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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-189488(P2019-189488A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/22 20060101AFI20191004BHJP
   C30B 29/30 20060101ALI20191004BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20191004BHJP
【FI】
   C30B15/22
   C30B29/30 B
   C30B15/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-83772(P2018-83772)
(22)【出願日】2018年4月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】榊 昭光
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC37
4G077CF10
4G077EH06
4G077PE04
4G077PE12
4G077PE22
4G077PF55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】坩堝形状の変更を伴うことなく、坩堝の変形量を抑制する単結晶の製造方法の提供。
【解決手段】炉体内の坩堝10に単結晶用原料を入れ、坩堝10を誘導加熱用の高周波誘導コイル50で加熱し単結晶用原料を加熱溶融した後、原料融液に種結晶を接触させて単結晶を製造する単結晶の製造方法において、
高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置と坩堝の底面11との高さ方向における相対位置を第1の相対位置として原料融液を作製する工程と、高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置と坩堝の底面11との高さ方向における相対位置を第2の相対位置として単結晶を育成する工程と、を有する単結晶の製造方法。第1の相対位置における高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置と坩堝の底面11との間の距離は、第2の相対位置における高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置と坩堝の底面11との間の距離よりも長い単結晶の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内の坩堝に単結晶用原料を入れ、該坩堝を誘導加熱用の高周波誘導コイルで加熱し単結晶用原料を加熱溶融した後、原料融液に種結晶を接触させて単結晶を製造する単結晶の製造方法において、
前記高周波誘導コイルのコイル長の中心位置と前記坩堝の底面との高さ方向における相対位置を第1の相対位置として原料融液を作製する工程と、
前記高周波誘導コイルの前記コイル長の前記中心位置と前記坩堝の前記底面との前記高さ方向における相対位置を第2の相対位置として単結晶を育成する工程と、を有する単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第1の相対位置における前記高周波誘導コイルの前記コイル長の前記中心位置と前記坩堝の前記底面との間の距離は、前記第2の相対位置における前記高周波誘導コイルの前記コイル長の前記中心位置と前記坩堝の前記底面との間の距離よりも長い請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記坩堝の上方にはアフターヒーターが設けられ、前記坩堝の前記底面から前記アフターヒーターの上端までの前記高さ方向における距離を100%としたときに、
前記第1の相対位置は、前記高周波誘導コイルの前記コイル長の前記中心位置が、前記坩堝の前記底面から前記アフターヒーターの前記上端までの高さ方向における距離が45%以上55%以下の範囲内に配置されるように設定された位置である請求項1又は2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記原料融液を作製する工程と前記単結晶を育成する工程との間に、前記坩堝を昇降移動させる工程を更に有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記坩堝を昇降移動させる工程と前記単結晶を育成する工程との間に、前記第2の相対位置を維持したまま待機する工程を更に有する請求項4に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶を製造する方法として、チョクラルスキー法(Cz法)に代表される引上げ法が従来から用いられており、例えば、シリコンやサファイアなどの多くの結晶が引上げ法により製造されている。結晶原料の融解には様々な形態があるが、サファイアやタンタル酸リチウムといった酸化物単結晶は高融点のため、イリジウムやタングステン、モリブデン、白金などの高融点金属およびそれらを主成分とする合金を坩堝に用いている。
