【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 特定非営利活動法人 日本歯周病学会発行の日本歯周病学会会誌 第59巻秋季特別号、平成29年11月28日 特定非営利活動法人 日本歯周病学会開催の平成29年度日本歯周病学会60周年記念京都大会、平成29年12月15日〜17日開催
【解決手段】正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養して、歯周病様状態を誘導する誘導工程を有する、歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの製造方法。
正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養して、歯周病様状態を誘導する誘導工程を有する、歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの製造方法。
前記誘導工程において、前記正常状態の三次元歯肉上皮モデルの角化組織側に前記病原因子および病原細菌の少なくとも一方を添加して培養する、請求項1に記載の製造方法。
前記正常状態の三次元歯肉上皮モデルが、正常ヒト歯肉上皮細胞をポリカーボネートフィルター上で気液界面培養することにより構築されたものである、請求項1または2に記載の製造方法。
前記誘導工程後、炎症性因子の放出量を測定する工程および歯肉細胞の組織学的な変化を測定または観察する工程の少なくとも一方をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、生活習慣病の一つで、口腔内の細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患である。歯垢中の細菌により歯肉組織に炎症が引き起こされ、近年ではこの歯肉の炎症が、脳梗塞、動脈硬化、糖尿病をはじめとする全身疾患と関係するとされていることから、歯周病を予防する事が全身の生活習慣病を予防することにつながると考えられている。
【0003】
歯周病の予防、治療法を評価するにあたっては、動物の歯周組織を摘出する手法(特許文献1)や、ヒト臨床試験が一般的である。しかし、このような方法では、予防・治療剤のスクリーニングを同時に多検体で行うことは困難であったり、試験費用が非常に高額であったり、さらに動物試験では、個体差によるバラツキが多く、実施施設により実験結果に差が生じやすいといった問題があった。また近年、動物愛護の観点からも動物実験に代わる試験法の開発が望まれている。
【0004】
上記問題に対し、近年、細胞を用いた試験法に関する研究が進められている。歯肉関連細胞を用いた研究として、歯肉組織から採取した細胞を培養し、メカニズム解明や基礎研究がおこなわれている。歯肉上皮細胞の単層培養系においては、細菌内毒素などを培地に添加し、炎症応答を得る評価方法は細胞の取扱いが容易であり、費用も安いことから広く用いられている(非特許文献1〜4)。ただしこれらの単層培養系では、細胞の分化形態は一様であり、単層のみからなり角化層を有していないため、1層のみからなる細胞レベルでの応答確認にとどまり、立体的な組織としての応答を評価することが困難であった。さらに培地に浸漬した状態での維持となり口腔内の環境を必ずしも模していないという問題があった。
【0005】
一方、化粧品など皮膚研究の分野では、動物実験に代わる実験方法の1つとして、三次元に構築された人工皮膚モデルを用いたin vitro試験が普及しており、様々なタイプの人工皮膚モデルの作製およびこれらを用いた試験方法について研究されている。
【0006】
オーラルケア分野では、動物実験が一般的であった背景もあり、歯肉上皮細胞を立体構築した三次元組織モデルについては十分に研究されていない。しかし、歯肉上皮細胞においても、気層培養することで角化層を有する三次元構築されたモデルを誘導することが可能である。例えば、乾燥羊膜を支持体として培養重層上皮シートを作製する方法(特許文献2)が報告されているが、乾燥羊膜がヒトを含む動物の胎児を包む生羊膜由来であり、大学等での研究に留まり、一般的な評価法としては普及していない。細胞を積層化する培養法は難易度が高く、品質やクオリティコントロールが非常に難しい。そこで、一定のクオリティコントロールのされている三次元歯肉上皮モデルを用いて、安定的に歯周病様の炎症誘導を行うことができれば、歯周病の予防・治療研究に有用であり、動物愛護の観点からも、三次元歯肉上皮モデルの活用が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。
【0016】
<歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの製造方法>
本発明の一形態は、正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養して、歯周病様状態を誘導する誘導工程を有する、歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの製造方法である。
