【解決手段】本発明に係る分析装置は、試料から分離された1以上の試料成分を層状に収容した容器に対して光を照射し、試料を透過した光の光強度が最大となる波長を前記層ごとに特定することにより、前記容器が収容している各前記試料成分を特定する。
前記演算装置は、前記容器の内径と前記境界位置とを用いて、前記容器内に収容されている前記第1試料成分の容積と前記容器内に収容されている前記第2試料成分の容積とのうち少なくともいずれかを算出する
ことを特徴とする請求項6記載の分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態1:装置構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る生体試料分析装置10の概略を示す構成図である。生体試料分析装置10は、患者から採取した生体試料を前処理システム100によって前処理し、自動分析装置112によってその試料を分析する装置である。
【0017】
生体試料分析装置10は、前処理システム100、制御用PC111、自動分析装置112を備える。前処理システム100は、搬送ライン101、投入モジュール102、遠心分離モジュール103、検出装置104、開栓モジュール105、ラベラ106(例えばバーコードなどを用いる)、分注モジュール107、閉栓モジュール108、仕分けモジュール109、収納モジュール110を備える。制御用PC111は、前処理システム100を含む装置全体を制御する。自動分析装置112は、生体試料の成分を例えば定量分析によって分析する。
【0018】
次に、生体試料の前処理および分析に関する一連の工程について説明する。はじめに、患者から採取された生体試料(例えば血液や尿)は、試験管に入れられた後、投入モジュール102に投入される。一般に、採血および投入モジュール102への検体の投入はユーザーの手作業によってなされる。その後の検体は、搬送ライン101の上に載って、遠心分離モジュール103、検出装置104、開栓モジュール105、ラベラ106、分注モジュール107、閉栓モジュール108、仕分けモジュール109、収納モジュール110の間で移動される。
【0019】
遠心分離モジュール103は、投入された検体に対して遠心分離を実施する。生体試料が血液であり、試験管の中に分離剤が入っている場合、試料は遠心分離によって、分離剤を挟んで血餅の層と血清の層とに分離される。生体試料が血液であり、試験管の中に分離剤が入っていない場合、試料は遠心分離によって、血球の層と血しょうの層とに分離される。
【0020】
検出装置104は、生体試料層の成分、生体試料層の位置、生体試料の液量などを検出する。血清成分にヘモグロビンが溶出する溶血成分が検出され、または生体試料や試料量が極めて少ないと判定された場合、検体は仕分けモジュール109まで移動され、エラー検体に分類される。それ以外の検体の場合は、生化学や免疫分析を実施するため、検体は搬送ライン101によって開栓モジュール105に移動される。
【0021】
開栓モジュール105は、検体の栓を開栓する。分注モジュール107は、遠心分離された検体(親検体)を、自動分析装置112等で分析するために小分け(子検体)する。ラベラ106は、その小分けの容器にバーコードラベルを貼付する。閉栓モジュール108は、各試料容器の栓を閉栓する。仕分けモジュール109は、親検体および子検体を仕分けし、親検体の場合には収納モジュール110へ子検体の場合には自動分析装置112まで移動させる。自動分析装置112はその検体の各試料成分についての定量分析などを実施する。自動分析装置112と前処理システム100との間で、一部の構成要素(例えば分注モジュール107)を共用してもよい。
【0022】
図2は、検出装置104の構成図である。記載の便宜上、試料を収容する試験管204を図面上に併記した。検出装置104は、光源200、波長分光部201、受光部202、コンピュータ203(「制御装置」「演算装置」に相当)、駆動装置205、把持装置206を備える。
【0023】
把持装置206は、光源200と受光部202によって挟まれるように試験管204を配置する。光源200は測定対象の試料を含む試験管204の側面から光を照射する。駆動装置205は、試験管204を上下方向に移動させることにより、光源200からの光が試験管204に対して照射される高さ方向の位置を変化させる。波長分光部201は、試料を透過した光源200からの光から特定の波長成分の光を分離する。受光部202はその分離された波長成分の透過光量(光強度)を測定する。
