【解決手段】成膜装置では、基板搬送機構が真空容器内で基板を搬送することできる。ロータリターゲットは、基板に対向し、基板搬送方向に対して交差する回転軸を有し、回転軸に沿って延びる第1ロータリターゲット部と、第1ロータリターゲット部の両端に接続され、回転軸を中心に第1ロータリターゲット部とともに回転する一対の第2ロータリターゲット部とを有する。一対の第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率は、第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも低い。磁気回路部は、ロータリターゲットの内側に配置された、第1磁気ユニット及び第2磁気ユニットを有する。第1磁気ユニットは、回転軸に沿って延在しロータリターゲットの背面に向かって第1極が臨む。第2磁気ユニットは、第1磁気ユニットを囲み背面に向かって第1極とは反対の第2極が臨む。
基板に対向し、前記基板が搬送される方向に対して交差する回転軸を有し、前記回転軸に沿って延びる第1ロータリターゲット部と、前記第1ロータリターゲット部の両端に接続され、前記回転軸を中心に前記第1ロータリターゲット部とともに回転する一対の第2ロータリターゲット部とを有し、前記一対の第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率が前記第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも低いロータリターゲットと、
前記ロータリターゲットの内側に配置された、第1磁気ユニット及び第2磁気ユニットを有し、前記第1磁気ユニットは、前記回転軸に沿って延在し前記ロータリターゲットの背面に向かって第1極が臨み、前記第2磁気ユニットは、前記第1磁気ユニットを囲み前記背面に向かって前記第1極とは反対の第2極が臨む磁気回路部と
を具備するスパッタリングターゲット機構。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エロージョンがターゲットに局部的に形成されると、エロージョン以外のターゲット部分が充分な肉厚を有していても、このエロージョンが起因してターゲット交換を余儀なくされることがある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、エロージョン発生を抑え、使用効率を向上させたスパッタリングターゲット機構と、このスパッタリングターゲット機構を備えた成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、真空容器と、基板搬送機構と、ロータリターゲットと、磁気回路部とを具備する。
上記真空容器は、減圧状態を維持する。
上記基板搬送機構は、上記真空容器内で基板を搬送する。
上記ロータリターゲットは、上記基板に対向し、上記基板が搬送される方向に対して交差する回転軸を有する。上記ロータリターゲットは、上記回転軸に沿って延びる第1ロータリターゲット部と、上記第1ロータリターゲット部の両端に接続され、上記回転軸を中心に上記第1ロータリターゲット部とともに回転する一対の第2ロータリターゲット部とを有する。上記一対の第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率は、上記第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも低い。
上記磁気回路部は、上記ロータリターゲットの内側に配置された、第1磁気ユニット及び第2磁気ユニットを有する。上記第1磁気ユニットは、上記回転軸に沿って延在し上記ロータリターゲットの背面に向かって第1極が臨み、上記第2磁気ユニットは、上記第1磁気ユニットを囲み上記背面に向かって上記第1極とは反対の第2極が臨む。
【0009】
このような成膜装置によれば、ロータリターゲットにおいて第1ロータリターゲット部の両端に、第1ロータリターゲット部よりもスパッタリング収率が低い第2ロータリターゲット部が配置されているので、第2ロータリターゲット部が第1ロータリターゲット部よりもプラズマに長く晒されても、第1ロータリターゲット部の彫れ率と、第2ロータリターゲット部の彫れ率とが近似する。これにより、ロータリターゲット全体としての使用効率が向上し、ロータリターゲットを効率よく使用することができる。
【0010】
上記の成膜装置においては、上記第1磁気ユニットの両端と上記両端が対向する上記第2磁気ユニットとの間の隙間部が上記第2ロータリターゲット部に重なってもよい。
【0011】