【0003】
坩堝は生産性と経済性の観点から繰り返し使用する場合が多く、使用回数を重ねた坩堝は加熱と冷却を繰り返すことで変形が生じる。一定の変形量を超えた坩堝は熱分布の対称性が悪化し、形状悪化に伴う対流変化によって単結晶製造時の歩留まりが低下するため、坩堝の交換が必要となる。坩堝交換までの単結晶製造回数が多いほど経済性が高まるため、坩堝変形の抑制が重要となる。
【0004】
坩堝の変形量を抑制する方法として、特許文献1では変形量が大きい部分の厚みを増すことで変形量を抑制しており、強度に優れるとともに変形しにくく、繰り返しの使用に耐えることができるため、ランニングコストを低くすることができる。また、特許文献2では、坩堝底面側の板厚を側面方向よりも薄くして板厚の薄い側面側に変形を逃がすような坩堝構造となっているので、坩堝が横方向に変形しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−214229
【特許文献2】特開2012−250874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来から提案されている方法では、坩堝の構造自体を変更する必要があるため、坩堝に使用する地金重量の増加や、坩堝形状が複雑化することによる加工費の増大など、経済的な負担が大きかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術が有する問題に鑑み、坩堝形状の変更を伴うことなく、坩堝の変形量を抑制する単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る単結晶の製造方法は、炉体内の坩堝に単結晶用原料を入れ、該坩堝を誘導加熱用の高周波誘導コイルで加熱し単結晶用原料を加熱溶融した後、原料融液に種結晶を接触させて単結晶を製造する単結晶の製造方法において、
前記高周波誘導コイルのコイル長の中心位置と前記坩堝の底面との高さ方向における相対位置を第1の相対位置として原料融液を作製する工程と、
前記高周波誘導コイルの前記コイル長の前記中心位置と前記坩堝の前記底面との前記高さ方向における相対位置を第2の相対位置として単結晶を育成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単結晶製造回数を重ねても坩堝の変形量を抑制することが可能となり、経済性高く単結晶を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る単結晶の製造方法に用いられる結晶育成装置の一例を示した概要図である。
図2】原料融解工程における坩堝と高周波誘導コイルとの相対位置を説明するための図である。
図3】単結晶育成工程における坩堝と高周波誘導コイルとの相対位置の一例を示した図である。
図4】比較例2の結晶原料融解時の坩堝と高周波誘導コイルとの位置関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係る単結晶の製造方法を実施するのに好適は結晶育成装置の一構成例について以下に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る単結晶の製造方法に用いられる結晶育成装置の一例を示した概要図である。図1に示されるように、結晶育成装置は、坩堝10と、坩堝台20と、坩堝軸21と、坩堝軸駆動モータ22と、リフレクタ30と、アフターヒーター40と、高周波誘導コイル50と、断熱材60と、炉体70と、引き上げ軸80と、種結晶保持ジグ81と、引上げ軸駆動モータ82と、重量測定部90と、温度計100と、制御部110とを備える。
【0014】
また、坩堝10内には、原料融液140が貯留され、種結晶保持ジグ81に保持された種結晶120、及び引上げ軸80により引き上げられた単結晶130が示されている。
【0015】
結晶育成装置において、坩堝10は坩堝台20の上に載置される。坩堝台20の下面には、坩堝軸21が接続され、坩堝軸駆動モータ22により回転可能に構成されている。
【0016】
坩堝10の上方には、リフレクタ30を介して、アフターヒーター40が設置されている。坩堝10、リフレクタ30及びアフターヒーター40の周囲を囲むように高周波誘導コイル50が設けられている。更に、坩堝10、リフレクタ30、アフターヒーター40及び高周波誘導コイル50を取り囲むように断熱材60が設置されている。また、断熱材60の外側には炉体70が設けられ、断熱材60の周囲全体を覆っている。
【0017】
坩堝10の上方には、引き上げ軸80が設けられている。引き上げ軸80は、下端に種結晶保持ジグ81を有し、引き上げ軸駆動モータ82により昇降可能に構成されている。引上げ軸80の上端には、重量測定部90が設けられ、単結晶130の重量が測定可能に構成されている。更に、炉体70の外部に、制御部110が設けられる。
