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特開2019-59911エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂が含浸されたトウプリプレグ及び炭素繊維強化プラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-59911(P2019-59911A)
(43)【公開日】2019年4月18日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂が含浸されたトウプリプレグ及び炭素繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20190322BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20190322BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20190322BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20190322BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20190322BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20190322BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20190322BHJP
【FI】
   C08G59/50
   C08K5/3445
   C08K5/3492
   C08K5/29
   C08L51/04
   C08L63/02
   C08J5/24CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-58519(P2018-58519)
(22)【出願日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-184993(P2017-184993)
(32)【優先日】2017年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD02
4F072AD28
4F072AE04
4F072AF15
4F072AF27
4F072AF30
4F072AG03
4F072AH04
4F072AK11
4F072AL02
4F072AL07
4J002BN162
4J002CD051
4J002ET006
4J002EU187
4J002FD146
4J002FD157
4J002GN00
4J036AA01
4J036AD08
4J036DA05
4J036DC31
4J036DC40
4J036DC45
4J036FB03
4J036FB05
4J036GA06
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】
炭素繊維複合材料に用いるエポキシ樹脂組成物であって、貯蔵安定性と硬化反応性に優れ、低い樹脂含有率(Rc)であっても、炭素繊維複合材料中におけるボイドなどの欠陥を低減することができるトウプリプレグとして有用な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
エポキシ樹脂組成物として粘度1Pa・s以上100Pa・s以下である液状エポキシ樹脂を含有し、極微細に粉砕された粉末固形の硬化剤および硬化促進剤を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、イミダゾール化合物(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂(A)が、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/または液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有し、粘度(25℃)1Pa・s以上100Pa・s以下であり、
エポキシ樹脂硬化剤(B)およびイミダゾール化合物(C)が、いずれも、融点または分解温度200℃以上の固形であり、平均粒径(D50)2μm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂硬化剤(B)が、ジシアンジアミドである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
イミダゾール化合物(C)が、式(1)または式(2)で示される化合物である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】
【請求項4】
さらにゴム成分(D)を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂硬化剤(B)とイミダゾール化合物(C)の合計量が、エポキシ樹脂組成物に対して10重量%以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
ゴム成分(D)が、コアシェル構造を有するゴム粒子である請求項1〜5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
安定剤を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を炭素繊維(E)に含浸してなるトウプリプレグ。
【請求項9】
炭素繊維(E)の平均直径が7.5μm以下である請求項8に記載のトウプリプレグ。
【請求項10】
