【解決手段】 抗腫瘍剤は、樹脂粒子に複数の白金ナノ粒子が固定化された構造を有する樹脂複合体100を有効成分として含有する。樹脂複合体100は、白金ナノ粒子20の少なくとも一部が樹脂粒子10の表層部60において三次元的に分布しているとともに、樹脂粒子10に完全に内包された内包白金ナノ粒子30、樹脂粒子10内に埋包された部位及び樹脂粒子10の表面から外に露出した部位を有する一部露出白金ナノ粒子40及び樹脂粒子10の表面に吸着している表面吸着白金ナノ粒子50を含んでいてもよい。
樹脂粒子に複数の白金ナノ粒子が固定化された構造を有する樹脂複合体と、薬学的に許容される担体若しくは媒体と、を含有するがんの治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態の抗腫瘍剤は、樹脂粒子に複数の白金ナノ粒子が固定化された構造を有する樹脂複合体を有効成分として含有するものである。ここで、「腫瘍」とは、悪性又は良性に関わらず、成長又は増殖する新生物を意味し、前がん性及びがん性の細胞及び組織を含むものである。また、「がん」とは、一般的には自律的な増殖及び転移・湿潤を伴う腫瘍(悪性腫瘍)を意味する。なお、「腫瘍」と「がん」とは相互に排他的な意味ではなく、「抗腫瘍」というときは、「抗がん」の意味も含まれる。
【0019】
<樹脂複合体>
次に、本実施の形態において使用される樹脂複合体について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態において好ましく使用可能な樹脂複合体の断面模式図である。樹脂複合体100は、樹脂粒子10と白金ナノ粒子20とを備え、樹脂粒子10に複数の白金ナノ粒子20が固定化された構造を有する。
【0020】
樹脂複合体100は、樹脂粒子10に複数の白金ナノ粒子20が固定化されている。また、樹脂複合体100は、白金ナノ粒子20の少なくとも一部が樹脂粒子10の表層部60において三次元的に分布している。ここで、「表層部」とは、樹脂粒子10の表面よりも外部に突出した白金ナノ粒子20の最も外側の端部を基準にして、樹脂粒子10の表面から深さ方向に粒子半径の50%までの範囲を意味する。また、「三次元的に分布」とは、白金ナノ粒子20が、樹脂粒子10の面方向だけでなく、深さ方向(径方向)にも分散して存在していることを意味する。なお、樹脂複合体100における白金ナノ粒子20の三次元的な存在状態(分布)は、次のようにして測定できる。まず、樹脂複合体100を、その中心付近で切断し、断面を露出させる。なお、樹脂複合体100は微小粒子であるため、複数の樹脂複合体100を切断しておき、その中から走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測長される樹脂複合体100の粒子径D1の平均(平均粒子径)に近い直径を有する断面を選択することによって、中心付近で切断されたものと推定することができる。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、断面に現れた白金ナノ粒子20の個数と分布を計測する。また、断面に現れた白金ナノ粒子20の個数とその粒子径D3の平均(平均粒子径)から体積を算出し、重量比率に換算することによって、樹脂複合体100の径方向における三次元的な分散比率を算出することができる。
【0021】
樹脂複合体100は、三次元的に分布した白金ナノ粒子20の一部が部分的に樹脂粒子10の表面から外に露出していてもよく、残りの一部が樹脂粒子10に内包されていてもよい。つまり、白金ナノ粒子20は、樹脂粒子10に完全に内包された白金ナノ粒子(以下、「内包白金ナノ粒子30」ともいう。)、樹脂粒子10内に埋包された部位及び樹脂粒子10の表面から外に露出した部位を有する白金ナノ粒子(以下、「一部露出白金ナノ粒子40」ともいう。)及び樹脂粒子10の表面に吸着している白金ナノ粒子(以下、「表面吸着白金ナノ粒子50」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0022】
内包白金ナノ粒子30は、その表面の全てが、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。
【0023】
一部露出白金ナノ粒子40は、その表面積の5%以上100%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。耐久性の観点から、その下限は、表面積の20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。一部露出白金ナノ粒子40は、表面吸着白金ナノ粒子50と比較して樹脂粒子10との接触面積が大きいことに加え、埋包状態によるアンカー効果等の物理的吸着力が強く、樹脂粒子10から脱離しにくい。そのため、樹脂複合体100を使用した抗腫瘍剤の耐久性、安定性を優れたものにするとともに、投与後長期間に亘って腫瘍細胞の近傍に留まることから、持続的な腫瘍抑制作用を奏する。
【0024】
表面吸着白金ナノ粒子50は、その表面積の0%を超えて5%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。表面吸着白金ナノ粒子50は、外部に露出した部分の表面積が大きいため、白金による腫瘍抑制作用を早期に発現させることができる。
