【課題】良好なハンドリング性や長い貯蔵安定性、複雑形状の賦形も可能とする高い成形性を有しながら、成形時間が従来よりも大幅に短縮でき、さらに成形物が優れた耐熱性や機械強度とリサイクル性を備えたFRP成形用材料の金属積層体を提供する。
【解決手段】繊維強化プラスチック成形用材料を金属層に積層してなる積層体であって、繊維強化プラスチック成形用材料が、マトリックス樹脂中に160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を必須成分として含み、所望によりエポキシ樹脂及び架橋剤を配合し、マトリックス樹脂を平均粒子径(d50)が10〜150μmの微粉末とし、マトリックス樹脂を粉体塗装によって強化繊維基材に樹脂割合が20〜50%となるように付着したことを特徴とする繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体である。
繊維強化プラスチック成形用材料を金属層に積層してなる積層体であって、繊維強化プラスチック成形用材料が、マトリックス樹脂中に、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を全樹脂成分の50wt%以上含み、該マトリックス樹脂が平均粒子径(d50)10〜150μmであること、該マトリックス樹脂の微粉末が粉体塗装法によって強化繊維基材に付着されていること、マトリックス樹脂割合が20〜50wt%であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体。
強化繊維基材が炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維を含むものである請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体。
マトリックス樹脂中にフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び架橋剤を必須成分として含み、フェノキシ樹脂100重量部に対してエポキシ樹脂が9〜85重量部配合され、上記マトリックス樹脂及びフェノキシ樹脂の両者が、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のマトリックス樹脂である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体。
架橋剤(C)が酸無水物であり、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して、酸無水物基が0.5〜1.3モルの範囲となるように配合された請求項6に記載の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体。
フェノキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の粉末の平均粒子径(d50)がそれぞれ10〜150μmであり、かつ架橋剤(C)の粉末の平均粒子径(d50)の1〜2倍である請求項6に記載の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維などの繊維とプラスチックの複合材料である繊維強化プラスチック(FRP)材料は、軽量且つ高強度で高剛性な特徴を生かし、テニスラケットや自転車、釣竿等のスポーツ・レジャー用で古くから使用されている材料である。近年、繊維強化プラスチック材料の用途は拡大の一途をたどっており、ノートPCやタブレットといった電子機器類の筐体から、産業用ロボット等のアーム、建築構造物の補強材料といったように、民生機器から産業機器にまで展開されている。
【0003】
さらに、昨今の原油価格の高騰や世界的な環境保全の意識の高まりから、省エネルギー化や省資源化が強く求められており、特に化石燃料を使用する自動車や航空機器等の輸送機器は低燃費化が積極的に進められている。輸送機器の低燃費化は車体の軽量化による効果が非常に大きいため、これらの用途に炭素繊維を用いたFRPが金属材料に代わって使用されるようになっている。
【0004】
FRP材料は、強化繊維基材に液状のマトリックス樹脂を含浸し、硬化させることによって作製されるが、強化繊維基材に含浸する液状の樹脂として、主にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が、繊維基材への樹脂の含浸の容易さから使用されている。しかし、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合、一般的に硬化剤を併用することが必須であることから、こうした混合物の貯蔵負荷が大きい一方、硬化時間が長いために生産性が低いほか、金属材料のようなリサイクル性も無いことが問題となっており、その改善が強く求められている。FRP成形用材料として、熱硬化性樹脂を硬化剤と共に溶剤で溶解し、強化繊維基材に含浸後、加熱半硬化(Bステージ)の状態に留めたプリプレグが汎用されているが、プリプレグには上述の課題があった。
【0005】
そのため、特許文献1では、軟化点(Ts)が50℃以上であり、且つコーンプレート型粘度計による150℃の溶融粘度が500mPa・s以下である固形エポキシ樹脂と、他のビスフェノール型固形エポキシ樹脂と、テトラカルボン酸二無水物と、硬化促進剤とを溶融混練してエポキシ樹脂組成物を得た後、これを粉砕して粉体とし、この粉体を強化繊維基材に塗布後、加熱溶融してFRP成形用プリプレグとすることを提案している。しかし、この手法は、マトリックス樹脂となるエポキシ樹脂として二種類の異なる固形エポキシ樹脂を併用することを必須とし、しかも硬化剤を使用しているため、実施例にみられるように硬化促進剤を使用しても硬化時間が1時間と長く、マトリックス樹脂硬化物のガラス転移点(Tg)も150℃以下であるので耐熱性も不十分である。また、低分子量体のエポキシ樹脂モノマーを用いた硬化反応では、粘度の低さに由来するバリや液だれ、更に反応点(官能基)が多いため、硬化反応による硬化収縮、歪等の成形不良が問題になることもあり、成型が熱可塑性樹脂のようには簡単ではないため、電子機器のような複雑な形状の筐体の成形加工には適さないと考えられる。
【0006】
一方、熱硬化性樹脂に代えて、硬化反応を必要としない熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に使用することによって課題を解決する手法も考えられている。例えば特許文献2では、低分子量の末端アミノ基やカルボキシル基が低減されたポリアミド樹脂を強化基材に粉体の状態で接触させる等の手法で含浸させた繊維強化プラスチック材料のプリプレグを提案している。しかし、使用しているポリアミド樹脂が低分子量であるためFRPの機械物性がやや低く、成形温度が290℃と高温であるため、昇温及び降温に時間を要し、FRP成形物を生産性良く製造するには不向きである。
【0007】
また、特許文献3においては、高い成形性をもつ高耐熱性の新規なフェノキシ樹脂が開示されており、強化繊維基材にホットメルト法もしくはソルベント法で含浸し、FRP成形用プリプレグを作製できることが記載されている。しかし、この手法は、特殊な縮環構造含有フェノキシ樹脂を必須としており、このフェノキシ樹脂はガラス転移温度(Tg)が最高でも150℃程度であるため、自動車等における過酷な環境下で使用する部材に適用するには不十分であり、また車体に適用した際にも、焼付塗装の際の温度に耐えられないため、別途プライマー処理等が必要で製造プロセスの工程が余分に必要となる。またホットメルト法は一般的に含浸する樹脂の分子量が大きいと困難である。このフェノキシ樹脂は分子量が約30,000〜70,000であることから、ホットメルト法の適用は困難であると考えられるほか、ソルベント法では含浸性を向上させるため溶剤を大量に使用することから、得られるプリプレグには残留溶剤によってタック性が強く、作業性に難があるという欠点がある。更に、フェノキシ樹脂を使用したプリプレグの実施例や比較例は一切開示されていない。
