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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-193418(P2019-193418A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】熱光変換素子
(51)【国際特許分類】
   H02S 10/30 20140101AFI20191004BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20191004BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20191004BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20191004BHJP
【FI】
   H02S10/30
   C01B32/168
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-83320(P2018-83320)
(22)【出願日】2018年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雄平
(72)【発明者】
【氏名】西原 大志
(72)【発明者】
【氏名】高倉 章
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】小鍋 哲
【テーマコード(参考)】
4G146
5F151
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AC01B
4G146AD19
4G146AD24
4G146AD40
4G146BA11
4G146BC09
4G146CB11
4G146CB16
5F151HA12
5F151HA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電磁波を発生させることなく、熱エネルギーから効率的に励起子を生成する素子、及び素子を用いた太陽電池を提供する。
【解決手段】中性半導体のカーボンナノチューブを熱光変換素子として用い、熱エネルギーから励起子と呼ばれる電子−正孔対を生成し、発光させることができる。励起子は、電子−正孔からなる水素原子様の中性の準粒子であり、原理的にその運動によって電磁波を発生することがなく、その消滅によってのみ励起子と同じエネルギーの光子を発生する。励起子のエネルギーは、固体のカーボンナノチューブの固有の物性として温度に依存する一定の値を取るため、励起子の消滅によって発生する光子のエネルギーは、励起子のエネルギー同様、一定の値を取ることになる。すなわち、極めて帯域幅の狭い波長の発光が得られることになる。こうした発光を用い、太陽電池の電力変換効率を高める事が可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性半導体のカーボンナノチューブを含有する、熱光変換素子。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の熱光変換素子。
【請求項3】
太陽電池用である、請求項1又は2に記載の熱光変換素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱光変換素子を用いた太陽電池。
【請求項5】
熱エネルギーを光に変換する方法であって、
中性半導体のカーボンナノチューブを加熱する工程
を備える、方法。
【請求項6】
前記加熱工程における加熱温度が1000K以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱工程が減圧下又は不活性雰囲気下で行われる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
励起子の生成方法であって、
中性半導体のカーボンナノチューブを加熱する工程
を備える、方法。
【請求項9】
前記加熱工程における加熱温度が1000K以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記加熱工程が減圧下又は不活性雰囲気下で行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱光変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電力に変換する太陽電池は、再生可能エネルギー源として最も重要な技術の1つであり、これまでその高効率化と低コスト化を実現するための研究が行われてきた。しかしながら、現在実用化されているシリコン太陽電池の変換効率では、33.7%という原理的な上限(ショックレー・クワイサー限界)が存在するため変換効率の向上にも限界がある。
【0003】
