特開2019-218645(P2019-218645A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218645(P2019-218645A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20191129BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20191129BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20191129BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   D21H21/02
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 520J
   B01D21/01 106
   C02F1/52 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-115278(P2018-115278)
(22)【出願日】2018年6月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
【テーマコード(参考)】
4D015
4L055
【Fターム(参考)】
4D015BA05
4D015BA09
4D015BA19
4D015BB06
4D015BB11
4D015CA05
4D015DB22
4D015DC04
4D015EA06
4D015EA37
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG35
4L055AG47
4L055AG88
4L055AH21
4L055AH22
4L055BD01
4L055BD10
4L055EA25
4L055FA13
4L055FA20
(57)【要約】
【課題】抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)に対して、抄紙工程水に含まれるデンブン成分をより多く定着させることを可能にし、(1)紙の強度向上、(2)微生物等による抄紙工程水の汚れ低減、(3)抄紙工程水の発泡抑制、(4)廃水処理の負荷軽減等を可能にした紙の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、抄紙原料を含むSSと未定着デンプンとを含有する抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含む。その際、抄紙工程水に含まれるSSの濃度が100mg/L以上であり、未定着デンプンの濃度が10mg/L以上であり、ポリマーの塩粘度が3mPa・s以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙原料を含む懸濁物質と未定着デンプンとを含有する抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含み、
前記抄紙工程水に含まれる前記懸濁物質の濃度が100mg/L以上であり、
前記抄紙工程水に含まれる前記未定着デンプンの濃度が10mg/L以上であり、
以下の方法で計測したときの前記ポリマーの塩粘度が3mPa・s以上である、紙の製造方法。
<塩粘度の計測方法>
4重量%の食塩及び0.5重量%のポリマーを含有する水溶解液の粘度を25℃、ローター回転数60rpmの条件で測定する。粘度測定方法はJIS K 7117−2に基づく。
【請求項2】
前記抄紙工程水にスライムコントロール剤を加える工程を含む、請求項1に記載の紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や板紙を製造する際、得られる紙や板紙の強度を向上させることを目的として、原料に対してデンプンが添加、散布、塗布される。また、紙や板紙を加工する際、接着剤としてデンプンが用いられる。
【0003】
ところで、近年、損紙あるいは古紙を再利用して紙を製造することが頻繁に行われる。損紙あるいは古紙の再利用は、損紙あるいは古紙を離解することによって行われ、離解により、損紙あるいは古紙に含まれていたデンプン成分が水に溶出する。
【0004】
水に溶出したデンプン成分のほとんどは、パルプや填料等の抄紙原料に定着し、製品の強度向上等といった本来の目的に使用される。それに対し、残りのデンプン成分は、抄紙工程水に溶存したまま残る。
【0005】
溶出したデンプンは微生物の栄養源となり腐敗による悪臭やスライム発生の原因となる。また、溶存しているデンプンは発泡や廃水処理の負荷増加などの問題の原因となる。
【0006】