請求項8または9に記載のトウプリプレグを成型し、硬化してなる炭素繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウプリグレグにしたときの巻き付け性に優れボイドの発生を低減することのできるエポキシ樹脂組成物及びそれを用いた繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂に分類される樹脂のひとつである。材料に対する接着性が強いことが特徴として挙げられ、その用途は塗料、電子材料、土木・接着その他に対して広く用いられている。また、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維との複合化された繊維強化複合材料は軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築及びスポーツ用品などの数多くの分野に応用されている。
【0003】
繊維強化複合材料の加工はオートクレーブ法、プルトリュージョン法、フィラメントワインディング法、組みひも法、レジントランスファーモールディング法などの方法が挙げられるが、加工方法は目的とする構造体の形状や、要求される生産性などによって選択される。
【0004】
フィラメントワインディング法はマンドレルと呼ばれる型に対して、エポキシ樹脂またはその他の硬化性樹脂を含浸した炭素繊維束またはその他の繊維束(フィラメント)を巻きつけて(ワインド)成型するプロセスであり、これを硬化して複合材料を得ることができる。この方法は、ドライ法とウェット法の2つに大別できる。
【0005】
ウェット法は、フィラメントワインディング工程の中で、炭素繊維を巻出し、マンドレルに巻き付けるまでの間に樹脂含浸槽を設置する手法である。この方法はプロセスとしてシンプルである一方で、巻きつけ速度に合わせて樹脂を含浸する必要があるため、粘度が低く、含浸性に優れる樹脂に限定される問題がある。また、目付量にばらつきが生じるために、余分に樹脂を使用しなければならないこと、樹脂が工程中で落下して汚染すること、巻きつける速度や角度によっては狙った場所からずれるなどの問題がある。
【0006】
一方のドライ法は、炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸したトウプリプレグを用いる。このプロセスは含浸工程と巻付工程に分けることにより、それぞれを精度よく実施することができる代わりに、中間部材としてのトウプリプレグの貯蔵安定性が必要になる。貯蔵安定性に優れる樹脂は通常、硬化反応性が犠牲になるトレードオフが知られている。このトレードオフは当業界において広く認識されている課題である。
【0007】
エポキシ樹脂の貯蔵安定性と硬化反応性を両立するための技術として、粉末の硬化剤や硬化促進剤(以下、硬化剤等)を用いる方法が一般的に知られている。硬化剤等に固体のものを採用することにより、エポキシ樹脂と硬化剤等が接触する機会を固液界面のみに限定することができる。また、加熱により硬化剤等が溶解、拡散して反応が起こるため、トレードオフの解消が可能な技術として知られている。
【0008】
この技術を複合材料に適用しようとした場合、成型するタイミングと硬化剤等の粒子が溶解するタイミングにより、適用の可否が全く異なってしまう。すなわち、粉末を多く含有する場合であっても、オートクレーブ成型をする場合には欠陥の少ない硬化物を得ることができる一方で、フィラメントワインディング法においてはボイドなどの欠陥が多い硬化物となる問題があり、特に樹脂含有率(Rc)が小さくなるに従い、この問題が大きくなる傾向にある。
【0009】
特許文献1には、貯蔵安定性と速硬化性の両立可能なエポキシ樹脂組成物に関して記載があり、実施例に樹脂含有率41重量%の炭素繊維クロスプリプレグを開示する。特許文献2には、特定の尿素誘導体とジシアンジアミドとを組み合わせた促進剤について記載があるが、繊維複合材料の実施例は無い。特許文献3にも貯蔵安定性と速硬化性の両立が可能な樹脂組成物について記載があり、実施例に樹脂含有率66重量%のガラス繊維プリプレグを開示する。
いずれの特許文献においても樹脂含有率を低減した場合におけるボイド低減技術については何ら記載がない。
【0010】
特許文献4には、保存安定性及び硬化性が良好なエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂に平均粒径10μm以下のアミン系化合物を含有する粒子、及びホウ酸エステル化合物を含有するものを開示するが、実施例等を参照しても、プリプレグにしたときの樹脂含有率の記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−075914号公報
【特許文献2】特表2007−504341号公報
【特許文献3】特表2015−516497号公報
【特許文献4】特開平9−157498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
すなわち、本発明における課題は、炭素繊維複合材料に用いるエポキシ樹脂組成物であって、貯蔵安定性と硬化反応性に優れ、低い樹脂含有率Rcにおいてもボイドなどの欠陥を低減できる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、エポキシ樹脂として低粘度の液状エポキシ樹脂を使用し、エポキシ樹脂に配合される硬化剤および硬化促進剤として、いずれも、融点等が高い固形であって平均粒子径が一定値以下のものを必須成分として配合することにより、ボイドを十分に低減することが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、イミダゾール化合物(C)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂(A)が、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/または液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有し、粘度(25℃)1Pa・s以上100Pa・s以下であり、エポキシ樹脂硬化剤(B)およびイミダゾール化合物(C)が、いずれも、融点または分解温度200℃以上の固形であり、平均粒径(D50)2μm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0015】
