特開2019-218487(P2019-218487A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2019-218487エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218487(P2019-218487A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20191129BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20191129BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20191129BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20191129BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   C08G59/50
   C08L63/00 C
   C08L81/06
   C08K5/17
   C08J5/24CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-117258(P2018-117258)
(22)【出願日】2018年6月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】小日向 雄作
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD28
4F072AD31
4F072AD46
4F072AE01
4F072AF19
4F072AF28
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH43
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL02
4J002CD052
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD131
4J002CN033
4J002EN076
4J002EV216
4J002FD146
4J002GQ05
4J036AD08
4J036AF06
4J036AF08
4J036AH00
4J036AH02
4J036AH07
4J036DC03
4J036DC10
4J036DD04
4J036FB15
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高い成形体を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含み、(A)成分の含有率は、エポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して60質量部以上90質量部以下であり、(B)成分の含有率は、エポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であり、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上35Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物。
(A):1分子中に3個以上のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(B):1分子中に2個のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(C):還元粘度が0.18dl/g以上0.30dl/g以下である芳香族ポリスルホン樹脂
(D):芳香族アミン化合物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物であって、
下記(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含み、
前記(A)成分の含有率は、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して60質量部以上90質量部以下であり、
前記(B)成分の含有率は、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であり、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、
前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分からなる樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上35Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物。
(A):1分子中に3個以上のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(B):1分子中に2個のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(C):還元粘度が0.18dl/g以上0.30dl/g以下である芳香族ポリスルホン樹脂
(D):芳香族アミン化合物
【請求項2】
前記(A)成分のエポキシ当量が125g/eq以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)成分におけるフェノール性水酸基の含有率が、前記(C)成分の総質量に対して100μmol/g以上350μmol/g以下である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が、ジアミノジフェニルスルホンまたはその誘導体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)成分が、下記(D−1)成分を含む請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。
(D−1):4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
【請求項6】
前記(D)成分が、さらに下記(D−2)成分を含み、
前記(D−1)成分と前記(D−2)成分との質量含有比(D−2)/(D−1)が1未満である請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
(D−2):3,3’−ジアミノジフェニルスルホン
【請求項7】
前記(A)成分における三量体の含有率は、前記(A)成分の総質量に対して3質量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物が強化繊維に含浸したプリプレグ。
【請求項9】
前記強化繊維が炭素繊維である請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
請求項8または9に記載のプリプレグの硬化物を形成材料とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をはじめとする強化繊維を用いた繊維強化プラスチック(FRP)は、比強度、比弾性率が高いことから、航空機をはじめとする構造物の材料として使用されている。FRPの形成材料には、エポキシ樹脂と、硬化剤とが含まれている。