【0018】
なお、図示していないが、高周波誘導コイル50及び結晶育成装置全体に電力を供給するための電源が炉体70の外部に設けられる。
【0019】
次に、個々の構成要素について説明する。
【0020】
坩堝10は、原料融液140を貯留保持し、単結晶130を育成するための容器である。結晶原料は、結晶化する金属等が溶融した原料融液140の状態で保持される。坩堝10の材質は、結晶原料にもよるが耐熱性のある白金やイリジウム、白金ロジウム等で作製される。
【0021】
坩堝台20は、坩堝10を下方から支持する載置台として設けられる。坩堝台20は、高周波誘導コイル50の加熱に耐え得る十分な耐熱性及び坩堝10を支持する耐久性を有すれば、種々の材料から構成されてよい。
【0022】
坩堝軸21は、坩堝台20を昇降させるための昇降機構であり、坩堝軸21の水平方向の回転を昇降動作に変換するボールねじ等の昇降機構を備える。即ち、坩堝軸21が回転することにより、ボールねじ等により坩堝台20が上下動可能に構成されている。
【0023】
坩堝軸駆動モータ22は、坩堝軸21を回転させる回転駆動機構であり、坩堝台20の上下動により坩堝台20に載置された坩堝10が昇降するように構成されている。
【0024】
リフレクタ30は、加熱された坩堝10内の熱を反射して坩堝10内に戻すための熱反射手段であり、坩堝10の側面の上端の周縁部を覆うように、坩堝10の側面の上端に設けられる。よって、リフレクタ30は、円環形状を有する。リフレクタ30も、金属材料から構成される。リフレクタ30も、種々の金属材料から構成されてよいが、例えば、坩堝10と同様に、耐熱性に優れたイリジウム、白金等で構成されてもよい。
【0025】
育成される単結晶130は、単結晶130の引き上げが進むにつれて坩堝10から遠ざかって行く為、単結晶130の温度分布が大きくなり単結晶130の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、坩堝10の上方に上述のアフターヒーター40を設置して適切な温度分布を維持する構成としている。
【0026】
アフターヒーター40は、坩堝10から引き上げられた単結晶を加熱するための加熱手段である。アフターヒーター40は、リフレクタ30上に設けられ、円筒形状を有する。リフレクタ30は薄いので、高さ方向においては、実質的に、坩堝10の上方に連続的にアフターヒーター40が設けられている構成となる。
【0027】
即ち、坩堝10内に充填した単結晶用原料を加熱することにより融解し、原料融液140を作製することができるが、保温性の向上や温度勾配の調整のため、筒型のアフターヒーター40を坩堝1の上方に配置する。
【0028】
アフターヒーター40も、金属材料から構成される。アフターヒーター40も、種々の金属材料から構成されてよいが、例えば、坩堝10と同様に、耐熱性に優れたイリジウム、白金等で構成されてもよく、坩堝10と同一の材料で構成されてもよい。
【0029】
高周波誘導コイル50は、坩堝10、リフレクタ30及びアフターヒーター40を加熱するための手段であり、坩堝10、リフレクタ30及びアフターヒーター40を囲むように配置する。高周波誘導コイル50は、坩堝10、リフレクタ30及びアフターヒーター40を誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。
【0030】
高周波誘導コイル50は上下方向に駆動可能に構成されてもよい。これにより、坩堝10に対する高周波誘導コイル50の相対位置を任意に変更可能とすることができる。また、プログラム制御により、一定速度での駆動も可能である。
【0031】
後に詳細に説明するが、結晶育成装置は、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を変更可能に構成される。上述のように、坩堝台20を上下動可能に構成してもよいし、高周波誘導コイル50を上下動可能に構成してもよい。また、坩堝台20と高周波誘導コイル50の双方を上下動可能に構成してもよい。即ち、本発明の実施形態に係る単結晶の製造方法に用いられる結晶育成装置は、坩堝台20及び高周波誘導コイル50の少なくとも一方が昇降可能に構成される。
【0032】
なお、高周波誘導コイル50と坩堝10、アフターヒーター40の高さの比は、アフターヒーターの高さを1としたとき、高周波誘導コイル50を3.5〜4.5の高さ、坩堝10の高さを2.5〜3.5の割合とすることができる。
【0033】
断熱材60は、坩堝10の周囲を覆い、熱が外部に放出されるのを抑制するための手段である。
【0034】
炉体70は、坩堝10及びアフターヒーター40の高周波誘導コイル50による発熱を内部に保持し、外部への放出を防ぐ役割を果たす。炉体70は、耐熱性の高い材料で構成される。炉体70は、天井面に開口61を有し、引き上げ軸80を挿入可能に構成される。
【0035】