上記エポキシ硬化剤(B)はジシアンジアミドであることができる。上記イミダゾール化合物(C)は下記式(1)又は式(2)示される化合物であることができる。また、エポキシ硬化剤(B)とイミダゾール化合物(C)の合計量が、エポキシ樹脂組成物に対して10重量%以下とすることが好ましい。
【化1】
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ゴム成分(D)を含有することができる。このゴム成分(D)としては、コアシェル構造を有するゴム粒子であることが適する。また、安定剤を少量含有することも好ましい。
【0017】
本発明の他の態様は、上記エポキシ樹脂組成物を炭素繊維(E)に含浸してなるトウプリプレグである。炭素繊維(E)としては、平均直径が7.5μm以下であることが適する。
また、本発明は上記トウプリプレグを成型し、硬化してなる炭素繊維強化プラスチックである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い貯蔵安定性と高い硬化反応性を両立し、かつ、低い樹脂含有率を実現しつつ、硬化物中のボイド等の欠陥を抑制できる樹脂組成物、樹脂付き炭素繊維、硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及びイミダゾール化合物(C)を必須成分として含む。以下、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及びイミダゾール化合物(C)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、及び(C)成分ともいう。
【0020】
エポキシ樹脂(A)は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂または両者を含有し、25℃における粘度が1Pa・s以上100Pa・s以下であるエポキシ樹脂である。
この粘度は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度である。好ましい粘度は、30Pa・s以下、より好ましくは15Pa・s以下である。また、4Pa・s以上、さらに好ましくは8Pa・s以上である。粘度が100Pa・sを超える場合、炭素繊維への含浸時に十分に含浸することができず、またフィラメントワインディング成形時にボイドが発生し易くなる。1Pa・s未満であると通糸時や巻きつけ時の液だれ、巻きつけ時の巻きずれ等があり好ましくない。
【0021】
エポキシ樹脂(A)は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂を単独または両者を含む成分であるが、25℃における粘度が上記範囲を満足すれば、他の液状または固形エポキシ樹脂を含有しても良い。
【0022】
他のエポキシ樹脂としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレ−ト、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1−エポキシエチル−3,4−エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
エポキシ樹脂硬化剤(B)は、融点または熱分解温度が200℃以上である固形エポキシ樹脂硬化剤である。固形であることで、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、100℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応するという特性を有する、室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤となり得る。
エポキシ樹脂硬化剤としてはたとえば、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、グアニジン化合物、ジアミノジフェニルスルホンなどが好ましく用いられる。ジシアンジアミドを使用する場合、配合量としてはエポキシ樹脂(A)のエポキシ基1モルに対して0.3〜1.2当量(ジシアンジアミドの場合、1モルを4当量として計算)の範囲で配合することが好ましい。より好ましくは0.4〜0.6当量である。0.3当量未満では硬化物の架橋密度が低くなり、破壊靱性が低くなり易くなり、1.2当量を超えると未反応のジシアンジアミドが残り易くなるため、機械物性が悪くなる傾向にある。別の観点からは、エポキシ樹脂組成物に対して1〜15wt%が好ましく、3〜7wt%が更に好ましい。
【0024】
イミダゾール化合物(C)は、硬化促進剤として作用し、混合時での強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるためには、例えば2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル6−4′,5′−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を用いることが良い。更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物も好ましく使用でき、例えば、式(2)で表される2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、式(1)で表される2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、特に式(1)または式(2)に示されるイミダゾール化合物が好ましく用いられる。化学的に安定で、かつ、常温ではエポキシ樹脂に溶解しないものであれば上記に限定されるものではない。
