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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-214496(P2019-214496A)
(43)【公開日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】窒化物結晶基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20191122BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20191122BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   G01N21/3563
   H01L21/66 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-112844(P2018-112844)
(22)【出願日】2018年6月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業「高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証」に係る委託業務、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
【テーマコード(参考)】
2G059
4G077
4M106
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB16
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM04
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB04
4G077BE15
4G077DB05
4G077EB01
4G077GA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TB03
4M106AA01
4M106BA08
4M106CA21
4M106CB19
4M106DH13
4M106DJ38
(57)【要約】
【課題】赤外光を照射することで測定された反射スペクトルに基づいて結晶の質を適正に検査できる窒化物結晶基板を提供する。
【解決手段】窒化物結晶基板は、III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含み、波長をλ(μm)、27℃における吸収係数をα(cm−1)、キャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが、α=NKλ ・・・(1)(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)により近似され、波長2μmにおいて、式(1)から求められる吸収係数αに対する、実測される吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、赤外光照射により測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有しない。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有しない
窒化物結晶基板。
【請求項2】
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有し、当該ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さは、35%以下である
窒化物結晶基板。
【請求項3】
前記窒化物結晶基板の主面内において、前記ピーク高さの最小のものに対する最大のものの比率は、1.5倍以下である
請求項2に記載の窒化物結晶基板。
【請求項4】
前記窒化物結晶基板の主面内における前記吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとしたとき、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、前記Δαは、式(3)を満たす
請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
Δα≦1.0 ・・・(3)
【請求項5】
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である窒化物結晶基板を準備する準備工程と、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで反射スペクトルを測定し、当該反射スペクトルが1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有するかどうかを調べる検査工程と
を有する窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記検査工程では、前記窒化物結晶基板の主面内の複数位置のそれぞれに対して、前記反射スペクトルを測定し、検出された前記ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さを求め、当該複数位置のそれぞれに対して求められた当該ピーク高さ同士を比較する
請求項5に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記検査工程では、検出された前記ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さに基づいて、前記窒化物結晶基板の点欠陥密度を推定する
請求項5または6に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物(以下、窒化物ということもある)は、発光デバイスや電子デバイスなどの半導体装置を構成する材料として広く用いられている。半導体装置を構成する窒化物半導体層を成長させるための基板として、窒化物結晶基板が好ましく用いられる。例えば、窒化物結晶基板上に窒化物半導体を成長させる際に、当該基板を加熱する工程が行われる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−185576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
詳しくは後述するように、窒化物結晶基板の赤外域の吸収係数は、例えば、当該基板の加熱特性に影響したり、また例えば、反射型フーリエ変換赤外分光(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法により測定される当該基板の反射スペクトル形状に影響したりする重要な物性値である。しかしながら、従来の技術では、例えば転位散乱等に起因して、窒化物結晶基板の赤外域の吸収係数を良好に制御することができない。
【0005】
本発明の一目的は、III族窒化物の結晶からなる窒化物結晶基板であって、赤外域の吸収係数が良好に制御されていることにより、当該基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルに基づいて、当該基板を構成する結晶の質を適正に検査することができる窒化物結晶基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有しない
窒化物結晶基板が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有し、当該ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さは、35%以下である
窒化物結晶基板が提供される。
【0008】
本発明のさらに他の態様によれば、
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である窒化物結晶基板を準備する準備工程と、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで反射スペクトルを測定し、当該反射スペクトルが1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有するかどうかを調べる検査工程と
を有する窒化物結晶基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
III族窒化物の結晶からなる窒化物結晶基板であって、赤外域の吸収係数が良好に制御されていることにより、当該基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルに基づいて、当該基板を構成する結晶の質を適正に検査することができる窒化物結晶基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る窒化物結晶基板10を示す概略平面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る窒化物結晶基板10を示す概略断面図である。
図2】ウィーンの変位則を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における室温(27℃)で測定した吸収係数の、自由電子濃度依存性を示す図である。
図4】GaN結晶の温度に対する、真性キャリア濃度を示す図である。
図5】(a)は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を示す図であり、(b)は、自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を比較する図である。
図6】ローレンツ−ドルーデモデルによる屈折率nおよび消衰係数kについての演算結果の具体例を示す説明図であり、(a)はキャリア濃度が7×1015cm−3である場合の演算結果を示す図であり、(b)はキャリア濃度が2×1018cm−3である場合の演算結果を示す図である。
図7】単層の光学モデルの一例を示す模式図である。
図8】本発明の一実施形態に係る窒化物結晶基板10の主面の、反射型FTIR法により測定される反射率スペクトルと、ローレンツ−ドルーデモデルによりフィッティングした反射率スペクトルとを示し、点欠陥等起因ピークが観察されない場合を例示する図である。
図9】本発明の一実施形態に係る窒化物結晶基板10の主面の、反射型FTIR法により測定される反射率スペクトルと、ローレンツ−ドルーデモデルによりフィッティングした反射率スペクトルとを示し、点欠陥等起因ピークが観察される場合を例示する図である。
図10】本発明の一実施形態に係る窒化物結晶基板10の製造方法の概略手順を示すフロー図である。
