【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトの掲載日 2017年4月3日 ウェブサイトのアドレス https://arxiv.org/abs/1704.01039 2.ウェブサイトの掲載日 2017年7月17日 ウェブサイトのアドレス https://academic.oup.com/ijnp/article/20/10/769/3977919/Resting−State−Functional−Connectivity−Based?searchresult=1
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム「DecNefを応用した精神疾患の診断・治療システムの開発と臨床応用拠点の構築」委託研究開発、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】システムは、安静時の健常とうつ状態の哺乳動物の各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号を脳活動検知手段により時系列で測定した信号から分類器を特定する情報を記憶する記憶装置を備え、分類器は、機械学習によりうつ症状の疾患ラベルに関連するスパース正準相関分析により抽出された所定領域間の機能的結合から、スパースロジスティック回帰による特徴選択により機能的結合の重み付け和に基づいてうつ症状の疾患ラベルを判別するように生成され、選択された機能的結合は、左背外側前頭前皮質と、左楔前部および左後部帯状皮質との間の第1の機能的結合、および左下前頭回弁蓋部と、右背内側前頭前皮質および右補足運動野との間の第2の機能的結合から選択される少なくとも1つを含み、分類器により被検動物のうつ症状に対する分類結果を生成する判別手段をさらに備える。
安静時において、健常とうつ状態の哺乳動物の各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号を脳活動検知手段により時系列で予め測定した信号から分類器生成手段により生成された分類器を特定する情報を記憶するための記憶装置を備え、
前記分類器は、前記複数の所定領域間の機能的結合のうちから機械学習により、うつ症状の疾患ラベルに関連するとしてスパース正準相関分析により抽出された機能的結合から、スパースロジスティック回帰による特徴選択により前記機能的結合の重み付け和に基づいて、前記うつ症状の疾患ラベルを判別するように生成され、
前記選択された複数の機能的結合は、
左背外側前頭前皮質と、左楔前部および左後部帯状皮質との間の第1の機能的結合、および左下前頭回弁蓋部と、右背内側前頭前皮質、および
右補足運動野との間の第2の機能的結合から選択される少なくとも1つを含み、
前記分類器により、被検動物のうつ症状に対する分類結果を生成する判別手段をさらに備える、被検動物におけるうつ症状を検出するシステム。
薬物応答性を調べる方法であって、哺乳動物が、ヒト、マカクサル、カニクイサル、マーモセットサル、ラット、ハタネズミ、マウスから選ばれる1種を用いる請求項4に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
(バイオマーカー)
生体内の生物学的変化を定量的に把握するため、生体情報を数値化・定量化した指標のことを「バイオマーカー」と呼ぶ。
【0003】
FDA(米国食品医薬品局)はバイオマーカーの位置づけを、「正常なプロセスや病的プロセス、あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的に測定・評価される項目」としている。また疾患の状態や変化、治癒の程度を特徴づけるバイオマーカーは、新薬の臨床試験での有効性を確認するためのサロゲートマーカー(代替マーカー)として使われる。血糖値やコレステロール値などは、生活習慣病の指標として代表的なバイオマーカーである。尿や血液中に含まれる生体由来の物質だけでなく、心電図、血圧、PET画像、
骨密度、肺機能なども含まれる。またゲノム解析やプロテオーム解析が進んできたことによって、DNAやRNA、生体蛋白等に関連したさまざまなバイオマーカーが見出されている。
【0004】
バイオマーカーは、疾患にかかった後の治療効果の測定だけでなく、疾患を未然に防ぐための日常的な指標として疾患の予防に、さらに副作用を回避した有効な治療法を選択する個別化医療への応用が期待されている。
【0005】
ただし、神経・精神疾患の場合、生化学的もしくは分子遺伝学的観点から客観的な指標として利用可能な分子マーカーなども研究されているものの、検討段階というべき状況である。
【0006】
一方で、NIRS(Near-infraRed Spectroscopy)技術を用いて、生体光計測により計測されたヘモグロビン信号から特徴量に応じて、統合失調症、うつ病などの精神疾患について分類を行う疾患判定システムなども報告がある(特許文献1)。
【0007】
バイオマーカーは、通常の診療だけでなく、医薬品開発でも利用されている。
【0008】
一般的な創薬の場合、探索研究の段階では薬力学マーカーが用いられ、非臨床段階になると候補化合物の毒性をみる毒性マーカーも利用されるようになる。
【0009】
臨床試験の段階になると、評価項目として代替マーカーが利用されたり、診断マーカー、予後マーカー、予測マーカー、モニタリングマーカー、安全性マーカーなど、多様なマーカーが利用される。
【0010】
「代替マーカー」とは、真のエンドポイントとの科学的な関係が証明されているマーカーのことをいう。
【0011】
「診断マーカー」とは、疾患の有無や疾患の種類を特定する診断マーカーと,疾患の重症度や進行度を判定する診断マーカーの2種類がある。「予測マーカー」とは、特定の薬剤が効きやすい集団を見分けるバイオマーカーである。「予後マーカー」とは、特定の治
療に関係なく疾患の進行や回復を予想するバイオマーカーである。「モニタリングマーカー」とは、「薬効マーカー」とも呼ばれ、薬剤の効き具合,治療効果を診るマーカーである。このマーカーを長期間モニタリングすることで薬剤耐性の原因解明のヒントにもなりうる、とされる。
【0012】
たとえば、標的分子が明確である場合などは、たとえば、標的分子などを、特定の薬剤が効きやすい患者の集団を見分けて選択するために、臨床試験で患者層別マーカーとして利用できる場合がある。このような場合、患者層別マーカーを利用する医薬品が承認されると、その患者層別マーカーを測定するための診断薬は「コンパニオン診断薬」と呼ばれる場合がある。あるいは、このような患者層別マーカーにより、患者に対する治療方法を選択するために行われる診断は、「コンパニオン診断」と呼ばれる場合もある。
【0013】
臨床試験において、後期試験にかかるコストが非常に高いことから、後期試験に適したバイオマーカーの開発が臨床試験の効率を向上させるために必要と考えられる。しかし、このようなバイオマーカーの開発は、一般には容易ではない。
【0014】
また、たとえば、生物学的指標 (バイオマーカー)を考える際、疾患病態生理におい
て、疾患原因に関連する行動学あるいは生物学的プロセスを反映しているものはtrait markerであり、患者における臨床状態像を反映しているのがstate markerと呼ばれる。trait markerは、遺伝規定性指標とも呼ばれ、state markerは、状態依存性指標とも呼ばれる。
