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特開2019-214479膜付き基材および膜付き基材を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-214479(P2019-214479A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】膜付き基材および膜付き基材を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/245 20060101AFI20191122BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20191122BHJP
   C01G 19/02 20060101ALI20191122BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   C03C17/245 Z
   C01G23/04 C
   C01G19/02 C
   C23C16/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-205070(P2016-205070)
(22)【出願日】2016年10月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 啓明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利通
【テーマコード(参考)】
4G047
4G059
4K030
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CA05
4G047CB04
4G047CC03
4G047CD02
4G059AA01
4G059AA08
4G059AB01
4G059AC04
4G059AC16
4G059AC22
4G059EA02
4G059EA04
4G059EB03
4K030AA03
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA45
4K030BA46
4K030CA06
4K030CA17
4K030FA10
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】従来に比べて耐アブレーション性が改善された、チタン酸化物含有膜を有する膜付き基材を提供する。
【解決手段】基材と、該基材の上に配置された膜とを有する膜付き基材であって、前記膜は、チタン酸化物含有膜であり、さらにスズ酸化物を含み、前記膜は、最表面にスズ酸化物の濃縮部を有し、X線光電子分光分析(XPS)法により得られる、前記最表面におけるスズ濃度をP(Sn)とし、チタン濃度をP(Ti)としたとき、比P(Sn)/P(Ti)は、0.1以上、2.4以下であり、当該膜付き基材の前記膜側から測定されるヘイズ率は、0.8%以下である、膜付き基材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の上に配置された膜とを有する膜付き基材であって、
前記膜は、チタン酸化物含有膜であり、さらにスズ酸化物を含み、
前記膜は、最表面にスズ酸化物の濃縮部を有し、
X線光電子分光分析(XPS)法により得られる、前記最表面におけるスズ濃度をP(Sn)とし、チタン濃度をP(Ti)としたとき、比P(Sn)/P(Ti)は、0.1以上、2.4以下であり、
当該膜付き基材の前記膜側から測定されるヘイズ率は、0.8%以下である、膜付き基材。
【請求項2】
前記基材は、ガラス基板である、請求項1に記載の膜付き基材。
【請求項3】
前記ガラス基板は、前記膜の側に、アルカリバリア層を有する、請求項2に記載の膜付き基材。
【請求項4】
前記膜は、10nm〜50nmの範囲の厚さを有する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の膜付き基材。
【請求項5】
前記膜において、前記X線光電子分光分析(XPS)法により得られる、前記膜の厚さLにわたるスズ濃度の平均値をPave(Sn)とし、前記膜の厚さLにわたるチタン濃度の平均値をPave(Ti)としたとき、比{P(Sn)/P(Ti)}/{Pave(Sn)/Pave(Ti)}は、4以上である、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の膜付き基材。
【請求項6】
常圧CVDプロセスにより、基材の上にチタン酸化物含有膜を有する膜付き基材を製造する方法であって、
前記CVDプロセスでは、原料ガスとして、チタンテトライソプロピオキシド(TTIP)とスズ塩化物との混合ガスが使用され、
前記TTIPに対する前記スズ塩化物の濃度比は、0.18mol%〜0.5mol%の範囲であり、
製造された前記膜付き基材の前記膜側から測定されるヘイズ率は、0.8%以下である、方法。
【請求項7】