このような成膜装置によれば、第1磁気ユニットの両端と両端が対向する第2磁気ユニットとの間の隙間部がスパッタリング収率の低い第2ロータリターゲット部と重なる。これにより、該隙間部によるマグネトロン効果によって形成された高密度プラズマが第1ロータリターゲット部よりも第2ロータリターゲット部に長く晒されても、第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも、第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率のほうが低いので、ロータリターゲット全体としての使用効率が向上する。
【0012】
上記の成膜装置においては、上記一対の第2ロータリターゲット部の抵抗率が上記第1ロータリターゲット部の抵抗率よりも高くてもよい。
【0013】
このような成膜装置によれば、一対の第2ロータリターゲット部の抵抗率が第1ロータリターゲット部の抵抗率よりも高いので、第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも、第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率のほうが低くなる。これにより、第1ロータリターゲット部の彫れ率と、第2ロータリターゲット部の彫れ率とが近似し、ロータリターゲット全体としての使用効率が向上する。
【0014】
上記の成膜装置においては、上記回転軸方向において、上記第1ロータリターゲット部の長さが上記一対の第2ロータリターゲット部のいずれかの長さよりも長くてもよい。
【0015】
このような成膜装置によれば、第1ロータリターゲット部の長さが一対の第2ロータリターゲット部のいずれかの長さよりも長いので、ロータリターゲットにおいて、第2ロータリターゲット部よりも第1ロータリターゲット部を効率よく使用することができる。
【0016】
上記の成膜装置においては、上記第1ロータリターゲット部の上記長さが上記基板の幅よりも長くてもよい。
【0017】
このような成膜装置によれば、第1ロータリターゲット部の長さが基板の幅よりも長いので、第2ロータリターゲット部の成分が基板に形成される膜に入りにくくなる。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るスパッタリングターゲット機構は、ロータリターゲットと、磁気回路部とを具備する。
上記ロータリターゲットは、基板に対向し、上記基板が搬送される方向に対して交差する回転軸を有する。上記ロータリターゲットは、上記回転軸に沿って延びる第1ロータリターゲット部と、上記第1ロータリターゲット部の両端に接続され、上記回転軸を中心に上記第1ロータリターゲット部とともに回転する一対の第2ロータリターゲット部とを有する。上記一対の第2ロータリターゲット部のスパッタリング収率は、上記第1ロータリターゲット部のスパッタリング収率よりも低い。
上記磁気回路部は、上記ロータリターゲットの内側に配置された、第1磁気ユニット及び第2磁気ユニットを有する。上記第1磁気ユニットは、上記回転軸に沿って延在し上記ロータリターゲットの背面に向かって第1極が臨み、上記第2磁気ユニットは、上記第1磁気ユニットを囲み上記背面に向かって上記第1極とは反対の第2極が臨む。
【0019】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、ロータリターゲットにおいて第1ロータリターゲット部の両端に、第1ロータリターゲット部よりもスパッタリング収率が低い第2ロータリターゲット部が配置されているので、第2ロータリターゲット部が第1ロータリターゲット部よりもプラズマに長く晒されても、第1ロータリターゲット部の彫れ率と、第2ロータリターゲット部の彫れ率とが近似する。これにより、ロータリターゲット全体としての使用効率が向上し、ロータリターゲットを効率よく使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、エロージョン発生を抑え、使用効率を向上させたスパッタリングターゲット機構と、このスパッタリングターゲット機構を備えた成膜装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0023】
図1は、本実施形態の成膜装置の概略的断面図である。
【0024】
図1に示す成膜装置101は、真空容器10と、基板搬送機構20と、スパッタリングターゲット機構31と、電源35Pと、ガス供給源70とを具備する。本実施形態では、"スパッタリングターゲット"を単に"ターゲット"と呼び、"スパッタリングターゲット機構"を単に"ターゲット機構"と呼ぶ場合がある。また、スパッタリングターゲット機構31と、電源35Pとを含めて成膜源30とする。
