半導体レーザ1は、TEモードとTMモードの光を励起するとともに、TEモードとTMモードの光を導波させる共振器の少なくとも一部を構成する活性層102と、TEモードとTMモードの光の発振周波数の差を緩和振動周波数よりも高く設定する周波数差設定構造として回折格子103とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1Aから
図8Bを参照して詳細に説明する。各図について共通する構成要素には、同一の符号が付されている。
【0020】
[発明の原理]
はじめに、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの概要について
図1Aから
図1Cを参照して説明する。
まず、
図1Aに、従来例の直接変調方式の半導体レーザにおける周波数応答特性を示す。
図1Aに示すように、従来から知られている直接変調方式の半導体レーザは、緩和振動周波数付近にのみ共振ピークを有している。
【0021】
これに対して、本発明の実施の形態に係る直接変調方式の半導体レーザでは、モードおよび周波数の異なる2つのレーザ光を共振させる。例えば、TEモードの光とTMモードの光とが異なる発振周波数となり、かつ、発振周波数の周波数差が緩和振動周波数よりも高くなるように設定する。これにより、緩和振動周波数の高周波側に光−光共振周波数が生じ、周波数応答特性が改善する。
【0022】
この共振は、
図1Bおよび
図1Cに示すように、TEモードとTMモードの結合がより高いほど周波数応答特性は改善する。この結合は、半導体レーザの共振器内でTEモードとTMモードが互いに遷移し得る状態を表すものである。結合がゼロの場合には、TEモードとTMモードとにおいて半導体レーザは独立に動作する。
【0023】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る半導体レーザ1について、
図2Aおよび
図2Bを参照して説明する。
【0024】
半導体レーザ1は、
図2Aに示すように、n型半導体で構成される下部クラッド層101と、下部クラッド層101の上に形成された活性層102と、活性層102の上に形成された回折格子103(後述する)とを有する。半導体レーザ1は、さらに、活性層102および回折格子103を下部クラッド層101とで挟むように形成されたp型半導体で構成される上部クラッド層104と、上部クラッド層104の上部に形成されたコンタクト層105とを有する。
【0025】
下部クラッド層101、活性層102、および上部クラッド層104は所定の幅のストライプ構造に形成されている。半導体レーザ1は、ストライプ構造の側面に接して形成された高抵抗層106と、高抵抗層106の上部に形成された絶縁膜107とを有する。
【0026】
半導体レーザ1は、上部クラッド層104の上に形成されたコンタクト層105と、コンタクト層105を介して形成されたp型電極108と、下部クラッド層101の底部に形成されたn型電極109とを有する。p型電極108は上部クラッド層104に電気的に接続し、n型電極109は下部クラッド層101に電気的に接続する。
【0027】
また、半導体レーザ1は、
図2Bに示すように、導波方向の端面に高反射膜110を有する。
【0028】
活性層102は、バルク構造を有する。活性層102は、
図2Aに示すように、導波方向に垂直な断面形状が、縦横比1に近い矩形となるように形成される。そのため、活性層102は、TEモードとTMモードとに対する基本モードを有している。
【0029】
回折格子103は、TEモードとTMモードとの発振周波数の差を緩和振動周波数よりも高く設定する周波数差設定構造として機能する。回折格子103は、
図2Bに示すように、導波方向に沿って所定の回折格子ピッチの凹凸形状が形成されている。回折格子103の凹凸により屈折率差が生じ、特定の波長の光のみ選択的に反射させて、単一モード発振が実現される。本実施の形態では、分布帰還構造が用いられ、ブラッグ波長周辺の波長のみを選択的に発振させる。
【0030】
本実施の形態では、下部クラッド層101は、例えば、n型のInP基板上に形成されたn型のInPクラッドによって構成される。活性層102は、バルクInGaAsPからなり、幅0.46μm、厚さ0.4μmとされている。回折格子103は、組成1.1QのInGaAsPとされている。
【0031】
また、上部クラッド層104は、p型のInPで構成されている。コンタクト層105は、p型のInGaAsからなる。活性層102を含むストライプ構造の側面に設けられている高抵抗層106は、FeがドープされたInPとされている。なお、高抵抗層106は、活性層102の屈折率よりも低い屈折率を有する。また、絶縁膜107はSiO
2とされている。
図2Bに示す回折格子103からなる共振器構造の導波方向の長さは、200μmとされている。
【0032】
本実施の形態において、TEモードの実行屈折率n
eqTEは、3.2620、TMモードの実行屈折率n
