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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-196528(P2019-196528A)
(43)【公開日】2019年11月14日
(54)【発明の名称】塩化コバルト水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/28 20060101AFI20191018BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20191018BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20191018BHJP
【FI】
   C22B3/28
   C22B23/00 102
   C22B7/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-92020(P2018-92020)
(22)【出願日】2018年5月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 宏之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA19
4K001CA05
4K001DB04
4K001DB27
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】 逆抽出後液中の鉄濃度を低く抑えながら逆抽出後有機中のコバルト濃度を低く抑えることが可能な方法を提供する。
【解決手段】 コバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液を溶媒抽出処理することによりコバルトを有機相側に抽出して塩化ニッケル水溶液から分離する抽出段S51と、得られたコバルトを含む抽出後有機O2を洗浄する洗浄段S52と、該洗浄後の抽出後有機O3を希塩酸水溶液で逆抽出処理してコバルトを塩化コバルト水溶液として回収する逆抽出段S53とからなる塩化コバルト水溶液の製造方法であって、該抽出後有機O2に含まれる鉄及びコバルトの質量比Fe/Coに基づいて該溶媒抽出処理の条件を調整する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液を溶媒抽出処理することによりコバルトを有機相側に抽出して塩化ニッケル水溶液から分離する抽出段と、得られたコバルトを含む抽出後有機を洗浄する洗浄段と、該洗浄後に希塩酸水溶液で該抽出後有機を逆抽出処理してコバルトを塩化コバルト水溶液として回収する逆抽出段とからなる塩化コバルト水溶液の製造方法であって、前記抽出後有機に含まれる鉄及びコバルトの質量比Fe/Coに基づいて前記溶媒抽出処理の条件を調整することを特徴とする塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記質量比Fe/Coを0.09以下に調整することを特徴とする、請求項1に記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒抽出処理は抽出剤として3級アミン系抽出剤を芳香族炭化水素で希釈した有機溶媒を使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記コバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液がMCLEプロセスにおけるセメンテーション終液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩化コバルト水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化コバルト水溶液の製造方法に関し、特にニッケル及びコバルトの湿式精錬プロセスにおける中間生成物である、コバルトを含んだ塩化ニッケル水溶液に対して行う溶媒抽出処理を含む塩化コバルト水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル及びコバルトの湿式精錬プロセスとして、MCLE(マット塩素浸出電解採取)プロセスが知られている。MCLEプロセスは混合硫化物を塩素浸出処理する塩素浸出工程と、該塩素浸出工程の浸出液を用いてニッケルマットを酸化浸出処理するセメンテーション工程と、該セメンテーション工程で得たセメンテーション終液としてのコバルトを含有する塩化ニッケル水溶液を溶媒抽出法で処理して粗塩化ニッケル水溶液と粗塩化コバルト水溶液とに分離する溶媒抽出工程と、得られた粗塩化ニッケル水溶液及び粗塩化コバルト水溶液から不純物を除去した後、電解採取によりそれぞれ電気ニッケル及び電気コバルトを作製する電解工程とから主に構成されている。
