【解決手段】多孔質静圧空気軸受10は、金属材料を用いて形成され、一方側から他方側へ向けて空気が流れる複数の第1流通孔24を有する多孔質層支持部12を備えている。また、多孔質静圧空気軸受10は、金属材料を用いて形成され、多孔質層支持部12の他方側の面に沿ってこの多孔質層支持部12と一体に形成された多孔質層14を備えている。多孔質層14は、第1流通孔24からの空気が導入されると共にこの空気が多孔質層支持部12とは反対側の面から流出する複数の第2流通孔32を有している。この第2流通孔32から流出した空気によってシャフト34が支持される。
前記多孔質層をその厚み方向から見て、前記多孔質層の中心部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さと外周部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さとが異なっている請求項1記載の多孔質静圧空気軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多孔質カーボン平板等の多孔質層とハニカム構造体とを接合材を介して接合する構成や、多孔質層からの空気の流出量を調節するために多孔質層の表面に目詰まり処理を行う構成では、製造コストが増加する。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、製造コストが増加することを抑制できる多孔質静圧空気軸受及びその製造方法を得ること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の多孔質静圧空気軸受は、金属材料を用いて形成され、一方側から他方側へ向けて空気が流れる複数の第1流通部を有する支持部と、金属材料を用いて形成され、前記支持部の他方側の面に沿って前記支持部と一体に形成され、前記第1流通部からの空気が導入されると共にこの空気が前記支持部とは反対側の面から流出する複数の第2流通部を有し、この第2流通部から流出した空気によって軸部材が支持される多孔質層と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の多孔質静圧空気軸受によれば、第1流通部を有する支持部を形成した後に、この支持部の他方側の面に沿って第2流通部を有する多孔質層を形成する。これにより、製造コストが増加することを抑制することができる。
【0008】
請求項2記載の多孔質静圧空気軸受は、請求項1記載の多孔質静圧空気軸受において、前記多孔質層をその厚み方向から見て、前記多孔質層の中心部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さと外周部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さとが異なっている。
【0009】
請求項2記載の多孔質静圧空気軸受によれば、多孔質層の中心部側の第2流通部を介した空気の通り易さと外周部側の第2流通部を介した空気の通り易さとが異なっている。これにより、軸部材と多孔質層との間の空気の繰り返しの圧縮に起因する不安定な振動を抑制することができることがわかっている。なお、以下においてはこの不安定な振動を「ニューマティックハンマ」と呼ぶ。
【0010】
請求項3記載の多孔質静圧空気軸受は、請求項2記載の多孔質静圧空気軸受において、前記多孔質層の外周部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さが、中心部側よりも通り易くなっている。
【0011】
請求項3記載の多孔質静圧空気軸受によれば、多孔質層の外周部側の第2流通部を介した空気の通り易さが、中心部側よりも通り易くなっている。これにより、ニューマティックハンマが生じることを抑制することができることがわかっている。
【0012】
請求項4記載の多孔質静圧空気軸受は、請求項2記載の多孔質静圧空気軸受において、前記多孔質層の中心部側の前記第2流通部を介した空気の通り易さが、外周部側よりも通り易くなっている。
【0013】
請求項4記載の多孔質静圧空気軸受によれば、多孔質層の中心部側の第2流通部を介した空気の通り易さが、外周部側よりも通り易くなっている。これにより、ニューマティックハンマが生じることを抑制することができることがわかっている。
【0014】
請求項5記載の多孔質静圧空気軸受は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の多孔質静圧空気軸受において、前記支持部と前記多孔質層とが、同じ金属材料を用いて形成されている。
【0015】
請求項5記載の多孔質静圧空気軸受によれば、支持部と多孔質層とが、同じ金属材料を用いて形成されている。これにより、第1流通部を有する支持部を形成した後に、材料の変更を行うことなく、この支持部の他方側の面に沿って第2流通部を有する多孔質層を形成することができる。これにより、製造コストが増加することをより一層抑制することができる。
