導電率の両立が図れること、および、焼成されたSn−Zn−O系酸化物焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%以上で、上記SEM撮像図から酸化物焼結体の平均結晶粒径は10μm以上であることを確認すると共に、焼結時における「粒界拡散」を高める方法として、造粒粉末工程のスラリー中における原料粉末の90%粒径(D90)が0.5μm以上2μm以下に設定する条件を見出している。
【0027】
ここで、酸化物焼結体破断面のSEM撮像図から求められる粒内割れ面積率が50%未満の場合、Zn2SnO4結晶粒同士の結合が弱いため、上記酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング(接合)した際にZn2SnO4相の粒界剥離が生じて酸化物焼結体の導電性が低下してしまう。尚、上記粒内割れ面積率については、Sn−Zn−O系酸化物焼結体を破断して破断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を撮影し、例えば、図1に示すSEM撮像図を観察することで評価できる。図1において符号2で示した「結晶粒子表面の多角形構造が露出した部分」は、粒界剥離した結晶粒または焼結時に生じた空孔であると判断され、図1において符号1で示した「多角形構造でなく不規則な破断面が表れている結晶粒」は、粒内割れした部分と判断される。また、SEM撮像図の粒内割れした部分を色塗りして区別すると粒内割れ面積率を求め易い(図1参照)。
【0028】
また、上記酸化物焼結体破断面のSEM撮像図から求められる酸化物焼結体の平均結晶粒径は10μm以上50μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径が10μm未満である場合、Zn2SnO4結晶粒同士の結合が弱いため、上記酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング(接合)した際にZn2SnO4相の粒界剥離が生じて酸化物焼結体の導電性が低下してしまう。Sn−Zn−O系酸化物焼結体の導電性が低いと、スパッタリング中にアーキングが多発し、放電が停止したりする。また、上記酸化物焼結体の平均結晶粒径が50μmを超えた場合、Zn2SnO4結晶の粒界が減少してクラック発生を阻止するピン止め効果が弱くなるため、機械加工する際に焼結体が割れ易くなる。
【0029】
また、Sn−Zn−O系酸化物焼結体における原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.15以上で0.33未満の場合はZn2SnO4相とZnO相が共存し、Zn2SnO4相の割合は50質量%を超える。原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.33を超えて0.6以下の場合もZn2SnO4相の割合は50質量%を超える。但し、この場合は、ZnO相ではなくSnO2相が共存する。そして、原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.33の場合は実質Zn2SnO4相のみとなる。また、酸化物焼結体におけるZnO相、Zn2SnO4相、および、SnO2相の割合は、上記酸化物焼結体を粉砕して得られた粉末をXRDリートベルト法により解析することにより求めることができる。
【0030】
(2)第1添加元素と第2添加元素
(第1添加元素M)
特許文献3に記載されているように、酸化物焼結体の緻密化には、Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを添加することで、高密度化の効果を得ることが可能となる。第1添加元素Mが、粒界拡散を促進し、粒同士のネック成長を促進し、粒同士の結合を強固とし、緻密化に寄与していると思われる。
【0031】
ここで、全金属元素の総量に対する上記第1添加元素Mの割合を原子数比M/(Sn+Zn+M+X)として0.0001以上0.04以下としているのは、上記原子数比M/(Sn+Zn+M+X)が0.0001未満の場合、高密度化の効果が表れないからである。一方、上記原子数比M/(Sn+Zn+M+X)が0.04を超えた場合、後述する第2添加元素Xを添加しても酸化物焼結体の導電性は高まらない。更に、別の化合物、例えば、TiO2、Zn2Ge38、Ti0.5Sn0.52等の化合物を生成する等、成膜した際に所望とする膜特性が得られなくなる。
【0032】
このように第1添加元素Mを加えただけでは、酸化物焼結体の密度は向上するものの、導電性は改善されない。
【0033】
(第2添加元素)
第1添加元素Mを加えたSn−Zn−O系酸化物焼結体は密度は向上するものの導電性に課題が残る。
【0034】
そこで、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを添加する。第2添加元素Xの添加により酸化物焼結体の高密度を維持したまま、導電性が改善される。尚、第2添加元素Xは、Nb、Ta、W、Mo等5価以上の元素である。
【0035】
添加する量は、第2添加元素Xの全金属元素の総量に対する原子数比X/(Sn+Zn+M+X)を0.0001以上0.1以下にすることを要する。上記原子数比X/(Sn+Zn+M+X)が0.0001未満の場合、導電性は高まらない。一方、上記原子数比X/(Sn+Zn+M+X)が0.1を超えた場合、別の化合物相、例えば、Nb25、Ta25、WO3、MoO3、ZnTa26、ZnWO4、ZnMoO4等の化合物相を生成するため導電性を悪化させることになる。
【0036】
(3)Sn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法
次に、本発明に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0037】
Sn−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法は、酸化物焼結体を構成する原料粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合しかつ湿式粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する「造粒粉末製造工程」と、得られた造粒粉末を加圧成形して成形体を製造する「成形体製造工程」と、得られた成形体を焼成炉で焼成して焼結体を製造する「焼結体製造工程」とで構成されている。
【0038】
「造粒粉末製造工程」
ZnO粉末とSnO2粉末、Ti、Ge、Bi、Ce、Gaから選ばれた少なくとも1種の第1添加元素Mを含有する酸化物粉末、Nb、Ta、W、Moから選ばれた少なくとも1種の第2添加元素Xを含有する酸化物粉末を原料粉末とする。
【0039】
第1添加元素Mを含有する酸化物粉末としては、例えば、TiO2粉末、GeO2粉末、Bi23粉末、CeO2粉末、Ga23粉末等を使用することができる。
【0040】
第2添加元素Xを含有する酸化物粉末としては、例えば、Nb25粉末、Ta25粉末、WO3粉末、MoO3粉末等を使用することができる。
【0041】
原料粉末濃度が50質量%以上80質量%以下、好ましくは60質量%以上70質量%以下となるように、上記原料粉末を、純水、有機バインダー、分散剤と混合し、90%粒径(D90)が0.5μm以上2μm以下となるまで繰り返し湿式粉砕してスラリーを調製する。特許文献3では平均粒径(D50)を1μm以下としている(特許文献3の段落0047参照)が、SnO2粒子はZnO粒子と比較して粉砕され難く、SnO2の大粒子が未粉砕で残った場合に焼結性に影響を及ぼすことが考えられる。このため、90%粒径(D90)をなるべく小さくすることが好ましい。
【0042】
スラリー中における粉末の粒径が小さいと、「焼結体製造工程」において、第1添加元素と第2添加元素を固溶した微細なZn2SnO4結晶粒が生成し、この結晶粒の「粒界拡散」が活発なため、結晶粒同士の結合が強くなると推測される。90%粒径(D90)が2μmを超えると、後の「焼結体製造工程」において結晶粒の「粒界拡散」が阻害され、結晶粒同士の結合は強くならない。結果として酸化物焼結体の平均結晶粒径は10μm未満となり、高導電性を維持することはできない。また、90%粒径(D90)が0.5μm未満の場合は、粉砕媒体の摩耗による不純物混入が多くなり、製造された酸化物焼結体をターゲットにして成膜した際に所望とする膜特性が得られなくなる。また、粉砕に長時間を要するので生産性が低下する。尚、90%粒径(D90)は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0043】