前記スズ塩化物は、四塩化スズ(SnCl)および/またはモノブチルスズトリクロライド(MBTC)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記チタン酸化物含有膜は、10nm〜50nmの範囲の厚さを有する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記基材は、ガラス基板である、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記チタン酸化物含有膜を成膜する前に、前記基材の上にアルカリバリア層を形成する工程を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記常圧CVDプロセスは、前記ガラス基板の製造過程中に実施され、前記チタン酸化物含有膜は、ガラスリボンの上に成膜される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記チタン酸化物含有膜の成膜の際の前記基材の温度は、500℃〜700℃の範囲である、請求項6乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記チタン酸化物含有膜の成膜の際の前記基材の温度は、550℃〜600℃の範囲である、請求項6乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き基材および膜付き基材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の上に酸化チタン(TiO)の薄膜を形成することにより構成される膜付き基材は、TiO薄膜の有意な特性のため、様々な用途への適用が期待されている。例えば、基材がガラス基板の場合、そのような膜付き基材は、熱反射ガラスおよび防汚ガラスなどに適用することが期待される。
【0003】
TiO薄膜付き基材は、例えば、CVDプロセスにより、基材上に薄いTiOを成膜することにより製造することができる。なお、特許文献1には、常圧CVDプロセスにおいて、特定の原料ガスを使用することにより、TiO薄膜の成膜速度を高め得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−235552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、TiO薄膜を有する膜付き基材は、様々な用途への適用が期待されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、従来のTiO薄膜付き基材は、TiO薄膜の厚さが薄いため、耐アブレーション性が比較的劣るという問題がある。ただしその一方で、TiO薄膜の厚さを厚くすると、今度はTiOが薄膜であることの利点が損なわれ、例えば、反射率の上昇および/またはヘイズ率の上昇などの問題が生じ得る。
【0007】
このため、TiO薄膜の厚さを過度に厚くすることなく、良好な耐アブレーション性を発揮できる膜付き基材が要望されている。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、従来に比べて耐アブレーション性が改善された、チタン酸化物含有膜を有する膜付き基材を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような膜付き基材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、基材と、該基材の上に配置された膜とを有する膜付き基材であって、
前記膜は、チタン酸化物含有膜であり、さらにスズ酸化物を含み、
前記膜は、最表面にスズ酸化物の濃縮部を有し、
X線光電子分光分析(XPS)法により得られる、前記最表面におけるスズ濃度をP(Sn)とし、チタン濃度をP(Ti)としたとき、比P(Sn)/P(Ti)は、0.1以上、2.4以下であり、
当該膜付き基材の前記膜側から測定されるヘイズ率は、0.8%以下である、膜付き基材が提供される。
【0010】
また、本発明では、常圧CVDプロセスにより、基材の上にチタン酸化物含有膜を有する膜付き基材を製造する方法であって、
前記CVDプロセスでは、原料ガスとして、チタンテトライソプロピオキシド(TTIP)とスズ塩化物との混合ガスが使用され、
前記TTIPに対する前記スズ塩化物の濃度比は、0.18mol%〜0.5mol%の範囲であり、
製造された前記膜付き基材の前記膜側から測定されるヘイズ率は、0.8%以下である、方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、従来に比べて耐アブレーション性が改善された、チタン酸化物含有膜を有する膜付き基材を提供することができる。また、本発明では、そのような膜付き基材を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による膜付き基材の断面を模式的に示した図である。
図2】基材がガラス基板で構成される場合の膜の深さ方向における元素濃度プロファイルの一例を模式的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態による膜付き基材の製造方法のフローを模式的に示した図である。
図4】X線光電子分光分析(XPS)法により得られた、サンプル1における膜中の各元素濃度の深さ方向プロファイルである。