【0016】
請求項6記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法は、金属材料を用いて形成され、一方側から他方側へ向けて空気が流れる複数の第1流通部を有する支持部と、金属材料を用いて形成され、前記支持部の他方側の面に沿って前記支持部と一体に形成され、前記第1流通部からの空気が導入されると共にこの空気が前記支持部とは反対側の面から流出する複数の第2流通部を有し、この第2流通部から流出した空気によって軸部材が支持される多孔質層と、を備えた多孔質静圧空気軸受の製造方法に適用され、金属粉末にレーザを照射することで、前記支持部を形成する支持部形成工程と、金属粉末にレーザを照射することで、前記支持部の他方側の面に沿って前記多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、を有する。
【0017】
請求項6記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法によれば、金属粉末にレーザを照射することで、支持部を形成する(支持部形成工程)。次いで、金属粉末にレーザを照射することで、支持部の他方側の面に沿って多孔質層を形成する(多孔質層形成工程)。この製造方法では、支持部と多孔質層とを一体に形成でき、製造コストが増加することを抑制することができる。なお、支持部を形成する金属粉末と多孔質層を形成する金属粉末とは、同じ種類の金属粉末であってもよいし異なる種類の金属粉末であってもよい。
【0018】
請求項7記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法は、請求項6記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法において、単位体積当たりの前記金属粉末に投入される前記レーザのエネルギをエネルギ密度E(J/mm
2)とし、前記多孔質層形成工程においてエネルギ密度Eを調節することで、前記多孔質層の前記第2流通部を介した空気の通り易さを調節する。
【0019】
請求項7記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法によれば、エネルギ密度Eを調節することにより、多孔質層の第2流通部を介した空気の通り易さを調節することができる。
【0020】
請求項8記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法は、請求項7記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法において、ステンレス鋼の前記金属粉末を用い、前記多孔質層形成工程において前記エネルギ密度Eを28.125J/mm
2以下に設定する。
【0021】
請求項8記載の多孔質静圧空気軸受の製造方法によれば、ステンレス鋼の金属粉末を用いると共にエネルギ密度Eを28.125J/mm
2以下に設定することにより、多孔質静圧空気軸受として機能する多孔質層を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る多孔質静圧空気軸受及びその製造方法は、製造コストが増加することを抑制できる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(はじめに)
多孔質静圧空気軸受は、高い負荷容量や剛性が得られることから、超精密加工機や測定器などに広く使用されている。さて、現在市販されている多孔質空気軸受は、厚さ数mmの多孔質材(グラファイト,セラミックス,金属粉末焼結体)をハニカム構造の部材や、給気溝を設けた部材に接着等することにより製作している。また、ニューマティックハンマを防止するため、表面目詰まり(多孔質表層部の通気率を母材通気率よりも低くする処理)を施している。そのため、量産製造に際しては、接着や多孔質層の表面の目詰まり度の管理が必要となり、コストの増加の原因となっている。
【0025】
そこで、本発明では、従来の多孔質静圧空気軸受の表面目詰まり層と同等の通気率を持つ多孔質層(厚さ:数十μm〜数百μm)と、ハニカム形状の支持部材が一体となった構造を提案し、金属粉末積層焼結3Dプリンタ(3D Systems,ProX(登録商標)DMP300)を用いて多孔質静圧空気軸受を製作した。この構造を採用することにより、表面の多孔質層は強度を維持しつつ、簡易的な多孔質静圧空気軸受の作製が期待できる。本発明では、試作した軸受の静特性に関して、実験的検討を行い、提案する多孔質静圧空気軸受の構造の有用性を以下に示す。
【0026】
(第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10の構成)
先ず、本発明の第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10の構成について説明する。
