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特開2019-23154コンクリート組成物及びコンクリート組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-23154(P2019-23154A)
(43)【公開日】2019年2月14日
(54)【発明の名称】コンクリート組成物及びコンクリート組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20190118BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20190118BHJP
   C04B 7/26 20060101ALI20190118BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/08 Z
   C04B7/26
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-16549(P2018-16549)
(22)【出願日】2018年2月1日
(11)【特許番号】特許第6414350号(P6414350)
(45)【特許公報発行日】2018年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-17455(P2017-17455)
(32)【優先日】2017年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-146775(P2017-146775)
(32)【優先日】2017年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
(72)【発明者】
【氏名】中島 有一
(72)【発明者】
【氏名】福田 道也
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
(57)【要約】
【課題】対費用効果及び環境負荷低減に優れ、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、前記粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである、コンクリート組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである、コンクリート組成物。
【請求項2】
セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23〜27%のものである、コンクリート組成物。
【請求項3】
セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである、コンクリート組成物。
【請求項4】
前記粉砕フライアッシュの強熱減量が、3質量%以上10質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記粉砕フライアッシュの配合量が、コンクリート組成物の容積1m当り、20kg以上150kg以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
混和材及び特殊混和剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有するコンクリート組成物の製造方法であって、
粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、前記フライアッシュ原粉を粉砕して前記粉砕フライアッシュとする工程と、
前記セメントと前記粉砕フライアッシュとを配合する工程とを含むコンクリート組成物の製造方法。
【請求項9】
前記フライアッシュ原粉の強熱減量が、3質量%以上10質量%以下である、請求項8に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物及びコンクリート組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに求められる性能は、施工性、強度及び耐久性に大きく分類される。なかでもコンクリートの性能を示す指標は、施工性に属するスランプ又はスランプフロー、強度に属する圧縮強度が代表的かつ一般的である。また、コンクリートの圧縮強度は、水セメント比に大きく依存するため、この圧縮強度を適切に設定すれば、同じく水セメント比に大きく依存する耐久性も確保される。水セメント比のみでは耐久性を満足しきれない場合には、セメントの種類を要求性能に応じて選定することもある。
一方で、スランプ又はスランプフローが施工性を示す指標として代表的かつ一般的になり過ぎたため、その数値のみで施工性を判断してしまうケースが生じている。実際には、施工性に属する材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性もコンクリートの性能を示す重要な指標である。材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性は、コンクリートの粘性と大きく関係しているが、施工性を向上させるために流動性を高くしすぎると、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性が低下する。粗骨材がモルタル部分から離れる現象である、材料分離を生じると、強度及び耐久性が低下する。また、衝撃に対するコンクリート組成物の変形の程度が大きくなると、材料分離抵抗性が低下する。つまり、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性は、施工性に関連するばかりでなく、強度及び耐久性の向上にも関連する。
【0003】
コンクリートの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保するには、使用材料及び配合について吟味する必要がある。材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保する対策としては、セメントのような細かな粉体を可能な限り多く使用することである。そして、細骨材等の微粒分を許容される範囲で最大限使用することである。