このようにして得られたスラリーを乾燥しかつ造粒して造粒粉末を製造する。
【0044】
「成形体製造工程」
特許文献2の段落0036に記載されているように、「成形体製造工程」で製造される成形体は、酸化物焼結体がスパッタリングターゲットとして使用される場合と蒸着用タブレットとして使用される場合とでその製造条件が相違し、スパッタリングターゲットとして使用される場合は、上記造粒粉末を用いて98MPa(1.0ton/cm2)以上の圧力で加圧成形を行い成形体とする。98MPa未満で成形を行うと、粒子間に存在する空孔を除去することが困難となり、焼結体の密度低下をもたらす。また、成形体の強度も低くなるため、安定した製造が困難となる。ここで、上記加圧成形は、高圧力が得られる冷間静水圧プレスCIP(Cold Isostatic Press)を用いることが望ましい。
【0045】
「焼結体製造工程」
焼結炉内を常圧条件下にして上記成形体を焼成することでSn−Zn−O系酸化物焼結体を得ることができる。
【0046】
[成形体の焼成条件]
(炉内雰囲気)
焼結炉内における酸素濃度が70体積%以上の雰囲気中において、成形体を焼成することが好ましい。これは、ZnO、SnO2やZn2SnO4化合物の拡散を促進させ、焼結性を向上させると共に導電性を向上させる効果があるためである。高温域では、ZnOやZn2SnO4の揮発を抑制する効果もある。
【0047】
一方、焼結炉内における酸素濃度が70体積%未満の場合、ZnO、SnO2やZn2SnO4化合物の拡散が衰退する。更に、高温域では、Zn成分の揮発が促進し、結晶粒同士の結合が弱くなって、粒界剥離が発生するとともに、緻密な焼結体を作製することができない。
【0048】
(焼結温度)
1200℃以上1450℃以下とすることが好ましい。焼結温度が1200℃未満の場合、温度が低過ぎて、ZnO、SnO2、Zn2SnO4化合物における焼結の「粒界拡散」が進まない。結晶粒成長も進まないので平均結晶粒径は10μm未満となる。
【0049】
一方、1450℃を超えた場合、「粒界拡散」が促進されて焼結は進むが、たとえ、酸素濃度が70体積%以上の炉内で焼成しても、Zn成分の揮発を抑制することができず、結晶粒同士の結合が弱くなって、粒界剥離が発生すると共に、焼結体内部に空孔を大きく残してしまうことになる。更に、結晶粒成長が過度に進行して平均結晶粒径は50μmを超えてしまうため、クラックの発生を阻止する粒界が減少し、ピン止め効果が小さくなって焼結体が割れ易くなる。
【0050】
(保持時間)
10時間以上30時間以内とすることが好ましい。10時間未満であると、焼結が不完全なため、歪や反りの大きい焼結体になると共に、「粒界拡散」が高まらず、焼結が進まない。この結果、緻密な焼結体を作製することができない。一方、30時間を超えた場合、特に時間の効果が得られないため、作業効率の悪化やコスト高の結果を招く。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明に係る技術的範囲が下記実施例の記載内容に限定されることはなく、本発明に適合する範囲で変更を加えて実施することも当然のことながら可能である。
【0052】
[実施例1]
平均粒径10μm以下のSnO2粉と、平均粒径10μm以下のZnO粉と、第1添加元素Mとして平均粒径20μm以下のGeO2粉、および、第2添加元素Xとして平均粒径20μm以下のTa25粉を用意した。
【0053】
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)が0.33となるようにSnO2粉とZnO粉を調合し、第1添加元素Mの原子数比Ge/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.003、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.003となるように、GeO2粉とTa25粉を調合した。
【0054】
そして、調合された原料粉末と純水、有機バインダー、分散剤を、原料粉末濃度が60質量%となるように混合タンクにて混合した。
【0055】
更に、硬質ジルコニアボールが投入されたビーズミル装置(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ型)を用いて10時間の湿式粉砕を行った。そして、得られたスラリーをサンプリングし、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD−2200)を用いて湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定した結果、90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0056】
次に、得られたスラリーをスプレードライヤー装置(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)にて噴霧および乾燥し造粒粉末を得た。
【0057】
次に、得られた造粒粉末をゴム型へ充填し、冷間静水圧プレス機(株式会社神戸製鋼所製、EA10064)で294MPa(3ton/cm2)の圧力をかけて成形し、得られた直径約250mmの成形体を常圧焼成炉(丸詳電器株式会社製、BIGMAN)に投入し、700℃まで焼結炉内に空気(酸素濃度21体積%)を導入した。焼成炉内の温度が700℃になったことを確認した後、酸素濃度が100体積%となるように酸素を導入し、1400℃まで昇温させ、かつ、1400℃で15時間保持した。
【0058】
保持時間が終了した後は酸素導入を止め、冷却を行い、実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を得た。
【0059】
得られたSn−Zn−O系酸化物焼焼結体の一部を切断し、密度をアルキメデス法で測定したところ、相対密度は93%であり高い密度を有していた。また、上記焼結体の別の一部を切断し、研磨した後、焼結体破断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を撮影し、得られたSEM撮像図から平均結晶粒径を測定したところ22μmであった。同様に、上記焼結体の別な一部を破断し、焼結体破断面のSEM撮像図から粒内割れ部分を色塗りして面積を求めたところ粒内割れ面積率は91%で、粒界剥離は少なかった。更に、焼結体の別な一部を切断し、乳鉢で粉砕した粉末をXRDにより分析したところ、Zn2SnO4のみが検出された。
【0060】
次に、実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体を、平面研削盤(日立ビアメカニクス株式会社製、BHL−S40SNSP)とグライディングセンター(株式会社森精機製作所製、VSC60/40)を用いて直径200mm、厚さ5mmの板材に加工し、かつ、「ろう材」となる金属インジウムを用いて加工された酸化物焼結体とバッキングプレートを超音波はんだにより接合し、実施例1に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0061】
得られた実施例1に係るスパッタリングターゲットの外観を検査したところ、割れは認められなかった。また、ターゲットの比抵抗を4探針法で測定したところ0.08Ω・cmであり、高い導電性を有していた。
【0062】
これ等の結果から、実施例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は高密度(相対密度93%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が91%、かつ、大きな平均結晶粒径(22μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果を[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0063】
[実施例2]
湿式粉砕の時間を5時間とした以外は、実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0064】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は2μmであった。
