【解決手段】基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、チャンバー内に、処理ガスを供給するシャワーヘッドは、処理ガスを吐出する複数のガス吐出孔を有する本体部と、本体部内に設けられ、処理ガスが導入され、複数のガス吐出孔に連通するガス拡散空間とを備え、本体部は、金属からなる基材と、基材に嵌め込まれ、複数のガス吐出孔を規定する複数のスリーブと、基材のガス拡散空間に接する面に、処理ガスに対する耐食性を有する材料を溶射して形成され、含浸材が含浸された第1の溶射皮膜と、基材の前記チャンバーのプラズマ生成空間に接する面に、処理ガスのプラズマに対する耐プラズマ性を有する材料を溶射して形成され、含浸材が含浸された第2の溶射皮膜とを有する。
基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、基板が配置され、プラズマが生成されるチャンバー内に、プラズマを生成するための処理ガスを供給するシャワーヘッドであって、
処理ガスを吐出する複数のガス吐出孔を有する本体部と、
前記本体部内に設けられ、処理ガスが導入され、前記複数のガス吐出孔に連通するガス拡散空間と、
を備え、
前記本体部は、
金属からなる基材と、
前記基材に嵌め込まれ、前記複数のガス吐出孔を規定する複数のスリーブと、
前記基材の前記ガス拡散空間に接する面に、前記処理ガスに対する耐食性を有する材料を溶射して形成され、含浸材が含浸された第1の溶射皮膜と、
前記基材の前記チャンバーのプラズマ生成空間に接する面に、前記処理ガスのプラズマに対する耐プラズマ性を有する材料を溶射して形成され、含浸材が含浸された第2の溶射皮膜と、
を有する、シャワーヘッド。
前記プラズマ生成機構は、高周波アンテナと、前記高周波アンテナに高周波電力を供給する高周波電源とを有し、前記高周波アンテナに高周波電源が供給されることにより、前記チャンバー内の前記プラズマ生成空間に誘導結合プラズマを形成するように構成され、
前記高周波アンテナは、前記シャワーヘッドの前記チャンバーと反対側の面に面するように設けられ、
前記シャワーヘッドは、前記チャンバーの天壁をなすように配置され、前記誘導結合プラズマの金属窓として機能し、前記高周波アンテナに流れる高周波電流によって生じる磁界および渦電流が前記チャンバー側に到達するように絶縁部材を介して複数に分割された構造を有している、請求項11に記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置を示す断面図である。
【0012】
図1に示すプラズマ処理装置は、誘導結合プラズマ処理装置として構成され、矩形基板、例えば、FPD用ガラス基板上に薄膜トランジスタを形成する際の金属膜のエッチングに好適に用いることができる。
【0013】
この誘導結合プラズマ処理装置は、導電性材料、例えば、内壁面が陽極酸化処理されたアルミニウムからなる角筒形状の気密な本体容器1を有する。この本体容器1は分解可能に組み立てられており、接地線1aにより電気的に接地されている。
【0014】
本体容器1は、本体容器1と絶縁されて形成された矩形状のシャワーヘッド2により上下に区画されており、上側がアンテナ室を画成するアンテナ容器3となっており、下側が処理室を画成するチャンバー(処理容器)4となっている。シャワーヘッド2は金属窓として機能し、チャンバー4の天壁を構成する。金属窓となるシャワーヘッド2は、主に、非磁性体で導電性の金属、例えばアルミニウム(またはアルミニウムを含む合金)で構成される。
【0015】
