【解決手段】この演算増幅器10は、差動増幅部12と出力部14と過電流保護部16とを有している。差動増幅部12は、一対の入力端子22,24および一対の差動出力端子26,28を有する入力回路18と、一対のPMOSトランジスタ30,32からなる電流ミラー回路20とで構成される。過電流保護部16のPMOSトランジスタ44は、そのソース端子が電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子に接続され、そのドレイン端子が負極側の電源電圧端子42に接続され、そのゲート端子が入力回路18の非反転側の差動出力端子28、電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子および出力部14のソース電流出力用のPMOSトランジスタ36のゲート端子に接続されている。
第1および第2の入力端子と、前記第1および第2の入力端子間の電位差を増幅して差動の出力を取り出すための第1および第2の差動出力端子とを有し、第1の電源電圧端子と前記第1および第2の差動出力端子との間にそれぞれ接続され、制御端子同士を接続して電流ミラー回路を構成する第1および第2のトランジスタを含む差動増幅部と、
前記第1の電源電圧端子と負荷または後段の回路との間に設けられ、制御端子が前記第2の差動出力端子に接続されている第3のトランジスタを含む出力部と、
前記第1のトランジスタの制御端子と第2の電源電圧端子との間に設けられ、制御端子が前記第3のトランジスタの制御端子に接続されている第4のトランジスタを含む過電流保護部と、
を有する演算増幅器。
前記第1、第2および第4のトランジスタの間に形成されるループ経路の伝達関数が第1および第2のポールと第1のゼロ点とを有し、前記第1のゼロ点の周波数が前記第1のポールの周波数と前記第2のポールの周波数との間にある、請求項1記載の演算増幅器。
前記伝達関数のループ利得の周波数特性において、前記第1のポールの周波数がユニティゲイン周波数より低く、前記第2のポールの周波数がユニティゲイン周波数より高い、請求項2に記載の演算増幅器。
前記過電流保護部が、前記第4のトランジスタと前記第2の電源電圧端子との間に接続されている第1の定電流源を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の演算増幅器。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図を参照して本発明の実施形態を説明する。
[実施形態の回路構成]
【0017】
図1に、本発明の一実施形態における演算増幅器の回路構成を示す。この演算増幅器10は、MOSFETを主たる回路素子とする半導体集積回路(IC)であり、基本構成として、差動増幅部12と出力部14と過電流保護部16とを有している。
【0018】
差動増幅部12は、入力回路18と電流ミラー回路20とで構成される。入力回路18は、一対の入力端子つまり反転入力端子(第1の入力端子)22および非反転入力端子(第2の入力端子)24と、両入力端子22,24の電位差に応じた差動の出力を取り出すための一対の差動出力端子26,28とを有している。
【0019】
電流ミラー回路20は、トランジスタ特性の略等しい一対のPMOSトランジスタ30,32によって構成されている。より詳しくは、この実施形態において第1のトランジスタである基準側のPMOSトランジスタ30は、そのソース端子(第1の端子)が正極性の一定の電源電圧+V
ccを与える正極側(第1)の電源電圧端子34に接続され、そのドレイン端子(第2の端子)が入力回路18の反転側(第1)の差動出力端子26に接続され、そのゲート端子(制御端子)がドレイン端子に接続されている。また、この実施形態において第2のトランジスタである出力側のPMOSトランジスタ32は、そのソース端子(第1の端子)が正極側の電源電圧端子34に接続され、そのドレイン端子(第2の端子)が入力回路18の非反転側(第2)の差動出力端子28に接続され、そのゲート端子(制御端子)が基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子に接続されている。
【0020】
出力部14は、ソース電流出力用のPMOSトランジスタ36とシンク電流出力用の定電流源38とを有している。詳しくは、PMOSトランジスタ36は、そのソース端子(第1の端子)が正極側の電源電圧端子34に接続され、そのドレイン端子(第2の端子)がこの演算増幅器10の出力端子40に接続され、そのゲート端子(制御端子)が入力回路18の非反転側の差動出力端子28および電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子に接続されている。定電流源38は、出力端子40と負極性の一定の電源電圧−V
