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特開2019-218632Ni基超耐熱合金の製造方法およびNi基超耐熱合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218632(P2019-218632A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】Ni基超耐熱合金の製造方法およびNi基超耐熱合金
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/10 20060101AFI20191129BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20191129BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20191129BHJP
【FI】
   C22F1/10 K
   C22C19/05 L
   C22F1/10 H
   C22F1/00 604
   C22F1/00 612
   C22F1/00 623
   C22F1/00 625
   C22F1/00 630C
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 650A
   C22F1/00 651B
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 694A
   C22F1/00 694B
   C22F1/00 694Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2019-146634(P2019-146634)
(22)【出願日】2019年8月8日
(62)【分割の表示】特願2019-538269(P2019-538269)の分割
【原出願日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-39400(P2018-39400)
(32)【優先日】2018年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓 剛
(72)【発明者】
【氏名】巽 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】舟越 靖洋
(72)【発明者】
【氏名】ムハマド アイヌル アラファ ビンティ
(57)【要約】
【課題】従来とは全く異なる斬新な手法を用いた塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金の製造方法およびNi基超耐熱合金の提供
【解決手段】本発明は、700℃におけるガンマプライムの平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する方法を提供する。この方法は、熱間押出により結晶粒径200μm以下の素材を製造する準備工程と、この素材に30%以上の加工率で冷間塑性加工を行なう加工工程とを含む。また、700℃におけるガンマプライムの平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金も提供される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する方法において、
熱間押出により結晶粒径200μm以下の素材を製造する準備工程と、
前記素材に30%以上の加工率で冷間塑性加工を行なう加工工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記冷間塑性加工は、累積の加工率が30%以上の複数回の冷間塑性加工であり、該複数回の冷間塑性加工の間に熱処理を行わないことを特徴とする、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が40モル%以上の成分組成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記加工工程後のNi基超耐熱合金が500HV以上の硬さを有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された方法。
【請求項5】
前記加工工程後のNi基超耐熱合金は、最大径が75nm以下の結晶粒が、断面組織中に1μmあたり5個以上存在することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された方法。
【請求項6】
前記加工工程の後に、熱処理を行う工程を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された方法。
【請求項7】
前記Ni基超耐熱合金の成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜15.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜5.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜3.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された方法。
【請求項8】
前記Ni基超耐熱合金の成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜6.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜3.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜1.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることを特徴とする請求項7に記載された方法。
【請求項9】
700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有し、ガンマ相とガンマプライム相との線状組織を有することを特徴とするNi基超耐熱合金。
【請求項10】
前記線状組織の線状方向に炭化物が集合した組織を有することを特徴とする請求項9に記載されたNi基超耐熱合金。
【請求項11】
500HV以上の硬さを有することを特徴とする請求項9または請求項10に記載されたNi基超耐熱合金。
【請求項12】
前記700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が40モル%以上の成分組成を有することを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載されたNi基超耐熱合金。
【請求項13】
成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜15.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜5.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜3.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることを特徴とする請求項9から請求項12までのいずれか1項に記載されたNi基超耐熱合金。
【請求項14】
成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜6.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜3.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜1.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることを特徴とする請求項13に記載されたNi基超耐熱合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基超耐熱合金を製造する方法およびNi基超耐熱合金に関するものであり、詳細には700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する方法およびNi基超耐熱合金に係るものである。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジンや発電用のガスタービンに用いられる耐熱部品として、例えば、インコネル(登録商標)718合金のようなNi基超耐熱合金が多く用いられている。ガスタービンの高性能化と低燃費化に伴って、高い耐熱温度を有する耐熱部品が求められている。Ni基超耐熱合金の耐熱性(高温強度)を向上させるためには、NiAlを主組成とする金属間化合物の析出強化相であるガンマプライム(以下、「γ’」とも記す。)相の量を増やすことが最も有効である。そして、Ni基超耐熱合金が、更に、γ’生成元素であるAl、Ti、Nbを含有することで、Ni基超耐熱合金の高温強度をさらに向上させることができる。今後、高耐熱性、高強度を満足させるために、γ’相の量がより多いNi基超耐熱合金が求められる。