太陽電池の電力変換効率を高める方法はいくつか存在するが、波長選択エミッターとも呼ばれている、熱を所望の波長の光に変換する熱光変換素子の利用が挙げられる。現在実用化されている太陽電池においては、光エネルギーのうち半導体バンドギャップ以下の光エネルギーは熱エネルギーとなり有効活用できていない。熱光変換素子を用いて、現行の太陽電池で有効活用できていない熱エネルギーを太陽電池が吸収できる波長の光に変換することができれば、太陽電池の変換効率をより向上させることも期待される。この熱光変換素子としては、熱で生成された電子、ホール等の荷電粒子の輻射再結合を用いて目的の波長の光を選択的に発生するものが知られている。このような熱光変換素子については、これまで精力的な研究が行われ、金属ナノ構造(例えば、非特許文献1参照)、メタマテリアル構造の利用(例えば、非特許文献2参照)、半導体フォトニック構造の利用(例えば、非特許文献3参照)等、熱から単色光の生成を目的とした様々な提案がなされてきた。しかしながら、これら従来の手法においては、荷電粒子の熱運動を原理的に避けることができず、その結果、目的の波長の光以外にも、赤外波長領域の電磁波が発生してしまう。この結果、熱光変換素子からエネルギーが散逸することとなり、熱光変換効率が低下するため、太陽光エネルギーを有効活用できているとは言えない。また、固体中の連続的なエネルギー準位に熱分布した高エネルギーの電子と正孔の再結合により、より短波長の近赤外・可視光領域においても熱発光が生じるが、太陽電池のバンドギャップより入射光子のエネルギーが大きい場合、その差に相当するエネルギーは光電変換において熱として散逸してしまい、これも光電変換効率を低下させる原因となるが、高エネルギーの発光を抑えることも難しく、発光の単色化は極めて困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Thermal Science and Technology 3, 33-44 (2008)
【非特許文献2】Science Advances 2, e1600499 (2016)
【非特許文献3】Nature Energy 1, 16068 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、目的の波長領域以外の熱放射を発生させることなく、熱エネルギーから効率的に光を発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、中性半導体のカーボンナノチューブを熱光変換素子として用いた場合、熱エネルギーから励起子と呼ばれる電子−正孔対を生成し、発光する(光エネルギーを生成する)ことができる、つまり、熱エネルギーを光に変換できることを見出した。励起子は、電子−正孔からなる水素原子様の中性の準粒子であり、原理的にその運動によって電磁波を発生することがなく、その消滅によってのみ励起子と同じエネルギーの光子を発生する。励起子のエネルギーは、固体のカーボンナノチューブの固有の物性として温度に依存する一定の値を取るため、励起子の消滅によって発生する光子のエネルギーは、励起子のエネルギー同様、一定の値を取ることになる。すなわち、極めて帯域幅の狭い波長の発光が得られることになる。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.中性半導体のカーボンナノチューブを含有する、熱光変換素子。
項2.前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである、項1に記載の熱光変換素子。
項3.太陽電池用である、項1又は2に記載の熱光変換素子。
項4.項1〜3のいずれか1項に記載の熱光変換素子を用いた太陽電池。
項5.熱エネルギーを光に変換する方法であって、
中性半導体のカーボンナノチューブを加熱する工程
を備える、方法。
項6.前記加熱工程における加熱温度が1000K以上である、項5に記載の方法。
項7.前記加熱工程が減圧下又は不活性雰囲気下で行われる、項5又は6に記載の方法。
項8.熱エネルギーから励起子を生成する方法であって、
中性半導体のカーボンナノチューブを加熱する工程
を備える、方法。
項9.前記加熱工程における加熱温度が1000K以上である、項8に記載の方法。
項10.前記加熱工程が減圧下又は不活性雰囲気下で行われる、項8又は9に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、目的の波長以外の電磁波(光を含む)の発生を抑えて、熱エネルギーから励起子を生成し、励起子の消滅により、励起子と同じエネルギーを持つ光子を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの熱輻射測定を示す。 (a) 実験装置の概略図である。単層カーボンナノチューブを真空中に設置し、連続波レーザー(He-Neレーザー、1.96eV)の照射により加熱した。(b) 室温付近の中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの光学誘電率スペクトル(レイリースペクトル)である。光弾性散乱(レイリー散乱)を用いて測定した。(c) 異なる励起レーザー強度における中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルのGモード特性である。上軸はGモードシフトから見積もった温度を示している。挿入図は400KにおけるGモード特性を示す。(d) 2100Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブからの発光の光学像である。(e) 1470 Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブ発光の偏光依存性である。(f) 1470 Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光スペクトルである。挿入図は黒体放射との比較である。(g) 中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光強度の逆温度依存性である。挿入図は中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光強度の励起レーザー強度依存性である。