【0015】
(リアルタイムニューロフィードバック)
たとえば、従来、神経症の一型である強迫性障害 (Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)に対しては、その治療法として、薬物療法や行動療法が知られている。薬物療法とし
ては、たとえば、選択的セロトニン再取り込阻害薬が用いられ、行動療法としては、曝露法と反応妨害法を組み合わせた曝露反応妨害法などが知られている。
【0016】
一方で、神経・精神疾患の場合の治療法の可能性として、リアルタイムニューロフィードバック法が検討されている。
【0017】
核磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)を利用して、ヒトの脳の活
動に関連した血流動態反応を視覚化する方法である機能的磁気共鳴画像法(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)を始めとする脳機能画像法は、感覚刺激や認知
課題遂行による脳活動と安静時や対照課題遂行による脳活動の違いを検出して、関心のある脳機能の構成要素に対応する脳賦活領域を特定すること、すなわち脳の機能局在を明らかにすることにもちいられてきた。
【0018】
近年、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの脳機能画像法を用いたリアルタイムニューロフィードバック技術についての報告がある(非特許文献1)。リアルタイムニューロフィードバック技術は、神経疾患、精神疾患の治療方法として注目され始めている。
【0019】
ニューロフィードバックとは、バイオフィードバックの一種であり、被検者が自身の脳活動に関するフィードバックを受けることで、脳活動を操作する方法を学ぶというものである。
【0020】
たとえば、前部帯状回の活動をfMRIで計測し、それをリアルタイムで炎の大きさとして、患者にフィードバックして、炎を小さくするように努力させると、中枢性の慢性疼痛が実時間でも、また、長期的にも改善したとの報告がある(非特許文献2を参照)。
【0021】
(安静時fMRI)
また、最近の研究では、安静時の脳も活発に活動していることがわかってきた。つまり、アクティブな活動中には鎮静化しており、休息時には活発に興奮する神経細胞群が脳内に存在する。解剖学的には左右の大脳が合わさった内側面が主な部位で、前頭葉内側面、後部帯状回、楔前部、頭頂連合野の後半部、中側頭回などである。この安静時の脳活動のベースラインを示す領域はデフォルトモードネットワーク(Default Mode Network;DMN
)と名付けられ、ひとつのネットワークとして同期しながら活動する(非特許文献3を参照)。
【0022】
たとえば、健常者と精神疾患の患者で脳活動が異なるという例として、デフォルトモードネットワークにおける脳活動が挙げられる。デフォルトモードネットワークとは、安静状態において、目標指向的な課題を実行中よりも活発な脳活動がみられる部位のことを指す。統合失調症、アルツハイマー病などの疾患の患者は、健常者と比較したときに、このデフォルトモードネットワークに異常がみられることが報告されている。たとえば、統合失調症の患者は、安静状態において、デフォルトモードネットワークに属する後帯状皮質と、頭頂外側部、前頭前野内側部、小脳皮質の活動の相関が下がっているなどの報告がある。
【0023】
ただし、このようなデフォルトモードネットワークが、認知機能とどのようにかかわっているのかや、このような脳領域間の機能的結合の相関と上述したニューロフィードバックとの関連などは、必ずしも明らかとはなっていない状況である。
【0024】
一方で、複数の脳領域間において課題などの違いによる活動の相関関係の変化をみることにより、それら脳領域間の機能的結合(functional connectivity)が評価されている
。とくに、安静時のfMRI による機能的結合の評価は安静時機能結合的MRI(rs-fcMRI : resting-state functional connectivity MRI)とも呼ばれ、様々な神経・精神疾患を
対象とした臨床研究も行われるようになりつつある。ただし、従来のrs-fcMRI法は、上述したようなデフォルトモードネットワークといったような大域的神経ネットワークの活動をみるものであって、より詳細な機能的結合について、十分な検討がされているとはいえない状況である。
【0025】
(核磁気共鳴画像法)
このような核磁気共鳴画像法について、簡単に説明すると、以下のとおりである。
【0026】
すなわち、従来から、生体の脳や全身の断面を画像する方法として、生体中の原子、特に、水素原子の原子核に対する核磁気共鳴現象を利用した核磁気共鳴映像法が、人間の臨床画像診断等に使用されている。
【0027】
核磁気共鳴映像法は、それを人体に適用する場合、同様の人体内断層画像法である「X線CT」に比較して、たとえば、以下のような特徴がある。
【0028】
(1)水素原子の分布と、その信号緩和時間(原子の結合の強さを反映)に対応した濃度の画像が得られる。このため、組織の性質の差異に応じた濃淡を呈し、組織の違いを観察しやすい。
【0029】
(2)磁場は、骨による吸収がない。このため、骨に囲まれた部位(頭蓋内、脊髄など)を観察しやすい。
【0030】
(3)X線のように人体に害になるということがないので、広範囲に活用できる。
【0031】
このような核磁気共鳴影像法は、人体の各細胞に最も多く含まれ、かつ最も大きな磁性を有している水素原子核(陽子)の磁気性を利用する。水素原子核の磁性を担うスピン角運動量の磁場内での運動は、古典的には、コマの歳差運動にたとえられる。
【0032】
以下、本発明の背景の説明のために、この直感的な古典的モデルで、簡単に核磁気共鳴の原理をまとめておく。
【0033】
上述したような水素原子核のスピン角運動量の方向(コマの自転軸の方向)は、磁場のない環境では、ランダムな方向を向いているものの、静磁場を印加すると、磁力線の方向を向く。
【0034】
この状態で、さらに振動磁界を重畳すると、この振動磁界の周波数が、静磁界の強さで決まる共鳴周波数f0=γB0/2π(γ:物質に固有の係数)であると、共鳴により原子核側にエネルギーが移動し、磁化ベクトルの方向が変わる(歳差運動が大きくなる)。この状態で、振動磁界を切ると、歳差運動は、傾き角度を戻しながら、静磁界における方向に復帰していく。この過程を外部からアンテナコイルにより検知することで、NMR信号を得ることができる。
【0035】
このような共鳴周波数f0は、静磁界の強度がB0(T)であるとき、水素原子では、42.6×B0(MHz)となる。
【0036】
さらに、核磁気共鳴映像法では、血流量の変化に応じて、検出される信号に変化が現れることを用いて、外部刺激等に対する脳の活動部位を視覚化することも可能である。このような核磁気共鳴映像法を、特に、fMRI(functional MRI)と呼ぶ。
【0037】
fMRIでは、装置としては通常のMRI装置に、さらに、fMRI計測に必要なハードおよびソフトを装備したものが使用される。