【0027】
図1〜
図3に示されるように、本実施形態の多孔質静圧空気軸受10は、金属材料を用いて一体に形成された支持部としての多孔質層支持部12及び多孔質層14を備えている。
【0028】
多孔質層支持部12は、円板状に形成されている。この多孔質層支持部12の外周部は、固定フランジ部16とされており、この固定フランジ部16には、周方向に間隔をあけて配置された複数のボルト挿通孔18が形成されている。そして、
図4に示されるように、ボルト挿通孔18に挿通されたボルト20がバックメタル22等の被取付部に螺合されることで、多孔質静圧空気軸受10がバックメタル22等の被取付部に取付けられるようになっている。なお、本実施形態では固定フランジ部16を設けた例について説明したが、多孔質層支持部12がハウジング等と一体化された構成では、固定フランジ部16を設けなくてもよい。
【0029】
また、多孔質層支持部12において固定フランジ部16よりも内側の部分には、軸方向に貫通された第1流通部としての複数の第1流通孔24が形成されている。なお、軸方向一方側を矢印Zで示している。
図3に示されるように、この第1流通孔24は、軸方向から見て内周面が正六角形状に形成されている。また、複数の第1流通孔24は、軸方向から見て略蜂の巣状に規則的に並んでいる。ここで、本実施形態では、第1流通孔24の内周面の1片(正六角形の1片)の長さが0.5mmに設定されている。また、隣り合う第1流通孔24の間の間隔は、0.25mmに設定されている。なお、多孔質層支持部12において複数の第1流通孔24が形成されている部分をハニカム部26と呼ぶ。ここで、第1流通孔24の内周面の1片(正六角形の1片)の長さは、後述する多孔質層14の変形(多孔質層支持部12側からの空気の圧力p
sgによる変形)を考慮して、0.5mm以下に設定するとよい。換言すると、第1流通孔24の半径を0.5mm以下に設定するとよい。これにより、後述する多孔質層14の変形が抑制され、多孔質層14の変形によって当該多孔質層14と後述するシャフト34とが接触することを効果的に抑制することができる。
【0030】
また、多孔質層支持部12は、ハニカム部26の外周部から軸方向他方側(矢印Z方向とは反対側)へ向けて突出する環状の外壁部28を備えている。この外壁部28の内周側に多孔質層14が形成されている。
【0031】
図1及び
図2に示されるように、多孔質層14は、多孔質層支持部12の外壁部28の内周側においてハニカム部26と一体に形成されている。この多孔質層14には、多孔質層支持部12のハニカム部26に形成された複数の第1流通孔24からからの空気が導入されると共にこの空気がハニカム部26とは反対側の面30から流出する第2流通部としての複数の第2流通孔32が形成されている。なお、複数の第2流通孔32は、後述するように第1流通孔24と比べて極めて小さな孔である。
【0032】
図4に示されるように、以上説明した本実施形態の多孔質静圧空気軸受10では、多孔質層支持部12のハニカム部26の軸方向一方側(矢印Z方向側)の空気の圧力が所定の圧力に設定されている。その結果、多孔質層支持部12のハニカム部26の軸方向一方側の空気は、ハニカム部26に形成された複数の第1流通孔24の内部に導入される。複数の第1流通孔24内に導入された空気は、軸方向他方側(矢印Z方向とは反対側)へ向けて流れる。また、複数の第1流通孔24内を軸方向他方側へ向けて流れた空気は、多孔質層14に形成された複数の第2流通孔32内に導入される。そして、複数の第2流通孔32内に導入された空気は、多孔質層14においてハニカム部26とは反対側の面30から流出する。この多孔質層14においてハニカム部26とは反対側の面30から流出する空気によって、軸部材としてのシャフト34が支持されるようになっている。
【0033】
(多孔質静圧空気軸受10の製造方法)
次に、多孔質静圧空気軸受10の製造方法について説明する。
【0034】
本実施形態の多孔質静圧空気軸受10は、多孔質層14(厚さ数百μm)と、多孔質層支持部12が一体となっており、金属粉末焼結3Dプリンタを用いて製作した。これにより、多孔質静圧空気軸受10の製造コストが増加することが抑制されている。
【0035】
本実施形態で用いた金属3Dプリンタは、金属粉末を半導体レーザ(スポット径約80μm、最大出力500W)により溶融させて焼結を行うが、多孔質静圧空気軸受10の製作に使用した金属粉末はステンレス鋼の金属粉末である17−4PH(SUS630相当)、平均粒径は20μmである。3Dプリンタによる積層焼結のピッチは40μmとした。
【0036】
今回使用した3Dプリンタによる多孔質静圧空気軸受10の製造においては、同時に複数個の多孔質静圧空気軸受10を製造可能である。製造時間は、多孔質静圧空気軸受10を4個同時製造の場合は約8時間、8個同時製造の場合は約10時間である。
【0037】