【0024】
コンピュータ203は、波長分光部201/受光部202/駆動装置205と接続されこれらを制御する。例えばコンピュータ203からの指示にしたがって、波長分光部201は分離する光の波長帯を変更する。受光部202からの透過光出力は、例えばA/D変換された後、コンピュータ203によって信号処理が施される。駆動装置205は、試験管204と光源200との間の高さ方向における相対的位置関係(波長分光部201と受光部202の高さ方向の位置も光源200の位置に合わせる)を変化させ、これにより試験管204上の特定の高さにおける透過光量が測定される。表示機207は受光部202による測定結果を出力する。例えば波長毎の光透過量、特定の高さに配置されている試料成分、などを出力する。
【0025】
計測対象が血液である場合、試験管204には例えば、血餅208、分離剤209、血清210、空気211が含まれ、キャップ212により蓋がされる。試験管204の外周には、試験管204の種類や検査項目もしくは患者の識別用途に用いられる、紙製やシール製のラベル213が貼付される場合がある。ラベル213には、バーコードや文字等が印刷されている場合もある。
【0026】
図3は、試料検出装置における波長分光部201とその周辺素子の構成例である。光源200は試験管204の側方に配置され、試験管204の側面に対して光を照射する。照射された光は、試料を透過するようにレンズ300を用いて集光されることが好ましい。光源200としては、計測する試料(ここでは血清)の光吸収ピークが存在する領域付近の波長を持った光を発生させるものを用いる。具体的には、1450nmに血清の吸収ピークが存在するので、1300〜1700nmの範囲の波長が好ましく、本実施形態1では中心波長1450nmの発光ダイオードを用いた。この中心波長の光は、血清の主成分である水によく吸収され、中心波長よりも短波長側の光は水には透過する性質をもつ。またこの波長帯の光は、特に中心波長よりも長波長側で分離剤を透過する性質を持ち、全波長帯で血餅に吸収される性質をもつ。
【0027】
光源200としては、レーザ、発光ダイオード、ハロゲンランプのいずれを用いてもよい。レーザの場合には高い指向性と高出力が得られ、発光ダイオードの場合にはコストメリットがある。複数のレーザや発光ダイオードを隣合わせに配置し、あるいはレンズやファイバ等により合波することにより、広い発光波長領域をもつ光源を用いてもよい。周囲の温度等に依存して光源200の発光波長は僅かに変化するので、光源200付近に温度センサを配置し、温度に応じて制御電圧を変更し、あるいは光源200を一定温度に制御することが好ましい。
【0028】
光源200からの光は、試料を含む試験管204を透過した後、再度レンズ300により集光され、波長分光部201を透過する。波長分光部201は、入射した光の中から任意の波長の光を取り出す機能を有している。波長分光部201としては例えば、光の干渉を利用して特定波長の光を取り出すフィルタ、波長選択性をもつ材料の薄膜を利用した光学フィルタ、光を波長毎に空間的に分離可能なプリズムや回折格子、などが用いられる。後述の
図4Cに示すように血液は近接した波長領域において光強度ピークを有するので、波長分光部201は半値全幅20nm程度もしくはそれよりも小さい波長分解能をもつことが好ましい。本実施形態1では、高波長分解能およびコストメリットが大きく、装置構成を簡素化することができる、光の干渉を利用したファブリ・ペローフィルタを用いた。ファブリ・ペローフィルタを用いた場合は、受光部202の表面積を大きくとることができるので、試験管204表面のラベルによって光が散乱する場合に有効である。回折格子を用いた場合は、高い波長分解能で計測する場合に有効である。
【0029】
波長分光部201は、例えば、2つのミラー薄膜301、中間層302、電圧制御装置303から構成される。2つのミラー薄膜301は厚さ数μmの中間層302に挟まれて対向しており、ミラー間のギャップに応じて特定波長の光を透過できる。電圧制御装置303により静電引力を制御し、2つのミラー薄膜301間の距離を変更することにより、任意の波長をもつ光を透過できる。
