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特開2019-204007神経細胞を含む細胞組織の観察装置及び観察方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-204007(P2019-204007A)
(43)【公開日】2019年11月28日
(54)【発明の名称】神経細胞を含む細胞組織の観察装置及び観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20191101BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20191101BHJP
   G01N 21/21 20060101ALI20191101BHJP
【FI】
   G02B21/06
   G02B21/36
   G01N21/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-99487(P2018-99487)
(22)【出願日】2018年5月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年 独立行政法人科学技術振興機構 事業名:研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプ、課題名:「脳神経繊維の走行方向を可視化する新規偏光観察法の開発」 委託事業
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】高田 則雄
(72)【発明者】
【氏名】佐中 薫
【テーマコード(参考)】
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB14
2G059CC16
2G059EE02
2G059FF03
2G059JJ11
2G059JJ19
2G059JJ20
2G059JJ22
2G059KK04
2H052AA01
2H052AC04
2H052AC05
2H052AE03
2H052AF14
(57)【要約】
【課題】細胞組織の切片をスライドガラスへ貼り付けることなく、神経細胞を観察する装置を提供する。
【解決手段】神経細胞を含む細胞組織の観察装置1は、光源20と、偏光方向を変えることができ、光源20から照射された光を偏光させる第1の偏光子22と、脳組織の切片16を載置可能な鏡面を有し、第1の偏光子22を通過した光が鏡面上に載置された切片16に照射されるように設けられた切片刃6と、切片16を通過して切片刃により反射された反射光が入射され、反射光を所定の角度に変更する第2の偏光子28と、第2の偏光子28を通過した光を受光するCCD30と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞を含む細胞組織の観察装置であって、
光源と、
偏光方向を変えることができ、前記光源から照射された光を偏光させる第1の偏光子と、
前記細胞組織の組織切片を載置可能な鏡面を有し、前記第1の偏光子を通過した光が前記鏡面上に載置された前記組織切片に照射されるように設けられた鏡面部材と、
前記組織切片を通過して鏡面部材により反射された反射光が入射され、前記反射光を偏光する第2の偏光子と、
前記第2の偏光子を通過した光を受光する受光装置と、を備える、ことを特徴とする観察装置。
【請求項2】
前記鏡面部材は、表面に鏡面加工が施された切片刃であり、当該切片刃に前記細胞組織から切り出された前記組織切片が載置される、請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
さらに、第1のビームスプリッタを有し、
前記第1の偏光子を通過した光は前記第1のビームスプリッタを通って前記鏡面部材に照射され、
前記鏡面部材により反射された前記反射光は前記第1のビームスプリッタを通って前記第2の偏光子に入射される、
請求項1又は2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第1のビームスプリッタにおいて生じる偏光状態の変化である偏光誤差を修正するための光学系をさらに備える、請求項3に記載の観察装置。
【請求項5】
神経細胞を含む細胞組織の観察方法であって、
前記細胞組織の組織切片を鏡面上に配置する切片配置ステップと、
光源から光を照射する照射ステップと、
前記照射された光を第1の偏光子により所定の角度だけ偏光させる第1の偏光ステップと、
前記第1の偏光子を通過した光を、前記組織切片を透過させる第1の透過ステップと、