本実施形態では、金属粉末にレーザを照射することで、多孔質層支持部12を形成し(支持部形成工程)、多孔質層支持部12上の金属粉末にレーザを照射することで、多孔質層支持部12の軸方向他方側の面に沿って多孔質層14を形成する(多孔質層形成工程)。金属3Dプリンタにより多孔質静圧空気軸受10を製作した後、軸受下面(多孔質層支持部12における多孔質層14とは反対側の面)を研削加工し、その後、ワイヤ放電加工機を用いて多孔質層14の表面をカットし、多孔質層14を初期厚さの1000μmから任意の厚さtpに加工した。
【0038】
本実施形態で用いた金属3Dプリンタは、金属粉末を半導体レーザにより溶融させて造形を行うが、レーザ強度を調整することで、多孔質層14と緻密部をそれぞれ製作することが可能である。多孔質静圧空気軸受10の試作に際しては、多孔質層14を製作するための最適レーザ強度を選定するため、レーザ強度を、200Wから300Wまで25Wずつ変化させて造形を行い、比較を行った。レーザ走査速度は何れも2500mm/sとした。以下の表1(Table1)にレーザの照射条件の一覧を、
図5〜
図9に、造形後の多孔質層14の断面の顕微鏡写真を示す。
【0040】
図5に示すように、レーザ密度25J/mm
3(200W)や、
図6に示すように、レーザ密度28.125J/mm
3(225W)では、断面に数十μmの空孔(第2流通孔32)が多く確認された。
図5や
図6に示すものは、多孔質層14の断面写真であるため、空孔同士はつながっていないように見えるが、3次元的には空孔同士がつながっていると考えられ、多孔質層14は通気性を有する。
【0041】
一方、
図7に示すレーザ密度31.25J/mm
3(250W)、
図8に示すレーザ密度34.375J/mm
3(275W)、
図9に示すレーザ密度37.5J/mm
3(300W)では断面に存在する空孔(第2流通孔32)はわずかであり,通気性はほぼ無い。このことから、金属粉末として17−4PH(SUS630相当)を用いて多孔質層14を製作するには、レーザ密度28.125J/mm
3(225W)以下とする必要があることがわかった。
【0042】
以上の結果により、多孔質層14を製作する際のレーザ密度を、25J/mm
3(200W)および28.125J/mm
3(225W)として多孔質静圧空気軸受10を製作し、3Dプリンタで製造後、多孔質層14を初期の約1000μmから200μmカットして(多孔質層14の厚さtp=約800μm)、多孔質静圧空気軸受10の開放流量を測定した。
【0043】
測定の結果、レーザ密度25J/mm
3(200W)では流量が5.85l/min(p
sg=0.5MPa)であった。ここで、p
sgとは、多孔質層支持部12のハニカム部26の軸方向一方側(矢印Z方向側)の空気の圧力(
図4参照)のことである。また、レーザ密度28.125J/mm
3(225W)では流量が0.55l/min(p
sg=0.5MPa)であった。今回試作した多孔質静圧空気軸受10の外径(多孔質層14の外径)は40mmであるが、外径40mmの市販品の多孔質静圧空気軸受の開放流量は1〜2l/min 程度であることから、レーザ密度25J/mm
3(200W)では流量が過大となる。以上の結果により、本実施形態では,多孔質層14を製作するためのレーザ密度を28.125J/mm
3(225W)に決定した。なお、多孔質層14を支持する多孔質層支持部12については、1 辺0.5mmの六角形の穴(第1流通孔24)から多孔質層14に給気する。多孔質層支持部12は通気性を持たない緻密構造とするため、レーザ密度は40.625J/mm
3(325W)とて製作した。
【0044】
ところで、多孔質静圧空気軸受10の特性は、軸受開放流量により大きく変化する。本実施形態で取り扱う多孔質静圧空気軸受10では、多孔質層14を通過する気体の流速が遅く粘性が支配的であるため、多孔質層14を通過する気体の流れはDarcyの法則に従うとすると、開放流量は多孔質層14の厚さtpに反比例する。そのため、多孔質層14の厚さtpを変化させることで、流量を調整することが可能となる。本実施形態では、多孔質層14の厚さtpを、初期厚さである1000μmからワイヤ放電加工機によりカットして、市販品と同等の1〜2l/min程度の流量が得られるように調整した。そして、試験軸受(多孔質層厚さtp=約300μm、軸受開放流量1.14l/min:p
sg=0.6MPa)を製作した。なお、この試験軸受けの多孔質層14は、レーザ密度27.5J/mm
3(220W)で製作している。
【0045】
(多孔質静圧空気軸受10の特性の評価)
次に、本実施形態の多孔質静圧空気軸受10の特性の評価について説明する。
【0046】
図10には、実験装置36の概略図が示されている。この図に示されるように、試験軸受である多孔質静圧空気軸受10は、軸受面を下向きとされた状態で天蓋部38の一部を構成するバックメタル22にボルト20で固定されている。
【0047】