アンテナ容器3の側壁3aとチャンバー4の側壁4aとの間には、本体容器1の内側に突出する支持棚5、および支持梁6が設けられている。支持棚5および支持梁6は導電性材料、望ましくはアルミニウム等の金属で構成される。シャワーヘッド2は絶縁部材7を介して複数に分割されて構成されている。そして、複数に分割されたシャワーヘッド2の分割部分は、絶縁部材7を介して支持棚5および支持梁6に支持される。支持梁6は、複数本のサスペンダ(図示せず)により本体容器1の天井に吊された状態となっている。
【0016】
シャワーヘッド2の各分割部分は、本体部50と、本体部50の内部に設けられたガス拡散空間(バッファ)51とを有している。本体部50は、ベース部52と、ガス拡散空間51からチャンバー内へ処理ガスを吐出する複数のガス吐出孔54を有するガス吐出部53とを有している。ガス拡散空間51には処理ガス供給機構20からガス供給管21を介して処理ガスが導入される。ガス拡散空間51は複数のガス吐出孔54に連通し、ガス拡散空間51から複数のガス吐出孔54を介して処理ガスが吐出される。なお、ベース部52とガス吐出部53とは一体であっても別体であってもよい。別体の場合は、ガス吐出部53は、シャワープレートとして構成される。
【0017】
シャワーヘッド2の上のアンテナ室3内には、シャワーヘッド2のチャンバー4側とは反対側の面に面するように高周波アンテナ13が配置されている。高周波アンテナ13は導電性材料、例えば銅などからなり、絶縁部材からなるスペーサ(図示せず)によりシャワーヘッド2から離間して配置されており、矩形状のシャワーヘッド2に対応する面内で、例えば渦巻き状に形成される。また、環状に形成されていてもよく、アンテナ線は一本でも複数本でもよい。
【0018】
高周波アンテナ13には、給電線16、整合器17を介して第1の高周波電源18が接続されている。そして、プラズマ処理の間、高周波アンテナ13に第1の高周波電源18から延びる給電線16を介して、例えば13.56MHzの高周波電力が供給される。これにより、後述するように金属窓として機能するシャワーヘッド2に誘起されるループ電流を介して、チャンバー4内に誘導電界が形成される。そして、この誘導電界により、チャンバー4内のシャワーヘッド2直下のプラズマ生成空間Sにおいて、シャワーヘッド2から供給された処理ガスがプラズマ化され、誘導結合プラズマが生成される。すなわち、高周波アンテナ13および第1の高周波電源18がプラズマ生成機構として機能する。
【0019】
チャンバー4内の底部には、シャワーヘッド2を挟んで高周波アンテナ13と対向するように、被処理基板として、矩形状のFPD用ガラス基板(以下単に基板と記す)Gを載置するための載置台23が絶縁体部材24を介して固定されている。載置台23は、導電性材料、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウムで構成されている。載置台23に載置された基板Gは、静電チャック(図示せず)により吸着保持される。
【0020】
載置台23の上部周縁部には絶縁性のシールドリング25aが設けられ、載置台23の周面には絶縁リング25bが設けられている。載置台23には基板Gの搬入出のためのリフターピン26が、本体容器1の底壁、絶縁体部材24を介して挿通されている。リフターピン26は、本体容器1外に設けられた昇降機構(図示せず)により昇降駆動して基板Gの搬入出を行うようになっている。
【0021】
本体容器1外には、整合器28および第2の高周波電源29が設けられており、載置台23には給電線28aにより整合器28を介して第2の高周波電源29が接続されている。この第2の高周波電源29は、プラズマ処理中に、バイアス用の高周波電力、例えば周波数が3.2MHzの高周波電力を載置台23に印加する。このバイアス用の高周波電力により生成されたセルフバイアスによって、チャンバー4内に生成されたプラズマ中のイオンが効果的に基板Gに引き込まれる。
【0022】