しかし、粉体又は微粒分には、使用量の限度があり、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保する上で必要な量を使用できない場合もある。そこで、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保する上で、粉体及び微粒分では補いきれない場合、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、フライアッシュ及びシリカフューム等の混和材を使用する場合がある。
このように、コンクリートの材料分離抵抗性を高めるために、粉体、微粒分及び混和材を含む材料をコンクリート材料としてバランスよく配合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。一方、増粘剤及び水中不分離性混和剤等の特殊混和剤によって化学的に粘性を付与させ、材料分離抵抗性を高める技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−114176号公報
【特許文献2】特開2005−281088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、コンクリートの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保するには、粉体及び微粒分を適度に含ませることが基本的な手段となる。しかし、粉体及び微粒分によって材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を高めることは、粘性増加による施工性の低下につながることがある。また、粒度が細かいセメント量を確保しつつ材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を高めることは、セメント量の増加による温度ひび割れ、自己収縮増大の問題に発展することがある。
そこで、シリカフューム等の混和材、並びに、増粘剤及び水中不分離性混和剤等の特殊混和剤を含ませることが得策とされている。しかし、これら混和材及び特殊混和剤は非常に高価な材料であり、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性の確保のためだけに含ませるのであれば対費用効果に見合わないといった問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、対費用効果及び環境負荷低減に優れ、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、本発明者は、対費用効果及び環境負荷低減を考慮し、特定の物性を有するようにフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュを配合することで、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供できることを見出し本発明に想到した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである、コンクリート組成物。
[2] セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23〜27%のものである、コンクリート組成物。
[3] セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである、コンクリート組成物。
[4] 前記粉砕フライアッシュの強熱減量が、3質量%以上10質量%以下である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のコンクリート組成物。
[5] 前記粉砕フライアッシュの配合量が、コンクリート組成物の容積1m当り、20kg以上150kg以下である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のコンクリート組成物。
[6] 混和材及び特殊混和剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のコンクリート組成物。
[7] 前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のコンクリート組成物。
[8] セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有するコンクリート組成物の製造方法であって、
粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、前記フライアッシュ原粉を粉砕して前記粉砕フライアッシュとする工程と、
前記セメントと前記粉砕フライアッシュとを配合する工程とを含むコンクリート組成物の製造方法。
[9] 前記フライアッシュ原粉の強熱減量が、3質量%以上10質量%以下である、上記[8]に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対費用効果及び環境負荷低減に優れ、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである。
本明細書において、JAロート流下時間は、JSCE−F531の「PCグラウトの流動性試験方法」に準拠して、MIC−363−0−03のグラウトフローコーンを用いて測定した流下時間をいう。
本明細書において、フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間を「JAロート流下時間」又は「フライアッシュペーストのJAロート流下時間」と記載する場合がある。
【0011】
本明細書において、「粉砕フライアッシュ」とは、フライアッシュ原粉に粉砕加工を施したものをいう。本明細書において、粉砕フライアッシュは、フライアッシュ原粉に含まれる個々の粒子の全てが、粉砕加工により細粒化されたものである必要はなく、フライアッシュ原粉に含まれていた一部の粒子が粉砕加工を経ても解砕されずに含まれているものであっても、フライアッシュ原粉に粉砕加工を施した場合には、粉砕フライアッシュという。
粉砕加工を施す粉砕装置としては、ボールミル、振動ミル(容器に振動を与えて、容器内部の媒体(ボール及びロッド)に振動を伝えて粉体を細粒化させる)等を用いることができる。フライアッシュ原粉の粉砕は、得られた粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである。
【0012】