図3に示す例においては、電圧制御装置303に印加する電圧を大きくするほどミラー間のギャップは小さくなり、より短波長側の光が透過する。このようなフィルタの構成によると、周囲の温度に依存してミラー間のギャップは僅かに変化するので、波長分光部201近辺に温度センサを配置し、温度に応じて制御電圧を変更し、あるいは波長分光部201を一定温度に制御することが好ましい。
【0030】
波長分光部201を透過した任意波長の光は、受光部202によって、透過光量を表す信号に変換される。受光部202としてはフォトダイオードが用いられる場合が多く、例えば、近赤外領域において高い感度をもつInGaAs(インジウムガリウムヒ素)フォトダイオードが好ましい。電圧制御装置303における電圧を変化させながら透過光量を測定することにより、波長毎の透過光量を測定する。
【0031】
<実施の形態1:試料成分の特定>
図4Aは、光源200からの光を試験管204に対して照射する位置を駆動装置205によって変化させる様子を示す図である。S400aは血餅層に対する照射位置、S400bは分離剤層に対する照射位置、S400cは血清層に対する照射位置、S400dは空気層に対する照射位置をそれぞれ示す。
【0032】
図4Bは、各試料成分を透過した後の透過光量の波長依存性を示す。波長分光部201を透過する光の波長を変化させながら、受光部202によって試料を透過した光量を計測した結果を模式的に示している。S401aは血餅を、S401bは分離剤を、S401cは血清を、S401dは空気を、それぞれ透過した後の透過光量である。光源200は望ましくは近赤外領域の光を発光し、近赤外領域の光は空気および試験管を透過するのでS401dの透過光量が最も大きく、光源200固有の波長スペクトルに極めて近い形状を示す。分離剤を透過した透過光量S401bが2番目に大きい。分離剤は近赤外領域の光を概ね透過する傾向を示すが、長波長側でその傾向がより顕著となる。血清は近赤外領域の光を概ね吸収する傾向を示し、特に長波長でその傾向は顕著となるので、S401cのような特性となる。血餅は近赤外領域全域において光を強く吸収するので、血餅を透過した透過光量S401aが最も小さい。
【0033】
このように光源200からの光が透過する試料成分によって、透過光量や透過光量が特徴的な波長は大きく異なる。透過光量は試料の厚み(本例では試験管204の短手方向)にも依存しており、試料成分を検出する場合には特徴的な波長に着目する必要がある。
【0034】
図4Cは、各試料を透過した後の透過光量をそれぞれの最大値で正規化した結果の模式図である。S402aは血餅を、S402bは分離剤を、S402cは血清を、S402dは空気を、それぞれ透過した後の透過光量を各最大値で正規化した結果を示す。透過光量ごとに正規化することにより、各透過光量の波長に対する特性がより顕著になるので、特徴的な波長をより容易に特定することができる。
【0035】
血餅層においては光源200からの光は全波長領域で吸収されるので、S402aにおいて特徴的な波長は存在せず平坦な波長依存特性となる。空気層は光源200からの光をほとんど吸収しないので、S402dは光源200固有のスペクトルに近い形状となる。本実施形態1では近赤外領域の光を放出する発光ダイオードを用いているので、光源200の中心波長付近に1つのピークをもつスペクトルとなる。分離剤の主成分であるオレフィン系樹脂等は、近赤外光を透過するものの、短波長領域においては空気の場合と比較して光を吸収するので、スペクトルのピークは光源200固有の波長から長波長側にシフトし、S402bのような波長依存特性となる。血清の主成分である水は、近赤外領域の長波長側、特に1450nmや1900nm、および両波長の中間波長領域で強く光を吸収するので、スペクトルは光源200固有の波長よりも短波長側にピークをもつ。
【0036】
図4Dは、各試料を透過した後の透過光量を最大値で正規化した値に関して一次導関数を算出した結果の模式図である。好ましくは、一次導関数は波長方向に算出される。すなわち波長の増分に対する透過光量の増分を一次導関数とする。S403aは血餅を、S403bは分離剤を、S403cは血清を、S403dは空気を、それぞれ透過した後の透過光量を正規化した値の一次導関数である。一次導関数の値がゼロクロスする波長は、透過光量が極小値もしくは極大値となる波長を意味している。したがってゼロクロス点の波長を特定することにより、各試料成分の特徴的な波長を正確に特定できる。
【0037】
図4Cと