【0003】
しかし、Ni基超耐熱合金は、γ’相の増加と共に、熱間加工の変形抵抗が大きくなり、難加工であることが知られている。とりわけ、γ’相の量が35〜40モル%以上のγ’モル率になると加工性は特に低下する。例えば、インコネル(登録商標)713C合金、IN939、IN100、Mar−M247等の合金は、特別にγ’相が多く、塑性加工が不可能とされ、通常は鋳造合金として鋳造まま(as−cast)で使用されている。
【0004】
このようなNi基超耐熱合金の熱間塑性加工性を向上させる提案として、特許文献1では、γ’モル率が40モル%以上となる組成を有するNi基超耐熱合金インゴットを加工率5%以上30%未満で冷間加工を行った後にγ’固溶温度を超える温度で熱処理する製造方法が記載されている。この方法は、冷間加工工程と熱処理工程との組合せにより、Ni基超耐熱合金に熱間加工を適用することが可能な90%以上の再結晶率を得るものである。
【0005】
また、近年、上述したγ’相の量が多いNi基超耐熱合金の耐熱部品を補修したり、または、その耐熱部品自体を3次元成形で作製したりするニーズが高まっている。その場合の造形素材としてNi基超耐熱合金の細線が求められている。この細線は、ばね等の部品形状に加工して使用することもできる。Ni基超耐熱合金の細線の線径(直径)は、例えば、5mm以下、更には3mm以下という細いものである。このような細線は、例えば、線径が10mm以下の「線材」を中間製品として準備し、この線材に塑性加工を行って作製することが効率的である。この中間製品である「線材」も、塑性加工によって得ることができれば、Ni基超耐熱合金の細線を効率的に製造することができる。
このような超耐熱合金の細線の製造方法として、線径が5mm以上の鋳造ワイヤを出発材にして、これら鋳造ワイヤを束ねたものを熱間押出した後、分離する手法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/129485号
【特許文献2】米国特許第4777710号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおりNi基超耐熱合金はγ’相の量の増加と共に、熱間塑性加工性が低下する。特許文献2の手法は、限られた成分組成においては細線の製造に効果的なものであるが、その成分組成にしか適用できず、γ’相の量が後述する「35モル%以上」のNi基超耐熱合金にもなると、これを熱間塑性加工して細線まで加工することは極めて困難である。また、特許文献2の手法は、工程が複雑で、製造コストが大きくなる等の問題があった。
特許文献1の方法は、熱間加工を適用するNi基超耐熱合金には効果がある。しかし、そのためにインゴットに加工率5%以上30%未満で冷間加工を行った後にさらに熱処理を行う必要がある。
【0008】
本発明の目的は、従来とは全く異なる斬新な手法を用いて、塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金の製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、途中に熱処理を施すことなく大きな加工率を伴う塑性加工を行なうことが可能な、Ni基超耐熱合金の製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、Ni基超耐熱合金の線材や細線を製造できる新たな方法を提供することである。さらに、本発明の他の目的は、Ni基超耐熱合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する方法が提供される。この方法は、
熱間押出により結晶粒径200μm以下の素材を製造する準備工程と、
この素材に30%以上の加工率で冷間塑性加工を行なう加工工程と
を含む。
【0010】
一具体例によれば、上記の冷間塑性加工は、累積の加工率が30%以上の複数回の冷間塑性加工であり、この複数回の冷間塑性加工の間に熱処理を行わないことが好ましい。
【0011】
一具体例によれば、このNi基超耐熱合金は、700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が40モル%以上の成分組成を有することが好ましい。
【0012】
一具体例によれば、このNi基超耐熱合金は、上記の加工工程後に500HV以上の硬さを有することが好ましい。
【0013】
また、一具体例によれば、このNi基超耐熱合金は、最大径が75nm以下の結晶粒が、断面組織中に1μmあたり5個以上存在することが好ましい。
【0014】
また、一具体例によれば、本発明の方法は、冷間塑性加工を行なう加工工程の後に、熱処理を行う工程を更に含むことが好ましい。
【0015】
また、一具体例によれば、本発明の方法は、Ni基超耐熱合金の成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜15.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜5.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜3.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることが好ましい。
【0016】
また、一具体例によれば、本発明の方法は、Ni基超耐熱合金の成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜6.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜3.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜1.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の一観点によれば、700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有し、ガンマ相とガンマプライム相との線状組織を有するNi基超耐熱合金が提供される。このNi基超耐熱合金は、上記の線状組織の線状方向に炭化物が集合した組織を有することができる。また、このNi基超耐熱合金は、500HV以上の硬さを有することができる。
【0018】
さらに、本発明の別の一観点によれば、700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有し、ガンマ相とガンマプライム相とを含む等軸結晶組織に、線状に集合した炭化物を有した組織を有するNi基超耐熱合金が提供される。このNi基超耐熱合金は、500HV未満の硬さを有することができる。
【0019】
一具体例によれば、これらのNi基超耐熱合金は、700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が40モル%以上の成分組成を有することが好ましい。
【0020】
また、一具体例によれば、これらのNi基超耐熱合金は、成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜15.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜5.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜3.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることが好ましい。
【0021】
また、一具体例によれば、これらのNi基超耐熱合金は、成分組成が、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜6.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜3.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜1.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金の製造方法と、Ni基超耐熱合金とを提供することができる。
【0023】
以下の非限定的な具体例の説明および添付の図面を参照することにより、本発明の利点、特徴及び詳細が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】棒材を圧延した際の棒材の形状変化を示す模式図。
図2】本発明例による熱間押出された素材の断面組織の一例を示すミクロ組織写真。
図3】本発明例の合金No.1−9のNi基超耐熱合金のスエジング加工後のミクロ組織写真。