【0025】
また、樹脂複合体100への白金ナノ粒子20(内包白金ナノ粒子30、一部露出白金ナノ粒子40及び表面吸着白金ナノ粒子50の合計)の担持量は、樹脂複合体100の重量に対して、5重量%〜70重量%であることが好ましい。この範囲内の担持量であれば、樹脂複合体100は、実用的な腫瘍抑制作用を発揮する。白金ナノ粒子20の担持量が5重量%未満では、腫瘍抑制作用が弱くなる傾向があり、投与量に対する効率が低下する可能性がある。白金ナノ粒子20の担持量は、より好ましくは、15重量%〜70重量%である。
【0026】
また、白金ナノ粒子20の10重量%〜90重量%が、一部露出白金ナノ粒子40及び表面吸着白金ナノ粒子50であることが好ましい。この範囲であれば、腫瘍細胞への腫瘍抑制作用が充分確保できる。白金ナノ粒子20の20重量%〜80重量%が一部露出白金ナノ粒子40及び表面吸着白金ナノ粒子50であることがより好ましく、耐久性の観点から、表面吸着白金ナノ粒子50が20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
また、十分な腫瘍抑制作用を奏する上で、白金ナノ粒子20の60重量%〜100重量%が、表層部60に存在し、表層部60に存在する白金ナノ粒子20の5重量%〜90重量%が、一部露出白金ナノ粒子40または表面吸着白金ナノ粒子50であることが好ましい。換言すれば、表層部60に存在する白金ナノ粒子20の10重量%〜95重量%が内包白金ナノ粒子30であることがよい。なお、「表層部」の定義は、上記のとおりであるが、樹脂粒子10の内部における表層部60の内側の境界部分(表面から深さ方向に粒子半径の50%)を跨いで存在する白金ナノ粒子20は、全て表層部60に存在するものとしてカウントする。
【0028】
<樹脂粒子>
樹脂粒子10は、白金化合物イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子であることが好ましい。特に、含窒素ポリマー粒子であることが好ましい。含窒素ポリマー中の窒素原子は、白金ナノ粒子20の前駆体であるアニオン性イオンを化学吸着しやすいため好ましい。本実施の形態では、含窒素ポリマー中に吸着した白金化合物イオンを還元し、白金ナノ粒子20を形成する為、生成した白金ナノ粒子20の一部は、内包白金ナノ粒子30または一部露出白金ナノ粒子40となる。
【0029】
上記含窒素ポリマーは、主鎖または側鎖に窒素原子を有する樹脂であり、例えば、ポリアミン、ポリアミド、ポリペプチド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリピロール、ポリアニリン等がある。好ましくは、ポリ−2−ビニルピリジン、ポリ−3−ビニルピリジン、ポリ−4−ビニルピリジン等のポリアミンである。ポリアミンは生体適合性が高く、副作用を引き起こす可能性が低いと考えられるため、樹脂粒子10の構成成分として有利である。また、側鎖に窒素原子を有する場合は、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等幅広く利用することが可能である。
【0030】
また、アクリル酸重合体のように、カルボン酸等はカチオン性イオンを吸着することができるため、白金ナノ粒子20の前駆体であるカチオン性イオンを吸着しやすく、白金ナノ粒子20を形成することが可能である。
【0031】
一方、白金化合物イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー以外の樹脂粒子、例えばポリスチレン等の場合、アニオン性イオンやカチオン性イオンを樹脂内部に吸着しにくい。その結果、生成した白金ナノ粒子20の大部分は、表面吸着白金ナノ粒子50となる。上記のとおり、表面吸着白金ナノ粒子50は、樹脂粒子10との接触面積が小さいため、樹脂と白金ナノ粒子20との接着力が小さく、樹脂粒子10から白金ナノ粒子20が脱離する傾向があり、保存安定性が低くなる場合がある。
【0032】
また、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ(テレフタル酸ブチレン)、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の、生体適合性を示す公知の高分子ユニットを、共重合等の公知の方法で樹脂粒子に導入することが好ましい。
【0033】
<白金ナノ粒子>
白金ナノ粒子20は、白金又は白金合金のナノ粒子である。ここで白金合金とは、例えば白金と白金以外の金属種からなるものである。白金合金における白金の含有量は、白金による腫瘍抑制作用の発現が見られる量であればよく、例えば白金を10重量%以上含有することが好ましく、50重量%以上含有することがより好ましい。ここで、白金以外の金属種としては、例えば金、銀、パラジウムなどが好ましく、これらの2種以上を含有する合金であってもよい。
【0034】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測長される白金ナノ粒子20の粒子径D3の平均値(平均粒子径)は、小さくなるほど腫瘍抑制作用が高くなることから、例えば80nm以下が好ましい。白金ナノ粒子20の平均粒子径が80nmを超える場合は、腫瘍抑制作用が低下する傾向がある。なお、白金ナノ粒子20の平均粒子径の下限には、特に制限がなく、1nm未満であってもよい。白金ナノ粒子20の平均粒子径は、好ましくは、1nm以上70nm未満であり、より好ましくは、1nm以上50nm未満である。