【0038】
ここで、血流量の変化がNMR信号強度に変化をもたらすのは、血液中の酸素化および脱酸素化ヘモグロビンは磁気的な性質が異なることを利用している。酸素化ヘモグロビンは反磁性体の性質があり、周りに存在する水の水素原子の緩和時間に影響を与えないのに対し、脱酸素化ヘモグロビンは常磁性体であり、周囲の磁場を変化させる。したがって、脳が刺激を受け、局部血流が増大し、酸素化ヘモグロビンが増加すると、その変化分をMRI信号として検出する事ができる。被検者への刺激は、たとえば、視覚による刺激や聴覚による刺激、あるいは所定の課題(タスク)の実行等が用いられる(たとえば、特許文献2)。
【0039】
ここで、脳機能研究においては、微小静脈や毛細血管における赤血球中の脱酸素化ヘモグロビンの濃度が減少する現象(BOLD効果)に対応した水素原子の核磁気共鳴信号(MRI信号)の上昇を測定することによって脳の活動の測定が行われている。
【0040】
特に、人の運動機能に関する研究では、被検者に何らかの運動を行わせつつ、上記MRI装置によって脳の活動を測定することが行われている。
【0041】
ところで、ヒトの場合、非侵襲的な脳活動の計測が必要であり、この場合、fMRIデータから、より詳細な情報を抽出できるデコーディング技術が発達してきている(たとえば、非特許文献4)。特に、fMRIが脳におけるボクセル単位(volumetric pixel : voxel)で脳活動を解析することで、脳活動の空間的パターンから、刺激入力や認識状態を推定することが可能となっている。
【0042】
さらに、このようなデコーディング技術を発展させた技術として、特許文献3には、神経・精神疾患に対して、脳機能画像法によるバイオマーカーを実現するための脳活動解析方法が開示されている。この方法では、健常群、患者群において測定された安静時機能結合的MRIのデータから、それぞれの被験者について、所定の脳領域間の活動度の相関行列を導出する。被験者の疾患/健常ラベルを含む被験者の属性と相関行列とについて正則化正準相関解析により特徴抽出が行われる。正則化正準相関解析(スパース正準相関解析)の結果に基づいて、スパースロジスティック回帰(Sparse Logistic Regression: SLR)による判別分析によりバイオマーカーとして機能する分類器が生成される。このような機械学習の技術により、安静時のfMRI データから導き出される脳領野間の結合(機能的結合)にもとづいて自閉症の診断結果を予測可能であることが示された(特許文献4、特許文献5)。しかも、その予測性能の検証は一つの施設において計測された脳活動のみではなく、他の施設で計測された脳活動に対しても、ある程度の汎化が可能であることが示された。
【0043】
さらに、近年では、多数の研究施設から得られた大規模なマルチサイトサンプル群( n
= 1188)で機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、うつ病患者は4つの神経生理学的
サブタイプ(バイオタイプ)に分類できること、こうしたバイオタイプは辺縁系および前頭葉-線条体ネットワークにおける結合性機能不全を示すそれぞれ別のパターンによって
明確に示されることが指摘されている(非特許文献5を参照)。非特許文献5においては、これらのバイオタイプは、臨床的特徴を基盤とするだけでは弁別できないが、異なる臨床症状プロファイルと結び付いており、また経頭蓋磁気刺激治療に対する応答性を予測する( n = 154)、とされている。
【0044】
非特許文献5においては、脳内の258の領域からのBOLD信号に基づき、脳内の機能的な結合により、上記のサブタイプの分類を行っている。
うつ病とは、抑うつ症状を伴う気分障害の一種であり、自覚症状としては、憂うつ、気分が重い、気分が沈む、悲しい、身体症状としては、食欲低下、不眠、疲れやすさ、さらには、死にたくなるという症状を訴える患者もいる。
【0045】
うつ病は、原因からみて外因性あるいは身体因性、内因性、心因性あるいは性格環境因性と分ける場合がある。身体因性うつ病とは、脳の病気や体の病気がうつ状態の原因となっている場合をいう。内因性うつ病というのは典型的なうつ病である。躁状態がある場合は、双極性障害と呼ばれる。心因性うつ病とは、性格や環境がうつ状態に強く関係している場合である。
【0046】
こうした原因論的なうつ病分類とは異なる視点で、アメリカ精神医学会による大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)DSM-IVという診断基準には「気分障害」という項目があり、それをうつ病性障害と双極性障害に分け、さらにうつ病性障害の中に、一定の症状の特徴や重症度をもつ大うつ病性障害と、あまり重症でないが長期間持続する気分変調性障害があるとされる。
【0047】
厚生労働省の患者調査によれば、日本の気分障害患者数は1996年には43.3万人、2002年には71.1万人、2008年には104.1万人と、著しく増加し、世界精神保健(World Mental Health: WMH)調査のデータによる国内のうつ病の有病率(数字は%、診断はICD-10)から医療未受診者も含めたうつ病患者数を推定すると250万人を超えるという報告もある(非特許文献6)。
【0048】
うつ病の診断は、日本うつ病学会の治療ガイドライン(非特許文献7)などの基準に基づくが、医師や心理士の主観、あるいは症状やストレスを申告する患者や個人の主観に依拠しており、客観的と言いがたいことも多い。また、無意識的にしろ、意識的にしろ、患者が症状を過剰に訴える疾病利得や、その反対にうつ病であると他人に知られることによって蒙る偏見や不都合を避けたくて症状を秘匿することが頻繁に観察され、客観的に統一化された診断は容易ではない。客観的で、できれば病態を定量的に評価することができれば、治療の要否や治療薬の適切な選択が可能となることは容易に想像できる。
うつ病の治療は、SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を中心とする抗うつ薬による治療が主体であるが、認知行動療法や対人関係療法などの精神療法、さらには無痙攣電撃療法なども選択される。
【0049】
正しい診断と治療効果の判定のためには、経験ある臨床医による問診のみならず、客観性の高い生化学的あるいは理学的な指標(バイオマーカー)が望まれる。これまでに報告されているバイオマーカー候補を用いた検査法には、生化学的指標としては、血液中のアミノ酸やホルモン類を測定する方法(特許文献6)、遺伝子の発現レベルを測定する方法(特許文献7)などがあり、また、理学的指標としては、脳形態の座標セットのプロファイル(特許文献8)や脳の核磁気共鳴画像(MRI: Magnetic Resonance Imaging)シグナル(特許文献9)などが報告されている。しかしながら、これらはいずれも臨床的意義の検証が十分に実施されておらず、実用化には至っていない。
【発明を実施するための形態】
【0092】
以下、本発明の実施の形態について、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0093】
I.判別装置、うつ症状の判別方法、うつ症状のレベルの判定方法、うつ病患者の層別化方法及びうつ症状の治療効果の判定方法
