【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、図を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の電源回路50および振動発電装置100の概略構成を示す模式図である。振動発電装置100は、環境振動により交流電力を発電する振動発電素子10と、発電した交流電力を電源として取り出す電源回路50とを備える。
電源回路50は、振動発電素子10から入力される電力のうち負電圧の成分のみを出力する負半波整流回路20と、負半波整流回路20からの負電圧の電力を、正電圧に変換する反転チョッパ回路30とを、含んでいる。電源回路50は、さらに、反転チョッパ回路30からの正電圧の電力を、所定の正電圧の電力に変換する電圧変換回路40を含んでいても良い。
【0009】
振動発電素子10は、一例としてエレクトレット電極を備える静電容量型の発電素子(エレクトレット形発電素子)であり、
図2を参照してその概要を説明する。
振動発電素子10は、可動電極である第1電極11と、固定電極である第2電極12を有している。第1電極11は一例として2本の櫛歯部分15を有する櫛歯電極であり、第2電極12は一例として3本の櫛歯部分16を有する櫛歯電極である。
【0010】
第1電極11の櫛歯部分15と第2電極12の櫛歯部分16は、図中のZ方向に所定の厚さを有しており、かつ、それらが噛合する部分において互いに他方の電極に対向している。第1電極11および第2電極12は、たとえばシリコンを基材としたMEMS構造体として製造することができる。
第2電極12の櫛歯部分16のうち、第1電極11の櫛歯部分15と対向する面の表面の領域17には、公知の帯電処理(例えば、特開2014−049557号公報に記載の帯電処理)を施すことにより、負の電荷を有するエレクトレットが形成されている。
【0011】
エレクトレット化により第2電極12の櫛歯部分16が半永久的に帯電する。この結果、エレクトレット化された電極と対向する第1電極11の櫛歯部分15には、エレクトレット化された電極とは逆特性の、すなわち正の誘導電荷が誘起される。
【0012】
第2電極12は絶縁性の支持枠13により固定的に保持されている。
一方、第1電極11は、保持部14(電極保持部14a、連結部14b、固定部14c)により、支持枠13に対して図中の上下方向(X方向)に振動するように保持されている。保持部14は、第1電極11を保持する電極保持部14aと、支持枠13に固定されている固定部14cと、電極保持部14aと固定部14cをつなぐ、可撓性を有する連結部14bから構成されている。
【0013】
連結部14bは、
図1中のX方向の厚さが薄く、Z方向の厚さが厚い、金属等の可撓性材料からなる薄片である。支持枠13に外部から振動が加わると、図中の電極保持部14aの左右に設けられている2つの連結部14bが撓むことにより、電極保持部14aは支持枠13に対してX方向に振動する。この結果、電極保持部14aに保持された第1電極11は、支持枠13に固定されている第2電極12に対して、X方向に振動する構成となっている。
【0014】
第1電極11と第2電極12とのX方向への振動に伴い、第1電極11の櫛歯部分15と第2電極12の櫛歯部分16が対向する面の面積が増減する。その結果、第1電極11と第2電極12とが対向する部分の面積が変化し、エレクトレットによる誘導電荷も変化し、第1電極11と第2電極12との間の電位差が変化して起電力が発生することで、振動発電素子10による発電が行われる。
【0015】
振動発電素子10は、振動発電装置100が設置された環境の振動のエネルギーを電気エネルギーに変換して、交流電力を発生する。
振動発電素子10からの交流電圧が出力される2本の出力線のうち、第2電極12に接続されている出力線W2は、
図1中の負半波整流回路20の入力部に接続され、他方の第1電極11に接続されている出力線W1はグランドに接続される。なお、出力線W1も、グランドを介して負半波整流回路20のグランド(電源回路50のグランド)に接続されている。
【0016】
負半波整流回路20は、カソードが振動発電素子10の一端に接続される第1ダイオードD1と、アノードが振動発電素子10の一端と第1ダイオードD1のカソードに接続される第2ダイオードD2を含む。負半波整流回路20の入力部は、第1ダイオードD1のカソードおよび第2ダイオードD2のアノードである。負半波整流回路20の出力部は、第1ダイオードD1のアノードである。
【0017】
振動発電素子10の第2電極12から出力線W2を経て負半波整流回路20に入力する交流電圧は、それが正電圧のときには、ほぼ無抵抗で電流として第2ダイオードD2を通ってグランド側に流れる。従って、負半波整流回路20に入力する交流電圧のうちの負電圧の成分だけが、第1ダイオードD1を通って、負半波整流回路20から出力される。