eqTMは3.2609であり、実効屈折率差は0.0001である。このときの回折格子103の回折格子ピッチΛは、ブラッグ波長1550nmに対応する238.2nmに設定する。TEモードおよびTMモードの発振周波数差fは、次の式(1)で表される。
【0033】
【数1】
上式(1)において、cは真空中の光速度である。
【0034】
上式(1)より、TEモードおよびTMモードの発振周波数差f=64GHzが算出される。この周波数差fが半導体レーザ1における共振周波数となる。
【0035】
前述したように、活性層102はバルク構造であるため、TEモードとTMモードの両方のモードを励起することが可能である。活性層102への光閉じ込め係数はTEモードの方が高いため、主モードはTEモードとなる。また、回折格子103における導波もしくは反射においてTEモードとTMモードの結合が生じ、共振周波数における応答の増大が生ずる。
【0036】
本実施の形態の例による半導体レーザ1の緩和振動周波数は最大で20GHz程度であるところ、
図2Bに示すレーザ領域においてTEモードとTMモードの両モードによる競合が生じ、光−光相互作用によって80Gbit/sを超える高速な変調動作を実現できる。
【0037】
次に、上述した構成を有する半導体レーザ1の製造方法について説明する。まず、InP基板の上に、下部クラッド層101および活性層102となる化合物半導体層をエピタキシャル成長させる。例えば、よく知られた有機金属気相成長法により各層を成長させればよい。
【0038】
次に、活性層102の表面に回折格子を形成する。例えば、電子ビーム露光によるリソグラフィーで形成したレジストパタンをマスクとし、所定のエッチングによりパターニングすることで回折格子103を形成すればよい。
【0039】
次に、回折格子103を形成した部分に、上部クラッド層104とコンタクト層105となる化合物半導体層をエピタキシャル成長させる。
【0040】
次いで、公知のフォトリソグラフィー技術により作成したレジストパタンをマスクとしたウェットエッチングおよびドライエッチングなどにより、成長させた化合物半導体層などをパターニングし、下部クラッド層101、活性層102、上部クラッド層104、およびコンタクト層105からなるストライプ構造を形成する。なお、各パタンを形成した後は、レジストパタンを除去する。
【0041】
次に、高抵抗層106を、下部クラッド層101(n型InP基板)の上面および活性層102を含むストライプ構造の脇の領域に再成長させて形成し、ストライプ構造を埋め込む。
【0042】
その後、高抵抗層106の上部に所定の堆積法により絶縁膜107を形成する。この後に、コンタクト層105の部分に開口を形成して、コンタクト層105に接続するp型電極108を形成する。一方で、下部クラッド層101の裏面にn型電極109を形成する。
【0043】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、活性層102の上部に設けられた回折格子103の回折格子ピッチをブラッグ波長に対応するピッチとすることで、TEモードとTMモードとの発振周波数差を制御するので、半導体レーザ1における緩和振動周波数よりも高周波側に光−光共振周波数を生ずることができる。その結果として、半導体レーザ1における直接変調の変調帯域を改善することができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る半導体レーザ1によれば、TEモードとTMモードのそれぞれの基本モードのみの導波構造とすることにより、より安定した発振モードを得ることができる。
【0045】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1の実施の形態と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
第1の実施の形態では、TEモードとTMモードの発振周波数差を緩和振動周波数よりも高く設定する周波数差設定構造として回折格子103を用いた。これに対して、第2の実施の形態では、TEモードとTMモードとの発振周波数の差の制御を、導波路によるフィードバックを用いて実現する。
【0047】
図3は、第2の実施の形態に係る半導体レーザ1Aを備える半導体装置を示すブロック図である。半導体レーザ1Aは、分布帰還(Distributed Feedback:DFB)構造の活性層であるDFB領域201と、導波路領域202と、高反射膜(反射鏡)203とを備える。DFB領域201は変調信号用の電流源2と接続している。また、導波路領域202は、後述する位相調整用の電圧源3(または電流源)と接続している。
【0048】
DFB領域201は、第1の実施の形態と同様にバルク活性層によって構成され、TEモードとTMモードとを励起する。
【0049】
導波路領域202は、DFB領域201の導波方向に連続して形成されている。導波路領域202は、TEモードとTMモードとの両モードを導波させる。導波路領域202は、導波方向において所定のフィードバック導波路長Lを有する。