【0025】
真空容器10は、真空室11、12、13を有する。
図1では、真空室12、13のそれぞれの一部が示されている。また、真空室の数は、3つとは限らず、2個以下、あるいは、4個以上でもよい。
【0026】
真空室11、真空室12、及び真空室13のそれぞれは、減圧状態を維持することができる真空容器である。例えば、真空室11内のガスは、排気口10dを通じてターボ分子ポンプ等の排気機構によって外部に排気される。真空室12及び真空室13のそれぞれについても、排気機構によって減圧状態が維持される。
【0027】
図1の例では、成膜装置101が連続式(例えば、インライン式)の構成をしている。例えば、真空室12は、真空室11に減圧状態で連結可能になり、真空室13は、真空室11に減圧状態で連結可能になっている。また、側壁10waには、バルブ15が設けられ、側壁10wbには、バルブ16が設けられている。
【0028】
例えば、バルブ15が開状態になると、真空室12と真空室11との間に開口が形成され、バルブ15が閉状態になると、真空室12と真空室11との間の開口が閉じられる。バルブ16が開状態になると、真空室11と真空室13との間に開口が形成され、バルブ16が閉状態になると、真空室11と真空室13との間の開口が閉じられる。
【0029】
真空室11、12、13の中、真空室11は、成膜可能な処理室として機能する。例えば、バルブ15が開状態となり、基板21及び基板21を支持するキャリア(基板ホルダ)22が真空室12から開口を介して真空室11に搬入される。バルブ15が閉状態となると、真空室11で基板21にスパッタリング成膜がなされる。スパッタリング成膜が終了すると、バルブ16が開状態になり、基板21及びキャリア22が真空室11から開口を介して真空室13に搬出される。
【0030】
基板21は、例えば、平面形状が矩形の大型ガラス基板である。基板21が成膜源30に対向する面は、成膜面21dである。
【0031】
基板搬送機構20は、真空容器10内で基板21を搬送する。基板搬送機構20は、ローラ回転機構20r及びフレーム部20fを有する。ローラ回転機構20rは、フレーム部20fによって支持されている。ローラ回転機構20r上に、基板21及びキャリア22が載置されると、ローラ回転機構20rが自転することにより、基板21及びキャリア22がバルブ15からバルブ16に向けてスライド移送される。これにより、基板21が真空室11内に搬入されたり、真空室11外に搬出されたりする。真空室11における基板21の搬入出は、例えば、自動的に行われる。
【0032】
成膜装置101で成膜処理がなされる基板の枚数は、一枚とは限らない。例えば、成膜装置101に仕込まれた複数の基板21が真空室11で定期的に一枚ずつ成膜処理がなされる。この際、バルブ15、16は、定期的に開閉する。
【0033】
成膜源30は、例えば、2つの成膜源30を有する。2つの成膜源30は、基板21が搬送される方向Tに並ぶ。2つの成膜源30のそれぞれは、スパッタリングターゲット機構31及び電源35Pを有する。
【0034】
ターゲット機構31は、ロータリターゲット32、バッキングチューブ33、及び磁気回路部34を有する。2つのロータリターゲット32は、搬送方向Tに並び、それぞれのスパッタリング面が基板21に対向している。ここで「対向」とは、直接的に何らかの部材に向かい合う意味でもよく、あるいは他の部材を介して何らかの部材に向かい合う意味で用いられる。
【0035】
ロータリターゲット32は、バッキングチューブ33に支持される。ロータリターゲット32及びバッキングチューブ33のそれぞれは、筒状部材である。ロータリターゲット32及びバッキングチューブ33のそれぞれは、搬送方向Tに交差する方向(例えば、X軸方向)に延在する。バッキングチューブ33の内部には、冷却媒体が流れる流路が設けられてもよい(不図示)。
【0036】
また、ロータリターゲット32は、基板21の下側に位置し、基板21に対向している。ロータリターゲット32は、搬送方向Tに対して交差する方向(例えば、X軸方向)に沿った回転軸32cを有する。この回転軸32cを中心に、ロータリターゲット32が回転する。また、回転軸32cは、ロータリターゲット32の中心軸でもある。
【0037】
ロータリターゲット32は、異なる成分によって区画されたロータリターゲットになっている(後述)。搬送方向Tに並ぶ2つのロータリターゲット32の材料は、同じでもよく、異なってもよい。例えば、ロータリターゲット32は、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化ニオブ含有酸化スズ(SnO