質量m=3.5kgのシャフト34は鉛直に置かれ、静圧空気ジャーナル軸受40により非接触支持されている。このシャフト34の下部はエアシリンダ42となっており、エアシリンダ42への給気圧力pfを変化させることで試験軸受である多孔質静圧空気軸受10に任意の負荷wを与えることができる。実験に際しては、軸受負荷w[N]を変化させた際の軸受すきまh[μm]の変化量を静電容量型非接触変位計により測定した。軸受無次元負荷容量Wおよび無次元静剛性K
Sは、以下の式1、式2により求めた。Aは軸受面積である。
【0049】
図11にp
sg=0.4MPaの場合の無次元軸受負荷容量Wおよび無次元静剛性K
Sの測定結果を示し、
図12にp
sg=0.6MPaの場合の無次元軸受負荷容量Wおよび無次元静剛性K
Sの測定結果を示す。これらの図に示すように、無次元軸受負荷容量Wはすきまhの減少にともない増加し、無次元静剛性K
Sの値が最大となる最適軸受すきまは、h=3〜5μm程度、無次元静剛性K
Sの最大値は0.4程度であった。これらの軸受静特性は、市販されている多孔質静圧空気軸受とおおむね同程度の値であり、本実施形態で提案する軸受構造と金属3Dプリンタを用いた製造方法により、通常の製作方法より簡便に多孔質静圧空気軸受10を製作できることが確認された。なお、p
sg=0.6MPaの場合、軸受すきまh=6.5〜14μmにおいて実験データが無いが、これはニューマティックハンマによりデータの取得が困難であったためである。
【0050】
(第2実施形態及び第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受)
以上説明したように、第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10においても、一般的な多孔質静圧空気軸受と同じく、給気圧や軸受すきまによっては、ニューマティックハンマが生じることが明らかとなった。以下、このニューマティックハンマが生じることを抑制した第2実施形態及び第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受について説明する。なお、第2実施形態及び第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受において、前述の多孔質静圧空気軸受10と対応する部分には、当該多孔質静圧空気軸受10と対応する部分と同一の符号を付して、その説明を省略することがある。
【0051】
図13及び
図14に示されるように、第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44及び第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46は、多孔質層14の内径部48を焼結する際のレーザ強度と多孔質層14の外径部50を焼結する際のレーザ強度を変化させることで、多孔質層14の通気率を内径部48と外径部50で変化させている。
【0052】
図13に示された第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44では、多孔質層14の内径部48(直径24.5mmより内径側)の通気率(空気の通り易さ)が外径部50より大きく(空気が通り易く)なるように焼結している。具体的には、多孔質層14の内径部48をレーザ密度26.875J/mm
3(215W)で焼結し、多孔質層14の外径部50をレーザ密度28.75J/mm
3(230W)で焼結している。
【0053】
図14に示された第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46では、多孔質層14の外径部50(直径24.5mmより外径側)の通気率(空気の通り易さ)が内径部48より大きく(空気が通り易く)なるように焼結している。具体的には、多孔質層14の内径部48をレーザ密度28.75J/mm
3(230W)で焼結し、多孔質層14の外径部50をレーザ密度で26.875J/mm
3(215W)焼結している。
【0054】
なお、多孔質静圧空気軸受44、46の試作においては、何れの軸受においても、軸受開放流量が0.8〜1.2l/min(吸気圧p
sg=0.6MPa)となるよう多孔質層14の厚みをワイヤ放電加工機により加工して調節した。
【0055】
以上説明した多孔質静圧空気軸受44、46について、
図10に示された実験装置36を用いて、前述と同様に無次元軸受負荷容量Wおよび無次元静剛性K
Sを測定した。
【0056】
また、多孔質静圧空気軸受44、46の動特性の実験においては、実験装置36のシャフト34の下部にインパルス荷重を与え、その際の自由振動波形を非接触変位計に接続したデジタルオシロスコープにより記録する。その自由振動波形により、振動周波数f、対数減衰率δを求める。得られた値を以下の式3に代入し無次元減衰係数Bを、また以下の式4から無次元動剛性K
dを求める。
【0058】