ccを与える負極側(第2)の電源電圧端子42との間に設けられ、出力端子40から電源電圧端子42へ向かう方向に一定の電流を流すように動作する。図示省略するが、定電流源38は、一定の電流を供給できる任意の回路構成でよく、たとえば1個のNMOSトランジスタで構成することもできる。出力端子40は、負荷または後段の回路(図示せず)に接続される。
【0021】
過電流保護部16は、1個のPMOSトランジスタ44によって構成されている。詳しくは、PMOSトランジスタ44は、そのソース端子(第1の端子)が電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子に接続され、そのドレイン端子(第2の端子)が負極側の電源電圧端子42に接続され、そのゲート端子(制御端子)が入力回路18の非反転側の差動出力端子28、電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子および出力部14のソース電流出力用のPMOSトランジスタ36のゲート端子に接続されている。
【0022】
上記構成の演算増幅器10において、入力回路18は、たとえば
図2に示すように特性の略等しい一対のNMOSトランジスタ46,48および1個の定電流源50で構成することができる。この構成例において、一方のNMOSトランジスタ46は、そのソース端子が定電流源50を介して負極側の電源電圧端子42に接続され、そのドレイン端子が反転側の差動出力端子26を介して電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のドレイン端子に接続され、そのゲート端子が反転入力端子22に接続されている。他方のNMOSトランジスタ48は、そのソース端子がNMOSトランジスタ46のソース端子と共通に定電流源50を介して負極側の電源電圧端子42に接続され、そのドレイン端子が非反転側の差動出力端子28を介して電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子に接続され、そのゲート端子が非反転入力端子24に接続されている。定電流源50は、たとえば定電流源38と同様の構成を有するものでよい。図示省略するが、反転入力端子22および非反転入力端子24の片方または双方に一定の直流バイアス電圧を与えるバイアス回路を備えてもよい。
[参考例1の回路構成および作用]
【0023】
上記のような回路構成を有する
図1および
図2の演算増幅器(実施形態)から過電流保護部16(PMOSトランジスタ44)を取り除いて得られる演算増幅器10Aの回路構成を、参考例1として
図3に示す。この演算増幅器10Aは過電流保護機能を有していない。
【0024】
この演算増幅器10Aにおいて出力端子40と反転入力端子22とを短絡接続すると、
図4に示すようにボルテージ・フォロア回路となる。ここで、出力端子40に負荷Zを接続し、非反転入力端子24に交流信号源52を接続すると、演算増幅器10Aは次のように動作する。なお、演算増幅器10Aの入力回路18は
図2の構成を有するものとする。
【0025】
いま、直流的に仮想接地の条件が成立して平衡状態になっているときに、信号源52からの交流信号vの電圧レベルが増大する方向に変化すると、入力回路18において非反転側のNMOSトランジスタ48のドレイン電流が増加する。定電流源50の作用により両NMOSトランジスタ46,48のドレイン電流を足し合わせた合成電流は常に一定であるから、非反転側のNMOSトランジスタ48のドレイン電流が増加することによって、反転側のNMOSトランジスタ46のドレイン電流が減少し、バランスが崩れる。
【0026】