図11】HVPE装置200の概略構成図である。
図12】(a)は、種結晶基板5上にGaN結晶膜6を厚く成長させた様子を示す図であり、(b)は、厚く成長させたGaN結晶膜6をスライスすることで複数の窒化物結晶基板10を取得した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
(1)窒化物結晶基板
図1(a)および図1(b)を用い、本実施形態に係る窒化物結晶基板10(以下、基板10ともいう)について説明する。図1(a)は、基板10を示す概略平面図であり、図1(b)は、基板10を示す概略断面図である。
【0013】
以下において、基板等の主面は、主に基板等の上側主面のことをいい、基板等の表面ということもある。また、基板等の裏面は、基板等の下側主面のことをいう。
【0014】
基板10は、半導体積層物または半導体装置などを製造する際に用いられる円板状の基板として構成されている。基板10は、III族窒化物の単結晶からなり、本実施形態では、例えば、窒化ガリウム(GaN)の単結晶からなっている。
【0015】
基板10の主面の面方位は、例えば、(0001)面(+c面、Ga極性面)である。ただし、例えば、000−1面(−c面、N極性面)であっても良い。
なお、基板10を構成するGaN結晶は、基板10の主面に対して所定のオフ角を有していても良い。オフ角とは、基板10の主面の法線方向と、基板10を構成するGaN結晶の主軸(c軸)とのなす角度のことをいう。具体的には、基板10のオフ角は、例えば、0°以上1.2°以下である。また、これよりも大きく、2°以上4°以下とすることも考えられる。さらには、例えば、a方向およびm方向のそれぞれにオフ角を有する、いわゆるダブルオフであっても良い。
【0016】
また、基板10の主面における転位密度は、例えば、5×10個/cm以下である。基板10の主面における転位密度が5×10個/cm超であると、基板10上に形成される半導体層において局所的な耐圧を低下させてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態のように、基板10の主面における転位密度を5×10個/cm以下とすることにより、基板10上に形成される半導体層において局所的な耐圧の低下を抑制することができる。
【0017】
なお、基板10の主面は、エピレディ面であり、基板10の主面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下である。
【0018】
また、基板10の直径Dは、特に制限されるものではないが、例えば、25mm以上である。基板10の直径Dが25mm未満であると、その基板10を用いて半導体装置を製造する際の生産性が低下しやすくなる。このため、基板10の直径Dは、25mm以上であることが好ましい。また、基板10の厚さTは、例えば、150μm以上2mm以下である。基板10の厚さTが150μm未満であると、基板10の機械的強度が低下し自立状態の維持が困難となる可能性がある。このため、基板10の厚さTは、150μm以上とすることが好ましい。ここでは、例えば、基板10の直径Dが2インチとし、基板10の厚さTを400μmとする。
【0019】
また、基板10は、例えば、n型不純物(ドナー)を含んでいる。基板10中に含まれるn型不純物としては、例えば、シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)が挙げられる。また、n型不純物としては、SiおよびGeの他に、例えば、酸素(O)、OおよびSi、OおよびGe、O並びにSiおよびGe等が挙げられる。基板10中にn型不純物がドーピングされていることにより、基板10中には、所定濃度の自由電子が生成されている。
【0020】
以下詳しく説明するように、基板10は、所定の要件を満たすような、赤外域の吸収係数を有する。これにより、基板10上に半導体層を成長させる際等に行われる基板10の加熱を、良好に行うことができる。またこれにより、基板10に対して反射型フーリエ変換赤外分光(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法により測定される反射スペクトルを、理論式から求められる反射スペクトルとほぼ一致する形状で取得することができるため、基板10を構成するGaN結晶の質を、FTIR法を用いて適正に検査することができる。
【0021】
(吸収係数等について)
本実施形態において、基板10は、赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしている。以下、詳細を説明する。
【0022】
窒化物半導体積層物を製造する際やその窒化物半導体積層物を用いて半導体装置を製造する際等には、例えば、基板10上に半導体層をエピタキシャル成長させる工程や、該半導体層中の不純物を活性化させる工程などのように、該基板10を加熱する工程が行われることがある。例えば、基板10に対して赤外線を照射して基板10を加熱する場合には、基板10の吸収係数に基づいて加熱条件を設定することが重要となる。
【0023】
ここで、図2は、ウィーンの変位則を示す図である。図2において、横軸は黒体温度(℃)を示し、縦軸は黒体輻射のピーク波長(μm)を示している。図2に示すウィーンの変位則によれば、黒体温度に対して黒体輻射のピーク波長が反比例する。ピーク波長をλ(μm)、温度をT(℃)としたとき、λ=2,896/(T+273)との関係を有する。基板10を加熱する工程における所定の加熱源からの輻射が黒体輻射であると仮定すると、加熱温度に対応するピーク波長を有する赤外線が、加熱源から基板10に対して照射されることとなる。例えば、温度が約1,200℃のときに、赤外線のピーク波長λは2μmとなり、温度が約600℃のときに、赤外線のピーク波長λは3.3μmとなる。
【0024】
このような波長を有する赤外線を基板10に照射すると、基板10では、自由電子による吸収(自由キャリア吸収)が生じ、これにより、基板10が加熱されることとなる。
【0025】
そこで、本実施形態では、基板10の自由キャリア吸収に基づいて、基板10における赤外域の吸収係数が、以下の所定の要件を満たしている。
【0026】
図3は、本実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における室温(27℃)で測定した吸収係数の、自由電子濃度依存性を示す図である。なお、図3は、後述の製造方法によってSiをドープして製造されるGaN結晶からなる基板の測定結果を示している。図3において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はGaN結晶の吸収係数α(cm−1)を示している。また、GaN結晶中の自由電子濃度をNとし、所定の自由電子濃度NごとにGaN結晶の吸収係数αをプロットしている。図3に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、自由キャリア吸収に起因して、長波長に行くにしたがってGaN結晶における吸収係数αが大きくなる(単調に増加する)傾向を示す。また、GaN結晶中の自由電子濃度Nが高くなるにしたがって、GaN結晶における自由キャリア吸収が大きくなる傾向を示す。
【0027】
本実施形態の基板10は、後述の製造方法によって製造されたGaN結晶からなっているため、結晶歪みが小さく、また、酸素(O)やn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、上記図3のような吸収係数の自由電子濃度依存性を示す。その結果、本実施形態の基板10では、以下のように、赤外域の吸収係数を自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができる。
【0028】
具体的には、波長をλ(μm)、27℃における基板10の吸収係数をα(cm−1)、基板10中の自由電子濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下(好ましくは1μm以上2.5μm以下)の波長範囲における吸収係数αが、式(1)により近似される。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【0029】
なお、「吸収係数αが式(1)により近似される」とは、吸収係数αが最小二乗法で式(1)により近似されることを意味する。つまり、上記規定は、吸収係数が式(1)と完全に一致する(式(1)を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1)を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
【0030】
なお、上記波長範囲における吸収係数αは、式(1’)を満たすと考えてもよい。
1.5×10−19λ≦α≦6.0×10−19λ ・・・(1’)
【0031】
また、上記規定を満たす基板10のなかでも特に結晶歪みが極めて小さく非常に高純度(すなわち低不純物濃度)の基板では、上記波長範囲における吸収係数αは、式(1”)により近似される(式(1”)を満たす)。
α=2.2×10−19λ ・・・(1”)
【0032】
なお、「吸収係数αが式(1’)により近似される」との規定は、上述の規定と同様に、吸収係数が式(1’)と完全に一致する(式(1’)を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1’)を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
【0033】
上述の図3では、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値を細線で示している。具体的には、自由電子濃度Nが1.0×1017cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い実線で示し、自由電子濃度Nが1.2×1018cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い点線で示し、自由電子濃度Nが2.0×1018cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い一点鎖線で示している。一方で、上述の図3では、上記式(1)の関数を太線で示している。具体的には、自由電子濃度Nが1.0×1017cm−3のときの式(1)の関数を太い実線で示し、自由電子濃度Nが1.2×1018cm−3のときの式(1)の関数を太い点線で示し、自由電子濃度Nが2.0×1018cm−3のときの式(1)の関数を太い一点鎖線で示している。図3に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、図3の場合(Siドープの場合)では、K=2.2×10−19としたときに、吸収係数αが式(1)に精度良く近似される。