図5】各サンプルの膜における比P(Sn)/P(Ti)に対するヘイズ率の関係を示したプロットである。
図6】各サンプルの膜における比P(Sn)/P(Ti)に対する反射率差ΔRの関係を示したプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
(本発明の一実施形態による膜付き基材)
図1には、本発明の一実施形態による膜付き基材(以下、「第1の膜付き基材」と称する)の断面を模式的に示す。
【0015】
図1に示すように、第1の膜付き基材100は、基材110と、膜120とを有する。
【0016】
基材110は、相互に対向する第1の表面112および第2の表面114を有し、膜120は、基材110の第1の表面112に配置される。
【0017】
基材110は、透明なものであれば、特に限られない。基材110は、例えば、ガラス基板であっても良い。膜120の厚さは、例えば、10nm〜100nmの範囲である。
【0018】
ここで、第1の膜付き基材100は、膜120の側から測定されるヘイズ率が0.8%以下であるという特徴を有する。
【0019】
また、第1の膜付き基材100において、膜120は、チタン酸化物含有膜であり、さらにスズ酸化物を含む。また、膜120は、最表面122にスズ酸化物の濃縮部を有する。より具体的には、膜120は、単一層で構成され、X線光電子分光分析(XPS)法により得られる、最表面122におけるスズ(Sn)の濃度をP(Sn)とし、チタン(Ti)の濃度をP(Ti)としたとき、比P(Sn)/P(Ti)が0.1以上、2.4以下であるという特徴を有する。
【0020】
前述のように、従来のTiO薄膜付き基材は、耐アブレーション性の点で問題がある。また、TiO薄膜を厚くした場合、反射率の上昇および/またはヘイズ率の上昇などの問題が生じ得る。
【0021】
これに対して、第1の膜付き基材100では、膜120は、チタン酸化物を主体とするものの、最表面122にスズ酸化物の濃縮部を有し、前述の比P(Sn)/P(Ti)は、0.1以上であるという特徴を有する。
【0022】
膜120がこのように構成された場合、最表面122におけるスズ酸化物の濃縮部の存在により、膜120の耐アブレーション性を有意に改善することができる。
【0023】
また、第1の膜付き基材100では、膜120の最表面122における前述の比P(Sn)/P(Ti)は、2.4以下に制御されている。このため、第1の膜付き基材100では、ヘイズ率を0.8%以下とすることができる。
【0024】
以上の効果により、本発明の一実施形態では、チタン酸化物を含む膜120の厚さを過度に厚くすることなく、従来に比べて、耐アブレーション性が改善された膜付き基材を得ることができる。
【0025】
次に、第1の膜付き基材100を構成する各部材について、詳しく説明する。
【0026】
(基材110)
前述のように、基材110は、透明な材質であれば特に限られず、基材110は、例えば、セラミックス基板、プラスチック基板、またはガラス基板であっても良い。ガラス基板としては、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、および無アルカリガラス等が挙げられる。
【0027】
また、基材110がガラス基板の場合、該ガラス基板は、透明であっても、着色されていても良い。そのような第1の膜付き基材100は、例えば、住宅用の窓ガラス等に利用することができる。
【0028】
また、基材110がガラス基板で構成される場合、基材110の第1の表面112には、例えば、シリカ(SiO)などで構成されたアルカリバリア層が設置されていても良い。これにより、耐久性を高めることができる。アルカリバリア層を設ける場合、アルカリバリア層の厚さは、例えば、10nm〜100nmの範囲である。
【0029】
ただし、アルカリバリア層は、任意に設置される層であって、省略されても良い。すなわち、基材110の第1の表面112には、アルカリバリア層を介して膜120が設置されても、直接膜120が設置されても良い。
【0030】
なお、基材110の厚さは、特に限られない。
【0031】
(膜120)
前述のように、第1の膜付き基材100において、膜120は、主としてチタン酸化物で構成されるが、最表面122には、スズ酸化物の濃縮部を含む。
【0032】
膜120の厚さは、例えば、10nm〜50nmの範囲である。膜120は、30nm未満であることが好ましい。
【0033】
図2には、第1の膜付き基材100において、基材110がガラス基板で構成される場合の膜120の深さ方向における元素濃度プロファイルの一例を模式的に示す。図2には、チタン(Ti)、スズ(Sn)、およびシリコン(Si)の濃度プロファイルが示されている。
【0034】
図2において、横軸は、膜120の最表面122からの深さ方向の距離d(nm)であり、d=0は、膜120の最表面122に対応する。なお、横軸の指標は、XPS法によるサンプル表面のスパッタ時間と等価である。
【0035】
一方、縦軸は、XPS法により得られるそれぞれの元素の濃度である。なお、図2では、明確化のため、各元素は、それぞれの濃度の最大高さ(最高濃度)が相互に等しくとなるように、模式的に描かれている。しかしながら、実際には、各元素の最高濃度は異なる(例えば、以降の図4参照)。
【0036】