前記組織切片を透過した光を前記鏡面に入射させる鏡面入射ステップと、
前記鏡面で反射した光を、前記組織切片を再度透過させる第2の透過ステップと、
前記組織切片を再度透過した光を第2の偏光子により偏光する第2の偏光ステップと、
前記第2の偏光子により偏光された透過光を受光する受光ステップと、を備える、ことを特徴とする観察方法。
【請求項6】
前記鏡面は鏡面加工が施された切片刃の表面であり、
前記切片配置ステップでは、前記切片刃により前記細胞組織から前記組織切片を切り出し、載置する、請求項5に記載の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞を含む細胞組織の観察装置及び観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳の神経線維走行を計測する手法として、核磁気共鳴画像(MRI)装置を用いた拡散テンソル画像法(DTI)などがある。しかし、DTIにおける空間解像度は100μm程度で運用されており、ミリエン化神経線維等の神経線維の平均直径に比べて非常に低いため、DTIでは、細かい神経線維束を捉えることができない。また、DTIは、脳内の水拡散情報に基づき神経構造を推定するため、神経線維の種類(ミエリン化線維と非ミエリン化線維)を区別できない。さらに、MRI装置は高額であるため、汎用性が低い。
【0003】
これに対して、近年、非特許文献1に記載されているように偏光を脳の切片に透過させて透過光を観察する透過型の偏光観察法(Transmission Polarized Light Imaging、以下、tPLIという)が提案されている。図13は、tPLIに用いられる観察装置の構成を示す概略図である。図13に示すように、tPLIに用いられる観察装置201の光学系は、光源220と、第1の偏光子222と、1/4波長板226と、第2の偏光子228と、CCD230とを備える。神経線維走行を探知するためには、脳を複数の薄い切片にスライスし、それぞれの切片216を順次スライドガラス206に貼り付けて観察装置に設置し、光源220から光を照射する。光源220から照射された光は、第1の偏光子222により偏光されて直線偏光となり、脳組織の切片216に入射される。そして、切片216の透過光は1/4波長板226により方位角が回転され、第2の偏光子228に入射され、第2の偏光子228により偏光された透過光はCCD230により撮像される。tPLIでは、第1の偏光子222を所定の角度間隔で回転させながら、各角度における透過光をCCDにより撮像する。そして、撮像された各角度における透過光を分析することにより、ミエリン化された神経線維束の走行を顕微鏡レベルの空間解像度で画像化することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hubertus Axer、外2名、"Visualization of Nerve Fiber Orientation in Gross Histological Sections of the Human Brain、Microscopy Research and Technique、[online]、平成12年11月6日、第51巻、p. 481―492 [平成30年3月28日検索]、インターネット〈URL:https://doi.org/10.1002/1097-0029(20001201)51:5<481::AID-JEMT11>3.0.CO;2-N〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、図13に示す観察装置により神経線維束の走行を探知する場合には、脳のサンプルを光が透過可能な厚さ60μm程度の薄い切片に切断した後、折り曲げたり破いたりしないようにスライドガラスへ貼り付ける必要があった。このため、偏光を脳の切片に透過させて透過光を観察する偏光観察法では、脳の多数の切片をスライドガラスへ貼り付けなければならず、非常に手間と時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、細胞組織の切片をスライドガラスへ貼り付けることなく、神経細胞を観察する方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の観察装置は、神経細胞を含む細胞組織の観察装置であって、光源と、偏光方向を変えることができ、光源から照射された光を偏光させる第1の偏光子と、細胞組織の組織切片を載置可能な鏡面を有し、第1の偏光子を通過した光が鏡面上に載置された組織切片に照射されるように設けられた鏡面部材と、組織切片を通過して鏡面部材により反射された反射光が入射され、反射光を偏光する第2の偏光子と、第2の偏光子を通過した光を受光する受光装置と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