ここで、反転側のNMOSトランジスタ46のドレイン電流は、電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のドレイン電流と同じである。したがって、NMOSトランジスタ46のドレイン電流が減少すると、PMOSトランジスタ30のドレイン電流も同じく減少する。これにより、電流ミラー回路20においては、電流ミラーの作用により、出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン電流も減少する。しかし、飽和状態で動作するPMOSトランジスタ32は、入力回路18のNMOSトランジスタ48の増加した電流を賄うように、ドレイン−ソース間電圧を拡げ、ドレイン電流を増加させるように動作する。一方、飽和領域あるいは線形領域(3極管領域)で動作するNMOSトランジスタ48は、PMOSトランジスタ32の減少した電流に対応するように、ドレイン−ソース間電位を狭くし、ドレイン電流を減少させるように動作する。こうして、PMOSトランジスタ32とNMOSトランジスタ48のドレイン−ソース間電圧の変化により、PMOSトランジスタ36のゲート電位が下がって、ドレイン電流つまりソース出力電流が増加し、出力端子40の電位(出力電圧)が上昇する。
【0027】
出力電圧が上昇すると、帰還回路を介して入力回路18の反転入力端子24の電位つまり反転側のNMOSトランジスタ46のゲート電位が上昇し、NMOSトランジスタ46のドレイン電流が増大して非反転側のNMOSトランジスタ48のドレイン電流との差を縮める。こうして、両入力端子間22,24間の電位差をなくすように、つまり交流的にも仮想接地の状態が成立するようにフィードバックシステムが働く。
【0028】
交流信号vの電圧レベルが減少する方向に変化するときも、上記と逆方向にバランスが崩れるものの、やはり両入力端子間22,24間の電位差をなくすように、つまり交流的にも仮想接地の状態が成立するように差動増幅部12および出力部14のフィードバックシステムが動作する。
【0029】
なお、交流信号vの電圧レベルが正極性のときは、出力部14において、PMOSトランジスタ36のドレイン電流(ソース出力電流)が定電流源38のシンク出力電流よりも大きく、その差分の電流が出力端子40からグランドに向かって負荷Zを流れる。交流信号vの電圧レベルが負極性のときは、PMOSトランジスタ36のドレイン電流(ソース出力電流)が定電流源38のシンク出力電流よりも小さく、その差分の電流がグランドから出力端子40に向かって負荷Zを流れる。こうして、負荷Zには入力信号vに等しい出力信号が供給される。
【0030】
しかしながら、この演算増幅器10Aは、過電流保護部を備えていないため、負荷Zのインピーダンスが極度に低いときは、直流レベルで出力部14から負荷Zに過大なソース出力電流が流れる。すなわち、非反転入力端子24に直流バイアスの電圧を印加すると、入力回路18においては、上記と同様にバランスが崩れて、非反転側のNMOSトランジスタ48のドレイン電流が増加しようとし、その反射的効果として反転側のNMOSトランジスタ46のドレイン電流が減少する。そうすると、電流ミラー回路20においては、基準側のPMOSトランジスタ30のドレイン電流が減少し、電流ミラーの作用により、出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン電流も減少する。この場合も、飽和状態で動作するPMOSトランジスタ32は、入力回路18のNMOSトランジスタ48の増加した電流を賄うように、ドレイン−ソース間電圧を拡げ、ドレイン電流を増加させるように動作する。一方、飽和領域あるいは線形領域(3極管領域)で動作するNMOSトランジスタ48は、PMOSトランジスタ32の減少した電流に対応するように、ドレイン−ソース間電位を狭くし、ドレイン電流を減少させるように動作する。こうして、PMOSトランジスタ32とPMOSトランジスタ48のドレイン−ソース間電圧の変化により、PMOSトランジスタ36のゲート電位が下がって、ドレイン電流つまりソース出力電流が増加し、出力端子40の電位(出力電圧)が上昇する。
【0031】
こうして、出力部14のPMOSトランジスタ36より非常に大きな直流のソース出力電流が負荷Zに流れる。このソース出力電流の増大によって負荷Zの電圧降下つまり出力端子40の電位(出力電圧)が上昇し、この出力電圧の上昇が反転入力端子22にフィードバックされ、非反転入力端子24と反転入力端子22との間に仮想接地の条件が成立する。しかし、負荷Zのインピーダンスが極度に低いと、ソース出力電流が増大しても出力電圧が上昇せず、フィードバックされた反転入力端子22の電圧も上昇しない。このため非反転側入力端子24と反転入力端子22の間に仮想接地の条件が成り立たず、入力回路18の非反転側のNMOSトランジスタ48と反転側のNMOSトランジスタ46のドレイン電流のバランスが崩れた非平衡状態が続き、出力端子40から増大したソース出力電流が流れ続ける。その結果、定格値を超える著しく大きな過電流が演算増幅器10Aの内部(特に出力部14のPMOSトランジスタ36)および負荷Zを流れる。