【0034】
このように、基板10の吸収係数αが式(1)によって近似されることにより、吸収係数αを、基板10中の自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することができる。つまり、基板10中の自由電子濃度Nに対する、基板10の吸収係数αのばらつきを、抑制することができる。吸収係数αのばらつきが抑制されていることは、後述の消衰係数kのばらつきが抑制されていることを意味する(α=4πk/λ)。したがって、本実施形態の基板10を用いることで、基板10の主面に対して反射型FTIR法により測定される反射スペクトルを、消衰係数kを含んで構成される理論式から求められる反射スペクトルと、良好に一致させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の吸収係数αは、式(2)を満たす。
0.15λ≦α≦6λ ・・・(2)
【0036】
α<0.15λであると、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができず、基板10の加熱が不安定となる可能性がある。これに対し、0.15λ≦αとすることにより、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができ、基板10を安定的に加熱することができる。一方で、6λ<αであると、後述のように基板10中のn型不純物の濃度が所定値超(1×1019at・cm−3超)であることに相当し、基板10の結晶性が低下する可能性がある。これに対し、α≦6λとすることにより、基板10中のn型不純物の濃度が所定値以下であることに相当し、基板10の良好な結晶性を確保することができる。
【0037】
なお、基板10の吸収係数αは、式(2’)または式(2”)を満たすことが好ましい。
0.15λ≦α≦3λ ・・・(2’)
0.15λ≦α≦1.2λ ・・・(2”)
これにより、基板10を安定的に加熱可能としつつ、基板10のより良好な結晶性を確保することができる。
【0038】
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の主面内での吸収係数αの最大値と最小値との差(最大値から最小値を引いた差。以下、「基板10の面内吸収係数差」ともいう)をΔαとしたとき、Δα(cm−1)は、式(3)を満たす。
Δα≦1.0 ・・・(3)
Δα>1.0であると、赤外線の照射による加熱効率が基板10の主面内で不均一となる可能性がある。これに対し、Δα≦1.0とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で均一にすることができる。
【0039】
なお、Δαは、式(3’)を満たすことが好ましい。
Δα≦0.5 ・・・(3’)
Δα≦0.5とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で安定的に均一にすることができる。
【0040】
上記吸収係数αおよびΔαに関する式(2)および式(3)の規定は、例えば、波長2μmにおける規定に置き換えることができる。
【0041】
すなわち、本実施形態では、例えば、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm−1以上48cm−1以下である。なお、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm−1以上24cm−1以下であることが好ましく、1.2cm−1以上9.6cm−1以下であることがより好ましい。
【0042】
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差は、1.0cm−1以内、好ましくは0.5cm−1以内である。
【0043】
なお、基板10の面内吸収係数差の上限値について記載したが、基板10の面内吸収係数差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、基板10の面内吸収係数差が0.01cm−1であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0044】
ここでは、温度が約1,200℃であるときの赤外線のピーク波長に相当する波長2μmにおいて、基板10の吸収係数の要件を規定した。しかしながら、基板10の吸収係数について上記要件を満たすことによる効果は、温度が約1,200℃であるときに限定されるものではない。というのも、加熱源から照射される赤外線のスペクトルは、ステファン−ボルツマンの法則に従って所定の波長幅を有し、温度が1,200℃以外であったとしても波長2μmの成分を有している。このため、温度が1,200℃に相当する波長2μmにおいて基板10の吸収係数が上記要件を満たせば、温度が1,200℃以外に相当する波長においても、基板10の吸収係数や、基板10の主面内における吸収係数の最大値と最小値との差は、所定の範囲内となる。これにより、温度が1,200℃以外であったとしても、基板10を安定的に加熱するとともに、基板10に対する加熱効率を主面内で均一にすることができる。
【0045】
ところで、上述の図3は、GaN結晶の吸収係数を室温(27℃)で測定した結果である。このため、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下における基板10の吸収係数を考える場合には、所定の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収が、室温の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収に対してどのように変化するのかを考慮する必要がある。
【0046】
図4は、GaN結晶の温度に対する、真性キャリア濃度を示す図である。図4に示すように、基板10を構成するGaN結晶では、温度が高くなるにつれて、バンド間(価電子帯と伝導帯との間)で熱励起される真性キャリア濃度Nの濃度が高くなる。しかしながら、たとえGaN結晶の温度が1,300℃付近となったとしても、GaN結晶のバンド間で熱励起される真性キャリア濃度Nの濃度は、7×1015cm−3未満であり、n型不純物のドーピングによってGaN結晶中に生成される自由キャリアの濃度(例えば1×1017cm−3)よりも充分に低い。すなわち、GaN結晶の自由キャリア濃度は、GaN結晶の温度が1,300℃未満の温度条件下で、n型不純物のドーピングによって自由キャリア濃度が定まる、いわゆる外因性領域内となっていると言える。
【0047】
半導体積層物または半導体装置の製造工程での温度条件は、例えば室温(27℃)以上1,250℃以下であるので、基板10のバンド間で熱励起される真性キャリアの濃度は、室温の温度条件下においてn型不純物のドーピングによって基板10中に生じる自由電子の濃度よりも低い(例えば1/10倍以下)。これにより、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度が、室温の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度とほぼ等しいと考えることができ、所定の温度条件下での自由キャリア吸収が、室温での自由キャリア吸収とほぼ等しいと考えることができる。つまり、上述したように、室温において、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件を満たす場合、所定の温度条件下においても、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件をほぼ維持していると考えることができる。
【0048】
また、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが式(1)により近似されることから、所定の波長λでは、基板10の吸収係数αは、自由電子濃度Nに対してほぼ比例する関係を有している。
【0049】
図5(a)は、本実施形態に係るに係る製造方法によって製造されるGaN結晶における自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を示す図である。図5(a)において、下側の実線(α=1.2×10−18n)は、K=1.5×10−19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数であり、上側の実線(α=4.8×10−18n)は、K=6.0×10−19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数である。また、図5(a)では、SiをドープしたGaN結晶だけでなく、GeをドープしたGaN結晶も示している。また、透過測定により吸収係数を測定した結果と、分光エリプソメトリ法により吸収係数を測定した結果とを示している。図5(a)に示すように、波長λを2.0μmとしたとき、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶の吸収係数αは、自由電子濃度Nに対してほぼ比例する関係を有している。また、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19の範囲内で、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶は高純度(すなわち低不純物濃度)で、かつ、熱物性および電気特性が良好であるため、吸収係数αの実測値は、K=2.2×10−19としたときの式(1)の関数、すなわち、α=1.8×10−18nによって精度よくフィッティングすることができる場合が多い。
【0050】
本実施形態では、上記した基板10の吸収係数αが自由電子濃度Nに対して比例することに基づいて、基板10中における自由電子濃度Nが、以下の所定の要件を満たしている。
【0051】
本実施形態では、例えば、基板10中における自由電子濃度Nは、1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下である。これにより、式(1)より、基板10における波長2μmでの吸収係数を1.2cm−1以上48cm−1以下とすることができる。なお、基板10中における自由電子濃度Nは、1.0×1018cm−3以上5.0×1018cm−3以下であることが好ましく、1.0×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下であることがより好ましい。これにより、基板10における波長2μmでの吸収係数を、好ましくは1.2cm−1以上24cm−1以下とし、より好ましくは1.2cm−1以上9.6cm−1以下とすることができる。
【0052】