【0065】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例2に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0066】
尚、実施例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は90%、平均結晶粒径は15μm、粒内割れ面積率は52%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.1Ω・cmであった。
【0067】
これ等の結果から、実施例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度90%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が52%、かつ、大きな平均結晶粒径(15μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0068】
[実施例3]
実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0069】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.1μmであった。
【0070】
この造粒粉末を用い、焼結温度を1450℃、保持時間を30時間とした以外は実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例3に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0071】
尚、実施例3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は94%、平均結晶粒径は48μm、粒内割れ面積率は90%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.07Ω・cmであった。
【0072】
これ等の結果から、実施例3に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度94%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が90%、かつ、大きな平均結晶粒径(48μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0073】
[実施例4]
実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0074】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0075】
この造粒粉末を用い、焼結温度を1200℃、保持時間を30時間とした以外は実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例4に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0076】
尚、実施例4に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は88%、平均結晶粒径は11μm、粒内割れ面積率は58%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.5Ω・cmであった。
【0077】
これ等の結果から、実施例4に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度88%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が58%、かつ、大きな平均結晶粒径(11μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0078】
[実施例5]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)を0.15とした以外は、実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0079】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は0.5μmであった。
【0080】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例5に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0081】
尚、実施例5に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は96%、平均結晶粒径は18μm、粒内割れ面積率は89%、XRD分析結果は、Zn2SnO4が51質量%、ZnOが49質量%であり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.02Ω・cmであった。
【0082】
これ等の結果から、実施例5に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度96%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が89%、かつ、大きな平均結晶粒径(18μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0083】
[実施例6]
SnとZnの原子数比Sn/(Sn+Zn)を0.6としたこと以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0084】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.5μmであった。
【0085】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例6に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0086】
尚、実施例6に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は95%、平均結晶粒径は15μm、粒内割れ面積率は90%、XRD分析結果は、Zn2SnO4が51質量%、SnO2が49質量%であり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.03Ω・cmであった。
【0087】
これ等の結果から、実施例6に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度95%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が90%、かつ、大きな平均結晶粒径(15μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0088】
[実施例7]
第1添加元素Mの原子数比Ge/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.0001、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.0001となるようにGeO2粉とTa25粉を調合したこと以外は、実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0089】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は0.8μmであった。
【0090】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例7に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0091】
尚、実施例7に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は86%、平均結晶粒径は42μm、粒内割れ面積率は74%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.8Ω・cmであった。