【0003】
しかし、エポキシ樹脂は耐熱性が高く、またその硬化物の弾性率が高い反面、エポキシ樹脂の耐衝撃性(靭性)が低いという課題がある。
【0004】
このような課題に対し、特許文献1には、耐熱性および靭性を両立させた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献1のエポキシ樹脂組成物は、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂を20〜40重量%、一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する25℃で液状のエポキシ樹脂を20〜40重量%、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を30〜50重量%とから構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して熱可塑性樹脂を20〜40重量部および硬化剤を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種のエポキシ樹脂組成物から得られる成形体は、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が必ずしも十分ではない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高い成形体を得ることができるエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび成形体を提供することを目的とする。
【0008】
なお、本明細書において、「機械的特性」とは、強度および弾性率を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らが鋭意検討した結果、エポキシ樹脂に芳香族ポリスルホン樹脂を添加することにより、得られる成形体の耐衝撃性が向上することが分かった。
【0010】
しかしながら、発明者らがさらに鋭意検討した結果、エポキシ樹脂および芳香族ポリスルホン樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が成形体を形成する場合、必ずしも成形体の機械的特性および耐溶剤性が十分ではないことが分かった。
【0011】
そこで、以下の態様の芳香族ポリスルホン樹脂を含むエポキシ樹脂組成物であれば、得られる成形体の機械的特性および耐溶剤性も向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の一態様は、エポキシ樹脂組成物であって、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含み、(A)成分の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して60質量部以上90質量部以下であり、(B)成分の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であり、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分からなる樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上35Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を提供する。
(A):1分子中に3個以上のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(B):1分子中に2個のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(C):還元粘度が0.18dl/g以上0.30dl/g以下である芳香族ポリスルホン樹脂
(D):芳香族アミン化合物
【0013】
本発明の一態様においては、(A)成分のエポキシ当量が125g/eq以下である構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様においては、(C)成分におけるフェノール性水酸基の含有率が、(C)成分の総質量に対して100μmol/g以上350μmol/g以下である構成としてもよい。
【0015】
本発明の一態様においては、(D)成分が、ジアミノジフェニルスルホンまたはその誘導体である構成としてもよい。
【0016】
本発明の一態様においては、(D)成分が、下記(D−1)成分を含む構成としてもよい。
(D−1):4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
【0017】
本発明の一態様においては、(D)成分が、さらに下記(D−2)成分を含み、(D−1)成分と(D−2)成分との質量含有比(D−2)/(D−1)が1未満である構成としてもよい。
(D−2):3,3’−ジアミノジフェニルスルホン
【0018】
本発明の一態様においては、(A)成分における三量体の含有率は、(A)成分の総質量に対して3質量%以下である構成としてもよい。
【0019】
本発明の一態様は、上記のエポキシ樹脂組成物が強化繊維に含浸したプリプレグを提供する。
【0020】
本発明の一態様においては、強化繊維が炭素繊維である構成としてもよい。
【0021】
本発明の一態様は、上記のプリプレグの硬化物を形成材料とする成形体を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高い成形体を得ることができるエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも下記(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含む。
(A):1分子中に3個以上のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(B):1分子中に2個のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂
(C):還元粘度が0.18dl/g以上0.30dl/g以下である芳香族ポリスルホン樹脂
(D):芳香族アミン化合物
【0024】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、後述する成形体の形成材料として用いられる。
【0025】
以下、各成分の詳細について説明する。
【0026】
・(A)成分
本実施形態で用いられる(A)成分としては、例えばグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を挙げることができる。(A)成分としては、特にグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールなどのモノマーおよびその重合体を含む樹脂を好ましく挙げることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(A)成分のエポキシ当量は、125g/eq以下であることが好ましく、120g/eq以下であることがより好ましく、118g/eq以下であることがさらに好ましい。また、(A)成分のエポキシ当量は、95g/eq以上であってもよい。