図2に示すように、Tiの濃度プロファイルは、最表面122から徐々に増加して、ほぼ一定となり、その後徐々に低下する挙動を示す。また、Snは、最表面122において最大値を示し、その後、徐々に低下する挙動を示す。一方、Siは、ガラス基板に由来する元素であるため、TiおよびSnが存在する最表面122に近い領域では、ほぼゼロであり、Tiの低下が始まる深さ領域から徐々に上昇する挙動を示す。なお、基材110が第1の表面112にアルカリバリア層を有するガラス基板で構成される場合も、Siは、同様の挙動となる。
【0037】
ここで、前述の記載に従えば、最表面122におけるスズ(Sn)の濃度は、P(Sn)で表され、チタン(Ti)の濃度は、P(Ti)で表される。従って、理想的には、P(Sn)およびP(Ti)は、距離d=0でのそれぞれの元素濃度に対応する。
【0038】
しかしながら、XPS法による分析の精度上、距離d=0の位置における各元素の濃度は、相応のエラーを含む場合がある。そのため、本願では、「最表面におけるSnの濃度」、すなわちP(Sn)を、距離d=0〜5nmの範囲におけるSn濃度の最大値として規定し、「最表面におけるTiの濃度」、すなわちP(Ti)を、距離d=0〜5nmの範囲におけるTi濃度の最小値として規定することにする。
【0039】
なお、前述のように、比P(Sn)/P(Ti)は、0.1以上、2.4以下である。
【0040】
再度図2を参照すると、TiのプロファイルとSiのプロファイルは、ある距離dで交差する。本願では、この交差が生じる深さ位置Lを、膜120の膜厚として規定する。
【0041】
また、図2には、2本の水平線FおよびFが描かれている。
【0042】
このうち、水平線Fは、距離d=0〜Lの範囲(すなわち膜厚内)における、Ti濃度の平均値を表しており、以降これをPave(Ti)と表記する。また、直線Fは、距離d=0〜Lの範囲(すなわち膜厚内)における、Sn濃度の平均値を表しており、以降これをPave(Sn)と表記する。
【0043】
このように表した場合、膜120は、比{P(Sn)/P(Ti)}/{Pave(Sn)/Pave(Ti)}が4以上であることが好ましい。この場合、膜120の最表面122に、より顕著なスズ酸化物の濃縮部が形成される。
【0044】
(第1の膜付き基材100)
前述のように、第1の膜付き基材100は、ヘイズ率が0.8%以下である。
【0045】
また、第1の膜付き基材100は、アブレーション試験前の膜120の側から測定される可視光反射率をR(%)とし、アブレーション試験後の膜120の側から測定される可視光反射率をR(%)としたとき、反射率差ΔR=R−Rが3%以下であるという特徴を有する。
【0046】
ここで、アブレーション試験は、以下のように実施される:
まず、寸法100mm×100mmの膜付き基材(「サンプル」とも称する)を、膜が上向きとなるように台上に水平に設置する。
次に、サンプルの膜上に、試験液を1ml滴下する。試験液は、1リットルの水道水に、JIS Z8901で規定される粉体1.0gと、中性洗剤2滴を加えて調製する。
次に、30mm×11mmの接触面を有する研磨布(羊毛バフ)を用いて、サンプルに1100g/cmの荷重を加えた状態で、研磨布を420回直線状に往復させる。
【0047】
なお、アブレーション試験後に行われるサンプルの可視光反射率RおよびRの測定は、JIS Z 8722に準拠して実施される。
【0048】
第1の膜付き基材100は、良好な耐アブレーション性を有するため、反射率差ΔRの低下を有意に抑制することができる。また、第1の膜付き基材100では、膜厚をあまり厚くしなくても、ヘイズ率を有意に抑制することができる。
【0049】
(本発明の一実施形態による膜付き基材の製造方法)
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態による膜付き基材の製造方法の一例について説明する。
【0050】
図3には、本発明の一実施形態による膜付き基材の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0051】
図3に示すように、第1の製造方法は、
(1)第1の表面を有する基材を準備する工程(工程S110)と、
(2)前記第1の表面に、膜を成膜する工程(工程S120)と、
を有する。
【0052】
以下、各工程について説明する。
【0053】
なお、ここでは明確化のため、図1に示したような第1の膜付き基材100を例に、第1の製造方法について説明する。従って、各部材を表す際には、図1に示した参照符号を使用する。
【0054】
(工程S110)
まず、基材110が準備される。前述のように、基材110は、透明な基板、例えばガラス基板であっても良い。
【0055】
基材110は、後の工程で膜120が設置される第1の表面112を有する。
【0056】
また、基材110がガラス基板の場合、基材110の第1の表面112には、アルカリバリア層(SiO層)が設置されても良い。
【0057】
なお、アルカリバリア層の設置方法は、当業者には良く知られている。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0058】
(工程S120)
