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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218493(P2019-218493A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】変性膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20191129BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20191129BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20191129BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20191129BHJP
   B01D 71/66 20060101ALI20191129BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20191129BHJP
   C08G 65/48 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   C08J7/00CEZ
   B01D71/68
   B01D71/52
   B01D71/64
   B01D71/66
   C08G65/40
   C08G65/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-117360(P2018-117360)
(22)【出願日】2018年6月20日
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】淺原 時泰
(72)【発明者】
【氏名】中谷 賢太
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐一
(72)【発明者】
【氏名】水田 康司
(72)【発明者】
【氏名】丸子 展弘
(72)【発明者】
【氏名】田原 修二
【テーマコード(参考)】
4D006
4F073
4J005
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MB02
4D006MC47X
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006NA03
4D006NA10
4D006NA45
4D006NA54
4F073AA01
4F073AA11
4F073AA30
4F073AA31
4F073BA27
4F073BA29
4F073BA31
4F073BA32
4F073BB01
4F073CA45
4F073CA67
4J005AA24
4J005BA00
4J005BC00
4J005BD00
(57)【要約】
【課題】膜を効率よく変性して機能を高めると共に、他の性能は従来と同様程度の変性膜を提供する。
【解決手段】1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを、原子数比で原子(α):原子(β)=1:1〜4:1の割合で含むラジカルに光を照射する工程1を含む、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドおよびこれらのスルホン化重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む膜を変性してなる変性膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを、原子数比で原子(α):原子(β)=1:1〜4:1の割合で含むラジカルに光を照射する工程1を含む、
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドおよびこれらのスルホン化重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む膜を変性してなる変性膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程1が、
前記膜と前記ラジカルとが共存する環境において、
前記ラジカルに光を照射して前記膜を変性する工程である
請求項1に記載の変性膜の製造方法。
【請求項3】
前記工程1が、前記膜および前記ラジカルに光を照射する工程である請求項2に記載の変性膜の製造方法。
【請求項4】
前記重合体が、スルホン化ポリエーテルケトンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性膜の製造方法。
【請求項5】
前記重合体が、下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を含むスルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を含む、請求項4に記載の変性膜の製造方法。
【化1】
[式(1)および(2)において、
1〜R10は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)であり、
1〜R10の少なくとも1つはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)であり、
1〜R10は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にCm2m+1が2つ以上存在する場合には、各Cm2m+1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1〜X5は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはスルホン酸基含有基であり、
1〜X5の少なくとも1つはスルホン酸基含有基であり、
1〜X5は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にスルホン酸基含有基が2つ以上存在する場合には、各スルホン酸基含有基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1〜A6は、それぞれ独立して、直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−または−CO−であり、A1〜A6の少なくとも1つは−CO−である。
i,j,kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。]
【請求項6】
前記ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである請求項1〜5のいずれか1項に記載の変性膜の製造方法。
【請求項7】
前記膜が、半透膜である請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能を持った膜が開発されている。代表例の一つが半透膜であり、その機能は海水の淡水化が代表例である。その他にも、半透膜は、液体混合物あるいは気体混合物から所定の成分を選択的に分離するために有用であり、たとえば高純度水の製造や、溶液中から特定の溶質を分離する際に好適に用いられる。
【0003】