【0003】
これらの工程のうち、溶媒抽出工程ではTNOAなどの3級アミン系抽出剤が一般に用いられている。その理由は、金属イオン及び塩化物イオンが高い水溶中ではコバルトはニッケルと異なりクロロ錯イオンとして存在するため、3級アミン系抽出剤を用いることでコバルトに対してより高い選択性が得られるからである。このようなTNOA等のアミン系抽出剤を用いた溶剤抽出工程は一般にコバルトを含む塩化ニッケル水溶液からコバルトを抽出する抽出段と、該抽出したコバルトを含む有機相を洗浄する洗浄段と、該洗浄された有機相に希塩酸水溶液を混合して該有機相に含まれるコバルトを水相側に逆抽出する逆抽出段とから構成される。
【0004】
この場合、セメンテーション終液に含まれる不純物としての亜鉛や鉄もクロロ錯体を形成するため抽出段においてコバルトと共に有機相に抽出され、これらは逆抽出段においてコバルトに比べて逆抽出されにくいので有機相の循環系内に蓄積していく。そこで、この循環する有機相の一部を分流して脱亜鉛工程で亜鉛等の不純物を除去することが行われている。更に、この分流した一部の有機相を活性化工程で処理して、劣化した有機相を再生(活性化)することも行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、溶媒抽出工程の逆抽出段から産出される鉄、亜鉛等の金属不純物のクロロ錯体を含んだアミン系抽出剤に対して、塩化物濃度が低い洗浄水を適量用いて洗浄することで、該不純物である鉄や亜鉛を効率よく除去する技術が開示されている。また、特許文献2及び特許文献3には、アミン系抽出剤を用いてコバルトを含有する塩化ニッケルを溶媒抽出処理するに際し、抽出剤の濃度や洗浄段の有機相と水相の比等の処理条件を調整することで、高純度の塩化コバルト水溶液を高い収率で得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−196122号公報
【特許文献2】特開2011−006759号公報
【特許文献3】特開2015−183267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1〜3に示すようにコバルトと共に鉄などの不純物金属元素を含有する塩化ニッケル水溶液に対して抽出段、洗浄段、及び逆抽出段からなる溶媒抽出工程で処理する場合は、抽出段で有機相に抽出された金属元素の内、目的金属のコバルトだけを水相側に逆抽出し、それ以外の亜鉛や鉄などの不純物金属元素は有機相中に残すのが理想である。しかしながら、逆抽出段では、目的金属のコバルトをより高い分配率で水相側に移行させるべく、逆抽出段において例えばpH等の条件を調整すると、亜鉛や鉄等の不純物金属元素の水相側への分配率も上昇し、粗塩化コバルト水溶液の純度が低下することが問題になっていた。
【0008】
すなわち、逆抽出段においては目的金属であるコバルトの水相側への分配率の向上と、不純物金属による水相への混入による粗塩化コバルト水溶液の純度の低下は、いわゆる「トレードオフ」の関係にあり、水相側の粗塩化コバルト液中のコバルト濃度を向上させようとすると、当該粗塩化コバルト液中の不純物濃度も向上し、逆に、粗塩化コバルト液中の不純物濃度を低く管理しようとすると、当該粗塩化コバルト液へのコバルトの分配率が低下して有機相側の逆抽出後有機中にコバルトが多く残留することになる。このように逆抽出後有機中に残留したコバルトは、前述した脱亜鉛工程において亜鉛や鉄などの不純物金属元素と共に除去されるため回収ロスになるので好ましくない。本発明は上記した状況に鑑みてなされたものであり、逆抽出後液中の鉄濃度を低く抑えながら逆抽出後有機中のコバルト濃度を低く抑えることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る塩化コバルト水溶液の製造方法は、コバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液を溶媒抽出処理することによりコバルトを有機相側に抽出して塩化ニッケル水溶液から分離する抽出段と、得られたコバルトを含む抽出後有機を洗浄する洗浄段と、該洗浄後に希塩酸水溶液で該抽出後有機を逆抽出処理してコバルトを塩化コバルト水溶液として回収する逆抽出段とからなる塩化コバルト水溶液の製造方法であって、前記抽出後有機に含まれる鉄及びコバルトの質量比Fe/Coに基づいて前記溶媒抽出処理の条件を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、逆抽出後液中の鉄濃度を低く抑えながら逆抽出後有機中のコバルト濃度を低く抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の塩化コバルト水溶液の製造方法を含んだMCLEプロセスの概略フロー図である。