1.用語の説明
本発明において、うつ症状には、抑うつ気分;興味や関心の低下;気力の低下;焦燥;制止;思考力、集中力、又は決断力の減退;無価値感、又は罪責感;自殺、自殺念慮、又は自殺企画;病的思考内容;妄想;身体症状(全身倦怠感、頭痛、頭重、又は腰痛等の身体諸所の痛み、動悸、息切れ、食欲減退、又は体重減少等)、睡眠障害から選択される少なくとも一種が含まれる。好ましくは、前記うつ症状には、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)−IVの基準の大うつ病性障害(MDD)に伴う症状が含まれる。
【0094】
本発明において、うつ病は、前記うつ症状を伴う限り制限されないが、好ましくはMDDである。MDDには、メランコリー型MDD、非メランコリー型MDD及び治療抵抗性MDDが含まれる。本明細書においては、MDDを単にうつ病と呼ぶことがある。
【0095】
抑うつの程度の評価には、たとえば、従来から、自己申告によるBeck Depression Inventory (ベックうつ病調査表)による評価が、診察時のスクリーニングや面接時の補助資料として利用されている。また、医師用の評価尺度として使用されるハミルトンうつ病評価尺度(HDRS:Hamilton Depression Rating Scale)は、うつ病の指標を提供する多重項目質問票であり、回復を評価する指標となる。略称は、HAM-Dである。
【0096】
本発明において、被検者は、制限されないが、前記うつ症状を有する者であることが好ましい。年齢及び性別は制限されない。前記被検者は、前記うつ症状を改善するための治療を受けていない者であっても、前記治療を受けている者であってもよい。
【0097】
うつ症状を改善するための治療には、投薬療法、ニューロフィードバック療法、および反復経頭蓋磁気刺激療法から選択される少なくとも一種が含まれる。投薬される薬剤としては、三環系抗うつ薬(イミプラミン、トリミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、アモキサピン、ロフェプラミン、及びドスレピン等)、四環系
抗うつ薬(マプロチリン、アミンセリン、及びセチプチリン等)、トラゾドン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、及びセルトリラリン等)、セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(ミルナシプラン、及びデュロキセチン等)、ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ剤(ミルタザピン等)、及びベンザミド系薬剤(スルピリド等)から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0098】
うつ症状の治療には、「治癒」と言う概念がないため、うつ症状が改善するとは、BDI
等の臨床所見から見て、以前の状態よりもうつ症状がよくなっている状態、または臨床所見から見て「寛解(remitted)」といえる状態になることを意味する。
【0099】
本発明の実施の形態には、被検者においてうつ症状のレベルを判定することを補助すること、被検者におけるうつ症状の有無の判定を補助すること、被検者における治療効果の判定を補助すること、及び被検者を疾患のサブクラスに層別化することを補助することが含まれる。
【0100】
本発明において、ドラッグリプロファイリングとは、既にヒトに対して別の疾患または症状に対する薬効が明らかとなっている薬剤、またはヒトに対して毒性も弱いが有意な薬効も認められないことが明らかになっている薬剤であって、うつ症状に対する影響が未知である薬剤について、うつ症状に対する薬効を検出することを意図する。
【0101】
2.安静時fMRIの撮像条件と相関行列の抽出
安静時fMRIの撮像装置は、制限されない。撮像条件もfMRI画像を取得できる限り制限されない。例えば、magnetic filedは3.0T程度、field of viewは192mm〜256mm程度、matrixは64×64程度、number of slicesは30枚〜40枚程度、number of volumesは112〜244程度、slice thicknessは3.0mm〜4.0mm程度、slice gapは0mm〜0.8mm程度、TRは2,000ms〜2,700ms程度、TEは25ms〜31ms程度、総撮像時間は5分〜10分程度、Flip angleは、75deg〜90deg程度、slice acquisition orderは、Ascending (Interleaved)である。撮像は、暗い照明下で行うことが好ましい。また被検者には、撮像中何も考えず、眠らずにいてもらうことが好ましい。さらに、被検者には、撮像中モニター画面中央の十字マークを見続けてもらうことが好ましい。
【0102】
撮像されたfMRI画像は、Yahataらの文献(NATURE COMMUNICATIONS | 7:11254 | DOI: 10.1038/ncomms11254)に記載の方法で処理することができる。
【0103】
撮像されたfMRI画像データについて、特に限定されないが、たとえば、Matlab R2014a(Mathworks inc., USA)のSPM8(Wellcome Trust Center for Neuroimaging、University College London、UK)を用いてT1強調構造画像及び安静状態機能画像における標準的な前処理を施すことができる。例えば、撮像画像に対して、Realign、Slice−timing correction、Coregistering、Normalization及びSmoothing(FWHM=8mm)を行うことができる。さらに、各被検者の全画像データについて,直前の画像から0.5mm 以上動いたと判断される画像を解析から除外してもよい。
【0104】
前処理を行った画像データから、脳内の所定の複数の関心領域(Region of
interest, ROI)間について、機能的結合(Functional connectivity, FC)(すなわち、結合強度)を算出する。機能的結合は、安静時脳活動解析において一般的に利用される特徴量(相関行列の要素)であり、異なるROIの時系列信号間のピアソンの相関係数により定義される。
【0105】
なお、後述するように、本実施の形態では、うつ症状の状態を判別するためには、たとえば、下記表1に示す機能的結合識別番号(表1でID)1〜12のROI間について、その全て、または、一部について機能的結合(結合強度)を算出する。
【0107】
表1で、Lat.の“L”と“R”は、左脳と右脳の区別を示す。BSAは、ブロード
マン領野を示し、BAは、ブロードマンの領野の番号を示す。Weightは、後述する関連重み付け和(単に「重み付け和」と称することもある)の重みを示す。
【0108】
相関行列の要素の抽出は、特に限定されないが、たとえば、以下のような手順で実行することができる。
【0109】