2−Nb
3O
5)、金属等を含む。
【0038】
磁気回路部34は、基板21とは反対側のロータリターゲット32の裏面側に配置されている。すなわち、磁気回路部34は、ロータリターゲット32の内側に配置される。ロータリターゲット32の表面に磁力線が漏洩することにより、ロータリターゲット32の表面における磁束密度がロータリターゲット32と基板21との間で高くなる。これにより、ロータリターゲット32の表面近傍におけるプラズマ密度が高くなる。
【0039】
成膜装置101では、真空容器10内に放電用ガスが導入され、ロータリターゲット32に電源35Pから電圧が印加されると、ロータリターゲット32とアース部(真空容器10、基板搬送機構20、キャリア22及び防着板10p等)との間で放電用ガスが電離し、ロータリターゲット32とアース部との間にプラズマが発生する。
【0040】
ロータリターゲット32に供給される電圧は、直流電圧または交流電圧である。交流電圧の場合、その周波数は、10kHz以上300MHz以下(例えば、13.56MHz)である。
【0041】
ロータリターゲット32からスパッタリングされたスパッタリング粒子S1は、基板21の成膜面21dに到達する。これにより、成膜面21dにスパッタリング粒子S1が堆積して、膜が形成される。また、磁気回路部34は、ロータリターゲット32の背面に向かう向きを変えることができる。これに応じて、ロータリターゲット32表面に形成されるプラズマの位置が変わり、基板21に向かうスパッタリング粒子S1の向きを変えることができる。
【0042】
ガス供給源70は、流量調整器71及びガスノズル72を有する。流量調整器71及びガスノズル72のそれぞれの数は、図示された数に限らない。なお、基板搬送機構20と成膜源30との間には、防着板10pが設けられている。
【0043】
次に、ターゲット機構31について説明する。
【0044】
図2(a)、(b)は、ロータリターゲットを含むターゲット機構の概略的上面図である。
【0045】
図2(a)に示すように、ターゲット機構31は、ロータリターゲット32と、バッキングチューブ33と、磁気回路部34とを有する。
【0046】
ロータリターゲット32は、ターゲット部321(第1ロータリターゲット部)と、一対のターゲット部322a、322b(第2ロータリターゲット部)とを有する。ターゲット部321は、回転軸32cに沿って延び、回転軸32cを中心に回転する。一対のターゲット部322a、322bは、X軸方向において、ターゲット部321の両端に接続されている。一対のターゲット部322a、322bは、回転軸32cを中心にターゲット部321とともに回転する。すなわち、ターゲット部321と、一対のターゲット部322a、322bとは、同じ回転軸32cを有する。ここで、X軸方向は、基板21に平行であり、搬送方向Tに対して交差する方向(例えば、直交する方向)に対応する。
【0047】
ロータリターゲット32において、ターゲット部322a、322bのスパッタリング収率は、ターゲット部321のスパッタリング収率よりも低く構成されている。例えば、ターゲット部322a、322bの抵抗率は、ターゲット部321の抵抗率よりも高い。また、ターゲット部321の厚みと、ターゲット部322a、322bの厚みとは、同じ厚みに設定される。
【0048】
バッキングチューブ33は、ロータリターゲット32の内側からロータリターゲット32を支持する。バッキングチューブ33のサイズは、ロータリターゲット32のサイズに応じて適宜設定される。例えば、バッキングチューブ33の長さは、ロータリターゲット32の長さと同じになるように設定される。バッキングチューブ33の中心軸は、ロータリターゲット32の回転軸32cに重複する。
【0049】
磁気回路部34は、ロータリターゲット32の内側に配置される。磁気回路部34は、磁気ユニット341(第1磁気ユニット)と、磁気ユニット342(第2磁気ユニット)とを有する。
【0050】
磁気ユニット341は、ロータリターゲット32内で回転軸32cに沿って延在する。磁気ユニット341においては、ロータリターゲット32の背面に向かってS極(第1極)が臨んでいる。磁気ユニット341では、例えば、複数のブロック状磁石(不図示)が回転軸32cに沿って並んでいる。
【0051】
磁気ユニット342は、ロータリターゲット32内において磁気ユニット341を囲む。磁気ユニット342においては、ロータリターゲット32の背面に向かってS極とは反対のN極(第2極)が臨んでいる。磁気ユニット342では、例えば、複数のブロック状磁石(不図示)が磁気ユニット341を囲むように並んでいる。