さらに、載置台23内には、基板Gの温度を制御するため、ヒータ等の加熱手段や冷媒流路等からなる温度制御機構と、温度センサーとが設けられている(いずれも図示せず)。これらの機構や部材に対する配管や配線は、いずれも本体容器1の底面および絶縁体部材24に設けられた開口部1bを通して本体容器1外に導出される。
【0023】
チャンバー4の側壁4aには、基板Gを搬入出するための搬入出口27aおよびそれを開閉するゲートバルブ27が設けられている。また、チャンバー4の底部には、排気管31を介して真空ポンプ等を含む排気装置30が接続される。この排気装置30により、チャンバー4内が排気され、プラズマ処理中、チャンバー4内が所定の真空雰囲気(例えば1.33Pa)に設定、維持される。
【0024】
載置台23に載置された基板Gの裏面側には冷却空間(図示せず)が形成されており、一定の圧力の熱伝達用ガスとしてHeガスを供給するためのHeガス流路41が設けられている。このように基板Gの裏面側に熱伝達用ガスを供給することにより、真空下において基板Gのプラズマ処理による温度上昇や温度変化を抑制することができるようになっている。
【0025】
この誘導結合プラズマ処理装置は、さらに制御部100を有している。制御部100は、コンピュータからなり、プラズマ処理装置の各構成部を制御するCPUからなる主制御部と、入力装置と、出力装置と、表示装置と、記憶装置とを有している。記憶装置には、プラズマ処理装置で実行される各種処理のパラメータが記憶されており、また、プラズマ処理装置で実行される処理を制御するためのプログラム、すなわち処理レシピが格納された記憶媒体がセットされるようになっている。主制御部は、記憶媒体に記憶されている所定の処理レシピを呼び出し、その処理レシピに基づいてプラズマ処理装置に所定の処理を実行させるように制御する。
【0026】
次に、シャワーヘッド2についてさらに詳細に説明する。
誘導結合プラズマは、高周波アンテナに高周波電流が流れることにより、その周囲に磁界が発生し、その磁界により誘起される誘導電界を利用して高周波放電を起こし、それにより生成するプラズマである。チャンバー4の天壁として1枚の金属窓を用いる場合、面内で周方向に周回されるように設けられた高周波アンテナ13では、渦電流および磁界が金属窓の裏面側、すなわちチャンバー4側に到達しないため、プラズマが生成されない。このため、本実施形態では、高周波アンテナ13に流れる高周波電流によって生じる磁界および渦電流がチャンバー4側に到達するように、金属窓として機能するシャワーヘッド2を、絶縁部材7で複数に分割された構造とする。
【0027】
図2は、シャワーヘッド2の本体部50のガス吐出部53の一部分を示す図である。本体部50は、基材61と、複数のスリーブ62と、第1の溶射皮膜63と、第2の溶射皮膜64とを有している。
【0028】
基材61は非磁性の金属、例えば、アルミニウムからなり、必要に応じて側面に陽極酸化処理により陽極酸化皮膜61aが設けられる。側面の陽極酸化皮膜61aは、全面に陽極酸化処理を行った後、上下面の皮膜を取り除くことにより形成される。
【0029】
複数のスリーブ62は、ステンレス鋼、ハステロイのようなニッケル基合金等の耐食性金属またはセラミックスからなり、基材61のガス吐出孔54に対応する部分に嵌め込まれている。各スリーブ62は、ガス吐出孔54を規定している。
【0030】
ガス吐出孔54は、ガス拡散空間51側の大径部54aと、プラズマ生成空間S側の小径部54bとを有している。そして、小径部54bの下端がプラズマ生成空間Sに臨む開口部54cとなっている。プラズマ生成空間S側を小径部54bにしたのは、プラズマがガス吐出孔54の奥に入り込むのを防止するためである。小径部54bの径は、例えば0.5〜1mmに設定される。
【0031】
第1の溶射皮膜63は、基材61のガス拡散空間51に接する面に、処理ガスに対して耐食性を有する材料を溶射して形成され、かつ、含浸材が含浸されている。