【0035】
<樹脂複合体の平均粒子径>
樹脂複合体100の粒子径D1の平均値(平均粒子径)は、樹脂複合体100による細胞致死活性の発現がネクローシスという形で認められることから、細胞膜に直接的に作用することが可能な粒子径として、例えば100〜700nmであることが好ましい。また、樹脂複合体100の平均粒子径が100nm未満では、例えば、白金ナノ粒子20の担持量が少なくなる傾向がある為、腫瘍抑制作用が弱くなる傾向にある。樹脂複合体100の平均粒子径は、より好ましくは、100nm以上650nm未満である。ここで、樹脂複合体100の粒子径D1は、樹脂粒子10の粒子径D2に、一部露出白金ナノ粒子40又は表面吸着白金ナノ粒子50の突出部位の長さを加えた値を意味し、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法、または遠心沈降法により測定することができる。
【0036】
<樹脂複合体の製造>
樹脂複合体100の製造方法は、特に限定されない。例えば、乳化重合法により製造した樹脂粒子10の分散液に、白金化合物イオンを含有する溶液を加えて、白金化合物イオンを樹脂粒子10に吸着させる(以下、「白金イオン吸着樹脂粒子」という。)。さらに、前記白金イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液中に加えることで、白金化合物イオンを還元して白金ナノ粒子20を生成させ、樹脂複合体100を得ることができる。
【0037】
白金化合物イオンを含有する溶液としては、例えば、塩化白金酸(H
2PtCl
6)水溶液等が挙げられる。白金化合物イオンの代わりに金属錯体を用いても良い。また、白金化合物イオンを含有する溶液の溶媒として、水の代わりに、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等の含水アルコール又はアルコール、塩酸、硫酸、硝酸等の酸等を用いても良い。
【0038】
また、白金化合物イオンを含有する溶液に、必要に応じて、例えば、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物、界面活性剤、アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、これらのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、グリセリン等のポリオール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の各種水混和性有機溶媒等の添加剤を添加してもよい。このような添加剤は、白金イオンの還元反応速度を促進し、また生成される白金ナノ粒子20の大きさを制御するのに有効となる。
【0039】
還元剤は、公知の物を用いることができる。例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、クエン酸、次亜リン酸ナトリウム、抱水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ショ糖、ブドウ糖、アスコルビン酸、ホスフィン酸ナトリウム、ハイドロキノン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ロッシェル塩等が挙げられる。このうち、水素化ホウ素ナトリウム又は、ジメチルアミンボラン、クエン酸が好ましい。還元剤溶液には、必要に応じて界面活性剤を添加したり、溶液のpHを調整したりすることが出来る。pH調整にはホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリにより調整することが出来る。
さらに還元剤溶液の温度により、白金化合物イオンの還元速度を調整することで、生成する白金ナノ粒子20の粒径をコントロールすることが出来る。
【0040】
また、白金イオン吸着樹脂粒子中の白金化合物イオンを還元して白金ナノ粒子20を生成させる際、白金イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液に添加しても良いし、還元剤を白金イオン吸着樹脂粒子に添加しても良いが、内包白金ナノ粒子30及び一部露出白金ナノ粒子40の生成しやすさの観点から、前者が好ましい。
【0041】
以上のようにして得られる樹脂複合体100は、水への分散性を保持するために、例えば、クエン酸、ポリ−L−リシン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、DISPERBYK194、DISPERBYK180、DISPERBYK184(ビッグケミージャパン社製)等の分散剤を添加してもよい。さらにホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリによりpHを調整し、分散性を保持することが出来る。
【0042】