上記構成の本発明によれば、組織切片を透過し、鏡面部材により反射され、再度組織切片を透過した光に基づき神経細胞を観察する。このため、細胞組織の組織切片をスライドガラスへ貼り付けることなく観察を行うことができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、鏡面部材は、表面に鏡面加工が施された切片刃であり、切片刃に細胞組織から切り出された組織切片が載置される。
【0010】
上記構成の本発明によれば、切片刃により細胞組織を切り出し、そのままの状態で観察を行うことができる。このため、手間をかけずに細胞組織の組織切片の観察を行うことができる。
【0011】
本発明において、さらに、第1のビームスプリッタを有し、第1の偏光子を通過した光は第1のビームスプリッタを通って鏡面部材に照射され、鏡面部材により反射された反射光は第1のビームスプリッタを通って第2の偏光子に入射される。
【0012】
上記構成の本発明によれば、鏡面部材への入射光と反射光の方向が同一方向であっても、光源から出射された光を受光装置で受光することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、第1のビームスプリッタにおいて生じる偏光状態の変化である偏光誤差を修正するための光学系をさらに備える。
【0014】
ビームスプリッタでは偏光入射光に位相のシフトが生じてしまうため、神経線維走行の画像化が困難になる。上記構成の本発明によれば、このようなビームスプリッタで生じる偏光誤差を修正することができ、画像化を確実に実現できる。
【0015】
本発明の観察方法は、神経細胞を含む細胞組織の観察方法であって、細胞組織の組織切片を鏡面上に配置する切片配置ステップと、光源から光を照射する照射ステップと、照射された光を第1の偏光子により所定の角度だけ偏光させる第1の偏光ステップと、第1の偏光子を通過した光を、組織切片を透過させる第1の透過ステップと、組織切片を透過した光を鏡面に入射させる鏡面入射ステップと、鏡面で反射した光を、組織切片を再度透過させる第2の透過ステップと、組織切片を再度透過した光を第2の偏光子により偏光させる第2の偏光ステップと、第2の偏光子により偏光された透過光を受光する受光ステップと、を備える、ことを特徴とする。
【0016】
上記構成の本発明によれば、組織切片を透過し、鏡面部材により反射され、再度組織切片を透過した光に基づき神経細胞を観察する。このため、細胞組織の組織切片をスライドガラスへ貼り付けることなく観察を行うことができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、鏡面は鏡面加工が施された切片刃の表面であり、切片配置ステップでは、切片刃により細胞組織から組織切片を切り出し、載置する。
【0018】
上記構成の本発明によれば、切片刃により細胞組織を切り出し、そのままの状態で観察を行うことができる。このため、手間をかけずに細胞組織の組織切片の観察を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞組織の切片をスライドガラスへ貼り付けることなく、神経細胞を観察する方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態の観察装置の構成を示す概略図である。
図2図1に示す観察装置のスライサーの構成を示す図である。
図3】第1実施形態の観察装置において脳の切片を設置していない状態での第1の偏光子P1の角度ρに対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
図4】第1のビームスプリッタにおいて光が反射した際の位相のずれを検討するための光学系である。
図5】第1のビームスプリッタにおいて光が透過した際の位相のずれを検討するための光学系である。
図6図4に示す光学系におけるP1の角度に対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
図7図5に示す光学系におけるP1の角度に対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
図8】本発明の第2実施形態の観察装置の構成を示す図である。