図4】本発明例の合金No.1−9のNi基超耐熱合金のスエジング加工後の電子線後方散乱回折(EBSD)像。
図5】本発明例の合金No.1−9のNi基超耐熱合金の熱処理後のミクロ組織写真。
図6A】本発明例の合金No.2−3のNi基超耐熱合金のロール圧延後の側面の外観を示す図面代用写真。
図6B】本発明例の合金No.2−3のNi基超耐熱合金のロール圧延後の圧延面の外観を示す図面代用写真。
図7A】比較例の合金No.2−7のNi基超耐熱合金のロール圧延後の側面の外観を示す図面代用写真。
図7B】比較例の合金No.2−7のNi基超耐熱合金のロール圧延後の圧延面の外観を示す図面代用写真。
図8】本発明例による熱間押出された素材の断面組織の一例を示すEBSD像。
図9図8のEBSD像で認識される結晶粒の粒径分布を示す図。
図10】本発明例による熱間押出された素材の断面組織の一例を示すミクロ組織写真。
図11】本発明例の合金No.3−2のNi基超耐熱合金のスエジング加工後のミクロ組織写真。
図12】本発明例の合金No.3−3のNi基超耐熱合金のスエジング加工後のミクロ組織写真。
図13図12の本発明例の合金No.3−3のNi基超耐熱合金の熱処理後のミクロ組織写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、従来の熱間塑性加工とは異なる新しいアプローチによって、塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金を製造できる新たな方法を提供するものである。
本発明者は、γ’相の量が多いNi基超耐熱合金の塑性加工性について研究した。その結果、Ni基超耐熱合金の材料に熱間押出を行なった後に30%以上の加工率で冷間塑性加工を行なうことにより、Ni基超耐熱合金の塑性加工性が飛躍的に向上する現象を突きとめた。その際、30%以上の加工率での冷間塑性加工により、Ni基超耐熱合金の組織中にナノ結晶粒が生成されることを見いだした。このナノ結晶粒の生成がNi基超耐熱合金の塑性加工性の飛躍的向上に寄与しているものと推察される。
【0026】
したがって、本発明による700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する方法は、熱間押出により結晶粒径200μm以下の素材を製造する準備工程と、この素材に30%以上の加工率で冷間塑性加工を行なう加工工程とを含むものである。
【0027】
本発明が対象とするNi基超耐熱合金は、700℃におけるガンマプライム(γ’)相の平衡析出量が35モル%以上の成分組成を有する。
ここで、Ni基超耐熱合金のγ’相の量は、そのγ’相の「体積率」や「面積率」等の数値的指標で表すことができる。本明細書では、γ’相の量を、「γ’モル率」の数値的指標で表す。γ’モル率とは、Ni基超耐熱合金が熱力学的な平衡状態において析出することができる、安定的なガンマプライム相の平衡析出量のことである。ガンマプライム相の平衡析出量を「モル率」で表した値は、Ni基超耐熱合金が有する成分組成により決定される。この平衡析出量のモル%の値は、熱力学平衡計算による解析で求めることができる。熱力学平衡計算による解析では、各種の熱力学平衡計算ソフトを用いることで、精度よく、かつ、容易に求めることができる。
【0028】
本発明では、Ni基超耐熱合金のγ’モル率を、「700℃における平衡析出量」とする。Ni基超耐熱合金の高温強度は、組織中のガンマプライム相の平衡析出量で評価でき、この高温強度が大きいほど、熱間塑性加工は困難になる。組織中のガンマプライム相の平衡析出量は、一般的に、概ね700℃以下で温度依存性が小さくなり、概ね一定となるので、上記の「700℃」のときの値を基準とする。
【0029】
上記の通り、通常はNi基超耐熱合金のγ’モル率が大きいほど熱間塑性加工は困難である。しかし、本発明によれば、γ’モル率を大きくすることが、Ni基超耐熱合金の冷間の塑性加工性の向上に大きく関与する。本発明のNi基超耐熱合金では、その断面組織中に「ナノ結晶粒」を有することで、冷間塑性加工性を飛躍的に改善できる。このナノ結晶粒は、Ni基超耐熱合金のマトリックスであるオーステナイト相(ガンマ(γ))とガンマプライム相との相界面から最も発生しやすい。したがって、Ni基超耐熱合金のγ’モル率を大きくすることは、上記の相界面の増加に繋がって、ナノ結晶粒の生成に寄与する。そして、γ’モル率が35%のレベルにまで達すると、上記のナノ結晶粒の生成が促進される。700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が40モル%以上の成分組成がより好ましい。更に好ましいガンマプライム相の平衡析出量は、50モル%以上であり、更により好ましくは60モル%以上である。特に好ましいガンマプライム相の平衡析出量は63モル%以上であり、いっそう好ましくは66モル%以上、よりいっそう好ましくは68モル%以上である。700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量の上限は、特に限定しないが、75モル%程度が現実的である。
【0030】
700℃におけるガンマプライム相の平衡析出量が35モル%以上の析出強化型のNi基超耐熱合金として、例えば、質量%で、C:0〜0.25%、Cr:8.0〜25.0%、Al:0.5〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:0〜8%、W:0〜15.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜5.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜3.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなる組成を有することが好ましい。
【0031】
あるいは、Ni基超耐熱合金は、質量%で、C:0〜0.03%、Cr:8.0〜22.0%、Al:2.0〜8.0%、Ti:0.4〜7.0%、Co:0〜28.0%、Mo:2.0〜7.0%、W:0〜6.0%、Nb:0〜4.0%、Ta:0〜3.0%、Fe:0〜10.0%、V:0〜1.2%、Hf:0〜1.0%、B:0〜0.300%、Zr:0〜0.300%を含み、残部がNiおよび不純物からなる組成を有することが好ましい。
【0032】
以下、本発明のNi基超耐熱合金の一形態として好ましい組成の各成分について説明する(成分組成の単位は「質量%」である)。
【0033】
炭素(C)
Cは、従来、Ni基超耐熱合金の鋳造性を高める元素として含有するものである。そして、特に、γ’相の量の多いNi基超耐熱合金は、塑性加工が困難であるため、通常、鋳造部品として使用され、一定量のCが添加されている。この添加されたCは、鋳造組織中に炭化物として残り、一部は粗大な共晶炭化物として形成される。そして、このような粗大な炭化物は、Ni基超耐熱合金を塑性加工したときに、特に、室温で塑性加工したときに、き裂の起点およびき裂の進展経路となり、Ni基超耐熱合金の塑性加工性に悪影響を及ぼす。
【0034】
したがって、γ’相の量の多いNi基超耐熱合金を、鋳造部品としてではなく、塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金として提供することを目的とした本発明にとって、そのNi基超耐熱合金中のCの低減は大変に重要である。そして、この一方で、本発明のNi基超耐熱合金では、その断面組織中に「ナノ結晶粒」を有することで、冷間塑性加工性を飛躍的に改善しているので、例えば、鋳造部品における含有量と同程度のC含有量を許容することができる。本発明の場合、Cの含有量は0.25%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以下、0.03%以下の順とすることである。さらに好ましくは0.025%以下、さらにより好ましくは0.02%以下である。特に好ましくは0.02%未満である。
本発明のNi基超耐熱合金にとって、Cは規制元素であり、より低く管理されることが好ましい。そして、Cを無添加(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Cの下限を0質量%とできる。通常、C無添加のNi基超耐熱合金であっても、その成分組成を分析したときには、例えば、0.001%程度のC含有量が認められ得る。
【0035】
クロム(Cr)
Crは、耐酸化性、耐食性を向上させる元素である。しかし、Crを過剰に含有すると、σ(シグマ)相などの脆化相を形成し、強度や素材準備の際の熱間加工性を低下させる。したがって、Crは、例えば、8.0〜25.0%とすることが好ましい。より好ましくは8.0〜22.0%である。好ましい下限は9.0%であり、より好ましくは9.5%である。さらに好ましくは10.0%である。また、好ましい上限は18.0%であり、より好ましくは16.0%である。さらに好ましくは14.0%である。特に好ましくは12.5%である。
【0036】
モリブデン(Mo)