コンクリート組成物に含まれる粉砕フライアッシュが、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものであると、この粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物が、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、施工性を向上することが可能になるとともに、適度な流動性により高い材料分離抵抗性を確保することができる。材料分離抵抗性は、リバウンド低減効果によって間接的に評価することができ、リバウンド低減効果によってコンクリート組成物の衝撃変形抵抗性も評価できる。リバウンド低減効果とは、実施例に記載した試験方法によって測定した広がり回数が多いほど、リバウンド低減効果が大きく、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れると評価することができる。粉砕フライアッシュが、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が17秒未満のものであると、粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物の流動性が高くなり、粘性が低下しすぎて、逆に施工性が低下する場合がある。一方、粉砕フライアッシュが、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が27秒を超えると、流動性が低くなり、施工性を向上することができない場合がある。
【0013】
なお、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲である粉砕フライアッシュは、施工性の向上と高い材料分離抵抗性の確保の観点から、前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23〜27%である、ものが好ましい。
また、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲である粉砕フライアッシュは、施工性の向上と高い材料分離抵抗性の確保の観点から、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものであることが好ましい。
【0014】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、セメントと、フライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23〜27%のものである。
【0015】
粉砕フライアッシュ1000gに対する水の割合を変えた混合物について、JIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に通電される電流値をそれぞれ測定するとき、該電流値は、粉砕フライアッシュ1000gに対する水の添加量がある割合となる混合物において最大の値を示す。本明細書において、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大となった混合物における、粉砕フライアッシュの質量に対する水の質量の割合を「最大電流値における水粉体質量比」と記載する場合がある。
【0016】
最大電流値における水粉体質量比は、対象とする粉体特有の数値である。最大電流値における水粉体質量比は拘束水比と定義することもでき、粉体特有の数値として認識されている。拘束水比は、粉体に拘束される水の質量を表す。JIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」に通電される電流値が最大となる場合は、撹拌機の種類、撹拌機の運転状況(低速又は高速)に依存しない。粉体に水を徐々に加えて撹拌時の前記機械練り用練混ぜ機に通電する電流値を測定すると、ある水粉体質量比で電流値がピークを示す。この時、前記機械練り用練混ぜ機のパドルの動作が変化する訳でなく、見た目には全く識別できない。撹拌トルクが最大となる水粉体質量比は、電流値の変化のみで識別できるものである。最大電流値における水粉体質量比は、例えば後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水とをJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」を用いて混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大となる水粉体質量比が23〜27%のものであると、粉砕フライアッシュが適度に水を吸着し、この粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物が、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、施工性を向上することが可能になる。前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水とを混練撹拌した際に、撹拌トルクが最大となる水粉体質量比が23〜27%である粉砕フライアッシュは、適度に水を吸着するため、このフライアッシュを含むコンクリート組成物は、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保することができる。粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水とを前記機械練り用練混ぜ機で混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大となる水粉体質量比が23%未満であると、粉砕フライアッシュに拘束される水の量が少なく、吹付けコンクリートを例に取るとリバウンドが多くなり、リバウンド低減効果が低下する傾向にある。粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水とを前記機械練り用練混ぜ機で混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大となる水粉体質量比が27%を超えると、粉砕フライアッシュに拘束される水の量が多くなり、混練当初のフレッシュ状態での流動性が低下することに加え、粘性が増加する一方で多くの水を吸収しすぎてリバウンドが多くなり、リバウンド低減に必要とされる衝撃変形抵抗性が低下してしまう。
【0018】