図2】単層カーボンナノチューブの幾何学構造の同定を示す。(a) 中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルのRBM(ラジアルブリージングモード)特性である。(b) 金属性の(30,12) 単層カーボンナノチューブ の可視及び近赤外(挿入図)領域におけるレイリースペクトルである。(c) 金属性の(30,12) 単層カーボンナノチューブ のラマンスペクトルのRBM特性である。
図3】半導体カーボンナノチューブ及び金属カーボンナノチューブの発光スペクトルを示す。(a) 1410Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光スペクトルである。(b) 1430Kにおける金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブの発光スペクトルである。上軸は光子エネルギーを示す。下軸はそれぞれ、ピーク光子エネルギーとの差を示す。(a)における黒い実線は、励起子(高エネルギーの灰色実線)とフォノンサイドバンド(低エネルギーの灰色点線)を考慮したフィッティング結果である。(b)における黒い実線は、自由電子とホールとのバンド間再結合を考慮したフィッティング結果である。(c) 2100 Kにおける中性半導体の(18,8)半導体単層カーボンナノチューブの発光スペクトルである。(d) 2200 Kにおける金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブの発光スペクトルである。(e) 中性半導体の(18,8)半導体単層カーボンナノチューブの光学誘電率の温度依存性である。620〜970Kはレイリー散乱スペクトル、970〜2100Kは発光スペクトルである。(f) 光学誘電率のピークエネルギーの温度依存性である。
図4】(a) 光学誘電率と温度との相関を決定する実験の概略図を示す。(b) CWレーザー加熱下のナノチューブの光学誘電率とラマンスペクトルを示す。(c) 光学誘電率と温度との相関図を示す。(d) ナノチューブの軸に沿った温度測定の概略図(左図)、及び軸に沿った光学誘電率(右図)を示す。(e) 輻射直前の温度におけるナノチューブの軸に沿った温度分布を示す。地点0にてレーザー加熱を行った。
図5】本発明の熱光変換素子を用いたデバイスの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A〜B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0010】
本発明の熱光変換素子は、中性半導体のカーボンナノチューブを含有する。
【0011】
励起子はクーロン相互作用で互いに束縛しあう電子−正孔対からなる準粒子である。この電子−正孔対の束縛エネルギーは、通常の半導体の場合には小さく、例えば10K等の極めて低温でしか電子とホールとが束縛状態を保つことができないが、本発明の熱光変換素子として使用する中性半導体カーボンナノチューブは、従来の半導体と比べて励起子を構成する電子−正孔対の束縛エネルギーが1桁以上大きく、2000K程度の高温でも、熱エネルギー(~kBT)が電子−正孔対の束縛エネルギーを超えないため、励起子エネルギーをExとして、ボルツマン因子exp(Ex/kBT) が無視できない程度の熱エネルギーが供給されると、当該熱エネルギーから励起子が生成される。本発明では、中性半導体のカーボンナノチューブが固有の性質として有する励起子の共鳴放射を利用することで、極めて細い線幅の単色熱放射を実現することが可能である。励起子は電気的に中性の準粒子であるため、その揺動による赤外長波長領域の熱放射(電磁波の発生による目的の波長領域以外の熱放射)が生じないほか、励起子共鳴エネルギーよりも短波長の領域についても、光と励起子の運動量保存則が満たされるエネルギー領域(この領域でしか、励起子が光に変換されることはない)が励起子共鳴エネルギー近傍に限られるため、たとえ励起子が熱分布していたとしても、発光に寄与することはできない。その結果、太陽電池のバンドギャップよりも大きいエネルギーを持つ光(太陽電池バンドギャップ以上の光のエネルギーは、光電変換において無駄になる(熱になる)ため、このエネルギーの光の発生を抑制することも重要)の発生も抑制できる。これらの特徴により、従来の熱光変換素子と比較して熱光変換過程でのエネルギー損失を極限まで低減することができる。
【0012】
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(つまり、黒鉛構造の炭素原子面又はグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、中性半導体とするため、単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましく、励起子の束縛エネルギーを大きく取るため、単層カーボンナノチューブが束にならない状態がもっとも好ましい。
【0013】
本発明で使用できる単層カーボンナノチューブとしては、長軸に直交する平均直径が0.5〜3nm程度、長軸の平均長さが0.1〜500μm程度のものが好ましく、長軸に直交する平均直径が1〜2nm程度、長軸の平均長さが1〜100μm程度のものがより好ましい。また、本発明で使用できる二層カーボンナノチューブとしては、内層に上記の単層カーボンナノチューブ、外層が高温安定な窒化ホウ素絶縁体ナノチューブであるものが好ましい。外層のサイズとしては、上記の内層のナノチューブにフィットするサイズのもの(内層の直径プラス0.7〜1nm程度)が好ましい。外層がカーボンナノチューブである場合にも、同様である。
【0014】