Moは、マトリックスの固溶強化に寄与し、高温強度を向上させる効果がある。しかし、Moが過剰になると金属間化合物相が形成されて高温強度を損なう。よって、Moは、0〜8%とすることが好ましい(無添加(不可避不純物レベル)でもよい)。より好ましくは、2.0〜7.0%である。さらに好ましい下限は2.5%であり、より好ましくは3.0%である。さらに好ましくは3.5%である。また、さらに好ましい上限は6.0%であり、より好ましくは5.0%である。
【0037】
アルミニウム(Al)
Alは、強化相であるγ’(NiAl)相を形成し、高温強度を向上させる元素である。しかし、過度の添加は素材準備の際の熱間加工性を低下させ、加工中の割れなどの材料欠陥の原因となる。よって、Alは、0.5〜8.0%が好ましい。より好ましくは2.0〜8.0%である。さらに好ましい下限は2.5%であり、より好ましくは3.0%である。さらに好ましくは4.0%であり、よりさらに好ましくは4.5%である。特に好ましくは5.1%である。また、さらに好ましい上限は7.5%であり、より好ましくは7.0%である。さらに好ましくは6.5%である。
なお、上述したCrとの関係で、素材準備の際の熱間加工性を確保するために、Crの含有量を低減したときには、その低減分のAlの含有量を許容することができる。そして、例えば、Crの上限を13.5%にしたときに、Alの含有量の下限を3.5%とすることが好ましい。
【0038】
チタン(Ti)
Tiは、Alと同様、γ’相を形成し、γ’相を固溶強化して高温強度を高める元素である。しかし、過度の添加は、γ’相が高温で不安定となって高温での粗大化を招くとともに、有害なη(イータ)相を形成し、素材準備の際の熱間加工性を損なう。よって、Tiは、例えば、0.4〜7.0%が好ましい。他のγ’生成元素やNiマトリックスとのバランスを考慮すると、Tiの好ましい下限は0.6%であり、より好ましくは0.7%である。さらに好ましくは0.8%である。また、好ましい上限は6.5%であり、より好ましくは6.0%である。さらに好ましくは4.0%であり、特に好ましくは2.0%である。
【0039】
以下、本発明のNi基超耐熱合金に添加可能な任意成分について説明する。
【0040】
コバルト(Co)
Coは、組織の安定性を改善し、強化元素であるTiを多く含有しても素材準備の際の熱間加工性を維持することを可能とする。一方で、Coは高価なものであるため、コストが上昇する。よって、Coは、他元素との組み合わせにより、例えば、28.0%以下の範囲で含有することができる任意元素の一つである。Coを添加する場合の好ましい下限は8.0%とすると良い。より好ましくは10.0%である。また、Coの好ましい上限は18.0%とする。より好ましくは16.0%である。なお、γ’生成元素やNiマトリックスとのバランスにより、Coを無添加レベル(原料の不可避不純物レベル)としても良い場合は、Coの下限を0%とする。
【0041】
タングステン(W)
Wは、Moと同様、マトリックスの固溶強化に寄与する選択元素の一つである。しかし、Wが過剰となると有害な金属間化合物相が形成されて高温強度を損なうため、例えば、上限を15.0%とする。好ましい上限は13.0%であり、より好ましくは11.0%であり、さらに好ましくは9.0%である。そして、よりさらに好ましくは、Wの上限を、6.0%、5.5%、5.0%とすることもできる。上記のWの効果をより確実に発揮させるには、Wの下限を1.0%とすると良い。好ましくは、Wの下限を、2.0%、3.0%、4.0%にすることもできる。また、WとMoとを複合添加することにより、より固溶強化効果が発揮できる。複合添加の場合のWは0.8%以上の添加が好ましい。なお、Moの十分な添加により、Wを無添加レベル(原料の不可避不純物レベル)としても良い場合は、Wの下限を0%とする。
【0042】
ニオブ(Nb)
Nbは、AlやTiと同様、γ’相を形成し、γ’相を固溶強化して高温強度を高める選択元素の一つである。しかし、Nbの過度の添加は有害なδ(デルタ)相を形成し、素材準備の際の熱間加工性を損なう。よって、Nbの上限は、例えば、4.0%とする。好ましい上限は3.5%であり、より好ましくは2.5%である。なお、上記のNbの効果をより確実に発揮させるには、Nbの下限を1.0%とすると良い。好ましくは2.0%とすると良い。他のγ’生成元素の添加により、Nbを無添加レベル(不可避不純物レベル)としてもよい場合は、Nbの下限を0%とする。
【0043】
タンタル(Ta)
Taは、AlやTiと同様、γ’相を形成し、γ’相を固溶強化して高温強度を高める選択元素の一つである。ただし、Taの過度の添加は、γ’相が高温で不安定となって高温での粗大化を招くとともに、有害なη(イータ)相を形成し、素材準備の際の熱間加工性を損なう。よって、Taは、例えば、5.0%以下とする。好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下である。なお、上記のTaの効果をより確実に発揮させるには、Taの下限を0.3%とすると良い。好ましくは、Taの下限を、0.8%、1.5%、2.0%にすることもできる。TiやNbなどのγ’生成元素添加やマトリックスとのバランスにより、Taを無添加レベル(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Taの下限を0%とする。
【0044】
鉄(Fe)
Feは、高価なNi、Coの代替として用いる選択元素の一つであり、合金コストの低減に有効である。この効果を得るには、他元素との組み合わせで添加するかどうかを決定すると良い。ただし、Feを過剰に含有するとσ(シグマ)相などの脆化相を形成し、強度や素材準備の際の熱間加工性を低下させる。よって、Feの上限は、例えば、10.0%とする。好ましい上限は9.0%であり、より好ましくは8.0%である。一方、γ’生成元素やNiマトリックスとのバランスにより、Feを無添加レベル(不可避不純物レベル)としてもよい場合は、Feの下限を0%とする。
【0045】
バナジウム(V)
Vは、マトリックスの固溶強化、炭化物生成による粒界強化に有用な選択元素の一つである。ただし、Vの過度の添加は製造過程の高温不安定相の生成を招き、製造性および高温力学性能に悪影響を招く。よって、Vの上限は、例えば、1.2%とする。好ましい上限は1.0%であり、より好ましくは0.8%である。なお、上記のVの効果をより確実に発揮させるには、Vの下限を0.5%とすると良い。Ni基超耐熱合金中の他の合金元素とのバランスにより、Vを無添加レベル(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Vの下限を0%とする。
【0046】
ハフニウム(Hf)
Hfは、Ni基超耐熱合金の耐酸化性向上、炭化物生成による粒界強化に有用な選択元素の一つである。ただし、Hfの過度の添加は、製造過程の酸化物生成、高温不安定相の生成を招き、製造性および高温力学性能に悪影響を招く。よって、Hfの上限は、例えば、3.0%、好ましくは2.0%、より好ましくは1.5%、よりさらに好ましくは1.0%とする。なお、上記のHfの効果をより確実に発揮させるには、Hfの下限を0.1%とすると良い。好ましくは、Hfの下限を、0.5%、0.7%、0.8%にすることもできる。Ni基超耐熱合金中の他の合金元素とのバランスにより、Hfを無添加レベル(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Hfの下限を0%とする。
【0047】
ホウ素(B)
Bは、粒界強度を向上させ、クリープ強度、延性を改善する元素である。一方で、Bは融点を低下させる効果が大きいこと、また、粗大なホウ化物が形成されると素材準備の際の熱間加工性が阻害されることから、例えば、0.300%を超えないように制御すると良い。好ましい上限は0.200%であり、より好ましくは0.100%である。さらに好ましくは0.050%であり、特に好ましくは0.020%である。なお、上記の効果を得るには最低0.001%の含有が好ましい。より好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。特に好ましくは0.010%である。Ni基超耐熱合金中の他の合金元素とのバランスにより、Bを無添加レベル(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Bの下限を0%とする。
【0048】
ジルコニウム(Zr)
Zrは、Bと同様、粒界強度を向上させる効果を有している。一方で、Zrが過剰となると、やはり融点の低下を招き、高温強度や素材準備の際の熱間加工性が阻害される。よって、Zrの上限は、例えば、0.300%とする。好ましい上限は0.250%であり、より好ましくは0.200%である。さらに好ましくは0.100%であり、特に好ましくは0.050%である。なお、上記の効果を得るには最低0.001%の含有が好ましい。より好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ni基超耐熱合金中の他の合金元素とのバランスにより、Zrを無添加レベル(不可避不純物レベル)としても良い場合は、Zrの下限を0%とする。
