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特開2019-218619エルビウムドープビスマス酸化物膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218619(P2019-218619A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】エルビウムドープビスマス酸化物膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20191129BHJP
【FI】
   C23C14/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-118209(P2018-118209)
(22)【出願日】2018年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 方省
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA43
4K029BC08
4K029CA06
4K029DC16
4K029EA08
(57)【要約】
【課題】光増幅器への適用を目的として、ビスマス酸化物(Bi)を母材材料として母材材料にエルビウム(Er)を添加した膜であるエルビウムドープビスマス酸化物膜を提供する。
【解決手段】エルビウムドープビスマス酸化物膜におけるビスマス原子数に対するエルビウム原子数の割合を百分率で示すエルビウム原子濃度が、2at.%以下であって、レーザ光を入射した場合に、エルビウムからの発光を放射する、エルビウムドープビスマス酸化物膜を提供する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス酸化物(Bi)を母材材料として前記母材材料にエルビウム(Er)を添加した膜であるエルビウムドープビスマス酸化物膜であって、
前記エルビウムドープビスマス酸化物膜におけるビスマス原子数に対するエルビウム原子数の割合を百分率で示すエルビウム原子濃度が、2at.%以下であって、
レーザ光を入射した場合に、前記エルビウムからの発光を放射する、
前記エルビウムドープビスマス酸化物膜。
【請求項2】
前記エルビウムからの発光の強度は、
前記レーザ光の波長が532nmであって、前記エルビウム原子濃度が2at.%の場合に、前記エルビウム原子濃度に対して極大の値となる、
請求項1に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜。
【請求項3】
前記エルビウムドープビスマス酸化物膜の屈折率が、
前記エルビウム原子濃度が0at.%の場合には、2.18以上の値であって、
前記エルビウム原子濃度が2at.%以下の場合には、1.80を超える値である、
請求項1または2に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜。
【請求項4】
前記エルビウムドープビスマス酸化物膜の光透過率が、
前記エルビウム原子濃度が0at.%の場合に、
波長500nmの光に対して、70%以上であって、
波長1000nm乃至2000nmの光に対して、80%以上である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜。
【請求項5】
ビスマス酸化物(Bi)を母材材料として前記母材材料にエルビウム(Er)を添加した膜であるエルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法であって、
前記ビスマス酸化物からなる第1のスパッタリングターゲットと、エルビウム酸化物(Er)からなり、前記第1のスパッタリングターゲットと独立して配置している第2のスパッタリングターゲットとを用いて、
酸素ガスを所定流量流入し、基板を所定温度に設定して、
前記第1のスパッタリングターゲットと前記第2のスパッタリングターゲットとを、それぞれ同時にスパッタし、前記基板上へ前記第1のスパッタリングターゲットの一部と前記第2のスパッタリングターゲットの一部とを堆積させて、所定範囲のエルビウム原子濃度を有する前記エルビウムドープビスマス酸化物膜を得る、製造方法であって、
前記エルビウム原子濃度は、前記エルビウムドープビスマス酸化物膜におけるビスマス原子数に対するエルビウム原子数の割合を百分率で示す値である、