イミダゾール化合物(C)の使用量は、エポキシ樹脂組成物100重量部に対して0.01〜7重量部が好ましい。より好ましくは、1〜5重量部である。7重量部を超える場合、粉末成分が多くなるため、ボイドが多くなり易くなる問題が生じる。0.01重量部未満の場合、速硬化性を実現できない問題が生じる。
【0025】
エポキシ樹脂硬化剤(B)およびイミダゾール化合物(C)の合計の添加量は、ボイド低減効果からエポキシ樹脂組成物に対して10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、エポキシ樹脂組成物に対して1〜5重量%である。
【0026】
エポキシ樹脂硬化剤(B)およびイミダゾール化合物(C)はともに、平均粒径D50が2μm以下、好ましくはD90が3μm以下とすることで、良好な含浸性を示し、硬化物作成時にはボイドの低減が可能となる。しかしながら粒径が細かすぎる場合、具体的にはD90が1μm以下となる場合には貯蔵安定性が著しく損なわれる恐れがある。その場合はホウ酸トリブチルなどのルイス酸を添加することにより技術的には改善することが可能である。フィラメントワインディング時に硬化剤粉末が炭素繊維の間隙に収まるため、トウプリプレグからの樹脂成分の滲み出しを阻害することなく、フィラメントワインディングプロセスにおいて必然的に生じる炭素繊維の段差を樹脂で埋めることができる。結果として、低Rc条件においてもボイドの生成を抑制することができる。理想的には、硬化剤等の粒子直径は、炭素繊維の直径に対して(2/√3−1)以下とすることにより、炭素の巻き締めに影響しなくなる。そのため、D50がこの直径以下であることが好ましく、D90がこの直径以下であることが更に望ましい。理想的にはD100がこの直径以下にあることであるが、精度よくこれを実現するのは難しく、また粒径が細かくなりすぎると貯蔵安定性が悪化する。D50がこの直径よりも大きい場合には、フィラメントワインディング工程において十分な樹脂の滲み出しを得ることができず、炭素繊維の段差を樹脂によって埋めることができない。そのために空気が残りやすくなり、硬化物中にボイドが残る恐れがある。
【0027】
硬化剤等の粉砕は、たとえばジェットミルによりおこなうことができる。粉砕した硬化剤等の粒度分布は、たとえば日機装社製マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXIIを用いて評価をおこなうことができる。分散剤は粉末の種類によって選択されるが、本明細書では2−プロパノールに分散し、測定を行う。
【0028】
硬化剤等は粉末の粒径を小さくすることにより、表面積が増大するために、貯蔵安定性が低下する懸念がある。その場合、公知慣用の手法により貯蔵安定性を改善することができる。安定剤として、具体的にはホウ酸トリブチルなどのルイス酸を少量、例えばエポキシ樹脂組成物100重量部に対し1.0重量部以下添加する方法が挙げられる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物にはゴム成分(D)を含むことができる。ゴム成分としては、アクリロニトリルとブタジエンを原料とする共重合体がエポキシ樹脂に対する溶解性に優れるため好ましく用いられる。特に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基などのエポキシ樹脂またはその硬化剤と反応しうる官能基を有するものを用いると、硬化物の靱性向上効果が大きいため、特に好ましい。
また、エポキシ樹脂不溶のゴム成分を含有する粒子も好ましく用いることができる。架橋したゴム粒子そのものを用いることもできるが、特にエポキシ樹脂不溶のゴム粒子の表面を非ゴム成分で被覆したコアシェル構造を有するゴム粒子が適する。この場合、被覆する成分はポリメタクリル酸メチルのようにエポキシ樹脂に溶解、あるいは膨潤するものでもよく、むしろ粒子のエポキシ樹脂中への分散が良好になるため好ましい。エポキシ樹脂不溶のコアシェル構造を有するゴム粒子を用いた場合は、樹脂硬化物の耐熱性が通常のゴム成分より優れるという利点がある。
【0030】
ゴム成分の添加には、靱性の向上効果、およびプリプレグのタック性の向上効果があり、平均粒子径が体積平均粒子径で1〜500nmであることが好ましく、3〜300nmであればさらに好ましい。
コアシェルゴム等のゴム成分(D)の配合量は、エポキシ樹脂組成物100重量部中に、0.5〜15重量部配合されることが好ましく、1〜10重量部であればさらに好ましい。配合量が0.5重量部以上であれば、成形後の繊維強化複合材料に必要とされる破壊靭性が得られやすく、さらに、配合量が15重量部以下であれば、得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることを抑え、強化繊維に無理なく含浸できるため、繊維強化複合材料用により適したものとなる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は樹脂組成物全体100重量部に対して0.01〜3重量部、好ましくは0.01〜1重量部を配合することができる。配合量が0.01重量部未満では表面を平滑にする効果が現れず、3重量部を超えると添加剤が表面にブリードアウトを起こしてしまい、逆に平滑性を損なう要因となる。また、必要により顔料その他の添加剤を配合することも可能である。しかし、本発明のエポキシ樹脂組成物は、全体として液状を保つように(A)成分の配合量を50wt%以上、好ましくは80wt%以上とすることが良い。なお、溶剤は添加剤としては扱わない。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記の(A)成分〜(C)成分等を均一に混合することにより製造される。原料の混合は公知慣用の方法により混合できる。たとえば自転公転式遠心撹拌装置を用いてもよいし、ディスパーなどで分散してもよく、ロール分散を行ってもよい。他の方法でもよいし、これらを組み合わせてもよい。