【課題】 夏季の高温下において十分な初期強度を発現し、水和活性が優れて良好な急硬性能を示すと同時に所定の流動性を有し十分な可使時間を確保することができる、セメント組成物及びその製造方法、並びにセメントモルタルの製造方法を提供する。
【解決手段】 セメント組成物は、C12A7系鉱物相を70質量%以上で含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを含有し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中C12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれ、更に、前記カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)であり、前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含む。
C12A7系鉱物相を70質量%以上で含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを含有し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中C12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれ、更に、前記カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)であり、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含むことを特徴とする、セメント組成物。
請求項1記載のセメント組成物において、前記C12A7系鉱物相はC11A7CaX2(Xはハロゲン)及びC12A7の混合相であることを特徴とする、セメント組成物。
C12A7系鉱物相を70質量%以上で含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを含有し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中C12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれ、更に、前記カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)となるように、前記カルシウム塩と石膏とホウ酸を配合し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含むように配合することを特徴とする、セメント組成物の製造方法。
請求項3記載のセメント組成物の製造方法において、セメント用急硬性添加材は、原料を粉末化および混合して成形し、1250〜1400℃で焼成して冷却速度40℃/分以下で冷却することにより製造されることを特徴とする、セメント組成物の製造方法。
請求項1又は2記載のセメント組成物と、水とを混合してモルタルを調製するにあたり、セメント組成物中のグルコン酸塩と酒石酸又は酒石酸塩とを予め水に溶解させて、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと混合することを特徴とする、セメントモルタルの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや地下空間の建設工事では、モルタルやコンクリート等のセメント混合物を、壁面や露出面に吹き付けてライニングし、壁面や露出面の崩落を防止する吹き付け施工工法が広く実施されている。
かかるコンクリート吹き付け工法においては、コンクリート等を調製し、それを取り扱う際に必要な最低限の可使時間(ハンドリングタイム)を確保するとともに、壁面や露出面に吹き付けた後に、コンクリート等を即時に硬化させる必要がある。
また、止水工事や緊急工事においても、モルタルやコンクリートの可使時間を確保するとともに、即時に硬化させる必要がある。
【0003】
従来、急硬性を有するセメントとして、ジェットセメント等の急硬性セメントがある。これらのセメントに使用されるクリンカとして、ジェットセメントクリンカ、C4A3SO
3を主成分とするアーウィン系クリンカ、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカ等がある。
また、急硬性成分であるC12A7を主成分としたクリンカを溶融し、その後これを急冷することによって、非晶質C12A7を得る方法もある。
【0004】
特に、従来のジェットセメントクリンカは、カルシウムシリケート相を主成分とし速硬性成分としてC11A7・CaF
2を約20〜30質量%含有するクリンカであり、C11A7CaF
2やC4AF等の融液相を生成させてなるものである。従って、急硬性成分であるC12A7の含有量を、上記範囲以上とすると、融液相が多くなりすぎ、クリンカが溶融してしまい、例えば実機設備での製造が非常に困難となる。
【0005】
アーウィン系クリンカは、急硬性を有するアーウィン(C4A3SO
3)を70質量%以上含有することから急硬性セメント用クリンカとして利用されているが、その急硬性成分の特性により、特に低温での急硬性に劣るという問題がある。
更に、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカは、C12A7を主成分としたクリンカに比べると、急硬性が劣る。
【0006】
一方、セメント組成物としては、ポルトランドセメントに、急硬性を付与するためにカルシウムアルミネートと石膏とを配合することが、従来より行われてきた。
しかし、カルシウムアルミネートと石膏の急硬性成分を含有するセメント組成物は、十分な急硬性を得るとともに、十分な流動性を有して可使時間を確保することが難しかった。
【0007】
そこで、特開2014−201462号公報(特許文献1)には、CaO35〜50質量%、Al
2O
335〜50質量%及びSiO