前記エルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板の前記所定温度は、70℃以上450℃以下であって、
前記酸素ガスの前記所定流量は、5sccm以上7sccm以下である、
請求項5に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記所定範囲の前記エルビウム原子濃度を有する前記エルビウムドープビスマス酸化物膜を得ることは、
前記第1のスパッタリングターゲットを第1のスパッタリングソースからの出力が与えられるように配置し、
前記第2のスパッタリングターゲットを前記第1のスパッタリングソースと独立して配置している第2のスパッタリングソースからの出力が与えられるように配置し、
前記第1のスパッタリングソースの出力を固定して、前記第2のスパッタリングソースの出力を調整する、ことを含む、
請求項5または6に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記エルビウム原子濃度の前記所定範囲が2at.%以下である、
請求項5乃至7のいずれか一項に記載のエルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光増幅器への適用を目的とするエルビウムドープビスマス酸化物膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワークに関する技術の根幹となるのは、光導波路として用いられる光ファイバーの要素技術である。従来、光信号の長距離伝送を可能にする光導波路として、石英、すなわち二酸化シリコン(以下、SiOという)を母材材料とする光ファイバーが用いられている。これは、SiOが、光通信帯域として使用される1.5μm付近の波長の光に対して非常に高い透過率を有するためである。光である光信号の強度は、光ファイバー中を伝播する間に吸収または散乱等により僅かながら減衰し、光信号の強度が小さくなる。ここで、光信号の強度が小さくなることを抑え光信号の強度を維持しまたは増大させるために、光信号の強度を増幅する機能を有する光部品が必要となる。
【0003】
その役割を担う光部品として、光ファイバー増幅器が用いられる。光ファイバー増幅器は、特定の波長の光によって励起され誘導放出をする不純物元素を光ファイバーの母材材料に添加して構成される。この不純物として主にエルビウム(以下、Erという)などの希土類元素が用いられ、このErを添加またはドープ(本願明細書において、添加およびドープの用語は同義である)した光ファイバー増幅器は、Erドープ光ファイバー増幅器(Erbium Doped optical Fiber Amplifier、以下、EDFAという)と呼ばれ、普く利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Takeyama, N. Takahashi, T. Nakamura, and S. Itoh, “Microstructure characterization of δ-Bi2O3 thin film under atmospheric pressure by means of halide CVD on c-sapphire”, J. Cryst. Growth (2005) p.460-466, 275
【非特許文献2】T. P. Gujar, V. R. Shinde, C. D. Lokhande, R. S. Mane, Sung-Hwan Han, “Formation of highly textured (111) Bi2O3 films by anodization of electrodeposited bismuth films”, Appl. Surf. Sci. (2006) p.2747-2751, 252
【非特許文献3】B. L. Zhu and X. Z. Zhao, “Study on structure and optical properties of Bi2O3 thin films prepared by reactive pulsed laser deposition”, Opt. Mater. (2006) p.192-198, 29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、光通信ネットワークを構成する装置、部品その他の要素についてダウンサイジングが強く求められている。例えば、光導波路については光ファイバーの代替として、微細な光導波路等を集積したSiO系の光回路が使われるようになってきている。さらに光回路の寸法を小さくする技術としてシリコンフォトニクスによるアプローチも行われている。