【0028】
(A)成分のエポキシ当量が125g/eq以下であると、後述する成形体の架橋密度が十分高くなりやすく、成形体の弾性率が高くなりやすい。また、(A)成分のエポキシ当量が125g/eq以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度を低く抑えやすく、取り扱いが容易になる。
【0029】
本実施形態において、(A)成分のエポキシ当量は、JIS K7236に準じて、塩酸−ジオキサン法にて測定される値を採用する。
【0030】
本実施形態において、(A)成分の三量体の含有率は、(A)成分の総質量に対して3質量%以下であることが好ましい。また、(A)成分の三量体の含有率は、(A)成分の総質量に対して0質量%以上であってもよい。
【0031】
(A)成分の三量体の含有率が3質量%以下であると、(A)成分の粘度が低くなり、取り扱いが容易になるため好ましい。
【0032】
本実施形態において、(A)成分における三量体の含有率は、下記の条件で液体クロマトグラフィー(LC)分析の測定結果に基づいて算出される。詳しくは、LC分析において、保持時間30分から35分の間に検出されたピーク面積の総和を三量体の含有量とする。保持時間0分から35分の間に検出されたピーク面積の総和に対する保持時間30分から35分の間に検出されたピーク面積の総和の割合を(A)成分における三量体の含有率として採用する。
【0033】
(条件)
試料:アセトニトリル1mlに試料1mgを溶かした溶液を5μL注入
装置:島津製作所製液体クロマトグラフ Nexera XR
カラム:住化分析センター製SUMIPAX ODS A−212
(内径:6mm、長さ:150m、膜厚:5μm)
カラム温度:40℃
【0034】
・(B)成分
本実施形態で用いられる(B)成分としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテルおよびビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなモノマーおよびその重合体を含むビスフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびその重合体を含む樹脂が好適に用いられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
・(C)成分
本実施形態で用いられる芳香族ポリスルホン樹脂は、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とスルホニル基(−SO2−)と酸素原子とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
【0036】
芳香族ポリスルホン樹脂は、芳香族ポリスルホン樹脂の耐熱性や耐薬品性の点から、下記式(1)で表される繰返し単位を有することが好ましい。さらに、芳香族ポリスルホン樹脂は、下記式(2)で表される繰返し単位や、下記式(3)で表される繰返し単位などの他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0037】
以下、「下記式(1)で表される繰返し単位」を「繰返し単位(1)」ということがある。また、「下記式(2)で表される繰返し単位」を「繰返し単位(2)」ということがある。また、「下記式(3)で表される繰返し単位」を「繰返し単位(3)」ということがある。
【0038】
(1)−Ph1−SO2−Ph2−O−
【0039】
Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0040】
(2)−Ph3−R−Ph4−O−
【0041】
Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0042】
(3)−(Ph5)n−O−
【0043】
Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
Ph1〜Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。
【0045】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、例えば1〜10である。
【0046】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、例えば6〜20である。
【0047】
前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、例えば2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0048】
Rであるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、例えば1〜5である。
【0049】
芳香族ポリスルホン樹脂は、繰返し単位(1)を、全繰返し単位の合計に対して、50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましい。なお、芳香族ポリスルホン樹脂は、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0050】
後述の方法により製造される芳香族ポリスルホンは、その末端にハロゲン原子またはフェノール性水酸基を有する。芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率が、芳香族ポリスルホン樹脂の総質量に対して100μmol/g以上350μmol/g以下であることが好ましい。
【0051】
芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率が100μmol/g以上であると、エポキシ樹脂組成物の硬化時に(A)成分および(B)成分に含まれるグリシジル基または硬化剤と反応するフェノール性水酸基の量が十分多くなる。その結果、後述する成形体の耐衝撃性および耐溶剤性が高くなりやすい。
【0052】
芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率が350μmol/g以下であると、成形体において、フェノール性水酸基に起因する吸水が起こりにくいと考えられる。
【0053】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率は、以下のようにして求められる値を採用する。まず、所定量の芳香族ポリスルホン樹脂をジメチルホルムアミドに溶解させた後、過剰量のp−トルエンスルホン酸を加える。次いで、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存p−トルエンスルホン酸を中和した後、フェノール性水酸基を中和する。このとき、フェノール性水酸基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホン樹脂の上記所定量(g)で除することで得られる値を芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率とする。
【0054】