負半波整流回路20の出力部である第1ダイオードD1のアノードには、第1コンデンサC1の一端が接続され、第1コンデンサC1の他端はグランドに接続されている。負半波整流回路20から出力された負の電力は、第1コンデンサC1に蓄積され、第1コンデンサC1から反転チョッパ回路30に供給される。
第1コンデンサC1により、パルス的な出力である負半波整流回路20からの出力電力は時間的に平滑化されるので、電力を安定して反転チョッパ回路30に供給することができ、反転チョッパ回路30による電力の伝達の効率を向上することができる。
【0018】
図3は、振動発電素子10の動作原理の概略を表す図である。以下、
図3を参照して第1実施形態の振動発電装置100のエネルギー変換効率が高い理由の1つを説明する。
図3(a)〜(c)は、
図3に示した第1電極11の櫛歯部分15と第2電極12の櫛歯部分16が、
図1中のX方向に相対移動する様子を示す図である。
図3の説明においては、簡略化のために第1電極11の櫛歯部分15を第1電極15と呼び、第2電極12の櫛歯部分16を第2電極16と呼ぶ。
【0019】
図3(a)は、第1電極15と第2電極16とが所定の部分において対向している状態を示す図である。第1電極15と対向する第2電極16の表面の領域17には、負電荷60が帯電されたエレクトレットが形成されている。
この負電荷60に誘起され、第2電極16と対向する第1電極15の表面には、正の電荷62が誘起されている。一方、第2電極16のうち、第1電極15と対向しない部分では領域17の負電荷60に誘起されて、第2電極16の内部に正の電荷61が誘起されている。
【0020】
第1電極15に誘起された正の電荷62と第2電極16の表面のエレクトレットによる負電荷60は、第1電極15と第2電極16との対向部に電場E0を形成する。
図3(a)中の抵抗Rは、振動発電素子10が接続される電源回路50および外部負荷ROを抵抗として表したものである。電場E0中で、振動発電素子10が振動した場合、第1電極と第2電極間の静電容量変化に伴って発生した電圧が抵抗Rには印加されている。
図3(b)、(c)に示す例では、第1電極15と第2電極16の振動に伴い、振動発電素子10の出力電圧は
図3(a)に示す例に比べて、増減する。
【0021】
図3(b)は、
図3(a)に示した状態から第1電極15と第2電極16とがX方向に相対移動し、第1電極15と第2電極16とが対向する部分の面積が、
図3(a)に示した状態よりも減少した場合を示している。
図3(b)に示した状態では、
図3(a)に示した状態に比べ、第2電極16の表面の負電荷60により誘起されていた第1電極15表面の正の電荷62は減少し、負電荷60により誘起されていた第2電極16内の正の電荷61は増加する。
【0022】
そのため、電極の振動により
図3(a)の状態から
図3(b)の状態に変化する際には、
図3(a)において第1電極15に誘起されていた正の電荷62の一部は、電流I1となって抵抗Rを経由して第1電極15から第2電極16に移動しようとする(正確には、電子が第2電極16から第1電極15に移動しようとする)。このため、第1電極15は第2電極16に対して正の電位となる。
【0023】
しかし、この電荷の移動は、抵抗Rの電気抵抗により阻害されるため、第1電極15には正の残留電荷64が残留し、一方の第2電極16内の負電荷60と対向する部分の一部には、正の電荷の欠損部63が生じる。この正の残留電荷64と正の電荷の欠損部63は、第1電極15と第2電極16との対向部の電場E1を、
図3(a)の場合の電場E0に比較して、強めることになる。
【0024】
図3(c)は、
図3(a)に示した状態から第1電極15と第2電極16とがX方向に相対移動し、第1電極15と第2電極16とが対向する部分の面積が、
図3(a)に示した状態よりも増大した場合を示している。
図3(c)に示した状態では、
図3(a)に示した状態に比べ、負電荷60により誘起される第1電極15表面の正の電荷62も増大し、負電荷60により誘起されていた第2電極16内の正の電荷61は減少する。
【0025】
そのため、電極の振動により
図3(a)の状態から
図3(c)の状態に変化する際には、
図3(a)において第2電極16に誘起されていた正の電荷61の一部は、電流I2となって抵抗Rを経由して第2電極16から第1電極15に移動しようとする(正確には、電子が第1電極15から第2電極16に移動しようとする)。このため、第1電極15は第2電極16に対して負の電位となる。
【0026】
しかし、この電荷の移動は、抵抗Rの電気抵抗により阻害されるため、第2電極16には正の残留電荷65が残留し、一方の負電荷60と対向する部分の第1電極15内の一部には、正の電荷の欠損部66が生じる。この正の残留電荷65と正の電荷の欠損部66は、第1電極15と第2電極16との対向部の電場E2を、