半透膜の一態様としては正浸透膜があり、特許文献1には、不織布と、その上に形成されたポリスルホンなどの高分子層と、その上に形成されたポリアミド系緻密層とを有する正浸透膜が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、濃度差発電用の正浸透膜としても使用し得る、繊維性支持層、微多孔性支持膜および架橋ポリアミド薄膜層から構成された複合半透膜において、微多孔性支持膜を、従来のポリスルホンと共に、スルホン酸基を有する芳香族ポリエーテル(たとえば、SO3Na基を有する芳香族ポリエーテルケトン)をも含有する組成物から形成することにより、高い塩阻止率および高い水透過性を実現できると記載されている。
【0005】
また特許文献3には、スルホン酸基を有する芳香族ポリエーテル(たとえば、SO3Na基を有する芳香族ポリエーテルケトン)自立膜を用いた正浸透膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−213262号公報
【特許文献2】特開2014−533号公報
【特許文献3】国際公開第2018/079733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、膜には、より高い機能が求められている。
機能の向上には、膜材料に官能基を導入することが有力な手段である。
一方で、従来の官能基導入手段であるラジカル変性による重合体の変性は、当該重合体の分子量低下や、架橋などの意図せぬ反応が併発する可能性があることが知られている。これにより、膜の強度の低下などの副作用を伴う場合がある。
【0008】
本発明者らは、官能基による機能の発現は、主として膜の表面であることから、同表面を選択的に変性出来れば、上記の問題点を解決できると考えた。
本発明は前記課題に鑑みてなされた発明であり、膜を効率よく変性して機能を高めると共に、他の性能は従来と同様程度の変性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
[1]1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを、原子数比で原子(α):原子(β)=1:1〜4:1の割合で含むラジカルに光を照射する工程1を含む、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドおよびこれらのスルホン化重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む膜を変性してなる変性膜の製造方法。
[2]前記工程1が、前記膜と前記ラジカルとが共存する環境において、前記ラジカルに光を照射して前記膜を変性する工程である前記[1]に記載の変性膜の製造方法。
[3]前記工程1が、前記膜および前記ラジカルに光を照射する工程である前記[2]に記載の変性膜の製造方法。
[4]前記重合体が、スルホン化ポリエーテルケトンである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の変性膜の製造方法。
[5]前記重合体が、下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を含むスルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を含む、前記[4]に記載の変性膜の製造方法。
【0010】
【化1】
[式(1)および(2)において、
1〜R10は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)であり、
1〜R10の少なくとも1つはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)であり、
1〜R10は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にCm2m+1が2つ以上存在する場合には、各Cm2m+1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1〜X5は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはスルホン酸基含有基であり、
1〜X5の少なくとも1つはスルホン酸基含有基であり、
1〜X5は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にスルホン酸基含有基が2つ以上存在する場合には、各スルホン酸基含有基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1〜A6は、それぞれ独立して、直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−または−CO−であり、A1〜A6の少なくとも1つは−CO−である。
i,j,kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。]
[6]前記ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである前記[1]〜[5]のいずれかに記載の変性膜の製造方法。
[7]前記膜が、半透膜である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の変性膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、膜を効率よく、例えば、表面を主として変性し機能の向上を図りながらも、従来の膜としての基本性能を維持できる変性膜を提供することができる。
後述するように、例えばこの技術を正浸透膜に適用した場合、塩阻止率は維持したまま水透過流速性能を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例で行った、膜を変性する際の態様を示す概略模式図である。
図2図2は、実施例で行った、膜を変性する際の態様を示す概略模式図である。
図3図3は、実施例で正浸透膜の分離性能の評価に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
≪変性膜の製造方法≫
本発明に係る変性膜の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、
1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを、原子数比で原子(α):原子(β)=1:1〜4:1の割合で含むラジカルに光を照射する工程1を含む、
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドおよびこれらのスルホン化重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む膜を変性してなる変性膜の製造方法である。
【0014】
前記工程1は、好ましくは、前記膜と前記ラジカルとが共存する環境において、前記ラジカルに光を照射して前記膜を変性する工程である。
前記工程1において、好ましくは、前記膜および前記ラジカルに光が照射される。「前記膜および前記ラジカルに光が照射される」とは、前記膜、前記ラジカルに対してそれぞれ独立に光を照射することを意図したものではなく、たとえば1つの光源からの光によって前記膜および前記ラジカルが照射されることを意味する。また、前記膜と、前記ラジカルへの光照射は同時に行われることが好ましい。
【0015】
後述するように、前記膜の、光が照射された部位のみが変性される訳ではなく、その周辺部や深層部も変性される場合がある。