なお、粉砕フライアッシュと水とをJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」を用いて混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流が最大となる水粉体質量比が23〜27%である粉砕フライアッシュは、施工性の向上と、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性の確保の観点から、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲であるものであることが好ましい。
また、粉砕フライアッシュと水とを前記機械練り用練混ぜ機を用いて混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流が最大となる水粉体質量比が23〜27%である粉砕フライアッシュは、施工性の向上と、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性の確保の観点から、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものであることが好ましい。
【0019】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである。本明細書において、フライアッシュの粉砕前のみつかさ比重に対する粉砕後のみつかさ比重の増加率を、「みつかさ比重の増加率」と称する場合がある。
【0020】
粉砕フライアッシュは、みつかさ比重の増加率が1.5%未満である場合は、十分な材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保することができない。また、粉砕フライアッシュは、みつかさ比重の増加率が3.0%を超える場合は、流動性及び施工性が低下する。上記観点から、粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.6%以上2.9%以下増加したものであることが好ましく、1.7%以上2.9%以下増加したものであることがより好ましく、1.8%以上2.7%以下増加したものであることがさらに好ましい。
本明細書において、「みつかさ比重」とは、直径が8cm±0.5cmであり、高さが8cm±0.5cmである円筒形のステンレス製容器に、測定対象となる粉体(フライアッシュ)をすり切り一杯に充填した後に、JISR5201:2015で規定されたフローテーブルによる落下運動を70回加えた後の、上記容器内における粉体の見かけの密度を表す。具体的には、例えば後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
なお、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである粉砕フライアッシュは、施工性の向上と、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性の確保の観点から、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲であるものであることが好ましい。
また、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである粉砕フライアッシュは、施工性の向上と高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性の確保の観点から、前記粉砕フライアッシュと水とをJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」を用いて混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大となる水粉体質量比が23〜27%のものであることが好ましい。
【0022】
粉砕フライアッシュは、みつかさ比重が1.06〜1.13g/cmのものであることが好ましい。粉砕フライアッシュのみつかさ比重が1.06〜1.13g/cmであると、この粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物が、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、施工性を向上することが可能になるとともに、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保することができる。
【0023】
粉砕フライアッシュの強熱減量は、十分な施工性を確保する観点から、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。粉砕フライアッシュの強熱減量は、3質量%以上9質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。強熱減量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。粉砕フライアッシュの強熱減量が、施工性に寄与するメカニズムは明らかではないが、粉砕フライアッシュの強熱減量が、3質量%以上10質量%以下であると、この粉砕フライアッシュとセメントを含むコンクリート組成物に、適度な粘性が付与され、十分な施工性が得られる。なお、強熱減量が上記範囲である粉砕フライアッシュは、強熱減量が上記範囲であるフライアッシュ原粉を粉砕することによって実質的に得られる。
【0024】
コンクリート組成物に含有されるセメントの種類は、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
コンクリート組成物におけるセメントの配合量は、コンクリート組成物の容積1m当り、300kg以上420kg以下であることが好ましく、320kg以上400kg以下であることがより好ましく、340kg以上380kg以下であることがさらに好ましい。
【0025】
コンクリート組成物は、構成材料として、例えば、水、細骨材、粗骨材、混和材等をさらに含有することができる。細骨材は、粒子の大きさが5mm以下のものであり、例えば、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂等の公知のものを使用できる。粗骨材は、粒子の大きさが5mmを超えるものであり、例えば、砂利及び砂岩砕石等の公知のものを用いることができる。
コンクリート組成物における細骨材の配合量は、コンクリート組成物の容積1m当り、850kg以上1050kg以下であることが好ましく、875kg以上1025kg以下であることがより好ましく、900kg以上1000kg以下であることがさらに好ましい。