【0049】
以上に説明した元素以外の残部はNiであるが、不可避不純物を含んでもよい。
【0050】
次に、上記に説明した成分組成を有するNi基超耐熱合金を製造する本発明の製造方法について一具体例を説明する。
【0051】
本発明では、熱間押出により結晶粒径200μm以下の素材(raw material)を製造する。熱間押出に供する材料は、例えば、溶湯を鋳型に注湯して鋳塊を作製する溶製法によって得られたものであってもよい。そして、鋳塊の製造には、例えば、真空溶解と、真空アーク再溶解やエレクトロスラグ再溶解等の常法を組み合わせる等して適用すればよい。鋳塊の元素偏析を解消するためにソーキング(例えば1100℃〜1280℃で5〜60時間保持)を行なってもよい。このソーキングは、熱間押出に供する材料の形状に仕上げてから行なってもよい。あるいは、熱間押出に供する材料は、合金塊を作製する粉末冶金法によって得られたものであってもよい。
【0052】
そして、上記の材料に対して、熱間で押出成形を行ない、所定の形状の棒材(bar material)の素材に仕上げる。熱間押出の条件は、押出温度(材料の加熱温度)1050℃〜1200℃、押出比4〜20、押出速度(ステム速度)5〜80mm/sで行なうことが好ましく、成形された押出材(extruded material)の断面径は、例えば、10mm以上や、20mm超である。そして、例えば、200mm以下である。そして、棒材を製造する場合、上記の押出材の表面を機械加工等によって仕上げたり、上記の押出材から所定の寸法の棒材を採取したりして、作製することができる。この場合、棒材の断面径を、例えば、150mm以下、100mm以下、50mm以下、30mm以下、10mm以下といった寸法にすることもできる。また、棒材の断面径を、例えば、3mm以上、4mm以上、5mm以上といった寸法にすることもできる。棒材の断面径を小さくしておくことは、後述する冷間塑性加工で、断面径がさらに小さい線材や細線等を作製するときに、その塑性加工の回数(パス数)を少なくできる点で好ましい。
【0053】
熱間で押出成形を行なうことにより、素材の結晶粒径を200μm以下の再結晶組織にする。好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下の再結晶組織である。また、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上、よりさらに好ましくは1.5μm以上の再結晶組織である。再結晶によって生成された結晶粒は粒内の歪みが少なく、かつ、この結晶粒を微細にすることで結晶粒界も増加するので、これに後述の冷間塑性加工を行なえば、そのときの加工歪みが組織の全体に均等に加わる。また、この結晶粒の微細化が、後述するナノ結晶粒の生成にも効果的である。よって、この工程を行なうことにより、次工程の塑性加工での変形がより均一になり、加工中の異常変形や曲がりの発生を避けることができ、歩留まりを飛躍的に向上させることができる。他方、熱間押出工程を経ないで塑性加工を行なうと、下記の実施例で説明するように、加工中に変形や曲がりが生じ、加工品の形状不良が生じやすい。この効果をさらに向上させるために、熱間押出された素材は、加工による残留応力を除去するための熱処理を施してもよい。
【0054】
素材の結晶粒径は、素材の断面組織から測定することができる。まず、素材の断面をカーリング液で腐食して、その腐食後の断面組織を所定の倍率の光学顕微鏡で観察する。そして、JIS−G−0551(ASTM−E112)に準拠した「粒度番号G」で評価して、その粒度番号Gに相当した「結晶粒の平均直径d」に換算することができる。本発明において素材の結晶粒径は、上記の「結晶粒の平均直径d」をさす。
【0055】
あるいは、素材の結晶粒径は、例えば、素材の断面のEBSD像によって確認することもできる(図8)。そして、EBSDの測定条件を、スキャンステップ:0.1μmとし、結晶粒の定義を方位差15°以上の粒界としたときに認識できる結晶粒について、その個々の結晶粒の最大径と個数との関係を示す結晶粒径分布(図9)から、結晶粒の最大径の平均直径を求めることができる。このとき、結晶粒径分布は、上記の測定条件および定義によって結晶粒と認識されたもので確認すればよく、例えば、最大径が0.2μm以上の結晶粒で確認することができる。本発明において素材の結晶粒径は、上記の「結晶粒の最大径の平均直径」をさす。
なお、素材が炭化物を含むとき、上記のEBSD像では、この炭化物も「方位差15°以上の粒界」で定義した結晶粒として認識され得る(例えば、図8の矢印)。このようなとき、この炭化物も結晶粒として上記の結晶粒径分布に含めてもよく、本発明の効果に差支えない。
EBSD像を用いることで、γ’相の存在によって素材の断面組織の結晶粒界の確認が容易でないときでも(例えば、上記の光学顕微鏡による観察で結晶粒界の特定が容易でないときでも)、結晶粒界を一義的に特定することが容易なので、γ’相の量が多いNi基超耐熱合金の結晶粒の平均直径を求めるのに好適である。また、素材の断面組織の結晶粒径が小さいときでも(例えば、結晶粒の平均直径が30μm以下や、20μm以下、10μm以下といった小さい数値であるときでも)、結晶粒の平均直径を求めるのに好適である。
【0056】
このような素材の硬さは、その組織中に後述するナノ結晶粒が生成されていない状態で、冷間塑性加工による初期の加工性を確保するために、低いことが好ましい。例えば、550HV以下や500HV未満であり、より好ましくは450HV以下である。さらに好ましくは400HV以下であり、よりさらに好ましくは380HV以下である。素材の硬さの下限は、特に限定しないが、250HV程度が現実的である。素材の硬さは、素材の断面で測定することができる。
【0057】
次に、加工率が30%以上の冷間塑性加工を行う。本発明は、従来の「熱間による」塑性加工によるものとは異なり、「冷間による」塑性加工によって、塑性加工性に優れたNi基超耐熱合金を得られるものである。そして、特に、γ’相の量が35モル%以上のNi基超耐熱合金においては、それを冷間塑性加工によって製造することで、熱間塑性加工では発現し難い、後述するγ(ガンマ)相とγ’(ガンマプライム)相との相界面(γ/γ’界面)からのナノ結晶の発生による塑性加工性の「増長作用」が発現するので、熱間塑性加工では加工することが困難であった上記のNi基超耐熱合金を、比較的単純な工程かつ低コストで、線材や細線にまで加工することができる。この達成のために、上記の冷間による塑性加工は、その塑性加工中に回復や再結晶が発生できないと考えられる低い温度領域で行うことが必要である。
そこで本発明における上記の塑性加工温度は、「500℃以下」とすることが好ましい。より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは100℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下(例えば、室温)である。
【0058】
以上に説明したNi基超耐熱合金の製造は、線材形態、板材、帯材などに適用できることは明らかである。そして、このとき、本発明のNi基超耐熱合金は、線材(wire material)、板材(sheet material)、帯材(strip material)の中間製品形状であることの他に、細線(wire product)、薄板(sheet product)、薄帯(strip product)の最終製品形状であってもよいことも、明らかである。板材(薄板)、帯材(薄帯)において、その寸法の関係は、線材(細線)のときの線径(直径)を、板厚または帯厚に替えることができる。
【0059】
とりわけNi基超耐熱合金の熱間押出された素材が棒材の場合、断面積を圧縮する棒材加工を行なうことができる。この場合、Ni基超耐熱合金の「棒材」を出発材料として、この棒材に行う塑性加工の様態として、棒材中に均一に圧力を付与することができる「棒材の長手方向に垂直な断面の断面積を圧縮する加工」を施すことが好ましい。そして、この棒材の素材に、断面積(棒径)を塑性的に圧縮して、長さを伸ばしていく加工を行う。特に、Ni基超耐熱合金の線材を得る場合、線材よりも断面積(直径)が大きい「棒材」を塑性加工して作製することが効率的である。棒材の周面から軸心に向けて、加工率が30%以上の塑性加工を行って、棒材の断面積を圧縮する。このような加工として、スエジング、カセットローラダイス伸線、孔型ダイス伸線などがある。
他方、Ni基超耐熱合金の板材、帯材等の製造には、圧延加工を用いることもできる。
【0060】
ここで、加工率とは、棒材をスエジングやダイス伸線を行なう場合には、減面率により表す。減面率は、塑性加工前の棒材の断面積Aと、塑性加工後の線材や細線の断面積Aとの関係で、
[(A−A)/A]×100(%) (1)
の式で算出される。
他方、圧延加工を行なう場合には、加工率は圧下率で表す。圧下率は、塑性加工前の素材の厚さをtとし、塑性加工後の板材や帯材、薄板や薄帯の厚さをtとすると、