引き上げ軸80は、種結晶120を保持し、坩堝10に保持された原料融液140の表面に種結晶120を接触させ、回転しながら単結晶130を引き上げるための手段である。引き上げ軸80は、種結晶120を保持する種結晶保持ジグ81を下端部に有するとともに、回転機構であるモータを備えた引き上げ軸駆動モータ82を備える。なお、モータは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
【0036】
重量測定部90は、単結晶130の重量を測定するための重量測定手段である。
【0037】
温度計100は、坩堝10の底面の温度を測定するための温度測定手段である。温度計100は、坩堝10の底面の温度を測定することにより、坩堝10内の原料が溶融して原料融液140となったことを知るための手段とし機能する。図1においては、温度計100が、坩堝台20の中央部に埋め込まれるように配置された構成が示されているが、温度計100は、坩堝10の底面温度を測定できれば、種々の配置及び構成とすることができる。
【0038】
制御部110は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御部110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integrated Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
【0039】
結晶育成装置には、図1に示した部材以外にも単結晶の育成に必要な各種部材を設けることができる。例えば、炉体70内の雰囲気を制御するため、気体供給手段や、排気手段、圧力測定手段等を設けることができる。また、加熱体による出力等を制御するため、炉体70内の任意の場所に温度測定手段を設けることや、炉体70内の原料融液140や、種結晶の状態を確認するための観察窓等を設けることもできる。
【0040】
次に、本発明の実施形態に係る単結晶の製造方法について説明する。上述の図1に示した結晶育成装置を用いた例を挙げて説明する。
【0041】
本実施形態に係る単結晶の製造方法においては、原料溶融時と結晶育成時において、坩堝10と高周波誘導コイル50との高さ方向における相対位置を変化させる。具体的には、坩堝10の底面と、高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置との相対位置を変化させる。即ち、結晶育成時は、一定の品質を有する単結晶を製造する観点から、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置というのは、既存のプロセスからある程度定まって標準化されている。
【0042】
一方、原料溶融時は、原料を溶融できる限り、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置に特定の条件というものは存在しない。即ち、具体的な単結晶の製造プロセスを実施する以前の準備工程であるから、詳細なプロセス条件というものは存在しない。よって、原料溶融時には、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を単結晶の育成時と必ずしも同一とする必要は無い。
【0043】
坩堝10は、加熱と冷却を繰り返すことで、変形を生じ得る。このような変形を抑制するためには、坩堝10に加わる加熱量を少しでも低減させることが好ましい。そこで、本実施形態に係る単結晶の製造方法では、原料溶融時において、高周波誘導コイル50と坩堝10との距離を大きくし、坩堝10への加熱量を低減させ、坩堝10への負荷を低減させる。
【0044】
より詳細には、本発明者らは、かかる従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ね、坩堝側面の発熱量を制御することで坩堝10の変形量が抑制されることを見出した。
【0045】
単結晶育成では、結晶育成時に最適な温度環境となるように、坩堝10と高周波誘導コイル50の位置を調整している。坩堝10と高周波誘導コイル50の位置関係を調整することで、坩堝10内の溶融原料の対流や、坩堝上方の空間の温度勾配を単結晶育成に最適な条件に調整でき、歩留まり良く製品の製造が可能となる。
【0046】
坩堝10の発熱量は誘導加熱時に生じる電流の大きさで決まる。巻き線の間隔が等間隔の高周波誘導コイル50の場合、坩堝10やアフターヒーター40を配置しない状態で最も磁束が集中するのは、巻き始めから巻き終わりにかけての中央部分、すなわちコイル長の半分の位置である。単結晶育成では坩堝10と高周波誘導コイル50の中心軸を合わせて、高周波誘導コイル50の位置を坩堝10に対して上下させることで坩堝10の発熱量を調整している。通常、コイル中央と坩堝中央をそろえて配置すると、坩堝底の端部に磁束が集中し坩堝下部が高温になりやすい。
【0047】
単結晶育成時は適度な対流と温度勾配が求められるため、一般的に坩堝の発熱量は、坩堝底部に近いほど大きく、坩堝上端に近いほど小さい。上述の条件を達成できるような坩堝と高周波誘導コイルの配置の場合、温度が低い坩堝上部と比較して、温度が高い坩堝下部は変形しやすい。