以上の構成を有する樹脂複合体100は、腫瘍抑制作用を有するため、がんの予防や治療のための医薬として好ましいものである。例えば、樹脂複合体100を有効成分とする抗腫瘍剤は、がんの治療に広く適用可能であるが、がんの中でも固形がんの治療に適している。固形がんには、例えば、頭頸部がん(喉頭がん、咽頭がん、舌がん等)、食道がん、胃がん、大腸がん、十二指腸がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膀胱がん、陰茎がん、精巣がん、乳がん、前立腺がん、腎盂・尿管腫瘍、卵巣がん、子宮頸がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、上皮内新生物などが含まれる。これらの固形がんの中でも、例えば、頭頸部がん(喉頭がん、咽頭がん、舌がん等)、食道がん、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がんなどへの適用が好ましく、特に、口腔がんの一種である口腔扁平上皮癌の治療薬として最も好ましく適用できる。
【0043】
<医薬組成物>
樹脂複合体100をがんの治療及び/又は予防のために用いる場合、樹脂複合体100と、薬学的に許容される担体若しくは媒体と、を含有する医薬組成物として使用することができる。薬学的に許容される担体若しくは媒体としては、使用される投薬量および濃度で患者に毒性を示さないものであれば、特に制限なく公知のものを使用可能である。担体もしくは媒体の好ましい例として、水、生理食塩水、アルコール、リン酸塩、有機酸塩などの緩衝液、低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、各種のアミノ酸、グルコース、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、マンノース、デキストリンなどの糖や炭水化物、EDTAなどのキレート剤、ナトリウム、カリウムなどの塩形成イオン、金属錯体等を挙げることができる。
【0044】
また、本発明の医薬組成物には、所望により添加物を配合することが可能である。添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、乳化剤、抗酸化剤、防腐剤、安定化剤等を挙げることができる。これらの添加物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、本発明の医薬組成物には、抗がん作用等を有する他の薬効成分を配合してもよい。他の薬効成分の種類については、樹脂複合体100に影響を与えない限り、特に制限されないが、腫瘍細胞内に取り込まれて腫瘍抑制効果を発揮できるものが好ましく、例えば、白金製剤、アルキル化薬、代謝拮抗剤、抗癌性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤等を挙げることができる。これらの薬効成分は、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、既知の製造方法により製造できる。具体的には、任意の担体又は媒体に、樹脂複合体100を混合、分散等させることによって製造できる。
【0047】
本発明の医薬組成物は、樹脂複合体100を含む単一の製剤としてもよいし、樹脂複合体100及び必要に応じて担体や媒体を含む第1の製剤と、担体や媒体、他の成分等を含む第2の製剤とを別々に調製しておき、これらの複数の製剤を使用時に混合して投与したり、同時または順次投与してもよい。
【0048】
<投与方法>
本発明の医薬組成物は、手術によって外科的に投与してもよいし、あるいは、製剤の形態で非経口的または経口的に投与してもよい。非経口的に投与する場合の剤型としては、例えば、注射剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、ローション剤等を挙げることができる。経口的に投与する場合の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、トローチ剤、及びゼリー剤等を挙げることができる。医薬組成物の好ましい剤型としては、非経口投与製剤が好ましく、より好ましくは注射剤である。また、樹脂複合体100に、標的となる腫瘍細胞に特異的な抗体を結合させておくことによって、経口的な投与や、血管からの投与なども可能である。
【0049】
本発明の医薬組成物の患者への投与量は、患者の性別、年齢、体重、症状、投与方法、投与回数、投与時期等を考慮して適宜決定される。
【0050】
また、本発明の医薬組成物の投与後に、腫瘍組織に対して、例えば、レーザー照射、放射線照射、高周波照射などの外部エネルギーの供給を行う治療法を併用してもよい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例、比較例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0052】
<固形分濃度測定及び金属担持量の測定>
磁製るつぼに濃度調整前の樹脂複合体の分散液1gを入れ、70℃、3時間乾燥を行った。乾燥前後の重量を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
【0053】
固形分濃度(重量%)=[乾燥後の重量(g)/乾燥前の重量(g)]×100
【0054】
また、上記乾燥処理後のサンプルを、さらに500℃、5時間熱処理を行い、熱処理前後の重量を測定し、下記式より金属担持量を算出した。