図2図1の溶媒抽出工程についてより詳細に示したフロー図である。
図3】抽出後有機中の質量比Fe/Coと逆抽出後有機中のCo濃度との関係をプロットしたグラフである。
図4】抽出後有機中の質量比Fe/Coと逆抽出後液中のFe濃度との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず図1を参照しながら、本発明の実施形態の塩化コバルト水溶液の製造方法を含んだ湿式製錬プロセスについて説明する。この図1に示す湿式製錬プロセスは、MCLE(マット塩素浸出電解採取)プロセスとも称されるニッケル及びコバルトの製造プロセスであり、塩素浸出工程S1、粉砕工程S2、セメンテーション工程S3、脱鉄工程S4、溶媒抽出工程S5、ニッケル浄液工程S6、ニッケル電解工程S7、コバルト浄液工程S8、及びコバルト電解工程S9からなる。
【0013】
先ず、塩素浸出工程S1では、MCLEプロセスの第1の原料として例えばニッケル酸化鉱を湿式製錬して得たニッケルコバルト混合硫化物(MS)に電解廃液を加えてスラリーとし、このスラリーに後述するセメンテーション工程S3から排出されるセメンテーション残渣を加えると共に、塩素ガスを吹き込んでニッケル、コバルト、銅等の金属成分の塩素浸出を行う。これにより、塩素浸出液としての銅イオンを含んだ含銅塩化ニッケル水溶液と浸出残渣とが生成される。この塩素浸出工程S1で生成した含銅塩化ニッケル水溶液はセメンテーション工程S3に送液され、浸出残渣は硫黄を主成分とするため更に処理が施されて製品硫黄として回収される。
【0014】
一方、MCLEプロセスの第2の原料として乾式製錬で作製されるニッケルマットは、粉砕工程S2において振動ミルなどの粉砕装置で粉砕処理した後、電解廃液を加えてマットスラリーとする。このマットスラリーは、セメンテーション工程S3において上記塩素浸出工程S1からの含銅塩化ニッケル水溶液と混合される。これにより、含銅塩化ニッケル水溶液中の銅イオンはニッケルマット中のニッケルメタル及び亜硫化ニッケルによって還元され、硫化銅として固定化される。この固定化された硫化銅は未反応のニッケルと共にセメンテーション残渣として固液分離された後、上記の塩素浸出工程S1に送られる。このセメンテーション工程S3における固定化により銅が除去された溶液はニッケル及びコバルトを含むため、セメンテーション終液として脱鉄工程S4に送液される。
【0015】
上記セメンテーション終液は、脱鉄工程S4において例えば酸化中和法等の浄液処理によって該セメンテーション終液中に含まれる不純物としての鉄が除去される。この脱鉄処理されたセメンテーション終液は次に溶媒抽出工程S5に送られ、抽出段、洗浄段、及び逆抽出段からなる溶媒抽出法によって粗塩化ニッケル水溶液と粗塩化コバルト水溶液に分離される。前者の粗塩化ニッケル水溶液はニッケル洗浄工程S6に送られ、例えば脱鉛処理やCOB(Crowding Organic Bypass)−SX処理などが施された後、塩化ニッケル純液としてニッケル電解工程S7に送られて電解採取法によって電気ニッケルが作製される。なお、この電解採取の際にアノード側において塩化ニッケル溶液から発生する塩素ガスは、上記塩素浸出工程S1において塩素浸出用のガスとして用いられる。
【0016】
一方、後者の粗塩化コバルト水溶液はコバルト洗浄工程S8に送られ、ここで例えばジ−(2−エチルへキシル)ホスホン酸などの有機リン酸型の溶媒抽出剤を用いた溶媒抽出処理により洗浄を行うことによって塩化コバルト純液が得られる。この塩化コバルト純液は必要に応じて脱銅処理などが施された後にコバルト電解工程S9に送られ、電解採取法によって電気コバルトが作製される。
【0017】
次に、本発明の塩化コバルト水溶液の製造方法の実施形態である上記の溶媒抽出工程S5について、図2を参照しながら説明する。この溶媒抽出工程S5は、抽出段S51、洗浄段S52、及び逆抽出段S53で主に構成される。なお、図2において点線は有機相側の流れを示しており、実線は水相側の流れを示している。また、各段は上側が有機相、下側が水相であり、下線を付した物質は白矢印に示す有機相から水相に又は水相から有機相に移動することを示している。
【0018】
各段について具体的に説明すると、先ず抽出段S51において、上記脱鉄工程S4で処理されたセメンテーション終液である抽出始液A1としてのコバルト及び不純物金属元素を含有する塩化ニッケル水溶液に対して、有機溶媒からなる抽出剤O1及び後述する洗浄段S52からの洗浄後液A3を混合させる。これにより該抽出始液A1中のクロロ錯体を形成するコバルト及び不純物金属元素としての亜鉛や鉄を有機相中に分配させることができ、これらコバルトや不純物金属元素が除去された粗塩化ニッケル水溶液が水相側の抽出後液A2として産出される。なお、上記の抽出剤O1には、例えばTNOA(トリノルマルオクチルアミン)やTIOA(トリイソオクチルアミン)などの3級アミン系抽出剤を用いるのが好ましい。