【0032】
第2の溶射皮膜64は、基材61のチャンバー4内のプラズマ生成空間Sに接する面に、処理ガスのプラズマに対して耐プラズマ性を有する材料を溶射して形成され、かつ、含浸材が含浸されている。
【0033】
第1の溶射皮膜63は、処理ガスに対する耐食性を有する材料で形成されているので、基材61を処理ガスから保護する効果が高い。第1の溶射皮膜63の材料としてはセラミックスが好ましい。例えば、Alのエッチング処理に用いられる60〜200℃、例えば160℃の高温のCl
2ガスを処理ガスとする場合は、第1の溶射皮膜63として、アルミナ(Al
2O
3)溶射皮膜を好適に用いることができる。Al
2O
3溶射皮膜は、Cl
2ガスや反応生成物であるHClに対する耐食性が高い。また、第1の溶射皮膜63に含浸材が含浸されていることにより、溶射皮膜の気孔が封孔され、Cl
2ガスやHClによる腐食をより効果的に抑制することができる。処理ガスが高温の場合は、含浸材は耐熱性が高いことも求められる。第1の溶射皮膜63の厚さは、80〜200μmの範囲が好ましい。
【0034】
第2の溶射皮膜64は耐プラズマ性を有する材料で形成されているので、基材61をプラズマから保護する効果が高い。第2の溶射皮膜64の材料としてもセラミックスが好ましい。第2の溶射皮膜64としては、耐プラズマ性の高いイットリア(Y
2O
3)溶射皮膜またはY−Al−Si−O系混合溶射皮膜(イットリア、アルミナ、およびシリカ(または窒化珪素)の混合溶射皮膜)等のイットリウム含有酸化物溶射皮膜がより好ましい。これらは、例えば、Alのエッチング処理に用いられるような、60〜200℃、例えば160℃の高温のCl
2ガスを処理ガスとする場合にも、耐プラズマ性を高く維持することができる。使用する処理ガスによっては、Al
2O
3溶射皮膜も好適に用いることができる。また、第2の溶射皮膜64に含浸材が含浸されていることにより、溶射皮膜に存在する気孔が封孔され、耐プラズマ性をより高めることができるとともに、耐ピンホール腐食も高めることができる。上述したような処理ガスが高温の場合、第2の溶射皮膜64に含浸される含浸材についても耐熱性が高いことが求められる。
【0035】
第2の溶射皮膜64は、表面が耐プラズマ性の高い準緻密溶射皮膜であることが好ましい。準緻密溶射皮膜とは、通常の溶射皮膜よりも気孔率が低い溶射皮膜をいい、通常の皮膜の気孔率が3〜5%であるのに対して、2〜3%の気孔率である。準緻密溶射とすることで、耐プラズマ性をより高めることができる。具体的には、プラズマによる削れ耐性を数%上昇させることができる。また、溶射皮膜の準緻密化と含浸材とを組み合わせることにより、耐プラズマ性を一層高めることができる。
【0036】
第2の溶射皮膜64の厚さは、150〜500μmの範囲が好ましい。また、
図3に示すように、第2の溶射皮膜64の含浸材の含浸部分64aは、第2の溶射皮膜64の基材61側の一部分であることが好ましい。含浸部分64aを第2の溶射皮膜64の基材61側の一部分とすることにより、第2の溶射皮膜64のプラズマ空間側が含浸材を含浸しない非含浸部分64bとなり、プラズマによる含浸材の消耗を抑えてパーティクルを低減することができる。より好ましくは、第2の溶射皮膜64において、含浸部分64aの厚さが50〜100μmの範囲、非含浸部分64bの厚さが100〜400μmの範囲である。このような一部分に含浸部分64aを有する溶射皮膜は、含浸部分64aに相当する厚さの溶射皮膜を形成し含浸処理を行った後、非含浸部分64bに相当する厚さの溶射皮膜を形成することにより得ることができる。
【0037】