コンクリート組成物における粗骨材の配合量は、コンクリート組成物の容積1m当り、600kg以上900kg以下であることが好ましく、650kg以上850kg以下であることがより好ましく、700kg以上800kg以下であることがさらに好ましい。
【0026】
コンクリート組成物は、混和材及び特殊混和剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することが好ましい。混和材及び特殊混和剤は、対費用効果及び環境負荷低減に見合った範囲で含有させることが好ましい。
混和材としては、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末及びシリカフュームが挙げられる。
特殊混和剤としては、増粘剤及び水中不分離性混和剤が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース等のセルロース系増粘剤;水溶性ポリサッカライド等のバイオポリマー系増粘剤;アクリル系ポリマー等のアクリル系増粘剤が挙げられる。
水中不分離性混和剤としては、例えば、セルロース系水溶性高分子を主成分としたセルロース系混和剤;ポリアクリルアミド系水溶性高分子を主成分としたアクリル系混和剤が挙げられる。
【0027】
コンクリート組成物における粉砕フライアッシュの配合量は、高い材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性と、十分な施工性を確保する観点から、コンクリート組成物の容積1m当り、20kg以上150kg以下であることが好ましい。粉砕フライアッシュの配合量は、30kg以上140kg以下であることがより好ましく、40kg以上130kg以下であることがさらに好ましい。
【0028】
フライアッシュ原粉の強熱減量は、十分な施工性を確保する観点から、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。フライアッシュ原粉の強熱減量は、3質量%以上9質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。強熱減量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。フライアッシュ原粉の強熱減量が、3質量%以上10質量%以下であると、材料分離抵抗性が高い粉砕フライアッシュが得られる。
【0029】
フライアッシュ原粉の比表面積は、3000cm/g以上3700cm/g以下であることが好ましい。フライアッシュ原粉の比表面積は、3100cm/g以上3500cm/g以下であることがより好ましい。比表面積は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。フライアッシュ原粉の比表面積が3000cm/g以上3700cm/g以下であると、粉砕して使用することによる材料分離抵抗性の改善効果が得られる。
【0030】
強熱減量が上記範囲であるフライアッシュ原粉は、例えば、火力発電所から排出される灰であり、微粉炭燃焼によって生成するものが挙げられる。フライアッシュ原粉としては、燃焼ボイラの燃焼ガスから空気余熱器又は節炭器等を通過する際に落下採取されたフライアッシュ、電気集塵機で採取されたフライアッシュ、燃焼ボイラの炉底に落下したアッシュを含む。
【0031】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、吹付けコンクリートに用いることが好ましい。吹付けコンクリートは、コンクリート組成物と水とを含むコンクリートを圧送し圧縮空気を用いてノズル先端から所定箇所に吹付けて硬化させる工法に用いるコンクリートをいう。コンクリートの吹付け工法において、吹付けられたコンクリートがその衝撃で骨材が跳ね返ってしまい、計画量のコンクリートが吹き付けられず、コンクリート量にロスが生じる現象をリバウンドといい、リバウンド低減効果とは、吹き付けられたコンクリートが衝撃に耐えて、骨材が跳ね返らず、計画量に近いコンクリートを吹き付けることができ、コンクリートのロスが少ない効果をいう。リバウンド低減効果を有するコンクリート組成物は、骨材と、骨材以外の成分(セメント、フライアッシュなど)との分離が少なく、すなわち、材料分離抵抗性が高い。また、リバウンド低減効果を有するコンクリート組成物は、骨材が跳ね返らず、衝撃変形抵抗性が高い。吹付けコンクリートのリバウンド低減効果の優劣を確認することで、間接的に材料分離抵抗性又は衝撃変形抵抗性の優劣を評価することができる。
【0032】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物の製造方法の好ましい一例は、セメントとフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有するコンクリート組成物の製造方法であって、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、フライアッシュ原粉を粉砕して粉砕フライアッシュとする工程と、セメントと粉砕フライアッシュとを配合する工程とを含む。
【0033】
フライアッシュ原粉を粉砕して粉砕フライアッシュとする工程は、粉砕フライアッシュのみつかさ比重を上記範囲とする種々の粉砕方法を採用することができる。
粉砕フライアッシュを作製する粉砕装置としては、ボールミル、振動ミル(容器に振動を与えて、容器内部の媒体(ボール及びロッド)に振動を伝えて粉体を細粒化させる)等を用いることができる。
粉砕装置として、ボールミルを用いた場合のミルの回転数は、45rpm以上75rpm以下であることが好ましく、50rpm以上70rpm以下であることがより好ましく、55rpm以上65rpm以下であることがさらに好ましい。また、ボールミルを用いた場合の粉砕時間は、3分以上15分以下であることが好ましく、3分以上12分以下であることがより好ましく、3分以上10分以下であることがさらに好ましい。
【0034】
セメントと粉砕フライアッシュとを配合する工程は、セメント、粉砕フライアッシュ及びその他の構成材料を所要の混合割合で配合し、ミキサー等で混合することでコンクリート組成物を調製することができる。
【0035】
本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、コンクリート組成物に含まれる固形物と水とを混練してコンクリート混練物を製造するが、予め当該コンクリート組成物に含まれる固形物を調製してこれと水とを混合してコンクリート混練物としてもよく、コンクリート組成物に含まれる各固形物と水との全ての原材料を一度に混合しても均一に混練できる方法であれば特に限定されない。