【0006】
この小型化された光回路中には光吸収が高い材料が組み込まれていることが多いため、今後、光ファイバー増幅器の必要性は一層高まることが予想される。
【0007】
ここで、従来、光ファイバー増幅器として採用されているEDFAは、そのサイズが大きいため小型化された光回路と直接的に整合しにくい。そのため、光回路の一部に、微小なサイズの光増幅機能を有するセクションを設置する必要がある。その光増幅機能を有するセクションは、光回路に対して光を増幅する特性を有する光学結晶を貼り合わせることや、光回路上またはその内部にその光学結晶を薄膜として形成することにより設置される。
【0008】
このときに生じる技術的問題は、小型化された光回路中の光導波路やそれを連結する光増幅機能を有するセクション、またはその他の要素に備えられる導波路の長さが非常に短いことである。すなわち、小型化された光回路中に設置される光増幅機能を有するセクションは、光信号が非常に短い導波距離を伝搬中に高効率な光増幅を行う必要がある。
【0009】
このような技術的問題を鑑みて、母材材料としてEr3+イオンをドープすることが可能で、そのEr3+イオンによる発光を高効率化することが可能な光学結晶が求められている。具体的には、Er3+イオンがドープされる母材材料に対して、次の条件が求められる。第一に、Er3+イオンのドープ量を増加、すなわち母材材料中のEr原子濃度を増加させても濃度消光が生じにくいこと、そして第二に、近赤外波長域において透明、すなわち高い光透過率を有することである。
【0010】
例えば、酸化亜鉛(以下、ZnOという)の結晶を母材材料として採用しそれにEr3+イオンをドープした場合、亜鉛イオン(以下、Zn2+イオンという)とEr3+イオンとの間においてイオン半径およびイオン価数が互いに異なることにより、母材材料であるZnO結晶の結晶性およびそれに伴う母材材料自体の特性に影響を与えることなくドープ可能なEr3+イオンのドープ量の範囲は限られてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、光増幅機能を有する光学薄膜として、母材材料としてビスマス酸化物(以下、Biという)を採用し、それにドープする不純物をErとし、Erのドープ濃度等を所定の値または条件に設定することにより、従来よりも良好な光増幅機能を得ることができる知見を見出した。さらに、本願発明者は、上記の所定の値または条件に設定するための製造方法を見出した。本願発明は、上記知見に基づき成されたものである。
【0012】
本願発明の一実施形態は、ビスマス酸化物(Bi)を母材材料として母材材料にエルビウム(Er)を添加した膜であるエルビウムドープビスマス酸化物膜であって、エルビウムドープビスマス酸化物膜におけるビスマス原子数に対するエルビウム原子数の割合を百分率で示すエルビウム原子濃度が、2at.%以下であって、レーザ光を入射した場合に、エルビウムからの発光を放射する、エルビウムドープビスマス酸化物膜を提供する。
【0013】
本願発明の他の一実施形態は、ビスマス酸化物(Bi)を母材材料として母材材料にエルビウム(Er)を添加した膜であるエルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法であって、ビスマス酸化物からなる第1のスパッタリングターゲットと、エルビウム酸化物(Er)からなり、第1のスパッタリングターゲットと独立して配置している第2のスパッタリングターゲットとを用いて、酸素ガスを所定流量流入し、基板を所定温度に設定して、第1のスパッタリングターゲットと第2のスパッタリングターゲットとを、それぞれ同時にスパッタし、基板上へ第1のスパッタリングターゲットの一部と第2のスパッタリングターゲットの一部とを堆積させて、エルビウムドープビスマス酸化物膜を得る、エルビウムドープビスマス酸化物膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