金属担持量(重量%)=[熱処理後の重量(g)/熱処理前の重量(g)]×100
【0055】
<樹脂粒子及び樹脂複合体の平均粒子径の測定>
ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Disc Centrifuge DC24000 UHR、CPS instruments, Inc.社製)を用いて測定した。測定は、樹脂粒子又は樹脂複合体を水に分散させた状態で行った。
【0056】
<金属ナノ粒子の平均粒子径の測定>
樹脂複合体分散液をカーボン支持膜付き金属性メッシュへ滴下して作成した基板を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM;日立ハイテクノロジーズ社製、SU−9000)により観測した画像から、任意の100個の金属ナノ粒子の面積平均径を測定した。
【0057】
[合成例1]
<樹脂粒子(ラテックスビーズ)の合成>
メチルトリ−n−オクチルアンモニウムクロリド(1g)及び50重量%のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート水溶液(10g)を300gの純水に溶解した後、2−ビニルピリジン(48g)及びジビニルベンゼン(2g)を加え、窒素気流下において150rpm、30℃で50分、次いで60℃で30分間撹拌した。撹拌後、18.0gの純水に溶解した2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(0.5g)を滴下し、150rpm、60℃で5時間撹拌した後、40℃まで空冷しながら撹拌することで、平均粒子径430nmのラテックスビーズを得た。遠心分離(13500xg、40分)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させることで不純物を除去した。その後、濃度調整を行い10重量%のラテックスビーズ分散液を得た。
【0058】
[合成例2]
<白金ナノ粒子−樹脂複合体(Ptナノコンポジットビーズ)の作製>
純水130gに合成例1で得たラテックスビーズ(50g)を加えた後、400mMの塩化白金酸水溶液(55g)を加え、30℃で3時間撹拌した。その後、遠心分離(1700xg、30分)によりラテックスビーズを沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化白金酸を除去した。その後、濃度調整を行い、5.0重量%白金イオン吸着樹脂粒子分散液を調製した。
【0059】
次に、純水4760gに前記5.0重量%白金イオン吸着樹脂粒子分散液(70g)を加え、3℃で撹拌しながら、132mMのジメチルアミンボラン水溶液(138g)を22分かけて滴下した後、3℃で1時間、25℃で3時間撹拌することで、平均粒子径450nmのPtナノコンポジットビーズを得た。Ptナノコンポジットビーズは、遠心分離により沈殿させ、上澄みを除去した濃縮液を透析処理により精製した後、濃度調整することで、1重量%のPtナノコンポジットビーズ分散液を得た。作製したPtナノコンポジットビーズにおける白金ナノ粒子の平均粒子径は3.8nm、白金の担持量は38重量%であった。
【0060】
[合成例3]
<金ナノ粒子−樹脂複合体(Auナノコンポジットビーズ)の作製>
純水130gに合成例1で得たラテックスビーズ(50g)を加えた後、400mMの塩化金酸水溶液(82g)を、30℃で3時間撹拌した。その後、遠心分離(1700xg、30分)によりラテックスビーズを沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化金酸を除去した。その後、濃度調整を行い、5.0重量%金イオン吸着樹脂粒子分散液を調製した。
【0061】
次に、純水4780gに前記5.0重量%金イオン吸着樹脂粒子分散液(65g)を加え、3℃で撹拌しながら、528mMのジメチルアミンボラン水溶液(20g)を2分かけて滴下した後、3℃で1時間、25℃で3時間撹拌することで、平均粒子径452nmのAuナノコンポジットビーズを得た。Auナノコンポジットビーズは、遠心分離により沈殿させ、上澄みを除去した濃縮液を透析処理により精製した後、濃度調整することで、1重量%のAuナノコンポジットビーズ分散液を得た。作製したAuナノコンポジットビーズにおける金ナノ粒子の平均粒子径は23.2nm、金の担持量は50重量%であった。
【0062】
[実施例1]
細胞培養液として、Eagle's minimal essential medium(WAKO社製)に、ウシ胎児血清(10重量%)、ペニシリン(100unit/リットル)及びストレプトマイシン(100mg/リットル)を添加したものを使用し、口腔扁平上皮癌細胞株HSC−3 M3細胞(JCRB細胞バンク 細胞番号JCRB1354)を1×10
7cells/mlの濃度にて、細胞フラスコにて37℃、5%CO
2条件下で24時間培養した。
細胞上清をアスピレート後、合成例2で得たPtナノコンポジットビーズ(450R)(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)を添加して、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した。
【0063】