混練に使用する水の量は、使用する材料の種類及び配合により変化させることができるため、一義的に決定されるものではないが、水セメント比が50質量%以上70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
また、混練条件、混練機の種類等に限定はなく慣用の混練機を使用することが可能である。
得られたコンクリート混練物は、例えば、蒸気養生、水中養生等の養生をして、コンクリートを得ることができる。
【0036】
本発明のコンクリート組成物によれば、特定の物性を有するようにフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュを配合することで、高いレベルでの材料分離抵抗性を確保することができる。そして、コンクリート組成物の材料分離抵抗性が高いことにより、コンクリート組成物の施工性が優れ、作業効率の向上を図ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0038】
(使用材料)
・セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
・水:上水道水
・細骨材:山砂
・粗骨材:砂岩砕石
・フライアッシュ(FA):以下に示す(1)〜(15)
(1)II種灰(JIS A 6201:2015 コンクリート用フライアッシュ II種適合品(分級品)、比表面積3570cm/g、強熱減量2.75質量%)
(2)原粉A(フライアッシュ原粉、国内火力発電所産、比表面積3410cm/g、強熱減量6.21質量%)
(3)原粉A−1分粉砕FA(原粉Aを1分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(4)原粉A−2分粉砕FA(原粉Aを2分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(5)原粉A−3分粉砕FA(原粉Aを3分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(6)原粉A−4分粉砕FA(原粉Aを4分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(7)原粉A−5分粉砕FA(原粉Aを5分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(8)原粉A−10分粉砕FA(原粉Aを10分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(9)原粉A−20分粉砕FA(原粉Aを20分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(10)原粉A−30分粉砕FA(原粉Aを30分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(11)原粉B(フライアッシュ原粉、国内火力発電所産、比表面積3120cm/g、強熱減量5.89質量%)
(12)原粉B−2分粉砕FA(原粉Bを2分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(13)原粉B−5分粉砕FA(原粉Bを5分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(14)原粉B−10分粉砕FA(原粉Bを10分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
(15)原粉B−20分粉砕FA(原粉Bを20分間粉砕した粉砕フライアッシュ)
【0039】
なお、フライアッシュ原粉の比表面積は、JIS R 5201:2015で規定された「8.1 比表面積試験」に準拠して求めた。
また、フライアッシュ原粉の強熱減量は、JIS A 6201:2015 コンクリート用フライアッシュ(975℃15分強熱)に準拠して求めた。さらに、粉砕フライアッシュの強熱減量も、上記の方法で求め、粉砕前のフライアッシュ原粉の強熱減量と同じであることを確認した。
【0040】
(フライアッシュ原粉の粉砕)
フライアッシュ原粉の粉砕は、容量100リットルのドラムを持つ可傾式ボールミルを使用する。投入するボールはφ10mmのクローム鋼球(約3.5kg/個)で、フライアッシュ原粉に対してボールを投入する(重量比とし、最大でフライアッシュ原粉10k
gに対してボール100kg)。ボール投入後にミルを水平位置とし、ミルの回転数を60rpmと、上記所定の時間運転し粉砕を行った。
【0041】
(1)II種灰、(2)原粉A、(3)〜(10)原粉Aの各粉砕フライアッシュ、(11)原粉B、及び(12)〜(15)原粉Bの各粉砕フライアッシュについて、以下の測定を行った。
【0042】
(みつかさ比重の測定)
測定対象となるフライアッシュを、直径が8.0cmであり、高さが8.0cmである円筒形のステンレス製容器にすり切り一杯に充填し、プラスチック板で蓋をした。次に、このフライアッシュを充填した上記容器を、JIS R5201:2015「セメントの物理試験方法」の「12.2 フロー値の測定」に規定されたフローテーブルを用いて、70回落下運動させた。その後、この落下運動後の上記容器内におけるフライアッシュの体積及び重さを測定し、みかけ密度(かさ密度)を算出し、これをみつかさ比重とした。
【0043】
(みつかさ比重の増加率)
粉砕前のフライアッシュ原粉のみつかさ比重をd1とし、粉砕後の粉砕フライアッシュのみつかさ比重をd2とし、下記式(1)により、フライアッシュ原粉に対する粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率を測定した。
粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率(%)=(d2−d1)/d1×100 (1)
【0044】
(JAロート流下時間)
測定対象となるフライアッシュを1500gと、水750g(フライアッシュ100質量部に対して水50質量部)とを混練、撹拌し、フライアッシュペーストを作製した。フライアッシュと水との混練は、JIS R5201:2015「セメントの物理試験方法」の「9.4.1 セメントペーストの練混ぜ」に準拠して行なった。得られたフライアッシュペーストについて、JSCE−F531の「PCグラウトの流動性試験方法」に準拠して、MIC−363−0−03のグラウトフローコーンを用いて流下時間(秒)を測定した。
【0045】
