(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-204987(P2019-204987A)
(43)【公開日】2019年11月28日
(54)【発明の名称】トランスデューサ装置
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20191101BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-96872(P2018-96872)
(22)【出願日】2018年5月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
(72)【発明者】
【氏名】竹内 治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利克
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕樹
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA07
5D019EE01
5D019FF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】追加の電子部品を用いることなく、ハイパスフィルタ特性を備えたトランスデューサ装置を提供する。
【解決手段】MEMS素子11のバックチャンバー5により形成されたコンデンサと、MEMS素子11の支持基板1に形成された抵抗孔16による抵抗とで、ハイパスフィルタを形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えた支持基板と該支持基板に固定された振動膜とを備えたMEMS素子と、前記MEMS素子を搭載する実装基板と、該実装基板と接合して前記MEMS素子を覆う蓋部と、を備えたトランスデューサ装置において、
前記MEMS素子のバックチャンバーにより形成されたコンデンサと、
前記実装基板と前記蓋部との間の空間内で、あるいは前記空間の内側と外側とで、前記空間の内側あるいは外側の気体が流れる抵抗孔により形成された抵抗とを備え、
前記コンデンサと前記抵抗とで形成されたハイパスフィルタを備え、入力信号が前記ハイパスフィルタを通過して出力されることを特徴とするトランスデューサ装置。
【請求項2】
請求項1記載のトランスデューサ装置において、
前記蓋部に形成された入力信号が入力する信号入力孔と、
前記実装基板に前記MEMS素子の支持基板が接合し、前記実装基板あるいは前記支持基板の一部に形成された前記バックチャンバーの内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とするトランスデューサ装置。
【請求項3】
請求項1記載のトランスデューサ装置において、
前記蓋部に形成された入力信号が入力する信号入力孔と、
前記支持基板が接合した前記実装基板に形成された前記バックチャンバーの内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とするトランスデューサ装置。
【請求項4】
請求項1記載のトランスデューサ装置において、
前記支持基板が接合した前記実装基板の前記バックチャンバーに連通するように形成された入力信号が入力する信号入力孔と、
前記蓋部に形成された前記実装基板と前記蓋部との間の空間の内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とするトランスデューサ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のトランスデューサ装置において、
前記振動膜が圧電膜からなることを特徴とするトランスデューサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスデューサ装置に関し、特にハイパスフィルタを備えたトランスデューサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年スマートフォン等のマイクロフォンとしてMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。また、MEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の振動変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。
【0004】
そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0005】
従来の圧電膜からなるMEMS素子の断面図を
図6に示す。
図6に示すように、シリコン基板からなる支持基板1上に、絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが支持固定されており、圧電膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電膜3bは電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。支持基板1の一部は、例えば円形状に除去されてバックチャンバー5が形成され、残された支持基板1に圧電膜3a、3bの周縁部が支持固定されている。バックチャンバー5上の圧電膜3a、3bが振動板となる。
【0006】
この種のMEMS素子の動作について説明すると、音響圧力等を受けて圧電膜3aが歪むと、横圧電効果によりその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線金属7aと、電極4bに接続する配線金属7bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線金属7aと、電極4bに接続する配線金属7bから電圧信号を取り出すことが可能となる。この振動板は、