【0008】
以上のようにFRP成形用材料としては、比較的低い温度で溶融して大幅な成形時間の短縮が可能なもの(高成形性・高生産性)が求められる一方、ノートPCや液晶タブレットの筐体のような複雑な形状の賦形が可能であり、得られたFRP成形物が優れた特性(高靱性・高耐熱性・長寿命)を持つことが必要とされている。
【0009】
そこで、成型加工時の熱を利用した架橋反応により、低Tgの熱可塑性樹脂を高Tg化させる手法が現在考えられている。例えば特許文献4では、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂に架橋剤を加えて熱を加えることで、架橋反応を起こし、耐熱性を向上させることができるフェノキシ樹脂組成物が開示されており、光学部品の製造ではあるものの成型加工に使用できると述べられている。しかし、この材料もTgを向上するための架橋反応には成形加工時の熱履歴では不足なため、30〜60分の熱処理が別途必要であるとともに、成型を行う前段階の材料の混練において内在する架橋剤との反応が進行してゲル化しやすいため、強化繊維基材へ如何に含浸させるかという課題がある。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、貯蔵安定性に優れ、熱プレスによる成形加工時間が従来よりも大幅に短縮が可能な高い成形加工性を有するFRP成形用材料とその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、成形性のよい熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂をマトリックス樹脂の必須成分として使用し、そのマトリックス樹脂微粉末を、静電場による粉体塗装法等を用いて繊維強化基材に付着させて、FRP成形用材料とすることで、高い耐熱性や機械強度を有するFRP成形体を生産性が高く、低コストで得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、繊維強化プラスチック成形用材料を金属層に積層してなる積層体であって、繊維強化プラスチック成形用材料が、マトリックス樹脂中に、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を全樹脂成分の50wt%以上含み、該マトリックス樹脂が平均粒子径(d50)10〜150μmであること、該マトリックス樹脂の微粉末が粉体塗装法によって強化繊維基材に付着されていること、マトリックス樹脂割合が20〜50wt%であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体に関する。
【0014】
上記フェノキシ樹脂は、次の特性のいずれか1以上を有することが望ましい。
1)質量平均分子量Mwが20,000〜100,000であること、
2)水酸基当量が50〜750g/eqであること、
3)ガラス転移温度Tgが65〜160℃であること、
4)平均粒子径(d50)10〜150μmであること。
【0015】
上記強化繊維基材としては、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維又はこれを含むものが挙げられる。
【0016】
本発明の他の態様は、マトリックス樹脂中にフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び架橋剤を必須成分として含み、フェノキシ樹脂100重量部に対してエポキシ樹脂が9〜85重量部配合され、上記マトリックス樹脂及びフェノキシ樹脂の両者が、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のマトリックス樹脂である上記の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体に関する。
【0017】
架橋剤(C)としては、酸無水物があり、酸無水物はフェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して、酸無水物基が0.5〜1.3モルの範囲となるように配合されることが望ましい。
【0018】
フェノキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の粉末の平均粒子径(d50)がそれぞれ10〜150μmであり、かつ架橋剤(C)の粉末の平均粒子径(d50)の1〜2倍であることが望ましい。
【0019】
本明細書では、繊維強化プラスチック成形体用材料の製造方法であって、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を全樹脂成分の50wt%以上含むマトリックス樹脂を用意し、このマトリックス樹脂を平均粒子径(d50)10〜150μmに粉砕した後、この微粉末を、粉体塗装法によって強化繊維基材に付着させ、マトリックス樹脂割合を20〜50wt%にすることを特徴とする繊維強化プラスチック成形用材料の製造方法を開示する。
【0020】
本明細書では、原料マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び架橋剤を必須成分として含み、フェノキシ樹脂100重量部に対してエポキシ樹脂を9〜85重量部含み、160℃〜220℃の温度範囲の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3,000Pa・s以下である常温固形のマトリックス樹脂を用意し、これを平均粒子径(d50)10〜150μmに粉砕した後、得られたマトリックス樹脂の微粉末を、粉体塗装法によって強化繊維基材に付着させ、マトリックス樹脂割合を20〜50wt%の範囲にすることを特徴とする繊維強化プラスチック成形用材料の製造方法を開示する。
【0021】
上記粉体塗装法としては、静電場を利用した粉体塗装法が適する。
【0022】
本明細書では、上記の繊維強化プラスチック成形用材料を製造するためのフェノキシ樹脂粉末であって、160〜220℃の温度域のいずれかにおいて溶融粘度が3000Pa・s以下であり、かつ平均粒子径(d50)が10〜150μmであることを特徴とするフェノキシ樹脂粉末を開示する。
【0023】
本明細書では、上記の繊維強化プラスチック成形用材料を加熱、加圧して成形又は硬化させてなることを特徴とする繊維強化プラスチック成形物を開示する。
上記繊維強化プラスチック成形物中のマトリックス樹脂が、架橋硬化樹脂であり、そのガラス転移温度が160℃以上であることができる。また、繊維強化プラスチック成形物中のマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であることができる。
【0024】
本明細書では、マトリックス樹脂として250℃における溶融粘度が1000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を必須成分とし、平均粒子径(D50)10〜150μmのフェノキシ樹脂微粉末を粉体塗装によって強化繊維基材に樹脂割合(RC)が20〜50%となるように付着したことを特徴とする繊維強化プラスチック成形用中間基材を開示する。