27〜18質量%の化学組成で非晶質度が70%以上の超速硬性クリンカを粉砕してなる、ブレーン比表面積4000〜9000cm
2/g、30μm超の粒子の含有率が5質量%以下で、さらに、1.0μm未満の粒子の含有率が5質量%以下の超速硬性クリンカ粉砕物100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有するセメント組成物が、特開2014−196245号公報(特許文献2)には、セメント、水、亜硝酸カルシウム、ポリカルボン酸系減水剤及びメラミン系減水剤を含み、セメント100重量部に対して、亜硝酸カルシウム2〜5重量部、ポリカルボン酸系減水剤0.1〜2.5重量部、メラミン系減水剤0.1〜2.5重量部を含む、セメント組成物が開示されている。
【0008】
しかし、水和反応を促進して、所望する急硬性、例えば3時間強度を十分に得ることができ、セメントの流動性を十分に確保することは難しく、これは必要な適量の融液相を生成させる条件と、急硬性成分の固溶状態、すなわち水和活性を最大とする条件とが必ずしも一致しないからであり、急硬性成分の水和活性を最大とする設計は困難であった。
更に、水和反応を促進するとともに、流動性を確保して施工性を良好にすることは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメント組成物は、C12A7系鉱物相を70質量%以上で含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを含有し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してC12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれ、更に、前記カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)であり、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含む、セメント組成物である。
【0020】
好適には、上記本発明のセメント組成物において、前記C12A7系鉱物相はC11A7CaX
2(ハロゲン)及びC12A7の混合相であることが望ましい。
【0021】
本発明のセメント組成物に含まれるセメント用急硬性添加材には、カルシウムアルミネート相であるC12A7系鉱物相が70質量%以上含まれ、好適には83質量%以上含まれる。
本発明のセメント組成物に含まれるセメント用急硬性添加材は、製造時に原料粉末を成型する成型工程等を導入して特定の温度範囲で焼成・冷却することにより固相反応を促進させるための融液相生成の制御を必要とせず、急硬性成分であるC12A7系鉱物相の水和活性を最大とすることが可能となる。
【0022】
従って、C12A7系鉱物相を高含有量で含み且つ水和活性を向上させることができ、その結果、上記本発明の効果を十分に奏することができるものとなる。
上記C12A7系鉱物相の含有量が70質量%未満であると、十分な急硬性が得られず、初期強度が低下してしまい、本発明の上記効果が得られない。
ここで、C12A7系鉱物相には、C12A7やC11A7・CaX
2(Xは、F、Cl、Br等のハロゲン)が該当し、またこれらの混合相であってもよい。
なお、本発明に用いるセメント用急硬性添加材には実質的にアーウィンは含まれない。
【0023】
本発明のセメント組成物に含まれるカルシウムアルミネート相であるC12A7系鉱物相は、上記したように、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%で含有される。
C12A7系鉱物相を上記含有量で含むことで、常温のみならず高温下においても十分な急硬性や優れた初期強度が得られるとともに、所望する十分な可使時間を有する、本発明の上記効果を得ることが可能となる。
また、本発明のセメント組成物中におけるカルシウムアルミネート相であるC12A7系鉱物相の含有量は、例えば、下記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0024】
C12A7系鉱物は、X線回折により測定したC12A7系鉱物相は、望ましくは結晶子径が150〜500nm、更に望ましくは150〜300nmであることが好ましい。
C12A7系鉱物相の結晶子径がかかる範囲であると、より優れた初期強度発現性及び可使時間を確保でき、良好な流動性等を得ることができる。
前記結晶子径は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:ブルカー社製D4 Endeavor、解析ソフト:Topas)を用いて測定した数値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0025】
また、C12A7系鉱物は、X線回折により測定したC12A7系鉱物相の格子定数が、望ましくは11.940〜11.975Åのものである。
格子定数をかかる範囲とすることで、流動性をより有効に確保するとともに、より優れた急硬性を有する上記本発明の効果を奏することができる。
前記格子定数は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、測定した値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0026】
本発明のセメント組成物に含有される石膏(硫酸カルシウム)としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、またはこれらの混合物が例示できる。
かかる石膏は、セメント組成物中、石膏/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)、好ましくは60〜140(質量%)となるような含有量で含まれる。但し、前記石膏含有量は、すべてCaSO
4(無水石膏)に換算した合量として算出される量である。