図9】第2実施形態の観察装置における脳の切片を設置していない状態における第1の偏光子P1の角度ρに対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
図10】CCDにより撮像された画像を示し、(a)は第1の偏光子の角度ρ=0°、(b)は第1の偏光子の角度ρ=90°における画像である。
図11】第1の偏光子の角度ρに対する図10において四角で囲んだ領域の光の強度を示すグラフである。
図12】マウスの脳の切片について算出されたパラメータを示し、(a)はI0を示し、(b)は|sinδ|を示し、(c)はαを示し、(d)はφを示す。
図13】tPLIに用いられる観察装置の構成を示す概略図である。
図14】ミエリン化された神経線維走行の角度α及びφを示す図である。
図15図13の観察装置における脳の切片を設置していない状態におけるP1の角度に対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、非特許文献1に記載された従来のtPLIによる観察装置について詳細に説明する。
上述の通り、図13に示すように、従来のtPLIによる観察装置201は、光源220と、第1の偏光子222と、1/4波長板226と、第2の偏光子228と、CCD230とを備える。神経線維束の走行を探知するためには、脳を複数の薄い切片216にスライスし、それぞれの切片216を順次スライドガラス206に貼り付けて光学系の第1の偏光子222と1/4波長板226との間に配置し、光源220から光を照射する。光源220から照射された光は、第1の偏光子222により偏光されて直線偏光となり、脳の切片216に入射される。そして、切片216を透過した光は1/4波長板226により方位角が回転され、第2の偏光子228に入射され、第2の偏光子228により偏光された透過光はCCD230により撮像される。tPLIによる観察装置201を用いた観察方法では、第1の偏光子を10°間隔で0°から180°まで回転させながら、各角度における透過光をCCD230により撮像する。
【0022】
このようにして、CCD230が受光した光の強度ItPLIは、下記のように表せる。

【0023】
ここで、式中の各符号は以下の通りである。

I0:入射光の強度
φ:ミエリン化された神経線維走行の面内の方位角(図14
ρ:第1の偏光子による偏光角
δ:切片を透過する際の位相遅延
【0024】
なお、δは下記式で表される。

【0025】
上式中の各符号は以下の通りである。
d:脳の切片の厚さ
Δn:脳切片の複屈折率
λ:入射光の波長
α:ミエリン化された神経線維走行の面外の傾角(図14
【0026】
上述の通り、ρを10°間隔で0°から180°まで測定し、ItPLIの最大値または最小値を特定することにより、神経線維走行の角度を特定することができる。
【0027】
図15は、図13の観察装置における脳の切片を設置していない状態におけるP1の角度に対する光の強度を示すグラフである。また、発明者らは、観察装置の光学系を評価するために以下の式で示されるVisibility vというパラメータを導入した。

【0028】
Imax及びIminは、それぞれ、第1の偏光子のρを10°間隔で0°から180°まで回転した際の、光の強度Iの最大値及び最小値である。なお、Visibility vは、位相シフトδ1=arcsin(v)と関連している。理想的な状況では、光の強度が第1の偏光子の角度によらず一定であり、Visibility vは0となる。図15に示すように、従来のtPLIでは、光の強度は第1の偏光子の角度によらずほぼ一定であり、visibility が0.045であった。このように従来のtPLIによれば、ミエリン化された神経線維束の走行方向を正確に検出することができる。
【0029】
ここで、従来の観察装置により観察を行う場合には、脳の切片216を、折り曲げたり破いたりしないようにスライドガラス206へ貼り付ける必要があり、非常に手間がかかるという問題があった。これに対して、発明者らは反射型の偏光観察法(Reflection Polarized Light Imaging、以下、rPLIという)を開発した。rPLIによれば、脳組織の切片をスライドガラスに貼り付けることなく、神経線維束の走行の角度を特定することができる。以下、本発明のrPLIによる観察装置の第1実施形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0030】