これらの課題を解決するため、薬剤を用いて、抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)に、抄紙工程水に溶存するデンプンをできるだけ多く定着させ、定着後の抄紙工程水に含まれるデンプンの溶存量をできるだけ少なくするための種々の対策が試みられている。
【0007】
例えば、特許文献1では、製紙工程水に、カチオン性官能基、アニオン性官能基又は水素結合能を持つ官能基を有する実質的に水不溶性の有機系微粒子を添加する工程と、有機系微粒子の添加後の製紙工程水に、無機凝結剤、有機凝結剤及び有機高分子凝集剤から選択される1以上を添加する工程とを経ることが提案されている。
【0008】
また、例えば、特許文献2では、製紙工程水に、所定のカチオン性官能基を有するポリマーを添加する工程を経ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−229571号公報
【特許文献2】国際公開2012/043256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のいずれの手法も、抄紙工程水に溶存するデンブン成分を懸濁物質(SS)粒子に物理的に吸着させる手法である。この手法では、懸濁物質(SS)粒子に対するデンプンの吸着量に限界がある。また、抄紙工程水に溶存するデンプンのほとんどは、ノニオン性あるいは弱アニオン性であり、カチオン性の薬剤と反応できるデンプンの割合が少ないこと等から、実用面での課題が残る。
【0011】
近年、省資源対策として、原料としての損紙あるいは古紙の配合率はますます高まり、廃水量を抑えるため、廃水を工程外に出さない、いわゆる抄紙工程のクローズド化が進む傾向にある。これら古紙配合率の増加、抄紙工程のクローズド化等により、抄紙工程水に溶出した状態で残存するデンプンの濃度がこれまで以上に高くなることが予想され、上述した課題がこれまで以上に多くなることが予想される。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)に対して、抄紙工程水に含まれるデンブン成分をより多く定着させることを可能にし、(1)紙の強度向上、(2)微生物等による抄紙工程水の汚れ低減、(3)抄紙工程水の発泡抑制、(4)廃水処理の負荷軽減等を可能にした紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、抄紙工程水に含まれるデンプンを不溶化させ、その後、不溶化させたデンプンを抄紙原料に定着させることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
これまで、薬剤を抄紙工程水に含まれる所定の物質に定着させる試みが行われている。薬剤は、カチオン性あるいはアニオン性であり、抄紙工程における薬剤の定着は、カチオン性物質とアニオン性物質との間で生ずるイオン結合を利用したものが一般的である。しかしながら、抄紙工程水に溶存する溶存デンプンは、ノニオン性あるいは弱アニオン性であり、溶存デンプンと抄紙原料(懸濁物質:SS)との間にイオン結合を生じさせ、イオン結合によって溶存デンプンを不溶化させることは難しい。したがって、溶存デンプンの不溶化は、イオン結合とは別のアプローチで行う必要があり、抄紙工程において溶存デンプンの不溶化を実現することは、容易ではない。
【0015】
具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0016】
(1)本発明は、抄紙原料を含む懸濁物質と未定着デンプンとを含有する抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含み、前記抄紙工程水に含まれる前記懸濁物質の濃度が100mg/L以上であり、前記抄紙工程水に含まれる前記未定着デンプンの濃度が10mg/L以上であり、以下の方法で計測したときの前記ポリマーの塩粘度が3mPa・s以上である、紙の製造方法である。
<塩粘度の計測方法>
4重量%の食塩及び0.5重量%のポリマーを含有する水溶解液の粘度を25℃、ローター回転数60rpmの条件で測定する。粘度測定方法はJIS K 7117−2に基づく。
【0017】
(2)また、本発明は、前記抄紙工程水にスライムコントロール剤を加える工程を含む、(1)に記載の紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、抄紙工程水に含まれる未定着デンプンと、ポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位とを結合させ、未定着デンプンを不溶化させることができる。この不溶化は、イオン結合とは別のアプローチであり、水酸基の水素結合による分子の会合により起こるものと予想される。