第1の溶射皮膜63および第2の溶射皮膜64に含浸される含浸材としては、準緻密皮膜へ浸透できる程度の低粘度で、皮膜の気孔をほぼ完全に充填できる充填性(充填率)を有する充填型タイプのものであることが求められる。このような充填型で低粘度の充填材としては、樹脂含浸材を好適に用いることができる。このような樹脂含浸材としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0038】
また、処理ガスとして、60〜200℃、例えば160℃の高温のCl
2ガスが用いられる場合、これらの特性に加えて、耐熱性を有し、高温でも処理ガスに対する耐食性を保持できるものであることが好ましい。このような充填型で低粘度、かつ、耐熱性および高温耐食性が良好な含浸材としては、耐熱エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、主剤(プレポリマー)と硬化剤とを混合して熱硬化処理を行ったものであり、主剤と硬化剤の材料を適宜選択することにより、粘度、耐熱性、充填性、耐食性を調整することができる。エポキシ樹脂は本質的に充填性が高く、低粘度にすることにより溶射皮膜への浸透性を高くすることができる。また、耐熱エポキシ樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が高く、低温焼成可能なものである。
【0039】
高温Cl
2ガスによるエッチング処理に適した含浸材としては、耐熱エポキシ樹脂以外に、シリコーン樹脂を挙げることができる。
【0040】
次に、以上のように構成される誘導結合プラズマ処理装置を用いて基板Gに対してプラズマ処理、例えばプラズマエッチング処理を施す際の処理動作について説明する。
【0041】
まず、ゲートバルブ27を開にした状態で搬入出口27aから搬送機構(図示せず)により所定の膜が形成された基板Gをチャンバー4内に搬入し、載置台23の載置面に載置する。次いで、静電チャック(図示せず)により基板Gを載置台23上に固定する。そして、排気装置30によりチャンバー4内を真空排気しつつ、圧力制御バルブ(図示せず)により、チャンバー4内を例えば0.66〜26.6Pa程度の圧力雰囲気に維持する。この状態で、処理ガス供給機構20からガス供給管21を介して処理ガスを金属窓の機能を有するシャワーヘッド2へ供給し、シャワーヘッド2からチャンバー4内に処理ガスをシャワー状に吐出させる。
【0042】
また、このとき基板Gの裏面側の冷却空間には、基板Gの温度上昇や温度変化を回避するために、Heガス流路41を介して、熱伝達用ガスとしてHeガスを供給する。
【0043】
次いで、高周波電源18から例えば1MHz以上27MHz以下の高周波を高周波アンテナ13に印加し、これにより金属窓として機能するシャワーヘッド2を介してチャンバー4内に均一な誘導電界を生成する。このようにして生成された誘導電界により、チャンバー4内で処理ガスがプラズマ化し、高密度の誘導結合プラズマが生成される。このプラズマにより、基板Gに対してプラズマエッチング処理が行われる。
【0044】
処理ガスとしてはフッ素系や塩素系等の腐食性ガスが用いられ、そのような腐食性ガスがプラズマ化されるため、従来、処理ガスやプラズマに曝されるシャワーヘッドは、腐食を抑制する対策が講じられている。
【0045】
例えば、特許文献1では、シャワーヘッドの基材に設けられたガス吐出孔の出口側に凹部を形成し、その凹部に円筒状のスリーブを固定し、かつ、基材のプラズマ生成空間側の表面を覆うように耐プラズマ皮膜を形成している。
【0046】
しかし、処理ガスとして、腐食性の強いガスを用いてエッチングを行う場合、上記特許文献1の技術では不十分なことがある。
【0047】