【0017】
本発明に係る製造方法は、正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養して、歯周病様状態を誘導する誘導工程を有する。
【0018】
三次元歯肉上皮モデルとは、ヒト歯肉上皮にきわめて類似した組織学的形態を有する人工再生組織モデルであり、角化組織を有する。歯周病様状態とは、歯周病様の炎症が誘導された状態であり、後述するように、炎症性因子の放出量の増加、細胞接着の脆弱化や細胞形状の変化などの歯肉細胞の組織学的な変化などによって、判断することができる。一方、正常状態とは、健康なヒト歯肉上皮と類似した組織学的形態の状態であり、少なくとも炎症の症状を有さない状態である。
【0019】
正常状態の三次元歯肉上皮モデルは、正常ヒト歯肉上皮細胞をポリカーボネートフィルター上などで気液界面培養することにより構築されたものであることが好ましい。これにより、健常なヒト歯肉上皮にきわめて類似した組織学的形態を有する三次元歯肉上皮モデルを製造することができる。また、歯肉上皮モデルが三次元の組織モデルであること、すなわち歯肉上皮細胞が積層されていることは、顆粒層でのフィラグリンの発現、基底層上部でのケラチン6、ケラチン10、ケラチン13、ケラチン16の発現などの組織学的な形態を確認することで判断することができる。このような正常状態の三次元歯肉上皮モデルの市販品としては、SkinEthic(登録商標) HGE(株式会社ニコダームリサーチ)などが挙げられる。
【0020】
本発明に係る製造方法では、上記正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養することを有する。これにより、効果的に歯肉上皮細胞を歯周病様状態へと誘導することができる。
【0021】
病原因子としては、歯周病を誘導できる物質であれば、特に制限されず、例えばリポ多糖(LPS)などの細菌内毒素、膜タンパク(OMP)、Polyinosine−polycytidylic acid(Poly(I:C))などの病原細菌の構成成分などが挙げられる。これらの病原因子としては、細菌由来のものを使用できる。病原因子が由来する細菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タンネレラ・ファーサイシア(Tannerella forsythia)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)などの歯周病原細菌;大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。病原因子は、好ましくはLPS、OMPおよびPoly(I:C)から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはLPSである。
【0022】
病原因子は、ヒト口腔内から採取された口腔内細菌やヒト体内から採取された病原細菌、これらの細菌由来の成分などを超音波処理により微細化する方法で調製することができる。また、市販品を用いることもでき、例えばLipopolysaccharide,from E.coli O111(富士フイルム和光純薬株式会社)、LPS−PG(LPS P.gingivalis由来)(ナカライテスク株式会社)などが挙げられる。
【0023】
培地に含まれる病原因子の量は、歯周病様状態を誘導することができれば特に制限されないが、例えば0.01〜1000μg/mLであり、好ましくは10〜500μg/mLであり、より好ましくは50〜200μg/mLである。
【0024】
病原細菌としては、公知の歯周病状態を誘導できる細菌を使用できる。病原細菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)などが挙げられる。
【0025】
培地に含まれる病原細菌の量は、歯周病様状態を誘導することができれば特に制限されないが、例えば1.0×10
4〜1.0.×10
9CFU/モデルであり、好ましくは1.0×10
6〜1.0×10
8CFU/モデルである。
【0026】
培地としては、三次元歯肉上皮モデルを維持培養できる維持培地であれば、特に制限されない。例えば、三次元歯肉上皮モデルとしてSkinEthic(登録商標) HGE(株式会社ニコダームリサーチ)を使用する場合、同モデル専用であるMAINTENANCE MEDIUM、必要に応じてGROWTH MEDIUMを維持培地として使用できる。
【0027】
三次元歯肉上皮モデルの培養方法は、特に制限されず、培養する三次元歯肉上皮モデルに応じて適宜選択できる。ヒト歯肉上皮細胞を用いた三次元歯肉上皮モデルの場合、培養温度は、通常、36〜38℃程度であり、好ましくは約37℃である。培地のpHは、特に制限されないが、通常6〜8程度である。培養時間は、特に制限されず、使用する病原因子および病原細菌によって異なるが、歯周病様の炎症が誘導されればよく、例えば1時間〜7日間である。細菌内毒素を用いる場合、培養時間は、通常24時間以上であり、好ましくは24〜96時間であり、より好ましくは40〜80時間である。