芳香族ポリスルホン樹脂は、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。例えば、繰返し単位(1)を有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として下記式(4)で表される化合物を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(5)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。なお、以下では、「下記式(4)で表される化合物」を「化合物(4)」ということがある。また、「下記式(5)で表される化合物」を「化合物(5)」ということがある。
【0055】
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(6)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。なお、以下では、「下記式(6)で表される化合物」を「化合物(6)」ということがある。
【0056】
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(7)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。なお、以下では、「下記式(7)で表される化合物」を「化合物(7)」ということがある。
【0057】
(4)X1−Ph1−SO2−Ph2−X2
【0058】
1は及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、上記と同義である。
【0059】
(5)HO−Ph1−SO2−Ph2−OH
【0060】
Ph1及びPh2は、上記と同義である。
【0061】
(6)HO−Ph3−R−Ph4−OH
【0062】
Ph3、Ph4及びRは、上記と同義である。
【0063】
(7)HO−(Ph5)n−OH
【0064】
Ph5及びnは、上記と同義である。
【0065】
前記重縮合は、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。
【0066】
炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0067】
重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0068】
溶媒としては、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等の有機極性溶媒が好ましく用いられる。
【0069】
芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度は、0.18dl/g以上0.30dL/g以下であり、0.20dl/g以上0.28dL/g以下であることが好ましい。
【0070】
芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度が0.18dl/g以上であると、エポキシ樹脂組成物に含まれる他の成分にもよるが、エポキシ樹脂組成物の耐熱性や耐衝撃性が向上し易い。芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度が0.30dL/g以下であると、エポキシ樹脂組成物に含まれる他の成分にもよるが、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎず、成形加工に必要な温度が高くなりすぎない。
【0071】
ここで、一般に樹脂組成物の粘度が高いほど、樹脂組成物を成形した成形体にはボイドが多く発生する傾向があることが知られている。
【0072】
発明者らの検討により、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分からなる樹脂組成物の100℃における粘度が同じであるにもかかわらず、還元粘度が0.18dl/g以上0.30dL/g以下の範囲内である芳香族ポリスルホン樹脂を用いた樹脂組成物は、還元粘度が0.18dl/g以上0.30dL/g以下の範囲外である芳香族ポリスルホン樹脂を用いた樹脂組成物と比較して、成形体におけるボイドの個数が少ないことが分かった。成形体におけるボイドの個数が少ないほど、成形体の機械的特性が高いことが知られている。また、成形体におけるボイドの個数が少ないほど、成形体の耐溶剤性も高いと考えられる。これは、成形体におけるボイドの個数が少ないほど、成形体に溶剤が浸み込みにくく、樹脂が劣化しにくいためと考えられる。
【0073】
なお、本明細書において、「機械的特性」とは、強度および弾性率を意味する。
【0074】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度は、以下のようにして求められる値を採用する。芳香族ポリスルホン樹脂1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dlとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。上記溶液の濃度は1g/dlであるので、比粘性率((η−η)/η)の値が、単位dl/gの還元粘度の値となる。
【0075】
前記重縮合において、仮に副反応が生じなければ、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比が1:1に近いほど、得られる芳香族ポリスルホン樹脂の重合度が高くなり易く、還元粘度が高くなり易い。この他にも、芳香族ポリスルホン樹脂の重合度が高くなり易く、還元粘度が高くなり易い条件としては、炭酸のアルカリ金属塩の使用量がより多い条件、重縮合温度がより高い条件、重縮合時間がより長い条件などが挙げられる。
【0076】
しかし、実際は、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシ基への置換反応や解重合等の副反応が生じる。この副反応により、得られる芳香族ポリスルホン樹脂の重合度が低下し易く、還元粘度が低下し易い。そのため、この副反応の度合いも考慮して、所望の還元粘度を有する芳香族ポリスルホン樹脂が得られるように、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、重縮合温度及び重縮合時間を調整することが好ましい。
【0077】
[含有率]
(A)成分の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して60質量部以上90質量部以下であり、65質量部以上85質量部以下であることが好ましく、70質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。なお、「エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂」とは、(A)成分、(B)成分および必要に応じて用いられる(A)成分および(B)成分以外のエポキシ樹脂を意味する。
【0078】
(A)成分の含有率が60質量部以上であると、後述する成形体の架橋密度が十分高くなりやすい。これにより、耐熱性が高いエポキシ樹脂組成物が得られやすい。
【0079】
(A)成分の含有率が90質量部以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度を低く抑えながらも成形体の弾性率が十分高くなりやすい。
【0080】