図3(a)の場合の電場E0に比較して、弱めることになる。
【0027】
このように電場E2が弱まった状態では振動発電素子10の発電効率が低下する。よって、電場E2が弱まった状態で振動発電素子10から電力を取り出すと、電気的ダンピングが減少し、機械的エネルギーから電気的エネルギーへの変換速度が遅くなるために、可動電極である第2電極16に蓄積されている環境振動のエネルギー(運動エネルギー)が、電気エネルギーに効率良く変換されずに、浪費されてしまうことになる。
【0028】
第1実施形態の電源回路50および振動発電装置100においては、
図1に示したように、振動発電素子10の第2電極12は出力線W2を経て負半波整流回路20に接続されている。従って、
図3(C)に示す例のように、振動発電素子10の第2電極12が第1電極11に対して正の電位となる場合には、負半波整流回路20の第2ダイオードD2は順バイアスとなるため、振動発電素子10で発生された電流は、第2ダイオードD2を通って、第2電極12から第1電極11まで、ほぼ無抵抗で流れることができる。
このため、第1実施形態の電源回路50および振動発電装置100においては、
図3(a)から
図3(c)に示すように第1電極15と第2電極16が相対移動したときの電場E2の弱まりを防止することができ、高い発電効率を得ることができる。
【0029】
一見すると、第2電極12から第1電極11に第2ダイオードD2を通して電流を流すことにより、発電された電気エネルギーを浪費しているようにも思える。しかし、第2ダイオードD2を順方向に流れる電流の電気抵抗は実質的にゼロであり、また、流れる電流の総量は第1電極11および第2電極12に誘起される電荷の量であり上限が決まっていることから、損失する電気エネルギーの量ΔEG2、すなわち(抵抗)×(電流)×(電流)の量も僅かである。
【0030】
図4は、本形態の負半波整流回路20と使用した場合と、従来の全波整流回路を使用した場合との発電出力とを比較した図である。
図4(a)は、本形態の負半波整流回路20による発電出力(電力)P11と時間t(横軸)の関係を示す図であり、
図4(b)は、従来の全波整流回路による発電出力(電力)P21と時間t(横軸)の関係を示す図である。両図の縦軸は、出力電力Pである。
【0031】
従来の例えばダイオードブリッジ型の全波整流回路を使用した場合、電極の相対振動に伴い振動発電素子の第1電極と第2電極の間に誘起された正弦波状の電力(電圧)は、全波整流回路により負の電圧が正に反転され、概ね正弦波の絶対値に等しい電力P21が出力される。電力P21の時間変化の隣り合うピーク間の時間は、振動発電素子の振動の周期の半分である。
【0032】
一方、
図4(a)に示した本形態の負半波整流回路20による出力P11は、第1電極11と第2電極12の間に誘起された正弦波状の電力(電圧)のうち、第1電極11が正の電位、第2電極12が負の電位に誘起された状態のみが出力される。すなわち、正弦波状の電圧のうちの負の部分のみが出力されるので、従来の全波整流回路を使用した場合の出力P21に比べて、ピークの数は半分になる。
【0033】
しかし、振動発電素子の場合、外部から加えられる振動のエネルギーは、空気抵抗や摩擦として失われる機械エネルギーと、振動発電素子に発電される電気エネルギーの和に等しい。よって、外部から加えられる振動のエネルギー、および失われる機械エネルギーが等しければ、取り出せる電気エネルギーの総量は電気エネルギーを取り出す回数(頻度)に関係なく、一定となる。
【0034】
このため、本形態の負半波整流回路20による出力P11は、1つのピークの大きさ(電力)が、従来の出力P21の1つのピークに比べて大きくなる。そして、上述の電場E2の弱体化を考慮しない場合には、本形態の負半波整流回路20の出力電力の時間平均P10と、従来の全波整流回路を使用した装置の出力電力の時間平均P20は等しくなる。
そして、上述の電場E2の弱体化を考慮すれば、従来の全波整流回路を使用した装置では、電場E2の弱体化が避けられず発電効率が低下するので、本形態の負半波整流回路20の出力電力の時間平均P10は、従来の全波整流回路による出力電力の時間平均を上回ることになる。
【0035】
以上で説明したとおり、本形態においては、振動発電素子10からの電力を負半波整流回路2で入力するために、振動発電素子10の発電効率を高めることができる。しかし、負半波整流回路2の出力は、負電圧である点で一般的な使用に適さない場合もある。
そこで、本形態においては、負半波整流回路20から出力される負電圧の電力を、反転チョッパ回路30に入力し、反転チョッパ回路30により負電圧の電力を正電圧の電力に反転して出力させる。
【0036】