【0019】
上記の抽出段S51では、エントレインメントと称するニッケルを含んだ微細な液滴状の水相が有機相中に混入する。よって、抽出段S51から産出される有機相には、上記のクロロ錯体を形成するコバルト及び不純物金属元素の他、エントレインメントとしてのニッケルがわずかに含まれている。このエントレインメントのニッケルを回収するため、洗浄段S52では上記抽出段S51から産出される有機相としての抽出後有機O2に逆抽出段S53から産出される水相としての逆抽出後液A5の一部を混合させる。これにより抽出後有機O2中にエントレインメントとして混入していたニッケルが水相側に回収される。なお、この洗浄段S52では、抽出段S51で抽出されずに残存する一部のコバルトを有機相側に抽出することもできる。このようにしてエントレインメントがいわゆる洗い落とされた洗浄後有機O3は逆抽出段S53に移送される。一方、回収したエントレインメントを含む洗浄後液A3は水相として抽出段S51に供給される。
【0020】
上記洗浄段S52で洗浄された洗浄後有機O3は回収目的のCoに加えて不純物としてZn及びFeを含んでいるので、逆抽出段S53において希塩酸水溶液A4に混合させることでCoを水相側に移行させる。この逆抽出段S53から水相側として産出される逆抽出後液A5が前述した粗塩化コバルト水溶液であり、前述したように、洗浄段S53の洗浄液として一部抜き出された後、図1のコバルト浄液工程S8に送られ、ここで更に不純物が除去される。一方、上記逆抽出段S53から有機相として産出される逆抽出後有機O4は、中継槽などを経て抽出段S51において抽出剤O1として使用すべく、循環流となる。
【0021】
但し、この逆抽出後有機O4は亜鉛や鉄などの不純物金属元素を含んでいるので、そのままでは亜鉛と鉄が有機相の循環流から排出されず蓄積する一方となる。そこで、この有機相の循環流から一部を分流として抜き出し、脱亜鉛工程S54で亜鉛及び鉄を除去する処理を行っている。具体的には、この脱亜鉛工程S54では、ZnだけでなくFeも除去すべく、分流された有機相に対して苛性ソーダを添加することで亜鉛や鉄などの金属元素を含んだ中和澱物を生成させ、これを固液分離することで除去している。
【0022】
この脱亜鉛工程S54で処理された有機相は活性化工程S55に送られ、ここで希塩酸が添加されることで活性化される。この活性化工程S55で活性化処理された有機相は、循環系内における有機溶媒の蒸発や溶媒抽出工程S5から排出される水相への有機相の混入などによる循環系内の有機溶媒の減少分に相当する量の有機溶媒が新規に補充された後、循環系内に戻される。なお、上記の有機相の循環系からの分流としての抜出し量は、抽出始液A1から導入される不純物の量とバランスするように調整するのが好ましく、通常は、循環流量30〜40に対して抜出し量は1程度である。
【0023】
ところで上記の溶媒抽出工程S5では、洗浄後有機O3中のコバルトだけを逆抽出後液A5としての水相側に全て移行させ、亜鉛や鉄などの不純物金属元素は全て逆抽出後有機O4中に残留させるのが理想的であるが、実操業においては、逆抽出後有機O4中に一部のコバルトが残留するという第1の問題と、逆抽出後液A5中に鉄が混入するという第2の問題とがある。これらはトレードオフの関係にあり、目的金属のコバルトを効率よく水相に分配することと、不純物金属元素である亜鉛と鉄を全て有機相に残留させることを両立させることは困難である。
【0024】
特に第1の問題が生ずると、逆抽出後有機O4に残留するコバルトが循環流と共に抽出段S51に供給され、該抽出段S51における抽出始液A1からのコバルト抽出能力を抑制してしまう。また、逆抽出後有機O4に残留するコバルトが、分流と共に脱亜鉛工程S54に供給されると、亜鉛や鉄などの金属元素と共にコバルトが系外に排出されるのでロスとなって回収できなくなる。一方、第2の問題が生ずると、コバルト浄液工程S8の負荷が高くなりすぎて鉄を十分に除去することができなくなり、その結果、コバルト電解工程S9に供給される鉄の量が多くなって、製品としての電気コバルト中において不純物濃度が許容値を超え、規格外品を発生させるおそれがある。
【0025】
上記の第1及び第2問題の対処法として、各処理装置の処理能力を増強したり実操業における操業条件を変更や調整したりすることが考えられるが、有機相は抽出段S51で処理された後、洗浄段S52を経て逆抽出段S53で処理され、更に逆抽出段S53で処理された後は循環流や分流となって移送され、しかも各段では有機相と水相との接触混合及び油水分離という複雑な工程で操業されるため、上記の対処法はかなりのコストがかかり、また心理的にも大きなハードルがあった。
【0026】