はじめに各ROIに含まれる全ボクセル(Voxel)の平均信号の時系列を抽出する。次に信号値からのノイズ除去のため、バンドパスフィルタ(0.008〜0.1Hz)をかける。その後、9つの説明変数(全脳、白質、脳脊髄液の平均信号及び6つの体動補正パラメータ)による回帰を行う。回帰後の残差系列を機能的結合と関連する時系列信号値と考え、前記時系列信号値を各ROIの要素とし、ROIの各対の関心領域の各相関行列の要素について、時系列間でピアソンの相関係数を計算する。前記相関係数が機能的結合の結合強度を表す値であり、各対それぞれに対応する結合強度が求められる。
【0110】
後述する分類器に入力データとして前記各機能的結合の相関係数を入力することにより、前記相関係数と、分類器の分類処理を実行するための各機能的結合について予め算出された重み(寄与度)を示す係数とに基づいて、機能的結合についてうつ症状の疾患ラベルを判別するための指標値が算出される。あるいは前記相関係数と前記係数とに基づいて、複数の機能結合についての関連重み付け和がうつ症状の疾患ラベルを判別するための指標値として算出される。ここで、「関連重み付け和」とは、複数の機能結合にそれぞれ対応する重みを乗算して和をとったものをいう。
【0111】
このため、前記指標値は、単に被検者の脳活動を測定したデータではなく、各機能的結合の重みを考慮して人為的に算出された値である。前記指標値は、うつ症状のラベルの判別のために、うつ症状のレベルの判別のために、治療効果の判別のために、または、うつ病患者の層別化のために使用される。
【0112】
前記12対の機能的結合のうち、最もうつ症状への寄与度が高いのは、機能的結合識別番号1で示される機能的結合である。次に寄与度が高いのは、機能的結合識別番号2で示される機能的結合である。したがって、以下に説明する各実施の形態においては、少なくとも機能的結合識別番号1及び機能的結合識別番号2の一方、あるいは両方を選択して使用してもよい。
【0113】
前記12対の機能的結合は、特にメランコリー型MDD患者群と健常対照群を判別することに適している。
【0114】
3.第1の分類器の生成と判別装置
第1の分類器は、安静時において、健常者とうつ病患者を含む複数の参加者の各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号を脳活動検知装置により時系列で予め測定した信号から分類器生成処理によって生成される。ここで、うつ病患者とは、予め医師の診断により、うつ病と診断され、うつ病の「疾患ラベル」と関連づけられた参加者を意味する。前記分類器は、前記複数の所定領域間の機能的結合のうちから機械学習により、うつ症状の疾患ラベルに関連するとして特徴選択により選択された機能的結合の重みに基づいて、前記うつ症状の疾患ラベルを判別するように生成される。
【0115】
すなわち、後述するように、予め設定された複数のROIに対する機能的結合のうち、うつ症状の疾患ラベルに特異的に関連するとしてスパース正準相関分析により抽出された機能的結合から、スパースロジスティック回帰による特徴選択により、うつ病の疾患ラベルの判別に使用される機能的結合が選択される。そして、このようにして選択された機能的結合から、上述した関連重み付け和が算出される。
【0116】
3−1.判別装置1
例えば、第1の分類器は、
図1に示すMRI装置10から取得されるfMRIの画像データから生成される。
【0117】
図1は、本発明の実施の形態1にかかる、判別装置1であるMRI装置10の全体構成を示す模式図である。
【0118】
図1に示すように、MRI装置10は、MRIを撮像するMRI撮像部25とMRI撮像部25の制御シーケンスを設定するとともに各種データ信号を処理して画像を生成するデータ処理部32とを備える。MRI撮像部25は、被検者2の関心領域に制御された磁場を付与してRF波を照射する磁場印加機構11と、この被検者2からの応答波(NMR信号)を受信してアナログ信号を出力する受信コイル20と、この被検者2に付与される磁場を制御するとともにRF波の送受信を制御する駆動部21とを備える。
【0119】
なお、ここで、被検者2が載置される円筒形状のボアの中心軸をZ軸にとりZ軸と直交する水平方向にX軸及び鉛直方向にY軸を定義する。
【0120】
MRI装置10は、このような構成であるので、磁場印加機構11により印加される静磁場により、被検者2を構成する原子核の核スピンは、磁場方向(Z軸)に配向するとともに、この原子核に固有のラーモア周波数でこの磁場方向を軸とする歳差運動を行う。
【0121】
そして、このラーモア周波数と同じRFパルスを照射すると、原子は共鳴しエネルギーを吸収して励起され、核磁気共鳴現象(NMR現象;Nuclear Magnetic Resonance)が生じる。この共鳴の後に、RFパルス照射を停止すると、原子はエネルギーを放出して元の定常状態に戻る緩和過程で、ラーモア周波数と同じ周波数の電磁波(NMR信号)を出力する。
【0122】
この出力されたNMR信号を被検者2からの応答波として受信コイル20で受信し、データ処理部32において、被検者2の関心領域が画像化される。
【0123】
磁場印加機構11は、静磁場発生コイル12と、傾斜磁場発生コイル14と、RF照射部16と、被検者2をボア中に載置する寝台18とを備える。
【0124】
被検者2は、寝台18に、たとえば、仰臥する。被検者2は、特に限定されないが、たとえば、プリズムメガネ4により、Z軸に対して垂直に設置されたディスプレイ6に表示される画面を見ることができる。このディスプレイ6の画像により、被検者2に視覚刺激が与えられる。なお、被検者2への視覚刺激は、被検者2の目前にプロジェクタにより画像が投影される構成であってもよい。
【0125】
このような視覚刺激は、上述したニューロフィードバックでは、フィードバック情報の提示に相当する。
【0126】
駆動部21は、静磁場電源22と、傾斜磁場電源24と、信号送信部26と、信号受信部28と、寝台18をZ軸方向の任意位置に移動させる寝台駆動部30とを備える。
【0127】
データ処理部32は、操作者(図示略)から各種操作や情報入力を受け付ける入力部40と、被検者2の関心領域に関する各種画像及び各種情報を画面表示する表示部38と、各種処理を実行させるプログラム・制御パラメータ・画像データ(構造画像等)及びその他の電子データを記憶する記憶部36と、駆動部21を駆動させる制御シーケンスを発生
させるなどの各機能部の動作を制御する制御部42と、駆動部21との間で各種信号の送受信を実行するインタフェース部44と、関心領域に由来する一群のNMR信号からなるデータを収集するデータ収集部46と、このNMR信号のデータに基づいて画像を形成する画像処理部48と、ネットワークとの間で通信を実行するためのネットワークインタフェース部50を備える。
【0128】
また、データ処理部32は、専用コンピュータである場合の他、各機能部を動作させる機能を実行する汎用コンピュータであって、記憶部36にインストールされたプログラムに基づいて、指定された演算やデータ処理や制御シーケンスの発生をさせるものである場合も含まれる。以下では、データ処理部32は、汎用コンピュータであるものとして説明する。
【0129】