(B)成分の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であり、15質量部以上35質量部以下であることが好ましく、20質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0081】
(B)成分の含有率が10質量部以上であると、後述する成形体の耐衝撃性と弾性率とが両立しやすい。また、(B)成分の含有率が10質量部以上であると、エポキシ樹脂組成物のコストが抑えられる。
【0082】
(B)成分の含有率が40質量部以下であると、後述する成形体の架橋密度が十分高くなりやすい。これにより、弾性率が高い成形体が得られやすい。
【0083】
芳香族ポリスルホン樹脂の含有率は、後述する(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分からなる樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上35Pa・s以下となるような範囲に調整される。
【0084】
・(D)成分
本実施形態で用いられる芳香族アミン化合物は、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる化合物が挙げられる。芳香族アミン化合物は、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンまたはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
本明細書において、「誘導体」とは、基本骨格は変えずに、化合物の小部分を他の原子または原子団に置換した化合物である。
【0086】
芳香族アミン化合物の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0087】
芳香族アミン化合物は、少なくとも下記(D−1)成分を含むことが好ましい。さらに、(D)成分は、下記(D−2)成分を含んでもよい。
(D−1):4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
(D−2):3,3’−ジアミノジフェニルスルホン
【0088】
(D−1)成分と(D−2)成分との質量含有比(D−2)/(D−1)は1未満であることが好ましい。
【0089】
[その他の成分]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲において、充填材、芳香族アミン化合物以外の添加剤、(A)成分、(B)成分および(C)成分以外の樹脂等の他の成分、溶媒を1種以上含んでもよい。以下、(A)成分、(B)成分および(C)成分以外の樹脂を「その他樹脂」と称することがある。
【0090】
充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0091】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0092】
繊維状有機充填材の例としては、分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が挙げられる。
【0093】
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0094】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。また、粒状有機充填材の例としては、カーボンブラックが挙げられる。
【0095】
充填材の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して、例えば0〜100質量部である。
【0096】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。
【0097】
添加剤の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して、例えば0〜20質量部である。
【0098】
その他の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニルホルマール、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の芳香族ポリスルホン樹脂以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、(A)成分および(B)成分以外のエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0099】
その他の樹脂の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して、例えば0〜20質量部である。
【0100】
溶媒としては、特に制限されないが、通常、成形体の成形用のエポキシ樹脂組成物に用いられる溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0101】
また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲において、ゴム粒子を含んでもよい。ゴム粒子としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、シリコーンゴムなどの合成ゴム類および天然ゴム、コアシェルゴムなどが挙げられる。
【0102】
ゴム成分の含有率は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計の含有量100質量部に対して0質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0103】
[エポキシ樹脂組成物]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であり、205℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。
【0104】
エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が200℃以上であると、200℃以上の高温環境下で優れた機械的特性が求められる用途においてエポキシ樹脂組成物を用いることができる。
【0105】
本実施形態において、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、下記の条件で動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、「Q800」)を用いて測定されるtanδのピークに基づいて求められる値を採用する。
【0106】
(条件)
測定モード:引張モード
振幅:20μm
周波数:20Hz
昇温速度:5℃/分
【0107】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物においては、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分からなる樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上35Pa・s以下であり、7Pa・s以上30Pa・s以下であることが好ましく、8Pa・s以上21Pa・s以下であることがより好ましい。