本発明の製造方法としては、前記ラジカルを含む系に光を照射した後、この系と前記膜とを接触させて前記膜を変性するという態様も挙げられる。
【0016】
このような本方法によれば、膜を効率よく、具体的には、主として表面を変性しながらも、膜としての機能、例えば後述するような正浸透膜を用いた場合、塩の逆拡散防止性能は保ったまま、水の透過速度の向上を図ることが出来る。
【0017】
本方法によれば、前記ラジカルに光照射するのみの極めて簡便な方法で、また、例えば、常温および常圧等のきわめて温和な条件下でも、膜を効率よく変性(例:酸化処理)することができる。さらに、本方法によれば、例えば、取扱い温度において不安定な場合がある過酸化物やアゾ化合物などのラジカル発生剤を用いずに、膜を効率よく変性(例:酸化反応)することができる。
【0018】
<工程1>
前記工程1は、1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを、原子数比で原子(α):原子(β)=1:1〜4:1の割合で含むラジカルに光を照射する工程である。
【0019】
前記工程1では、少なくとも前記ラジカルに光が照射されればよく、前記膜には、光が照射されても、されなくてもよい。
前記工程1は、前記ラジカルを含む水相および/または有機相に前記膜を浸漬または接触させて行う、液相方法でもよく、前記ラジカルを含む水相および/または有機相と、前記膜とを接触させずに行う、気相方法でもよく、前記ラジカルおよび前記膜を含む気相で行う、気相方法でもよい。例えば、水や溶媒の残留による影響が厳しく制限される用途の場合は、気相での反応が好ましい。
【0020】
前記ラジカルは、1分子中に、15族元素および16族元素から選ばれる元素の原子(α)と17族元素の原子(β)とを特定の組成比で含む。
前記ラジカルは、15族元素の原子を2種以上含んでいてもよく、16族元素の原子を2種以上含んでいてもよく、15族元素および16族元素の原子をそれぞれ1種以上含んでいてもよく、17族元素の原子を2種以上含んでいてもよい。ただし、これらの場合、前記原子数比は、15族元素および16族元素の原子の合計数と17族元素の原子の合計数との比である。
【0021】
原子(α)としては、好ましくは、窒素、酸素、硫黄が挙げられ、特に好ましくは酸素である。
原子(β)としては、好ましくは、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、塩素、臭素がより好ましい。これらの中でも、塩素を含むラジカルが、入手ないし発生が容易であるため、塩素がより好ましい。塩素を含むラジカルを用いる場合、照射する光としては、紫外線を含む光が好ましく、臭素やヨウ素を含むラジカルを用いる場合、紫外線より長波長の光も用いることができると考えられる。従って、光の選択自由度や重合体にマイルドな環境が必要な場合等の観点からすれば、臭素、ヨウ素が好ましい場合がある。
【0022】
前記ラジカルにおける前記原子数比(原子(α):原子(β))は、好ましくは1:1〜2:1、より好ましくは2:1である。
前記ラジカルとしては、二酸化塩素ラジカルが好ましい。例えば、二酸化塩素ラジカルに光が照射されることで、塩素ラジカル(Cl・)および酸素分子(O2)が発生すると考えられる。
【0023】
前記光照射に使用する光(の波長)は、用いるラジカルによって適宜選択すればよい。具体的には、赤外線領域から紫外線領域まで幅広い領域を選択可能であるが、例えば200nm以上であり、例えば800nm以下である。光照射時間は特に限定されないが、例えば1分以上であり、例えば1000時間以下である。
【0024】
前記光照射における光源は特に限定されないが、簡便さの点から、例えば、太陽光等の自然光が挙げられる。また、例えば、前記自然光に代えて、またはこれに加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ等の光源を適宜用いてもよい。さらに、必要により、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いてもよい。
【0025】
前記工程1を行う際の温度、圧力、雰囲気も特に制限されないが、反応温度は、例えば0℃以上であり、例えば100℃以下であり、圧力は、例えば0.1MPa以上であり、100MPa以下であり、雰囲気は、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気が挙げられる。
【0026】
本方法は、例えば、後述の実施例に示すように、加熱、加圧、減圧等を一切行わずに、大気中、常温(例:5〜35℃)および常圧(大気圧)下で行なうことも可能である。
前記光照射は、例えば、水相、有機相および/または気相中に存在する前記ラジカルに対して行われる。環境への負荷や人体への影響を低減させる等の点を重視する場合は、水相や気相に存在するラジカルに対して行うことが好ましい。工程1は、一実施態様では、水相、有機相および気相のうちの二相以上の層が存在する環境下であってもよい。また、例えば、前記ラジカルが液相に存在している場合、前記変性の対象となる膜も液相に存在していてもよいが、それ以外の相、例えば気相に存在していてもよい。
【0027】
一実施態様において、前記水相および/または有機相中における、原子(α)および原子(β)を含むラジカルの濃度は特に限定されないが、例えば0.0001mol/L以上であり、例えば1mol/L以下である。
【0028】
前記水相は、水を含めば特に制限されない。
前記有機相は、有機溶媒を含めば特に制限されない。
前記有機溶媒は特に制限されないが、例えば、炭化水素溶媒、ハロゲン化溶媒が挙げられる。
【0029】
前記有機溶媒は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
前記炭化水素溶媒としては特に限定されないが、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンが挙げられる。
【0030】
前記ハロゲン化溶媒としては特に限定されないが、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、フルオラス溶媒が挙げられる。
前記フルオラス溶媒は、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子に置換された溶媒をいう。前記フルオラス溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上がフッ素原子に置換された溶媒であってもよい。
【0031】
前記フルオラス溶媒としては、例えば、CF3−(CF2n−CF3(nは4〜7)、N−((CF2nCF33(nは1または4)、ヘキサフルオロベンゼン、1−(トリフルオロメチル)ウンデカフルオロシクロヘキサン、1−(トリフルオロメチル)ペンタフルオロベンゼン、オクタデカフルオロデカヒドロナフタレンが挙げられ、その中でも、例えば、CF3(CF24CF3が好ましい。
【0032】
フルオラス溶媒は、例えば、溶媒自体の反応性が低いために、副反応を抑制または防止できるという利点がある。前記副反応としては、例えば、溶媒の酸化反応、ラジカルによる溶媒の水素引き抜き反応や塩素化反応、前記膜を構成する重合体に由来するラジカルと溶媒との反応が挙げられる。
【0033】
前記膜を水相または有機相に浸漬する場合、水相または有機相中における、原料(基質)である前記膜の使用量は、特に限定されないが、水相または有機相に対し、例えば、1g/L以上であってもよく、10g/L以下であってもよい。
【0034】