上記のフェノキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20,000〜100,000、水酸基当量(g/eq)が50〜750であること、又はガラス転移温度(Tg)が70℃〜160℃以下であることがよい。
【0025】
本明細書では、原料マトリックス樹脂として250℃における溶融粘度が1000Pa・s以下である常温固形のフェノキシ樹脂を用意し、フェノキシ樹脂を平均粒子径(D50)10〜150μmに粉砕した後、得られたフェノキシ樹脂の微粉末を、粉体塗装によって強化繊維基材に付着させ、樹脂割合(RC)を20〜50%にすることを特徴とする繊維強化プラスチック成形用中間基材の製造方法を開示する。
本明細書では、上記の繊維強化プラスチック成形用中間基材を加熱かつ加圧により成形させてなることを特徴とする繊維強化プラスチック成形物を開示する。
【0026】
本明細書では、フェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)を必須成分とし、フェノキシ樹脂(A)100重量部に対してエポキシ樹脂(B)が9〜85重量部配合され、160℃における溶融粘度が2000Pa・s以下である常温固形のマトリックス樹脂組成物を含有し、該マトリックス樹脂組成物の微粉末は粉体塗装によって強化繊維基材に付着しており、マトリックス樹脂組成物の割合(RC)を20〜50%の範囲にしたことを特徴とする繊維強化プラスチック成形用中間基材を開示する。
【0027】
上記の繊維強化プラスチック成形用中間基材は、架橋または硬化されたマトリックス樹脂組成物の架橋硬化物のガラス転移温度(Tg)が160℃以上を示すものであることが好ましく、上記のマトリックス樹脂組成物において、フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が65℃〜100℃以下であることが好ましく、架橋剤(C)が酸無水物であり、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して、酸無水物基の量が0.3〜1.3モルの範囲となるように配合されることが好ましく、フェノキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の粉末の平均粒子径(D50)が10〜150μmであり、架橋剤(C)の粉末の平均粒子径の1〜1.5倍であることが好ましく、強化繊維基材へのマトリックス樹脂組成物粉末の付着が静電場を利用した粉体塗装によってなされることが好ましく、強化繊維基材は炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群の中から選ばれることが好ましい。
【0028】
本明細書では、上記の繊維強化プラスチック成形用中間基材の製造方法であって、フェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)をそれぞれ粉砕した後、配合して、160℃における溶融粘度が2000Pa・s以下である常温固形のマトリックス樹脂組成物の微粉末を、粉体塗装によって強化繊維基材に付着させて、マトリックス樹脂組成物の割合(RC)を20〜50%の範囲にしたことを特徴とする繊維強化プラスチック成形用中間基材の製造方法を開示する。
【0029】
本明細書では、上記の繊維強化プラスチック成形用中間基材を加熱かつ加圧により成形させてなることを特徴とする繊維強化プラスチック成形物を開示する。こうした繊維強化プラスチック成形物は、マトリックス樹脂組成物の架橋硬化物のガラス転移温度(Tg)が160℃以上のものであることを特徴とする。
【0030】
本発明の繊維強化プラスチック成形用材料の金属積層体は、繊維強化プラスチック成形用材料のマトリックス樹脂として熱可塑性のフェノキシ樹脂を使用しながら、従来の熱硬化性樹脂を使用したプリプレグと同様に簡便に取扱うことができると共に、プリプレグに比べて常温での貯蔵安定性に優れ、かつタック性のない繊維強化プラスチック成形物を有利に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維強化プラスチック成形用材料は、マトリックス樹脂として常温で固形のフェノキシ樹脂を必須成分とする。本発明のFRP成形用中間基材は、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂をマトリックス樹脂に使用しているため、加熱プレスによる加圧成形が容易であり、生産性を大きく向上させることが可能となる。
マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂単独であってもよく、フェノキシ樹脂の他にエポキシ樹脂及び架橋剤等を配合したものであってもよい。しかし、溶剤を配合することは望まれない。マトリックス樹脂は、微粉末化されて、粉体塗装法、好ましくは静電場を利用した粉体塗装法(静電塗装法)により強化繊維基材に付着されている。マトリックス樹脂としての常温固形フェノキシ樹脂等を微粉砕し、静電塗装法により強化繊維基材に付着しているために、溶融粘度が比較的高くてもマトリックス樹脂の微粉末が成形時の熱により溶融し、繊維基材の内部までマトリックス樹脂が行き渡るので、良好な物性の成形物が得られる。
【0032】
マトリックス樹脂の必須成分として使用されるフェノキシ樹脂は、常温において固形であり、かつ160〜220℃の温度域のいずれかにおいて3,000Pa・s以下の溶融粘度を示すものである。溶融粘度は、好ましくは30〜2,900Pa・sであり、より好ましくは100〜2,800Pa・sである。本発明では、常温で固形のフェノキシ樹脂を静電紛体塗装によって、強化繊維基材に均一に付着させる。160〜220℃の温度域のいずれにおいても溶融粘度が3,000Pa・sを超えると成形加工時のフェノキシ樹脂の流動性が悪くなるため、表面に付着した微粉末のフェノキシ樹脂が繊維基材内に十分行き渡らずにボイドの原因となり、成形物の機械物性が低下してしまう。
【0033】
マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂からなる場合は、温度が高くなるにつれて粘度は減少するが、エポキシ樹脂や架橋剤を含む場合は架橋又は硬化反応が生じて昇温途中で粘度が上昇することがある。したがって、マトリックス樹脂の160〜220℃における粘度は、実施例に示す条件で昇温した場合の最低粘度でもある。
【0034】
ここで、160〜220℃の温度域は、成形プレスを行う温度であり、この温度範囲のいずれかにおいて成形用材料のマトリックス樹脂の溶融粘度が3,000Pa・s以下であれば、良好な機械物性を備えたFRP成形物が得られる。すなわち、この温度域のいずれかでマトリックス樹脂の溶融粘度が3,000Pa・s以下である限り、この温度域の一部で溶融粘度が3,000Pa・sを超えていても差支えない。なお、マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂単独系の場合(後述するエポキシ樹脂や架橋剤を含有しない場合、溶融粘度は温度上昇につれて低下し続けるので、220℃での溶融温度が最低の溶融粘度になる。
【0035】
本発明のフェノキシ樹脂を必須成分として含むFRP成形用材料を加熱加圧成形して得られるFRP成形体は、各種用途への適用材料として使用した後、処分が必要となった場合においても、架橋硬化していない場合は、廃棄することなく、熱または溶剤により、強化繊維とマトリックス樹脂とに分別し、リサイクルすることも可能である。
【0036】