また、上述のように基板10の主面内における吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとし、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差をΔNとし、波長λを2.0μmしたとき、式(1)を微分することにより、式(4)が求められる。
Δα=8KΔN ・・・(4)
【0053】
本実施形態では、例えば、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差ΔNは、8.3×1017cm−3以内、好ましくは4.2×1017cm−3以内である。これにより、式(4)より、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差Δαを、1.0cm−1以内、好ましくは0.5cm−1以内とすることができる。
【0054】
なお、ΔNの上限値について記載したが、ΔNの下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、ΔNが8.3×1015cm−3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0055】
本実施形態では、基板10中の自由電子濃度Nは、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなっており、基板10中のn型不純物の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
【0056】
本実施形態では、例えば、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm−3以上1.0×1019at・cm−3以下である。これにより、基板10中における自由電子濃度Nを、1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下とすることができる。なお、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm−3以上5.0×1018at・cm−3以下であることが好ましく、1.0×1018at・cm−3以上2.0×1018at・cm−3以下であることがより好ましい。これにより、基板10中における自由電子濃度Nを、好ましくは1.0×1018cm−3以上5.0×1018cm−3以下とし、より好ましくは1.0×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下とすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内におけるn型不純物の濃度の最大値と最小値との差(以下、n型不純物の面内濃度差ともいう)は、8.3×1017at・cm−3以内、好ましくは4.2×1017at・cm−3以内である。これにより、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差ΔNを、n型不純物の面内濃度差と等しく、8.3×1017cm−3以内、好ましくは4.2×1017cm−3以内とすることができる。
【0058】
なお、n型不純物の面内濃度差の上限値について記載したが、n型不純物の面内濃度差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、n型不純物の面内濃度差が8.3×1015at・cm−3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、基板10中の各元素の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
【0060】
本実施形態では、n型不純物として用いられるSi、GeおよびOのうち、添加量の制御が比較的難しいOの濃度が極限まで低くなっており、基板10中のn型不純物の濃度は、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって決定されている。
【0061】
すなわち、基板10中のOの濃度は、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のOの濃度は1×1017at・cm−3未満であり、一方で、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度は1×1018at・cm−3以上1.0×1019at・cm−3以下である。これにより、基板10中のn型不純物の濃度を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって制御することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度Nを、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差ΔNを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
【0062】
また、本実施形態では、基板10中のn型不純物以外の不純物の濃度は、基板10中のn型不純物の濃度(すなわちSiおよびGeの合計の濃度)に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のn型不純物以外の不純物の濃度は1×1017at・cm−3未満である。これにより、n型不純物からの自由電子の生成に対する阻害要因を低減することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度Nを、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差ΔNを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
【0063】
なお、本発明者等は、後述の製造方法を採用することにより、基板10中の各元素の濃度を、上記要件を満たすよう安定的に制御することができることを確認している。
【0064】
後述の製造方法によれば、基板10中のOおよび炭素(C)の各濃度を5×1015at・cm−3未満まで低減させることができ、さらには、基板10中の鉄(Fe)、クロム(Cr)、ボロン(B)等の各濃度を1×1015at・cm−3未満まで低減させることが可能であることが分かっている。また、この方法によれば、これら以外の元素についても、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定における検出下限値未満の濃度にまで低減させることが可能であることが分かっている。
【0065】
さらに、本実施形態において後述の製造方法によって製造される基板10では、自由キャリア吸収による吸収係数が従来の基板の吸収係数よりも小さいことから、本実施形態の基板10では、従来の基板よりも、移動度(μ)が高くなっていると推定される。これにより、本実施形態の基板10中の自由電子濃度が従来の基板中の自由電子濃度と等しい場合であっても、本実施形態の基板10の抵抗率(ρ=1/eNμ)は、従来の基板の抵抗率よりも低くなっている。具体的には、基板10中における自由電子濃度Nが1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下であるとき、基板10の抵抗率は、例えば、2.2mΩ・cm以上17.4mΩ・cm以下である。
【0066】
(理論式による反射スペクトルの導出等について)
反射型FTIR法により測定される基板10の反射スペクトルを、理論式から求める方法について説明する。また、反射型FTIR法により測定される主面の反射率に基づいた、基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRの求め方について説明する。以下、基板10に対して赤外線を照射することで測定された反射スペクトルを「測定された反射スペクトル」と称し、理論式から求められた反射スペクトルを「計算された反射スペクトル」と称することがある。計算された反射スペクトルを求めるために、基板10の構造を表す光学モデルと、基板10の誘電関数を表す誘電関数モデルと、が用いられる。
【0067】
光学モデルの解析に用いられる誘電関数モデルとしては、例えば、ローレンツ−ドルーデ(Lorentz−Drude)モデルが知られている。ローレンツ−ドルーデモデルでは、自由キャリア吸収だけでなく、LOフォノンとプラズモンとのカップリングも考慮される。
【0068】
具体的には、ローレンツ−ドルーデモデルでの誘電率(複素誘電率)εは、式(5)で求められる。
【0069】
【数1】
【0070】
ただし、εは、高周波誘電率である。ωLO、ωTO、およびωは、それぞれ、LOフォノン周波数、TOフォノン周波数、およびプラズマ周波数である。ΓLO、ΓTOおよびγは、それぞれ、LOフォノン減衰定数(damping constant)、TOフォノン減衰定数および自由キャリア減衰定数である。
【0071】
また、プラズマ周波数ωは、式(6)で求められる。
【0072】
【数2】
【0073】
ただし、N、e、mは、それぞれ、キャリア濃度、素電荷、自由キャリアの有効質量である。
【0074】
また、自由キャリア減衰定数γは、式(7)で求められる。
【0075】
【数3】
【0076】
ただし、μは、移動度である。
【0077】
ここで、式(5)の誘電率εは、ε≡ε+iεとして定義される。また、複素屈折率Nは、N≡n−ikとして定義される。ただし、nは屈折率であり、kは消衰係数である。なお、k>0である。
【0078】
屈折率nは、εおよびεを用いて、式(8)で求められる。
【0079】
【数4】
【0080】
消衰係数kは、εおよびεを用いて、式(9)で求められる。
【数5】
【0081】
図6(a)および図6(b)は、ローレンツ−ドルーデモデルによる屈折率nおよび消衰係数kについての演算結果の具体例を示す説明図であり、図6(a)はキャリア濃度が7×1015cm−3である場合の演算結果を示す図であり、図6(b)はキャリア濃度が2×1018cm−3である場合の演算結果を示す図である。
【0082】
ただし、GaN結晶において、
ε=5.35、
=0.22m
ωLO=735cm−1
ωTO=557cm−1
ΓLO=12cm−1
ΓTO=6cm−1
図6(a)でのγ=35.4cm−1
図6(b)でのγ=132.6cm−1
とした。
【0083】
図6(a)および図6(b)に示すように、屈折率nおよび消衰係数kは、キャリア濃度Nおよび移動度μに応じて、近赤外領域(600〜2,500cm−1)および遠赤外領域(0〜500cm−1)において異なっている。これらの違いが反射率に反映されることとなる。
【0084】
次に、基板10の主面での反射を想定し、図7の光学モデルを考える。図7は、単層の光学モデルの一例を示す模式図である。図7において、媒質Nは大気または真空であり、媒質Nは基板10である。また、rijは、媒質Nから媒質Nに向けて入射し、媒質Nから媒質Nに向けて反射した光の振幅反射係数である。