図4Dによれば、各試料成分を表す特徴波長として、以下を特定することができる。分離剤と空気はそれぞれS402bとS402dに示すように特定の波長λ4とλ3において透過光量がピークとなるので、一次導関数はこれらの波長においてゼロクロスする。したがって一次導関数がこれら波長においてゼロクロスする成分層は、それぞれ血清層と空気層であることが特定できる。血清は短波長領域において透過光量が急峻に減衰する特性を有するので、一次導関数の値が最小である波長λ1から一次導関数の値が0になる波長までの波長領域における一次導関数の変化量(すなわち当該波長領域における二次導関数の値)などを用いて、当該成分層が血清層であることを特定できる。波長領域によらず平坦な特性を有する成分層は血餅層であることが分かる。
【0038】
以上の説明においては、特徴的な波長成分を特定する便宜上、透過光量の一次導関数の値を用いることとしたが、
図4Cから分かるように正規化した透過光量それ自体も特徴的なスペクトル特性を有しているので、これを用いて同様の処理を実施することもできる。例えばS402cにおいて、透過光量が最大となる波長と最小となる波長との間の差分に基づき、透過光量が短波長領域において急峻に減衰しているか否かを特定することができる。
【0039】
試料の成分が複雑である場合、例えば、脂肪成分が過剰に溶出した血清や、ビーズ、ゲル、ゴムなどの異なる種類の分離剤が含まれている場合には、λ2のような極小値を示す波長を抽出し、これを用いて各試料成分層を特定してもよい。極小値と極大値の区別は、あらかじめ試料成分ごとに把握しておけばよい。
【0040】
図5は、試験管204にラベル213が貼付されている場合における、照射位置の模式図、および各試料を透過した後の透過光量の波長依存性の模式図である。S500aはラベルと血餅を、S500bはラベルと分離剤を、S500cはラベルと血清を、S500dはラベルと空気を、それぞれ計測した場合の光ビームの模式図である。S501aはラベルと血餅を、S501bはラベルと分離剤を、S501cはラベルと血清を、S501dはラベルと空気を、それぞれ透過した後の透過光量を各最大値で正規化した結果を示す。比較のため
図4Cで説明した波長特性を併記した。
【0041】
図5に示すように、ラベル213が存在する試験管204の場合であっても、ピーク波長は変化しない。したがって、ラベル213の有無に関わらず試料成分層の位置を検出することができる。
【0042】
試験管204の表面にラベル213が貼付されている場合、ラベル213表面で光源200の光が散乱し、もしくはラベル213内部において光が吸収されるので、受光部202において検出される光量は低下する。ラベル213が貼付されていることによる光量低下の主要因は、ラベル213表面における光散乱である。この光散乱により、近赤外領域では波長によらず全波長領域において一定の光量が低下する。すなわち、ラベル213の有無に関わらず、試料成分のみに依拠して、透過光量がピークを示す波長が決まる。したがって
図4B〜
図4Dで説明した手法により、血餅、分離剤、血清、空気の試料成分を特定できる。したがって、ラベル213が存在する場合であっても、試料成分を正確に特定することができる。
【0043】
図5において、ラベル213は受光部202の方向を向いているが、本実施形態1はラベル213が光源200の方向を向いている場合に適用してもよい。試験管204の全周にわたってラベルが貼付されて目視で中身が確認しがたい場合や、複数枚のラベルが重ねて貼付されている場合であっても、本実施形態1を適用してもよい。その場合には、ラベルを透過させるために高出力のレーザ、もしくは高出力の発光ダイオードを用いてもよいし、発光のタイミングを間欠的なパルス状にすることによって瞬間的に高出力が得られるように光源200を制御してもよい。複数のラベルが貼付されている場合には、光源200のみならず受光部202においてもダイナミックレンジの広い光量の計測が求められる。そこで、受光部202において得られた信号を、対数増幅器を用いて広いダイナミックレンジにて検出してもよいし、動的にゲインを変更できるオートマティックゲインコントロール増幅器を用いてもよい。さらに、上述のパルス発光の場合には、発光周期に同期させて計測を実施することにより、信号対雑音比を向上させてもよい。