本発明の第1実施形態による観察装置について説明する。以下の説明では、細胞組織としてマウスの脳を用い、マウスの脳の神経線維走行を観察する場合を例として説明するが、サンプルはこれに限らず、神経細胞を含むものであればよい。図1は、本発明の第1実施形態の観察装置の構成を示す概略図である。同図に示すように、第1実施形態の観察装置1は、光学系2と、スライサー4と、により構成される。図2は、図1に示す観察装置のスライサーの構成を示す図である。同図に示すように、スライサー4は切片刃6と、切片刃6を支持する支持部材8と、を備える。切片刃6の上面(切片が載置される側の面)には、鏡面加工が施されており、光を反射可能になっている。支持部材8は、微小振動しながら横方向に移動可能である。観察の対象となる脳組織10は、シャーレ等の容器12内に配置され、全体を寒天14により固めることにより固定されている。スライサー4は、切片刃6に微小振動を加えながら、切片刃6を横方向に移動することにより脳組織10を光が透過可能な厚さ60μm程度の薄い切片に切り取ることができる。脳組織10を切り取ると、切り取られた切片16は、図1に示すように、切片刃6上に載置される。光学系2により観察を行う際には、後述するように、切片16が第1のビームスプリッタ24、1/4波長板26、第2の偏光子28、及び、CCD30と同軸上に位置するように、切片刃6の振動及び移動が停止される。
【0031】
光学系2は、光源20と、第1の偏光子22と、第1のビームスプリッタ24と、1/4波長板26と、第2の偏光子28と、受光装置としてのCCD30と、を備える。受光装置としては、CCD30以外にもCMOSセンサー等を用いることができる。スライサー4の切片刃6と、第1のビームスプリッタ24と、1/4波長板26と、第2の偏光子28と、CCD30とは同軸上に配置されており、第1の偏光子22と、光源20とは第1のビームスプリッタ24の側方に同軸上に配置されている。第1の偏光子22は、回転可能に支持されており、所定の偏光角度に回転することができる。
【0032】
観察を行う際には、まず、スライサー4の切片刃6により脳組織を切断して切片を形成する。形成された切片は切片刃6上に配置される(切片配置ステップ)。なお、切片が載置された切片刃6は、切片16が第1のビームスプリッタ24、1/4波長板26、第2の偏光子28、及び、CCD30と同軸となるように位置するように位置が調整される。
【0033】
次に、光源20から光を照射する(照射ステップ)。光源20から照射された照射光は第1の偏光子22に入射し、所定の角度だけ偏光される(第1の偏光ステップ)。第1の偏光子22を通過して出射された直線偏光は第1のビームスプリッタ24に入射する。第1のビームスプリッタ24で反射された反射光は、切片刃6に向けて差し向けられる。
【0034】
切片刃6に差し向けられた光は切片16に入射され、切片16を透過する(第1の透過ステップ)。切片16を透過した光は切片刃6の表面(鏡面)に入射する(鏡面入射ステップ)。
【0035】
切片刃6に入射した光は切片刃6の表面で反射され、反射された光は、再度切片16を逆向きに透過する(第2の透過ステップ)。切片16を再透過した光は第1のビームスプリッタ24を透過する。そして、第1のビームスプリッタ24の透過光は1/4波長板26に入射する。1/4波長板26に入射した光は円偏光に変換され、第2の偏光子28に入射され偏光される(第2の偏光ステップ)。そして、第2の偏光子28により偏光された光はCCD30に入射される。このようにして、第1の偏光子22の角度を変更しながら、各角度における第2の偏光子28により偏光された光をCCD30により受光する(受光ステップ)。
【0036】
ここで、受光した光の強度は、下記のように表せる。

【0037】
したがって、ρを10°間隔で0°から180°まで測定し、IrPLIの最大値あるいは最小値を特定することにより、tPLIと同様に神経線維走行の角度を特定することができる。さらに、上記の工程を各切片に対して行うことにより、3次元的な神経線維走行を推定することができる。なお、ρの角度間隔は10°には限られず、適宜設定できる。
【0038】
図3は、第1実施形態の観察装置において脳の切片を設置していない状態での第1の偏光子P1の角度ρに対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。上述の通り、理想的な状況では、光の強度が第1の偏光子の角度によらず一定であり、Visibility vが小さくなる。図3に示すように、第1実施形態の観察装置の光学系では、光の強度は第1の偏光子に角度に応じて変化している。この変化幅が、脳切片による変化よりも大きいために、第1実施形態の観察装置では脳切片中の神経線維走行を計測が困難になる。また、第1実施形態の観察装置では、visibilityが0.124と大きくなってしまった。
【0039】