一般に、演算増幅器においては、出力電流が大きいほど消費電力も大きい。そして、消費電力には最大定格値が定められている。この消費電力の最大定格値を超えるような出力電流が流れるとき、これを過電流とみなしてよい。
[実施形態の作用(その1)]
【0032】
図1に示す本発明の実施形態における演算増幅器10は、上記のように、参考例1の演算増幅器10Aに過電流保護部16を付加した構成を有している。この演算増幅器10において、過電流保護部16のPMOSトランジスタ44は、上記のように、そのソース端子が電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子に接続され、そのドレイン端子(第2の端子)が負極側の電源電圧端子42に接続され、そのゲート端子(制御端子)が入力回路18の非反転側の差動出力端子28、電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子および出力部14のソース電流出力用のPMOSトランジスタ36のゲート端子に接続されている。
【0033】
この演算増幅器10において、負荷Zのインピーダンスが適正な範囲内にあり、仮想接地が成立して直流的に平衡状態であるときは、過電流保護部16のPMOSトランジスタ44は、直流的に平衡状態であるときは、電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子の電位と出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子の電位が略同電位になり、過電流保護部16のPMOSトランジスタ32のドレイン端子が略同電位になり、過電流保護部16のPMOSトランジスタ44のソース・ゲート間電圧が閾値以下であり、オフ状態に保持される。これにより、入力信号に対して演算増幅器10の差動増幅部12および出力部14は参考例1の演算増幅器10Aの場合と同様に動作する。すなわち、演算増幅器10が平衡状態にあるときは、過電流保護部16(PMOSトランジスタ44)は差動増幅部12および出力部14の動作に影響を及ぼさない。
【0034】
この演算増幅器10においても、負荷Zのインピーダンスが極度に低いとき(一般に消費電力の最大定格値に対応するインピーダンスよりも低いとき)は、上記参考例1の演算増幅器10Aと同様に内部(特に差動増幅部12)が直流的に非平衡状態になる。しかしながら、差動増幅部12の直流的にアンバランスな動作によって出力部14のPMOSトランジスタ36のゲート電位が一定のレベルまで低下すると、過電流保護部16のPMOSトランジスタ44がオンする。すると、電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子からオン状態のPMOSトランジスタ44を介して負極性の電源電圧端子42に至る電流経路(バイパス)が形成される。これにより、入力回路18の両NMOSトランジスタ46,48間でドレイン電流のバランスが崩れて、反転側のNMOSトランジスタ46が電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30から引き抜く電流を減少させても、オン状態のPMOSトランジスタ44を経由する電流バイパスの存在により、PMOSトランジスタ30のドレイン電流自体は減少しない。このため、電流ミラーの作用により、出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン電流も十分な大きさを確保し、これが入力回路18の非反転側のNMOSトランジスタ48におけるドレイン電流の増加分を賄うこととなる。その結果、出力部14においては、PMOSトランジスタ36のゲート電位が著しく低下することはないので、過大なドレイン電流(ソース出力電流)が流れることはない。
【0035】
本発明者は、この実施形態の演算増幅器10および参考例1の演算増幅器10について、
図5に示すように、ボルテージ・フォロア結線の下で、出力端子40に抵抗54および直流バイアス電源56を直列に接続するとともに、非反転入力端子にパルス電源58および直流バイアス電源60を接続して、それぞれの出力電流特性を測定する実験を行った。
【0036】
この実験では、抵抗54の抵抗値を極低い50Ωとし、直流バイアス電源56,60の出力電圧を同じ2.5Vとした。そして、パルス電源58よりパルス幅が50μsec、ピーク値が1Vの矩形パルスを出力させて、その時に出力端子40から抵抗54に流れた出力電流I