かかる質量比とすることで、初期強度発現性および可使時間を確保でき、良好な流動性を得ることができる。
また、セメント用混和組成物中における石膏の含有量は、例えば、上記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0027】
また、本発明のセメント組成物に含有される硫酸アルカリ化合物としては、例えば、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩を例示することができる。
かかる硫酸アルカリ化合物の含有量は、JCAS I−04に準じて、Na量やK量を測定して、すべてNa
2SO
4換算に換算した合量とし、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中0.5〜1質量%、好ましくは0.6〜1質量%で含有されることが望ましい。
かかる質量比とすることで、初期強度発現性および可使時間を確保でき、良好な流動性を得ることができる。
【0028】
さらに本発明のセメント組成物に含まれる、石膏を除くカルシウム塩としては、例えば、消石灰、生石灰等の水に難溶性ではない塩を用いることができるが、水酸化カルシウムが望ましく、カルシウム塩は全て水酸化カルシウムに換算し、セメント組成物中、石膏を除くカルシウム塩/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、好ましくは5〜35(質量%)となるような含有量で含まれる。
但し、前記石膏含有量は、すべて水酸化カルシウムに換算した合量として算出される量である。
かかる質量比とすることで、良好な初期強度発現性を確保することができる。
また、得られたセメント組成物中におけるカルシウム塩(水酸化カルシウム換算)の含有量は、例えば、上記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0029】
更に本発明のセメント組成物に含まれる、ホウ酸は、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7質量%、好ましくは2〜6質量%となるような含有量で含まれる。
かかる質量比とすることで、初期強度発現性および可使時間を確保でき、良好な流動性を得ることができる。
【0030】
また、本発明のセメント組成物に含まれるセメントは、市場で入手できる任意のセメントを適用することができ、例えば、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等から選ばれる少なくとも1種類を例示することができる。
【0031】
更に、本発明のセメント組成物には、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とが含有され、本発明のセメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中に対して外割で、グルコン酸塩(グルコン酸換算)を0.05〜0.6質量%及び前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)を0.05〜0.6質量%含むものである。
これにより、本発明のセメント組成物は、常温のみならず高温下においても、初期強度発現性に優れ、可使時間を十分に確保する流動性を有することができるものとなる。
【0032】
本発明のセメントモルタル組成物に含まれるグルコン酸塩としては、例えばグルコン酸、グルコン酸ナトリウム等が例示される。
また、酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が例示される。
【0033】
本発明のセメント組成物は、上記セメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを上記含有割合や含有比率で含むことにより、常温のみならず、高温下においても、初期強度発現性に優れるとともに、流動性を確保して施工性を良好にすることもできるものとなる。
【0034】
また、本発明のセメント組成物には、上記効果を害さない範囲であれば、必要に応じて、例えば、減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)や、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を含有することができる。
【0035】
上記本発明のセメント組成物を製造する方法は、
C12A7系鉱物相を70質量%以上で含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩と、ホウ酸と、セメントと、グルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを含有し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中C12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれ、更に、前記カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)となるように、前記カルシウム塩と石膏とホウ酸を配合し、
前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含むように配合する、セメント組成物の製造方法である。
【0036】
セメント組成物に配合されるセメント用急硬性添加材は、生石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、蛍石等のフッ素原料、必要に応じて配合されるドロマイト等のマグネシウム原料等を配合して混合し、粉砕し、または粉砕して混合し、この粉末配合物を成形して成形体を得て、これを電気炉等の加熱炉を用いて焼成し、冷却して、セメント用急硬性添加材を調製する。
【0037】