[(t−t)/t]×100(%) (2)
の式で算出される。
累積加工率とは塑性加工を複数回、あるいは複数パスにわたって行なった場合の、最終加工物の素材に対する加工率を示す。
【0061】
図1に、棒材を複数パス(図では2パス)の圧延を行った際の棒材の形状変化を示す模式図を示す。図中、符号1は圧下方向、符号2は圧延面、符号3は側面を示す。加工出発材料である棒材は略円形断面を有するが、上下から圧延ロールにより圧下方向1に圧縮力を受けて、圧延ロールと接触する圧延面2が平面の偏平形状となる。棒材の直径をt、2パス目の上下の圧延面間の距離、すなわち厚さをtとすると、この2パス圧延による加工率は、上記の式(2)で表される。
【0062】
本発明では、上記の冷間塑性加工の加工率(以下に説明するように「累積加工率」を含む)を「30%以上」に高くする。このとき、30%未満の加工率であると、加工の程度が僅かであり、冷間塑性加工を行なうことの実益にも欠ける。加工率は、40%以上が好ましい。加工率は60%以上が更に好ましい。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは85%以上である。そして、よりさらに好ましくは90%以上、特に好ましくは97%以上である。
このような、加工率が30%以上の強加工を行なったNi基超耐熱合金は、更に続けて加工を行なうことが可能な状態になる。したがって、塑性加工中に熱処理を行わないことが好ましい(非加熱であることを含む)。ここでいう熱処理とは、回復や再結晶が発生するような高い温度領域での熱処理のことであり、例えば、500℃を超える温度に加熱する熱処理である。このように冷間加工のパス間に熱処理が必要なく、複数の冷間強加工を連続的に実施して、累積加工率(減面率)を限りなく大きくする(100%に近づく)ことができる。その際、強加工を行なったNi基超耐熱合金は、更に塑性加工を行なっても、例えば硬さ500HV以上に保ったまま加工できる。また、強加工を行なったNi基超耐熱合金は、組織中にナノ結晶粒の生成が観察できる。この機構はまだ完全に解明できていないが、以下のとおり考えられる。
【0063】
Ni基超耐熱合金に加工率30%以上の冷間加工を施すと、加工の途中で加工硬化により500HV以上の硬さを有するようになるが、500HV以上の硬さを有するNi基超耐熱合金にさらに冷間加工すれば、γ/γ’界面からナノ結晶が発生する。このナノ結晶粒が十分に生成されるためには、上記の加工率が最低でも30%程度必要であることを実験的に確認した(実施例参照)。つまり、上記のNi基超耐熱合金の棒材に冷間による塑性加工を行って、その累積の加工率が約30%に到達したときに、ナノ結晶粒が、最初に、γ相とγ’相との相界面に優先的に生成されることを観察した。そして、このナノ結晶粒が一旦生成したNi基超耐熱合金(例えば、棒材(線材))に、さらに冷間による塑性加工を加えていくと、ナノ結晶粒の数が増加し、このナノ結晶粒の増加が、Ni基超耐熱合金(例えば、棒材(線材))の塑性加工性をさらに向上させる。そして、この塑性加工の繰り返しによって(累積の加工率の増加によって)、Ni基超耐熱合金(例えば、棒材(線材))の塑性加工性は益々向上して、塑性加工の途中に熱処理を行わずに、冷間で累積の加工率が97%以上にも及ぶ塑性加工が可能であったという、「室温超塑性的な」塑性加工の現象を確認した。
【0064】
上記の「30%以上」の加工率の冷間塑性加工は、一回の塑性加工で完了してもよいが、組織中にナノ結晶粒が形成されるまでの間において、例えば、Ni基超耐熱合金に割れや疵等が発生することを抑制するために、複数回の塑性加工に分けて完了することが好ましい。その場合の30%以上の加工率とは、累積の加工率である。30%以上の加工率による「大きなひずみ」を、複数回の塑性加工に分けて素材に付与することで、そのひずみが素材中に適度に分散して、ナノ結晶粒の粒界滑りや結晶回転を素材中で均一に生じさせるのに効果的である。その結果、素材中にナノ結晶粒を均一かつ均等に形成させることができるとともに、その塑性加工中の割れや疵等の発生も抑制することができる。複数回の塑性加工に分けるときは、その各々の塑性加工間に熱処理を行う必要はない。
【0065】
なお、上記の一回または累積による30%以上の加工率の上限は、特に設定する必要がなく、例えば、中間製品や最終製品の形状等に応じて、適宜、設定すればよい。そして、例えば、上述の中間製品として、その後にも更に塑性加工が行なわれるNi基超耐熱合金を準備するのであれば、その仕様等に応じて、例えば、50%、45%、40%、35%といった数値を設定することができる。
【0066】
また、複数回の冷間塑性加工に分ける場合、ある任意の塑性加工(パス)における加工率(減面率)を、その前の回の塑性加工(パス)における加工率(減面率)よりも大きくして、加工効率を上げることも可能である。各塑性加工(パス)毎に加工率(減面率)を大きくしてもよい。
本発明における「パス」については、上述したスエジングやダイス伸線、圧延といった種類の塑性加工において、一つの(または、一対でなる)ダイスやロールによって塑性加工されたときを「1パス」と数えることができる。
【0067】
とりわけNi基超耐熱合金の素材が棒材の場合、塑性加工性を向上させるためには、上記の塑性加工で、棒材中に均一かつ均等に圧力を付与することが重要と思われる。そして、このためには、棒材の周面から軸心に向けて、棒材の断面積を圧縮するような塑性加工が効果的である。このとき、塑性加工方式を限定する必要はない。但し、塑性加工される棒材の全周に均等に圧力を加える塑性加工方式が有利である。この具体例として、スエジング加工が挙げられる。スエジング加工は、棒材の全周を囲む複数のダイスを回転させながら、棒材の周面を鍛造するので、ナノ結晶粒の生成に好ましい。その他、カセットローラダイス伸線、孔型ダイス伸線などその他の塑性加工も適用可能である。
【0068】
本発明では、冷間塑性加工を行なう素材は、熱間押出により製造される。熱間押出を行なうことにより、(例えば鋳造組織などを)結晶粒径200μm以下の再結晶組織に形成する。結晶粒径200μm以下の再結晶組織では、素材の組織中にγ’相が均一に再析出するので、その後の冷間塑性加工後の組織中にナノ結晶粒が形成されやすくなる。これは、Ni基超耐熱合金が有するγ相とγ’相との相界面が均一になることで、ナノ結晶粒の形成が促されるものと考えられる。
【0069】
冷間塑性加工後のNi基超耐熱合金は、γ相とγ’相とが延伸方向に延びた線状組織になる(図3参照)。このことにより、本発明のNi基超耐熱合金は、γ相とγ’相との線状組織を有したものとすることができる。そして、このような線状組織の線状方向(つまり、上記の延伸方向)に炭化物が集合した組織を有したものとすることもできる(図12参照)。しかし、所定の寸法、形状に塑性加工した後、最終製品として供給するときに、必要に応じて、熱処理(例えば1000℃〜1200℃で30分〜3時間保持)を施すことにより所望の等軸結晶組織にすることができる(図5参照)。そして、この等軸結晶組織に、上記のような線状に集合した炭化物を有した組織とすることもできる(図13参照)。この熱処理によって、例えば、硬さを500HV未満や450HV以下、420HV以下に調整することが可能である。そして、例えば、300HV以上や、350HV以上の硬さである。このことによって、最終製品を輸送形態や使用形態に見合った形態に曲げたり切断したりすることが容易になる。
【0070】
この製造方法により、上述した線材、板材、帯材などの中間製品形状のものから、細線、薄板、薄帯などの最終製品形状のものまでの様々な形態のNi基超耐熱合金を提供することもできる。
【0071】
本発明の製造方法により製造されるNi基超耐熱合金は、優れた塑性加工性を有しており、特に、冷間塑性加工性に優れるものである。このNi基超耐熱合金は、上記に説明したとおり、500HV以上の硬さを有することができる。あるいは、断面組織中に最大径が75nm以下の結晶粒を有することができる。
【0072】
本発明の製造方法により製造されるNi基超耐熱合金は、その断面組織中に最大径が75nm以下の「ナノ結晶粒」を有することによって、冷間での塑性加工性が飛躍的に向上する。このメカニズムはまだ十分に解明できていない。しかし、上述したようにγ相とγ’相との相界面が、ナノ結晶粒の生成に寄与しているものと思われる。そして、この生成されたナノ結晶粒は、塑性加工率の上昇とともにその数が増加し、かつ、これが粒界滑りを生じたり結晶回転したりすることによってNi基超耐熱合金の塑性変形を実現し、従来の転位の発生と増殖とによる結晶のすべりによる塑性変形とは、その変形のメカニズムが異なる可能性がある。この可能性を示唆する一つの事実として、Ni基超耐熱合金に冷間での塑性加工を行ったとき、ナノ結晶粒が一旦生成し始めると、更に塑性加工を行うことで(塑性加工率を増加させることで)、ナノ結晶粒の数が増えていくが、硬さは塑性加工率の増加によらず(若干増大する場合も含み)“ほぼ一定”(例えば、上記のγ’モル率が35モル%以上のNi基超耐熱合金の場合で500HV以上)であることを、本発明者は確認している。この現象は、塑性加工による転位密度の上昇が生じていないことを示唆する。