静磁場発生コイル12は、Z軸周りに巻回される螺旋コイルに静磁場電源22から供給される電流を流して誘導磁場を発生させ、ボアにZ軸方向の静磁場を発生させるものである。このボアに形成される静磁場の均一性の高い領域に被検者2の関心領域を設定することになる。ここで、静磁場コイル12は、より詳しくは、たとえば、4個の空芯コイルから構成され、その組み合わせで内部に均一な磁界を作り、被検者2の体内の所定の原子核、より特定的には水素原子核のスピンに配向性を与える。
【0130】
傾斜磁場発生コイル14は、Xコイル、Yコイル及びZコイル(図示省略)から構成され、円筒形状を示す静磁場発生コイル12の内周面に設けられる。
【0131】
これらXコイル、Yコイル及びZコイルは、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を順番に切り替えながら、ボア内の均一磁場に対し傾斜磁場を重畳させ、静磁場に強度勾配を付与する。Zコイルは励起時に、磁界強度をZ方向に傾斜させて共鳴面を限定し、Yコイルは、Z方向の磁界印加の直後に短時間の傾斜を加えて検出信号にY座標に比例した位相変調を加え(位相エンコーディング)、Xコイルは、続いてデータ採取時に傾斜を加えて、検出信号にX座標に比例した周波数変調を与える(周波数エンコーディング)。
【0132】
この重畳される傾斜磁場の切り替えは、制御シーケンスに従って、Xコイル、Yコイル及びZコイルにそれぞれ異なるパルス信号が送信部24から出力されることにより実現される。これにより、NMR現象が発現する被検者2の位置を特定することができ、被検者2の画像を形成するのに必要な三次元座標上の位置情報が与えられる。
【0133】
ここで、上述のように、3組の直交する傾斜磁場を用いて、それぞれにスライス方向、位相エンコード方向、および周波数エンコード方向を割り当ててその組み合わせにより様々な角度から撮影を行える。たとえば、X線CT装置で撮像されるものと同じ方向のトランスバーススライスに加えて、それと直交するサジタルスライスやコロナルスライス、更には面と垂直な方向が3組の直交する傾斜磁場の軸と平行でないオブリークスライス等について撮像することができる。
【0134】
RF照射部16は、制御シーケンスに従って信号送信部33から送信される高周波信号に基づいて、被検者2の関心領域にRF(Radio Frequency)パルスを照射するものであ
る。
【0135】
なお、RF照射部16は、
図1において、磁場印加機構11に内蔵されているが、寝台18に設けられたり、あるいは、受信コイル20と一体化されていてもよい。
【0136】
受信コイル20は、被検者2からの応答波(NMR信号)を検出するものであって、このNMR信号を高感度で検出するために、被検者2に近接して配置されている。
【0137】
ここで、受信コイル20には、NMR信号の電磁波がそのコイル素線を切ると電磁誘導に基づき微弱電流が生じる。この微弱電流は、信号受信部28において増幅され、さらにアナログ信号からデジタル信号に変換されデータ処理部32に送られる。
【0138】
すなわち、静磁界にZ軸傾斜磁界を加えた状態にある被検者2に、共鳴周波数の高周波電磁界を、RF照射部16を通じて印加すると、磁界の強さが共鳴条件になっている部分の所定の原子核、たとえば、水素原子核が、選択的に励起されて共鳴し始める。共鳴条件に合致した部分(たとえば、被検者2の所定の厚さの断層)にある所定の原子核が励起され、スピンがいっせいに回転する。励起パルスを止めると、受信コイル20には、今度は、回転しているスピンが放射する電磁波が信号を誘起し、しばらくの間、この信号が検出される。この信号によって、被検者2の体内の、所定の原子を含んだ組織を観察する。そして、信号の発信位置を知るために、XとYの傾斜磁界を加えて信号を検知する、という構成になっている。
【0139】
画像処理部48は、記憶部36に構築されているデータに基づき、励起信号を繰り返し与えつつ検出信号を測定し、1回目のフーリエ変換計算により、共鳴の周波数をX座標に還元し、2回目のフーリエ変換でY座標を復元して画像を得て、表示部38に対応する画像を表示する。
【0140】
たとえば、このようなMRIシステムにより、上述したBOLD信号をリアルタイムで撮像し、制御部42により、時系列に撮像される画像について、後に説明するような解析処理を行うことで、安静時機能結合的MRI(rs-fMRI)の撮像を行うことが可能となる
。
【0141】
図2は、データ処理部32のハードウェアブロック図である。
【0142】
データ処理部32のハードウェアとしては、上述のとおり、特に限定されないが、汎用コンピュータを使用することが可能である。
【0143】
図2において、データ処理部32のコンピュータ本体2010は、メモリドライブ2020、ディスクドライブ2030に加えて、演算装置(CPU)2040と、ディスクドライブ2030及びメモリドライブ2020に接続されたバス2050と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM2060とに接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶するとともに一時記憶空間を提供するためのRAM2070と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、およびデータを記憶するための不揮発性記憶装置2080と、通信インタフェース2090とを含む。通信インタフェース2090は、駆動部21等と信号の授受を行うためのインタフェース部44および図示しないネットワークを介して他のコンピュータと通信するためのネットワークインタフェース50に相当する。なお、不揮発性記憶装置2080としては、ハードディスク(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などを使用す
ることが可能である。不揮発性記憶装置2080が、記憶部36に相当する。
【0144】
CPU2040が、プログラムに基づいて実行する演算処理により、データ処理部32の各機能、たとえば、制御部42、データ収集部46、画像処理部48の各機能が実現される。
【0145】
データ処理部32に、上述した実施の形態の機能を実行させるプログラムは、CD−ROM2200、またはメモリ媒体2210に記憶されて、ディスクドライブ2030またはメモリドライブ2020に挿入され、さらに不揮発性記憶装置2080に転送されても
良い。プログラムは実行の際にRAM2070にロードされる。
【0146】
データ処理部32は、さらに、入力装置としてのキーボード2100およびマウス2110と、出力装置としてのディスプレイ2120とを備える。キーボード2100およびマウス2110が入力部40に相当し、ディスプレイ2120が表示部38に相当する。
【0147】
上述したようなデータ処理部32として機能するためのプログラムは、コンピュータ本体2010に、情報処理装置等の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)は、必ずしも含まなくても良い。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいれば良い。データ処理部32がどのように動作するかは周知であり、詳細な説明は省略する。
【0148】
また、上記プログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0149】