前記水相および/または有機相は、前記ラジカル以外の他の成分を含んでいてもよい。
前記他の成分としては、特に限定されないが、例えば、前記ラジカルの発生源、ブレンステッド酸、ルイス酸、酸素(O2)が挙げられる。
【0035】
これらはそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記他の成分は、水相および/または有機相に溶解してもよいが、溶解していなくてもよい。
なお、1つの物質がルイス酸およびブレンステッド酸を兼ねていてもよい。「ルイス酸」は、前記ラジカルの発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0036】
前記ラジカルの発生源は特に限定されないが、前記ラジカルが二酸化塩素ラジカルである場合、例えば、亜塩素酸(HClO2)またはその塩が挙げられる。亜塩素酸の塩としては特に限定されないが、例えば、金属塩が挙げられる。該金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩が挙げられる。
【0037】
前記二酸化塩素ラジカルの発生源は、より具体的には、例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)、亜塩素酸リチウム(LiClO2)、亜塩素酸カリウム(KClO2)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO22)、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO22)が挙げられる。これらの中でも、コスト、取扱い易さ等の点から、亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0038】
前記水相および/または有機相中における、前記ラジカルの発生源の濃度は特に限定されないが、例えば0.0001mol/L以上であり、例えば1mol/L以下である。
前記ルイス酸は特に制限されず、例えば、有機物質でも、無機物質でもよい。
【0039】
前記有機物質としては、例えば、アンモニウムイオン、有機酸(例:カルボン酸)が挙げられる。
前記無機物質は、金属イオンおよび非金属イオンの一方または両方を含んでいてもよい。前記金属イオンは、典型金属イオンおよび遷移金属イオンの一方または両方を含んでいてもよい。
【0040】
前記無機物質は、例えば、アルカリ土類金属イオン(例えばCa2+等)、希土類イオン、Mg2+、Sc3+、Li+、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオンおよびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0041】
前記アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはラジウムのイオンが挙げられ、より具体的には、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびRa2+が挙げられる。
【0042】
前記「希土類」は、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。希土類イオンとしては、例えば、3価の陽イオンが挙げられる。
【0043】
また、前記ルイス酸がイオンである場合、前記ルイス酸は、該イオンのカウンターイオンを有する物質であってもよく、該カウンターイオンとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、酢酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオンが挙げられる。
【0044】
また、前記ルイス酸は、AlCl3、AlMeCl2、AlMe2Cl、BF3、BPh3、BMe3、TiCl4、SiF4およびSiCl4からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。なお、これらのうち、「Ph」はフェニル基を表し、「Me」はメチル基を表す。
【0045】
前記ルイス酸のルイス酸性度は、例えば、0.4eV以上であるが、これには限定されない。前記ルイス酸性度の上限値は特に限定されないが、例えば、20eV以下である。なお、前記ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができる。
【0046】
前記ブレンステッド酸としては特に限定されないが、例えば、無機酸、有機酸が挙げられ、具体的には、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸が挙げられる。
【0047】
前記ブレンステッド酸の酸解離定数pKaは、例えば10以下である。前記pKaの下限値は、特に限定されないが、例えば、−10以上である。
前記水相および/または有機相中における、前記ルイス酸およびブレンステッド酸の少なくとも一方の濃度は特に限定されず、適宜設定することができるが、例えば1mg/L以上であり、例えば1g/L以下である。
【0048】
例えば、水相および/または有機相に、空気または酸素ガスを吹き込むことにより、水相および/または有機相中に酸素(O2)を溶解させることができる。このとき、例えば、水相および/または有機相を、酸素(O2)で飽和させてもよい。水相および/または有機相が前記酸素(O2)を含むことで、例えば、前記重合体を含む膜の変性(酸化反応)を促進させることができる。
【0049】
<ラジカル生成工程>
本方法は、前記ラジカルを生成する工程(ラジカル生成工程)を含んでいてもよく、具体的には、前記ラジカル発生源から前記ラジカルを生成する工程が挙げられる。
【0050】
前記ラジカル生成工程は特に限定されないが、例えば、前記ラジカル発生源(例:亜塩素酸またはその塩)を水に溶解させて静置し、ラジカル発生源から前記ラジカルを自然発生させることで行なうことができる。このとき、例えば、前記水中に前記ルイス酸およびブレンステッド酸の少なくとも一方が存在することで、前記ラジカルの生成を促進することができる。また、例えば、前記ラジカル発生源を水に溶解させた水相に光照射することで前記ラジカルを生成させることもできる。この光照射は、前記工程1における光照射であってもよく、つまり、ラジカルを生成させながら、そのラジカルに光照射してもよい。
【0051】
例えば、亜塩素酸イオンから二酸化塩素ラジカルが発生するメカニズム(機構)は、例えば、下記スキーム1のように推測される。ただし、下記スキーム1は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明をなんら限定しない。
【0052】
下記スキーム1の第1の(上段の)反応式は、亜塩素酸イオン(ClO2-)の不均化反応を示し、この反応系中にルイス酸およびブレンステッド酸の少なくとも一方が存在することで、平衡が右側に移動しやすくなると考えられる。
【0053】
下記スキーム1中の第2の(中段の)反応式は、二量化反応を示し、不均化反応で生成した次亜塩素酸イオン(ClO-)と亜塩素酸イオンとが反応して二酸化二塩素(Cl22)が生成する。この反応は、水中にプロトンH+が多いほど、すなわち酸性であるほど進行しやすいと考えられる。
【0054】
下記スキーム1中の第3の(下段の)反応式は、ラジカル生成を表す。この反応では、二量化反応で生成した二酸化二塩素が、亜塩素酸イオンと反応して二酸化塩素ラジカルを生成する。
【0055】
【化1S】
【0056】