【0048】
ワークコイルに対して結晶育成を行うのに適した坩堝位置で結晶融解を行うと、坩堝の下部に磁束が集中し坩堝の下部が必要以上に高温となる。この状態では、高温で柔らかくなった坩堝の下部に原料融液の重量が加わり、坩堝の変形を招いてしまう。そこで、結晶原料融解時にワークコイルに対して坩堝の位置を下げて坩堝上部を加熱し原料を融解させる方法を用いることで、坩堝下部の過剰な加熱を防ぎ変形が抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0049】
図2は、原料溶融時、即ち原料融解工程における坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を説明するための図である。なお、図2においては、高さ方向における相対位置について説明するため、理解を容易にすべく、坩堝10の内側上方ではなく、坩堝10の直上にアフターヒーター40が設けられている構成を示している。
【0050】
図1で説明した構成を有する結晶育成装置により単結晶を育成する場合、まず、坩堝10を高周波誘導コイル50により加熱して充填した単結晶用原料を融解し、原料融液140を作製する。本実施形態に係る単結晶の製造方法においては、この原料融液を作製する際、高周波誘導コイル50のコイル長Lの半分の位置(0.5L)が、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%(H)とした際の45%の位置(0.45H)以上、55%(0.55H)以下の範囲内に入るように配置する。
【0051】
図2においては、高周波誘導コイル50のコイル長の中心位置(0.5L)が、坩堝10の底面11からアフターヒーター40の上端41までの高さをHとしたときに、丁度半分の高さとなる0.5Hの位置と一致するように配置された構成が示されている。
【0052】
図2に示されるように、高周波誘導コイル50のコイル長(コイルの高さ)の中心位置(0.5L)が、坩堝10の底面11とアフターヒーター40の上端41の間の高さHの45%(0.45H)から55%(0.55H)の範囲内にあるような相対位置を保った状態で、高周波誘導コイル50の加熱により、坩堝10内の原料を溶融し、原料融液140を生成する。原料融液140の状態は、坩堝10の底面を測定する温度計100により知ることができる。即ち、原料が溶融して原料融液140となる温度を予め把握しておき、それよりも高い温度に目標温度を設定しておく。つまり、確実に原料が溶融し、原料融液140が作製された状態となるように坩堝10の底面の目標温度を設定しておく。
【0053】
なお、原料融解工程における坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を、第1の相対位置と呼ぶこととする。
【0054】
図3は、単結晶育成工程における坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置の一例を示した図である。単結晶育成工程に入る前に、坩堝台20又は高周波誘導コイル50を移動させ、坩堝10と高周波誘導コイル50の高さ方向における相対位置を変化させる。具体的には、例えば、図3に示すような相対位置に変化させる。図3においては、高周波誘導コイル50のコイル長Lにおける中心位置又は半分の位置(0.5L)に、坩堝10の底面11からアフターヒーター40の上端41までの高さ又は距離をHとし、坩堝10の底面11を0%、アフターヒーター40の上端41を100%としたときに、37%の位置(0.37H)が配置されるような相対位置が一例として示されている。
【0055】
図3に示す相対位置は、坩堝10の底面11と高周波誘導コイル50との間の高さ方向における距離が、図2よりも短くなった状態である。単結晶育成工程では、単結晶130を高品質に育成するための条件が確立しており、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置も条件が確立している場合が多い。よって、単結晶育成工程では、そのような確立した条件に従い、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を設定する。一方、原料融解工程の条件は、単結晶130の品質に直接的に影響を与えるものではないため、原料を溶融させて溶融原料140を得るという目的を達成できれば、坩堝10と高周波誘導コイル50との距離を長くして坩堝10への熱負荷を低減させても問題無いため、原料融解工程と単結晶育成工程とで異なる相対位置の設定を行う。
【0056】
なお、単結晶を育成する際の坩堝10とアフターヒーター40との相対位置は、用途に応じて種々の配置とすることができる。図3に示した0.37Hの位置は、飽くまで一例に過ぎず、用途及びプロセス条件に応じて適切な相対位置を定めることができる。
【0057】