ただし、温度が高くなる場合は、硬化剤等がエポキシ樹脂中に溶解するため、貯蔵安定性が悪化する。好ましくは40℃以下、望ましくは30℃以下の条件で速やかに混合する。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)成分が液状で存在し、(B)成分、(C)成分の少なくとも一部が粉末状で存在する。(B)成分、(C)成分の一部は液体中に溶解してもよいが、エポキシ樹脂の硬化が十分には進行しない程度に制御される。したがって、プリプレグの製造に使用されるエポキシ樹脂組成物として、またはプリプレグ中に存在するエポキシ樹脂組成物として有用である。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させるフィラメントワインディング法などでトウプリプレグを製造でき、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無とすることが可能であるので、生産性が高く高品位なトウプリプレグが製造できる。ここで使用する強化繊維束は炭素繊維が挙げられ、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは平均直径が7.5μm以下、特に好ましくは6.5μm以下である炭素繊維が用いられる。平均直径がより大きい場合、本発明の効果についての有意差が小さくなる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、トウプリプレグ繊維強化複合材料に好適に用いられる。ここで用いられるトウプリプレグの製造方法は特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてトウプリプレグとするウェット法、あるいは、有機溶媒を用いずに加熱して低粘度化したエポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させるホットメルト法、エポキシ樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させるフィラメントワインディング法などで製造でき、有機溶媒を使用せずまたは低沸点の溶媒を使用する場合は、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、生産性が高く高品位なトウプリプレグが製造できることから、フィラメントワインディング法を好ましく用いることができる。このような製造法を用いることで樹脂含浸されたトウプリプレグを得ることができる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、繊維強化複合材料として有用であり、ここで用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0038】
炭素繊維はたとえば、東レ株式会社製T700SC−12000−50C(直径7μm、密度1.8g/cm、繊度802TEX)、東レ株式会社製T720SC−36000−50C(直径6μm、密度1.8g/cm、繊度1650TEX)などが挙げられるが、本発明においてはこれらに限られるものではない。
【0039】
本発明のトウプリプレグは、上記のエポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸して得ることができる。その方法は炭素繊維を樹脂バスに漬けてもよいし、ドラムに塗布した樹脂を炭素繊維に転写してもよい。その他公知慣用の手法により得ることができる。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維より構成された成形体において、強化繊維の含有率は、目的とする材料によって異なるが、車載用の高圧ガス容器においては軽量化を実現するため、Rcは18〜28重量%、好ましくは20〜26重量%、より好ましくは21〜24重量%である。Rcが18重量%よりも低いとボイドが多くなり易く、28重量%よりも高いと、製品重量が大きくなるため、例えば車載用のガス容器としては好ましくない。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、80〜180℃、好ましくは135℃以上の温度の任意温度で、0.5〜10時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて硬化物を得ることができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器を想定した場合は、80〜150℃の温度の範囲の任意温度で、0.5〜5時間の範囲の任意時間で加熱硬化することにより、所望する硬化物の物性を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により本発明を詳しく説明する。各実施例及び比較例で使用した材料を次に示す。樹脂組成物を得るために、下記の樹脂原料を用いた。
【0043】
(A)成分
・液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF−170(新日鉄住金化学株式会社製)(エポキシ当量160〜180g/eq,粘度2〜5Pa・s)
・液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:YD−128(新日鉄住金化学株式会社製)(エポキシ当量184〜194g/eq,粘度11〜15Pa・s)
・コアシェルゴム含有液状BPA型エポキシ樹脂:カネエースMX−154(カネカ社製)(ゴム含量40重量%、エポキシ当量301g/eq,粘度30Pa・s-50℃)
(B)成分
・ジシアンジアミド:DICYANEX1400F(分解温度250℃以上;AIRPRODUCT社製)
・ジエチルメチルベンゼンジアミン:エタキュア100(室温液状;Albemarle社製)
(C)成分