<膜の変性>
本方法では、前記膜を変性する。
前記膜には、前記変性により、前記ラジカルに含まれる原子(α)を含む官能基が前記膜に導入される場合もあるが、空気中の酸素などの15族、16族元素を含む官能基が導入される場合もある。この際に、前記ラジカルに含まれる原子(β)も前記膜に導入される可能性がある。
【0057】
本方法によれば、このように原子(β)も前記膜に導入される場合があると考えられるため、変性膜には、原子(β)の有する効果も期待できる場合がある。
前記ラジカルを用いて、アルカンなどの低分子炭化水素化合物を変性する場合、17族元素の導入が抑制されることが報告されているが、本方法によれば、17族元素も15、16族元素と併せて、膜に導入できる場合がある。これは、メタンやエタンなどの低分子を変性する場合(特開2017−155017号公報に記載されているエタンの酸化反応のメカニズム(機構)参照)に比して、膜の炭素−水素結合の存在密度が高くなる傾向にあると考えられることや、重合体と相互作用を持つことでラジカルが安定化する可能性がその一因ではないかと本発明者らは考えている。ただ、この推測によって、本発明は制限されない。
【0058】
前記原子(α)を含む官能基としては、前記ラジカルが酸素を含む場合、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、−C(=O)OOH、−O−O−が挙げられる。
【0059】
前記膜に原子(β)が導入される場合、前記膜に導入される、原子(α)の合計量[Cα]と、原子(β)の合計量[Cβ]との比率([Cα]/[Cβ])の下限値は、好ましくは、ゼロを超え、より好ましくは0.01、さらに好ましくは0.1、特に好ましくは0.5であり、上限値は、好ましくは5000、より好ましくは100、さらに好ましくは20である。17族元素(原子(β))が導入されない場合もある。
【0060】
前記の[Cα]、[Cβ]値は、XPS法によって特定される値である。測定は、製品名AXIS−Nova(KRATOS社製)を用い常法で実施される。
本方法によれば、変性する対象となる前記膜の主として表面が変性されると期待される。これによれば、仮に変性の際に、前記膜を形成する重合体分子の切断や架橋が起こったとしても膜の表面近傍にとどまり、膜全体の強度等の性能に関する影響は最小限にできると考えられるので、膜の基本性能を維持するうえで有利である。
【0061】
前記表面とは、前記膜の表面からの深さが、好ましくは膜の厚みの1/10以下、より好ましくは1/20以下の領域をいう。この変性される部分の深さは、例えば、XPS法で確認することができる。
【0062】
本方法によれば、前記膜の表面全体を変性することもできるし、その表面の一部を変性することもできる。本方法は、光を介して進行するので、主として光の当たった場所を変性できることが期待される。また、光を膜の一面だけに照射すれば、該一面だけ変性した変性膜や、フォトマスク等により、光の当たる部分を制御すれば、特定の箇所だけ変性することも可能となり、変性部分と未変性部分の比率を自由に制御することもできると期待される。
【0063】
例えば、本発明の膜を浸透膜やろ過膜として用いる場合、前記膜における原料試薬などの成分と接触する面全体を100%として、変性される部分の面積は、得られる変性膜の所望の用途に応じて適宜選択すればよい。その面積の割合の好ましい下限値は、1%、5%、10%、20%、30%、50%の順に好ましく、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%である。変性された領域は、XPS法などの公知の方法で特定することが出来る。
【0064】
前記変性は、前記ラジカルに光が当たって発生する17族元素のラジカルを起点に反応が進行すると考えられる。当然ながら、当該ラジカルが原料である前記膜と接触した部分で変性が起こると考えられる。従って、変性対象である膜に光照射された面積と変性された面積とは、ほぼ等価である場合が多い。
【0065】
光を照射した周辺部や、光が届かない細孔の深層部が変性される場合もあるが、その割合は小さいと予想される。
本発明において、光を前記膜に照射することは、直接的に前記膜への変性反応に関わらない可能性がある。しかしながら、一般的なラジカルの寿命や前記膜の特定部位への変性を行う場合などを考慮すると、実質的に光を前記膜にも照射することが好ましい方法となる。
【0066】
[膜]
本方法での変性対象である前記膜は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドおよびこれらのスルホン化重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む膜である。このような重合体は常法によって膜に成形できる。その方法は、前記の特許文献1〜3に記載の方法を例示することが出来る。前記重合体の好ましい具体例として、スルホン化ポリエーテルケトン、特に、以下に説明するスルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂が挙げられる。
【0067】
前記膜の厚さは、例えば0.01μm以上であり、例えば3μm以下である。より好ましい下限値は、0.03μmであり、より好ましい上限値は2μmであり、さらに好ましい上限値は1.5μmである。
【0068】
以下、本方法において変性される膜の一例として、半透膜を記載する。
前記半透膜は、一実施態様において、スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を含んでなる。スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は、一実施態様において、下式(1)で表される構造単位(1)および下式(2)で表される構造単位(2)を含んでいる。
【0069】
【化2】
【0070】
式(1)および(2)において、
i,j,kおよびlは、それぞれ独立して、0または1を示す。
1〜R10は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)であり、Cm2m+1としては、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0071】
1〜R10の少なくとも1つはCm2m+1(mは1〜10の整数を示す。)である。具体的には、i,j,kおよびlならびにR1〜R10は、前記構造単位(1)および/または前記構造単位(2)が、Cm2m+1で表される基を少なくとも1つ有するように選択される。すなわち、i,j,kおよびlがすべて1の場合には、R1〜R10の少なくとも1つがCm2m+1であるが、たとえばi=0、j=1、k=0かつl=1の場合には、R1〜R3、R5〜R8およびR10の少なくとも1つがCm2m+1である。
【0072】
1〜R10は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にCm2m+1が2つ以上存在する場合には、各Cm2m+1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1〜X5は、それぞれ独立して、H、Cl、F、CF3またはスルホン酸基含有基である。
【0073】
1〜X5の少なくとも1つはスルホン酸基含有基である。具体的には、iおよびjならびにX1〜X5は、前記構造単位(1)が、スルホン酸基を少なくとも1つ有するように選択される。すなわち、i=1かつj=1の場合にはX1〜X5の少なくとも1つがスルホン酸基含有基であるが、j=0の場合にはX1〜X3の少なくとも1つがスルホン酸基含有基であり、i=0かつj=1の場合にはX1〜X3およびX5の少なくとも1つがスルホン酸基含有基である。