【0019】
未定着デンプンを不溶化させることで、パルプや填料等の抄紙原料(懸濁物質:SS)に対して、不溶化デンプンをより効率的に定着させることができる。
【0020】
これらにより、本発明は、以下の(1)〜(6)に示す格別の効果を一挙に実現することができる。
【0021】
(1)紙力の向上
第1に、パルプや填料等の抄紙原料(懸濁物質:SS)に定着したデンプンと、抄紙原料を構成するセルロース繊維との間が水素結合で結ばれ、これにより、製品としての紙の強度(紙力)を高めることができる。そして、紙の軽量化、安価原料の使用、紙力増強剤の低減が可能になる。
【0022】
(2)歩留の向上
第2に、デンプンの不溶化に伴って抄紙原料(懸濁物質:SS)が凝集することにより、抄紙工程水をワイヤー(網)に載せ、抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー(網)上に残し、水成分をワイヤー(網)の下に落とすワイヤーパートにおいて、より多くの抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー上で捕捉できるようになり、製品の歩留を高めることができる。
【0023】
(3)サイズ剤、染料などの内添薬剤定着改善
第3に、デンプンの不溶化に伴って抄紙原料(懸濁物質:SS)が凝集することにより、紙製品への水の浸透やインクのにじみを防ぐサイズ剤や、紙製品に色を付与する染料等の種々の薬剤を、抄紙原料に対してより効率よく定着させることが可能になり、結果として、サイズ剤や染料等の種々の薬剤の削減が可能になる。
【0024】
(4)汚れ低減
第4に、抄紙工程水に溶存するデンプンの濃度を抑えられるため、微生物の栄養源の量が少なくなり、スライムの発生を抑えられる。抄紙工程後の水に残存するデンプン濃度、薬剤濃度を抑えることができ、抄紙工程後の水の汚れを抑えられるため、清掃回数の低減、連続操業期間の延長等が可能になる。
【0025】
(5)発泡抑制
第5に、抄紙工程水に溶存するデンプンに起因する抄紙工程水の発泡を抑えることができ、泡スカムによる製品(紙)の汚れ、欠点を抑えられるとともに、断紙量を減らすことも可能になる。また、泡スカムを防ぐための消泡剤の使用量を低減できる。
【0026】
(6)廃水負荷低減
第6に、抄紙工程から排水される廃水中のデンプン、抄紙原料(懸濁物質:SS)、薬剤、その他の溶存有機物の濃度を抑えることができる。これにより、廃水処理の負荷軽減、廃水処理用薬剤使用量低減が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0028】
<紙の製造方法>
本実施形態における紙の製造方法は、抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含む。
【0029】
〔抄紙工程水〕
抄紙工程水は、抄紙原料を含む懸濁物質(SS)と、未定着デンプンとを含有する。抄紙工程水は、懸濁物質(SS)と未定着デンプンとを含有する製紙工程水であれば、特に制限されるものでなく、原料スラリー、白水希釈後スラリー、白水、脱水機あるいは洗浄機のろ液、白水回収処理水、廃水、離解回収原料等のいずれであってもよい。
【0030】
[懸濁物質(SS)]
懸濁物質(SS)は、パルプ繊維、化学繊維、填料、顔料等の抄紙原料を含む。
【0031】
抄紙工程水に含まれる懸濁物質の濃度の下限は、0.1g/L以上であり、好ましくは0.2g/L以上であり、より好ましくは0.5g/L以上であり、さらに好ましくは1g/L以上である。懸濁物質の濃度が低すぎると、抄紙工程水に含まれる未定着デンプンを、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーで不溶化させたとしても、不溶化デンプンの定着対象である懸濁物質の量が十分でなく、製品としての紙の好適な歩留が得られない可能性がある。
【0032】
抄紙工程水に含まれる懸濁物質の濃度の上限は特に限定されないが、製造ラインでの安定性を考慮すると、懸濁物質の濃度の上限は、200g/L以下であることが好ましく、100g/L以下であることがより好ましく、50g/L以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態において、抄紙工程水に含まれる懸濁物質の濃度は、JIS P 8225にしたがって測定するものとする。
【0034】
[未定着デンプン]
本実施形態において、未定着デンプンとは、抄紙工程水に含まれるデンプンのうち、抄紙原料(懸濁物質:SS)に定着する前の段階であるデンプンをいう。
【0035】