次に、基材110の第1の表面112上に、膜120が成膜される。なお、基材110がガラス基板であって、アルカリバリア層を有する場合、膜120は、アルカリバリア層の直上に設置されても良い。
【0059】
膜120は、常圧CVDプロセスにより成膜される。より具体的には、以下の処理が実施される。
【0060】
まず、基材110が所定の温度に加熱される。
【0061】
次に、基材110の第1の表面112に、反応ガスが供給される。反応ガスは、原料ガスおよび酸素を含む。原料ガスは、チタン原料ガスおよびスズ原料ガスを含む。このうち、チタン原料ガスは、チタンテトライソプロピオキシド(TTIP)を含む。また、スズ原料ガスは、スズ塩化物、例えば四塩化スズおよび/またはモノブチルスズトリクロライド(MBTC)を含む。
【0062】
成膜温度は、例えば、500℃〜700℃の範囲であり、550℃〜600℃の範囲であることが好ましい。
【0063】
なお、本工程では、基材110を搬送した状態で、膜120の成膜が行われる。基材110の搬送速度は、例えば、1m/min〜20m/minの範囲である。また、反応ガスの供給速度は、膜120の膜厚が10nm〜50nmの範囲となるように調整される。例えば、TTIPの供給量は、0.05mol%〜1.2mol%の範囲であっても良い。
【0064】
ここで、反応ガス中に含まれるTTIPに対するスズ塩化物の濃度比は、0.18mol%〜0.5mol%の範囲に調整される。
【0065】
このような条件で成膜を行うことにより、最表面122にスズ酸化物が濃縮されたチタン酸化物の薄膜120を形成することができる。すなわち、このような条件で成膜を行うことにより、前述の比P(Sn)/P(Ti)が0.1以上の膜120を形成することが可能になる。また、ヘイズ率が0.8%以下の膜付き基材を得ることができる。
【0066】
このような常圧CVDプロセスを経て、第1の膜付き基材100を製造することができる。
【0067】
なお、前述の記載では、予め準備された基材110を用いて、成膜工程(工程S120)が実施され、これにより膜付き基材100が製造された(いわゆる「バッチ処理」)。
【0068】
しかしながら、基材110がガラス基板の場合、ガラス基板の製造過程中に成膜工程(工程S120)を実施して、膜付き基材110を製造しても良い(いわゆる「連続処理」)。
【0069】
例えば、ガラス基板を製造する際には、ガラスリボンが溶融スズ浴の上を移動した後、徐冷され、その後所定の寸法に切断される。このガラスリボンの移動中に、ガラスリボンの上面(第1の表面112に相当する)に、常圧のCVDプロセスで膜120を成膜しても良い。また、必要な場合、膜120を成膜する前に、ガラスリボンの上面に、常圧CVDプロセスでアルカリバリア層(SiO)を成膜しても良い。
【0070】
このような製造方法では、成膜の際に、既に基材110(ガラスリボン)の温度が上昇しているため、基材110の加熱プロセスを省略することができる。また、多数の膜付き基材110を連続的に製造することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0072】
以下の説明において、例1〜例3は、実施例であり、例4〜例6は、比較例である。
【0073】
(例1)
以下の方法により、常圧CVD法を用いて基材上にチタン酸化物含有膜を成膜し、膜付き基材を製造した。
【0074】
基材には、ガラス基板(透明なソーダライムガラス)を使用した。
【0075】
常圧CVDプロセスは、基材の一方の表面(第1の表面)に、原料ガスおよび酸素を吹き付けることにより実施した。原料ガスは、チタンテトライソプロピオキシド(TTIP)とモノブチルスズトリクロライド(MBTC)の混合ガスとし、TTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)は、0.25mol%とした。
【0076】
基材の温度は560℃とした。目標膜厚は、20nmとした。
【0077】
これにより、膜付き基材(以下、「サンプル1」と称する)が製造された。
【0078】
(例2)
例1と同様の方法により、膜付き基材(以下、「サンプル2」と称する)を製造した。
【0079】
ただし、この例2では、常圧CVDプロセスにおいて、TTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)を、0.50mol%とした。
【0080】
(例3)
例1と同様の方法により、膜付き基材(以下、「サンプル3」と称する)を製造した。
【0081】
ただし、この例3では、目標膜厚は30nmとした。
【0082】
(例4)
例1と同様の方法により、膜付き基材(以下、「サンプル4」と称する)を製造した。
【0083】
ただし、この例4では、常圧CVDプロセスにおいて、TTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)を、0.05mol%とした。
【0084】
(例5)
例1と同様の方法により、膜付き基材(以下、「サンプル5」と称する)を製造した。
【0085】
ただし、この例5では、常圧CVDプロセスにおいて、TTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)を、0.05mol%とした。また、目標膜厚は30nmとした。