【0092】
これ等の結果から、実施例7に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度86%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が74%、かつ、大きな平均結晶粒径(42μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0093】
[実施例8]
第1添加元素Mの原子数比Ge/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.04、第2添加元素Xの原子数比Ta/(Sn+Zn+Ge+Ta)が0.1となるように、GeO2粉とTa25粉を調合したこと以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0094】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.3μmであった。
【0095】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例8に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0096】
尚、実施例8に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は95%、平均結晶粒径は22μm、粒内割れ面積率は90%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.5Ω・cmであった。
【0097】
これ等の結果から、実施例8に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度95%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が90%、かつ、大きな平均結晶粒径(22μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0098】
[実施例9]
実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0099】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0100】
この造粒粉末を用い、焼結温度を1450℃、保持時間を10時間、酸素濃度を70%とした以外は実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例9に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0101】
尚、実施例9に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は90%、平均結晶粒径は38μm、粒内割れ面積率は73%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.2Ω・cmであった。
【0102】
これ等の結果から、実施例9に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度90%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が73%、かつ、大きな平均結晶粒径(38μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0103】
[実施例10]
第1添加元素MをTiO2とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0104】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.3μmであった。
【0105】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例10に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0106】
尚、実施例10に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は90%、平均結晶粒径は22μm、粒内割れ面積率は78%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.7Ω・cmであった。
【0107】
これ等の結果から、実施例10に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度90%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が78%、かつ、大きな平均結晶粒径(22μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0108】
[実施例11]
第1添加元素MをBi23とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0109】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0110】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例11に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0111】
尚、実施例11に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は93%、平均結晶粒径は20μm、粒内割れ面積率は85%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.11Ω・cmであった。
【0112】
これ等の結果から、実施例11に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度93%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が85%、かつ、大きな平均結晶粒径(20μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0113】
[実施例12]
第1添加元素MをCeO2とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0114】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.1μmであった。
【0115】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例12に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0116】
尚、実施例12に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は94%、平均結晶粒径は28μm、粒内割れ面積率は82%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.07Ω・cmであった。
【0117】
これ等の結果から、実施例12に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度94%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が82%、かつ、大きな平均結晶粒径(28μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0118】
[実施例13]
第1添加元素MをGa23とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0119】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0120】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例13に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0121】