【0108】
樹脂組成物の100℃における粘度が5Pa・s以上であると、後述するプリプレグの製造において、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸しやすい。
【0109】
樹脂組成物の100℃における粘度が35Pa・s以下であると、樹脂組成物の成形の際に取り扱いやすい。また、樹脂組成物を硬化させて得られた成形体中にボイドが残留し難い。
【0110】
本実施形態において、上記樹脂組成物の100℃における粘度は、下記の条件で動的粘弾性測定装置(BOHLIN INSTRUMENTS社製レオメーターCVOモデル)にて、パラレルプレートを用いて得られる粘度曲線より求められる値を採用する。
【0111】
(条件)
測定範囲:室温(約20℃)〜120℃
昇温速度:2℃/分
歪み:10%
周波数:1Hz
プレート間隔:1mm
【0112】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性および耐衝撃性が高い。また、上述のエポキシ樹脂組成物を用いた成形体は、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高い。
【0113】
通常、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂は耐熱性が高く、またその硬化物は弾性率が高い反面、熱硬化性樹脂の耐衝撃性が低いという課題がある。熱硬化性樹脂の耐衝撃性が低いため、特に、熱硬化樹脂をマトリックス樹脂とするプリプレグを複数積層した成形体においては、樹脂層と強化繊維層との層間でクラックが伝播しやすいと考えられている。その結果、成形体の耐衝撃性が低くなりやすいと考えられている。
【0114】
このような成形体の耐衝撃性が低いという課題に対し、発明者らは熱可塑性樹脂である芳香族ポリスルホンに着目した。発明者らが鋭意検討した結果、上述のエポキシ樹脂組成物を用いた成形体は、樹脂層が、エポキシ樹脂を海とし、芳香族ポリスルホン樹脂を島とする、海島構造を形成しやすいことが分かった。このような海島構造を有する樹脂層においては、芳香族ポリスルホン樹脂の領域でクラックの伝播が抑えられると考えられる。
【0115】
なお、上述のエポキシ樹脂組成物を用いた成形体は海島構造を形成する場合に限定されない。発明者らが鋭意検討した結果、成形体が均一構造である場合もエポキシ樹脂組成物の耐衝撃性が向上することが分かった。これにより、成形体の耐衝撃性が高くなると考えられる。
【0116】
本実施形態において、エポキシ樹脂組成物の耐衝撃性は、ASTM D5045−99に準拠してエポキシ樹脂組成物の硬化物の破壊靭性値を測定することにより評価することができる。
【0117】
また、通常、エポキシ樹脂と強化繊維とは密着性が不良であることが知られている。本実施形態においては、芳香族ポリスルホン樹脂は、エポキシ樹脂と強化繊維との密着性を向上させる。
【0118】
また、上述したように、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を用いた成形体は、100℃における粘度が同じである樹脂組成物を用いた成形体と比較して、ボイドが少ないことが分かった。成形体におけるボイドの個数が少ないほど、成形体の機械的特性や耐溶剤性が高いと言える。
【0119】
以上のことから、上述のエポキシ樹脂組成物を用いた成形体の耐衝撃性、機械的特性や耐溶剤性が高くなると考えられる。
【0120】
[エポキシ樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に制限されず、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および必要に応じて用いられるその他の成分を混合すればよい。本実施形態においては、予め(A)成分、(B)成分、(C)成分を混合しておき、この混合物に(D)成分を混合してもよい。各成分を混合する際、本発明の効果を奏する範囲で、各成分を加熱してもよい。
【0121】
<プリプレグ>
本実施形態のプリプレグは、上記のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたシート状の基材である。
【0122】
本実施形態で用いられる強化繊維は、強度の観点から、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維およびアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。これらの強化繊維は、織布または不織布であってもよい。
【0123】
[プリプレグの製造方法]
本実施形態のプリプレグの製造方法は特に限定されず、上述のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させればよい。
【0124】
エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法としては、ウェット法およびホットメルト法(ドライ法)などが挙げられる。
【0125】
ウェット法は、樹脂に強化繊維を浸漬した後、強化繊維を引き上げ、オーブンなどを用いて強化繊維から溶媒を蒸発させることにより、樹脂を強化繊維に含浸させる方法である。
【0126】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した樹脂を直接強化繊維に含浸させる方法である。また、ホットメルト法の別の形態としては、離型紙などの上に樹脂をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から当該フィルムを重ね、加熱加圧することにより、強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0127】
このようにして強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させた後、例えば120〜150℃に加熱して、含浸させたエポキシ樹脂組成物を半硬化させることにより、プリプレグを製造することができる。
【0128】
本明細書において「半硬化」とは、一定の形状が維持できるまで樹脂の粘度または硬度が増加した状態であって、当該状態からさらに粘度または硬度が増加し得る状態まで粘度または硬度が増加可能である状態を指す。
【0129】
本実施形態によれば、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高い成形体を得ることができるプリプレグが得られる。
【0130】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上記のプリプレグの硬化物を形成材料とする。
【0131】
本実施形態の成形体は、耐衝撃性、機械的特性および耐溶剤性が高いことから、自動車や航空機などの用途に好適に使用できる。
【0132】
本実施形態の成形体は、上記のプリプレグが複数積層されて構成される。具体的には、上記方法で製造されたプリプレグを、複数重ね、オートクレーブまたは熱プレス機などを用いて熱硬化成形することで、成形体を得ることができる。
【0133】