【0073】
このように塑性加工性の向上に寄与するナノ結晶粒の大きさは、Ni基超耐熱合金の断面組織において、「最大径が75nm以下」のものである。そして、この最大径が75nm以下という結晶粒のサイズは、従来の通常のプロセスにおいて見られる結晶粒のサイズと区別できるものである。このとき、上記の断面組織は、例えば線材の場合、長手方向に半割したときの断面(つまり、線材の中心軸を含む断面)から採取すればよい。そして、この断面において、例えば、線材の表面の位置、線材の表面から中心軸に向かって1/4D入った位置(Dは線径である)、および、線材の中心軸の位置の、それぞれの断面から採取すればよい。そして、これらそれぞれの断面の一つ、または二つ以上の断面組織に、上記のナノ結晶粒が存在していることを確認すればよい。
なお、線材以外の形状でも、上記と同様に、長手方向に半割したときの断面を観察すればよい。
【0074】
本発明の製造方法により製造されるNi基超耐熱合金の断面組織中の最大径が75nm以下のナノ結晶粒は、断面組織1μmあたり5個以上存在することが好ましい。ナノ結晶粒が増えることで、塑性変形の役割を果たす媒体が増えて、塑性加工性がさらに向上する。さらには好ましくは、最大径が75nm以下の結晶粒が、断面組織1μmあたり10個以上、より好ましくは50個以上、さらに好ましくは100個以上存在することである。そして、200個以上、300個以上、400個以上の順番で、よりさらに好ましい。上記のナノ結晶粒の個数密度は、観察した全ての断面組織で確認されたナノ結晶粒の総個数を、観察した全ての視野面積で割って、平均して求めればよい。
なお、断面組織中の最大径が75nm以下のナノ結晶粒について、その最大径の下限は特に設定する必要がない。そして、断面組織中の最大径が75nm以下のナノ結晶粒の有無や個数は、例えば、EBSD像によって確認することができる。そして、EBSDの測定条件を、スキャンステップ:0.02μmとし、結晶粒の定義を方位差15°以上の粒界としたときに認識できる結晶粒のうちから、最大径が75nm以下のナノ結晶粒を抽出して数えることができる。そして、一例として、最大径が約25nm以上のナノ結晶粒の有無および個数を確認することができる。
【0075】
以上のことによって、本発明の製造方法により製造されるNi基超耐熱合金は、冷間での塑性加工性に優れていることから、これを「冷間塑性加工用」とすることができる。
また、本発明のNi基超耐熱合金は、冷間塑性加工が行われる中間製品形状である「線材」や「板材」、「帯材」とすることができる。線材とは、その線径(直径)が、例えば、10mm以下、8mm以下、6mm以下といったものから、果ては5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下といった細いものである。また、板材、帯材とは、その厚さが、例えば、10mm以下、8mm以下、6mm以下といったものから、果ては5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下といった薄いものである。そして、線材、板材、帯材とは、その長さが、上記の線径や厚さに対して、例えば、10倍以上、50倍以上、100倍以上といった長いものである。
また、このNi基超耐熱合金は、上記の冷間塑性加工によって得られた最終製品形状である「細線」や「薄板」、「薄帯」とすることができる。細線とは、その線径(直径)が、例えば、5mm以下、4mm以下、3mm以下といったものから、果ては2mm以下、1mm以下といった更に細いものである。また、薄板、薄帯とは、その厚さが、例えば、5mm以下、4mm以下、3mm以下といったものから、果ては2mm以下、1mm以下といった更に薄いものである。そして、細線、薄板、薄帯とは、その長さが、上記の線径や厚さに対して、例えば、50倍以上、100倍以上、300倍以上といった更に長いものである。
【実施例1】
【0076】
真空溶解によって準備した溶湯を鋳造して、直径100mm、質量10kgの円柱状のNi基超耐熱合金Aのインゴットを作製した。Ni基超耐熱合金Aの成分組成を表1に示す(質量%)。表1には、上記のインゴットの「γ’モル率」も示す。この値は、市販の熱力学平衡計算ソフト「JMatPro(Version 8.0.1,Sente Software Ltd.社製品)」を用いて計算した。この熱力学平衡計算ソフトに、表1に列挙された各元素の含有量を入力して、上記の「γ’モル率」(%)を求めた。
【0077】
【表1】
【0078】
このNi基超耐熱合金Aのインゴットに保持温度1200℃、保持時間8時間の熱処理を施し、炉冷してから、このインゴットの長さ方向に平行方向に直径60mm、長さ150mmの円柱形状の材料を採取した。この円柱形状の材料をSUS304製カプセルに封止して、熱間押出に供した。熱間押出の条件は、押出温度1150℃、押出比4、押出ステム速度15mm/sであった。熱間押出により、直径27mmの押出材を得た。この押出材を、押出材の軸線方向に平行に半割切断して、その切断面のミクロ組織および硬さを評価した。測定場所は、押出材の表面から軸心に向かってD/4(Dは押出材直径)の距離入った位置とした。この位置のミクロ組織において、γ組織中にγ’相が均一に析出していた。そして、この位置から抽出した5視野(1視野の組織の例を図2に示す)の結晶粒径を上述の要領に従って測定し、各視野の「結晶粒の平均直径d」の平均を「素材の結晶粒径」とした。また、上記の位置から抽出した5点の硬さを測定して平均値を求め、素材の硬さとした。この方法で測定した素材の結晶粒径(平均結晶粒径)は38μm(ASTM−E112による粒度番号6.5)、硬さは351HVであった。
【0079】
次に、押出材から直径6mm、長さ60mmの棒材を切り出した。棒材の長手方向は押出材の軸線方向に平行に取った。この棒材に、回転式スエジング装置を用いて、室温(約25℃)で複数パスの冷間塑性加工を施した。加工パスどうしの間に熱処理を行わずに連続的に行った。各パスの詳細および複数パス加工後の累積減面率を表2に示す。累積減面率は、上記に説明した式(1)から求めた。
【0080】
【表2】
【0081】
合金No.1−1は、加工後の線径が5.5mmであり、加工率(減面率)は16.0%であった。合金No.1−2は、さらに累積的にスエジング加工を線径5.0mmまで行った(加工率30.6%)。さらに、合金No.1−3から合金No.1−9は、合金No.1−2の線材に、表2に示したパス(加工率)のスエジング加工を、順次、累積しながら行った。このように、棒材からの累積加工率を増加させた合金No.1−1から合金No.1−9までのNi基超耐熱合金の線材をそれぞれ作製した。なお、各スエジング加工どうしの間で熱処理は行っていない。いずれの合金試料も良好な形状を保って加工することができた。図3に合金No.1−9の断面組織の光学顕微鏡写真(倍率1000倍)を示す。この断面ミクロ組織は、線材の長手方向に半割した断面において、線材の表面から中心軸に向かって1/4D入った位置(位置A)の断面から採取した組織(Dは線材の線径を示す)であり、研磨後カーリング液でエッチングを行なった。この図からγ相とγ’相とが延伸方向に延びた線状組織になっていることがわかる。
【0082】
さらに、以上の各合金試料の断面ミクロ組織のEBSD像を評価した。この断面ミクロ組織は、上記の位置Aの断面から採取した組織である。そして、EBSDの測定条件は、走査型電子顕微鏡「JIB−4700F(日本電子社製)」に付属したEBSD測定システム「Aztec Version 3.2(Oxford Instruments社製)」を使用して、倍率:10000倍、スキャンステップ:0.02μmとし、結晶粒の定義は方位差15°以上を粒界とした。このとき、EBSD像に確認されたナノ結晶粒の最大径(最大長さ)は、小さいもので約25nmであり、この値以上の最大径のナノ結晶粒の有無および個数を確認した。本発明例の合金No.1−2の線材は、その断面組織中に最大径が75nm以下のナノ結晶粒を有していた。
合金No.1−2の線材の長手方向に半割した断面において、線材の表面の位置(位置B)の断面および線材の中心軸の位置(位置C)の断面からも組織を採取して、上記と同様のEBSDによる解析を行った。そして、位置A、B、Cからそれぞれ2ヶ所採取した計6ヶ所の断面組織について、視野面積(2μm×3μm)でカウントされた最大径が75nm以下のナノ結晶粒の総数を、総視野面積(6μm×6)で割って求めた、上記のナノ結晶粒の単位面積あたりの個数密度は「21個/μm」であった。
また、各合金試料の、上記の位置Aにおける硬さも測定した。そして、合金No.1−2の線材の硬さは、560HVであった。
【0083】
他方、合金No.1−1の断面ミクロ組織を合金No.1−2と同じ要領で観察したところ、最大径が75nm以下のナノ結晶粒は観察されなかった。また、硬さも492HVであった。
【0084】