尚、実施例13に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は89%、平均結晶粒径は30μm、粒内割れ面積率は85%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.4Ω・cmであった。
【0122】
これ等の結果から、実施例13に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度89%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が85%、かつ、大きな平均結晶粒径(30μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0123】
[実施例14]
第2添加元素XをNb25とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0124】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0125】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例14に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0126】
尚、実施例14に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は89%、平均結晶粒径は31μm、粒内割れ面積率は86%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.15Ω・cmであった。
【0127】
これ等の結果から、実施例14に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度89%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が86%、かつ、大きな平均結晶粒径(31μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0128】
[実施例15]
第2添加元素XをWO3とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0129】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0130】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例15に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0131】
尚、実施例15に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は86%、平均結晶粒径は16μm、粒内割れ面積率は72%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.45Ω・cmであった。
【0132】
これ等の結果から、実施例15に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度86%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が72%、かつ、大きな平均結晶粒径(16μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0133】
[実施例16]
第2添加元素XをMoO3とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0134】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は1.2μmであった。
【0135】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して実施例16に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0136】
尚、実施例16に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は87%、平均結晶粒径は42μm、粒内割れ面積率は68%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットに割れはなく、比抵抗は0.3Ω・cmであった。
【0137】
これ等の結果から、実施例16に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は、高密度(相対密度87%)で、Zn2SnO4を主成分としながら粒内割れ面積率が68%、かつ、大きな平均結晶粒径(42μm)を有している。このため、上記酸化物焼結体がバッキングプレートにボンディング(接合)された際、粒界剥離による導電性の悪化が起こらず、当該焼結体を加工して得られるスパッタリングターゲットは割れのない良好なものであった。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0138】
[比較例1]
湿式粉砕時間を3時間とした以外は実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。
【0139】
そして、実施例1と同様、湿式粉砕された原料粉末の粒度分布を測定したところ90%粒径(D90)は2.4μmであった。
【0140】
この造粒粉末を用い、実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して比較例1に係るスパッタリングターゲットを作製した。
【0141】
尚、比較例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は91%、平均結晶粒径は8μm、粒内割れ面積率は40%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、ターゲットは割れなかったが、比抵抗は1×106Ω・cm以上であった。
【0142】
比較例1に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体は高密度(相対密度91%)であったが、湿式粉砕した原料粉末の90%粒径(D90)が大きい(2.4μm)ため「粒界拡散」が高まらず、粒成長が進まないことにより結晶粒同士の結合が強くならず、粒界剥離を生じて導電性が悪化(比抵抗が1×106Ω・cm以上)した。この結果についても[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0143】
[比較例2]
実施例1と同様にして造粒粉末を作製した。尚、湿式粉砕した原料粉末の90%粒径は実施例1と同様、1.2μmであった。
【0144】
この造粒粉末を用い、焼結温度を1500℃、保持時間を40時間とした以外は実施例1と同様にしてSn−Zn−O系酸化物焼結体を製造し、かつ、機械加工して比較例2に係るスパッタリングターゲットを作製したところ、ターゲットに割れが発生した。
【0145】
尚、比較例2に係るSn−Zn−O系酸化物焼結体の相対密度は89%、平均結晶粒径は55μm、粒内割れ面積率は93%、XRD分析結果はZn2SnO4のみであり、比抵抗は0.07Ω・cmであった。
【0146】
湿式粉砕した原料粉末の90%粒径(D90)は小さい(1.2μm)が、高温(1500℃)で長時間(40時間)の焼成により上限を超える大きな平均結晶粒径(55μm)となり、機械的強度が下がったことでターゲットに割れが発生した。この結果も[表1−1][表1−2]および[表1−3]に示す。
【0147】
【表1-1】
【0148】
【表1-2】
【0149】
【表1-3】
【産業上の利用可能性】
【0150】
ターゲットに加工される際、本発明のSn−Zn−O系酸化物焼結体はZn2SnO4結晶粒の粒界剥離が起こり難いためターゲットは高い導電率を保持できる。このため、太陽電池やタッチパネルの透明電極等を形成するスパッタリングターゲットとして利用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0151】
1 多角形構造でなく不規則な破断面が表れている結晶粒(粒内割れ)
2 結晶粒子表面の多角形構造が露出した部分(粒界剥離または空孔)
図1