そこで本発明者らは、上記MCLEプロセスの操業を継続しながら、各段の有機相及び水相への金属元素の分配状況を全体的に検討したところ、抽出後有機O2に含まれる鉄及びコバルトの質量比Fe/Coに基づいて抽出段S51の処理条件を調整することで、逆抽出後液A5中の鉄濃度と、逆抽出後有機O4中のコバルト濃度とを共に効果的に低減できることを見出した。
【0027】
すなわち、図3に示すように抽出段S51から産出される抽出後有機O2中の質量比Fe/Coを横軸にとり、逆抽出段S53から産出される逆抽出後有機O4中のコバルトの濃度を縦軸にとってグラフにプロットしたところ、正の相関関係があることが分かった。また、図4に示すように、抽出段S51から産出される抽出後有機O2中の質量比Fe/Coを横軸にとり、逆抽出段S53から産出される逆抽出後液A5中の鉄濃度を縦軸にとってグラフにプロットしたところ、正の相関関係があることが分かった。なお、図3のグラフ内のポイントの値は、操業日ごとに各サンプリングポイントから操業上の管理データとして3回サンプリングした有機相及び水相を蛍光X線分析することで得た金属元素濃度に基づくものである。
【0028】
これら図3及び4から、抽出後有機O2中の質量比Fe/Coがより低くなるように調整することで逆抽出後有機O4中のコバルト濃度を減少でき、且つ逆抽出後液A5中の鉄の濃度を減少できることが分かる。特に、質量比Fe/Coを0.09以下、より好ましくは0.07以下にすることで逆抽出後有機O4中に残留するコバルト濃度をばらつくことなく安定的に小さくすることができ、且つ逆抽出後液A5中の鉄濃度もばらつくことなく安定的に小さくすることができる。
【0029】
上記の抽出後有機O2中の質量比Fe/Coを小さくする方法としては、例えば抽出始液A1中の鉄濃度を低減してもよいし、又は該抽出後有機O2中のコバルト濃度を上昇させてもよい。抽出始液A1中の鉄濃度を低減するには、前述した脱鉄工程S4において、例えば酸化中和処理を行う処理槽でのセメンテーション終液の滞留時間を長くするなどにより可能となる。あるいはMCLEプロセスの原料となるニッケルマットやMSの品種やロットを適宜調整することで抽出始液A1中の鉄濃度を下げてもよい。一方、抽出後有機O2中のコバルト濃度を上昇させるには、例えば有機循環流量を調整して抽出段S51における有機相Oと水相Aの容量比O/Aを下げればよい。
【0030】
上記の質量比Fe/Coの調整法の具体例についてより詳しく説明すると、(1)抽出後有機O2の質量比Fe/Coが例えば0.09を超えていた場合、上記の脱亜鉛工程S54及び活性化工程S55で処理された分流が循環流に合流した後の有機相からなる抽出段S51に供給される直前の抽出剤O1と、抽出段S51に供給される一方の水相側の抽出始液A1と、抽出段S51に供給されるもう一方の水相側の洗浄後液A3とに対して各々鉄の濃度及びコバルトの濃度を測定し、(2)これら測定結果から抽出段S51における金属の分配比率を求め、状況に応じて適宜下記の操作を行えばよい。
【0031】
すなわち、抽出剤O1の鉄濃度が抽出後有機O2の鉄濃度とほぼ同等の場合は、逆抽出有機O4の分流量を増やして脱亜鉛工程S54でより多くの鉄を除去すればよい。一方、抽出剤O1の鉄濃度が抽出後有機O2の鉄濃度に比べて十分に低い場合は、これ以上分流して脱亜鉛工程S54で処理しても効果的ではないので、前述した抽出始液A1中の鉄濃度を低下させる操作を行えばよい。また、抽出剤O1の鉄濃度が抽出後有機O2の鉄濃度に比べて十分に低い場合であって且つ抽出始液A1の鉄濃度を更に下げるのが困難な場合は、前述した抽出後有機O2のコバルト濃度を上昇させる操作を行えばよい。
【0032】
なお、上記の抽出後有機O2中の質量比Fe/Coの下限値には特に限定はなく、低ければ低いほど効果は高くなる。よって、抽出始液A1中に鉄が含まれないように溶媒抽出工程S5よりも前段の工程を操作することが好ましい。しかしながら、抽出始液A1中の鉄濃度は通常は脱鉄工程S4の能力にほぼ依存し、ここでFe除去率100%を実現することは、設備能力や脱鉄工程S4におけるニッケルのロスを勘案すると実操業上は困難である。よって、一般的には図3及び4の実操業上のデータから判断して質量比Fe/Coの下限値は0.05程度である。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
図1に示すようなMCLEプロセスを行うことが可能な実操業プラントのうち、図2に示すような溶媒抽出処理を行うことが可能な溶媒抽出装置を用いて抽出始液としてコバルト及び不純物金属元素のCu、Zn、Feを有する塩化ニッケル水溶液を溶媒抽出処理し、塩化ニッケル水溶液及び塩化コバルト水溶液を作製した。上記溶媒抽出装置は、抽出3段、洗浄3段、及び逆抽出3段からなる向流多段方式のミキサセトラを用いた。このミキサセトラは循環系を含んだ有機溶媒の保有量が190mであった。上記抽出始液の組成をPANalytical社製の蛍光X線分析装置(型番Axios)を用いて測定したところ、ニッケルを160g/L、コバルトを7g/L、銅を0.02g/L、亜鉛を0.03g/L、鉄を12mg/Lそれぞれ含んでいた。