outを測定した。
【0037】
その結果、
図6に示すように、参考例1の演算増幅器10Aによるボルテージ・フォロア回路では、約11mAの過大な出力電流I
outが流れた。これに対して、実施形態の演算増幅器10Aによるボルテージ・フォロア回路では、出力電流I
outが約1.4mAに制限された。
[実施形態の作用(その2)]
【0038】
さらに、この実施形態の演算増幅器10においては、過電流保護部16(PMOSトランジスタ44)が作用するときは、以下に述べるように、演算増幅器10の内部で発振(寄生発振)を起こさずに各部が安定に動作するようになっている。
【0039】
図7に、演算増幅器10の内部の伝達関数に関係する主な寄生容量C
A,C
B,C
Cの分布を示す。寄生容量C
Aは、電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子とその付近のグランド電位部材との間に有意な値で存在する。寄生容量C
Bは、電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32のドレイン端子とその付近のグランド電位部材との間に有意な値で存在する。そして、寄生容量C
Cは、過電流保護部16のPMOSトランジスタ44のゲート・ソース間に有意な値で存在する。
【0040】
ここで、
図7に点線で示すように電流ミラー回路20(PMOSトランジスタ30,32)と過電流保護部16のPMOSトランジスタ44との間に形成される閉ループ経路の伝達関数AHは、次の式(1)で表される。
AH=−Av(1+s/ω
Z1)/(1+s/ω
P1)(1+s/ω
P2)‥‥(1)
【0041】
上式(1)において、AvはDC利得、sはjωである。また、ω
P1は寄生容量C
Bに起因して発生する一次(第1)ポールの角周波数、ω
P2は寄生容量C
A,C
Cに起因して発生する二次(第2)ポールの角周波数、ω
Z1は寄生容量C
Cに起因して発生するゼロ点の角周波数である。これらのパラメータAv,ω
P1,ω
P2,ω
Z1は、それぞれ次の式(2)(3)(4)(5)で表される。
Av=(gm
32r
O32)・(gm
44/(gm
30+gm
44) ‥‥(2)
ω
P1=2πf
P1=1/C
Br
O32 ‥‥(3)
ω
P2=2πf
P2=(gm
30+gm
44)/(C
A+C
C) ‥‥(4)
ω
Z1=2πf
Z1=gm
44/C
C ‥‥(5)
ここで、gm
30,gm
32,gm
44はそれぞれPMOSトランジスタ30,32,44のトランスコンダクタンスである。r
O32はPMOSトランジスタ32の出力抵抗である。f
P1,f
P2はそれぞれ一次および二次ポールの周波数、f
Z1はゼロ点の周波数である。
【0042】
図8に、この実施形態における上記伝達関数AHのループ利得および位相の周波数特性(ボーデ線図)のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、各PMOSトランジスタ30,32,44のパラメータ(トランスコンダクタンスgm,出力抵抗ro)を次のように設定した。
(ア)PMOSトランジスタ30:
gm
30=243.7μA/V、r
O30=1.17MΩ
(イ)PMOSトランジスタ32:
gm
32=248.3μA/V、r
O32=2.16MΩ
(ウ)PMOSトランジスタ44:
gm
44=211.6μA/V、r
O44=363.5kΩ
(エ)寄生容量(C
A,C
B,C
C):
C
A=2.8pF,C
B=15pF、C
C=12.8pF
【0043】
これらのパラメータ値から、上式(2)よりAv=47.9dB、上式(3)(4)(5)よりf
P1=4.91kHz、f
P2=4.65MHz、f
Z1=2.63MHzであった。このように、一次ポールの周波数f
P1,二次ポールの周波数f
P2およびゼロ点の周波数f
Z1の間には、f
P1<f
Z1<f
P2の関係が成立する。
【0044】
なお、この演算増幅器10では、入力回路18の非反転側のNMOSトランジスタ48と電流ミラー回路20の出力側のPMOSトランジスタ32とによってソース接地増幅回路が形成されている。上記伝達関数AHのルーフ゜利得は、このソース接地増幅回路の利得に相当する。
【0045】
図8に示すように、直流および約100Hz以下の低周波数領域では、ループ利得が一定に保たれ、位相の遅れも生じない。しかし、周波数が高くなると、カットオフ周波数つまり一次ポール(f