負半波整流回路20から出力され反転チョッパ回路30に入力された負電圧出力の電気エネルギーは、チョッパタイミングを制御するためのMOSトランジスタ等のスイッチング素子T1がオンの状態では、一時的にコイルL1に蓄積される。そして、スイッチング素子T1がオフになると、コイルL1の自己インダクタンスにより、コイルL1に蓄積されていたエネルギーが電流として放出され、整流ダイオードD5を通って、後段(
図1中の右側)の回路に出力される。
【0037】
負半波整流回路20から反転チョッパ回路30に入力される電力は負電圧であるから、スイッチング素子T1がオンの状態では、コイルL1には、グランド側(
図1中の下側)から、スイッチング素子T1側に向かって電流が流れる。整流ダイオードD5は、スイッチング素子T1側がアノードであるため、スイッチング素子T1がオンの状態では、逆バイアスとなり電流が流れない。
【0038】
スイッチング素子T1がオフになると、コイルL1の自己インダクタンスにより、コイルL1に蓄積されていたエネルギーが、コイルL1中をグランド側から整流ダイオードD5側に向かって流れる電流に変換される。このとき、整流ダイオードD5に接続されている側のコイルL1の端部は、グランドに対して正電位となる。従って、整流ダイオードD5は順バイアスとなるため、電流は、整流ダイオードD5を通って電圧変換回路40へと出力される。
以上のように、反転チョッパ回路30により、負電圧の電力が、正電圧の電力に変換される。
【0039】
反転チョッパ回路30の出力部P3である整流ダイオードD5のカソードには、第2コンデンサC2の一端P3が接続され、第2コンデンサC2の他端はグランドに接続されている。反転チョッパ回路30から出力された正の電力は、第2コンデンサC2に蓄積され、第2コンデンサC2から電圧変換回路40の入力部Vinへと出力される。
第2コンデンサC2により、パルス的な出力である反転チョッパ回路30からの出力電力は時間的に平滑化されるので、電力を安定して電圧変換回路40に供給することができ、電圧変換回路40による電力の伝達の効率を向上することができる。
【0040】
電圧変換回路40は、出力部Voutから外部負荷ROに出力する電圧が正の所定の一定値となるように、反転チョッパ回路30から出力され入力部Vinに入力する電圧を、電圧変換する。電圧変換回路40は、一般的なスイッチングレギュレータ型のDC/DCコンバータを使用することができる。電圧変換回路40の出力部Voutとグランドの間には第3コンデンサC3が設けられており、これにより電圧変換回路40からの出力電圧がより平滑化される。
【0041】
なお、電圧変換回路40は、反転チョッパ回路30の出力である正の電力を、外部負荷ROに適した電圧に変換するための回路である。従って、外部負荷ROに適した電圧が反転チョッパ回路30の出力電圧と一致する場合や、外部負荷RO自体が電圧を変換する機能を有する場合には、電源回路50が電圧変換回路40を備えている必要はない。この場合、外部負荷ROが第2コンデンサC2や第3コンデンサC3に相当するコンデンサを有している場合には、電源回路50が第2コンデンサC2および第3コンデンサC3を備えている必要はない。
【0042】
反転チョッパ回路30の入力部P1は、一例としてnMOSトランジスタ(nMOSFET)からなるスイッチング素子T1のソースに接続されている。
反転チョッパ回路30において、スイッチング素子T1をオンおよびオフするための制御は、反転チョッパ回路30に含まれるツェナーダイオードD6、分圧器を構成する抵抗素子R2、R3、コンパレータ回路CP等を含む制御回路35により行われる。
【0043】
振動発電素子10の発電効率は、振動発電素子10からの電力を蓄積する第1コンデンサC1の電圧に依存する。すなわち、第1コンデンサC1が充電され、電圧の絶対値が高く(本形態では負に大きく)なり過ぎると、振動発電素子10からみた第1コンデンサC1の電気抵抗が増大するため、振動発電素子10の発電効率が低下してしまう。逆に、第1コンデンサC1の電圧の絶対値が低く(本形態では負に小さく)なり過ぎても、振動発電素子10の発電効率が低下してしまう。
【0044】
そこで、制御回路35は、第1コンデンサC1の電圧(反転チョッパ回路30の入力部P1の電圧)に基づいて、スイッチング素子T1をオンおよびオフ制御し、第1コンデンサC1の電圧を、振動発電素子10の発電効率が最も高くなる最適電圧V0の近傍の所定の範囲に維持している。具体的には、制御回路35は、第1コンデンサC1の電圧が、最適電圧V0よりも低電圧(負側)の第1基準負電圧V1と、最適電圧V0よりも高電圧(正側)の第2基準負電圧V2の間になるように、制御している。
【0045】