【0086】
(例6)
例1と同様の方法により、膜付き基材(以下、「サンプル6」と称する)を製造した。
【0087】
ただし、この例6では、常圧CVDプロセスにおいて、TTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)を、0.50mol%とした。また、目標膜厚は35nmとした。
【0088】
(評価)
前述のように製造された各サンプルを用いて、以下の評価を行った。
【0089】
(膜内の元素プロファイルの測定)
XPS法を用いて、各サンプルにおける膜の膜厚方向におけるスズ、チタン、およびシリコンの濃度プロファイルを測定した。測定には、走査型X線光電子分光装置(PHI 5000 VersaProbe・アルバック・ファイ株式会社製)を用い、ビーム径は100μmとした。
【0090】
図4には、サンプル1において得られた測定結果の一例を示す。
【0091】
図4において、横軸は、スパッタ時間t(分)であり、縦軸は、スズ、チタン、およびシリコンの濃度(原子%)である。なお、ここでは、スズ、チタン、シリコン、カルシウム、ナトリウム、炭素、および酸素の量の総和を100原子%としている。
【0092】
図4に示すように、サンプル1では、膜中のスズ濃度は、スパッタ時間tが0の位置において最大値を示し、その後徐々に減少するプロファイルを示した。また、チタン濃度は、スパッタ時間tが0〜5分までは徐々に増加し、その後tが5分〜15分の範囲でほぼ一定となり、tが15分以降、徐々に減少するプロファイルを示した。一方、シリコン濃度は、スパッタ時間tが約15分の位置から徐々に増加し、tが約20分の位置で、チタンの濃度と逆転する挙動を示した。
【0093】
このことから、サンプル1の膜は、チタン(酸化物)を主成分とし、最表面にスズ(酸化物)の濃縮部を有することがわかった。また、前述の定義から、膜の膜厚Lは、約18.3nm(スパッタ時間t=20分に相当する)であることがわかった。
【0094】
サンプル2およびサンプル3においても、ほぼ同様のプロファイルが得られた。これに対して、サンプル4および5では、膜の最表面におけるスズ酸化物の濃縮は、認められなかった。
【0095】
各サンプルにおいて得られた結果から、膜厚L、比P(Sn)/P(Ti)、および比{P(Sn)/P(Ti)}/{Pave(Sn)/Pave(Sn)}を求めた。
【0096】
各サンプルにおいて得られた結果を、成膜条件とともに以下の表1に示す。
【0097】
【表1】
(ヘイズ率の測定)
各サンプルに対して、ヘイズメータを用いてヘイズ率の測定を行った。
【0098】
(アブレーション試験)
各サンプルに対して、前述のような方法でアブレーション試験を実施した。また、アブレーション試験前の膜の側から測定される可視光反射率R(%)、およびアブレーション試験後の膜の側から測定される可視光反射率R(%)の測定結果から、反射率差ΔR=R−Rを求めた。
【0099】
以下の表2には、各サンプルにおいて得られたヘイズ率および反射率差ΔRの値をまとめて示す。
【0100】
【表2】
表2から、サンプル1〜5では、いずれもヘイズ率は、0.4以下となっており、ヘイズ率が低く抑えられていることがわかる。一方、サンプル6では、約1%の高いヘイズ率を示した。
【0101】
また、サンプル1〜3では、反射率差ΔRがいずれも3%以下となっているのに対して、サンプル4および5では、反射率差ΔRがいずれも3%を超えていることがわかった。
【0102】
図5には、各サンプルにおいて得られたヘイズ率の結果をまとめて示す。図5において、横軸は、各サンプルの膜における比Ps(Sn)/Ps(Ti)であり、縦軸は、ヘイズ率である。なお、図5中の各プロットには、サンプルの番号(1〜6)が示されている。
【0103】
さらに、図6には、各サンプルにおいて得られた反射率差ΔRの値をまとめて示す。図6において、横軸は、各サンプルの膜における比Ps(Sn)/Ps(Ti)であり、縦軸は、反射率差ΔRである。なお、図6中の各プロットには、サンプルの番号(1〜6)が示されている。
【0104】
図5から、ヘイズ率は、比Ps(Sn)/Ps(Ti)の上昇とともに増加する傾向を示し、比Ps(Sn)/Ps(Ti)が約2.4を超えると、ヘイズ率が0.8%を超えることがわかる。
【0105】
また、図6から、反射率差ΔRは、比Ps(Sn)/Ps(Ti)の上昇とともに低下する傾向を示し、比Ps(Sn)/Ps(Ti)が約0.1を下回ると、反射率差ΔRが3%を超えることがわかる。
【0106】
このように、CVDプロセスにおけるTTIPに対するMBTCの濃度比(MBTC/TTIP)および膜厚Lを適正に調整することにより、膜の最表面にスズ酸化物の濃縮部が得られることが確認された。また、そのようなCVDプロセス条件を採用した場合、ヘイズ率が低く、耐アブレーション性に優れる膜付き基材が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
100 本発明の一実施形態による膜付き基材
110 基材
112 第1の表面
114 第2の表面
120 膜
122 最表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6