【0028】
正常状態の三次元歯肉上皮モデルが歯周病様状態に誘導されたことは、炎症性因子の放出量や歯肉細胞の組織学的な変化により確認できる。
【0029】
ヒト口腔内における歯周病状態では、炎症性因子の放出量が増加し炎症状態になることや、細胞接着の脆弱化、細胞形状の変化といった組織学的な変化が知られている。
【0030】
したがって、本発明に係る製造方法において、上記誘導工程後、炎症性因子の放出量を測定する工程および歯肉細胞の組織学的な変化を測定または観察する工程の少なくとも一方をさらに有することが好ましい。
【0031】
炎症性因子としては、TNFα(腫瘍壊死因子、Tumor Necrosis Factor α)、インターロイキン類(IL−1α、IL−1β、IL−1lra、IL−6、IL−7、IL−10、IL−11、IL−12)、ケモカイン類(IL−8、MGSA/Gro、γIP−10、MCP−1/MCAF)、コロニー刺激因子(GM−CSF、G−CSF、M−CSF)、増殖因子(TGF−α、TGF−β、bFGF、PDGF、PD−ECGF、VEGF/VPF、NGF)、インターフェロン(IFN−α、IFN−β)、プロスタグランジン(PGE2)、エンドセリン(ET)などが挙げられる。炎症性因子は、好ましくはTNFα、およびインターロイキン類である。これらの炎症性因子の放出量の増加は、炎症状態であることを示し、よって三次元歯肉上皮モデルが歯周病様状態に誘導されたことを判断できる。
【0032】
炎症性因子の放出量は、ELISA法を用いて測定することができる。炎症性因子の放出量がコントロールの炎症性因子の放出量と対比して有意に多いときに、正常状態の三次元歯肉上皮モデルが歯周病様状態に誘導されていると判断することができる。「有意」のレベルは、統計的に適宜設定でき、例えば有意水準として5%(0.05)といった基準を設定できる。
【0033】
細胞接着の脆弱化とは、細胞接着因子の減少により、細胞間の接着力が弱まり、細胞同士の結合が緩くなり、組織として崩れやすくなった状態を指す。このような細胞接着の脆弱化は、細胞凍結切片の組織像観察、ギャップジャンクションやタイトジャンクション(ZO−1、オクルディン、クローディン)およびアドヘレンスジャンクション(カドヘリン、特にE−カドヘリン)や接着分子(PECAM、ICAM−1、ELAM−1、VCAM−1、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン)など細胞接着因子の測定または組織染色像による観察、バリア機能の評価として一般的な経上皮電気抵抗(TEER)またはそれに代わるイオンインデックス(P値)の測定により確認できる。
【0034】
組織像観察、組織染色像による観察および経上皮電気抵抗(TEER)は、従来公知の手法を用いることができる。細胞接着因子の測定には、例えばELISA法を使用できる。また、イオンインデックス(P値)とは、高感度角層膜厚・水分計を用いて交流印加により測定され、角層の厚さやバリア機能の指標となる値である。本形態の製造方法において、P値は、70以上であり、好ましくは80以上であり、より好ましくは100以上であり、さらに好ましくは200以上である。
【0035】
すなわち、「歯肉細胞の組織学的な変化を測定または観察する工程」とは、細胞凍結切片の組織像観察、細胞接着因子の測定、組織染色像による観察、経上皮電気抵抗(TEER)の測定およびイオンインデックス(P値)の測定の少なくとも一つを実施することを意味する。
【0036】
正常状態の三次元歯肉上皮モデルが歯周病様状態に誘導されたことを判断する場合、複数の測定および観察を組み合わせることが好ましい。好ましい組み合わせとしては、組織染色像による観察およびP値の測定である。
【0037】
一実施形態では、誘導工程において、正常状態の三次元歯肉上皮モデルの角化組織側に病原因子および病原細菌の少なくとも一方を添加して培養してもよい。角化組織側および培地側の双方に病原因子および病原細菌の少なくとも一方を添加することにより、より顕著な歯周病状態を誘導することができる。
【0038】
図2は、一実施形態で使用する培養用プレートの模式図である。
図2に示すように、ウェル(プレート)3には、三次元歯肉上皮モデルのウェル2が配置され、正常状態の三次元上皮モデル(細胞部分)1と接触するように病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地4が充填されている。必要に応じて、正常状態の三次元上皮モデル(細胞部分)1の上部(角化組織側)に病原因子および病原細菌の少なくとも一方を添加してもよい。
【0039】
本発明の一実施形態は、本発明に係る製造方法により製造された、歯周病様状態の三次元上皮モデルである。歯周病様状態の三次元上皮モデルは、in vitroでの歯周病様状態を再現することができ、ヒトや動物を用いることなく、個体値や歯周病の程度のバラツキが抑えられ、再現性の高い試験評価を行うことができる。また、安定的に複数のモデルに対して歯周病様状態を再現できることから、歯周病に対する予防・治療に関わる成分および/または改善作用のある成分を含む薬剤や組成物がもつ作用の評価や開発を効率よく行うことができる。