【0052】
Z軸方向とY軸方向とで形成される面内においては、磁気ユニット341の両端部341eと、一対のターゲット部322a、322bとが重なっている。すなわち、ターゲット機構31は、磁気ユニット341の両端部341eと、基板21との間に、一対のターゲット部322a、322bが位置するように構成されている。例えば、ターゲット面を上面視した場合、磁気ユニット341の両端部341eと両端部341eが対向する磁気ユニット342との間の隙間部34sは、ターゲット部322a、322bと重なる。
【0053】
図2(b)には、磁気回路部34によってプラズマが拘束されて形成される高密度プラズマ領域345がグレー色で示されている。高密度プラズマ領域345は、X軸方向に2つの領域が延びたストレート領域345sと、ストレート領域345sの端をU字状に折り返すコーナ領域345cとにより構成される。このような高密度プラズマ領域345は、ロータリターゲット32の表面に形成される。
【0054】
基板21を搬送しながら基板21の成膜面21dに均一な厚みの膜を形成するには、基板21の幅方向を長手方向とし、搬送方向Tを短手方向とするロータリターゲット32を使用することが望ましい。ここで、基板21及びターゲット32のそれぞれの中心は、一致している。また、ロータリターゲット表面でのプラズマの拘束力を高めるためには、
図2(a)に示すように、S極を中央磁場としてロータリターゲット32の長手方向に沿って配置し、N極を外周磁場としてS極の周りに配置することが望ましい。これにより、環状の磁場トンネルがロータリターゲット表面に形成されて、プラズマ中の電子がループ磁場に拘束される。
【0055】
また、ターゲット機構31では、回転軸32cの方向において、ターゲット部321及びターゲット部322a、322bのX軸方向における長さが基板21のX軸方向における幅W
21に応じて適宜設定される。例えば、ターゲット部321の長さL
321は、ターゲット部322a、322bのいずれかの長さL
322よりも長い。また、ターゲット部321の長さL
321は、基板21の幅W
21よりも長い。
【0056】
成膜装置101では、基板21に形成される膜がターゲット部321の材料のみを含むようにターゲット部321の長さL
321と、基板21の幅W
21とが調整されている。
【0057】
図3は、第1ターゲット部と第2ターゲット部との境界付近に基板を設置した場合の基板に形成される膜中に含まれる成分比を示す概略図である。
【0058】
図3には、ターゲット部321とターゲット部322aとの境界B付近にサンプル基板Dを設置した場合のサンプル基板Dに形成される膜の成分比(シミュレーション比率)が示されている。ここで、ターゲット部321は、組成Aからなり、ターゲット部322aは、組成Bからなる。また、サンプル基板Dにおける境界Bに対応する位置を位置B'とする。ターゲット32がX軸方向において線対称であるときは、ターゲット部321とターゲット部322bとの境界付近でも、
図3と同様な結果を示す。
【0059】
図3に示すように、ターゲット部321の組成(黒の四角)の比率(%)は、位置B'に向かうほど減少している。また、ターゲット部322aの成分(黒の三角)の比率(%)は、位置B'に向かうほど減少している。また、サンプル基板Dには、均一な厚み(黒の菱形)の膜が形成されている。
【0060】
但し、位置B'付近では、ターゲット部321及びターゲット部322aのそれぞれの成分が混在した膜がサンプル基板Dに形成される。これは、スパッタリング粒子S1がサンプル基板Dに鉛直に入射する粒子のほか、サンプル基板Dに対して斜め方向に入射する粒子を持つためである。
【0061】
ターゲット部321の純粋な組成からなる膜は、位置B'からターゲット部322aとは反対側に200mm以上離れた位置から形成される。従って、本実施形態では、基板21にターゲット部321の成分からなる膜が形成されるように、
図2に示すターゲット部321の長さL
321から基板21の幅W
21を差し引いた距離を400mm(200mm×2)以上に設定している。
【0062】
図2(a)、(b)に示すロータリターゲット32を回転することで、使用済みのロータリターゲット32に発生するエロージョンが局部的にロータリターゲット32に形成されにくく、ロータリターゲット32が全体的に彫り下げられていくことになる。但し、コーナ領域345cにおいては、高密度プラズマ領域345がU字状になって折り返すため、ターゲット部322a、322bのそれぞれの中心部においては、ターゲット部321よりもプラズマに晒される頻度が増える。