すなわち、腐食性の強いガスは、プラズマ化していなくても基材61に対する腐食性が高く、ガス吐出部53のガス拡散空間51側の面およびガス吐出孔54の表面の耐食性が問題となる。特許文献1では、ガス吐出孔内はスリーブにより腐食対策が取られているが、基材のガス拡散空間側の面は対策が取られていない。一方、特許文献1では、基材のプラズマ空間側の面は耐プラズマ性溶射皮膜が形成されているが、溶射皮膜は多数の気孔が形成されているため、基材の耐ピンホール腐食が問題となる。
【0048】
これに対し、本実施形態では、シャワーヘッドの本体部50を、基材61と、ガス吐出孔54部分のスリーブ62と、ガス拡散空間51側の第1の溶射皮膜63と、プラズマ生成空間S側の第2の溶射皮膜64とで構成し、溶射皮膜に含浸材を含浸させた。第1の溶射皮膜63により、ガス拡散空間51側の面の処理ガスに対する耐食性を確保し、含浸材により、溶射皮膜の気孔を介しての基材の腐食をも抑制することができる。また、第2の溶射皮膜64により、耐プラズマ性を確保し、含浸材により、溶射皮膜の気孔を介しての基材のピンホール腐食をも抑制することができる。また、基材61のガス吐出孔54に対応する部分はスリーブ62により耐食性を確保することができる。これにより、処理ガスによる腐食およびプラズマに対する耐久性により優れたシャワーヘッドを得ることができる。
【0049】
また、第2の溶射皮膜64を、気孔率2〜3%と低い準緻密溶射皮膜とすることで、耐プラズマ性をより高めることができ、さらに溶射皮膜の準緻密化と含浸材の含浸を組み合わせることで、耐プラズマ性を一層高めることができる。
【0050】
さらに、含浸材として低粘度で充填性の高いものを用いることにより、準緻密溶射皮膜でも浸透性が高く、溶射皮膜の気孔を確実に充填することができ、溶射皮膜の耐食性、耐プラズマ性、耐ピンホール腐食性を確実に高めることができる。このような含浸材としては樹脂含浸材、例えばエポキシ樹脂が好適である。
【0051】
さらにまた、第2の溶射皮膜64を、
図3に示すように、含浸部分64aが基材61側の一部分に形成されるようにすることにより、プラズマによる含浸材の消耗を抑えてパーティクルを低減することができる。
【0052】
ところで、FPD基板に薄膜トランジスタ(TFT)を形成する場合、Al膜をエッチングして電極を形成する工程がある。この際には、上述したように、処理ガスとして60〜200℃、例えば160℃の高温のCl
2ガスを用いる。Cl
2ガスは、それ自体の腐食性が高く、しかも高温であるため、シャワーヘッド2には、より厳しい耐食性および耐プラズマ性が求められるとともに、含浸材の耐熱性も求められる。
【0053】
このため、処理ガスとして高温のCl
2ガスを用いる場合には、第1の溶射皮膜63として、Cl
2ガスや反応生成物であるHClに対する耐食性の高いAl
2O
3溶射皮膜を用い、含浸材として、上記特性に加え、さらに耐熱性を有するものを用いることが好ましい。また、第2の溶射皮膜64として、Cl
2ガスのプラズマに対する耐性が高いイットリア(Y
2O
3)溶射皮膜またはY−Al−Si−O系溶射皮膜等のイットリウム含有酸化物を用い、含浸材として、同様に耐熱性を有するものを用いることが好ましい。
【0054】
低粘度と高い充填性を有することに加え、耐熱性も有する含浸材としては、ガラス転移温度(Tg)が高く、低温焼成可能な耐熱エポキシ樹脂のうち、低粘度のものを用いることが好適である。
【0055】
処理ガスとして高温のCl
2ガスを用いた場合も、上記構成により、第1の溶射皮膜63で基材61の腐食が抑制され、また、第2の溶射皮膜64でプラズマによる損耗が抑制されるとともに、基材61のピンホール腐食を抑制できる。これにより、パーティクルを抑制し、TFTパターンの欠陥を減らすことができる。また、耐プラズマ性が高いため、シャワーヘッド2(ガス吐出部53)の交換周期(寿命)を延ばすことができる。さらに、含浸材としてエポキシ樹脂を用いることで、耐電圧特性も向上し、プラズマとの間の異常放電を抑制することができる。