プリプレグを積層するパターンとしては、プリプレグに含まれる強化繊維の配列方向を揃えて積層する方法(0°)や、任意の角度でずらしながらプリプレグを積層する方法が挙げられる。例えば、45°ずつ、ずらす場合には、0°/45°/90°/135°/180°/225°/270°/315°/360°(0°)という具合になる。なお、「任意の角度でずらす」とは、積層させる2層のプリプレグに含まれる繊維方向の相対角度を変更することを意味する。任意の角度については、成形体の用途に応じて適宜設定することができる。
【0134】
本実施形態によれば、ボイドが存在しない成形体を得ることができる。したがって、機械的特性および耐溶剤性が高い成形体が得られる。
【実施例】
【0135】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0136】
〔(A)成分におけるエポキシ当量〕
(A)成分のエポキシ当量は、JIS K7236に準じて、塩酸−ジオキサン法にて測定した。
【0137】
〔(A)成分における三量体の含有率〕
(A)成分における三量体の含有率は、下記の条件で液体クロマトグラフィー(LC)分析の測定結果に基づいて算出した。詳しくは、LC分析において、保持時間30分から35分の間に検出されたピーク面積の総和を三量体の含有量とした。保持時間0分から35分の間に検出されたピーク面積の総和に対する保持時間30分から35分の間に検出されたピーク面積の総和の割合を(A)成分における三量体の含有率として採用した。
【0138】
(条件)
試料:アセトニトリル1mlに試料1mgを溶かした溶液を5μL注入
装置:島津製作所製液体クロマトグラフ Nexera XR
カラム:住化分析センター製SUMIPAX ODS A−212
(内径:6mm、長さ:150m、膜厚:5μm)
カラム温度:40℃
【0139】
〔芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度〕
芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度は、以下のようにして求めた。芳香族ポリスルホン樹脂1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dlとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。上記溶液の濃度は1g/dlであるので、比粘性率((η−η)/η)の値が、単位dl/gの還元粘度の値となる。
【0140】
〔芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率〕
芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率は、以下のようにして求められる値を採用する。まず、所定量の芳香族ポリスルホン樹脂をジメチルホルムアミドに溶解させた後、過剰量のp−トルエンスルホン酸を加えた。次いで、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存p−トルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシ基を中和した。このとき、ヒドロキシ基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホン樹脂の上記所定量(g)で除することで得られる値を芳香族ポリスルホン樹脂におけるフェノール性水酸基の含有率とする。
【0141】
〔エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度〕
エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、下記の条件で動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、「Q800」)を用いて測定されるtanδのピークに基づいて求めた。
【0142】
(条件)
測定モード:引張モード
振幅:20μm
周波数:20Hz
昇温速度:5℃/分
【0143】
〔樹脂組成物の100℃における粘度〕
樹脂組成物の100℃における粘度は、下記の条件で動的粘弾性測定装置(BOHLIN INSTRUMENTS社製レオメーターCVOモデル)にて、パラレルプレートを用いて得られる粘度曲線より求められる値を採用する。なお、実施例および比較例において、樹脂組成物はエポキシ樹脂組成物である。
【0144】
(条件)
測定範囲:室温(約20℃)〜120℃
昇温速度:2℃/分
歪み:10%
周波数:1Hz
プレート間隔:1mm
【0145】
〔成形体におけるボイドの個数の測定〕
以下、実施例および比較例で得られた成形体における炭素繊維(強化繊維)の繊維方向に沿う断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率:5000倍、加速電圧:2kV)を撮影し、任意の異なる3箇所において30mm×30mmサイズ内のボイド数を計数し、これらの平均値を算出した。なお、本測定において、SEM写真における黒点箇所をボイドとした。
【0146】
実施例および比較例では、(A)成分、(B)成分および(D)成分として下記の材料を用いた。
(A)成分:製造例1で得られた芳香族エポキシ樹脂
(B)成分:シグマアルドリッチジャパン社より購入したビスフェノールAジグリシジルエーテル
(D)成分:純正化学株式会社より購入したビス(4−アミノフェニル)スルホン
【0147】
実施例および比較例では、芳香族ポリスルホン樹脂として下記の材料を用いた。
(C−1)成分:製造例2で得られた芳香族ポリスルホン樹脂
(C−2)成分:製造例3で得られた芳香族ポリスルホン樹脂
(C−3)成分:製造例4で得られた芳香族ポリスルホン樹脂
【0148】
・(A)成分の製造
〔製造例1〕
4,4’−メチレンジアニリン(99.1g)、エピクロルヒドリン(231.3g)、メチルイソブチルケトン(52.1g)を温度計、撹拌機、滴下漏斗、分離管付きコンデンサーの付いた反応容器に仕込んだ。反応系内を70℃に保ちながら、48%苛性ソーダ(208g)を2時間で連続的に滴下した。この間、温度は70℃に保ちながら、水を冷却液化し、有機層を反応系内に戻しながら反応させた。反応終了後に、未反応エピクロルヒドリンを減圧濃縮により除去し、副生塩とグリシジルエーテルをメチルイソブチルケトン500gに溶解させ、副生成物を水洗により除去した。その後130℃、10torrにてメチルイソブチルケトンを減圧留去し、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンおよびその重合体を含む(A)成分を得た。
【0149】
得られた(A)成分のエポキシ当量は、118g/eqであった。また、(A)成分における三量体の含有率は、2.9質量%であった。
【0150】
・芳香族ポリスルホン樹脂の製造
〔製造例2〕
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(300.3g)、ビス(4−クロロフェニル)スルホン(331.5g)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン(560.9g)を仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した。得られた溶液に、炭酸カリウム(160.1g)を添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトン及びメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで150℃で加熱乾燥させ、(C−1)成分を白色粉末として得た。