【0050】
導波路領域202は、TEモードとTMモードの帰還用の導波路としての機能に加えて、位相調整機能を備え、電圧源3から印加された電圧によってTEモードとTMモードの位相を調整し、共振周波数を制御してもよい。また、例えば、導波路領域202に隣接して電極や熱電素子を設け、電気光学効果や熱光学効果を利用して導波路領域202の実行屈折率を制御することでTEモードとTMモードとの周波数差を制御してもよい。
【0051】
高反射膜203は、DFB領域201とは反対側の導波路領域202の導波方向の端部に連続して形成されている。高反射膜203は、導波路領域202を導波する光を反射してDFB領域201に帰還させる。
【0052】
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ1Aの動作について説明する。
まず、電流源2からの電流注入によりDFB領域201で発振光が発生する。発振光は、導波路領域202を介して高反射膜203で反射して、再びDFB領域201に帰還する。このときの光のフィードバック時間をτ、フィードバック導波路長をL、TEモードの群屈折率をn
gTE、TMモードの群屈折率をn
gTMとすると、光遅延によりTEモードとTMモードのフィードバック光には、次の式(2)で表される周波数差fが生ずる。
【0053】
【数2】
上式(2)において、cは真空中の光速度である。
【0054】
上式(2)からわかるように、半導体レーザ1Aの共振周波数は、フィードバック導波路長Lと、TEモードおよびTMモードの実行屈折率n
gTE、n
gTMによって決まる。
【0055】
本実施の形態では、導波路領域202の導波方向に垂直な方向の断面の縦横比を1からずらした非対称構造とする。これにより、TE偏光とTM偏光に対する群屈折率が異なるように設定して、半導体レーザ1Aの発振波長(発振周波数)に対して、バンドギャップ波長を短波長側に設定する。例えば、半導体レーザ1Aの動作波長が1.55μm付近の場合、バンドギャップ波長を1.2μmとする。
【0056】
このような構成により、DFB領域201または導波路領域202においてTEモードとTMモードとの結合が生ずるので、半導体レーザ1Aにおける緩和振動周波数よりも高い共振周波数が生じ、より高速な変調動作が実現される。
【0057】
なお、導波路領域202が有する位相調整機能は、
図4に示すように導波路領域202とは別に設けてもよい。例えば、
図4に示すように、DFB領域201と導波路領域202との間に位相調整機能を有する位相調整領域204を形成してもよい。
【0058】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1および第2の実施の形態と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
第1の実施の形態では、導波方向に垂直な断面形状が縦横比で1に近い矩形の活性層102が形成される場合について説明した。これに対し、第3の実施の形態では、
図2Bに示した導波路の全部もしくは一部が、
図5に示すように、活性層102aは、半導体層で形成される埋め込み層111に埋め込むように形成されている。また、活性層102aの導波方向に垂直な断面形状は、半導体レーザ1Bの電流が注入される領域に対して偏在して形成されている。活性層102aと埋め込み層111とは半導体レーザ1Bの共振器の一部を構成する。
【0060】
このような構成の活性層102aを有することで、基本モードがTEモードとTMモードの混合状態となり、共振器内の光伝搬時に偏波の混合状態が変わることによって偏波回転が生じる。前述のとおり、TEモードとTMモードの結合は、TEモード成分のTMモード成分への遷移、およびTMモード成分のTEモード成分への遷移に起因する。したがって、導波路形状の非対称化、および対称な導波路との組み合わせによって、半導体レーザ1Bにおいて、TEモードとTMモードとの相互作用がより強くなり、より高い光−光相互作用を得ることができる。
【0061】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1から第3の実施の形態と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
第3の実施の形態では、活性層102aの断面視における形状が電流が注入される領域に対して偏在している場合について説明した。これに対して、第4の実施の形態に係る半導体レーザ1Cは、
図2Bに示した導波路の全部もしくは一部が、
図6Aから
図6Cに示すように、活性層102bの導波方向に垂直な断面が非対称な形状を有する。
【0063】
例えば、
図6Aに示すように、活性層102bの導波方向に垂直な断面形状は、非等脚台形状に形成されていてもよい。また、
図6Bに示すように、活性層102bの導波方向に垂直な断面形状は、直角台形状に形成されていてもよい。また、