抄紙工程水に含まれる未定着デンプンの濃度の下限は、10mg/L以上であり、好ましくは50mg/L以上であり、より好ましくは100mg/L以上であり、さらに好ましくは500mg/L以下である。未定着デンプンの濃度が低すぎると、抄紙工程水に加えるポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位との結合によって得られる不溶化デンプンの量が少なく、不溶化デンプンを抄紙原料に対して十分に定着させることができず、結果として、(1)紙の強度向上、(2)微生物等による抄紙工程水の汚れ低減、(3)抄紙工程水の発泡抑制、(4)廃水処理の負荷軽減等の効果を十分に得ることができないため、好ましくない。
【0036】
抄紙工程水に含まれる未定着デンプンの濃度の上限は、特に限定されるものでないが、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーと反応して不溶化したデンプンが定着対象となる懸濁物質の量に対して過大であると、未定着のまま抄紙工程水に分散した形で残留することになる。
【0037】
本実施形態において、未定着デンプンの濃度は、次の方法で測定するものとする。抄紙工程水を5Aろ紙でろ過したろ液を、10倍希釈塩酸を用いて体積比で2〜20倍に希釈した後、ろ液100体積%に対して、0.002Nヨウ素溶液を5.26体積%加えて分光光度計で580nmの吸光度を測定する。そして、測定値を、キシダ化学製試薬特級のデンプンを用いて予め作成した検量線にあてはめ、未定着デンプンの濃度を得る。
【0038】
〔ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマー:デンプン不溶化剤〕
本実施形態は、上述した抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含む。このポリマーは、抄紙工程水に含まれる未定着デンプンを不溶化させる機能を有する。
【0039】
ポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位と、抄紙工程水に含まれる未定着デンプンとが反応し、未定着デンプンが不溶化する。未定着デンプンの不溶化は、水酸基の水素結合による分子の会合により起こると推測される。
【0040】
本実施形態において、未定着デンプンの不溶化物(以下、「不溶化デンプン」ともいう。)の形状は、固い粒子状の完全な不溶化物に限るものでなく、ゼリー状、高粘度液状の態様も含まれるものとする。
【0041】
本実施形態において、ポリアルキレンオキサイド部位は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド等、ポリアルキレンオキサイドの構造を有するものであれば、特に限定されない。ポリアルキレンオキサイド部位は、アルキレンオキサイドを重合した構成単位を繰り返し単位としてポリエーテル構造を有し、アルキレンオキサイドの種類としては、単独のものが用いられていても、複数種の組み合わせであってもよく、それらの並びがランダム構造でもブロック構造でもよい。ポリマーの構造はポリアルキレンオキサイド部位を主鎖とするものでもよいし何らかのポリマー主鎖にポリアルキレンオキサイド部位を側鎖として付加したものでもよい。
【0042】
ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの塩粘度の下限は、3mPa・s以上であり、好ましくは5mPa・s以上であり、より好ましくは10mPa・s以上であり、さらに好ましくは50mPa・s以上であり、よりさらに好ましくは100mPa・s以上であり、特に好ましくは200mPa・s以上である。ポリマーの塩粘度が低すぎると、抄紙工程水に含まれる未定着デンプンを、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーで不溶化させたとしても、懸濁物質に対して不溶化デンプンを好適に定着できない可能性がある。
【0043】
ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーの塩粘度の上限は特に限定されないが、抄紙工程水への水溶性や、ポリマーの取り扱い性に影響が及ぶのを防ぐため、塩粘度の上限は、2,000mPa・s以下であることが好ましく、1,000mPa・s以下であることがより好ましく、500mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態において、塩濃度の計測は、以下の手法にて行うものとする。
4重量%の食塩及び0.5重量%のポリマーを含有する水溶解液の粘度を25℃、ローター回転数60rpmの条件で測定する。粘度測定方法はJIS K 7117−2に基づく。
【0045】