フェノキシ樹脂は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、通常10,000〜200,000であるが、好ましくは20,000〜100,000であり、より好ましくは30,000〜80,000である。Mwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0037】
また、フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常50〜1000であるが、好ましくは50〜750であり、特に好ましくは50〜500である。水酸基当量は低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので強化繊維基材を構成する炭素繊維との濡れ性が低下するほか、架橋剤を使用しても架橋密度を低いため機械物性が上がらない。ここで、本明細書でいう水酸基当量は2級水酸基当量を意味する。
【0038】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65℃〜160℃のものが適するが、好ましくは70℃〜150℃である。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、粉体の貯蔵安定性やプリフォームのタック性に問題が生じる。160℃よりも高いと溶融粘度も高くなり成形性や繊維への充填性が劣り、結果として、より高温のプレス成形が必要とされる。なお、フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0039】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学製フェノトートYP−50、YP−50S、YP−55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学製フェノトートFX−316)、またはビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学製YP−70)、前記以外の特殊フェノキシ樹脂(例えば新日鉄住金化学製フェノトートYPB−43C、FX293等)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
マトリックス樹脂には、フェノキシ樹脂(A)と共に、エポキシ樹脂(B)を配合することができる。エポキシ樹脂を配合することによって、マトリックス樹脂の溶融粘度の低減による強化繊維基材への含浸性の向上や、マトリックス樹脂硬化物の架橋密度の向上を通じた耐熱性を図ることができる。特に、耐熱性の向上についてはフェノキシ樹脂のTgを大きく超えることが可能であり、より高い耐熱性を要求される用途、例えば自動車材料などへの展開も可能となる。
【0041】
エポキシ樹脂(B)としては、固形のエポキシ樹脂であれば本発明に適用可能であり、例えば2官能性以上のエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYD−011、YD−7011、YD−900)、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDF−2001)、ジフェニルエーテルタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV−80DE)、テトラメチルビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV−80XY)、ビスフェノールスルフィドタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV−120TE)、ハイドロキノンタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDC−1312)、フェノールノボラックタイプエポキシ樹脂、(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDPN−638)、オルソクレゾールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDCN−701、YDCN−702、YDCN−703、YDCN−704)、アラルキルナフタレンジオールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製ESN−355)、トリフェニルメタンタイプエポキシ樹脂(例えば、日本化薬株式会社製EPPN−502H)等が挙げられるが、これらの限定されるものではなく、またこれらは2種類以上混合して使用しても良い。
【0042】
また、マトリックス樹脂を粉体として保存するために、エポキシ樹脂(B)についても、更に好ましくは、室温で固体であり、融点が75℃〜145℃で、160℃における粘度が1.0Pa・s以下である結晶性エポキシ樹脂が良い。結晶性エポキシ樹脂は、溶融粘度が低く、取り扱いが容易であり、フェノキシ樹脂を必須成分とするマトリックス樹脂の溶融粘度を低下させることができる。1.0Pa・sを超えると、マトリックス樹脂の強化繊維基材への充填性が劣り、得られる繊維強化プラスチック成形物(FRP成形物)の均質性に劣る。
【0043】
マトリックス樹脂中には、フェノキシ樹脂(A)とともに、マトリックス樹脂のTgの向上を目的に、架橋剤(C)を配合することができる。架橋剤(C)はエポキシ樹脂(B)を配合する場合であっても、配合しない場合でも配合することができる。
【0044】
架橋剤としては、フェノキシ樹脂が有するOH基と反応する官能基を2以上有するものが使用できるが、好ましくは酸無水物である。酸無水物は加水分解により2つのカルボキシ基を生じるので、上記官能基を2つ有すると理解される。
なお、架橋剤としてはフェノキシ樹脂の2級水酸基と反応性の官能基を2以上有するものであれば使用できるが、酸無水物は、フェノキシ樹脂の2級水酸基とエステル結合を形成することによって、フェノキシ樹脂を三次元架橋させる。そのため、加水分解反応により架橋を解くことができるので、FRP成形物にリサイクル性を与える。すなわち、架橋硬化した場合であっても、硬化剤が酸無水物系であれば、マトリックス樹脂の硬化にフェノキシ樹脂(A)と架橋剤(C)のエステル結合を利用しているため、加水分解反応を利用することによりFRP成型物を強化繊維とマトリックス樹脂へと分別し、廃棄することなくリサイクルすることも可能である。
【0045】
架橋剤としての酸無水物は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定されるものではなく、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、またはテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。成形物の耐熱性付与や反応性の点からフェノキシ樹脂の2級水酸基と反応する酸無水物を2つ以上有する芳香環を有する酸無水物が好ましく、特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族化合物は、トリメリット酸無水物に水酸基と比べて架橋密度が向上し、耐熱性が向上するのでより好ましい。なお、酸無水物基は2級水酸基と反応するが、COOH基は反応性が弱いので、フェノキシ樹脂と酸無水物のみで架橋を十分に生じさせるためには、2つの酸無水物基を有する酸無水物化合物を使用する。
架橋剤は酸無水物の酸無水物基とフェノキシ樹脂中の2級水酸基とのエステル化反応によって3次元化架橋構造を形成するため、マトリックス樹脂のTgが向上する。