【0074】
1〜X5は、それぞれ芳香環に2つ以上存在してもよく、1つの芳香環にスルホン酸基含有基が2つ以上存在する場合には、各スルホン酸基含有基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
1〜A6は、それぞれ独立して、直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−O−または−CO−であり、A1〜A6の少なくとも1つは−CO−である。
式(1)および(2)の両端の線は、隣り合う構造単位との結合を示す。
【0076】
本発明において、スルホン酸基は、プロトンを放出しやすい官能基であり、水素原子がNaまたはKで置換された塩の構造であってもよい。スルホン酸基含有基の例としては、スルホン酸基(−SO3H)、アルキルスルホン酸基(−(CH2nSO3H)(式中、nは1〜10の整数である。)およびこれらの末端水素原子がNaまたはKで置換されたものが挙げられる。前記スルホン酸基含有基としては、−Cn'2n'−SO3Y(n’は0〜10の整数であり、YはH、NaまたはKである)が好ましい。
【0077】
スルホン酸基の他には、カルボン酸基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32)、アルキルカルボン酸基(−(CH2nCOOH)、アルキルホスホン酸基(−(CH2nPO32)、その塩も好ましい性能を示すことがある。
【0078】
前記構造単位(1)の例としては、下式(1−1)または下式(1−2)で表される構造単位が挙げられ、これらの構造においてはA1が−CO−であることが好ましく、
【0079】
【化3】
さらに具体的には下式(1−3)または下式(1−4)で表される構造単位が挙げられる。
【0080】
【化4】
(式中、Zはそれぞれ独立に前記スルホン酸基含有基であり、sはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、tはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、両末端の線は隣り合う構造単位との結合を示す。これら以外の記号の定義は前述したとおりである。)
【0081】
また、構造単位(2)の例としては、下式(2−1)または下式(2−2)で表される構造単位が挙げられ、
【0082】
【化5】
さらに具体的には、下式(2−3)または下式(2−4)で表される構造単位が挙げられる。
【0083】
【化6】
(式中、tはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、両末端の線は隣り合う構造単位との結合を示す。t以外の記号の定義は前述したとおりである。)
【0084】
前記構造単位(1)および前記構造単位(2)の合計量に対する前記構造単位(1)のモル分率は、水透過性の高い半透膜を形成できることから、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり;また、塩阻止率が高く、かつゲル化しない半透膜を形成できることから、前記モル分率は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0085】
前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は、さらに、多官能化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂は、架橋体であってもよく、非架橋体であってもよい。
【0086】
前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の、GPC(Gel Permeation Chromatography)法を用い、以下の条件(1)〜(6)により測定される方法により測定される重量平均分子量(Mw)は、好ましくは70,000以上、より好ましくは80,000以上、さらに好ましくは90,000以上である。分子量が上記範囲にあると、得られる半透膜は機械特性が高く、製膜時や使用時に破れ難い。また、前記重量平均分子量は、ゲル発生率の観点からは180,000以下である。
(1) 測定温度:40℃
(2) 展開溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
(3) 流量:1.0ml/分
(4) 注入量:500μl
(5) 検出器:UV検出器
(6) 分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0087】
より詳細には、前記GPC測定に使用した高速液体クロマトグラフ(HPLC)は、以下の装置を常法により組み合わせて使用する。
HPLC : 島津製作所製RID-10A-LC-10AT型システム
カラムオーブン:島津製作所製 CTO-10A型装置
UV検出器 :日本分光株式会社(JASCO)製 875-UV型装置
ガードカラム :日東電工社製 MD-G型カラム
GPCカラム :日東電工製 KD805M型カラム2本、同KD8025型カラム1本、同802型カラム1本を直列に連結して使用した。
【0088】
前記重量平均分子量は、前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を製造する際に、原料モノマーのモル比や、末端封止剤の量を調整することにより制御することができる。
【0089】
前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂のスルホン酸基当量、すなわちスルホン酸基1モル当たりのスルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の質量は、水やメタノールに溶解せず、膨潤が抑えられた、電解質の膜透過量が小さい半透膜が得られることから、好ましくは200g/mol以上である。また、水の透過流束が大きく経済性の高い半透膜が得られることから、好ましくは5000g/mol以下、より好ましくは1000g/mol以下である。
【0090】
前記実施態様における半透膜は、実質的に前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂のみからなるが、他の成分を本発明の効果を損なわない程度に少量(たとえば、1質量%以下、または0.1質量%以下)含んでいてもよい。
【0091】
前記半透膜の厚さは、通常0.01〜3.0μm、好ましくは0.01〜1.5μmである。前記厚さがこの範囲内にある半透膜を用いた正浸透膜は、十分な膜強度を有し、かつ実用上十分大きな水の透過流束を示す。前記半透膜の厚さは、半透膜の製造条件、例えばプレス成形時の温度や圧力、キャスト時のワニス濃度や塗布厚などにより制御することができる。
【0092】
前記半透膜の引張弾性率は、好ましくは0.8〜2.0GPa、更に好ましくは1.2〜1.6GPaである。前記半透膜の引張破断強度は、好ましくは40MPa以上であり、その上限はたとえば100MPaである。また、前記半透膜の伸び率は、好ましくは40%以上であり、その上限はたとえば200%である。これらの引張弾性率、引張破断強度および伸び率は、下記の条件で測定した場合のものである。
【0093】
<引張弾性率、引張破断強度および伸び率の測定条件>