【0085】
光の反射は、媒質の複素屈折率に依存する。また、光は、媒質に入射するときの電界の方向によってp偏光とs偏光とに区別される。p偏光とs偏光とは、それぞれ異なる反射を示す。媒質間の境界面に垂直で入射光・反射光を含む面を「入射面」と呼び、p偏光は、入射面内で電界が振動する偏光であり、s偏光は、入射面に垂直に電界が振動する偏光である。
【0086】
p偏光の振幅反射係数rは、式(10)で求められる。
【0087】
【数6】
【0088】
一方、s偏光の振幅反射係数rは、式(11)で求められる。
【0089】
【数7】
【0090】
ただし、式(10)および式(11)において、θは、媒質Nからの光の入射角である。また、Ntiは、媒質iから媒質tに入射する光の複素屈折率である。
【0091】
強度反射率は、式(12)で求められる。
【0092】
【数8】
【0093】
なお、垂直入射の場合(θ=0)では、式(13)で求められる。
【0094】
【数9】
【0095】
図7において、媒質Nと媒質Nとの界面で反射される光の強度反射率Rは、以下の手順で求められる。まず、媒質NとしてのGaN結晶におけるε、m、ωLO、ωTO、ΓLOおよびΓTOを式(5)〜式(7)に代入し、媒質Nの誘電率εを求める。媒質Nの誘電率εを求めたら、式(8)および式(9)により、媒質Nにおける屈折率nおよび消衰係数kを求める。なお、媒質Nを真空と仮定し、n=1、k=0とする。屈折率nおよび消衰係数kを求めたら、式(10)および式(11)のそれぞれにおいて、i=0およびt=1とし、NおよびNを代入することで、r01,pおよびr01,sを求める。r01,pおよびr01,sを求めたら、当該r01,pおよびr01,sを式(12)に代入する。これにより、強度反射率Rが求められる。なお、媒質Nにおけるキャリア濃度N(自由電子濃度N)および移動度μが後述のフィッティングパラメータとなる。
【0096】
ここで、図8を用い、基板10の反射率スペクトルのフィッティングについて説明する。図8は、本実施形態に係る窒化物結晶基板10の主面の、反射型FTIR法により測定される反射率スペクトル(測定された反射スペクトル)と、ローレンツ−ドルーデモデルによりフィッティングした反射率スペクトル(計算された反射スペクトル)とを示す図である。なお、図8における反射率スペクトルの測定では、θ=30°とした。
【0097】
図8に示すように、反射型FTIR法の測定により、基板10の主面の、測定された反射率スペクトル(図中実線)が得られる。測定された反射率スペクトルが得られたら、媒質Nとしての基板10におけるキャリア濃度Nおよび移動度μをフィッティングパラメータとして、上述した理論式から求められる強度反射率R、つまり計算された反射スペクトル(図中破線)を、測定された反射率スペクトルにフィッティングする。フィッティングの結果、測定された反射率スペクトルと、計算された反射スペクトルとが最も良く一致したときの、基板10におけるキャリア濃度Nおよび移動度μを求める。このようにして、反射型FTIR法により、基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRが求められる。
【0098】
本願発明者は、電気的測定も行うことで、反射型FTIR法により測定されたキャリア濃度NIRおよび移動度μIRの妥当性を確認している。電気的測定による基板10のキャリア濃度NElecおよび移動度μElecは、以下の方法で求められる。
【0099】
渦電流法により、基板10の移動度μElecを測定する。触針式の抵抗測定器により、基板10の抵抗を測定する。また、マイクロメータにより、基板10の厚さを測定する。基板10の抵抗(シート抵抗)および基板10の厚さを求めたら、比抵抗ρに換算する。これらの測定により求められた基板10の移動度μElecおよび比抵抗ρを式(14)に代入することで、基板10のキャリア濃度NElecが求められる。
1/ρ=eNElecμElec ・・・(14)
【0100】
なお、上述の方法で求められる基板10のキャリア濃度NElecおよび移動度μElecは、Van der Pauw法のホール測定により求められるキャリア濃度および移動度と一致することを確認している。
【0101】
図8に示すように、本実施形態の基板10を用いることで、フィッティングにより、測定された反射スペクトルと、計算された反射スペクトルとを、ほぼ一致させることができる。これにより、上述のように、基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRを精度良く求めることができる。またこのことから、以下のような利点も得られる。基板10に、計算された反射スペクトルからのずれを引き起こす何らかの要因、例えば点欠陥等が存在する場合、当該要因に起因するピーク(以下、「点欠陥等起因ピーク」または単に「ピーク」ともいう)は、測定された反射スペクトルにおける、計算された反射スペクトルからのずれとして、明瞭に検出することができる。
【0102】
図8は、点欠陥等起因ピークを有しない場合の、測定された反射スペクトルを例示する。図9は、点欠陥等起因ピークを有する場合の、測定された反射スペクトルを例示する。図9においても、測定された反射スペクトルを実線で示し、計算された反射スペクトルを破線で示す。図9に例示する測定された反射スペクトルは、1,400cm−1程度の波数にピークトップを有する顕著なピーク(以下、波数1,400cm−1程度のピークともいう)と、2,600cm−1程度の波数にピークトップを有する微小なピーク(以下、波数2,600cm−1程度のピークともいう)と、を有し、これらのピークが観察される領域以外の波数範囲では、計算された反射スペクトルとほぼ一致している。
【0103】
測定された反射スペクトルのベースライン、つまり、点欠陥等起因ピークが存在しないと考えた場合の反射スペクトルは、計算された反射スペクトルで表すことができる。あるピークのピーク高さは、当該ピークのピークトップにおける強度反射率の、当該ピークトップに対応する波数でのベースラインにおける強度反射率からの差として規定される。図9に示す例では、波数1,400cm−1程度のピークについて、ピークトップの強度反射率が33%であり、これに対応するベースラインの強度反射率が12%であるため、ピーク高さは21%である。また、波数2,600cm−1程度のピークについて、ピークトップの強度反射率が16%であり、これに対応するベースラインの強度反射率が14%であるため、ピーク高さは2%である。
【0104】
ピークの有無の判定基準とするために、ピーク高さの下限値が設けられてよい。例えば、測定された反射スペクトルにおける、計算された反射スペクトルからの強度反射率のずれとして、ピーク高さが1%以上のものが存在する場合に、当該測定された反射スペクトルがピークを有すると判定し、ピーク高さが1%以上のものが存在しない場合に、当該測定された反射スペクトルがピークを有しないと判定してよい。
【0105】
測定された反射スペクトルのベースラインは、1,000cm−1以上(であって例えば3,000cm−1以下)の波数範囲で、強度反射率の変化が緩やかである。したがって、当該波数範囲に現れたピークは、検出しやすく、基板10を構成するGaN結晶の質を検査するための指標として利用しやすい。
【0106】
本願発明者が、複数の基板10に対して反射スペクトルを測定したところ、図8に例示されるような、ピークを有しない反射スペクトルを示す基板10もあり、また、図9に例示されるような、ピークを有する反射スペクトルを示す基板10もあった。ピークを有する反射スペクトルを示す基板10において、種々のピークトップの波数を有するピークが観察された。そのうち、図9に例示されるような、1,400cm−1程度の波数にピークトップを有するピーク(波数1,400cm−1程度のピーク)は、観察される頻度が多く、またピーク高さが30%以上まで大きくなり得ることがわかったため、注目される。
【0107】
詳細は不明であるが一つの可能性として、波数1,400cm−1程度のピークは、基板10を構成するGaN結晶に生じた何らかの点欠陥に起因するもの、例えば、ガリウム(Ga)サイトに入った炭素(C)と、窒素(N)との一重結合(C−N)による赤外吸収に起因するものではないかと考えられる。C−Nによる赤外吸収が現われる波数範囲は、1,220cm−1以上1,416cm−1以下と言われており、基板10で波数1,400cm−1程度のピークが観察される波数範囲と近い。このような知見を踏まえ、ここでは、基板10における波数1,400cm−1程度のピークを、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークと規定する。なお、ある波数における赤外吸収が増えることで強度反射率Rが増えることが、理論的に示される。
【0108】
基板10において、波数1,400cm−1程度のピークは、検出されないことが最も好ましいが、当該ピークが検出される場合であっても、そのピーク高さが過大でなければ許容される。上述のように、基板10中のCの濃度は、5×1015at・cm−3未満まで低減させることができる。このようなC濃度である複数の基板10に対して測定された反射スペクトルにおいて、波数1,400cm−1程度のピークのピーク高さの最大は、例えば32%(ピークトップの強度反射率44%、ベースラインの強度反射率12%)であるという知見が得られている。このような知見を踏まえると、波数1,400cm−1程度のピークのピーク高さは、例えば、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。なお、基板10に含有される5×1015at・cm−3未満の濃度のCを、非破壊および非接触で定量的に検出するために、当該ピークを利用できる可能性がある。なお、基板10の質を面内で均一に近づける観点からは、基板10の主面内における当該ピーク高さのばらつきは、例えば後述のように、1.5倍以下であることが好ましい。
【0109】
波数1,400cm−1程度のピークの起因と考えられる点欠陥が生じていなければ、当該ピークは生じないと推測され、点欠陥密度が大きいほど、当該ピークのピーク高さは大きくなると推測される。したがって、当該ピークのピーク高さに基づいて、当該ピークの起因となっている点欠陥密度を推定することが可能と考えられる。
【0110】
(2)窒化物結晶基板の製造方法
次に、本実施形態に係る基板10の製造方法について説明する。図10に示すように、本実施形態の基板10の製造方法は、成長工程S110と、スライス工程S120と、検査工程S130と、を含む。
【0111】
(2−i)成長工程
成長工程S110では、例えばハイドライド気相成長装置(HVPE装置)200を用いて、基板10を構成するGaN結晶を成長させる。
【0112】
(HVPE装置の構成)