【0046】
エポキシ樹脂(B)が存在する場合は、フェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)の反応は、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応、更にはこのエステル化反応により生成したカルボキシル基とエポキシ樹脂(B)のエポキシ基との反応によって架橋、硬化される。フェノキシ樹脂(A)と架橋剤(C)との反応によってフェノキシ樹脂架橋体を得ることができるが、エポキシ樹脂(B)の共存によって、酸無水物基フェノキシ樹脂の水酸基と反応して生じるカルボキシ基がエポキシ樹脂のエポキシ基と結合して架橋反応の促進や、架橋密度の向上が生じる他、マトリックス樹脂の溶融粘度を低減化して強化繊維基材への含浸性を高められる。それにより、機械強度の向上など優れたFRP成形物を得るために好適なFRP成形用材料となる。なお、本発明においては、エポキシ樹脂(B)を共存してはいるが、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(A)を主成分としており、この2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応が優先していると考えられる。すなわち、架橋剤(C)として使用される酸無水物とエポキシ樹脂(B)、フェノキシ樹脂(A)が共存する場合、2級水酸基との反応が先ず起こり、次いで未反応の架橋剤や酸無水物基が開環して生じるカルボキシル基とエポキシ樹脂(B)とが反応することで更なる架橋密度の向上が図られる。そのため、本発明のFRP成形用材料は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とする通常のプリプレグとは異なり、成形性が良好であるとともに、湿度管理を行っていない状態での長期室温保管後でも成形性やFRP成形物の物性を維持しており、貯蔵安定性に優れる。
【0047】
マトリックス樹脂は、樹脂成分として、上記フェノキシ樹脂を50wt%より多く含む。好ましくは55wt%以上含む。ここで、樹脂成分は熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を含むが、架橋剤等の非樹脂成分は含まない。マトリックス樹脂は、樹脂成分の他に、架橋剤を含み、強化繊維基材を含まない。
【0048】
エポキシ樹脂(B)が存在する場合のマトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)の配合量を、フェノキシ樹脂(A)100重量部に対して、エポキシ樹脂(B)を9〜85重量部となるように配合する。エポキシ樹脂(B)の配合量は好ましくは、9〜83重量部であり、より好ましくは10〜80重量部である。エポキシ樹脂(B)の配合量が85重量部を超えるとエポキシ樹脂の硬化に時間を要するため、脱型に必要な強度を短時間で得にくくなる他、FRPのリサイクル性が低下する。また、エポキシ樹脂(B)の配合量が5重量部未満になるとエポキシ樹脂の配合による架橋密度の向上効果が得られなくなり、マトリックス樹脂の硬化物が160℃以上のTgを発現しにくくなる他、マトリックス樹脂の流動性が悪化するため、強化繊維基材への含浸が困難になる。
【0049】
マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂と共にエポキシ樹脂及び架橋剤を含む場合であっても、常温で固形であり、その溶融粘度は160〜220℃の温度域のいずれかにおいて3,000Pa・s以下であることが必要である。好ましくはその溶融粘度が2,900Pa・s以下であり、2,800Pa・s以下であるとより好ましい。溶融粘度が3,000Pa・sを超えると熱プレスによる成形時に強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸が不十分となり、内部ボイド等の欠陥を生じるほか、成形物のマトリックス樹脂の物性にバラつきも生じるため、FRP成形体の機械物性が低下する。
【0050】
マトリックス樹脂が、フェノキシ樹脂単独系ではなく、こうした架橋系においては、温度上昇につれて溶融粘度が低下した後、架橋反応の開始によって溶融粘度が急上昇する。よって、通常は、成形温度である160〜220℃の温度域において、架橋反応開始前の最低溶融粘度が3,000Pa・s以下であればよい。フェノキシ樹脂単独系、架橋系のいずれにしろ、上述したように、160〜220℃の温度範囲のいずれかにおいてマトリックス樹脂の溶融粘度が3,000Pa・s以下であれば、所望のFRP成形体を得ることができる。但し、フェノキシ樹脂とともにエポキシ樹脂や架橋剤を含有するマトリックス樹脂(フェノキシ樹脂架橋系)においては、フェノキシ樹脂単独の溶融粘度が160〜220℃の温度範囲のいずれかにおいて3,000Pa・s以下であったとしても、架橋剤の配合次第によって架橋反応が早期に開始し、マトリックス樹脂としての溶融粘度が上記温度域のいずれにおいても3,000Pa・sを超える場合がある。よって、マトリックス樹脂がフェノキシ樹脂架橋系である場合、フェノキシ樹脂の溶融粘度ではなく、マトリックス樹脂の溶融粘度が、上記温度域のいずれかにおいて3,000Pa・s以下であることが必要である。
フェノキシ樹脂の種類によって、溶融粘度が3,000Pa・s以下となる温度が多少変動するが、少なくとも成形温度である160〜220℃の温度域のいずれかにおいて、溶融粘度が3,000Pa・s以下であれば、FRP成形可能である。なお、成形温度はより高温、例えば250℃でも成形できるが、特にフェノキシ樹脂架橋系のマトリックス樹脂においては、架橋反応によって3,000Pa・sを超える事態となり易い。
【0051】
架橋剤(C)の配合量は、通常、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して酸無水物基0.5〜1.3モルの範囲の量であり、好ましくは0.7〜1.3モルの範囲の量であり、より好ましくは1.1〜1.3モルの範囲である。酸無水物基の量が少なすぎると架橋密度が低いため、機械物性や耐熱性に劣り、多すぎると未反応の酸無水物やカルボキシル基が硬化特性や架橋密度に悪影響を与える。
このため、架橋剤(C)の配合量に応じて、エポキシ樹脂(B)の配合量を調整することが好ましい。具体的には、エポキシ樹脂(B)により、フェノキシ樹脂の2級水酸基と架橋剤の酸無水物基との反応による生じるカルボキシル基を反応させることを目的に、エポキシ樹脂(B)の配合量を架橋剤(C)との当量比で0.5〜1.2の範囲内となるようにするとよい。更に好ましくは、架橋剤とエポキシ樹脂の当量比が、0.7〜1.0モルである。
【0052】
架橋剤(C)をフェノキシ樹脂とエポキシ樹脂を含む樹脂組成物に配合すれば、架橋フェノキシ樹脂成形物を得ることができるが、架橋反応が確実に行われるように触媒としての促進剤(D)を更に添加しても良い。促進剤は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定はされるものではなく、例えば、トリエチレンジアミン等の3級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらの促進剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上併用しても良い。本発明のFRP成形用材料は、マトリックス樹脂微粉末を静電場による紛体塗装を用いて繊維基材に付着させたものであることから、促進剤として、触媒活性温度が130℃以上である常温で固体のイミダゾール系の潜在性触媒を用いることが好ましい。