ポリアルキレンオキサイドに相当する構成単位におけるポリアルキレン部分の炭素数は、特に限定されない。中でも、抄紙工程水への水溶性が高く、ポリマーの取り扱いが容易であることから、炭素数の下限は、2以上であることが好ましく、炭素数の上限は、12以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましい。
【0046】
デンプン不溶化剤を構成するポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位の割合の下限は、ポリマー全体に対して5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましく、50重量%以上であることが特に好ましい。
【0047】
当該割合の上限は、ポリマーの塩粘度が好適な範囲内にある限りにおいては特に限定されず、デンプン不溶化剤を構成するポリマーに含まれるポリアルキレンオキサイド部位の割合がポリマー全体に対して100重量%であってもよい。
【0048】
ポリマーを構成する官能基のうち、ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位は、合成物あってもよいし、天然物であってもよい。また、ポリアルキレンオキサイド部位による水素結合は、イオン結合や他の官能基による水素結合により阻害されることはないので、ポリアルキレンオキサイド部位以外の部位は、カチオン性、アニオン性、両性、ノニオン性のいずれであってもよい。
【0049】
ところで、デンプンの不溶化に伴って抄紙原料(懸濁物質:SS)が凝集することにより、抄紙工程水をワイヤー(網)に載せ、抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー(網)上に残し、水成分をワイヤー(網)の下に落とすワイヤーパートにおいて、より多くの抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー上で捕捉できるようになり、製品の歩留を高めることができる。抄紙工程水にポリマーを加えるタイミングは、特に限定されないが、歩留向上の効果をよりいっそう発揮させるには、抄紙工程水がワイヤーパートに至る前段階であることが好ましい。また、不溶化デンプンのほか、抄紙工程水に添加された添加剤を抄紙原料(懸濁物質:SS)に定着させることを目的とするのであれば、添加剤を抄紙工程水に添加したタイミングの直後にポリマーを加えることが好ましい。
【0050】
ポリマーの添加量は、特に限定されない。一般的には、抄紙工程水1Lに対して0.1mg以上100mg以下の範囲で添加される。あるいは、懸濁物質(SS)1tに対して10g以上10,000g以下の範囲で添加される。また、あるいは、未定着デンプンに対して重量比で1/1000倍以上10倍以下の範囲で添加される。
【0051】
〔他の添加剤〕
デンプン不溶化物の抄紙原料(懸濁物質:SS)への定着性を高めるため、従来公知の凝集剤、凝結剤を使用してもよい。
【0052】
また、抄紙工程水中の微生物の活動を抑えるスライムイムコントロール剤を併用してもよい。これにより、微生物によって分解されるデンプンの量を減らして未定着デンプンを効率的に活用することが可能になる。
【0053】
〔上記ポリマー:デンプン不溶化剤を使用することの効果〕
本実施形態では、上記ポリマー:デンプン不溶化剤を使用することで、以下の(1)〜(6)に示す格別の効果を一挙に実現することができる。
【0054】
(1)紙力の向上
第1に、パルプや填料等の抄紙原料(懸濁物質:SS)に定着したデンプンと、抄紙原料を構成するセルロース繊維との間が水素結合で結ばれ、これにより、製品としての紙の強度(紙力)を高めることができる。そして、紙の軽量化、安価原料の使用、紙力増強剤の低減が可能になる。
【0055】
(2)歩留の向上
第2に、デンプンの不溶化に伴って抄紙原料(懸濁物質:SS)が凝集することにより、抄紙工程水をワイヤー(網)に載せ、抄紙工程水に含まれる抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー(網)上に残し、水成分をワイヤー(網)の下に落とすワイヤーパートにおいて、より多くの抄紙原料(懸濁物質:SS)をワイヤー上で捕捉できるようになり、製品の歩留を高めることができる。
【0056】
(3)サイズ剤、染料などの内添薬剤定着改善
第3に、デンプンの不溶化に伴って抄紙原料(懸濁物質:SS)が凝集することにより、紙製品への水の浸透やインクのにじみを防ぐサイズ剤や、紙製品に色を付与する染料等の種々の薬剤を、抄紙原料に対してより効率よく定着させることが可能になり、結果として、サイズ剤や染料等の種々の薬剤の削減が可能になる。
【0057】
(4)汚れ低減