ここで、基板10の製造に用いるHVPE装置200の構成について、図11を参照しながら詳しく説明する。
【0113】
HVPE装置200は、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、インナーカバー204が設けられているとともに、そのインナーカバー204に囲われる位置に、種結晶基板(以下、「種基板」ともいう)5が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。
【0114】
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、インナーカバー204内へアンモニア(NH)ガスを供給するガス供給管232b、インナーカバー204内へ後述するドーピングガスを供給するガス供給管232c、インナーカバー204内へパージガスとして窒素(N)ガスおよび水素(H)ガスの混合ガス(N/Hガス)を供給するガス供給管232d、および、成膜室201内へパージガスとしてのNガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232a〜232eには、上流側から順に、流量制御器241a〜241e、バルブ243a〜243eがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a〜249cは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。ノズル249cから供給されるドーピングガスは、ドーピング原料ガスとN/Hガス等のキャリアガスとの混合ガスである。ドーピングガスについては、ドーピング原料のハロゲン化物ガスの熱分解を抑える目的でHClガスを一緒に流してもよい。ドーピングガスを構成するドーピング原料ガスとしては、例えば、シリコン(Si)ドープの場合であればジクロロシラン(SiHCl)ガスまたはシラン(SiH)ガス、ゲルマニウム(Ge)ドープの場合であればジクロロゲルマン(GeCl)ガスまたはゲルマン(GeH)ガスを、それぞれ用いることが考えられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0115】
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、ポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周には、ガス生成器233a内やサセプタ208上の種基板5等を領域別に所望の温度に加熱するゾーンヒータ207a,207bが設けられている。また、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ(ただし不図示)が設けられている。
【0116】
上述したHVPE装置200の構成部材、特に各種ガスの流れを形成するための各部材については、後述するような低不純物濃度の結晶成長を行うことを可能にすべく、例えば、以下に述べるように構成されている。
【0117】
具体的には、図11中においてハッチング種類により識別可能に示しているように、気密容器203のうち、ゾーンヒータ207a,207bの輻射を受けて結晶成長温度(例えば1,000℃以上)に加熱される領域であって、種基板5に供給するガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いることが好ましい。具体的には、高温領域を構成する部材として、例えば、炭化ケイ素(SiC)コートグラファイトからなる部材を用いることが好ましい。その一方で、比較的低温領域では、高純度石英を用いて部材を構成することが好ましい。つまり、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、高純度石英を用いず、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成する。詳しくは、インナーカバー204、サセプタ208、回転軸215、ガス生成器233a、各ノズル249a〜249c等を、SiCコートグラファイトで構成する。なお、気密容器203を構成する炉心管は石英とするしかないので、成膜室201内には、サセプタ208やガス生成器233a等を囲うインナーカバー204が設けられているのである。気密容器203の両端の壁部や排気管230等については、ステンレス等の金属材料を用いて構成すればよい。
【0118】
例えば、「Polyakov et al.J.Appl.Phys.115, 183706 (2014)」によれば、950℃で成長することにより、低不純物濃度のGaN結晶の成長が実現可能なことが開示されている。ところが、このような低温成長では、得られる結晶品質の低下を招き、熱物性、電気特性等において良好なものが得られない。
【0119】
これに対し、本実施形態の上述したHVPE装置200によれば、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成している。これにより、例えば、1,050℃以上というGaN結晶の成長に適した温度域においても、石英やステンレス等に起因するSi、O、C、Fe、Cr、Ni等の不純物が結晶成長部へ供給されることを遮断することができる。その結果、高純度で、かつ、熱物性および電気特性においても良好な特性を示すGaN結晶を成長させることが実現可能である。
【0120】
なお、HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0121】
成長工程S110は、搬入ステップと、結晶成長ステップと、搬出ステップと、を有する。以下、詳細を説明する。
【0122】
(搬入ステップ)
本ステップでは、先ず、反応容器203の炉口を開放し、サセプタ208上に種基板5を載置する。サセプタ208上に載置する種基板5は、基板10を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなる板状のものである。
【0123】
サセプタ208上への種基板5の載置にあたっては、サセプタ208上に載置された状態の種基板5の表面、すなわちノズル249a〜249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)が、GaN結晶の(0001)面、すなわち+C面(Ga極性面)となるようにする。
【0124】
(結晶成長ステップ)
本ステップでは、反応室201内への種基板5の搬入が完了した後に、炉口を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのHガス、或いは、HガスおよびNガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NHガスの供給を開始し、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNHガスをそれぞれ供給する。
【0125】
これにより、図12(a)に断面図を示すように、種基板5の表面上にc軸方向にGaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶6が形成される。このとき、SiHClガスを供給することで、GaN結晶6中に、n型不純物としてのSiを添加することが可能となる。
【0126】
なお、本ステップでは、種基板5を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種基板5の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNHガスの供給を開始するのが好ましい。また、GaN結晶6の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0127】
本ステップでは、ゾーンヒータ207a,207bの温度は、ガス生成器233aを含む反応室201内の上流側の部分を加熱するヒータ207aでは例えば700〜900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む反応室201内の下流側の部分を加熱するヒータ207bでは例えば1,000〜1,200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208は1,000〜1,200℃の所定の温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ(ただし不図示)はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1,000〜1,200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータを用いた温度制御を実施しても構わない。
【0128】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5〜2気圧
GaClガスの分圧:0.1〜20kPa
NHガスの分圧/GaClガスの分圧:1〜100
ガスの分圧/GaClガスの分圧:0〜100
SiHClガスの分圧:2.5×10−5〜1.3×10−3kPa
【0129】
また、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNHガスを供給する際は、ガス供給管232a〜232bのそれぞれから、キャリアガスとしてのNガスを添加してもよい。Nガスを添加してノズル249a〜249bから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種基板5の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、Nガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを添加するようにしてもよい。
【0130】
(搬出ステップ)
種基板5上に所望の厚さのGaN結晶6を成長させたら、反応室201内へNHガス、Nガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、反応室201内へHガスの供給、ゾーンヒータ207a,207bによる加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNHガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をNガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(主面上にGaN結晶6が形成された種基板5)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から外部へ搬出する。
【0131】
(2−ii)スライス工程