マウスヘの麻酔は、3種混合麻酔として、ドミトール0.75ml+ドルミカム2ml+ベトルファール2.5mlに注射用蒸留水19.75mlを加えたものを使用し、体重10gあたり0.lmlを腹腔内投与した。麻酔下にて、KSNマウス(オス、6週齢)の背部に、HSC−3 M3細胞(1×10
7cells)を注射針にて注入し、担がんマウスモデルを作成した。10日間飼育し、腫瘍の形成観察を行った。
背部腫瘍の計測は2日毎に行い、腫瘍体積を[(長径)×(短径)
2]/2の計算式で求めた。観察開始日(0日)からの腫瘍体積の増加率を
図2に示した。
【0064】
<病理組織学的な検証>
次に、マウスを頸椎脱臼によって安楽死させて、腫瘍を摘出した。摘出した腫瘍組織で切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン(HE)染色を行い、顕微鏡下で観察した。HE染色は、核が青紫色、細胞質や間質がピンク色に染色され、組織構造や細胞の形態観察に用いられる。HE染色の結果を
図4Aに、摘出した組織の全体像を
図4Bに示した。
【0065】
[比較例1]
Ptナノコンポジットビーズ(450R)(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)の代わりに、細胞培養液のみを添加して、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した他は、実施例1と同様の方法で、in vivoにおける抗腫瘍増殖効果の検証を実施した。観察開始日(0日)からの腫瘍体積の増加率を
図2に示した。
また、細胞培養液のみを用いた比較例1について、実施例1と同様の方法で、病理組織学的な検証を実施した。HE染色の結果を
図3Aに、摘出した組織の全体像を
図3Bに示した。
【0066】
[比較例2]
Ptナノコンポジットビーズ(450R)(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)の代わりに、合成例3で得たAuナノコンポジットビーズ(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)を添加して、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した他は、実施例1と同様の方法で、in vivoにおける抗腫瘍増殖効果の検証を実施した。観察開始日(0日)からの腫瘍体積の増加率を
図2に示した。
【0067】
[比較例3]
Ptナノコンポジットビーズ(450R)(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)の代わりに、合成例1で得たラテックスビーズ(細胞培養液に対する濃度:0.5mg/ml)を添加して、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した他は、実施例1と同様の方法で、in vivoにおける抗腫瘍増殖効果の検証を実施した。観察開始日(0日)からの腫瘍体積の増加率を
図2に示した。
【0068】
[比較例4]
Ptナノコンポジットビーズ(450R)(細胞培養液に対する濃度:0.5 mg/ml)の代わりに、Ptナノコロイド(ナノ白金分散液;ルネッサンス・エナジー・リサーチ社製、細胞培養液に対する濃度:0.2mg/ml)を添加して、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した他は、実施例1と同様の方法で、in vivoにおける抗腫瘍増殖効果の検証を実施した。観察開始日(0日)からの腫瘍体積の増加率を
図2に示した。
【0069】
in vivoにおける抗腫瘍増殖効果の検証において、
図2に示したように、細胞培養液のみの場合(比較例1)では、HSC−3 M3細胞注入により、10日間の飼育で、マウス背部に約7倍の腫瘍増加率が認められた。Auナノコンポジットビーズ処理群(比較例2)では、10倍の腫瘍増殖、ラテックスビーズのみの処理群(比較例3)では、3倍の腫瘍増殖、Ptナノコロイド処理群(比較例4)では、5倍の腫瘍増殖を認めた。
一方、Ptナノコンポジットビーズ処理群(実施例1)では、腫瘍体積の増加はほとんど確認されず、他の4群(比較例1〜4)と比較して、著明な腫瘍増殖抑制効果が認められた。また、投与後のマウスの背部の観察から、Ptナノコンポジットビーズは投与部位に留まっており、局在貯留性を有していることが確認された。
【0070】
また、病理組織学的な検証において、HSC−3 M3細胞のみで腫瘍形成を行った群(比較例1)では、
図3A,
図3Bに示したように、長径10mm、短径9mmの体積405mm
3の腫瘍が形成され、組織像において、著明な核の形態異常の細胞と、HSC−3 M3がん細胞からなる腫瘍実質、線維性結合組織からなる腫瘍間質をもつがん腫の形成が認められた。
一方、本発明のPtナノコンポジットビーズを添加したHSC−3 M3細胞にて腫瘍形成を行った群(実施例1)では、
図4A,
図4Bに示したように、Ptナノコンポジットビーズ投与によって皮下に色素の沈着が認められるが、腫瘍の形成は見られなかつた。また、組織像において、腫瘍細胞の浸潤は認められなかった。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態により制約されることはない。