【0044】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る生体試料分析装置10は、試験管204を透過した透過光量がピークとなる波長を特定することにより、試験管204が収容している各層の試料成分を特定する。すなわち、複数の波長成分を有する光を光源200が出射し、波長分光部201が特定の波長成分を分離することにより、各層の試料成分を特定することができる。したがって、複数の光源を用いることなく、簡易な光学系構成により各試料成分を正確に特定することができる。
【0045】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、実施形態1で説明した装置構成と原理を前提として、試験管204が収容している各試料成分層間の境界面位置を特定する具体的な手順について説明する。生体試料分析装置10の構成は実施形態1と同様であるので、以下では境界面位置を特定する手順について主に説明する。
【0046】
図6Aは、駆動装置205を用いて試験管204の位置を変化させながら取得した、試料透過後の透過光量が最大値となる波長のプロットである。光源200からの光が吸収されて透過光量が検出下限以下となり、ピーク波長が検知できない場合、ピーク波長は光源200に含まれる最も短い波長である1300nmであるものと仮定した。ここでは一般的な生化学免疫分析等で用いられる血液の成分を分離した試料の例を示す。試料は試験管の底から、血餅208/分離剤209/血清210の三層構造になっており、血清の上には空気211の層が存在する。試料の境界面は、血餅と分離剤との間の境界面600、分離剤と血清との間の境界面601、血清と空気との間の境界面602である。特に分析に用いられる血清210の境界面位置を検出することが重要である。ピーク波長は
図4Cに示した波形にしたがって、鉛直方向に試験管204を移動させることにより、ピーク波長の高さ依存性S603を取得した。
【0047】
図4Cで説明したように、空気211におけるピーク波長はλ3、血清210におけるピーク波長はλ1、分離剤209におけるピーク波長はλ4、血餅208におけるピーク波長は存在しない。したがってピーク波長が変化する高さを特定することにより、各試料成分層間の境界面位置を検出することができる。
図6中には示してはいないが、試験管204の底より下方の位置においては、試料や試験管等光源からの光を吸収する物体は通常存在しないので、ピーク波長は光源200の中心波長となる。これを利用して試験管204の底を検出することもできる。
【0048】
図6Bは、例えば血液凝固分析等で用いられる試料について同様に試料成分層間の境界面位置を特定した結果の例である。試料は、試験管の底から、血球605/血しょう606の二層構造になっており、血しょうの上には空気211の層が存在する。試料の境界面は、血球と血しょうとの間の境界面607、血しょうと空気との間の境界面608、である。
図6Aと同じく、ピーク波長は試料成分層に対応して階段状に変化している。したがってこのような試料の場合にも、ピーク波長が変化する高さを抽出することにより、試料成分層間の境界面位置を検出することができる。
【0049】
本実施形態2では、試験管204の位置を約1mm単位で移動させながら計測を実施した。ピーク波長が変化する位置と、ノギスによって測定した試料境界面位置との間の誤差は、1mm以内と良好であった。試験管204と光源200との間の相対位置をより精密に変化させることにより、さらに精密に境界面位置を計測してもよい。また、
図6Bのような試料において精密に境界面位置が算出できる場合には、血球と血しょうの間に僅かに存在する、バフィーコートと呼ばれる層を検出するために、本発明を用いてもよい。バフィーコート中には、血小板や細胞成分が多く含まれるので、例えば血液凝固分析においてはバフィーコートを除外するニーズがあり、例えば遺伝子検査においてはバフィーコートを含めて試料を分注するニーズがある。本発明によりこれらニーズを実現することができる。
【0050】
図7は、生体試料分析装置10が試料の境界面位置を抽出する手順を説明するフローチャートである。以下
図7の各ステップについて説明する。
【0051】
(
図7:ステップS700)
光源200は、試料を含む試験管204の側方から光を照射する。受光部202は、試料と波長分光部201を透過した光の透過光量を取得する。コンピュータ203は、波長分光部201が分離する波長を走査させながら各波長における透過光量を取得することにより、近赤外波長領域内の各波長における透過光量を取得する。