第4に、抄紙工程水に溶存するデンプンの濃度を抑えられるため、微生物の栄養源の量が少なくなり、スライムの発生を抑えられる。抄紙工程後の水に残存するデンプン濃度、薬剤濃度を抑えることができ、抄紙工程後の水の汚れを抑えられるため、清掃回数の低減、連続操業期間の延長等が可能になる。
【0058】
(5)発泡抑制
第5に、抄紙工程水に溶存するデンプンに起因する抄紙工程水の発泡を抑えることができ、泡スカムによる製品(紙)の汚れ、欠点を抑えられるとともに、断紙量を減らすことも可能になる。また、泡スカムを防ぐための消泡剤の使用量を低減できる。
【0059】
(6)廃水負荷低減
第6に、抄紙工程から排水される廃水中のデンプン、抄紙原料(懸濁物質:SS)、薬剤、その他の溶存有機物の濃度を抑えることができる。これにより、廃水処理の負荷軽減、廃水処理用薬剤使用量低減が可能になる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0061】
<試験例1>抄紙工程水に加えるポリマーの化学構造と、未定着デンプンの懸濁物質(SS)への定着性との関係
カナダ標準ろ水度(CSF)415mLに叩解した広葉樹クラフトパルプ(LBKP)の絶乾重量1重量%スラリーを撹拌しながら、デンプン、デンプン不溶化剤を順次添加した。デンプンとして、コーンスターチを2%、95℃、pH12の条件でクッキングしたものを固形分として対スラリー1000mg/L添加した。デンプン不溶化剤として、表1に示す物性値を示すポリマーA〜Jのうち、表2に示す種類のポリマーを、対スラリー量として表2に示す量を添加した。
【0062】
デンプン及びデンプン不溶化剤を添加した後のスラリーに含まれる未定着デンプン量を測定した。未定着デンプンの濃度は、次の方法で測定するものとする。抄紙工程水を5Aろ紙でろ過したろ液を、10倍希釈塩酸を用いて体積比で2〜20倍に希釈した後、ろ液100体積%に対して、0.002Nヨウ素溶液を5.26体積%加えて分光光度計で580nmの吸光度を測定した。そして、測定値を、キシダ化学製試薬特級のデンプンを用いて予め作成した検量線にあてはめ、未定着デンプンの濃度を得た。未定着デンプン量の測定結果を表2に示す。
【0063】
また、デンプン及びデンプン不溶化剤を添加した後のスラリーを用いて、JIS P 8029に規定される方法で調整した坪量170g/mの手すき紙を作成し、JIS P 8156に規定される方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1において、塩濃度は、以下の手法にて計測された値である。
4重量%の食塩及び0.5重量%のポリマーを含有する水溶解液の粘度を25℃、ローター回転数60rpmの条件で測定する。粘度測定方法はJIS K 7117−2に基づく。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示すように、ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーを用いた実施例1〜8は、比較例1〜6に比べて、調整後のスラリーの未定着デンプン濃度が低く、調整後のスラリーを用いて作成した手すき紙の比圧縮強度が高かった。
【0068】
それに対し、比較例9〜16のデンプンを添加しない条件では、ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーを添加しても比圧縮強度が上がらなかった。ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーは、デンプン定着作用において優れていてデンプンを抄紙原料(懸濁物質:SS)に定着することにより紙の強度を高めていると考えられる。
【0069】
<試験例2>抄紙工程水に加えるポリマーの化学構造と、懸濁物質(SS)の歩留及び抄紙後水の除濁の程度との関係
カナダ標準ろ水度(CSF)415mLに叩解した広葉樹クラフトパルプ(LBKP)の絶乾重量0.6重量%スラリーに、軽質炭酸カルシウム(タマパールTP121、奥多摩工業製)を対パルプ67重量%加えたスラリーを撹拌しながら、デンプン、デンプン不溶化剤を順次添加した。デンプンは、試験例1と同じものを使用した。デンプン不溶化剤として、表1に示す物性値を示すポリマーA〜Jのうち、表3に示す種類のポリマーを、対SS量として表3に示す量を添加した。
【0070】
デンプン及びデンプン不溶化剤を順次添加した後のサンプルについて、歩留テストを行った。歩留テストには、歩留試験装置DFS(ダイナミックフィルトレーションシステム、ミューテック社製)を用いた。DFSの設定条件には、ミューテック社の推奨方法を使用した。結果を表3に示す。
【0071】