【0034】
一方、上記溶媒抽出処理に用いる有機溶媒には、3級アミン化合物のトリノルマルオクチルアミン(TNOA)を希釈剤としての芳香族炭化水素(丸善石油化学製:商品名スワゾール1800)で希釈したものを用いた。その際、容量基準でTNOA:希釈剤が28:72となるように配合した。そして、上記の抽出装置に上記抽出始液と有機溶媒とを容量比O/A=1.00となるように供給することで試料1の抽出後有機O2を作製した。
【0035】
その結果、この試料1の抽出後有機O2中の質量比Fe/Coは0.049であった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は0.188mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は検出できなかった。
【0036】
上記抽出始液と有機溶媒とを容量比O/A=1.03となるように供給した以外は上記試料1と同様にして試料2の抽出後有機O2を作製した。この試料2の抽出後有機O2中の質量比Fe/Coは0.072であった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は0.172mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は検出できなかった。
【0037】
上記抽出始液と有機溶媒とを容量比O/A=1.07となるように供給した以外は上記試料1と同様にして試料3の抽出後有機O2を作製した。この試料3の抽出後有機O2中の質量比Fe/Coは0.093であった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は0.188mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は検出できなかった。
【0038】
上記抽出始液と有機溶媒とを容量比O/A=1.10となるように供給した以外は上記試料1と同様にして試料4の抽出後有機O2を作製した。この試料4の抽出後有機O2中は質量比Fe/Coが0.103であった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は1.317mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は0.330mg/Lであった。
【0039】
上記抽出始液と有機溶媒とを容量比O/A=1.11となるように供給した以外は上記試料1と同様にして試料5の抽出後有機O2を作製した。この試料5の抽出後有機O2中は質量比Fe/Coが0.105であった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は0.380mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は0.060mg/Lであった。上記試料1〜5の結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1の結果から、抽出段の有機相Oと水相Aの容量比O/Aにより抽出後有機中の質量比Fe/Coを調整できることが分かる。また、該質量比Fe/Coを0.09以下にすることで逆抽出液中のFe濃度を抑えつつ逆抽出後有機中のCo濃度を安定的に抑えうることが分かる。特に該質量比Fe/Coを0.07以下にすることで逆抽出液中のFe濃度を大きく低減できることが分かる。
【0042】
[実施例2]
図1に示す脱鉄工程S4において酸化中和処理を行う処理槽でのセメンテーション終液の滞留時間を1.9倍長くしたところ、抽出始液の鉄濃度が11mg/Lから6mg/Lに低減した。この鉄濃度が低減した抽出始液を用いたこと以外は上記実施例1の試料4の場合と同様にして溶媒抽出処理を行ったところ、抽出後有機O2中の質量比Fe/Coが0.098となった。この時、逆抽出後液A5中のFe濃度は0.83mg/L、逆抽出後有機O4中のCo濃度は0mg/Lであった。このことから、抽出始液のFe濃度により抽出後有機の質量比Fe/Coを調整できることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
S1 塩素浸出工程
S2 粉砕工程
S3 セメンテーション工程
S4 脱鉄工程
S5 溶媒抽出工程
S6 ニッケル浄液工程
S7 ニッケル電解工程
S8 コバルト浄液工程
S9 コバルト電解工程
S51 抽出段
S52 洗浄段
S53 逆抽出段
S54 脱亜鉛工程
S55 活性化工程
A1 抽出始液
A2 抽出後液
A3 洗浄後液
A4 希塩酸水溶液
A5 逆抽出後液
O1 抽出剤
O2 抽出後有機
O3 洗浄後有機
O4 逆抽出後有機
図1
図2
図3
図4