長さ×幅×厚さ=100mm×10mm×5μmの試験片を作製し、引張試験機を用いて速度50mm/分で引っ張り、試験片が切断(破断)したときの強度(引張荷重値を試験片の断面積で除した値)、および伸び率を求める。
伸び率は次の式によって算出する。
伸び率(%)=100×(L−L0)/L0
(L0:試験前の試験片長さ L:破断時の試験片長さ)
また、引張弾性率は、破断時の加重を試験片の断面積および破断時の歪量、すなわち(L−L0)/L0で除した値とする。
【0094】
前記引張破断強度および前記伸び率は、たとえば、前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の分子量を高めることによって大きくすることができる。
前記半透膜のジメチルスルホキシド(以下「DMSO」ともいう。)および水に対する溶解性は、各々以下の質量減少率によって評価することができる。前記質量減少率は、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0095】
<質量減少率の測定方法>
半透膜を、窒素雰囲気下、150℃で4時間静置して乾燥させた後、秤量する。半透膜を、DMSOまたは水に浸し、25℃で24時間静置する。半透膜を、DMSOまたは水から取り出し、窒素雰囲気下、150℃で4時間静置して乾燥させた後、秤量する。半透膜の浸漬前後の質量に基づき、下記式から質量減少率を算出する。
質量減少率=(半透膜の浸漬前の質量−半透膜の浸漬後の質量)/半透膜の浸漬前の質量×100
【0096】
前記溶解量は、たとえば前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂を架橋することにより小さくでき、したがって前記スルホン酸基当量が小さくても前記溶解量を上記の範囲とすることができる。
【0097】
(半透膜の製造方法)
前記実施態様における半透膜は、前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂から、自立膜として製造することができる。
【0098】
前記半透膜は、前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂をプレス成形や押し出し成形することにより、容易に製造できる。また、前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の膜に、延伸処理などを施してもよい。
【0099】
前記半透膜は、前述のワニスからキャスト法により製造することもできる。すなわち、前記ワニスを支持体上に塗布し、溶剤を揮発除去することにより半透膜を得ることができる。さらに、半透膜を支持体から剥離して自立膜としてもよい。
【0100】
前記半透膜中にキャスト時の有機溶剤などが残存している場合には、前記半透膜は機械強度が低下し破損しやすくなる恐れがある。そのため、キャスト法により製造された前記半透膜には、十分な乾燥、および/または水、硫酸水溶液、塩酸などでの洗浄を施すことが好ましい。
【0101】
なお、前記半透膜の製造に用いる前記スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂において、スルホン酸基の水素原子がNaまたはKで置換されたものである場合に、該スルホン酸基含有芳香族ポリエーテル樹脂の膜を形成し、次いでこの膜を塩酸、硫酸水溶液などと接触させることにより前記スルホン酸基が有するNaまたはKを水素原子に置換してもよい。
【0102】
本発明においては、この様な膜を、前記の方法で変性することを特徴とする。
尚、前記の膜は、不織布などの公知の多孔質基材と例えば積層させるような形態で組み合わせて使用することも出来る。
【0103】
(正浸透膜)
本発明の一例である、本方法で変性された半透膜(以下「変性半透膜」ともいう。)は正浸透膜として使用することが出来る。その構成の一実施態様は、変性半透膜と、その少なくとも一方の面に配置された前記多孔質基材とを備えており、高いろ過機能、塩阻止率を維持しつつ、高い水透過速度性能を実現できる。
【0104】
本発明に係る正浸透膜は、前記変性半透膜の両面に前記多孔質基材を備えていてもよい。この態様であれば、正浸透膜の強度がさらに向上する。
本発明に係る正浸透膜は、前記変性半透膜の両面または片面に前記多孔質基材以外の層を、変性半透膜/多孔質基材以外の層/多孔質基材の順序となるように含んでも良いが、良好な透過流束を得る面から多孔質基材以外の層を含まない方が好ましい。多孔質基材以外の層としてポリアミド層を含んでもよいが、その厚さは100μm以下が好ましい。
【0105】
本発明者らの検討によれば、本方法で変性した膜は、上記のような方法で、正浸透膜として利用すると、水透過速度を高め、塩の阻止率は維持できる傾向があることが見い出された。
【0106】
おそらく本方法で導入した官能基(例:酸化された基)によって水の透過に対する抵抗が下がり、塩は官能基がトラップすることによって逆拡散防止性能は水透過速度がアップしても維持されるという予想外の効果を示したのではないかと推測される。また、当該官能基がスルホン酸基などのプロトン酸基等の各種の置換基の性能を高める働きをした可能性も考えられる。
何れにしても、本発明の変性膜の製造方法により、一例として、水透過速度と塩の逆拡散の阻止性能とのバランスを高められることが判明した。
【0107】
(正浸透膜の用途)
本発明に係る用途の一例として挙げることが出来る正浸透膜エレメントを紹介する。
前記正浸透膜エレメントは、上述した本発明に係る正浸透膜およびスペーサーを備えている。換言すると、本発明に係る正浸透膜エレメントは、正浸透膜およびスペーサーを備える従来の正浸透膜エレメントにおいて、正浸透膜として本発明に係る正浸透膜が使用されたものである。スペーサーとしては、正浸透膜エレメントに使用される従来公知のスペーサーを使用することができる。
【0108】
本発明に係る正浸透膜モジュールは、本発明に係る正浸透膜エレメントを容器に収容してなる。換言すると、本発明に係る正浸透膜モジュールは、正浸透膜エレメントを容器に収容してなる従来の正浸透膜エレメントにおいて、正浸透膜エレメントとして本発明に係る正浸透膜エレメントが使用されたものである。容器としては、正浸透膜モジュールに使用される従来公知の容器を使用することができる。
【0109】
本発明に係るシステムは、本発明に係る正浸透膜モジュール、および前記正浸透膜モジュールが備える本発明に係る正浸透膜の一方の面にフィード溶液(FS)を、もう一方の面に前記フィード溶液よりも塩等の溶質濃度が高いドロー溶液(DS)を流すための駆動ポンプを有し、前記フィード溶液に含まれる水を、前記正浸透膜を通して前記ドロー溶液へ移動させることのできるように構成されている。一実施態様において、本発明に係る正浸透膜を、本発明の変性膜の製造方法により変性された面(例:酸化面)がフィード溶液側を向くように配置することができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
[樹脂合成例]
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び撹拌装置を備えた5つ口反応器に、5,5’−カルボニルビス(2−フルオロベンゼンスルホン酸ナトリウム)64.2g(0.152mol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン49.8g(0.228mol)、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン97.4g(0.380mol)および炭酸カリウム65.7g(0.475mol)を秤取した。これにジメチルスルホキシド845.4gとトルエン281.8gを加え、窒素雰囲気下で撹拌し、130℃で12時間加熱し、生成する水を系外に除去した後、トルエンを留去した。