P1=4.91kHz)の手前からループ利得が減少し、位相も遅れるようになる。そして、二次ポール(f
P2=4.65MHz)付近でループ利得の減少率および位相遅れが一段と増大する。
【0046】
しかし、この実施形態では、一次ポール(f
P1=4.91kHz)と二次ポール(f
P2=4.65MHz)との間にゼロ点(f
Z1=2.63MHz)が存在するために、このゼロ点付近でループ利得の減少率および位相遅れが補償ないし緩和されるとともに、ユニティゲイン周波数(約1MHz)が二次ポール(f
P2=4.65MHz)の周波数より低くなっている。これにより、ユニティゲイン周波数で位相余裕が十分(約45度)確保されており、この演算増幅器20のフィードバックシステムは発振しないで安定動作することがわかる。
【0047】
実際、
図6(および
図12)に示すように、実施形態における演算増幅器10のボルテージ・フォロア回路は
図5の検証実験において発振しないで安定動作することが確認されている。
【0048】
このように、この実施形態の演算増幅器10によれば、出力端子40に接続される負荷または後段回路のインピーダンスが極度に低いことによって仮想接地が成立しない状態(非平衡状態)になったときでも、発振を起こさずに安定に動作して、過電流を効果的に防止することができる。
【0049】
また、この実施形態の演算増幅器10は、出力段にソースフォロア回路等のバッファ回路を設けていないので最大出力範囲の犠牲がないことも利点である。加えて、過電流保護部16を必要最小限の素子(PMOSトランジスタ44)で構成していること、したがって演算増幅器10の素子数が少なくて回路面積を節約できることも実用上大きな利点である。
[参考例2の構成および作用]
【0050】
図9に、本実施形態のものとは異なる過電流保護機能を付けた演算増幅器10B(参考例2)の回路構成を示す。
【0051】
この参考例2の演算増幅器10Bは、上記参考例1の演算増幅器10A(
図3)に出力電流フィードバック式の過電流保護部62を付加した構成を有している。この過電流保護部62は、出力部14のPMOSトランジスタ36と電流モニタ用のPMOSトランジスタ64と、PMOSトランジスタ64より出力される検出電流をミラーするための一対のNMOSトランジスタ68,70からなる電流ミラー回路66と、両電源電圧端子34,42間で電流ミラー回路66の出力側のNMOSトランジスタ70と直列に接続される定電流源72と、電流バイパス用のPMOSトランジスタ74とを有している。ここで、PMOSトランジスタ74は、そのソース端子が差動増幅部12の電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子に接続され、そのドレイン端子が負極性の電源電圧端子42に接続され、そのゲート端子が定電流源72とNMOSトランジスタ70との間のノードNに接続されている。
【0052】
この過電流保護部62においては、電流モニタ用のPMOSトランジスタ64が出力部14のPMOSトランジスタ36のドレイン電流に比例したドレイン電流(モニタ電流)を電流ミラー回路66に供給し、電流ミラー回路66がそのモニタ電流をノードN側にミラーし、このノードNでモニタ電流が電圧変換されて電流バイパス用のPMOSトランジスタ74のゲート端子に与えられ、ノードNの電位に応じてPMOSトランジスタ74がオンまたはオフするようになっている。
【0053】
この演算増幅器10Bが、仮想接地を成り立たせて平衡状態で動作しているときは、ノードNの電位が回路の最高電位(+V
CC)付近になるように設計することで、PMOSトランジスタ74をオフ状態に保持することができる。そして、仮想接地が成り立たず、出力部14のPMOSトランジスタ36のドレイン電流が増大すると、モニタ電流も増大し、電流ミラー回路66の電流ミラー作用を経てノードNの電位が下がり、PMOSトランジスタ74がオンする。すると、電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30のゲート端子およびドレイン端子からオン状態のPMOSトランジスタ74を介して負極性の電源電圧端子42に至る電流経路(バイパス)が形成される。これにより、本実施形態と同様に、PMOSトランジスタ36のゲート電位の低下を抑制して、PMOSトランジスタ36より負荷に流れるソース出力電流を制限することができる。
【0054】
しかしながら、この参考例2の演算増幅器10Bは、以下に説明するように、過電流保護部62の動作の安定性に問題がある。