【0063】
仮に、ターゲット32がターゲット部321のみからなる場合に起こり得る現象を説明する。この場合、ターゲット部321の成分は、回転軸32cの方向において同じ成分となる。
【0064】
図4(a)、(b)は、ターゲットが第1ターゲット部のみからなるターゲット機構の概略的上面図である。
図4(c)は、使用前後におけるターゲットの彫れの様子を示す概略側面図である。
【0065】
図4(a)に示すように、ターゲット325は、ターゲット部321のみからなり、ターゲット325では、同じ成分の材料で構成されている。磁気回路部34の構成は、
図2(a)に示す構成と同じである。また、
図4(b)には、磁気回路部34によってプラズマが拘束されて形成される高密度プラズマ領域345がグレー色で示されている。
【0066】
ターゲット325が回転することで、高密度プラズマ領域345がターゲット325の局所部分に晒されることが回避され、ターゲット325におけるエロージョン形成が緩和される。しかし、ターゲット325では、以下に示す現象が起こり得る。
【0067】
例えば、ターゲット325を高密度プラズマ領域345のストレート領域345s下を回転するストレート部325sと、高密度プラズマ領域345のコーナ領域345c下を回転するコーナ部325cとに分けてみる。
【0068】
ターゲット325のストレート部325sでは、高密度プラズマ領域345のストレート領域345sの下で、ターゲット表面が回転軸32cを中心に回転する。このため、ストレート部325sの全域がストレート領域345sに満遍なく晒される。これにより、
図4(c)に示すように、ストレート部325sにおけるターゲットの彫れ率(%)は、略均一になる。
【0069】
ここで、「ターゲットの彫れ率」とは、任意の位置におけるターゲットの使用開始前の厚みをt
0とし、使用後、その位置におけるターゲットの厚みをt
1とした場合、(1−(t
0−t
1)/t
0)×100(%)で定義される。
【0070】
一方、ターゲット325のコーナ部325cにおいては、U字状の高密度プラズマ領域345のコーナ領域345cの下で、ターゲット表面が回転軸32cを中心に回転する。ここで、U字状のコーナ領域345cには、搬送方向Tと同じ方向に延びる領域345eが含まれている。このため、コーナ部325cの中心付近は、回転中に領域345eに接することになり、コーナ部325cの中心付近の彫れ率がストレート部325sの彫れ率に比べて相対的に大きくなってしまう。
【0071】
そして、コーナ部325cに形成されるエロージョンが進行すると、コーナ部325cではターゲット下地のバッキングチューブ33が露出する場合がある。このような場合、ストレート部325sがスパッタリング成膜を継続できるほどの充分な厚みを有していても、コーナ部325cに形成されたエロージョンが起因してターゲット325全体の交換を余儀なくされる。
【0072】
これに対して、
図2(a)、(b)に示す本実施形態のターゲット32では、ターゲット部321の両側に、ターゲット部321よりもスパッタリング収率が低いターゲット部322a、322bが配置されている。
【0073】
ターゲット部321においては、高密度プラズマ領域345のストレート領域345sの下で、ターゲット表面が回転軸32cを中心に回転する。このため、ターゲット部321の全域が高密度プラズマ領域345のストレート領域345sに満遍なく晒される。これにより、ターゲット部321におけるターゲットの彫れ率(%)は、略均一になる。
【0074】
一方、ターゲット部322a、322bにおいては、U字状の高密度プラズマ領域345のコーナ領域345cの下で、ターゲット表面が回転軸32cを中心に回転する。これにより、ターゲット部322a、322bの中心付近は、回転中に領域345eに接することになる。
【0075】
しかし、ターゲット部322a、322bのスパッタリング収率は、ターゲット部321のスパッタリング収率よりも低い。このため、ターゲット部322a、322bの中心付近の彫れの程度は、ターゲット325におけるコーナ部325cの中心付近の彫れに比べて緩和される。すなわち、ターゲット部322a、322bにおけるターゲットの彫れ率(%)は、ターゲット部321におけるターゲットの彫れ率(%)に近似する。換言すれば、ターゲット機構31では、磁気回路部34を含んでいても、ターゲット32全体におけるスパッタリング収率がターゲット325に比べてより均一になっている。
【0076】