(最大電流値における水粉体質量比)
JIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により、水粉体質量比の異なる複数種の混合物を撹拌混練し、前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流を測定する。具体的には、フライアッシュ1000gに対し、水を少量ずつ添加していき、水を添加する度に、水粉体質量比の異なる各混合物として、前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流を随時測定する。前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流の測定は、前記機械練り用練混ぜ機の単相2本の電源ケーブルのうち、いずれか1本を電流測定装置(製品名:メモリハイコーダMR8870、日置電機株式会社)のクランプで挟み込み、前記混合物を撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流を測定し、複数種の水粉体質量比の異なる混合物のうち、前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの水粉体質量比を、最大電流値における水粉体質量比として測定した。前記機械練り用練混ぜ機には、最大で500アンペア(A)の電流を通電することができる。
最大電流値における水粉体質量比の測定の一例として、前記フライアッシュ(1)II種灰(JIS A 6201:2015コンクリート用フライアッシュ II種適合品(分級品))1000gに対して、表1に示す量の水を添加した各混合物を前記機械練り用練混ぜ機で撹拌し、前記機械練り用練混ぜ機に通電された電流の測定値を表1に示す。また、各フライアッシュ(2)〜(15)について、前記フライアッシュ(1)II種灰と同様に測定した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流の最大値における水粉体質量比を表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、フライアッシュ(1)II種灰(JIS A 6201:2015コンクリート用フライアッシュ II種適合品(分級品))1000gに対する水の割合を変えた混合物(参考例1〜14)をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に通電される電流値を測定した。その結果、参考例9のフライアッシュ(1)II種灰1000gに対する水の添加量が220g、水粉体質量比が22%のときに、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値が最大の3.81アンペア(A)を示した。すなわち、フライアッシュ(1)II種灰の最大電流値における水粉体質量比は22%である。
表1に示す参考例1〜14と同様に、各フライアッシュ(2)〜(15)について水粉体質量比を変えた混合物を前記機械練り用練混ぜ機で撹拌混練し、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流値を測定することで、各フライアッシュ(2)〜(15)についても、最大電流値における水粉体質量比を測定することができる。
【0048】
(1)II種灰、(2)原粉A、(3)〜(10)原粉Aの各粉砕フライアッシュ、(11)原粉B、及び(12)〜(15)原粉Bの各粉砕フライアッシュについて、測定したみつかさ比重、みつかさ比重の増加率、JAロート流下時間、最大電流値おける水粉体質量比を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
(コンクリート組成物の製造)
(実施例1〜8及び比較例1〜12)
各フライアッシュを用いて、表3に示す配合で、実施例及び比較例のコンクリート組成物を製造した。
【0051】
さらに、表3に示す配合で製造した各コンクリート組成物について以下の試験を行った。結果を表3に示す。
【0052】
(スランプ)
表3に示す配合で製造した各コンクリート組成物について、JIS A1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して、スランプ(cm)を測定した。
【0053】
(拡がり回数)
表3に示す配合で製造したコンクリート組成物につき、材料分離抵抗性の評価試験として、ドイツ工業規格であるDIN1048に準拠した試験を行った。この試験は、吹付コンクリートに要求される高いレベルでの材料分離抵抗性を評価するものであり、この試験値によって吹付コンクリートのリバウンド低減を間接的に評価できる。また、この試験によってリバウンド低減に必要とされる衝撃変形抵抗性も評価できる。
この試験方法について概説すると、JIS A 1101:2014 コンクリートのスランプ試験方法によるスランプ(cm)を測定した後、スランプ板の片側を4cm持ち上げて落下させる操作を繰り返す。この落下操作の繰り返しにより、コンクリートのフローが60cmに到達した際の回数(拡がり回数)を測定した。この拡がり回数が多いほど、吹付コンクリートとしての材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れ、リバウンド低減に効果があるという評価となる。
なお、表3中、「測定不能」は、落下操作の1回目でコンクリートがフローせず、破砕してしまい、コンクリートのフローを観察できず、拡がり回数の測定自体ができなかったことを意味している。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示す結果により、実施例1〜8のコンクリート組成物は、フライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲内にあり、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、施工性を向上することが可能になるとともに、比較例1〜4及び6〜12のコンクリート組成物に比べて拡がり回数が増加した。
【0056】
また、表3に示す結果により、実施例1〜8のコンクリート組成物は、前記粉砕フライアッシュと水とをJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により混練撹拌した際に、前記機械練り用練混ぜ機に通電される電流が最大となる水粉体質量比が23〜27%であり、コンクリート組成物中の粉砕フライアッシュが適度に水を吸着し、この粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物が、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、比較例1〜4及び6〜12のコンクリート組成物に比べて拡がり回数が増加した。