Biは、重原子のビスマス(以下、Biという)を構成元素とする酸化物である。Bi3+イオンと同じ重原子のイオンであるEr3+イオンとの間において、イオン半径の差は小さく、かつ共に3価の陽イオンであるため、Biを母材材料として用いてそれにEr3+イオンをドープした場合においても、チャージバランスを崩すことなく母材材料の結晶内のEr3+をBi3+サイトへと置換することができる。ErをドープしたBi膜は、さらに、近赤外から短波長赤外の帯域において高い光透過率を有しているため、光導波路などの構成部品として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】スパッタリング装置の概念図を示すものである。(a)は、単一スパッタソースを備える場合であり、(b)は、ダブルスパッタソースを備える場合である。
図2】Bi膜の屈折率の成膜温度依存性を示すグラフである。白丸は、成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、黒丸は、成膜中の酸素流量が6sccmの場合である。
図3】Bi膜の成膜速度および屈折率の酸素流量依存性を示すグラフである。黒丸は、酸素流量に対する成膜速度であり、白丸は、酸素流量に対する屈折率である。
図4】Bi膜の近紫外から短波長赤外域における分光透過率を示すグラフである。実線は、成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、破線は、成膜中の酸素流量が5sccmの場合である。
図5】Er:Bi膜の成膜速度および屈折率のEr/Bi原子濃度依存性を示すグラフである。黒丸は、Er/Bi原子濃度に対する成膜速度であり、白丸は、Er/Bi原子濃度に対する屈折率である。
図6】フォトルミネッセンス法によるEr:Bi膜中のEr3+イオンからの発光スペクトルを示すグラフである。
図7】Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度の成膜温度依存性を示すグラフである。白丸は、成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、黒丸は、成膜中の酸素流量が6sccmの場合であり、黒四角は、成膜中の酸素流量が5sccmの場合である。
図8】Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度の酸素流量依存性を示すグラフである。黒丸は、成膜温度が室温の場合であり、白丸は、成膜温度が400℃の場合であり、白四角は、成膜温度が500℃の場合である。
図9】Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度のEr/Bi原子濃度依存性を示すグラフである。黒丸は、成膜温度が室温の場合であり、白丸は、成膜温度が400℃の場合であり、白四角は、成膜温度が500℃の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、最初に本願発明のErドープBi膜(以下、Er:Bi膜という)を構成するBiの特性と従来技術によるEr:Bi膜の製造方法の例とについて説明し、次に、本願発明の一実施形態を説明する。なお、本願発明の一実施形態は、本願発明を実施するための形態の一例であって、本願発明の要旨を逸脱しない限りその構成の変形や置き換えが可能である。
【0017】
(Biの特性)
本願発明の一実施形態においてErをドープする母材材料として採用するBiは、ワイドバンドギャップを有し、高屈折率および高誘電率を示す物質である(非特許文献1)。ここで、Biのバンドギャップは、2.6eVであり、可視域において光吸収を示し、近赤外域において透明であり高い光透過率を有する。Er3+イオンとBi3+イオンとは、共に価数が3価であることおよび重元素であるため互いにイオン半径が近いことから、Er3+イオンは、直接的にBiの結晶内におけるBi3+イオンの占有するサイトを置換することができる。
【0018】
さらに、Biは、結晶多形であって、α−Bi(α相)、β−Bi(β相)、γ−Bi(γ相)、δ−Bi(δ相)、またはω−Bi(ω相)といった様々な結晶形を有し(非特許文献2、3)、それらが併存するために、例えばミスフィット転位の存在により巨視的な格子不整合による歪みを緩和する(非特許文献1)などの機構により内部の歪みが緩和されている。従って、Biは、この結晶学的特徴によってEr3+イオンをドープした場合に結晶歪みを吸収し、Biの結晶構造が乱れにくいことが想定される。
【0019】
すなわち、母材材料としてBiを採用した場合には、Er3+イオンをドープすることにより発光特性を付与しながら、母材材料自体の構造および特性に影響を与えない構成となるために、従来よりも優れた構成となる。
【0020】