【0052】
(
図7:ステップS701)
コンピュータ203は、走査した波長範囲内における透過光量の最大値を基準として、透過光量を正規化する。
【0053】
(
図7:ステップS702)
コンピュータ203は、ステップS701において正規化した透過光量の波長方向への一次導関数を算出する。すなわち、波長の増分に対する透過光量の増分を表す関数を求める。コンピュータ203は、求めた一次導関数のゼロクロス点を特定することにより、透過光量が最大となるピーク波長を算出する。さらに、
図4Cと
図4Dで説明した血清のような特性を有する試料成分については、一次導関数の最大値と最小値、および二次導関数を求めてもよい。
【0054】
(
図7:ステップS703)
コンピュータ203は、駆動装置205により光源200と試験管204との間の相対位置を変化させる。すなわち、試験管204に対して光を照射する高さ方向の位置を変化させる。好ましくは本ステップにおいて、所望の境界面位置分解能と同程度の分解能で相対位置を移動させる。
【0055】
(
図7:ステップS704)
好ましくは、試験管204の底と同じ高さに光源200が配置された状態からステップS700を開始し、コンピュータ203は、試験管204の高さに相当する距離だけ相対位置を変化させるまで、S700からS703を繰り返す。試験管204自体の高さに関わらず、試料が存在する位置があらかじめ規定されている場合は、本ステップにおいて必ずしも試験管204の高さ分移動する必要は無く、所定の高さだけ移動した後に本ステップを終了してもよい。
【0056】
(
図7:ステップS705〜S706)
コンピュータ203は、ステップS702の結果にしたがって、試料成分層間の境界面位置を求める(S705)。コンピュータ203は、求めた境界面位置と試験管204のサイズ(例えば内径)を用いて、各試料成分の液量を算出する(S706)。
【0057】
図7に示した各ステップは、この順番に限るものではない。例えば、S701とS702はS704の次に実施しても構わない。高分解能で境界面位置を算出する場合は、S700とS703を独立に実施する必要があるが、分解能は追求せず高速に境界面位置を算出したいという要求に応えるためには、S700とS703を同時に実施し、S704の後にS701およびS702を実施してもよい。
【0058】
<実施の形態3>
実施形態1〜2においては、波長分光部201が分離する波長を走査することにより、各試料成分を特定する手順を説明した。実施形態1〜2で説明した手法を用いる場合、波長分光部201が分離する波長を連続的に変化させることになる。
図3に示したようなファブリ・ペローフィルタは電圧によりミラー薄膜301の物理的な距離を変更させて透過波長を変化させるので、透過波長が安定するまでに時間を要する。したがって実施形態1〜2において、波長領域を連続的に変化させるためには、計測のスループットは犠牲になる。
【0059】
他方で試料成分の構成があらかじめ分かっており各試料成分層の位置のみを特定する必要がある場合は、必ずしも波長を走査して全ての波長における透過光量を取得する必要はないと考えられる。本発明の実施形態3ではこのことを利用して各試料成分を簡易的に特定する手順を説明する。生体試料分析装置10の構成は実施形態1〜2と同様である。
【0060】
図8Aは、波長分光部201の透過波長をλ1〜λ4まで変化させた場合における、透過光量の波長依存性を示す。S800aは血餅を、S800bは分離剤を、S800cは血清を、S800dは空気を、それぞれ透過した後の透過光量を各最大値で正規化した結果を示す。
図4Cで説明したように、透過光量がピークとなる波長は試料成分層ごとにそれぞれ異なる。したがって、試料成分の構成と各試料成分の波長特性があらかじめ分かっているのであれば、各試料成分層に対してλ1〜λ4それぞれの透過光量を測定し、いずれの波長において透過光量がピークとなるかを判定することにより、各層の試料成分を特定することができる。
【0061】
図8Bは、試験管204に血餅208、分離剤209、血清210が含まれた場合において、
図8Aで説明した手順にしたがって各試料成分を特定した結果を示す。透過波長を連続的に走査させた