・2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物:2MAOK−PW(分解温度250℃以上;四国化成工業製)
【0044】
炭素繊維
T7μm:東レ株式会社製T700SC−12000−50C(直径7μm)
T6μm:東レ株式会社製SC−36000−50C(直径6μm)
【0045】
測定方法を以下に示す。
平均粒径の測定:
分散剤として2−プロパノールを使用し、日機装社製マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXIIを用いて評価した。
【0046】
粘度:
JIS K7117−1に準じ、東機産業株式会社製E型粘度計RE−85を用いて行った。
【0047】
貯蔵安定性:
粘度の変化を追跡して評価した。その条件は、樹脂組成物を50g作成し、50mLのバイアル瓶に入れ、25℃での初期粘度、および所定の時間(24h、48h、96h又は168h)保管した後の粘度を測定し、粘度上昇率で評価した。粘度上昇率Zは、25℃で所定時間保管後の粘度Vと、初期粘度Viから、次式で計算される値である。保管時間24h、48h、96h又は168hについて、各々、粘度上昇率を求めた。
粘度上昇率(%)=(VZ/Vi−1)×100
なお、全体としての貯蔵安定性を、◎:優、○:良、×:不可で評価した。
【0048】
硬化性(硬化発熱残量):
示差走査熱量分析(DSC)により行った。樹脂組成物をサンプルパンに封入したのち10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温し、基準となる硬化発熱量Aを測定した。同様に、樹脂組成物をサンプルパンに封入したのち10℃/minの昇温速度で所定の温度(140℃、150℃又は160℃)まで昇温し、30分間保持したのちに室温まで急冷して、硬化物を得た。これらの硬化物を、10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温し、硬化発熱量Bを測定した。得られた各硬化物の硬化発熱量Bを、基準となる樹脂組成物の硬化発熱量Aで除し、下記式により硬化発熱残量を求めた。硬化発熱残量(%)が低いほど、硬化性が良好であることを示す。
硬化発熱残量(%)=B/A×100
なお、全体としての硬化性を、◎:優、○:良、×:不可で評価した。
【0049】
樹脂含有率
以下の計算により求めた。
樹脂含有率Rc=(樹脂付き炭素繊維g-炭素繊維g)/樹脂付き炭素繊維g
【0050】
ボイド率:
以下の式により求めた。
ボイド率=1−(実測密度)/(理論密度)
ここで、実測密度はアルキメデス法にて評価を行った。
理論密度は以下により計算により求めた
理論密度=エポキシ樹脂硬化物の密度×Rc+炭素繊維の密度×(1−Rc)
【0051】
実施例1
混練容器にMX−154 25重量部、YDF−170 66.9重量部、ジシアンジアミド(DICYANEX1400Fの微粉砕品、粒径D50=1.2μm,D90=2.1μm)5.1重量部、2MAOK(2MAOK−PWの微粉砕品、粒径D50=1.2μm,D90=2.3μm)3重量部を混合・分散し、エポキシ樹脂組成物(C1)を得、貯蔵安定性と硬化発熱残量の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
安定剤としてホウ酸トリブチル0.3重量部を加えた以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物(C2)を得、評価した。結果を合わせて表1に示す。
【0053】
比較例1〜4
表1に示す組成とし、実施例1と同様の手法にて、エポキシ樹脂組成物(R1、R2、R3、R4)を得、物性を評価した。結果を合わせて表1に示す。
なお、表中、硬化剤およびイミダゾール化合物の粒径は、以下のとおり。
ジシアンジアミド(D50=2.5)は、D50=2.5μm,D90=4.7μm、ジシアンジアミド(D50=1.2)は、D50=1.2μm,D90=2.1μm、2MAOK(D50=3.5)は、D50=3.5μm,D90=5.5μm、2MAOK(D50=1.2)は、D50=1.2μm,D90=2.3μm。
【0054】
【表1】

注)*1:測定不可、*2:ゲル化
【0055】
実施例3〜8
実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物(C1)を直径6μmまたは7μmの炭素繊維に含浸し、樹脂含有率Rcが0.20〜0.28の樹脂付き炭素繊維を得た。さらに、得られた樹脂付き炭素繊維を、バックテンション10kNをかけながら、直径140mmのパイプ状のマンドレルに巻きつけトラバースおよび繰り返し積層により6mmの厚さの積層体を得た。120℃×2時間+160℃×1時間の条件で硬化して繊維強化プラスチックを得、ボイド率を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
比較例5〜16
使用するエポキシ樹脂組成物を比較例1〜4の樹脂組成物(R1〜R4)に変更した以外は実施例3と同様の手法にて、樹脂付き炭素繊維および繊維強化プラスチックを得、ボイド率を測定した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例は比較例と比べてボイド率が低減されているという結果を得た。また、炭素繊維の直径が細くなった場合、ボイド率が高くなりやすい傾向にあるものの、実施例は比較例と比べてボイド率の上昇が抑制される結果を得た。
【0060】
実施例1のエポキシ樹脂組成物は比較例4のエポキシ樹脂組成物に近いボイド率であるという結果を得た。実施例1のエポキシ樹脂組成物は比較例4よりも明らかに粘度の上昇が抑制され、貯蔵安定性が改善している結果を得た。さらに、硬化反応に要する時間も明らかに短縮している結果を得た。
【0061】
実施例1のエポキシ樹脂組成物は比較例1〜3のエポキシ樹脂組成物と比べて、貯蔵安定性が若干低下しているが、ごく少量のホウ酸トリブチルを系に添加した実施例2はこれを改善できるという結果を得た。