(従来技術によるEr:Bi膜の製造方法の例)
Er:Bi膜の製造方法の例として、スパッタリング法によるものについて説明する。
【0021】
図1は、スパッタリング装置の概念図を示すものである。ここで、図1(a)は、単一スパッタソースを備える場合であり、図1(b)は、ダブルスパッタソースを備える場合である。
【0022】
従来技術によれば、通常、図1(a)に示すように所定量のEr原子を含有するBiをスパッタリングターゲット3として作製し、その単一ターゲットからのスパッタリングにより基板5上にEr:Bi膜を作製する場合が多い。
【0023】
ここで、スパッタリング装置1について説明する。スパッタリング装置1の成膜室2の内部は真空に排気され、その成膜室2の内部には、スパッタリングターゲット3、保持機構4、基板5、加熱ヒータ6およびガス導入ポート7が備えられる。
【0024】
スパッタリングターゲット3に対向する位置には、基板5が配置され、基板5は加熱ヒータ6上に載置されている。加熱ヒータ6によって基板5を加熱しながら成膜を行ったり、成膜後に成膜室2内を真空にしてポストアニール処理を行ったりすることができる。スパッタリング装置1は、その成膜室2に外部から連結されたガス導入ポート7を備えており、ガス導入ポート7を通じて成膜室2の内部へと、スパッタガスとしてのアルゴンを、反応ガスとしての酸素ガスを導入する。それぞれのガスの流量は、sccm単位(standard cc/min.、圧力1atm(大気圧 1013hPa)、温度25℃の条件で規格化)で設定した。
【0025】
スパッタリングターゲット3は、基板5との距離などを適切にするよう保持機構4によって保持されている。スパッタリング装置1はさらに、スパッタリング成膜の所定条件を実現するために、ターゲット3と基板5との間または基板5の周辺に高周波電界や磁界を発生させる機構(図示せず)も含んでいる。ここで、ガス導入ポート7を通じて成膜室2内に導入された酸素ガスは、プラズマ状態において酸素ラジカルを生成し、Er:Bi膜の酸化度を調節することができる。なお、酸化度は、酸化物結晶内における酸素欠損の度合いを示す指標のことである。
【0026】
図1(a)に示すスパッタリング装置1の構成では、Erの含有量が予め決定されている単一のスパッタリングターゲット3をスパッタリングターゲットとして用いるため、Er:Bi膜中のEr3+のドープ量は、成膜に用いるスパッタリングターゲット3の化学組成によって支配されてしまう。さらに、スパッタリング装置1において調整可能な成膜パラメータの範囲内で必ずしも最大の発光強度を発現するEr:Bi膜が得られるとは限らない。
【0027】
なぜならば、Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光の強度は、Er:Bi膜中のEr3+イオンのドープ量によって決定するが、このドープ量は、Er:Bi膜の結晶性、Er:Bi膜の成膜時の温度、またはEr:Bi膜の酸化度によって複雑に変化するためである。すなわち、従来技術によるEr:Bi膜の製造方法によって、Er:Bi膜中のEr3+イオンのドープ量を所定量とすることは極めて複雑で困難である。
【0028】
(本願発明の実施例)
本願発明の一実施形態において、Er:Bi膜を作製するために、図1(a)に示すスパッタリング装置1ではなく、図1(b)に示すスパッタリング装置11の構成を採用することが好ましい。上記で説明した図1(a)のスパッタリング装置1は、成膜室2内に単一のスパッタリングターゲット3を備える一方で、図1(b)に示すスパッタリング装置11は、成膜室12内に2つのスパッタリングターゲット13a,13bを備える。スパッタソースAに対してBiをスパッタリングターゲット13a、スパッタソースBに対してエルビウム酸化物(以下、Erという)をスパッタリングターゲット13bとして備え、それら両者を同時にスパッタし、さらに各々のスパッタリングターゲット13a,13bに与えるスパッタパワー(電力)に応じて、基板15上に堆積するEr:Bi膜中のEr原子の含有量を変化させることができる。
【0029】
このときに、基板15表面上におけるスパッタリングターゲット13a,13bから飛散したそれぞれの粒子の密度は、スパッタリングターゲット13a,13bからの距離の2乗に反比例するため、基板15の水平面内の位置によって異なる。そこで、Er:Bi膜の組成分布を均等化するために、Er:Bi膜を基板15上に成膜中に、基板15の水平面に対して略垂直方向であって、基板15の水平面を貫通する軸を中心として基板15を回転させることが好ましい。