図6Cに示すように、活性層102の導波方向に垂直な断面形状は、階段形状に形成されていてもよい。
【0064】
このような構成の活性層102bを有することで、半導体レーザ1Cにおいて、共振器内の光伝搬時に偏波回転が生じることから、TEモードとTMモードの相互作用がより強くなり、より高い光−光相互作用を得ることができる。なお、上記の活性層102bの非対称な断面形状は、目標とするTEモードとTMモードとの結合係数に応じて設計すればよい。
【0065】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1から第4の実施の形態と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0066】
第2の実施の形態では、半導体レーザ1Aにおいて、TEモードとTMモードの帰還路として機能し、位相調整機能を有する導波路領域202が用いられる場合について説明した。これに対して、第5の実施の形態に係る半導体レーザ1Dは、
図7Aに示すように、導波路領域202と連続して形成された偏光回転領域205をさらに備える。
【0067】
偏光回転領域205は、TEモードおよびTMモードの偏光面を回転させる。偏光回転領域205は導波路領域202と高反射膜203との間に形成される。偏光回転領域205は、第3の実施の形態および第4の実施の形態で説明した活性層102a、102bの断面形状(
図5、
図6Aから
図6C)と同様に、電流が注入される領域に対して偏在させたり、断面が非対称な形状とする。
【0068】
偏光回転領域205を上記のような形状とし、半導体レーザ1Dの動作波長に対してバンドギャップ波長を短波長側に設定する。例えば、動作波長が1.55μmの場合、波長1.2μmとする。これにより、TEモードとTMモードとにおいて、より強い相互作用を発生させることができる。
【0069】
また、偏光回転領域205は、位相調整機能を有する導波路領域202と同一の領域に形成してもよい。例えば、
図7Bに示すように、DFB領域201と高反射膜203との間に導波路としての機能、位相調整機能、および偏光回転機能を有する導波路領域206を設けてもよい。
【0070】
次に、偏光回転機能および位相調整機能を有する導波路領域206を備えた半導体レーザ1Dの断面図を
図8Aおよび
図8Bに示す。
【0071】
図8Aに示す半導体レーザ1Dの断面図の例では、活性層102cに多重量子井戸構造が用いられている。なお、
図8Aは、
図7Bに示すDFB領域201を含む部分における半導体レーザ1Dの断面図を示している。活性層102cに量子井戸構造を採用することで、よりキャリアと光の相互作用が強くなり、微分利得が増大するために高速動作を実現できる。
【0072】
また、
図8Bに示す半導体レーザ1Dの断面図の例では、電流が注入される領域に対して偏在している導波路層112が形成されている。なお、
図8Bは、
図7Bに示す導波路領域206を含む部分における半導体レーザ1Dの断面図を示している。導波路層112のバンドギャップ波長は1.2μmとする。導波路層112の上下には電流注入用の電極が設けられており、順バイアス電圧による電流注入、あるいは逆バイアス電圧による電界効果によって導波路層112の屈折率を制御して位相条件を調整する。
【0073】
以上、本発明に係る半導体レーザの実施の形態について説明したが、本発明は説明した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した発明の範囲において当業者が想定し得る各種の変形を行うことが可能である。
【0074】
例えば、説明した第1から第4の実施の形態では、バルク構造を有する活性層を用いたが、第5の実施の形態のように量子井戸構造を有する活性層を代わりに用いてもよい。具体的には、導波路形状を活性層の縦横比率において、縦の比率がより小さい構造とし、活性層に伸長歪の量子井戸層を用いる。これにより、導波モードとしてはTEモードが主モードとなる一方で、TM偏光の光利得が高くなるため、両者の効果が相殺されて、TEモードとTMモードの両モードにおける励振が可能となる。
【0075】
あるいは、活性層の縦横比率において、縦の比率がより大きい構造とし、活性層に無歪もしくは圧縮歪の量子井戸を用いる。これにより、導波モードとしてはTMモードが主モードとなる一方で、TE側の励振が高くなるため、両者の効果が相殺されることにより、TEモードとTMモードの両モードにおける励振が可能となる。
【0076】
また、説明した実施の形態では、半導体レーザにInGaAsP材料を用いたが、InGaAlAs、AlGaAs等のその他の半導体材料を用いた半導体レーザにも本発明を適用できることは明らかである。
【0077】
また、説明した実施の形態では、導波路を半絶縁埋め込みの半導体レーザ構造としたが、本発明はTE偏光とTM偏光の両モードにおける導波特性の設定により動作するものであるから、pn埋め込み構造やリッジ構造を用いても、導波モードの設計により、本実施の形態と同様の効果を実現できる。