【0053】
硬化促進剤(D)を使用する場合、(D)の配合量はフェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)の合計量100重量部に対して、0.1〜5重量部とする。その他の添加剤については、マトリックス樹脂物粉末の繊維基材への付着や、成形物の特性を損なわない範囲内となるよう適宜調整して添加される。
【0054】
本発明のFRP成形用材料には、難燃剤および難燃助剤が含まれていることが望ましい。難燃剤は、常温で固体であり、昇華性が無いものであればよく、例えば水酸化カルシウムといった無機系難燃剤や、リン酸アンモニウム類やリン酸エステル化合物といった有機系および無機系のリン系難燃剤、トリアジン化合物等の含窒素系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂等の含臭素系難燃剤などが挙げられる。
なかでも臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂は、難燃剤兼マトリックス樹脂として使用することが可能なことから好ましく使用することができる。
難燃剤(および難燃助剤)の配合量については、難燃剤の種類や所望の難燃性の程度によって適宜選択されるが、マトリックス樹脂100重量部に対して概ね0.01〜50重量部の範囲内で、マトリックス樹脂の付着性やFRP成形物の物性を損なわない程度で配合することが好ましい。
【0055】
さらに、本発明のFRP成形用材料には、マトリックス樹脂粉末の繊維基材への良好な付着性や成形後のFRP成形物の物性を損なわない範囲において、フェノキシ樹脂以外の熱可塑性樹脂粉末、例えば、ポリ塩化ビニリデン樹脂、天然ゴム、合成ゴム等の粉末や、種々の無機フィラー、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤等その他添加物を配合することもできる。
【0056】
本発明のFRP成形用材料は、上記のフェノキシ樹脂を必須成分とするマトリックス樹脂を所定の微粉末とし、このマトリックス樹脂微粉末を強化繊維基材に付着することで得られる。
【0057】
フェノキシ樹脂を必須成分とするマトリックス樹脂の微粉末化は、低温乾燥粉砕機(セントリドライミル)等の粉砕混合機の使用が好適であるが、これらに制限されるものではない。また、マトリックス樹脂の粉砕に際しては、各成分を粉砕してから混合しても良いし、あらかじめ各成分を配合した後に粉砕しても良い。この場合、各微粉末が後述の平均粒子径になるように、粉砕条件を設定するとよい。このようにして得られる微粉末としては、平均粒子径が10〜150μmであって、好ましくは40〜100μmであり、より好ましくは40〜80μmである。平均粒子径が150μmを超えると、静電場における粉体塗装において、マトリックス樹脂が繊維に衝突する際のエネルギーが大きくなり、強化繊維基材への付着率が低下してしまう。また10μm以下であると、随伴気流によって粒子が飛散してしまい付着効率が低下するほか、大気中を浮遊する樹脂微粉末が作業環境の悪化を引き起こす可能性がある。フェノキシ樹脂(A)と共にエポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)を併用するマトリックス樹脂微粉末の場合、フェノキシ樹脂(A)微粉末及びエポキシ樹脂(B)微粉末の平均粒子径が、架橋剤(C)微粉末の平均粒子径の1〜1.5倍であることが好ましい。架橋剤微粉末の粒子径をフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂微粉末の粒子径よりも微細にすることにより、強化繊維基材の内部にまで架橋剤が付着されるとともに、架橋剤がフェノキシ樹脂粒子及びエポキシ樹脂粒子の周囲に万遍なく存在することで、架橋反応を確実に進行させることができる。
【0058】
フェノキシ樹脂を必須成分とするマトリックス樹脂の微粉末は、粉体塗装法により、強化繊維基材に付着されることによって本発明のFRP成形用材料が得られる。粉体塗装法には流動床を利用した流動塗装法と静電場を利用した静電塗装法があり、本発明では強化繊維基材への付着の均一性から静電場を利用した静電塗装法が好適であるが、流動床を使用した流動塗装法も利用することもできる。
【0059】
強化繊維基材へのマトリックス樹脂の付着量(樹脂割合:RC)は、20〜50%となるように塗工されるが、好ましくは25〜45%であり、より好ましくは25〜40%である。RCが50%を超えるとFRPの引張・曲げ弾性率等の機械物性が低下してしまい、10%を下回ると樹脂の付着量が極端に少ないことから基材内部へのマトリックス樹脂の含浸が不十分になり、熱物性、機械物性ともに低くなる懸念がある。
【0060】
粉体塗装されたマトリックス樹脂の微粉末は、加熱溶融により強化繊維基材に固定されるが、粉体を塗工した後に加熱融着してもよいし、あらかじめ加熱された強化繊維基材に粉体塗装することによりマトリックス樹脂微粉末の繊維基材への塗工と同時に融着しても良い。この加熱溶融によって、強化繊維基材表面のマトリックス樹脂を溶融させることで、基材への密着性を高め、塗装された樹脂粉末の脱落が防止される。ただし、得られるFRP成形用材料においてマトリックス樹脂は強化繊維基材の表面に集中しており、加熱加圧成形後の成形体のように強化繊維基材の内部にまで行き渡っていない。なお、紛体塗装後にマトリックス樹脂を融着するための加熱時間は、特に制限はされないが、通常1〜2分間が適する。溶融温度は150〜240℃であり、好ましくは160〜220℃、より好ましくは180〜200℃である。溶融温度が上限を超えると硬化反応が進行してしまう可能性があり、また下限を下回ると熱融着が不十分となり、FRP成形用材料の取扱作業時にマトリックス樹脂微粉末の粉落ち、脱落等が発生する懸念がある。
なお、本工程は、粉体塗装したマトリックス樹脂を繊維基材に固定させるために行う熱処理であり、この熱処理を行わないと、成形時にマトリックス樹脂が粉落ちする。このため、プレス成形時よりもはるかに短時間での熱処理を行うことによって、架橋剤と樹脂を反応させずにフェノキシ樹脂やエポキシ樹脂を繊維基材に熱融着により固定する。
【0061】
強化繊維基材には、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが好ましい。特にピッチ系の炭素繊維は高強度であるだけでなく高熱伝導性でもあり、それ故に発生した熱を素早く拡散することができるのでより好ましい。前記強化繊維基材の形態は、特に制限されるものでは無く、例えば一方向材、平織りや綾織などのクロス、三次元クロス、チョップドストランドマット、数千本以上のフィラメントよりなるトウ、あるいは不織布等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、1種類で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。
また、粉体塗装に際して開繊処理された強化繊維基材を使用することが好ましい。開繊処理により、粉体塗装およびその後の成形加工時において、マトリックス樹脂の強化繊維基材の内部への含浸がより行われやすくなるため、より高い成形物物性を期待することができる。
【0062】
本発明のFRP成形用材料を、単独でもしくは積層し、加熱かつ加圧することにより、FRP成形物を簡便に製造することができる。また、積層に際してアルミやステンレス等の金属箔などを層間や最外層に積層することもできる。本発明のFRP成形用材料は、熱プレスによる加圧成形により、賦形とマトリックス樹脂の架橋と硬化を同時に行うことが可能である。