成長工程S110の後、スライス工程S120を行う。スライス工程S120では、搬出した結晶インゴットを例えばGaN結晶6の成長面と平行な方向にスライスする。これにより、図12(b)に示すように、1枚以上の基板10を得ることができる。基板10の各種組成や各種物性等は、上述した通りであるので説明を割愛する。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。基板10の厚さは250μm以上、例えば400μm程度の厚さとする。その後、基板10の表面(+c面)に対して所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、基板10の裏面(−c面)はラップ面あるいはミラー面とする。
【0132】
成長工程S110およびスライス工程S120により、キャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に式(1)等で表される上述の関係性を有する基板10が作製される。なお、以下に説明する検査工程S130において、基板10が当該関係性を有するかどうかを検査するステップを追加してもよい。なお、成長工程S110およびスライス工程S120をまとめて、検査工程S130で検査される基板10を準備する準備工程と捉えてもよい。
【0133】
(2−iii)検査工程
検査工程S130では、反射型FTIR法を用いて、基板10を構成するGaN結晶の質について検査する。検査工程S130は、測定ステップと、判定ステップと、を有する。以下、詳細を説明する。
【0134】
(測定ステップ)
作製された複数の基板10のそれぞれに対して、赤外光を照射することで、反射型FTIR法により反射スペクトルを測定する。反射スペクトルは、各基板10の主面内の少なくとも1つの位置に対して測定する。測定された反射スペクトルに対し上述のようなフィッティングを行うことで、基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRを求める。さらに、測定された反射スペクトルが、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピーク(波数1,400cm−1程度のピーク)を有するかどうか調べる。当該ピークが検出された場合、そのピーク高さを測定する。ピーク高さに基づいて、基板10の点欠陥密度を求めてもよい。なお、必要に応じ、波数1,400cm−1程度のピーク以外のピークについても、ピークの有無の検査、ピーク高さの測定等を行ってよい。
【0135】
各基板10の質の主面における面内分布を検査する場合は、各基板10の主面内の複数位置のそれぞれに対して反射スペクトルを測定し、当該複数位置のそれぞれで測定された反射スペクトルに基づいて、基板10の質を表す諸物性の測定(キャリア濃度NIRおよび移動度μIRの測定、ピークの有無の検査、ピーク高さの測定等)を行う。
【0136】
(判定ステップ)
次に、各基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRが所定の許容範囲内であるかどうかを判定し、当該許容範囲内のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRを有する基板10を選別する。また、各基板10の測定された反射スペクトルが波数1,400cm−1程度のピークを有するかどうかを判定し、当該ピークを有しない基板10、および、当該ピークを有してもそのピーク高さが所定の許容範囲内である基板10を選別する。なお、当該ピークを有しない基板10を、最良品として選別してもよい。
【0137】
面内分布を検査する場合は、各基板10の主面内における、着目している物性のばらつきの大きさを判定し、当該ばらつきが過大でない基板10を選別する。主面内における物性のばらつきは、例えば以下のように評価される。当該ばらつきは、例えば、主面内における最小の物性値に対する、最大の物性値の比率で規定され、この比率が例えば1.5倍以下である場合に、ばらつきが過大でないと判定される。例えば、波数1,400cm−1程度のピークのピーク高さのばらつきを評価する場合、各基板10の主面内における複数位置のそれぞれで求められたピーク高さ同士を比較し、ピーク高さの最小のものに対する最大のものの比率が1.5倍以下であるかどうかを判定する。
【0138】
なお、検査工程S130により得られた検査結果を、基板10を製造する際の各種処理条件の適否の判断、基板10の製造に用いるHVPE装置200等の装置に異常がないかどうかの判断等を行うために利用してもよい。
【0139】
このようにして、本実施形態の基板10が製造される。その後、良品として選別された基板10上に半導体層を成長させることで、半導体積層物が製造される。さらに、半導体積層物上に電極を形成する工程等を実施することで、半導体装置が製造される。基板10を用いて半導体装置を製造する際に、例えば、半導体層成長、活性化アニール、保護膜形成、オーミックアロイ工程等において、赤外線照射による基板10の加熱が行われる。製造される半導体装置は、特に限定されず、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、発光ダイオード、レーザダイオード、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)、バイポーラトランジスタ等であってよい。半導体積層物の構造は、製造される半導体装置に応じて、適宜選択されてよい。また、半導体積層物を形成するための、半導体層の成長手法も、適宜選択されてよい。
【0140】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0141】
(a)本実施形態の製造方法により製造される基板10は、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて式(1)(α=NKλ)により近似することができる。
【0142】
その結果、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し基板10を加熱する工程での加熱条件を容易に設定することができ、該基板10を精度良くかつ再現性良く加熱することができる。
【0143】
(b)またその結果、基板10に対してFTIR法により測定された反射率スペクトルと、理論式から計算された反射スペクトルとを、精度良くフィッティングさせることができる。これにより、基板10のキャリア濃度NIRおよび移動度μIRを精度良く測定することができる。またこれにより、上述の点欠陥等起因ピークを、測定された反射スペクトルの、計算された反射スペクトルからのずれとして、明瞭に検出することができる。このように、本実施形態の基板10を用いることで、測定された反射スペクトルに基づいて、基板10を構成するGaN結晶の質を適正に検査することができる。
【0144】
測定された反射スペクトルに現れ得る点欠陥等起因ピークのうち、顕著なものとして、例えば1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピーク(波数1,400cm−1程度のピーク)が挙げられる。波数1,400cm−1程度のピークは、検出されないことが最も好ましいが、当該ピークが検出される場合であっても、そのピーク高さが過大でなければ(例えば35%以下であれば)許容される。
【0145】
なお、参考までに、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、吸収係数αを、式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難である。
【0146】
ここで、図5(b)は、自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を比較する図である。図5(b)において、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数だけでなく、論文(A)〜(D)に記載されたGaN結晶の吸収係数も示している。
論文(A):A.S. Barker Physical Review B 7 (1973) p743 Fig.8
論文(B):P. Perlin, Physicsl Review Letter 75 (1995) p296 Fig.1 0.3GPaの曲線から推定。
論文(C):G. Bentoumi, Materical Science Engineering B50 (1997) p142−147 Fig.1
論文(D):S. Porowski, J. Crystal Growth 189−190 (1998) p.153−158 Fig.3 ただし、T=12K
【0147】
図5(b)に示すように、論文(A)〜(D)に記載の従来のGaN結晶における吸収係数αは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αよりも大きかった。また、従来のGaN結晶における吸収係数αの傾きは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αの傾きと異なっていた。なお、論文(A)および(C)では、吸収係数αの傾きが、自由電子濃度Nが大きくなるにしたがって変化しているようにも見受けられた。このため、論文(A)〜(D)に記載の従来のGaN結晶では、吸収係数αを、式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。具体的には、例えば、定数Kが上記規定の範囲よりも高くなっていたり、定数aが3以外の値となっていたりする可能性があった。
【0148】
これは、以下の理由によるものと考えられる。従来のGaN結晶中には、その製造方法に起因して、大きな結晶歪みが生じていたと考えられる。GaN結晶中に結晶歪みが生じていると、GaN結晶中に転位が多くなる。このため、従来のGaN結晶では、転位散乱が生じ、転位散乱に起因して、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、意図せずに混入するOの濃度が高くなっていたと考えられる。GaN結晶中にOが高濃度に混入すると、GaN結晶の格子定数aおよびcが大きくなる(参考:Chris G. Van de Walle, Physical Review B vol.68, 165209 (2003))。このため、従来のGaN結晶では、Oによって汚染された部分と、比較的純度の高い部分との間で、局所的な格子不整合が生じ、GaN結晶中に結晶歪みが生じていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、n型不純物を補償するp型の補償不純物が意図せずに混入し、補償不純物の濃度が高くなっていたと考えられる。補償不純物の濃度が高いと、所定の自由電子濃度を得るために、高濃度のn型不純物が必要となる。このため、従来のGaN結晶では、補償不純物およびn型不純物を含む合計の不純物濃度が高くなり、結晶歪みが大きくなっていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。なお、実際にOを含み格子が歪んだGaN自立基板では、同じ自由電子濃度を有する本実施形態の基板10と比較して、(移動度が低く)吸収係数αが高いことを確認している。