図7に示すように形成されたスリット6によって複数の領域に区画され、それぞれの振動板の変位に基づき出力電圧が出力される。なお
図7では、配線金属7a、7bの記載は省略している。この種のMEMS素子は特許文献1に開示されている。
【0007】
このような構造のMEMS素子を用いてトランスデューサ装置を形成した例を
図8および
図9に示す。
図8に示すトランスデューサ装置は、実装基板10上にMEMS素子11、MEMS素子11から出力される信号を処理する集積回路12が実装され、実装基板10上には蓋部13が接合されている。また蓋部13には、MEMS素子11に音圧等が伝搬するように信号入力孔14を形成されている。集積回路12の表面は樹脂15で覆い保護されている。
【0008】
また信号入力孔14は、蓋部13に設ける代わりに、
図9に示すようにMEMS素子11のバックチャンバー5に連通するように実装基板10に設ける場合もある。
【0009】
ところで圧電膜を用いたMEMS素子11は、圧電膜の厚さを薄くすると超音波領域の信号を送受信することが可能となる。例えば、一般的な圧電材料であるPZTでは、圧電膜の厚さを20μm程度とすると80MHzの超音波が送受信可能となる。
【0010】
そこで超音波マイクロフォン装置を形成し、例えば工場で使用される機械の動作音に含まれる超音波領域の音をモニタリングすることで、機械の予兆保全を行うことが可能となる。
【0011】
しかし、予兆保全のために超音波マイクロフォンを使用する場合、100Hz〜10kHz程度の可聴音域の音は雑音となる。予兆保全の対象とする機械が設置されている工場では、会話ができないほどの環境雑音が発生している場合がある。一般に環境雑音の大きさは、周波数に反比例し、あるいは周波数の二乗に反比例しており、低周波程大きいことが知られている。これは、本来モニタリングしたい超音波領域の信号と比較して雑音が大きいことを示しており、予兆保全のために超音波マイクロフォンを使用するためには、ハイパスフィルタが必須であることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2014−514214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来のトランスデューサ装置を超音波マイクロフォンとして使用する場合等、ハイパスフィルタが必要となる。本発明はこのような実状に鑑み、追加の電子部品を用いることなく、ハイパスフィルタを備えたトランスデューサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係るトランスデューサ装置は、バックチャンバーを備えた支持基板と該支持基板に固定された振動膜とを備えたMEMS素子と、前記MEMS素子を搭載する実装基板と、該実装基板と接合して前記MEMS素子を覆う蓋部と、を備えたトランスデューサ装置において、前記MEMS素子のバックチャンバーにより形成されたコンデンサと、前記実装基板と前記蓋部との間の空間内で、あるいは前記空間の内側と外側とで、前記空間の内側あるいは外側の気体が流れる抵抗孔により形成された抵抗とを備え、前記コンデンサと前記抵抗とで形成されたハイパスフィルタを備え、入力信号が前記ハイパスフィルタを通過して出力されることを特徴とする。
【0015】
本願請求項2に係るトランスデューサ装置は、請求項1記載のトランスデューサ装置において、前記蓋部に形成された入力信号が入力する信号入力孔と、前記実装基板に前記MEMS素子の支持基板が接合し、前記実装基板あるいは前記支持基板の一部に形成された前記バックチャンバーの内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とする。
【0016】
本願請求項3に係るトランスデューサ装置は、請求項1記載のトランスデューサ装置において、前記蓋部に形成された入力信号が入力する信号入力孔と、前記支持基板が接合した前記実装基板に形成された前記バックチャンバーの内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本願請求項4に係るトランスデューサ装置は、請求項1記載のトランスデューサ装置において、前記支持基板が接合した前記実装基板の前記バックチャンバーに連通するように形成された入力信号が入力する信号入力孔と、前記蓋部に形成された前記実装基板と前記蓋部との間の空間の内側と外側とを連通する前記抵抗孔となる貫通孔とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本願請求項5に係るトランスデューサ装置は、請求項1乃至4記載のトランスデューサ装置において、前記振動膜が圧電膜からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のトランスデューサ装置は、追加の電子部品を用いず、従来のトランスデューサ装置を構成する部材に抵抗孔を形成することのみで、ハイパスフィルタを付加することができ、低コストのトランスデューサ装置を提供することができる。
【0020】
特に振動膜を圧電膜で形成するトランスデューサ装置は、超音波領域の信号を送受信することができ、雑音となる低周波領域の雑音が低減でき、超音波マイクロフォンとしての用途の拡大が期待できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施例のトランスデューサ装置を説明する図である。
【
図2】本発明のハイパスフィルタを説明する図である。
【
図3】本発明の第2の実施例のトランスデューサ装置を説明する図である。
【
図4】本発明の第3の実施例のトランスデューサ装置を説明する図である。
【
図5】本発明の第4の実施例のトランスデューサ装置を説明する図である。
【
図6】従来の圧電膜からなるMEMS素子の断面図である。
【
図7】従来の圧電膜からなるMEMS素子の説明図である。