カーボンナノチューブは、半導体性のカーボンナノチューブと金属性のカーボンナノチューブが存在するが、金属性のカーボンナノチューブを使用した場合は、高温で励起子を保持することができず、連続準位に励起された電子と正孔はどのエネルギーでも再結合して光に変わることができ、電子と正孔(荷電粒子)の熱的揺動による電磁波の発生も避けられないため、目的の波長の光以外にも電磁波(赤外、可視光を含む)が発生してしまい、効率的に熱光変換を行うことができない。また、半導体性のカーボンナノチューブであっても、ドーパントによりn型半導体又はp型半導体の挙動を示すものは、金属ナノチューブに類似の特性を示すため効率的に熱光変換を行うことができない。このため、本発明では、中性半導体のカーボンナノチューブを使用する。
【0015】
なお、中性半導体のカーボンナノチューブとは、p型又はn型を付与する不純物原子がチューブ壁に埋め込まれていないか、若しくは埋め込まれていても、その線密度が10-1nm-1より低いカーボンナノチューブ、又はカーボンナノチューブの周囲に吸着した不純物によりドープされたキャリアが存在しないか、若しくは存在しても、その線密度が10-1nm-1より低い、所謂真性半導体のカーボンナノチューブのことであるが、キャリア濃度が10-1nm-1 より大きいカーボンナノチューブも、金属性のカーボンナノチューブではない限り利用可能であるが、本発明の熱光変換素子に適用する場合においては、より効率的に熱光変換を行う観点から真性半導体が好ましい。
【0016】
このような中性半導体のカーボンナノチューブは、励起子エネルギー共鳴の観点から、カイラル指数(n, m)が、n= 6〜20、m= 3〜10(ただし、n-mが3の倍数となる組合せを除く)が好ましく、n= 6〜18、m= 3〜5, 7, 8, 9(ただし、n-mが3の倍数となる組合せを除く)がより好ましい。特に、カイラル指数(n, m)の組合せとしては、(6, 5)、(7, 5)、(18, 8)が特に好ましい。なお、カイラル指数とは、カーボンナノチューブの直径や螺旋角を決定するパラメータであり、n-mが3の倍数の場合は金属性のカーボンナノチューブとなる。
【0017】
単層カーボンナノチューブの励起子は、外部環境の影響を容易に受けるため、各カーボンナノチューブが束の状態で存在するカーボンナノチューブ膜を使用することは好ましくない。
【0018】
このようなカーボンナノチューブは、特に制限されず、成長させる際に、既報(Phys. Rev. B, 92, 205407 (2015))等にしたがい製造することができる。
【0019】
本発明の熱光変換素子は、上記のような中性半導体のカーボンナノチューブを加熱することにより励起子を生成し、励起子の消滅に伴い励起子と同じエネルギーを持つ光子を発生させることができる。つまり、熱エネルギーを、ある特定のエネルギーを持つ光子に変換することが可能である。これにより、熱エネルギーを光に変換することが可能である。
【0020】
カーボンナノチューブを加熱する方法は特に制限されない。カーボンナノチューブの加熱温度は、既報(Jpn. J. Appl. Phys. 47, 2010 (2008).)にしたがい、ラマンスペクトルのGモード特性のピークシフトから評価する。また、一度ラマンスペクトルによるGモードのピークシフトと熱発光スペクトルの励起子線幅の対応付けができれば、熱発光スペクトルの励起子線幅から温度を推定することができる。
【0021】
なお、発光波長(=励起子エネルギー)は中性半導体のカーボンナノチューブの幾何学構造のみで決まるので、太陽電池が吸収可能な波長で発光する中性半導体のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。加熱温度を高くするほど発光強度が大きくなることから加熱温度は1000K以上が好ましい。なお、加熱温度の上限値は特に制限されないが、通常2100K程度である。パラボラ型の鏡を用いて太陽光を効率的に集光すること等により、このような高温加熱が可能である。
【0022】
カーボンナノチューブの加熱は大気圧下で行うこともできるが、カーボンナノチューブが高温で燃焼することを抑制するため、減圧下又は不活性雰囲気下(アルゴン雰囲気下、窒素雰囲気下等)で行うことが好ましい。また、熱エネルギーの散逸(熱エネルギーが逃げること)をより抑制するため、加熱は減圧下で行うことが好ましい。加熱を減圧下で行う場合、その圧力は10-3 気圧以下が好ましく、10-5 気圧以下がより好ましい。なお、圧力の下限値は特に制限されないが、通常10-10気圧である。
【0023】
このように、本発明の熱光変換素子では、一定のエネルギーの励起子を熱生成し、その消滅の際に一定のエネルギーの光子を発生させることが可能であり、これにより熱エネルギーを単色光に変換することが可能である。この際の発光は、可視発光又は近赤外発光とすることが可能であり、これを太陽電池に吸収させることで発電することが可能である。つまり、太陽光のうち、太陽電池が吸収できる波長の光はまず太陽電池が吸収し、太陽電池が吸収できない波長の光は、一旦熱エネルギーに変換されるが、本発明の熱光変換素子により、熱エネルギーを可視光又は近赤外光に変換することにより太陽電池が吸収することができるようになる。これにより、従来は熱散逸していた長波長光エネルギーを利用して光電変換反応を起こさせることが可能である。つまり、33.7%という原理的な上限を凌駕するような高効率な太陽電池も期待できる。なお、本発明の熱光変換素子を用いた太陽電池については、一旦太陽電池中に吸収し損なった半導体バンドギャップ以下の長波長光エネルギーを本発明の熱光変換素子に吸収させて可視光又は近赤外光に変換し、当該可視光又は近赤外光を再度太陽電池中に吸収させる構造を有していれば特に制限はなく、その他の構造は従来の太陽電池と同様とすることができる。ただし、本発明の熱光変換素子を図5に示すような膜形状を有するように成形することが好ましい。この場合、各カーボンナノチューブはなるべく束になっていない状態に近い形で膜内に保持されており、ナノチューブ同士は理想的には点接触していることが好ましい。点接触とすることで、ナノチューブとナノチューブの接点における熱伝導を、チューブ内の熱伝導と比べて、接点1つあたり1000分の1以下にすることができる(Phys. Rev. Lett. 102, 105901 (2009))。また、中央部が厚く、周辺部を薄くすることで、支持部への熱伝導を極力小さくする構造とすることで、熱をより強く閉じ込めることができる。なお、中央部の厚み及び周辺部の厚みは、用途に応じて適宜調整することが好ましく、通常その用途に適用される範囲とすることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、(n, m)カーボンナノチューブと表記した場合、(n, m)はカイラル指数である。