このように、単結晶の育成を行う際の坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置を第2の相対位置と呼ぶと、第1の相対位置で原料を融解した後、第2の相対位置に設定されるように坩堝台20及び高周波誘導コイル50の少なくとも一方を移動させる。そして、第2の相対位置を保った状態で、所定時間待機する。この待機時間は、原料融液140の温度状態が所定の温度状態となるのを待機するための時間であり、これにより、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対移動による原料融液140の温度の変動が消滅するのを待つ。なお、このような待機時間は例えば2〜5時間程度に設定される。
【0058】
次いで、引上げ軸80を下げ、種結晶保持ジグ81の先端に固定した種結晶120を原料融液140に接触させてシーディングを実施できる。種結晶120を原料融液140に接触させるシーディング作業では、原料融液140に種結晶120を接触させた後、所定の速度で種結晶120を引上げる。引上げ速度は所定の単結晶130の径を得るために任意の値を取れるが、1mm/hrから20mm/hrの引上げ速度が好ましい。
【0059】
そして、シーディング作業を実施した後は、引上げ軸80を操作して種結晶120を回転させながら上昇させることで、単結晶130を育成することができる。
【0060】
所望の大きさの単結晶13が得られた後に結晶育成を終了するために、単結晶13と原料融液14を切離す操作を行う。この操作は、引上げ軸7を上昇させるか、坩堝軸2を下降、又はその両方により実施される。原料融液140と育成した単結晶130とを切り離した後、冷却し、炉体70内から育成した単結晶130を取出すことができる。
【0061】
ただし、坩堝軸21の駆動を備えた装置は高価となるため経済的でないため、切離し操作においては、引上げ軸80の上昇のみ、又は坩堝軸21の下降を組み合わせて実施してもよい。
【0062】
次に、本実施形態に係る単結晶の製造方法の原料融解工程における設定時間の例を従来例と比較しつつ説明する。
【0063】
表1は、本実施形態に係る単結晶の製造方法の原料融解工程における設定時間の一例を従来例との比較において示した表である。
【0064】
【表1】
表1において、原料融解工程と坩堝移動工程(待機工程も含む)における設定時間の一例が示されている。設定時間としては、原料融解工程においては、昇温時間、目標温度到達時間、待機(保持)時間、原料融解合計時間が示されており、坩堝移動工程においては、坩堝移動時間と坩堝移動後待機時間が項目として示されている。また、表1の左側の欄は従来例であり、右側は本実施形態に係る単結晶製造方法の例である。なお、従来例とは、原料融解工程と単結晶育成工程における坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置が同一である例であり、本実施形態に係る単結晶の製造方法における例は、原料融解工程における坩堝10と高周波誘導コイルとの相対位置と、単結晶育成工程における坩堝10と高周波誘導コイルとの相対位置とが異なる例である。
【0065】
昇温時間は、出力ゼロの状態から、融解時に設定した高周波出力まで昇温する際の所要時間であり、従来例は1時間、本実施形態では0.75時間となっており、昇温時間をやや短く設定している。
【0066】
目標温度到達時間は、坩堝10の底面11の温度が上昇しきったポイントを意味し、例えば、ともに7.5時間に設定される。
【0067】
融解時間は、原料全量が融液に溶けたタイミングであり、従来例も本実施形態も7時間に設定される。
【0068】
待機(保持)時間は、目標温度到達後、シーディング温度まで調整する時間であり、従来例では2.5時間、本実施形態では3.5時間に設定され、例えば、本実施形態の方が1時間長く設定される。これは、坩堝10と高周波誘導コイル50との間の相対位置の変化による変動を考慮したものであり、温度変動が収まるまで十分な時間を確保すべく、本実施形態における待機時間が従来例よりも長く設定されている。
【0069】
原料融解合計時間は、目標温度到達時間と待機時間の合計時間となり、待機時間が1時間長い分、本実施形態の方が従来例よりも1時間長い11時間となり、従来例は10時間となる。
【0070】
坩堝移動工程においては、例えば、本実施形態における坩堝移動時間が0.15時間、つまり9分に設定される。なお、坩堝10の移動速度は、例えば、5mm/分に設定される。従来例は、坩堝10と高周波誘導コイル50との相対位置は変化させないので、坩堝移動時間は設定されない。
【0071】
坩堝移動後待機時間は、坩堝10が移動後に待機する時間であり、例えば、3.35時間に設定される。この時間で、原料融液140の温度が一定になるのを待つ。なお、坩堝移動時間と坩堝移動待機時間の合計は3.5時間であり、原料融解工程における3.5時間と同一である。これは、坩堝10の移動と待機時間は、原料融解工程の待機時間に含まれていることを意味し、坩堝10の移動は、原料溶解の待機時間中に行うことを意味する。
【0072】