【0055】
図10に、演算増幅器10Bの内部の伝達関数に関係する主な寄生容量C
a,C
b,C
C,C
dの分布を示す。寄生容量C
a,C
bは、本実施形態の演算増幅器10(
図7)における寄生容量C
A,C
Bとそれぞれ同じものである。寄生容量C
cは、過電流保護部16の電流バイパス用のPMOSトランジスタ74のゲート・ソース間に有意な値で存在する。寄生容量C
dは、電流ミラー回路66の出力側のPMOSトランジスタ70のドレイン端子とその付近のグランド電位部材との間に有意な値で存在する。
【0056】
ここで、
図10に点線で示すように、差動増幅部12の電流ミラー回路20(PMOSトランジスタ30,32)と、過電流保護部62の電流検出用のPMOSトランジスタ64、電流ミラー回路66(PMOSトランジスタ68,70)および電流バイパス用のPMOSトランジスタ74との間に形成される閉ループ経路の伝達関数Ahは、次の式(6)で表される。
Ah=−Av(1+s/ω
z1)/(1+s/ω
P1)(1+s/ω
P2)(1+s/ω
P3) ‥‥(6)
【0057】
上式(6)において、AvはDC利得、sはjωである。また、ω
p1は寄生容量C
bに起因して発生する一次(第1)ポールの角周波数、ω
p2は寄生容量C
dに起因して発生する二次(第2)ポールの角周波数、ω
p3は寄生容量C
a,C
cに起因して発生する三次(第3)ポールの角周波数、ω
Z1は寄生容量C
C(CMOSトランジスタ74のゲート・ソース間キャパシタ)に起因して発生するゼロ点の角周波数である。これらのパラメータAv,ω
p1,ω
p2,ω
p3,ω
z1は、それぞれ次の式(7)(8)(9)(10)(11)で表される。
Av=(gm
32r
O32)・(gm
74/(gm
30+gm
74)・(gm
70r
O70)・(gm
64/gm
68) ‥‥(7)
ω
p1=2πf
p1=1/C
br
O32 ‥‥(8)
ω
p2=2πf
p2=1/C
dr
O70 ‥‥(9)
ω
p3=2πf
p3=(gm
30+gm
44)/(C
a+C
c) ‥‥(10)
ω
z1=2πf
z1=gm
74/C
c ‥‥(11)
ここで、gm
30,gm
32,gm
64,gm
68,gm
70,gm
74はそれぞれPMOSトランジスタ30,32,64,68,70,74のトランスコンダクタンスである。r
O32,r
O70はそれぞれPMOSトランジスタ32,70の出力抵抗である。f
p1,f
p2,f
p3はそれぞれ一次、二次および三次ポールの周波数、f
z1はゼロ点の周波数である。
【0058】
図11に、この実施形態における上記伝達関数AHのループ利得および位相の周波数特性(ボーデ線図)のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、各PMOSトランジスタ30,32,64,68,70,74のパラメータ(トランスコンダクタンスgm,出力抵抗ro)を次のように設定した。
(カ)PMOSトランジスタ30:
gm
30=246.4μA/V、r
O30=1.15MΩ
(キ)PMOSトランジスタ32:
gm
32=246.89μA/V、r
O32=1.26MΩ
(ク)PMOSトランジスタ64:
gm
64=326.8μA/V、r
O64=1.89MΩ
(ケ)PMOSトランジスタ68:
gm
68=352.6μA/V、r
O68=1.39MΩ
(コ)PMOSトランジスタ70:
gm
70=357.9μA/V、r
O70=892.8kΩ
(サ)PMOSトランジスタ74:
gm
74=215.6μA/V、r
O74=355.4kΩ
(シ)寄生容量(C
a,C
b,C
c,C
d):
C
a=2.8pF,C
b=15pF、C
c=12.8pF、C
d=288fF
【0059】
上記のパラメータ値から、上式(7)よりAv=92.7dB、上式(8)(9)(10)(11)よりf
p1=8.42kHz、f
p2=619kHz、f
p3=4.71MHz、f
z1=2.68MHzであった。このように、一次ポールの周波数f
p1,二次ポールの周波数f
p2,三次ポールの周波数f
p3およびゼロ点の周波数f
Z1の間には、f
P1<f
P2<f
Z1<f
P3の関係が成立する。ここで、二次ポールの周波数(f
p2=619kHz)がゼロ点の周波数(f
z1=2.68MHz)より低い値になるのは、過電流保護部62の電流ミラー回路66の出力側のPMOSトランジスタ70の出力抵抗(r
O70=892.8kΩ)が大きいためである。