【0111】
引き続き、160℃で12時間反応を行い、粘稠なポリマー溶液を得た。得られた溶液にトルエン570gを加えて希釈した後、メタノール2400gに排出し、析出したポリマー粉を濾過、洗浄後、150℃で4時間乾燥してポリエーテルケトン粉168.7g(収率86%)を得た。
得られたポリエーテルケトンは、前記構造単位(1)として
【0112】
【化7】
で表される構造を、前記構造単位(2)として
【0113】
【化8】
で表される構造を有している。ここで、前記構造単位(1):前記構造単位(2)=40mol:60molである。
【0114】
[実施例1]
<ポリエーテルケトンシートの作製−1>
前記樹脂合成例によって得たポリエーテルケトン粉をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させてワニスを調製し、このワニスを透明フィルムにキャストし、150℃で10分乾燥して、透明フィルムと、この上に形成された厚さ0.6μmの膜(ポリエーテルケトンシート)とを有する2層シートを得た。
【0115】
<ポリエーテルケトンシートの酸化−1>
直径約11cmの円形シャーレに亜塩素酸ナトリウム(Sigma−Aldrich社製)0.4g、超純水50mLを入れ、亜塩素酸ナトリウムを超純水に溶解させてから35〜37%塩酸水溶液(富士フイルム和光純薬社製)60μLを加えた。(この条件で二酸化塩素ラジカルが発生することを事前にESR法で確認しておいた。) 次いで、この混合液が入ったシャーレを、約21cm×13.5cmの前記2層シートのポリエーテルケトンシート側を下にして蓋をし、前記2層シートで蓋をしたシャーレの上からパイフォトニクス(株)製ホロライト・カク DC12Vで波長365nmの光を5分間、14mW/cm2で照射した。概要を図1に示す。その後、シート表面全体に洗瓶で一通り超純水をかけて洗浄、次いでシートを減圧乾燥し、酸化ポリエーテルケトンシート1を得た。
【0116】
[比較例1]
比較例として、前記酸化処理を施していない2層シートを別途準備し、比較例1とした。
【0117】
[ポリエーテルケトンシートの水接触角評価]
自動接触角計CA−V型(協和界面科学社製)を使用して、実施例1と比較例1の2層シートのポリエーテルケトンシート(実施例1:酸化ポリエーテルケトンシート、比較例1:酸化処理を施していないポリエーテルケトンシート)側の水接触角を約1.0μLの水滴量で測定した。
【0118】
【表1】
【0119】
[ポリエーテルケトンシートの表面摩擦力評価]
親水化処理を施したSi34カンチレバー(両面Auコート、オリンパス社製)を適応した環境制御型プローブ顕微鏡E−sweep(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用して、大気中、水平力モードで除電操作後の各ポリエーテルケトンシート表面の摩擦力を測定した。なお、標記した摩擦力は、常法により測定時の荷重の影響を排除して求めた、補正した摩擦力(V)を用いた。
【0120】
【表2】
【0121】
[実施例2]
<ポリエーテルケトンシートの作製−2>
前記樹脂合成例によって得たポリエーテルケトン粉をDMFに溶解させてワニスを調製し、このワニスを離形シートにキャストし、150℃で10分乾燥して、離形シート上に厚さ0.6μmの膜を形成した。この膜を離形シートから剥離して、ポリエーテルケトンシートを得た。
【0122】
<ポリエーテルケトンシートの酸化−2>
ポリ容器に亜塩素酸ナトリウム(Sigma−Aldrich社製)10g、超純水100mLを入れ、亜塩素酸ナトリウムを超純水に溶解させてから35〜37%塩酸水溶液(富士フイルム和光純薬社製)1mLを加えた混合液を作成した。この条件で、二酸化塩素ラジカルが存在することは別途ESR法で確認した。
【0123】
この混合液を約22cm×16cm×1.5cmの浅型バットに入れた。次いで、約14.5cm×9.5cmの長方形型の穴が開いた枠に厚さ約0.6μmの<ポリエーテルケトンシートの作製−2>で作製したポリエーテルケトンシートを張り、この台紙枠を浅型バットの上に載せた。この台紙枠上部からパイフォトニクス(株)製ホロライト・カク DC12Vで波長365nmの光を30秒間、10mW/cm2で照射した。概要を図2に示す。その後、光照射を終了し、そのままの状態で30秒間待機した。30秒の待機後、台紙からシートを剥がし、酸化ポリエーテルケトンシート2を得た。
【0124】
[比較例2]
比較例として、<ポリエーテルケトンシートの作製−2>で得た、前記酸化処理を施していない厚さ約0.6μmのポリエーテルケトンシートを別途準備し、比較例2とした。
【0125】
[ポリエーテルケトンシートの正浸透膜評価]
JIS L 1096記載のA法(フラジール形法)で測定される通気度が300cm3/cm2/s、厚さが290μm、材質がポリプロピレンである不織布(シンテックス(登録商標)PS−105、三井化学社製)を2枚準備し、これらの不織布で実施例2に示す酸化ポリエーテルケトンシート2、比較例2に示すポリエーテルケトンシートを挟み、これらを一体化させて、それぞれ酸化正浸透膜、未処理正浸透膜を得た。
【0126】
次に正浸透膜の分離性能の評価に用いた装置10の概略図を図3に示す。
装置10は、フィード溶液タンク1、流路2、ポンプ3、ドロー溶液タンク11、流路12、ポンプ13および評価用セル21を備えている。フィード溶液タンク1は天秤4上に設置され、ドロー溶液タンク11は電気伝導度計15を備えている。評価開始時において、フィード溶液タンク1には、フィード溶液FS(Feed Solution)として、50μS/cm以下の電気伝導度を持つMilli−Q水が500g蓄えられ、ドロー溶液タンク11には、ドロー溶液DS(Draw Solution)として、所定の濃度のNaCl水溶液が800g蓄えられている。フィード溶液タンク1中のフィード溶液は、ポンプ3の使用により0.6L/分の速度で流路2を流れ、ドロー溶液タンク11中のドロー溶液は、ポンプ13の使用により0.6L/分の速度で流路12を流れる。流路2を流れるフィード溶液と流路12を流れるドロー溶液とは、評価用セル21の内部で有効膜面積0.0042m2の正浸透膜22を介して接触しており、正浸透膜22を介してフィード溶液の一部はドロー溶液へと移動し、ドロー溶液中の塩(NaCl)の一部はフィード溶液へと移動(逆流)する。なお、酸化正浸透膜の場合は、酸化ポリエーテルケトンシートの酸化面がフィード溶液側を向くように酸化正浸透膜を配置した。
【0127】
[水透過流束測定]
天秤4により1分毎にフィード溶液の重量減少量を測定し、単位時間、正浸透膜の単位面積当たりの重量減少量を水透過流束(L/(m2・h))とした。循環開始後30〜60分間の平均値を算出した。
【0128】
[塩阻止率]
電気伝導度計15により1分毎にドロー溶液の電気伝導度の変化を測定し、これをドロー溶液のモル濃度の変化に換算し、単位時間、正浸透膜の単位面積当たりの質量濃度の変化を塩阻止率(g/(m2・h))とした。循環開始後30〜60分間の平均値として算出した。
【0129】
【表3】
【符号の説明】
【0130】
1 フィード溶液タンク
2、12 流路
3、13 ポンプ
4、14 天秤
10 評価装置
11 ドロー溶液タンク
15 電気伝導度計
21 評価用セル
22 正浸透膜
DS ドロー溶液
FS フィード溶液
図1
図2
図3