なお、一般には、スイッチング素子T1をオンすると、第2コンデンサC2に蓄積された電荷が第1コンデンサC1に逆流し、第1コンデンサC1の電圧が変動することが懸念される。しかし、本形態は第1コンデンサC1と第2コンデンサC2の間に反転チョッパ回路30を備え、反転チョッパ回路30は、出力部に整流ダイオードD5を備えている。従って、正電圧である第2コンデンサC2から負電圧である第1コンデンサC1への電流は整流ダイオードD5により遮断されるため、第1コンデンサC1の電圧が第2コンデンサC2の電圧により変動を受けることがない。これにより、スイッチング素子T1の高精度な制御が可能となっている。
【0046】
以下、制御回路35について説明する。
反転チョッパ回路30の入力部P1には、抵抗素子R1の一端が接続され、抵抗素子R1の他端はツェナーダイオードD6のアノードに接続されており、ツェナーダイオードD6のカソードは、グランドに接続されている。さらに、入力部P1には、抵抗素子R2の一端が接続され、抵抗素子R2の他端には抵抗素子R3一端が接続され、抵抗素子R3の他端はグランドに接続されている。
【0047】
前述のとおり、第1コンデンサC1の一端は反転チョッパ回路30の入力部P1に接続され、第1コンデンサC1の他端はグランドに接続されているので、ツェナーダイオードD6のカソードは第1コンデンサC1の他端にも接続されている。抵抗素子R2と抵抗素子R3は、第1コンデンサC1の両端にかかる電圧(グランドを基準とした入力部P1の電圧)を分圧する分圧器を構成している。
【0048】
抵抗素子R2と抵抗素子R3の接続部である分圧部P2の電圧は、入力部P1の電圧が分圧されたものであるから、入力部P1の電圧に比例する。一方、ツェナーダイオードD6のアノードの電圧は、入力部P1がツェナーダイオードD6の降伏電圧より負電圧であれば、負の一定値(ツェナーダイオードD6の降伏電圧)となる。
そこで、上記の2つの電圧をコンパレータ回路CPに入力し電圧比較を行うことで、入力部P1の電圧(第1コンデンサC1の電圧)が、振動発電素子10の発電効率を最大にする最適電圧V0以上であるか、それ以下であるかを判断することができる。
【0049】
この判断のために、分圧器を構成する抵抗素子R2,R3の抵抗値は、反転チョッパ回路30の入力部P1の電圧(第1コンデンサC1の電圧)が最適電圧V0であるときに、分圧部P2の電圧が、ツェナーダイオードD6の降伏電圧とほぼ等しくなるように設定する。この設定を容易にするために、
図1中に示したように、抵抗素子R2、R3の少なくとも一方(
図1では抵抗素子R2)は、可変抵抗であることが望ましい。
なお、抵抗素子R2と抵抗素子R3は、抵抗素子に代えて、それぞれコンデンサとすることもできる。
【0050】
コンパレータ回路CPのマイナス側入力(第1入力)には、ツェナーダイオードD6のアノードの電圧が入力される。一方、プラス側入力(第2入力)には、入力側帰還抵抗R4を介して分圧部P2の電圧が入力され、かつ、出力側帰還抵抗R5を介してコンパレータ回路CPの出力が入力される。
【0051】
これにより、コンパレータ回路CPはヒステリシスを有する回路として機能する。すなわち、分圧部P2の電圧が正電圧側から負電圧側に変化する場合には、分圧部P2の電圧が、マイナス側入力に入力される電圧よりも低い(より負の)所定の第1電圧に達したときに、コンパレータ回路CPの出力がゼロ(グランド電位)から負に変化する。一方、分圧部P2の電圧が負電圧側から正電圧側に変化する場合には、分圧部P2の電圧が、マイナス側入力に入力される電圧よりも高い(正側である)所定の第2電圧に達したときに、コンパレータ回路CPの出力が負からゼロ(グランド電位)に変化する。
なお、入力側帰還抵抗R4の抵抗値、および出力側帰還抵抗R5の抵抗値は、第1コンデンサC1の電圧が上述の第1基準負電圧V1および第2基準負電圧V2であるときに、分圧部P2の電圧がそれぞれ上述の第1電圧および第2電圧になるように、設定する。この設定に際して、上述の抵抗素子R2、R3の抵抗値を合わせて設定することが望ましい。
【0052】
コンパレータ回路CPの出力は、pMOSトランジスタ(pMOSFET)T2のゲートに入力される。
コンパレータ回路CPの出力が負であれば、トランジスタT2はオンになり、抵抗素子R8を流れる電流による電圧降下により、nMOSトランジスタであるスイッチング素子T1のゲートの電圧が、スイッチング素子T1のソースの電圧より高く(正側に)なり、スイッチング素子T1がオンになる。なお、電圧降下の量を調整できるように、抵抗素子R8は可変抵抗であることが好ましい。
【0053】
一方、コンパレータ回路CPの出力がゼロであれば、トランジスタT2はオフになり、
その結果nMOSトランジスタであるスイッチング素子T1のゲートの電圧は、スイッチング素子T1のソースの電圧に等しくなるため、スイッチング素子T1がオフになる。