図6Aと同様に、透過光量が最大となる波長は、試料成分層間の境界位置に応じてステップ状に変化する。すなわち、透過光量が最大となる波長の変化点を算出することにより、試料層間の境界面位置を検出することができる。
【0062】
図8Cは、試験管204に血球605と血しょう606が含まれた場合において、
図8Aで説明した手順にしたがって各試料成分を特定した結果を示す。
図8Bと同様に、透過光量が最大となる波長の変化点を算出することにより、試料層間の境界面位置を検出することができる。
【0063】
図8Aで説明した手順により試料成分層間の境界面位置を特定する場合、各波長は光源200の中心波長周辺から数点程度選択することが望ましく、さらには検出したい試料成分層の層数と同数程度を選択することが好ましい。
【0064】
図9は、生体試料分析装置10が試料の境界面位置を抽出する手順を説明するフローチャートである。以下
図9の各ステップについて説明する。
【0065】
(
図9:ステップS900)
本ステップはステップS700と同様である。ただしコンピュータ203は、波長分光部201が分離する波長を、
図8Aで説明したように離散的に変化させる点が、ステップS700とは異なる。
【0066】
(
図9:ステップS901〜S902)
S901はステップS701と同様である。コンピュータ203は、正規化した透過光量が最大となる波長方向を特定する(S902)。例えば
図8AのS800dにおいては、波長λ1〜λ4のうち透過光量が最大となるのはλ3である。
【0067】
(
図9:ステップS903〜S904)
これらステップはS703〜S704と同様である。
【0068】
(
図9:ステップS905)
コンピュータ203は、好ましくは、得られた鉛直方向のプロットに対して、フィルタ処理などによってノイズを除去する。これは
図8Bにおける血清と空気との間の境界面付近に存在しているようなノイズ成分を取り除き、試料の境界面位置を正確に演算するためである。
【0069】
(
図9:ステップS906〜S907)
これらステップはS705〜S706と同様である。
【0070】
<実施の形態3:まとめ>
本実施形態3に係る生体試料分析装置10は、あらかじめ成分構成がわかっている試料に対して、各成分の透過光量がピークとなる波長の光を照射することにより、各層の試料成分を特定する。これにより、波長分光部201が分離する波長成分を走査する必要がなくなるので、試料成分層の境界面位置を、精度よくかつ高速に特定することができる。
【0071】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0072】
以上の実施形態においては、試料を試験管204に入れた例を説明したが、試験管204に限定されず、他の容器が使用されてもよい。以上の実施形態においては、試験管204と受光部202との間に波長分光部201が配置されているが、試験管204と波長分光部201との位置関係は逆でも構わない。すなわち光源200と受光部202の間に試験管204と波長分光部201が存在すれば、順序は問わない。
【0073】
以上の実施形態においては、試験管204の位置を移動させることによって、試験管204と光源200との間の相対位置を変化させたが、試験管204は固定しておき、光源200(および波長分光部201と受光部202)の位置を移動させてもよい。
【0074】
以上の実施形態によって得られた試料成分層間の境界面位置(例えば境界面601や境界面607)は、分注モジュール107が活用してもよい。分注モジュール107は、試験管204から血清や血しょうを一定量吸引し、別の試験管に小分けにする。この工程において、分注プローブが粘性の高い分離剤や血球成分まで挿入されると、プローブが詰まる可能性が高く分析が止まるリスクが高い。そこで、得られた境界面位置情報を元に分注プローブの位置を制御すれば、そのリスクを低減することができる。また一般に、試料は円筒形状の試験管に入っている場合が多い。したがって試料層の境界面位置が分かれば、そこから試料層を円柱等で近似することによって、体積を算出することができる。例えばステップS706においてこの手順を用いることができる。この体積情報を元にすれば、分注モジュール107によって何回分注できるか試算することができる。もし試料量が不足している場合には、優先項目から分析を実施するなどしてもよい。
【0075】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。