【0060】
図11に示すように、この演算増幅器10Bにおいては、周波数が高くなるにつれて、カットオフ周波数つまり一次ポール(f
p1=8.42kHz)の手前からループ利得が減少し、位相も遅れるようになる。そして、一次ポールに続けて二次ポール(f
p2=619kHz)が発生するため、比較的低い周波数の段階でループ利得の減少率および位相遅れが一段と増大する。このため、二次ポールより高いゼロ点(f
z1=2.68MHz)でのループ利得減少率の緩和および位相補償の効き目が弱くなる。しかも、DC利得(Av=92.7dB)が大きいため、ユニティゲイン周波数(約20MHz)が三次ポールの周波数(f
p3=4.71MHz)よりも高い。このため、ユニティゲイン周波数(約20MHz)での位相遅れは180°以上であり(位相余裕はなく)、発振して不安定動作しやすい特性となっている。
【0061】
実際、本発明者が参考例2の演算増幅器10Bについて
図5のボルテージ・フォロア結線により本実施形態の演算増幅器10および参考例1の演算増幅器10Aに対するのと同様の検証実験を行った結果、
図12に示すように出力電流I
outを制限することはできるものの、発振して不安定動作することが確認された。
[他の実施形態又は変形例]
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0063】
たとえば、
図13に示すように、上記実施形態の過電流保護部16において、PMOSトランジスタ44と負極側の電源電圧端子42との間に定電流源80を設ける構成を好適に採ることができる。上記伝達関数AHのループ経路において、PMOSトランジスタ44は電流ミラー回路20の基準側のPMOSトランジスタ30とソースフォロア回路を構成し、定電流源80が設けられていないときは利得1で動作する。しかし、定電流源80を設けることで、PMOSトランジスタ44を線形領域(3極管領域)で動作させて、そのDC利得を下げ、ひいてはループ利得AHのDC利得Avを下げることができる。これにより、伝達関数AHの周波数特性(
図8)において各ポールおよびゼロ点の位置を変えずにループ利得AHの全体を下げることが可能であり、それによってユニティゲイン周波数を低周波側にシフトさせ、位相余裕をさらに増大させることができる。
【0064】
また、上記実施形態の演算増幅器10において、
図2に示すような入力回路18の回路構成は一例であり、差動入力の機能を有し、かつ電流ミラー回路20と協働して所望の差動出力機能を奏するものであれば任意の回路構成が可能であり、たとえば
図14に示すような回路構成を有してもよい。
【0065】
図14において、入力回路18は、略同じ特性を有し、互いにソース端子を接続している一対のPMOSトランジスタ82,84と、正極側の電源電圧端子34と両PMOSトランジスタ82,84のソース端子との間に設けられる定電流源86と、両PMOSトランジスタ82,84のドレイン端子とグランド電位の電源電圧端子45との間にそれぞれ設けられる定電流源88,90とを有している。電流ミラー回路20の両PMOSトランジスタ30,32のドレイン端子と入力回路18の定電流源88,90との間にNMOSトランジスタ92,94がそれぞれ設けられる。これらのNMOSトランジスタ92,94は、それぞれゲート端子が固定電圧V
Bに接続されるゲート接地増幅回路として動作し、そのソース端子のインピーダンスが低く、ドレイン端子のインピーダンスが高い特性を持つ。また、これらのNMOSトランジスタ92,94は、入力差動対のPMOSトランジスタ82,84に入力された電圧信号により発生した電流信号を低インピーダンスであるソース端子から入力し、ドレイン端子から電流信号を出力する効果を持つ。そのため、NMOSトランジスタ92,94は、入力差動対のPMOSトランジスタ82,84で発生した電流信号を差動増幅部12へ伝送する役割を持つ。
【0066】
上記構成の演算増幅器10においては、入力差動対のトランジスタ(82,84)がPMOSトランジスタであるため、信号を零ボルト付近の電圧レベルで入力しても安定に差動増幅の動作をすることができる。
また、上記実施形態の演算増幅器10において、各部のPMOSトランジスタをNMOSトランジスタに置き換え、各部のNMOSトランジスタをPMOSトランジスタに置き換える変形も可能である。さらには、演算増幅器10の回路素子にバイポーラ・トランジスタを用いる構成も可能である。出力端子40と負荷Zとの間にバッファ回路や中間増幅段等の任意の回路を設ける構成も可能である。