【0030】
また、図1(b)に示すスパッタリング装置11の構成によれば、スパッタリングターゲット13a,13bのそれぞれに対して異なるスパッタリング方式を用いてターゲット粒子を発生させることができる。本実施例において、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance、以下、ECRという)プラズマソースをBiターゲット13aに向け、高周波(Radio Frequency、以下、RFという)マグネトロンソースをErターゲットに向けて装着した。
【0031】
ECRプラズマを生成するためのマイクロ波の投入パワーを500Wに、Erターゲットに印加するRFパワーを500Wに固定した。ここで、RFマグネトロンソースへ印加するパワーを10W乃至100Wの間の値で変化させ、基板15表面上に堆積するEr:Bi膜中のEr原子濃度を変化させた。
【0032】
スパッタリング装置11の成膜室12の内部は、外部に排気ポンプとして設置したターボ分子ポンプ(図示せず)により排気され、ガス導入ポート17に設置したマスフローコントローラー(図示せず)を用いて成膜室12内へのアルゴンガスおよび酸素ガスの導入量を制御した。ここで、酸素ガスの流量は、5sccm乃至10sccmの間の値に設定した。また、アルゴンガスの流量は、0.12Paの値に設定した。なお、1sccmは、8.6×10−3Paに相当する。
【0033】
基板15は、4インチSi(100)基板を用いた。以下に示すデータは、基板15上に堆積したEr:Bi膜の水平面内中央付近において取得される値である。
【0034】
Er:Bi膜の成膜温度は、加熱ヒータ16により制御して室温乃至600℃の間の値で変化させた。なお、本願明細書中において、「室温」は、70℃を指す。スパッタリング装置11を用いて基板15上にスパッタリング成膜を行う場合、基板15は、加熱ヒータ16による加熱を施さなくとも、スパッタリングターゲット13a,13bと基板15との間に生じるプラズマが成膜時に基板15に照射されることによって基板15表面の温度が70℃となる。
【0035】
Er:Bi膜の成膜後、基板15を12mm角に切断して、成膜室12の内部の雰囲気を真空または酸素雰囲気に設定し、加熱ヒータ16を用いて切断された基板15上のEr:Bi膜に対してポストアニールを施した。
【0036】
ポストアニールを施して作製が完了したEr:Bi膜について、その中に含まれるEr原子およびBi原子の量を定量した。測定方法は、蛍光X線分析法である。
【0037】
図2は、Bi膜の屈折率の成膜温度依存性を示すグラフである。横軸はBi膜の成膜温度であり、縦軸は成膜されたBi膜の屈折率の値を示す。図2中のプロット白丸は、成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、図2中のプロット黒丸は、成膜中の酸素流量が6sccmの場合である。このとき、基板15上に堆積する膜中にErは含まれていない。
【0038】
図2によれば、成膜温度が450℃以下の場合、Bi膜の屈折率は、2.1乃至2.2またはその近傍の値の範囲であって、成膜中に導入される酸素ガスの流量に依らずに良好な酸化度のBi膜が得られていることが分かる。一方、成膜温度が450℃を超えると、Bi膜の屈折率が急激に低下している。この要因は、成膜中においてBi膜中でのBi原子の拡散が顕著になったことによるものである。この結果より、Bi膜の成膜温度は、450℃以下に設定することが好ましい。
【0039】
図3は、Bi膜の成膜速度および屈折率の酸素流量依存性を示すグラフである。横軸は成膜室内12に導入される酸素ガスの流量であり、第1縦軸(紙面に向かって左側、以下において同じである)はBi膜の成膜速度、第2縦軸(紙面に向かって右側、以下において同じである)は成膜されたBi膜の屈折率の値を示す。図3中のプロット黒丸は酸素流量に対する成膜速度であり、図3中のプロット白丸は酸素流量に対する屈折率である。このときの成膜温度は、室温とした。
【0040】
酸素流量が少ない場合は、具体的には10sccm以下の場合、Biターゲット13aの表面が還元的になり、メタルモードに近くなりBi膜の成膜速度が増大する。一方、酸素流量が多い場合、具体的には10sccmよりも多い場合、Biターゲットの表面が十分に酸化されて、酸化物モードになって、スパッタ速度は小さくなっている。酸素流量を5sccm乃至10sccmの間の値で変化をさせると、それに対応して、Bi膜の屈折率は2.23乃至2.18まで変化する。このBi膜の屈折率の変化はBi膜の酸化度の変化に対応しており、この範囲であることが好ましい。また、この酸化度がEr3+イオンの発光強度に影響を与えるため、発光強度をモニターしながら、成膜中の酸素ガスの流量を最適な値に設定することがさらに好ましい。