【
図8】従来のトランスデューサ装置の説明図である。
【
図9】従来の別のトランスデューサ装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のトランスデューサ装置は、MEMS素子のバックチャンバーにより形成されたコンデンサと、MEMS素子の支持基板等に形成された抵抗孔による抵抗とで、ハイパスフィルタが形成されていることを特徴とする。以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
まず、本発明の第1の実施例のトランスデューサ装置について説明する。
図1に示すように第1の実施例のトランスデューサ装置は、実装基板10上にMEMS素子11、MEMS素子11から出力される信号を処理する集積回路12が実装されている。実装基板10上には蓋部13が接合され、蓋部13にはMEMS素子11に音圧等が伝搬するように信号入力孔14を形成されている。集積回路12の表面は樹脂15で覆い保護されている。特に本実施例では、MEMS素子11の支持基板1の一部に抵抗孔16が形成されている。
【0024】
この抵抗孔16は、実装基板10と蓋部13と間の空間内で、バックチャンバー5の内側と外側を連通するように形成されている。この抵抗孔16の大きさは、音圧等の入力信号が信号入力孔14から入射し、MEMS素子11の振動板17が振動する際、バックチャンバー5の内側と外側の気体が流れることで生じる抵抗が、後述するハイパスフィルタを構成する所望の値となるようにする。具体的には、抵抗孔16の断面積や長さを適宜設定する。
【0025】
なお、
図1に示すMEMS素子は、従来例で説明したMEMS素子と異なり、スリット6が形成されていない例を示している。特に超音波マイクロフォンとして使用する場合、振動膜の厚さを薄くする必要があるので、スリットの無い形状とするのが好ましい。しかしスリットを形成することも可能で、この場合スリットを通してバックチャンバー5の内側と外側が流れることで生じる抵抗も生じるので、この抵抗と抵抗孔16との両方の抵抗の抵抗値を考慮する必要がある。以下で説明する実施例についても同様である。
【0026】
一方、実装基板10、支持基板1および振動板17で囲まれてバックチャンバー5は、所望の容量値を有するコンデンサとなる。このコンデンサの容量値も、バックチャンバー5の大きさや、支持基板1および振動板17を構成する材料を適宜設定することで、所望の値とすることができる。
【0027】
このように構成すると、コンデンサと抵抗により、等価的にハイパスフィルタが構成されている信号伝送経路を通り電圧信号が出力されることになる。
【0028】
図2は、本発明のハイパスフィルタの説明図である。コンデンサの容量値Cbと抵抗の抵抗値Rhを信号の伝送経路に挿入することで、ハイパスフィルタを構成することができることがわかる。ここで、コンデンサの容量値Cbと抵抗の抵抗値Rhを適宜設定することで、所望のカットオフ周波数に設定可能となる。
【実施例2】
【0029】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、抵抗孔16を支持基板1に形成した場合について説明したが、
図3に示すように実装基板10の一部を凹状に除去して抵抗孔16としても、上記第1の実施例同様、蓋部13に形成した信号入力孔14から入力した信号が出力信号として出力される信号の伝送経路にハイパスフィルタを挿入する構造とすることができる。この場合、抵抗孔の幅や長さ、深さ等を調整することで所望の抵抗値とすることができる。
【実施例3】
【0030】
次に第3の実施例について説明する。上記第1および第2の実施例では、抵抗孔16の両方の開口が実装基板10と蓋部13の間の空間に配置するように形成していたが、
図4に示すように実装基板10を貫通する形状の抵抗孔16とし、一方の開口部は実装基板10と蓋部13の間の空間の外側に開口するようにしても、上記第1、第2の実施例同様、蓋部13に形成した信号入力孔14から入力した信号が出力信号として出力される信号の伝送経路にハイパスフィルタを挿入する構造とすることができる。なおこの場合、抵抗孔16の抵抗値が設計通りの値とする必要があり、抵抗孔16の外部に露出する開口が閉鎖されるような実装形態とならないよう留意する必要がある。
【実施例4】
【0031】
次に第4の実施例について説明する。上記第1乃至第3の実施例では、信号入力孔14を蓋部13に形成した例を説明したが、
図5に示すように実装基板10に信号入力孔14を形成しても良い。MEMS素子11のバックチャンバー5が信号入力孔14に対向するように配置する。
【0032】
一方抵抗孔16を蓋部13を貫通するように形成し、一方の開口部は実装基板10と蓋部13の空間の外側に開口するようにする。このように形成しても、上記第1乃至第3の実施例同様、実装基板10に形成した信号入力孔14から入力した信号が出力信号として出力される信号の伝送経路にハイパスフィルタを挿入する構造とすることができる。この場合も、抵抗孔16の抵抗値が設計通りの値とする必要があり、抵抗孔16の外部に露出する開口部が狭窄等されないよう留意する必要がある。
【0033】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、抵抗孔の数は、1個に限らず複数個配置して良い。また抵抗孔は、支持基板や実装基板に限らず、振動板に配置して、入力信号がハイパスフィルタを通過して出力される構成とすることも可能である。さらに圧電型トランスデューサ装置に限らず、容量型のトランスデューサ装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1: 支持基板、2:絶縁膜、3:圧電膜、4:電極、5:バックチャンバー、6:スリット、7:配線金属、10:実装基板、11:MEMS素子、12:集積回路、13:蓋部、14:信号入力孔、15:樹脂、16:抵抗孔、17:振動板