合金No.1−3から合金No.1−9までの線材も、その断面組織中に最大径が75nm以下のナノ結晶粒を有していた。一例として、図4に合金No.1−9のEBSD像(位置A)を示す(図中、ナノ結晶粒は色調の違いで区別できる個々の微細な粒として見えている)。そして、これらの線材について、合金No.1−2と同じ要領で、その断面組織中にある75nm以下のナノ結晶粒の単位面積あたりの個数密度を測定した。また、線材の硬さも測定した。これら測定結果を、表2に示す。
【0085】
表2の結果より、ナノ結晶粒が一旦生成したNi基超耐熱合金に、さらに冷間による塑性加工を加えていくことで、ナノ結晶粒の数が増加することがわかる。しかし、ナノ結晶粒の数が増えていく一方で、Ni基超耐熱合金の硬さは塑性加工率の増加によらず、ほぼ一定であった。このため、スエジング加工により線径が1.5mmである本発明例No.1−9の線材にまで冷間で塑性加工することができた。これを合金No.1−2の線材を出発材料(つまり、硬さが500HV以上であり断面組織中に最大径が75nm以下の結晶粒を有するNi基超耐熱合金材料)とすると、この合金材料の線材からの累積加工率が91%に及び、当初の棒材素材からの累積加工率であれば94%にも及ぶ塑性加工を冷間で行うことができた。さらに、本発明例の合金No.1−9の線材は、上記の大きな累積加工率による塑性加工以降も、さらに冷間で塑性加工を行うことができる状態であった。すなわち、本発明例の加工後の硬さは、加工率にかかわらずほぼ一定(558HV〜620HV)であった(加工率が85%以上ではむしろ僅かながら硬さが低下する傾向を示した)ことから一旦、最大径が75nm以下の結晶粒が形成され、500HV以上の硬さを有するNi基超耐熱合金材料は、続けて冷間加工を行なうことが可能であることがわかる。
なお、上記冷間加工の後に合金No.1−9に1200℃で30分保持(炉冷)の熱処理を施した。熱処理後の硬さは365HVであった。その断面の光学顕微鏡写真(倍率200倍)を図5に示す。観察は上記位置Aで行い、断面を研磨後カーリング液によりエッチングを行なった。この熱処理により加工組織を等軸結晶組織にすることができることがわかる。
【実施例2】
【0086】
実施例1で説明した方法、条件で作製したNi基超耐熱合金Aの熱間押出材(直径27mm、平均結晶粒径は38μm、硬さ351HV)から、直径4mm、長さ60mmの棒材を切り出した。棒材の長手方向は押出材の軸線方向に平行に取った。この棒材に、ロール圧延機により、室温(約25℃)で複数パスの加工を施した(図1)。加工パスどうしの間に熱処理を行わずに連続的に行った。各パスの詳細および複数パス加工後の圧下率を表3に示す。圧下率は上記に説明した式(2)から求めた。
比較例として、Ni基超耐熱合金Aの上記インゴットに保持温度1200℃、保持時間8時間の熱処理を施し、炉冷したものから、直径4mm、長さ60mmの棒材を切り出して、本発明例と同様のロール圧延機による圧延を行なった。すなわち、この素材は、熱間押出を施さずに、鋳造材を圧延に供した。圧延加工前の棒材の結晶粒径(平均結晶粒径)は2.8mm、硬さは323HVであった。
【0087】
本発明例の合金No.2−2から合金No.2−5は、いずれの合金試料も良好な形状を保って加工することができた(図6A図6B参照)。しかし、熱間押出を行なわなかった合金No.2−6および合金No.2−7は圧延途中で歪みが生じて、良好な板材形状にはならず、蛇行や変形が発生した(図7A図7B参照)。
【0088】
【表3】
【0089】
表3の結果より、合金No.2−1の板材は、圧延加工後の板厚は3.5mmであり、加工率(圧下率)は12.5%であり、硬さも461HVであった。他方、合金No.2−2からNo.2−5までの板材は、加工率(圧下率)は30%以上であり、これらのNi基超耐熱合金の硬さはいずれも500HV以上であったが、実施例1の結果と異なり、加工率の増加に伴って硬さは僅かに増加する傾向が見られた。加工が進んだ板材では600HV以上の硬さであった。
以上の結果から、圧延加工においても実施例1と同様、500HV以上の硬さを有するNi基超耐熱合金は、続けて冷間加工を行なうことが可能であることがわかる。
なお、合金No.2−2からNo.2−5までの板材は、いずれもその断面ミクロ組織中に最大径が75nm以下のナノ結晶粒が観察され、加工率の増加に伴ってナノ結晶粒の個数密度も増大した。他方、合金No.2−1の線材の断面ミクロ組織には、最大径が75nm以下のナノ結晶粒は観察されなかった。
【実施例3】
【0090】
真空溶解によって準備した溶湯を鋳造して、直径80mm、質量10.5kgの円柱状のNi基超耐熱合金Bのインゴットを作製した。Ni基超耐熱合金Bの成分組成を表4に示す(質量%)。表4には、実施例1と同じ要領で求めた、上記のインゴットの「γ’モル率」(%)も示す。
【0091】
【表4】
【0092】
このNi基超耐熱合金Bのインゴットに保持温度1200℃、保持時間8時間の熱処理を施し、炉冷してから、このインゴットの長さ方向に平行方向に長さ150mm、直径66mmの円柱形状の材料を採取した。この円柱形状の材料をSUS304製カプセルに封止して、熱間押出に供した。熱間押出の条件は、押出温度1150℃、押出比10、押出ステム速度15mm/sであった。熱間押出により、直径27mmの押出材を得た。
【0093】
この押出材を、押出材の軸線方向に平行に半割切断して、その切断面のミクロ組織および硬さを評価した。図10に走査型電子顕微鏡観察(倍率2000倍)による上記切断面の軸線部の断面ミクロ組織を示す。ミクロ組織には各種の炭化物(MC、MC、M23等)が観察された(図中の分散物)。また、ミクロ組織の硬さは496HVであった。
【0094】
そして、素材の結晶粒径をEBSD像で評価した。測定場所は、上記の切断面において、押出材の表面から軸心に向かってD/4(Dは押出材直径)の距離入った位置とした。EBSDの測定条件は、走査型電子顕微鏡「JIB−4700F(日本電子社製)」に付属したEBSD測定システム「Aztec Version 3.2(Oxford Instruments社製)」を使用して、倍率:2000倍、スキャンステップ:0.1μmとし、結晶粒の定義は方位差15°以上を粒界とした。そして、この測定条件および定義によって結晶粒と認識されたもの(炭化物を含む)について、個々の結晶粒の最大径(最大長さ)と個数との関係による結晶粒径分布を確認し、結晶粒の最大径の平均直径を求めた。
このときのEBSD像を図8に、結晶粒径分布を図9に示す。図9において、横軸の結晶粒径(結晶粒の最大径)は0.2μm毎に纏めて示しており、例えば、最大径が0.2μm以上0.4μm未満の結晶粒は「0.4μm」のグループに、最大径が0.6μm以上0.8μm未満の結晶粒は「0.8μm」のグループに纏めてある。個々の結晶粒の最大径で、最も大きな値は6.43μmであった。また、最も小さな値は0.36μmであった。そして、結晶粒の最大径の平均直径(つまり、素材の結晶粒径)は、1.1μmであった。
【0095】
次に、押出材から直径6mm、長さ60mmの棒材を切り出した。棒材の長手方向は押出材の軸線方向に平行に取った。この棒材に、回転式スエジング装置を用いて、室温(約25℃)で複数パスの冷間塑性加工を施した。加工パスどうしの間に熱処理を行わずに連続的に行った。各パスの詳細および複数パス加工後の累積減面率を表5に示す。累積減面率は、上記に説明した式(1)から求めた。
【0096】
【表5】
【0097】
表5の結果より、合金No.3−2からNo.3−4までの線材は、加工率(減面率)が30%以上に達していたにも関わらず、良好な形状を保って加工することができた。そして、合金No.3−2からNo.3−4までの線材は、いずれもその断面ミクロ組織中に最大径が75nm以下のナノ結晶粒が観察された。
【0098】
合金No.3−2、No.3−3およびNo.3−4の線材の断面組織は、γ相とγ’相とが延伸方向(線材の長手方向)に延びた線状の加工組織になっていた。また、炭化物も延伸方向に集合する傾向が見られた。図11図12に走査型電子顕微鏡観察(倍率1000倍)による合金No.3−2、No.3−3の上記の加工組織の断面ミクロ組織を示す。この冷間加工後の合金に熱処理(例えば、1150℃、30分後、炉冷)を施すことで、上記の加工組織を等軸結晶組織にすることができる。そして、Ni基超耐熱合金の組織は、上記の等軸晶組織に、線状に集合した炭化物を有した組織となる。図13に走査型電子顕微鏡観察(倍率1000倍)による合金No.3−3の上記の等軸結晶組織の断面ミクロ組織を示す。
【0099】
以上、各実施例のNi基超耐熱合金は、塑性加工性に優れており、本発明の製造方法により製造したNi基超耐熱合金は冷間で塑性加工することで、任意の線径の線材等に加工できることを確認した。本実施例は、線材や板材の製造について行なったが、これら線材や板材を、もちろん、最終製品形状の細線や薄板として扱うこともできる。そして、本発明のNi基超耐熱合金は塑性加工性に優れているため、これら以外の形状への塑性加工も可能であることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13