FRP成形用材料を使用した成形は、加熱加圧成形である限り、目的とするFRP成形物の大きさや形状に合わせて、オートクレーブ成型や金型を使用した熱プレス成型等の各種成形法を適宜選択して実施することができる。マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂微粉末を単独で使用する場合、成形温度は、例えば160〜250℃、好ましくは180℃〜240℃、より好ましくは180℃〜230℃である。マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂微粉末と共にエポキシ樹脂や架橋剤の微粉末を併用する場合、成形温度は、例えば150〜240℃、好ましくは160℃〜220℃、より好ましくは180℃〜200℃である。成形温度が上限温度を超えると、必要以上の過剰な熱を加えるため、成形時間(タクトタイム)が長くなり生産性が悪くなり、下限温度を下回るとマトリックス樹脂の溶融粘度が高いため、強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸性が悪くなる。成形時間については、通常30〜60分で行うことができる。マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂微粉末と共にエポキシ樹脂や架橋剤の微粉末を併用する場合、10分程度の短時間であっても、主成分としてのフェノキシ樹脂(A)の2級水酸基を利用した架橋剤(C)との反応によって、脱型を行える強度を得ることができる。ただし、エポキシ樹脂(B)の硬化反応を完結させるためには、例えば200〜250℃で30〜60分程度、ポストキュアすることが好ましい。
【0063】
製造されたFRP成形物の脱型温度は、マトリックス樹脂の種類や生産性などを考慮して設定される。例えば、100〜120℃である。なお、マトリックス樹脂の必須成分であるフェノキシ樹脂のTgの向上を目的に架橋剤を使用した場合は、脱型後に別途各種オーブンで100~200℃でポストキュアを実施することにより、架橋を確実に進められることができるので好ましい。
【0064】
架橋剤又はエポキシ樹脂と架橋剤を配合した場合、フェノキシ樹脂の2級水酸基を利用した架橋反応によって成形前よりも耐熱性が大きく上昇し、Tgが160℃以上の成形物を得られる。マトリックス樹脂の硬化物の軟化点はTgから概ね−25℃以内にあるため、例えば金型を使用した熱プレス成形において、金型からの成形物の脱型温度は、マトリックス樹脂の硬化物のTgから−30℃以下の範囲であれば可能であり、好ましくは硬化物のTgから−35℃以下、より好ましくはTgから−40℃以下である。なお、脱形温度が上記範囲の上限温度を超えると賦形を保つことができず、また脱形温度が低すぎると冷却に要する時間が長くなるためタクトタイムが長くなり、生産性が低下する。
なお、軟化点とは、マトリックス樹脂硬化物のDMAによって測定される貯蔵弾性率(E’)が減衰する変曲点の温度のことを示す。
【実施例】
【0065】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0066】
各種物性の試験及び測定方法は、以下のとおりである。
【0067】
粒度(d50)
マトリックス樹脂などの微粉末等の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
【0068】
成形物のガラス転移温度(Tg)
FRP成形用材料を10枚重ねて熱プレスすることにより作製した積層板から、ダイヤモンドカッターを用いて厚さ2mm、幅10mm、長さ10mmの試験片を作製し、動的粘弾性測定装置(Perkin Elmer社製 DMA 7e)を用いて、5℃/分の昇温条件、25〜250℃の範囲で測定し、得られるtanδの極大ピークをガラス転移点とした。
【0069】
溶融粘度
レオメータ(Anton Paar社製)を用いて、サンプルサイズ4.3cm
3をパラレルプレートに挟み、20℃/minで昇温しながら、周波数:1Hz、負荷ひずみ:5%の条件にて、180℃における溶融粘度を測定した。
【0070】
タック性
FRP成形用材料の表面を指で触ってタック性のないものを合格とし、表中に○として表記した。
ドレープ性
FRP成形材料のしなやかさを評価するため、一辺の長さが50mmの正方形で厚みが1mmのアルミ板に、長さ60mm×幅20mmにカットしたCFRP成形材料をU字型に巻きつけ、エアシリンダーで上下する一対の平行なステージ(100mm×100mm)の中央にセットして試料ごと挟み込んだ。評価は解放後の試料の状態を拡大鏡によって目視にて確認することにより行い、炭素繊維の折損や樹脂の剥離、FRP成形材料の破損などが観察された場合を不良として×、これらの現象が観察されなかった場合を良として○とした。
なお、樹脂の付着していない素材状態の強化繊維基材についても上記評価を行ったところ、繊維の折損などは確認されなかった。
【0071】
樹脂割合(RC:%)
マトリックス樹脂付着前の強化繊維クロスの重量(W1)と、樹脂付着後のFRP成形用材料の重量(W2)から下記の式を用いて算出した。
樹脂割合(RC:%)=(W2−W1)/W2×100
W1:樹脂付着前の強化繊維クロス重量
W2:樹脂付着後のFRP成形用材料の重量
【0072】
機械強度
JIS K 7074:1988 炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に基づいて、得られたFRP積層板の機械物性を測定した。
【0073】
保存安定性
特段の温湿度管理を行っていない室内に3か月間保管したFRP成形用材料を、テフロン(登録商標)シート上に10枚重ねて、200℃に加熱したプレス機で5MPa、5分間プレスして積層板を作製し、熱物性や機械物性の評価を行った。三か月前に作製した積層板との比較を行い、物性の誤差が±10%の範囲内であれば合格とし、表中に○と表記した。
【0074】
樹脂含浸性
FRP成形用材料を、テフロンシート上に10枚重ねて、200℃に加熱したプレス機で5MPa、5分間プレスして積層板を作製したのち、ダイヤモンドカッターを用いて10mm角の細片を数枚切り出した。切り出した細片は#1000以上の耐水研磨紙で切断面を研磨した後、光学顕微鏡により観察を行いボイドの有無を確認した。
良好を○、1〜2個の空隙ありを△、空隙が多数を×とした。
【0075】
難燃性試験
米国UL規格のUL94に規定されている垂直燃焼性試験に準拠して、長さ125mm×幅13mm×厚み1mmの試験片を評価し、V−0相当の難燃性があった場合を◎、V−1またはV−2相当の難燃性があった場合を○、難燃性が無かった場合を×として表に示した。
【0076】
実施例及び比較例で使用した材料は、以下のとおりである。
【0077】
フェノキシ樹脂(A)
(A−1)フェノトートYP−50S(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型、Mw=60,000、水酸基当量=284)、Tg=84℃、200℃における溶融粘度=400Pa・s
(A−2)フェノトートYP−70(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA/ビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂、Mw=55,000、水酸基等量=270)、Tg=70℃、200℃における溶融粘度=140Pa・s