【0151】
得られた(C−1)成分の還元粘度は、0.27dl/gであった。(C−1)成分におけるフェノール性水酸基の含有率は、169μmol/gであった。
【0152】
〔製造例3〕
製造例2において、原料の仕込み量としてビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(100.1g)、ビス(4−クロロフェニル)スルホン(114.8g)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン(188.2g)、炭酸カリウム(59.0g)とした以外は製造例2と同様の操作を行い、(C−2)成分を白色粉末として得た。
【0153】
得られた(C−2)成分の還元粘度は、0.50dl/gであった。(C−2)成分におけるフェノール性水酸基の含有率は、49μmol/gであった。
【0154】
〔製造例4〕
製造例2において、原料の仕込み量としてビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(300.3g)、ビス(4−クロロフェニル)スルホン(341.2g)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン(564.8g)、炭酸カリウム(169.2g)とした以外は製造例2と同様の操作を行い、(C−3)成分を白色粉末として得た。
【0155】
得られた(C−3)成分の還元粘度は、0.41dl/gであった。(C−3)成分におけるフェノール性水酸基の含有率は、61μmol/gであった。
【0156】
[エポキシ樹脂組成物の製造]
〔実施例1〕
500mlセパラブルフラスコに、製造例1で得られた(A)成分140g、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(B)60gおよび製造例2で得られた(C−1)成分26gを入れ、120℃で3時間撹拌した後、100℃まで冷却し、ビス(4−アミノフェニル)スルホン(D)90gを入れ、100℃で1時間撹拌し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0157】
〔実施例2〕
(C−1)成分26gから40gに変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0158】
〔実施例3〕
(A)成分140gから160g、(B)成分60gから40gに変更した以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0159】
〔比較例1〕
(C−1)成分26gから(C−2)成分14gに変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0160】
〔比較例2〕
(C−1)成分から(C−2)成分に変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0161】
〔比較例3〕
(C−1)成分26gから(C−3)成分32gに変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0162】
〔比較例4〕
(A)成分140gから100g、(B)成分60gから100gに変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0163】
〔比較例5〕
(C−1)成分26gから60gに変更した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0164】
〔比較例6〕
(C−1)成分40gから(C−2)成分26gに変更した以外は、実施例3と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0165】
[成形体の評価]
実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーター方式の樹脂コーティング装置を用いて、シリコーンを塗布した離型紙上に均一に塗工して、幅20cmの樹脂フィルムとした。次いで、均一に引き揃えた炭素繊維(三菱レイヨン(株)製TR50S15L)の両面から得られた樹脂フィルムを挟み込み、プレスロール装置を用いて100℃下、圧力を適宜調整して、炭素繊維にエポキシ樹脂組成物が含浸したプリプレグ(繊維体積含有率:55%、厚さ:0.17mm)を得た。
【0166】
このプリプレグ18枚を同方向に積層し、山本鉄工所製のTA−200−1Wプレス機を用いて温度150℃、圧力3MPaの条件下で30分間、次いで温度180℃、圧力3MPaの条件下で60分間プレス成形を行い、成形体を作製した。ここで得られた成形体を用いてガラス転移温度および成形体におけるボイドの個数を測定した。
【0167】
実施例および比較例において、用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度および100℃における粘度、ならびに成形体におけるボイドの個数を表1および表2に示す。なお、表1および表2における(A)成分〜(D)成分の各値は、(A)成分および(B)成分の合計の含有量100質量部に対する各成分の含有率を意味する。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
表1および表2に示すように、本発明を適用した実施例1〜3の成形体には、ボイドが発生していないことを確認した。
【0171】
通常、用いるエポキシ樹脂組成物の粘度が同じであれば、ボイドの個数も同程度になると考えられる。しかし、比較例1の成形体にはボイドが発生したのに対し、驚くべきことに、比較例1と同じ粘度をもつエポキシ樹脂組成物を用いた実施例1の成形体には、ボイドが発生しなかった。
【0172】
実施例1と比較例1とでは芳香族ポリスルホン樹脂の含有率が異なっている。芳香族ポリスルホン樹脂の含有率の違いがボイドの発生に及ぼす影響について検証するため、実施例1と芳香族ポリスルホン樹脂の含有率を同じにして、比較例2の成形体を作製した。その結果、実施例1と芳香族ポリスルホン樹脂の含有率を同じにしたにもかかわらず、比較例2の成形体にはボイドが発生した。つまり、芳香族ポリスルホン樹脂の含有率の違いがボイドの発生に及ぼす影響は少ないと考えられる。
【0173】
ボイドの発生の原因については不明ではあるが、用いた芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度が0.30dl/g以下であることがボイドの発生に影響していると考えられる。
【0174】
同様に、比較例2および比較例3の成形体には、ボイドが発生したのに対し、比較例2および比較例3と同じ粘度をもつエポキシ樹脂組成物を用いた実施例2の成形体には、ボイドが発生しなかった。これらの結果は、通常のエポキシ樹脂組成物からは予想外の結果である。
【0175】
以上のことから、ボイドが発生していない実施例1〜3の成形体は、機械的特性および耐溶剤性が高いと言える。また、実施例1〜3では、このような機械的特性および耐溶剤性が高い成形体を得ることができるエポキシ樹脂組成物が得られたと言える。
【0176】
以上の結果より、本発明が有用であることが確かめられた。