なお、得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeの原料となるもの(例えば、ベンガラ等)は積極的に配合しない。配合するセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeは、上記配合原料中に不純物として含有されることにより、結果として含まれる場合もあるもので、積極的に含有されるものではない。
すなわち、セメント用急硬性添加材は、一定量の融液相の生成を必要としないため、融液相の生成に関係があるFeやTiを積極的に含む必要がないからである。
【0038】
セメント用急硬性添加材は、配合原料を粉末化して混合し、混合粉末を成形して得られた成形体を、例えば1250〜1400℃、好ましくは1300〜1360℃の温度で十分に、例えば0.5〜3時間焼成し、次いで40℃/分以下、好ましくは5〜40℃/分の冷却速度により冷却することで製造することができる。
このようにして得られたセメント用急硬性添加材は、一定量の融液相の生成を必要とすることがないため、C12A7系固溶体の水和活性が十分に発現することができるように、C12A7を70質量%以上で含む。
【0039】
特に、セメント用急硬性添加材は、ブレーン比表面積が4500cm
2/g以上に粉砕して用いることが好ましく、これにより、更に、良好な急硬性が得られることとなる。
また、ブレーン比表面積は、大きくしすぎると流動性に悪影響を及ぼし、粉砕時間を要して生産性が低下しコスト高になるので、5000〜7000cm
2/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0040】
上記セメント組成物は、上記セメント用急硬性添加材を粉末状にし、更に石膏と、硫酸アルカリ化合物と、石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントとグルコン酸と、酒石酸又は酒石酸塩とを、セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量中C12A7系鉱物が5〜40質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.5〜1質量%含まれるように配合するとともに、セメント組成物中前記カルシウム塩/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が3〜40(質量%)、石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が50〜150(質量%)で、ホウ酸/C12A7系鉱物相の含有量の質量比が1.5〜7(質量%)となるように、前記カルシウム塩と石膏とホウ酸を配合し、更に前記セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と前記カルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対してグルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含むように配合するが、均一に配合することができれば、特にその混合方法は限定されず、任意の混合方法を用いることが可能である。
【0041】
前記石膏含有量は、すべてCaSO
4(無水石膏)に換算した合量として算出される量であり、また、硫酸アルカリ化合物の含有量は、JCAS I−04に準じて、Na量やK量を測定して、すべてNa
2SO
4換算に換算した合量であり、カルシウム塩はすべて水酸化カルシウムに換算した合量である。
【0042】
具体的には、セメント、石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩及びホウ酸を予め混合して得られた混合物にセメント用急硬性添加材を添加混合し、これにグルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とを配合しても、セメント、石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩、ホウ酸及びセメント用急硬性添加材並びにグルコン酸塩及び酒石酸及び/又は酒石酸塩とを同時に混合しても、均一に混合できればいずれの方法も用いることができる。
【0043】
また、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とは、上記したように、セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総質量に対して外割で、前記グルコン酸塩(グルコン酸換算)が0.05〜0.6質量%、前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)が0.05〜0.6質量%含まれるように配合する。
【0044】
更に、必要に応じて、例えば、減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)や、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。
【0045】
また、本発明のセメント組成物を用いて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等を調製する際の水との混合方法は、特に限定されるものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すればよい。
【0046】