よって、坩堝10を移動させる時間が加わっても、原料融解工程の時間が従来よりも大幅に長くなる訳ではなく、1時間延びる程度である。1時間程度であれば、単結晶育成工程の時間を1時間短くしても、全体のスループットに大きな影響は与えない。よって、全体としては、スループットに影響を与えることなく坩堝10への加熱量を低減させることができる。
【0073】
なお、表1の時間は、飽くまで一例として挙げた時間であり、単結晶の種類、結晶育成装置の構造の相違等により、表1に挙げられた時間は、用途に応じて種々変更可能である。
【0074】
このように、本実施形態に係る単結晶の製造方法によれば、原料融解時には坩堝10と高周波誘導コイル50との相対距離を長くし、坩堝10への加熱負荷を低減し、坩堝10の劣化を抑制することができる。また、単結晶の育成時間への大きな影響は無く、スループットを低下させること無く坩堝10を長寿命化することができる。
【実施例】
【0075】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。図2に実施例1〜3、図3に比較例1、図4に比較例2の結晶原料融解時の坩堝10と高周波誘導コイル50の位置関係を示す。なお、以下の説明において、理解の容易のため、今までの実施形態で説明した構成要素に対応する構成要素には同一の参照符号を付して説明する。
【0076】
(実施例1)
図1の構成の結晶装置を用いてタンタル酸リチウム単結晶の育成を実施した。高周波誘導コイル50のコイル長L(400mm)の半分の位置(0.5L)に、坩堝10の長さ(250mm)とアフターヒーター40の長さ(100mm)の合計長さH(350mm)の半分の位置(0.5H)を配置した(第1の相対位置)。坩堝10中にタンタル酸リチウム粉末を充填して、高周波誘導コイル50を作動させて原料融液140を作製した。原料融液140を作製後、高周波誘導コイル50の半分の位置(0.5L)が、結晶育成に最適な温度勾配となる第2の相対位置、つまり、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%とした際の37%の位置(0.37H)となるように坩堝台20を移動させた。
【0077】
上記条件で単結晶育成を100回繰り返した結果、坩堝最小径に対する坩堝最大径は106%であった。
【0078】
(実施例2)
原料融液140を作製する際、高周波誘導コイル50のコイル長Lの半分の位置(0.5L)に、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%とした際の45%の位置(0.45H)を配置した点以外は、実施例1と同様に単結晶育成を行った。
【0079】
上記条件で単結晶育成を100回繰り返した結果、坩堝最小径に対する坩堝最大径は108%であった。
【0080】
(実施例3)
原料融液140を作製する際、高周波誘導コイル50のコイル長Lの半分の位置(0.5L)に、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%とした際の55%の位置(0.55H)を配置した点以外は、実施例1と同様に単結晶育成を行った。
【0081】
上記条件で単結晶育成を100回繰り返した結果、坩堝最小径に対する坩堝最大径は106%であった。
【0082】
(比較例1)
高周波誘導コイル50のコイル長Lの半分の位置(0.5L)に、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%とした際の37%の位置(0.37H)を配置し、結晶原料融解時と結晶育成時で高周波誘導コイル50と坩堝10の位置関係は変化させない点以外は、実施例1と同様に単結晶育成を行った。
【0083】
上記条件で単結晶育成を100回繰り返した結果、坩堝最小径に対する坩堝最大径は114%であった。変形量が大きいため、坩堝10の形状を修正するべく、補修加工を行った。
【0084】
(比較例2)
図4に示されるように、高周波誘導コイル50のコイル長Lの半分の位置(0.5L)に、坩堝10の底面11を0%とし、アフターヒーター40の上端41を100%とした際の60%の位置(0.6H)を配置した点以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0085】
上記条件では、坩堝10の底部の原料が融け残ってしまい、結晶育成が開始できなかった。
【0086】
このように、本実施例によれば、本実施形態に係る単結晶の製造方法では、坩堝10への熱負荷を低減させ、坩堝10の変形を抑制することができることが示された。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 坩堝
11 底面
20 坩堝台
21 坩堝軸
22 坩堝軸駆動モータ
30 リフレクタ
40 アフターヒーター
41 上端
50 高周波誘導コイル
60 断熱材
70 炉体
80 引上げ軸
81 種結晶保持ジグ
82 引上げ軸駆動モータ
90 重量測定部
100 温度計
110 制御部
120 種結晶
130 単結晶
140 原料融液
図1
図2
図3
図4