【0025】
単離した一次元ナノ構造として、既報(Phys. Rev. B, 92, 205407 (2015))にしたがい、アルコール化学気相成長法によって、開放スリット上に架橋した単層カーボンナノチューブを合成した。単層カーボンナノチューブは、2000Kでも優れた熱安定性を有する究極的に薄い一次元ナノ構造を有する(Phys. Rev. B 71, 075424 (2005).)。単一架橋単層カーボンナノチューブを真空(10-7気圧)中に設置し、可能な限り周囲とのエネルギー交換を防止した(図1(a))。連続波(CW)レーザー照射により、単層カーボンナノチューブの中性電荷バランスを維持しながら非接触下での加熱を行った。暗視野光学系にすることで、単層カーボンナノチューブの微弱な光信号の高感度検出が可能となった。
【0026】
本実施例では、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブと、比較のために金属性の(30,12) 単層カーボンナノチューブを用意した。単層カーボンナノチューブの幾何学構造は、グラフェンを巻く方向(ベクトル)によって定義され、整数組(n,m)で表す。既報(Phys. Stat. Sol. (b) 249, 2436 (2012)、Nat. Nanotech. 7, 325 (2012))に従い、レイリースペクトル(図1(b))とラマンスペクトル(図2(a))から、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの幾何学構造を同定した。同様に、レイリー散乱(図2(b))とラマン散乱(図2(c))から、金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブの幾何学構造を同定した。図2(b)の1.06eV及び1.93eVにおける共鳴ピークは、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの第2及び第3のサブバンド(S22及びS33)励起子と同定される。
【0027】
この光学系では、CWレーザーを光源としたラマン信号(Gモード特性)を用いて、単層カーボンナノチューブの温度測定も可能にした(Jpn. J. Appl. Phys. 47, 2010 (2008).)。既報(Jpn. J. Appl. Phys. 47, 2010 (2008).)にしたがい、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブのGモードピークのシフトから温度を評価し、図1(c)に要約した。この結果、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの温度が2000Kまで上昇したことを確認した。
【0028】
2000 K以上(2100K)の中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの、近赤外から可視に及ぶ発光を観測した(図1(d))。この中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光は直線偏光特性を示した(図1(e))。1470 Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブは、同温度の黒体と比較して極めてスペクトル幅が細い近赤外発光を示した(図1(f)の挿入図)。その半値幅(FWHM)は約170meVであり、ジュール加熱(電流による加熱)されたナノチューブ(約350meV;ACS Nano 5, 4634-4640 (2011).)よりも狭いことが理解できる。このことから、CWレーザー加熱により、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブ固有の特性を観察できることを示している。
【0029】
始めに、この発光が熱駆動であるかを確認した。中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光強度の温度に対する非線形的な増加は、この発光が単純なフォトルミネッセンスではないことを示している(図1(g)の挿入図)。一方、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光強度は逆温度に対して指数関数的に減少した(図1(g))。この傾向は、この発光がボルツマン統計に従っていることを示している。この実験結果をボルツマン統計に従ってフィッティングしたところ、フィッティング結果は0.80eVのエネルギー量子が熱生成されていることを示しており(図1(g))、これは中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光エネルギーの裾と一致する(図1(f))。この結果は、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光が熱生成されたエネルギー量子の発光であることを証明しており、発光は熱駆動であると結論づけた。