ここで、ターゲットの抵抗値が変化したときに、スパッタリング収率がどのように変化するかを説明する。
【0077】
図5(a)は、第1ターゲット部の抵抗値と第2ターゲット部の抵抗値とに差があるときの成膜速度の差を示すグラフ図である。
図5(b)は、第1ターゲット部の抵抗値と第2ターゲット部の抵抗値とに差があるときの成膜速度比を示すグラフ図である。
【0078】
図5(a)では、組成A(ターゲット部321)の抵抗を5.1×10
2Ωとし、組成B(ターゲット部322a)の抵抗を1.8×10
3Ωとしている。また、組成A、Bは、酸化ニオブ含有酸化スズからなる。
【0079】
図5(a)に示すように、抵抗値が低い組成Bの成膜速度は、抵抗値が高い組成Aの成膜速度に比べて低くなっていることが分かる。これは、ターゲットの抵抗値が高くなることにより、ターゲットがプラズマから受けるイオン照射の量が少なくなり、スパッタリング収率が減少する、と考えられる。
【0080】
また、
図5(b)に示すように、組成A(ターゲット部321)の成膜速度と、組成B(ターゲット部322a)の成膜速度の比は、投入パワーが4kW〜8kWの範囲では、投入パワーに依存せず、略一定になることが分かっている。
【0081】
また、
図6は、第2ターゲット部の抵抗値に対する第1ターゲット部の抵抗値の比が変化したときの成膜速度比の変化を示すグラフ図である。
【0082】
図6に示すように、組成B(ターゲット部322a)の抵抗値に対する組成A(ターゲット部321)の抵抗値の比を変化に応じて、組成A(ターゲット部321)の成膜速度に対する組成B(ターゲット部322a)の成膜速度の比が変化することが分かっている。
【0083】
すなわち、
図5(a)〜
図6の結果から、ターゲット部321及びターゲット部322a、322bのそれぞれの抵抗値を調整することで、それぞれのスパッタリング収率を調整できることが分かった。
【0084】
このように、ターゲット機構31を用いれば、ターゲット部322a、322bに形成されるエロージョンの進行が抑制されて、ターゲット32をスパッタリング成膜工程でターゲット325よりも長く使用することができる。
【0085】
以上、説明したように、本実施形態では、ターゲット32においてターゲット部321の両端に、ターゲット部321よりもスパッタリング収率が低いターゲット部322a、322bが配置されている。これにより、ターゲット部322a、322bがターゲット部321よりもプラズマに長く晒されても、ターゲット部321の彫れ率と、ターゲット部322a、322bの彫れ率とが近似する。これにより、ターゲット32全体としての使用効率が大きく向上する。
【0086】
例えば、本実施形態では、磁気ユニット341の両端部341eと、両端部341eが対向する磁気ユニット342との間の隙間部34sがスパッタリング収率の低いターゲット部322a、322bと重なる。これにより、隙間部34sによるマグネトロン効果によって形成された高密度プラズマがターゲット部321よりもターゲット部322a、322bに長く晒されても、ターゲット部321のスパッタリング収率よりも、ターゲット部322a、322bのスパッタリング収率のほうが低いので、ターゲット32全体としての使用効率が向上する。
【0087】
例えば、本実施形態では、一対のターゲット部322a、322bの抵抗率がターゲット部321の抵抗率よりも高いので、ターゲット部321のスパッタリング収率よりも、ターゲット部322a、322bのスパッタリング収率のほうが低くなる。これにより、ターゲット部321の彫れ率と、ターゲット部322a、322bの彫れ率とが近似し、ターゲット32全体としての使用効率が向上する。
【0088】
例えば、本実施形態では、ターゲット部321の長さが一対のターゲット部322a、322bのいずれかの長さよりも長いので、ターゲット32として、ターゲット部322a、322bよりもターゲット部321を効率よく使用することができる。
【0089】
例えば、ターゲット32のX軸方向における長さが長くなるほど、ターゲット32全体としての使用効率が向上する。換言すれば、基板21の大型化が進行し、ターゲット32のX軸方向における長さの大型化が求められたとき、ターゲット32全体としての使用効率が向上する。
【0090】
例えば、本実施形態では、ターゲット部321の長さL
321が基板の幅W
21よりも長いので、ターゲット部321の両端に設けられたターゲット部322a、322bの成分が基板21に形成される膜に入りにくくなる。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。