また、デンプン及びデンプン不溶化剤を順次添加した後のサンプルについて、除濁テストを行った。除濁テストは、サンプルをワットマン社製41番ろ紙でろ過したろ液の濁度を測定することによって行った。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示すように、ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーを用いた実施例10〜16は、比較例7〜12よりも懸濁物質(SS)及び灰分の歩留率が高く、ろ液の濁度が低かった。
【0074】
また、比較例23〜30のデンプンを添加しない条件では、ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーを添加しても、ブランクと比較して歩留率の増加幅及びろ液濁度の減少幅が著しく小さかった。ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーによるデンプン不溶化に伴い、パルプ繊維及び微細分が凝集して歩留及び定着の効果がみられたと予想される。
【0075】
<試験例3>スラリーに添加するデンプン量と、懸濁物質(SS)の歩留及び抄紙後水の除濁の程度との関係
試験例2と同様の手法にて、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)と、軽質炭酸カルシウムとを含有するスラリーに、デンプン、デンプン不溶化剤を順次添加した。デンプンとして、試験例1と同じものを、対スラリー量として表4に示す量を添加した。デンプン不溶化剤として、表1に示すポリマーAを、対SS量として表4に示す量を添加した。
【0076】
デンプン及びデンプン不溶化剤を順次添加した後のサンプルについて、試験例2と同様の手法にて、歩留テスト及び除濁テストを行った。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
各デンプン添加量においてポリマーを添加しない場合とポリマーAを400g/t対SS添加した場合を比較したところ、表4に示すように、実施例17〜23のデンプン添加量が10mg/L以上の場合は、ポリマーAを添加した方が歩留効果、定着効果ともに高くなった。未定着デンプン濃度が10mg/L以上あれば、ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーがデンプン不溶化による効果を発揮できると考えられる。
【0079】
<試験例4>抄紙工程水に含まれる懸濁物質(SS)の濃度と、未定着デンプンの懸濁物質(SS)への定着性との関係
カナダ標準ろ水度(CSF)200mLに叩解した広葉樹クラフトパルプ(LBKP)と上記軽質炭酸カルシウムとが乾燥重量として1:1になり、合計の懸濁物質(SS)濃度が表5に示す値になるよう調整した分散液を撹拌しながら、デンプン、デンプン不溶化剤を順次添加した。デンプンとして、試験例1と同じものを固形分として対分散液200mg/L添加した。デンプン不溶化剤として、表1に示すポリマーAを、対分散液として10mL/g添加した。
【0080】
デンプン及びデンプン不溶化剤を順次添加した後のサンプルについて、試験例1と同様の手法にて、未定着デンプン量を測定した。結果を表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
表5に示すように、実施例24〜27の分散液濃度が100mg/L以上の場合は、ポリマーAを添加した方が未定着デンプン濃度が低くなった。ポリアルキレンオキサイド部位を持つポリマーがデンプンを不溶化できたとしても、不溶化によって得られた不溶化デンプンの定着対象である懸濁物質(SS)が必要であり、その必要量は100mg/L以上と考えられる。

【手続補正書】
【提出日】2019年10月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙原料を含む懸濁物質と未定着デンプンとを含有する抄紙工程水に、ポリアルキレンオキサイド部位を有するポリマーを添加する工程を含み、
前記ポリマーにおける前記ポリアルキレンオキサイド部位の割合が前記ポリマー全体に対して50重量部以上であり、
前記抄紙工程水に含まれる前記懸濁物質の濃度が100mg/L以上であり、
前記抄紙工程水に含まれる前記未定着デンプンの濃度が10mg/L以上であり、
以下の方法で計測したときの前記ポリマーの塩粘度が3mPa・s以上である、紙の製造方法。
<塩粘度の計測方法>
4重量%の食塩及び0.5重量%のポリマーを含有する水溶解液の粘度を25℃、ローター回転数60rpmの条件で測定する。粘度測定方法はJIS K 7117−2に基づく。
【請求項2】
前記抄紙工程水にスライムコントロール剤を加える工程を含む、請求項1に記載の紙の製造方法。