具体的には、セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントと、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩等とを配合したセメント組成物と水とを配合してセメントモルタルを調製しても、セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントと、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩等を水とともに配合して、セメントモルタルを調製しても、またはセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントを混合したものと、予めグルコン酸塩と酒石酸及び/又は酒石酸塩と水とを配合したものとを配合して、セメントモルタルを調製しても均一に混合できればいずれの方法であってもかまわない。
特に、グルコン酸塩と、酒石酸又は酒石酸塩とは、セメントモルタルを調製する際に配合する水に予め溶解しておくことが望ましい。
また、必要に応じて添加される上記混和剤や骨材等は、均一に混合できればセメントモルタル等と同時に添加しても、順次添加しても、またモルタル等を調製する際の水と混練する際に添加しても、いずれの添加方法による添加であっても特に限定されない。
【0047】
また、セメントモルタル中に含まれるホウ酸は、予め水と混合してから、セメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とセメント等と混合することでは、本発明の効果は得られず、セメント組成物中に、即ち粉体側に混合して用いることで、本発明の効果が得られることとなる。
【0048】
このようにして得られたセメントモルタルは、常温のみならず、高温下においても、初期強度発現性に優れ、流動性を確保して施工性を確保することもできるものとなる。
【実施例】
【0049】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
1)セメント用急硬性添加材の調製
セメント用急硬性添加材の目標化学組成が表1となるよう、CaCO
3、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、MgO、TiO
2、CaF
2の各試薬を配合して混合粉砕することにより、各セメント用急硬性添加材原料を調製した。
【0050】
なお、ここで、SiO
2、Fe
2O
3、TiO
2は、実際に実機でセメント用急硬性添加材を製造する際に、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、蛍石等のフッ素原料、必要に応じて配合されるドロマイト等のマグネシウム原料を用いると、不純物としてSiO
2、Fe
2O
3、TiO
2が結果として含まれる場合もあるため(積極的に含有させるものではない)、かかる場合を想定して用いたものである。
【0051】
【表1】
【0052】
上記各セメント用急硬性添加材原料を加圧成形し、各成形体を電気炉にて、1300℃で30分間焼成し、次いで表2に示す各冷却速度で冷却して、表2に示す各セメント用急硬性添加材を得た。
【0053】
2)SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、Fe
2O
3、F成分等の含有量の測定
得られた各セメント用急硬性添加材を、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製;Axios)を用いて、JIS R 5204に準じて分析して、含有されるSiO
2、Al
2O
3、TiO
2、Fe
2O
3、F成分等の含有割合を測定した。
これらの化学組成の結果を、表2に示す。
【0054】
3)セメント用急硬性添加材の鉱物の分析(C12A7系)
得られた各セメント用急硬性添加材をX線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、C12A7系、更にはC3A鉱物の含有割合及びC12A7系鉱物相の結晶の格子定数を測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果を表2に示す。ここで、C12A7系鉱物相の結晶の格子定数はC11A7CaF
2の結晶構造を用いて測定した。
【0055】
また、C12A7系鉱物相の結晶の結晶子径は、C11A7CaF
2結晶構造を用いて、X線回折/リートベルト法(装置:ブルカー社製D4 Endeavor、解析ソフト:Topas)により測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
4)セメント組成物の調製
次いで、上記各セメント用急硬性添加材をブレーン比表面積が5200±200cm
2/g程度に粉砕して、各セメント用急硬性添加材粉末を得た。
得られた各セメント用急硬性添加材粉末(Q)、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積6800cm
2/g)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)ホウ酸(試薬)及び早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント製、PC)、グルコン酸ナトリウムと酒石酸を、表3〜7に記載の配合割合で配合した。
【0058】
なお、表3〜7中、セメント用急硬性添加材粉末(Q)、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積6800cm
2/g)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)ホウ酸(試薬)及び早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント製、PC)は、セメント用急硬性添加材粉末(Q)、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積6800cm