【0040】
したがって、本発明の一実施形態は、本発明に係る製造方法により製造された歯周病様状態の三次元上皮モデルを用いる、被験物質を評価またはスクリーニングする方法である。具体的には、前記被験物質の存在下、前記歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを培養する。この際、コントロールとして、被験物質の非存在下で培養した歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを用いることが好ましい。被験物質の存在下および非存在下で培養した歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを比較することにより、被験物質の有用性、安全性などを判断することができる。被験物質の評価およびスクリーニングは、培養後、炎症性因子の放出量を測定したり、細胞接着の脆弱化、細胞形状の変化といった組織学的な変化を調べたりすることにより、行うことができる。コントロールと比較して、炎症性因子の放出量の低下、接着の脆弱化の抑制により、被験物質の有用性を評価できる。
【0041】
被験物質の評価またはスクリーニング方法では、好ましくは被験物質の存在下、必要に応じて非存在下で、歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを培養することを有する。
【0042】
被験物質としては、特に制限されないが、鎮痛・消炎・抗炎症薬(NSAID、ステロイドなど)、抗生物質、動植物からの抽出物、生薬、核酸、糖類、糖アルコール、ポリペプチドなどを挙げることができる。被験物質は、新規なものであっても、公知のものでもよい。
【0043】
<三次元歯肉上皮モデルにおける歯周病様状態を誘導する方法>
本発明の別の形態は、正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養することを有する、三次元歯肉上皮モデルにおける歯周病様状態を誘導する方法である。
【0044】
本発明に係る三次元歯肉上皮モデルにおける歯周病様状態を誘導する方法において、正常状態の三次元歯肉上皮モデルを、病原因子および病原細菌の少なくとも一方を含む培地で培養する方法は、上記本発明に係る製造方法と同じ方法が用いられる。よって、ここでは、詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
【0046】
実施例1:大腸菌(E.coli)由来LPSによる歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの作製
1.試験概要
E.coli由来LPSを用いて歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを作製して、炎症性因子の放出量と組織学上の変化を確認した。
【0047】
2.試験試料
三次元歯肉上皮モデル:SkinEthic(登録商標) HGE(株式会社ニコダームリサーチ)
細菌内毒素:Lipopolysaccharide, from E.coli O111(富士フイルム和光純薬株式会社)
PBS(−):リン酸緩衝生理食塩水。
【0048】
3.試験方法
SkinEthic(登録商標) HGE(以下、「HGE」とも称す)を製造会社のプロトコルに従って、維持培地(MAINTENANCE MEDIUM)を添加したプレートにて一晩馴化した。培地として、維持培地(コントロール)または50、100もしくは200μg/mLのLipopolysaccharide, from E.coli O111(以下、「E.coli LPS」とも称す)を含有する維持培地を別のプレートに1mL添加して、馴化したHGEを設置した。設置後、PBS(−)150μLをHGE上部に適用して、37℃にて培養を開始した。48時間培養後、培地を維持培地に交換した。HGE上部のPBS(−)を除去した後、PBS(−)を150μL適用し、さらに24時間培養した(72時間培養)。
【0049】
48時間培養後の培地および72時間培養後の培地を回収して、培養上清中の炎症性因子(48時間培養後:TNFα、IL−6およびIL−8、72時間培養後:TNFαおよびIL−8)の量を、ELISA法(R&Dシステムズ社)を用いて測定した。バリア機能は、角層膜厚・水分計ASA−MX100(日本アッシュ株式会社)を用いて、P値(イオンインデックス)を測定した。測定後の三次元歯肉上皮モデルから凍結切片を作成して組織像を顕微鏡(カールツァイス社製、倍率:100)を用いて観察した。有意差検定は、Student t検定を行い、コントロールと比較評価した。
【0050】
72時間培養後のHGEの細胞生存率をアラマブルー法にて評価したところ、細胞生存率は、ほぼ100%であった(データ示さず)。
【0051】
4.結果