この原因としては、上述した通り、第1のビームスプリッタにおいてp偏光とs偏光の光の間で位相にずれが生じるためである。このような、ビームスプリッタの透過や反射による偏光状態の変化を以下、偏光誤差という。図4は、第1のビームスプリッタにおいて光が反射した際の位相のずれを検討するための光学系であり、図5は、第1のビームスプリッタにおいて光が透過した際の位相のずれを検討するための光学系である。また、図6及び図7は、それぞれ、図4及び図5に示す光学系におけるP1の角度に対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。
【0040】
図4に示す光学系301では、光源20から出射された光は、第1の偏光子22に入射され、第1の偏光子22により偏光された光は、ビームスプリッタ24に入射される。ビームスプリッタ24で反射された光は、1/4波長板26及び第2の偏光子28を透過する。第2の偏光子28を透過した光は、CCD30で捕捉される。このような光学系301では、図6に示すように、第1の偏光子22の角度ρによって光の強度が大きく変化し、Visibility vが0.646と非常に高い値となってしまった。
【0041】
また、図5に示す光学系401では、光源20から出射された光は、第1の偏光子22に入射され、第1の偏光子22により偏光された光は、ビームスプリッタ24に入射される。ビームスプリッタ24を透過した光は、1/4波長26板及び第2の偏光子28を透過する。第2の偏光子28を透過した光は、CCD39で捕捉される。このような光学系401では、図7に示すように、第1の偏光子の角度によって光の強度が大きく変化し、Visibility vが0.146と非常に高い値となってしまった。
【0042】
このように、ビームスプリッタは光を透過、又は反射する際に偏光の位相のずれが生じる。そこで、発明者らは、ビームスプリッタによる位相のずれを補償する光学系を組み込むこととした。
【0043】
図8は、本発明の第2実施形態の観察装置の構成を示す図である。図8に示すように、第2実施形態の観察装置101では、第1実施形態の観察装置の光学系に加えて、第1のビームスプリッタ24による位相のずれを補償するための補償光学系を含む。補償光学系としては、第1の偏光子22と第1のビームスプリッタ24との間に第2のビームスプリッタ132及び1/2波長板134を含む。さらに、補償光学系として、第1のビームスプリッタ24と1/4波長板26との間に第3のビームスプリッタ138を含む。さらに、本実施形態の観察装置101の光学系102は、第1のビームスプリッタ24と切片刃6との間に第1のレンズ136を含み、第2の偏光子28とCCD30との間に第2のレンズ140を含む。
【0044】
観察を行う際には、まず、スライサー4の切片刃6により脳組織を切断して切片を形成する。形成された切片は切片刃6上に配置される(切片配置ステップ)。なお、切片が載置された切片刃6は、切片16が第1のレンズ136、第1のビームスプリッタ24、第3のビームスプリッタ138、1/4波長板26、第2の偏光子28、第2のレンズ140、及び、CCD30と同軸となるように位置するように位置が調整される。
【0045】
次に、光源20から光を照射する(照射ステップ)。光源20から照射された照射光は第1の偏光子22に入射し、所定の角度だけ偏光される(第1の偏光ステップ)。第1の偏光子22を通過して出射された直線偏光は第2のビームスプリッタ132に入射する。第2のビームスプリッタ132からの反射光は1/2波長板134に入射する。そして、1/2波長板134の透過光は第1のビームスプリッタ24に入射する。第1のビームスプリッタ24で反射された反射光は第1のレンズ136に向けて差し向けられ、第1のレンズ136を透過する。第1のレンズ136を透過した光は、切片16に入射され、切片16を透過する(第1の透過ステップ)。切片16を透過した光は切片刃6の表面(鏡面)に入射する(鏡面入射ステップ)。
【0046】
切片刃6に入射した光は切片刃6の表面で反射され、反射された光は、再度切片16を逆向きに透過する(第2の透過ステップ)。切片16を再透過した光は、再度第1のレンズ136を逆向きに通過し、第1のビームスプリッタ24に入射する。そして、第1のビームスプリッタ24を透過した透過光は、第3のビームスプリッタ138に入射する。なお、第3のビームスプリッタ138は光軸周りに90°回転させてある。これによってビームスプリッタ24を透過した際に生じた位相差を補正した。第3のビームスプリッタ138を透過した透過光は、1/4波長板26に入射する。1/4波長板26に入射した光は円偏光に変換され、第2の偏光子28に入射され偏光される(第2の偏光ステップ)。第2により偏光された光は、第2のレンズ140を透過し、CCD30に入射される。このようにして、第1の偏光子22の角度を変更しながら、各角度における第2の偏光子22により偏光された光をCCD30により受光する(受光ステップ)。