【0030】
次に、高温の中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光のピーク構造の起源を検討するために、金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブの熱発光との比較を行った。1000K以上の金属性の単層カーボンナノチューブでは励起子は電子と正孔に乖離しており(Phys. Rev. Lett. 99, 227401 (2007).)、これらの再結合が熱輻射に関与していると推測される(Phys. Rev. Lett. 99, 227401 (2007).)。1410Kにおける中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光は低エネルギー側に裾を持ち(図3(a))、一方、1430Kにおける金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブの熱発光は高エネルギー側に裾を持つという、質的に異なる発光スペクトルを観測した。2000 K以上ではこの質的な違いが顕著となり、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブはピーク構造を持ち(図3(c))、金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブはブロードな発光(図3(d))を示した。この質的な違いは、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの熱輻射が金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブとは異なるメカニズムであることを示している。これらの結果を踏まえて、スペクトル解析を行った。中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブは励起子とフォノンサイドバンド(図3(a)の黒線)を、金属性の(30,12)単層カーボンナノチューブは一次元のvan Hove特異点間の電子と正孔とのバンド間再結合(図3(b)の黒線)によって、発光スペクトルが良く再現できた。この結果は、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光ピークは励起子の再結合によるもであることを示している。
【0031】
上記で得られた示唆は、中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの光誘電率の温度依存性からも確認できた。図3(e)は620〜970Kはレイリー散乱、970〜2100Kは発光スペクトルを纏めた、光学誘電率の温度依存性である。また、図3(f)は温度の関数としてピークエネルギーを纏めた。スペクトル形状(図3(e))と光学誘電率のピークエネルギー(図3(f))は連続的に温度上昇とともに変化した。620Kで安定に存在する励起子が、もし温度上昇過程で電子と正孔に乖離したら、300meVの急激な光学誘電率のピークエネルギーの変化が期待される(Phys. Rev. B 75, 035407 (2007).)。620〜2100Kの広範な温度域におけるピークエネルギーの連続的な変化は、2100Kでも励起子が安定に存在していることを示している。これらの結果から、観測した中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光ピークの起源は励起子であり、高温の中性半導体の(18,8)単層カーボンナノチューブの発光は、熱で生成された励起子によるものであると結論づけた。
【0032】
次に、単一ナノチューブ中でどの程度の範囲が高温に達しているかを調べるために、ナノチューブの軸に沿った温度を測定した。ラマン散乱を用いた温度測定(Jpn. J. Appl. Phys. 47, 2010 (2008).)は信号が微弱であるため、空間依存性した温度の測定には適していない。そこで、我々は温度敏感且つ高感度測定可能な光学誘電率を利用した温度測定法を確立して、ナノチューブの温度の空間依存性を測定した。
【0033】
まず準備実験として、光学誘電率と温度の相関を測定した。この実験では白色光とCWレーザーの2種類の光をナノチューブの同じ領域に同時に照射した(図4(a))。白色光は光学誘電率測定、CWレーザーは加熱とラマン散乱測定の光源として用いた。CWレーザーの強度を変えて温度を変えながら、光学誘電率(レイリー散乱スペクトル)とラマン散乱スペクトルを測定した(図4(b))。ラマン信号のシフトから既存の経験則(Jpn. J. Appl. Phys. 47, 2010 (2008).)を用いて決定した温度と、光学誘電率のピークエネルギーの間では直線的な良い相関を得た(図(c))。この相関を直線で近似し、ピークエネルギーから温度を導く経験則を決定した。
【0034】
得られた経験則を用いて、局所レーザー加熱下のナノチューブの温度分布を測定した。準備実験とは異なり、白色光を広範囲に照射することで、複数の地点の光学誘電率の同時測定が可能となった(図4(d))。複数箇所の光学誘電率を測定して、経験則を用いてエネルギーピークからナノチューブの軸に沿った温度分布を決定した(図4(e))。加熱箇所の温度は1000Kに達しており、熱輻射直前の温度となっていた。高温領域は単一ナノチューブ中で4μm程度の狭い領域に制限されていた。
【0035】
以上のような特性を有する本発明の熱光変換素子は、実際のデバイスとして、図5に示すような膜形状に成形して適用することができることが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5