【0057】
また、表3に示す結果により、原粉Aを用いて4分及び5分粉砕した粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率は2.7%であり、原粉Aを用いて3分及び10分粉砕した粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率は1.8%であり、原粉Bを用いて5分粉砕した粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率は1.9%であり、原粉Bを用いて10分粉砕した粉砕フライアッシュのみつかさ比重の増加率は2.9%であり、これらの粉砕フライアッシュを使用した実施例1〜8のコンクリート組成物は、比較例1〜4及び6〜12のコンクリート組成物に比べて拡がり回数が増加した。
【0058】
このように実施例1〜8のコンクリート組成物は、比較例1〜4及び6〜12のコンクリート組成物に比べて拡がり回数が増加したことから、吹付コンクリートとしてのリバウンド低減効果が大きくなったと考えられ、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れているといえる。
【0059】
表3に示すように、フライアッシュ原粉及びII種灰を用いた比較例2〜4及び10のコンクリート組成物は、フライアッシュを用いていない比較例1のコンクリート組成物の拡がり回数が大きく変動しておらず、リバウンド低減効果が小さいと考えられた。
なお、表3及び4に示すように、比較例4に比べてフライアッシュ原粉の配合量が多い比較例5のコンクリート組成物は、フライアッシュ原粉に拘束される水の量が多くなり、混練当初のフレッシュ状態での流動性が著しく低下し、粘性が低いためそもそもフローせず、拡がり回数を測定できなかった。
【0060】
表3に示すように、JAロート流下時間が27秒を超えて大きい粉砕フライアッシュを含む比較例6、7及び11のコンクリート組成物は、流動性が低下した。このような比較例6、7及び11で使用した粉砕フライアッシュは、フライアッシュ原粉の物性と大差なく、粉砕による品質改善効果が得られなかったと考えられる。
表3に示すように、JAロート流下時間が17秒未満の粉砕フライアッシュを含む比較例8、9及び12のコンクリート組成物は、流動性が高くなった。このような比較例8、9及び12で使用した粉砕フライアッシュは、JAロート流下時間が17秒未満と短く、粘性が不十分であったと考えられる。
【0061】
表3に示すように、最大電流値における水粉体質量比が27%を超えて大きい粉砕フライアッシュを含む比較例6、7及び11のコンクリート組成物は、粉砕フライアッシュに拘束される水の量が多くなり、混練当初のフレッシュ状態で流動性が低下し、粘性が増加する一方で、水を吸収しすぎてリバウンドが多くなり、拡がり回数が実施例1〜8ほど増加せず、リバウンド低減に必要とされる衝撃変形抵抗性が低下した。
表3に示すように、最大電流値における水粉体質量比が23%未満と小さい粉砕フライアッシュを含む比較例8、9及び12のコンクリート組成物は、粉砕フライアッシュに拘束される水の量が少なく、混練当初のフレッシュ状態での流動性が高くなり、粘性が低下するため、リバウンドが多くなり、拡がり回数が実施例1〜8ほど増加せず、リバウンド低減効果が低下し、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、特定の物性を有するようにフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュを配合することで、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を確保でき、施工性に優れたコンクリート組成物を提供できる。
【手続補正書】
【提出日】2018年7月26日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、強熱減量が3質量%以上9質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17〜27秒の範囲のものである、コンクリート組成物。
【請求項2】
セメントと、強熱減量が3質量%以上9質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23〜27%のものである、コンクリート組成物。
【請求項3】
セメントと、強熱減量が3質量%以上9質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである、コンクリート組成物。
【請求項4】
前記フライアッシュ原粉の比表面積が3000cm/g以上3700cm/g以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記粉砕フライアッシュのみつかさ比重が1.06〜1.13g/cmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
前記粉砕フライアッシュの強熱減量が、3質量%以上質量%以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記粉砕フライアッシュの配合量が、コンクリート組成物の容積1m当り、20kg以上150kg以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
混和材及び特殊混和剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項9】
前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項10】
セメントと、強熱減量が3質量%以上9質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有するコンクリート組成物の製造方法であって、
粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、前記フライアッシュ原粉を粉砕して前記粉砕フライアッシュとする工程と、
前記セメントと前記粉砕フライアッシュとを配合する工程とを含むコンクリート組成物の製造方法。