【0047】
ここで、受光した光の強度は、下記のように表せる。


ここで、δ2は第1のビームスプリッタ24あるいは第3のビームスプリッタ138を透過した場合の位相シフトを表す。また、


であり、第3のビームスプリッタ138を示すJones matrixである。
【0048】
図9は、第2実施形態の観察装置における脳の切片を設置していない状態における第1の偏光子P1の角度ρに対するCCDで撮像された光の平均強度を示すグラフである。図9に示すように、第2実施形態の観察装置において、光の強度は第1の偏光子の角度によらずほぼ一定であり、visibility vが0.052であった。これにより、図9に示す光学系によれば、ビームスプリッタにおける位相のずれを補償することができることがわかった。
【0049】
このようにして得られた第1の偏光子22の角度ρに対する各ピクセルの強度に関するデータに基づき、以下のようにして画像化することができる。以下の説明では、マウスの脳の切片について観察した場合を例として説明する。
【0050】
図10は、CCDにより撮像された画像を示し、(a)は第1の偏光子の角度ρ=0°、(b)は第1の偏光子の角度ρ=90°における画像である。また、図11は、第1の偏光子の角度ρに対する図10において四角で囲んだ領域の光の強度を示すグラフである。図10において、矢印は光の強度Iが最低値となったデータを示す。
【0051】
図示を行うためには、下記のパラメータI0、|sinδ|、α、φを算出する。
‐Transmission(透過度) I0は下記の式で算出される。


ここで、Iiは、第1の偏光子の角度ρiにおける各ピクセルの光の強度であり、Nは、ρiのサンプル数である。
【0052】
‐ミエリン化による位相シフト(位相変位)|sinδ|


ここで、上式における各パラメータは以下の通りである。

【0053】
‐平面側のミエリンの傾角α


ここで、上式におけるdrelは、


で算出される、脳切片の相対厚さである。
【0054】
‐平面内のミエリンの方位角φ
tPLIおよびrPLIwocの場合
rPLIwcの場合
ここで、上式におけるρminは、光の最小強度における第1の偏光子の回転角度である。
【0055】
図12は、マウスの脳の切片について上記の式により算出されたパラメータを示し、(a)は透過度I0を示し、(b)は位相変位|sinδ|を示し、(c)は傾度αを示し、(d)は方位角φを示す。同図に示すように、本実施形態によれば、ミエリン化された神経線維束の走行を顕微鏡レベルの空間解像度で画像化することができる。
【0056】
上記の各実施形態によれば、切片16を透過し、切片刃6により反射され、再度切片16を透過した光に基づき神経線維束の走行を観察することができる。このため、脳組織の切片をスライドガラスへ貼り付けることなく観察を行うことができる。
【0057】
また、上記の各実施形態によれば、切片刃6により脳組織を切り出し、そのままの状態で観察を行うことができる。このため、手間をかけずに脳組織の切片16の観察を行うことができる。
【0058】
また、上記の各実施形態によれば、第1のビームスプリッタ24を有するため、切片刃6の入射光と反射光の方向が同一方向であっても、光源20から出射された光をCCD30で受光することができる。
【0059】
また、第2実施形態によれば、第1のビームスプリッタ24による偏光誤差を修正するための光学系をさらに備えるため、ビームスプリッタで生じる位相のシフト等の偏光誤差を修正することができ、画像化を確実に実現できる。
【0060】
なお、本発明の観察装置及び観察方法は、マウスの脳に限らず、脊椎動物の脳神経等の神経細胞を含む生体組織であれば、適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 観察装置
2 光学系
4 スライサー
6 切片刃
8 支持部材
10 脳組織
12 容器
14 寒天
16 切片
20 光源
22 第1の偏光子
24 第1のビームスプリッタ
26 1/4波長板
28 第2の偏光子
101 観察装置
102 光学系
132 第2のビームスプリッタ
134 1/2波長板
136 第1のレンズ
138 第2のビームスプリッタ
140 第2のレンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15