図3は、うつ症状の疾患ラベルに関連する安静時の機能結合の相関を示す相関行列を抽出する手続きを示す概念図である。
【0150】
図3に示すように、リアルタイムで測定した安静時のfMRIのn個(n:自然数)の時刻分のfMRIデータから、各関心領域の平均的な「活動度」を算出し、脳領域間(関心領域間)の活動度の相関値を算出する。
【0151】
ここで、関心領域としては、小脳領域を除く137領域を考えているので、相関行列における独立な非対角成分は、対称性を考慮すると、
(137×137−137)/2=9316(個)
ということになる。なお、
図3では、図の上では、相関は34×34のみを示している。
【0152】
このような相関行列の要素の算出については、特に限定されないが、たとえば、以下のように実行することが可能である。
【0153】
安静時脳活動データから、各参加者について、異なる関心領域(Region of interest、
ROI)間の機能的結合(Functional connectivity, FC)を計算する。FCは安静
時脳活動解析において一般的に利用される特徴量であり、異なるROIの時系列信号間のピアソンの相関係数により定義される。
【0154】
まず、各ROIに含まれる全ボクセルの平均信号の時系列を抽出する。
【0155】
次に信号値からのノイズ除去のため、バンドパスフィルタをかけ、その後、9つの説明変数(全脳,白質,脳脊,髄液の平均信号及び6つの体動補正パラメータ)による回帰を行う。
【0156】
回帰後の残差系列を機能的結合と関連する時系列信号値と考え、異なるROIの時系列間でピアソンの相関係数を計算する。
【0157】
ROIについては、Brain Sulci Atlas (BAL)に含まれる137のROIを用いる。
これら137のROI間の機能的結合FCを特徴量として用いる。
【0158】
ここで、Brain Sulci Atlas (BAL)については、以下に開示がある。
【0159】
文献:Perrot et al., Med Image Anal, 15(4), 2011
文献:Tzourio-Mazoyer et al., Neuroimage, 15(1), 2002
図4は、
図3で説明したような相関行列から、バイオマーカーとなる第1の分類器を生成する過程を説明する概念図である。
【0160】
以下、説明するように、第1の分類器は、たとえば、「うつ病」に対する診断マーカーとしての指標として機能し、疾患の重症度や進行度を医師が診断する際の支援のために使用することができる。したがって、第1の分類器の演算と結果の出力を実行する装置は、診断支援装置と呼ぶこともできる。
【0161】
図4に示すように、MRI撮像部25で撮像された、健常群、及びうつ病患者群を含む参加者において測定された安静時機能結合的MRIのデータから、それぞれの参加者について後に説明するような手続により、データ処理部32が、脳領域間(関心領域間)の活動度の相関行列を導出する。
【0162】
続いて、データ処理部32により、参加者の疾患/健常ラベルを含む参加者の属性と相関行列とについて正則化正準相関解析により特徴抽出が行われる。「正則化」とは、一般に、機械学習や統計学において、誤差関数に、ハイパーパラメータにより重み付けされた正則化項を追加して、モデルの複雑度・自由度に抑制を加え、過学習を防ぐ方法である。なお、正則化正準相関解析の結果、説明変数についてスパース化も併せて実現される場合は、特に、スパース正準相関解析(Sparse Canonical Correlation Analysis : SCCA)と呼ぶ。以下では、具体例としては、スパース正準相関解析を行うものとして説明する。
【0163】
そして、このようなスパース正準相関解析において、後述するように、ハイパーパラメータの値の調節により「疾患ラベル」とのみ結合する正準変数が存在するようにしたときに、これに対応する正準変数に接続する機能的結合FCを抽出する。所定範囲でハイパーパラメータを変化させるとき、このような条件を満たす正準変数が存在する範囲で抽出される機能的結合FCの和集合を「第1和集合」と呼ぶ。
【0164】
さらに、データ処理部32により、スパース正則化正準相関解析の結果得られた「第1和集合」を説明変数とし、たとえば、1個抜き交差検証(Leave-One-Out Cross Validation:LOOCV)を行いながら、各交差検証のステップでスパースロジスティック回帰による判別分析を行い、すべての交差検証にわたって、説明変数として抽出された機能的結合FCの和集合を「第2和集合」と呼ぶ。
【0165】
最後に、全ての参加者のデータに対して、「第2和集合」を説明変数として、目的変数である「疾患ラベル」に対して、スパースロジスティック回帰による判別分析を行って、第1の分類器が生成される。
【0166】
図5は、
図4で説明したような第1の分類器の生成処理および生成された第1の分類器による判別処理を行うための機能ブロック図である。
【0167】
まず、不揮発性記憶装置2080には、健常者とうつ病患者を含む複数の参加者の各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号をMRI装置により時系列で予め測定した信号の情報である参加者fMRI測定データ3102と、MRI測定データを計測した各参加者に関連づけられた、複数の人属性情報3104とが格納されている。
【0168】
ここで、「人属性情報」とは、参加者個人を特定するための「人特性情報」と、各参加者に対する測定条件を特定するための「測定条件情報」とを含む。
【0169】
「人特性情報」とは、参加者に対する疾患ラベル、年齢、性別、投薬履歴などの情報を
意味する。
【0170】
「測定条件情報」とは、参加者を測定した測定サイト情報(測定した施設および/または測定した装置を特定する情報を含む)や、測定中に、開眼/閉眼のいずれで計測したか、測定磁場強度などの測定条件を特定する条件である。
【0171】
演算装置2040は、参加者fMRI測定データ3102および対応する人属性情報3104とに基づいて、疾患ラベルに対する分類器を生成する処理を行う。
【0172】
相関行列算出部3002は、参加者fMRI測定データ3102から複数の所定領域間の脳活動の機能的結合の相関行列を参加者ごとに算出する。算出された機能的結合の相関行列のデータは、参加者ごとに、不揮発性記憶装置2080に、機能結合の相関行列のデータ3106として格納される。
【0173】
第1特徴選択部3004は、複数の参加者から抽出されたK個(K:2以上の自然数)の異なる部分集合に対して、順次1つの部分集合を選択し、選択された部分集合を除く(K−1)個の部分集合に対して、複数の属性情報と相関行例の要素とに対するスパース正準相関分析により、複数の人属性情報のうちの特定の属性情報、たとえば、疾患ラベルのみに対応する正準変数と接続する相関行例の要素を抽出する。さらに、第1特徴選択部3004は、順次選択される部分集合にわたって、抽出された相関行例の要素の和集合である第1和集合を取得し、不揮発性記憶装置2080に、第1の機能結合和集合データ3108として格納する。なお、「第1の機能結合和集合データ」は、機能結合の相関行列のデータ3106のうち、第1の和集合に対応する要素を特定するためのインデックスであってもよい。