なお、トランジスタT2のゲートとグランドの間に配置される抵抗素子R7は、トランジスタT2のゲートに一時的に蓄積されたコンパレータ回路CPの出力をグランドに放電させるための抵抗素子であり、放電時間の調整のために可変抵抗であることが好ましい。
また、第2ツェナーダイオードD7は、入力部P1の電圧の絶対値が小さくトランジスタT2の動作が不安定な状態において、第2ツェナーダイオードD7および抵抗素子R8を遮断し、スイッチング素子T1をオフにするための素子である。
【0054】
図5は、本形態の振動発電装置100における、反転チョッパ回路30の入力部P1の電圧(第1コンデンサC1の電圧)VP1の時間変化を示す図であり、縦軸は電圧を、横軸は時間を示す。
振動発電素子10が発電を開始すると、第1コンデンサC1には、負の電荷が蓄積されるため、第1コンデンサC1の電圧VP1は徐々に負に増大する。
【0055】
第1コンデンサC1の電圧VP1が第1基準負電圧V1に達すると、電圧VP1に比例する分圧部P2の電圧は上述の第1電圧に達し、制御回路35がスイッチング素子T1をオンにする。これより、第1コンデンサC1に蓄積された電荷(電気エネルギー)は放電され、電流となってコイルL1に流れ、磁気エネルギーとしてコイルL1に蓄積される。スイッチング素子T1がオンになっても、第1コンデンサC1には、振動発電素子10から負半波整流回路20を介して負の電流が流入する。しかし、負半波整流回路20から流入する電流よりも、コイルL1に流れ出す電流の方が多いため、第1コンデンサC1の電圧VP1は負に減少する(正の向きに変化する)。
【0056】
スイッチング素子T1がオンされた後、しばらくすると、第1コンデンサC1の電圧VP1は負側から第2基準負電圧V2に達し、電圧VP1に比例する分圧部P2の電圧も上述の第2電圧に達する。すると、制御回路35がスイッチング素子T1をオフにするため、第1コンデンサC1からコイルL1への放電が停止される。第1コンデンサC1には、振動発電素子10から負半波整流回路を介して負の電流が流入し続けているので、その後、第1コンデンサC1の電圧VP1は、再び負側に変化して第1基準負電圧V1に達する。
【0057】
そして、上述のサイクルを繰り返すことで、第1コンデンサC1の電圧VP1は、第1基準負電圧V1と第2基準負電圧V2との間、すなわち、振動発電素子10の発電効率が最も高くなる最適電圧V0の近傍に保たれる。これにより、本形態の振動発電装置100および電源回路50は、高い発電効率を実現することができる。
【0058】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態の電源回路50aおよび振動発電装置100aの概略構成を示す模式図である。この第2実施形態の構成は、大部分が上述の第1実施形態と同様であるので、同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
この第2実施形態では、振動発電素子10aと負半波整流回路20aの構成が、上述の第1実施形態とは異なっているが、それ以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0059】
図7は、第2実施形態の振動発電装置100aが備える振動発電素子10aを示す概略図である。振動発電素子10aは、上述の
図4の振動発電素子10に対し、保持部14を挟んで図中の下側に、もう一つの振動発電素子10を上下反転させて並列して配置したような構成である。
【0060】
2つの固定電極である第2電極12aおよび第2電極12bは、それぞれ支持枠13の+X側および−X側の端部の内側に固定されている。一方、2つの可動電極である第1電極11aおよび第1電極11bは、保持部14を構成する電極保持部14aのそれぞれ+X側および−X側に設置されている。従って、上述の第1実施形態と同様に、外部からの振動により保持部14が振動すると、第1電極11a、11bは、第2電極12a、12bに対して、X方向に振動する。第2電極12a、12bのそれぞれの櫛歯部分16a、16bのうち、第1電極11a、11bの櫛歯部分15a、15bと対向する面の表面の領域17a、17bには、負の電荷を有するエレクトレットが形成されている。
【0061】
負半波整流回路20aは、
図6に示す構成であり、
図1に示されている負半波整流回路20が、2つ並列に配置された構成となっている。第2電極12aに接続されている出力線W2aは、上述の第1実施形態と同様に、負半波整流回路20の入力部である第1ダイオードD1のカソードおよび第2ダイオードD2のアノードに接続されている。そして、第2電極12bに接続されている出力線W2bは、負半波整流回路20のもう一つの入力部である第3ダイオードD3のカソードおよび第4ダイオードD4のアノードに接続されている。
【0062】