【0041】
なお、成膜中に導入する酸素ガスの流量が、5sccm未満の場合には、基板15上に成膜された膜が過剰に還元的となり好ましくない結果を生じる。
【0042】
図4は、Bi膜の近紫外から短波長赤外域における分光透過率を示すグラフである。横軸はBi膜に入射する光の波長であり、縦軸はBi膜に入射した光の透過率である。図4中の実線は成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、図4中の破線は成膜中の酸素流量が5sccmの場合である。このときの成膜温度は、室温とした。
【0043】
この測定に用いるBi膜の試料は、基板15として透明なガラスを用いてその上にBi膜の成膜を行い調整したものである。Biのバンドギャップが2.6eVなので可視域において光吸収を示し、吸収端が立ち上がってから500nmよりも長波長域で入射光に対する透過率は70%以上となり、入射光に対して透明であることを示している。また、成膜中の酸素流量が10sccmの場合と5sccmの場合とにおいて、吸収端の位置は互いにほぼ一致しており、1000nm乃至2000nmの長波長域における入射光に対する透過率も共に85%近傍の値である。具体的には、図4に示されるように、本発明の一実施形態におけるBi膜は、1000nm乃至2000nmの入射光に対して80%以上の光透過率を示す。すなわち、近紫外から短波長赤外域における光透過特性において、成膜中の酸素流量が10sccmの場合と5sccmの場合とにおいて同等の特性が得られることが分かる。従って、膜の光学的特性に関して、Bi膜の成膜中の酸素ガスの流量は、5sccm乃至10sccmの範囲とすることが好ましい。
【0044】
図5は、Er:Bi膜の成膜速度および屈折率のEr原子濃度依存性を示すグラフである。ここで、「Er原子濃度」とは、Er:Bi膜中におけるBi原子数に対するEr原子数の割合を百分率で示すものである。この「Er原子濃度」を、以下では「Er/Bi原子濃度」という。その単位を、原子パーセント(以下、at.%という)で示す。横軸は、Er/Bi原子濃度であり、第1縦軸はEr:Bi膜の成膜速度、第2縦軸はEr:Bi膜の屈折率である。図5中のプロット黒丸はEr/Bi原子濃度に対する成膜速度であり、図5中のプロット白丸はEr/Bi原子濃度に対する屈折率である。このときの成膜温度は、室温とした。また、酸素ガスの導入量は、10sccmとした。
【0045】
Er/Bi原子濃度が2at.%以下の場合、Er原子の導入による成膜速度への影響は小さく、成膜速度の変化は1nm/minの狭い範囲に留まっている。一方、Er:Bi膜の屈折率は、Er/Bi原子濃度を増加させた場合には単調に低下する。特に、Er/Bi原子濃度が2at.%を超えると、屈折率は1.8以下になるため、高い屈折率を示すEr:Bi膜が得られない。これは、Er:Bi膜中において、Erが単独の化合物として析出していることによる影響と考えられる。従って、Er:Bi膜は、そのEr/Bi原子濃度が2at.%以下である場合に、1.80を超える好ましい屈折率を示す。
【0046】
図6は、フォトルミネッセンス法によるEr:Bi膜中のEr3+イオンからの発光スペクトルを示すグラフの一例である。横軸はEr:Bi膜から放射される光の波長であり、縦軸はEr:Bi膜から放射された光の強度である。
【0047】
励起光として波長532nmの半導体レーザを用いて、それをEr:Bi膜に照射することにより、Er:Bi膜中のEr3+イオンを準位I15/2から準位H11/2へと遷移させ励起した。そのとき、準位I13/2から準位I15/2への遷移に伴い放出される近赤外域の光について、CCD検出器を用いて光強度の測定をした。
【0048】
図6によれば、波長1537nmと波長1541nmにピークを有するEr:Bi膜中のEr3+イオンからの発光が観測されている。このとき測定した発光スペクトルは、微細なスペクトル形状を有しており、これはEr:Bi膜の結晶内で生じる配位子場分裂による影響を反映している。
【0049】