(A−3)フェノトートYPB−43C(新日鉄住金化学株式会社製臭素化フェノキシ樹脂、Mw=60,000、水酸基等量=600)、Tg=149℃、220℃における溶融粘度=2,000Pa・s
【0078】
エポキシ樹脂(B)
(B−1):YSLV−80XY(新日鉄住金化学株式会社製テトラメチルビスフェノールF型、エポキシ当量=192、融点=72℃)
【0079】
架橋剤(C)
(C−1):無水ピロメリット酸(酸無水物当量=109、融点=283−286℃)
【0080】
実施例1
フェノキシ樹脂(A−1)を粉砕、分級し、平均粒径d50が100μmである粉体を、炭素繊維(東邦テナックス社製、STANDARD Modulus type HTS40 3K)からなる開繊処理された平織の強化繊維基材に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行い、その後、オーブンで200℃、2分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、FRP成形用材料を得た。得られたFRP成形用材料について、各種の物性を測定した。
その後、得られたFRP成形用材料をテフロンシート上に10枚重ねて、200℃に加熱したプレス機で5MPa、5分間プレスして積層板を作製し、機械物性の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0081】
実施例2、3
フェノキシ樹脂(A−1)、又は(A−2)をそれぞれ粉砕、分級し、d50が50〜80μmとなる粉体を作製し、上記と同様にしてFRP成形用材料を得て、同様にして積層板を作製し、機械物性の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0082】
比較例1
フェノキシ樹脂(A−1)をメチルエチルケトンに溶解し、離型剤付きのPETフィルムに塗工した後、オーブン中で溶剤を揮発させて剥離し、フィルム化した。次いで、このフェノキシ樹脂(A−1)フィルムを、炭素繊維(東邦テナックス社製、STANDARD Modulus type HTS40 3K)からなる開繊処理された平織の強化繊維基材と、交互に積層し、10枚重ねて、200℃に加熱したプレス機で5MPa、5分間プレスして積層板を作成し、機械物性を行った。これらの結果を表1に示す。なお、RCは実施例1と同じになるようにフェノキシ樹脂フィルムの厚みを調整した。
【0083】
比較例2
マトリックス樹脂粉末として6−ナイロン樹脂粉末(NYLOTEX200、Tg=200℃、220℃における溶融粘度=220Pa・s)を使用し、プレス温度を230℃としたこと以外は、実施例1〜3と同様にしてFRP成形用材料を得、積層板を作製して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例4、5
フェノキシ樹脂(A−1)、(A−3)をそれぞれ粉砕、分級し、平均粒径d50が80〜100μmとなる粉体を作製した。これらを表2に示す割合(質量部)でドライブレンドしたのち、実施例1〜3と同様にしてFRP成形用材料を得、プレス温度220℃として積層板を作製して難燃性試験を含む各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表1、2で得られた結果から、本発明のフェノキシ樹脂を必須成分とするマトリックス樹脂を強化繊維基材としての炭素繊維に粉体塗装法で付着して作成したFRP成形用材料は、良好なハンドリング性を有し、複雑な形状でも成形が可能なことが分かる。また、こうしたFRP成形用材料を用いて成形したFRPは、携帯電子機器類の筐体としての使用に十分な機械物性を有していた。
【0088】
実施例6
フェノキシ樹脂(A)として(A−1)、エポキシ樹脂(B)として(B−1)、架橋剤(C)として(C−1)をそれぞれ粉砕、分級して平均粒子径D50が100μmである粉体にしたものを、表2に示す割合(重量部)でドライブレンドし、炭素繊維(東邦テナックス社製、STANDARD Modulus type HTS40 3K)からなる開繊処理された平織の強化繊維基材に静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで180℃、2分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、FRP成形用材料を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は27%であった。
上記で得られたFRP成形用材料はタック性の評価を行ったのち、テフロンシート上に10枚重ねて、200℃に加熱したプレス機で5MPaで10分間プレスしFRP積層板を得た。その後、オーブンで2時間アフターキュアを行い、機械物性の評価を行った。
これらの結果を表3に示す。
【0089】
実施例7〜13
フェノキシ樹脂(A)として、平均粒子径D50を80μmとなるように粉砕・分級したフェノキシ樹脂(A−1)、(A−2)粉末をそれぞれ使用した以外は、実施例6と同様にしてFRP成形用材料およびFRP積層板を作製し、評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
比較例3
強化繊維基材へのマトリックス樹脂の塗工を、粉体塗装法(静電塗装法)ではなく、実施例6と同配合のマトリックス樹脂粉末をメチルエチルケトン(MEK)に溶解した溶液(固形分濃度10%)を用いたソルベント法にて行い、160℃の乾燥炉で1min乾燥することによりFRP成形用材料を作製した以外は、すべて同様にしてFRP積層板を作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0092】
実施例14〜16
フェノキシ樹脂(A)として、平均粒子径d50が80μmとなるよう粉砕・分級したフェノキシ樹脂(A−1)粉末に、エポキシ樹脂(B)として(B−1)、架橋剤(C)として(C−1)をそれぞれ粉砕・分級した粉末を表4に示す配合(重量部)でドライブレンドし、実施例6と同様にしてFRP成形用材料およびFRP積層板を作製し、評価を行った。これらの結果も表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
実施例17、18
フェノキシ樹脂(A)として、平均粒子径D50が80μmとなるように粉砕・分級したフェノキシ樹脂(A−1)および(A−3)粉末を用い、エポキシ樹脂(B)として(B−1)、架橋剤(C)として(C−1)をそれぞれ粉砕・分級した粉末を表5に示す配合(重量部)及びモル比でドライブレンドし、実施例6と同様にしてFRP成形用材料およびFRP積層板を作製し、難燃性試験を含めた各種評価を行った。これらの結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
表3〜5で得られた結果から、フェノキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び架橋剤(C)を必須成分としたマトリックス樹脂の微粉末を粉体塗装によって強化繊維基材に付着させてFRP成形用材料は、タック性がないため良好なハンドリング性を持ち、貯蔵安定性も良好であることに加え、成形物は160℃以上の優れた耐熱性をも兼ね備えていることが分かる。さらに、本実施例のFRP成形用材料はドレープ性があるため、複雑な形状の成形物の加工も可能であり、マトリックス樹脂の配合処方によっては、高い耐熱性と機械物性に加え、難燃性をも備えたFRP成形物を得ることができることから、電子筐体から自動車材料までにも適用が可能なFRP成形用材料として非常に優れている。