回収した培地中の炎症性因子の測定結果を表1〜3に示す。培養48時間後のE.coli LPSを含む培地では、TNFα、IL−6およびIL−8の有意な増加が認められた(表1〜3)。維持培地(E.coli LPS未含有培地)に交換して、さらに24時間培養した培地では、TNFαおよびIL−8の有意な増加が維持されていることが確認された(表1および3)。72時間培養終了後のHGEのP値は有意に増加し(表4)、組織切片像においても細胞接着の脆弱化を確認した(
図1)。これらの変化は歯周病に見られる特徴である。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
実施例2:大腸菌(E.coli)由来LPSによる歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを用いた薬剤の有用性評価
1.試験概要
歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを用いた抗炎症剤の有用性を評価した。
【0057】
2.試験試料
三次元歯肉上皮モデル:SkinEthic(登録商標) HGE(株式会社ニコダームリサーチ)
細菌内毒素(LPS):Lipopolysaccharide, from E.coli O111(富士フイルム和光純薬株式会社)
抗炎症剤:グリチルリチン酸ジカリウム
PBS(−):リン酸緩衝生理食塩水。
【0058】
3.試験方法
SkinEthic(登録商標) HGE(以下、「HGE」とも称す)を製造会社のプロトコルに従って、維持培地(MAINTENANCE MEDIUM)を添加したプレートにて一晩馴化した。培地として、維持培地(コントロール)または50、100もしくは200μg/mLのLipopolysaccharide, from E.coli O111(以下、「E.coli LPS」とも称す)を含有する維持培地を別のプレートに1mL添加して、馴化したHGEを設置した。設置後、PBS(−)150μLをHGE上部に適用して、37℃にて培養を開始した。48時間培養後、培地を維持培地に交換した。HGE上部のPBS(−)を除去した後、0.01質量%のグリチルリチン酸ジカリウムを含有する薬剤溶液またはPBS(−)を150μL適用して、さらに24時間培養した。培養上清中の炎症性因子(TNFαおよびIL−8)の量を、ELISA法(R&Dシステムズ社)を用いて測定した。有意差検定は、Student t検定を行い、コントロールと比較評価した。
【0059】
4.結果
回収した培地中の炎症性因子の測定結果を表5および6に示す。歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルでは、TNFαおよびIL−8が増加したのに対し、歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルに薬剤を24時間適用することで炎症性因子の放出量を抑える作用が確認された。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
実施例3:ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)由来LPSによる歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルの作製
1.試験概要
P.gingivalis由来LPSを用いて歯周病様状態の三次元歯肉上皮モデルを作製して、炎症性因子の放出量と組織学上の変化を確認した。
【0063】
2.試験試料
三次元歯肉上皮モデル:SkinEthic(登録商標) HGE(株式会社ニコダームリサーチ)
細菌内毒素:LPS−PG(LPS P.gingivalis由来)(ナカライテスク株式会社)
PBS(−):リン酸緩衝生理食塩水。
【0064】
3.試験方法
SkinEthic(登録商標) HGE(以下、「HGE」とも称す)を製造会社のプロトコルに従って、維持培地(MAINTENANCE MEDIUM)を添加したプレートにて一晩馴化した。培地として、維持培地(コントロール)または200μg/mLのLPS−PG(LPS P.gingivalis由来)(以下、「P.gingivalis LPS」とも称す)を含有する維持培地を別のプレートに1mL添加して、馴化したHGEを設置した。設置後、PBS(−)150μLをHGE上部に適用して、37℃にて48時間培養した。
【0065】
48時間培養後の培地を回収して、培養上清中の炎症性因子(TNFα、IL−8)の量を、ELISA法(R&Dシステムズ社)を用いて測定した。バリア機能は、角層膜厚・水分計ASA−MX100(日本アッシュ株式会社)を用いて、P値(イオンインデックス)を測定した。48時間培養後のHGEの細胞生存率をアラマブルー法にて評価したところ、細胞生存率は、ほぼ100%であった(データ示さず)。
【0066】
4.結果
回収した培地中の炎症性因子の測定結果を表7〜9に示す。培養48時間後のP.gingivalis LPSを含む培地では、TNFαおよびIL−8の有意な増加が認められた(表7および8)。培養48時間後のHGEのP値は有意に増加した(表9)。
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】