図7は、Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度の成膜温度依存性を示すグラフである。横軸はEr:Bi膜の成膜温度であり、縦軸はEr:Bi膜中のEr3+イオンの発光スペクトルの最大ピーク値における光の強度である。図7中のプロット白丸は成膜中の酸素流量が10sccmの場合であり、図7中のプロット黒丸は成膜中の酸素流量が6sccmの場合であり、図7中のプロット黒四角は成膜中の酸素流量が5sccmの場合である。このときのEr:Bi膜中のEr/Bi原子濃度は、2at.%である。
【0050】
図7によれば、成膜中の酸素流量に関わらず、Er:Bi膜の成膜温度の上昇に伴い発光強度が低下する傾向を示すことが分かる。この傾向から室温近傍で成膜した後にポストアニールを施すことにより、高強度の発光を示すEr:Bi膜が得られることが分かる。
【0051】
図8は、Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度の酸素流量依存性を示すグラフである。横軸は成膜室内12に導入される酸素ガスの流量であり、縦軸はEr:Bi膜中のEr3+イオンの発光スペクトルの最大ピーク値における光の強度である。図8中のプロット黒丸は成膜温度が室温の場合であり、図8中のプロット白丸は成膜温度が400℃の場合であり、図8中のプロット白四角は成膜温度が500℃の場合である。
【0052】
図7の場合と同じく、このときのEr:Bi膜中のEr/Bi原子濃度は、2at.%である。図8によれば、酸素流量が小さい場合、具体的には5sccm乃至7sccmの間の値である場合に、高い発光強度を示すEr:Bi膜が得られることが分かる。
【0053】
酸素流量が小さい場合にEr:Bi膜中のEr3+イオンが高強度の発光を示す要因は、酸素流量が小さい場合には、図4に示すように、励起波長である532nmにおいて母材結晶であるBiの光吸収もある程度増大するため、その光吸収により励起されたBiからEr3+イオンへのエネルギー移動により、Er3+イオンの励起が助長されるためと考えられる。
【0054】
図9は、Er:Bi膜中のEr3+イオンからの発光強度のEr/Bi原子濃度依存性を示すグラフである。横軸はEr/Bi原子濃度であり、縦軸はEr:Bi膜中のEr3+イオンの発光スペクトルの最大ピーク値における光の強度である。図9中のプロット黒丸は、成膜温度が室温の場合であり、図9中のプロット白丸は、成膜温度が400℃の場合であり、図9中のプロット白四角は、成膜温度が500℃の場合である。
【0055】
図9によれば、成膜温度に関わらず、Er/Bi原子濃度が2at.%近傍の値において最大の発光強度を示すEr:Bi膜が得られることが分かる。ただし、濃度消光の程度は、成膜温度に依存する。室温において成膜して得られたEr:Bi膜は、Er/Bi原子濃度が2at.%で最大の強度を示し、それよりもEr/Bi原子濃度を増加させると、急激に発光強度が減少する傾向を示す。
【0056】
室温において成膜して得られたEr:Bi膜が特定のEr/Bi原子濃度を超える場合に急激に発光強度が減少する要因は、母材材料であるBiの結晶格子中に取り込まれるEr3+イオンの存在により、Biの結晶格子が乱れ構造全体の周期性や整合性に擾乱が生じることに起因して非輻射遷移が増大するためと考えられる。一方、室温よりも高い温度において成膜したEr:Bi膜が特定のEr/Bi原子濃度を超えた場合でも緩やかに発光強度が減少する要因は、Bi3+カチオンサイトを占有できなかった過剰なEr3+イオンが、母材結晶であるBiの結晶格子中に取り込まれずに、拡散して結晶粒界などへ放出されるため、結果として多くの量のEr3+イオンをEr:Bi膜中に含みながらも、母材材料であるBi結晶の結晶格子を乱さずに構造全体の周期性や整合性をある程度保つことができるためと解釈できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明に係るBiを母材材料としてErをドープした膜は、SiOを母材材料とする従来のエルビウムドープ光ファイバーよりも優れた光増幅作用を発現するために、小型化が進む光回路の微小な光学部品としての用途に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1、11 スパッタリング装置
2、12 成膜室
3、13a、13b スパッタリングターゲット
4、4a、4b 保持機構
5、15 基板
6、16 加熱ヒータ
7、17 ガス導入ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9