第1電極11aおよび11bに接続されている出力線W1は、上述の第1実施形態と同様にグランドに接続され、かつ、第2ダイオードD2のカソードと第4ダイオードD4のカソードとに接続されている。
第1ダイオードD1のアノードと第3ダイオードD3のアノードが、負半波整流回路20の出力部である。
【0063】
本第2実施形態が備える負半波整流回路20aは、一見するとダイオードブリッジ型の全波整流回路のようにも見えるが、2つの負半波整流回路が並列に配置されたものであって、全波整流回路でない。一対の出力線W2aおよび出力線W2bからそれぞれ入力される電圧が、出力線W1から入力される電圧を基準として負の場合に限りその電力を出力部に出力し、入力される電圧が正の場合には、第2ダイオードD2および第4ダイオードD4を通して電流をグランドに流す。
【0064】
このように負半波整流回路20aは、交流電圧のうちの負電圧の部分のみを通過させる半波整流回路として機能する。従って、振動発電素子10aと負半波整流回路20aを組合せることにより、上述の第1実施形態と同様に、振動発電素子10a内の電場E2の弱まりを防止することができ、高い発電効率を得ることができる。
さらに、第2実施形態の振動発電装置100aが備える振動発電素子10aは、上述のように第1実施形態の振動発電素子10が2つ並列に配置されたものであるので、第1実施形態の振動発電装置100よりもさらに高い発電効率を得ることができる。
【0065】
上記の第1実施形態および第2実施形態のいずれにおいても、振動発電素子10、10aは、第1電極11、11a、11bを可動電極、第2電極12、12a、12bを固定電極としているが、この構成に限られるものではない。すなわち、第1電極11、11a、11bを固定電極、第2電極12、12a、12bを可動電極としても良い。
また、第2電極12、12a、12bの表面領域に負の電荷を有するエレクトレットを形成する代わりに、第1電極11、11a、11bの表面領域に正の電荷を有するエレクトレットを形成しても良い。この場合にも、上述のように、両電極間の電場E2が弱まった状態で振動発電素子10から電力を取り出すことを防止でき、発電効率を向上することができる。
【0066】
負半波整流回路20、20a内の各ダイオード(D1〜D4)は、複数のダイオードを直列に接続して耐圧を向上させたものを用いても良い。
また、反転チョッパ回路30内の制御回路35の中のツェナーダイオードD6も、複数のツェナーダイオードを直列に接続したものを用いても良い。
【0067】
上記の各形態では、反転チョッパ回路30内の制御回路35の中のツェナーダイオードD6は、カソードが直接グランドに接続されるとしたが、これに限らず、抵抗素子を介してグランドに接続される構成であってもよい。
ただし、この場合には、その抵抗素子を流れる電流による電圧降下の分だけ、コンパレータ回路CPのマイナス側入力(第1入力)に入力される電圧がツェナーダイオードD6の降伏電圧よりも負にシフトすることになる。そこで、コンパレータ回路CPのプラス側入力(第2入力)に入力される分圧部P2の電圧も同程度に負にシフトさせるように、抵抗素子R2と抵抗素子R3の抵抗値を設定することが望ましい。なお、ツェナーダイオードD6のカソードが抵抗素子を介してグランドに接続される場合には、アノード側の抵抗素子R1を省略することもできる。
【0068】
反転チョッパ回路30内の制御回路35全体についても、上述の構成に限らず他の構成であっても良い。例えば、コンパレータ回路CPに代えて、入力部P1の電圧をデジタル値に変換するA/D変換回路および制御用ロジック回路を用いることもできる。この場合には、デジタル変換された電圧値が、上述の第1基準負電圧V1および第2基準負電圧V2であるときに、制御用ロジック回路がスイッチング素子T1をオンおよびオフにする構成とすれば良い。
【0069】
(実施形態の効果)
(1)上述の各実施形態および各変形例の電源回路50、50aは、振動発電素子10、10aから入力される電力を外部負荷に出力する電源回路であって、振動発電素子10、10aから入力される交流電力を負電圧出力に半波整流する負半波整流回路20、20aと、負半波整流回路20、20aから出力される負電圧出力を、正電圧出力に反転して出力する反転チョッパ回路30と、を備えている。
この構成により、振動発電素子10、10aに高効率で発電を行わせることができ、環境振動のエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換することができる。
【0070】
(2)(1)において、反転チョッパ回路30から出力される正電圧出力を、電圧変換して外部負荷に出力する電圧変換回路40をさらに備える構成とすることで、電源回路50から、外部負荷ROに適した電圧を出力することができ、これにより、種々の外部負荷ROに適した電源回路50を実現することができる。