軸受静特性については、
図15に無次元軸受負荷容量Wおよび無次元静剛性K
Sの測定結果を示す。この図に示すように、前述の第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10(TypeA)については、軸受すきまh=6.5〜14μmにおいてニューマティックハンマが生じたが、第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44(TypeB)および第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46(TypeC)においては、ニューマティックハンマは生じなかった。軸受静特性を比較すると、第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10に関しては、静剛性の値が最大となる最適軸受すきまはh=3〜5μm、第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44および第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46はh=5〜7μmであり、第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44と第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46については、ほぼ同等の性能であった。なお、第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10については、軸受開放流量を多くすることで、無次元軸受負荷容量Wが増加し、最適軸受すきまhを第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44および第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46と同等にすることは可能であるが、軸受開放流量を多くするとニューマティックハンマ発生すきま領域がさらに増加する可能性が高くなる。
【0059】
軸受動特性については、
図16に動特性の試験結果を示す。この図に示すように、無次元減衰係数Bの値を見ると、第1実施形態に係る多孔質静圧空気軸受10においては、h=6.5〜14μmにおいてニューマティックハンマにより測定結果が得られていないが、h=6.5〜14μmにおいて無次元減衰係数Bが負の値になっていると考えらえられる。 一方、静特性試験においてニューマティックハンマは生じなかった第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44および第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46においては、すべての軸受すきまhにおいて、無次元減衰係数Bが正の値であることがわかる。第2実施形態に係る多孔質静圧空気軸受44および第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46を比較すると、両者の静特性は同等であったが、無次元動剛性K
dや無次元減衰係数Bについては、第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46の方が高い値であり、第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46のほうが軸受動特性に優れるという結果となった。第3実施形態に係る多孔質静圧空気軸受46は,多孔質層14の内径部48の通気率を外径部50の通気率よりも低くしているが、軸受すきまの変動により生じる軸受すきまから多孔質層14の内部への流入・流出流量が少なくなることで、高いスクイーズ効果が得られたものと考えられる。
【0060】
なお、以上説明した多孔質静圧空気軸受10、44、46では、多孔質層支持部12と多孔質層14とを同じ金属粉末によって形成した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、多孔質層支持部12と多孔質層14とを互いに異なる金属粉末によって形成してもよい。
【0061】
また、以上説明した多孔質静圧空気軸受10、44、46は、シャフト34の軸方向の端部を支持するが、本発明は他のタイプの多孔質静圧空気軸受に適用することもできる。例えば、
図17及び
図18に示されるように、シャフト34を径方向に支持する多孔質静圧空気軸受52に本発明を適用することもできる。なお、多孔質静圧空気軸受52において、前述の多孔質静圧空気軸受10、44、46と対応する部分には、当該多孔質静圧空気軸受10、44、46と対応する部分と同一の符号を付している。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。