【0056】
次に、実験例について説明する。
まず、含浸材を含浸させた溶射皮膜について実験を行った。
含浸材の材質として、シリカ、2種類のシリコーン樹脂(シリコーンA、B)、2種類のエポキシ樹脂(エポキシA,B)を用い、アルミニウム基材上のアルミナ溶射皮膜に含浸させた。そして、含浸材の浸透性、充填性、耐熱性、含浸後の160℃の高温Cl
2ガスに対する耐食性について評価した。
【0057】
シリカは、低粘度であり浸透性が高く、耐熱性も高いが、溶射皮膜の気孔に十分充填せず、気孔が残存した。その結果、160℃のCl
2ガスに対する耐食試験の際に、気孔を通じてCl
2ガスが基材に達し、基材が腐食した。
【0058】
シリコーン樹脂は、低粘度で浸透性が高く、組成を調整することにより、高い充填率を得ることができた。しかし、シリコーンAは硬度が高く、低温焼成でもクラックが発生し、160℃のCl
2ガスに対する耐食試験の際に、クラックを通じてCl
2ガスが基材に達し、基材が腐食した。シリコーンAとは組成が異なるシリコーンBは、充填性が悪く、160℃のCl
2ガスに対する耐食試験の際に、気孔を通じてCl
2ガスが基材に達し、基材が腐食した。
【0059】
エポキシ樹脂は、高充填性で、溶射皮膜の気孔への充填率が高い。しかし、耐熱タイプではないエポキシAは、低粘度で浸透性が良好であったものの、耐熱性が低く、80℃で劣化した。その結果、高温での長期耐久性が不十分であった。エポキシBは、低粘度でありながら、ガラス転移温度Tgが高く低温焼成可能な高耐熱性であった。その結果、160℃のCl
2ガスに対する耐食試験で、基材の腐食が見られなかった。
【0060】
次に、耐プラズマ性の溶射皮膜について、含浸材を含浸させた効果を把握した。ここでは、サンプル1〜4として、アルミニウム基材の上に、以下の溶射皮膜を形成したものを準備した。サンプル1は、基材上に通常溶射によりY
2O
3溶射皮膜を形成したものである。サンプル2は、基材上に準緻密溶射によりY
2O
3溶射皮膜を形成した後、耐熱エポキシ樹脂(エポキシB)を含浸させたものである。サンプル3は、基材上に通常溶射によりY−Al−Si−O系混合溶射皮膜を形成したものである。サンプル4は、基材上に準緻密溶射によりY−Al−Si−O系混合溶射皮膜を形成した後、耐熱エポキシ樹脂(エポキシB)を含浸させたものである。
【0061】
これらサンプルについて、耐プラズマ試験を行った。耐プラズマ試験は、処理ガスとして160℃のCl
2ガスを用い、チャンバー内圧力:15mTorr、ソースRFパワー:6kW、バイアスRFパワー:1kW、トータル時間:8時間の条件で行った。結果を
図4に示す。
図4は、サンプル1〜4の皮膜消耗量を示す図であり、皮膜消耗量は、通常溶射のY−Al−Si−O系混合溶射皮膜の皮膜消耗量を1として規格化した値である。この図に示すように、Y
2O
3溶射皮膜およびY−Al−Si−O系混合溶射皮膜のいずれも、準緻密皮膜とし、かつ耐熱エポキシ樹脂を含浸することにより、皮膜消耗量が20%程度減少することが確認された。
【0062】
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0063】
例えば、上記実施形態では、プラズマエッチングを行うプラズマ処理装置として誘導結合プラズマ処理装置を用いた例を示したが、これに限らず、ガス吐出部の基材が金属のシャワーヘッドであれば、容量結合プラズマ処理装置等の他のプラズマ処理装置であってもよい。容量結合プラズマ処理装置等の場合は、シャワーヘッドを分割する必要はない。
【0064】
また、上記実施形態では、プラズマエッチング装置を例にとって説明したが、それに限らず、プラズマアッシングやプラズマCVD等の腐食性の高いガスのプラズマを用いるプラズマ処理装置であれば適用可能である。