【0071】
(3)(1)または(2)において、さらに第1コンデンサC1を備え、第1コンデンサC1は、その一端が負半波整流回路20,20aの出力部に接続され、他端がグランドに接続され、負半波整流回路20,20aから出力される負電圧出力を蓄積し、反転チョッパ回路30に出力する構成とすることで、電力を安定して反転チョッパ回路30に供給することができ、反転チョッパ回路30による電力の伝達の効率を向上することができる。
(4)(3)において、さらに第2コンデンサC2を備え、第2コンデンサC2は、その一端が反転チョッパ回路30の出力部に接続され、他端がグランドに接続され、反転チョッパ回路30から出力される正電圧出力を蓄積し、電圧変換回路40に出力する構成とすることで、電力を安定して電圧変換回路40に供給することができ、電圧変換回路40による電力の伝達の効率を向上することができる。
【0072】
(5)(4)において、さらに反転チョッパ回路30の中のチョッパタイミングを制御するスイッチング素子T1を、第1コンデンサC1の一端の電圧が第1基準負電圧になるとオンにし、第1基準負電圧よりも正側の第2基準負電圧になるとオフにする制御回路35を備える構成とすることで、第1コンデンサC1の電圧を、振動発電素子10の発電効率が最も高くなる最適電圧V0の近傍に保ち、発電効率をさらに向上することができる。
(6)(5)において、さらに制御回路35は、第1コンデンサC1の一端と他端の間に、アノードが第1コンデンサC1の一端側を向いて配置されているツェナーダイオードD6と、第1コンデンサC1とツェナーダイオードD6の間に配置されている抵抗素子R1と、第1コンデンサC1の一端と他端の間に配置され、第1コンデンサC1の一端の電圧と第1コンデンサの他端の電圧とを分圧する分圧器R2、R3とを含み、制御回路35は、ツェナーダイオードD6の両端にかかる電圧と分圧器R2、R3の出力電圧との高低の比較結果に基づいて、スイッチング素子T1をオンおよびオフする構成とすることで、第1コンデンサC1の電圧に基づいて正確にスイッチング素子T1をオンおよびオフすることができる。これにより、第1コンデンサC1の電圧を、より正確に最適電圧V0の近傍に保ち、発電効率をさらに向上することができる。
【0073】
(7)(6)において、さらに抵抗素子R1は、一端が第1コンデンサC1の一端に接続され、他端がツェナーダイオードD6のアノードに接続されており、ツェナーダイオードD6のカソードは、第1コンデンサの他端に接続されている構成とすることで、ツェナーダイオードD6のアノード側の電圧を、グランドに対するツェナーダイオードD6の降伏電圧とすることができる。これにより、上述のツェナーダイオードD6の両端にかかる電圧と分圧器R2、R3の出力電圧との高低の比較が容易になり、反転チョッパ回路30を低コスト化することができる。
(8)(6)または(7)において、さらに制御回路35は、コンパレータ回路CP、入力側帰還抵抗R4、出力側帰還抵抗R5を含み、コンパレータ回路CPの第1入力には、ツェナーダイオードD6のアノードの電圧が入力され、コンパレータ回路CPの第2入力には、分圧器R2、R3の出力電圧が入力側帰還抵抗R4を介して入力されるとともに、コンパレータ回路CPの出力が出力側帰還抵抗R5を介して入力され、コンパレータ回路CPの出力に基づいてスイッチング素子T1がオンおよびオフされる構成とすることで、低消費電力の制御回路35を実現し、より多くの電力を外部負荷ROに供給することができる。
【0074】
(9)上述の各実施形態および各変形例の振動発電装置100、100aは、上記(1)から(8)までのいずれか1つの電源回路50、50aと、電源回路50、50aに電力を供給する振動発電素子10、10aとを備える。
この構成により、環境振動のエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換することができる。
(10)(9)において、さらに振動発電素子10、10aは、負の電荷を有するエレクトレットが形成された電極12、12a、12bが、電源回路50、50aの負半波整流回路20の入力部に接続され、かつエレクトレットが形成されていない電極11、11a、11bが電源回路50、50aの中のグランドに接続されているか、または、エレクトレットが形成されていない電極が電源回路50、50aの負半波整流回路20の入力部に接続され、かつ正の電荷を有するエレクトレットが形成された電極が電源回路50、50aのグランドに接続されている構成とすることで、エレクトレット型振動発電素子10、10aの電場の弱体化を防止し、さらに高い発電効率を得ることができる。
【0075】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。