【0149】
このような理由により、従来のGaN結晶では、吸収係数αを、式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。つまり、従来のGaN結晶では、吸収係数を自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することは困難であった。このため、従来のGaN結晶からなる基板では、基板に対して少なくとも赤外線を照射し基板を加熱する工程において、基板によって加熱効率がばらつき易く、基板の温度を制御することが困難となっていた。その結果、基板ごとの温度の再現性が低くなる可能性があった。また、このように吸収係数αが過剰に大きくなったり、ばらついたりすると、消衰係数kが過剰に大きくなったり、ばらついたりすることとなる。このため、従来のGaN結晶では、消衰係数kのばらつきに起因して、FTIR法により測定される反射スペクトルを、理論式から計算された反射スペクトルとほぼ一致する形状では、取得することができなかった。
【0150】
これに対し、本実施形態の製造方法により製造される基板10は、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物をほとんど含んでいない状態となっている。本実施形態の基板10の吸収係数は、結晶歪み起因の散乱(転位散乱)による影響が小さく、主にイオン化不純物散乱に依存している。これにより、基板10の吸収係数αのばらつきを小さくすることができ、基板10の吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて上記式(1)により近似することができる。
【0151】
基板10の吸収係数αが式(1)により近似可能であることで、基板10の吸収係数を、基板10中へのn型不純物のドーピングによって生じる自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することができる。基板10の吸収係数を自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することで、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し基板10を加熱する工程において、加熱条件を容易に設定することができ、基板10の温度を精度良く制御することができる。その結果、基板10ごとの温度の再現性を向上させることができる。このようにして、本実施形態では、基板10を精度良くかつ再現性良く加熱することが可能となる。
【0152】
また、基板10の吸収係数が精度良く式(1)によって近似されることにより、基板10中の自由電子濃度Nに対する、基板10の吸収係数αのばらつきを抑制することができる。基板10の吸収係数αのばらつきが抑制されていることは、消衰係数kのばらつきが抑制されていることを意味する(α=4πk/λ)。したがって、本実施形態の基板10を用いることで、FTIR法により測定される反射スペクトルを、理論式から計算された反射スペクトルとほぼ一致する形状で、適正に取得することができる。そして、適正に取得された反射スペクトルに基づいて、基板10を構成するGaN結晶の質を、適正に検査することができる。
【0153】
(c)本実施形態の基板10の面内吸収係数差Δαは、Δα≦1.0を満たすことが好ましい。これにより、基板10を加熱する工程において、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で均一にすることができるため、基板10を用いて製造される半導体積層物の品質を基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、半導体積層物を用いて製造される半導体装置の品質および歩留りを向上させることができる。
【0154】
そして、吸収係数αの主面内での均一性が高いことにより、基板10の主面内における、測定された反射スペクトルの形状のばらつき、つまり、当該反射スペクトルのベースラインの形状のばらつきを抑制することができる。またこれにより、主面内の複数位置で検出される点欠陥等起因ピーク同士を比較することが容易になる。
【0155】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0156】
上述の実施形態では、基板10に対して赤外域の反射スペクトルを測定するために、反射型FTIR法を用いる場合を例示したが、反射型FTIR法以外の方法として、分光エリプソメトリ法を用いることによっても、同等の測定を行うことが可能である。
【0157】
上述の実施形態では、基板10がGaNからなっている場合について説明したが、基板10は、GaNに限らず、例えば、AlN、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物、すなわち、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物からなっていてもよい。
【0158】
上述の実施形態では、GaN単結晶からなる種基板5を用いて基板10を作製する場合について説明したが、基板10を以下の方法により作製してもよい。例えば、サファイヤ基板等の異種基板上に設けられたGaN層を下地層として用い、ナノマスク等を介してGaN層を厚く成長させた結晶インゴットを異種基板から剥離させ、この結晶インゴットから複数の基板10を切り出してもよい。
【0159】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0160】
(付記1)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有しない
窒化物結晶基板。
【0161】
(付記2)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内であり、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで測定された反射スペクトルは、1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有し、当該ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さは、35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である
窒化物結晶基板。
【0162】
(付記3)
前記窒化物結晶基板の主面内において、前記ピーク高さの最小のものに対する最大のものの比率は、1.5倍以下である
付記2に記載の窒化物結晶基板。
【0163】
(付記4)
前記窒化物結晶基板の主面内における前記吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとしたとき、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、前記Δαは、式(3)を満たす
付記1〜3のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
Δα≦1.0 ・・・(3)
【0164】
(付記5)
前記測定された反射スペクトルのベースラインは、前記窒化物結晶基板の構造を表す光学モデル、および、当該窒化物結晶基板の誘電関数を表す誘電関数モデルを用いて、計算された反射スペクトルで表すことができ、
当該計算された反射スペクトルは、当該計算された反射スペクトルを、当該測定された反射スペクトルにフィッティングさせるように、当該光学モデルおよび当該誘電関数モデルにおいて当該窒化物結晶基板のキャリア濃度および移動度が設定されることで求められる反射スペクトルである
付記1〜4のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0165】
(付記6)
前記誘電関数モデルは、ローレンツ−ドルーデモデルである
付記5に記載の窒化物結晶基板。
【0166】
(付記7)
前記III族窒化物は、GaNである
付記1〜6のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
【0167】
(付記8)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm−1)、前記窒化物結晶基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で式(1)
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
により近似され、
波長2μmにおいて、式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である窒化物結晶基板を準備する準備工程と、
前記窒化物結晶基板に対して赤外光を照射することで反射スペクトルを測定し、当該反射スペクトルが1,200cm−1以上1,500cm−1以下の波数範囲内にピークトップを持つピークを有するかどうかを調べる検査工程と
を有する窒化物結晶基板の製造方法。
【0168】
(付記9)
前記検査工程では、前記窒化物結晶基板の主面内の複数位置のそれぞれに対して、前記反射スペクトルを測定し、検出された前記ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さを求め、当該複数位置のそれぞれに対して求められた当該ピーク高さ同士を比較する
付記8に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0169】
(付記10)
前記検査工程では、検出された前記ピークのピークトップの強度反射率の、当該反射スペクトルのベースラインの強度反射率からの差であるピーク高さに基づいて、前記窒化物結晶基板の点欠陥密度を推定する
付記8または9に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0170】
(付記11)
前記III族窒化物は、GaNである
付記8〜10のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【符号の説明】
【0171】
10…基板、5…種結晶基板、6…GaN結晶
図1
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