2/g)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)ホウ酸(試薬)及び早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント製、PC)の総質量中の含有割合を示し、グルコン酸ナトリウム(グルコン酸換算)及び酒石酸は、セメント用急硬性添加材粉末(Q)、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積6800cm
2/g)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)ホウ酸(試薬)及び早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント製、PC)は、セメント用急硬性添加材粉末(Q)、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積6800cm
2/g)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)ホウ酸(試薬)及び早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント製、PC)の総質量に対する外割で配合した割合を示す。
【0059】
5)セメント組成物中の鉱物含有量(C12A7系)等の測定
上記3)に記載の方法と同様の方法で、各セメント組成物中のC12A7系鉱物相(Q)の含有量を測定するとともに、C12A7系鉱物相の結晶の格子定数及び結晶子径も測定した。
C12A7系鉱物相(Q)の含有量の測定結果を、下記表3〜7に示す。
また、すべてのセメント組成物中のC12A7系鉱物相(Q)の格子定数は11.955Å程度、結晶子径は214nm程度であり、セメント組成物に使用したセメント用急硬性添加材(表2中のセメント用急硬性添加材B)と同等であった。
【0060】
6)セメント組成物中の硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)の含有量
セメント組成物中の硫酸アルカリ化合物の含有量は、JCAS I−04に準じて、Na量やK量を測定し、すべてNa
2SO
4換算に換算した合量とし、その結果を表3〜7に示す。
【0061】
7)セメント組成物中の石膏を除くカルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相(含有量の質量%)
セメント組成物中の石膏を除くカルシウム塩(水酸化カルシウム換算)の含有量としての表3〜7に示す各セメント組成物中の消石灰の配合量と、上記5)で測定された各セメント組成物中のC12A7系鉱物相含有量の測定値より、各セメント組成物中の石膏を除くカルシウム塩(水酸化カルシウム換算)/C12A7系鉱物相(Q)(質量比)を算出した。
その結果を表3〜7に示す。
【0062】
8)セメント組成物中の石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相(Q)(含有量の質量%)
上記3)に記載のX線回折/リートベルト法にて、セメント組成物中の石膏の含有量を測定し、すべてCaSO
4(無水石膏)に換算した合量を石膏の含有量とした。
このようにして得られたセメント組成物中の石膏(無水石膏換算)の含有量と、上記5)で測定された各セメント組成物中のC12A7系鉱物相含有量の測定値より、セメント組成物中の石膏(無水石膏換算)/C12A7系鉱物相(含有量の質量%)を算出した。
その結果を表3〜7に示す。
【0063】
9)セメント組成物中のホウ酸/C12A7系鉱物相(Q)(質量%)
上記5)で測定された各セメント組成物中のC12A7系鉱物相含有量と、表3〜7中に示すホウ酸の配合量より、各セメント組成物中のホウ酸/C12A7系鉱物相(質量%)を算出した。
その結果を表3〜7に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
10)モルタルの調製
各セメント組成物(実施例1〜17、比較例1〜14)と細骨材(珪砂)、水及び混和剤(マイティ150:花王(株)製)を下記表8のとおり配合して各モルタルを調製した。
なお、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントの総量を、表8中「X」として示す。
また、セメント組成物中のグルコン酸ナトリウムと酒石酸は、予め練り水に溶解して用いた。
なお、グルコン酸ナトリウムと酒石酸は、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とホウ酸とセメントとの総量(X)に対して外割で配合した割合を示す。
【0070】
【表8】
【0071】
比較例15においては、表7に示すセメント組成物と、細骨材(珪砂)、水及び混和剤(マイティ150:花王(株)製)とホウ酸を下記表9のとおり配合して各モルタルを調製した。
なお、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とセメントの総量を、表9中「Y」として示す。
また、セメント組成物中のグルコン酸ナトリウムと酒石酸は、ホウ酸とともに予め練り水に溶解して用いた。
なお、グルコン酸ナトリウムと酒石酸とホウ酸は、セメント組成物中のセメント用急硬性添加材と石膏と硫酸アルカリ化合物と石膏を除くカルシウム塩とセメントとの総量(Y)に対して外割で配合した割合を示す。
【0072】
【表9】
【0073】
11)強度測定及びフロー値測定
実施例1〜17及び比較例1〜15の各モルタルについて、35℃での3時間強度、35℃のフロー値を、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準じて測定した。
また、終結時間として、JIR R 5201に準じて各モルタルの終結時間を測定した。ただし、終結針は直径1インチ高さ2インチの円錐形針を用い、侵入深さが1.5mmになったときの時間を凝結(終結)時間とした。
その結果も、上記表3〜7に示す。
比較例15より、ホウ酸を練り水に溶解して配合した場合には、本発明の効果を奏さないことがわかる。