【0174】
第2特徴選択部3006は、複数の参加者のうち上記K個の部分集合を除く残りの参加者をテスト集合とし、テスト集合を異なるN個のグループに分けるとき、複数の参加者からN個のグループうちの選択された1つのグループを除く参加者の集合を対象として、第1和集合に基づいて、上記特定の属性情報(たとえば、疾患ラベル)を推定するためのテスト分類器をスパースロジスティック回帰により算出し、スパース化に伴いテスト分類器の説明変数となる相関行例の要素を抽出する。第2特徴選択部3006は、さらに、N個のグループうちから1つのグループを順次選択しつつ、特徴抽出を繰り返して、テスト分類器の説明変数として抽出された相関行例の要素の和集合である第2和集合を取得して、不揮発性記憶装置2080に、第2の機能結合和集合データ3110として格納する。なお、「第2の機能結合和集合データ」も、機能結合の相関行列のデータ3106のうち、第2の和集合に対応する要素を特定するためのインデックスであってもよい。
【0175】
なお、N個グループの各々の要素の個数は1個であってもよい。
【0176】
分類器生成部3008は、第2和集合を説明変数として、特定の属性情報(たとえば、疾患ラベル)を推定するための第1の分類器をスパースロジスティック回帰により算出する。分類器生成部3008は、生成された第1の分類器を特定するための情報を、不揮発性記憶装置2080に、分類器データ3112として格納する。
【0177】
判別処理部3010は、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して判別処理を行う。
【0178】
なお、上記の説明では、分類器生成部3008は、第2和集合を説明変数として、分類器を生成するものとして説明したが、たとえば、分類器生成部3008は、直接、第1和集合を説明変数として、第1の分類器を生成してもよい。ただし、後に説明するように、
次元の低減や、汎化性能の観点からは、第2和集合を説明変数とすることが、望ましい。
【0179】
なお、第1の分類器の生成にあたっては、正則化法(たとえば、L1正則化やL2正則化)を用いたロジスティック回帰である正則化ロジスティック回帰を用いることができ、より具体的には、たとえば、上述した「スパースロジスティック回帰」を使用することもできる。また、第1の分類器の生成には、サポートベクトルマシンや、LDA(Linear discriminant analysis)などを使用してもよい。以下では、スパースロジスティック回帰を例にとって説明することにする。
【0180】
後に説明するように、第2特徴選択部3006による特徴選択処理と並行して、N個のグループうちから除かれる1つのグループを順次選択しつつ、第2特徴量選択部3006により算出されたテスト分類器により、除かれたグループをテストサンプルとして判別結果を算出することにより交差検証を行ってもよい。
【0181】
このように説明変数の次元の縮小を、入れ子構造となった特徴選択手続きにより行うことにより、第2特徴選択部3006の行う処理において、ほとんどの参加者のデータを使用する一方、時間的に効率的な次元の数の縮小を実行できる。
【0182】
さらに、第2特徴選択部3006の処理におけるテスト集合を、次元の数を縮小するために使用されるデータ・セットとは、独立となるようにしておくことにより、極端に楽観的な結果が得られることを回避することができる。
【0183】
図6は、バイオマーカーとなる分類器を生成するためにデータ処理部32が行う処理を説明するためのフローチャートである。
【0184】
以下、
図4で説明した処理を、
図6を参照しながら、より詳しく説明する。
【0185】
安静時のfMRIデータから導き出される脳領野間の結合と参加者の疾患の判別ラベル(疾患ラベル)にもとづいてバイオマーカーを作成する場合の最大の問題点は、データ数にくらべてデータの次元が圧倒的に多いことである。そのため、正則化を行うことなしに、疾患ラベル(ここでは、参加者が疾患であるか健常であるかを示すラベルを「疾患ラベル」と呼ぶ)の予測のための分類器の学習をデータセットを用いておこなうと、オーバーフィット(過剰適合)することで未知のデータに対する予測性能が著しく低下する。
【0186】
ここで、一般に、機械学習において、観測データをより少ない数の説明変数で説明するように行われる処理のことを「特徴選択(または特徴抽出)」と呼ぶ。本実施の形態では、「脳領域間(関心領域間)の活動度の複数個の相関値(複数個の結合)」のうち、対象となる疾患ラベルの予測のための第1の分類器の機械学習において、より少ない相関値により第1の分類器を構成できるように特徴選択(特徴抽出)をすること、すなわち、説明変数として、より重要な相関値を選択することを「縮約表現を抽出する」と呼ぶことにする。
【0187】
そして、本実施の形態では、特徴抽出法として、正則化法を用いる。このように、正準相関分析において、正則化とともにスパース化を実行し、説明変数としてより重要なものを残すように処理するという意味で、このような処理を「スパース正準相関分析」と呼ぶ。より具体的には、たとえば、スパース化を併せて実現するための正則化法としては、以下に説明するような「L1正則化」という正準相関分析のパラメータの絶対値の大きさにペナルティーを課す手法を用いることが可能である。
【0188】
すなわち、
図6を参照して、データ処理部32は、分類器生成の処理が開始されると(
S100)、記憶部36から各参加者についてのMRI測定データを読み出し(S102)、スパース正準相関分析(SCCA)により第1の特徴抽出の処理を行う(S104)。
【0189】
以下では、ステップS104の処理を「内ループ特徴選択」と呼ぶ。
【0190】
ここで、ステップS104での内ループ特徴選択の処理を説明するために、「スパース正準相関分析」と、「内ループ特徴選択」について、以下、それぞれ説明する。
【0191】
(スパース正準相関分析)
以下では、スパース正準相関分析として、L1正則化正準相関分析について説明する。このL1正則化正準相関分析については、以下の文献に開示がある。
【0192】
文献:Witten DM, Tibshirani R, and T Hastie. A penalized matrix decomposition,
with applications to sparse principal components and canonical correlation analysis. Biostatistics, Vol. 10, No. 3, pp. 515-534, 2009.
まず、一般の正準相関分析(Canonical Correlation Analysis: CCA)では、データ対
x
1およびx
2を考える際に、それぞれの変数x
1およびx
2は、平均0、標準偏差1を持つように標準化される。
【0193】
一般的に言えば、正準相関分析(CCA)の使用によって、ペアになった観測量の間の潜在
している関係を識別することができる。
【0194】
具体的には、正準相関分析(CCA)では、対となる射影された変数(正準変数)に最大の
相関があるように、投影ベクトルを見つけ出す。
【0195】
これに対して、正準相関分析にL1正則化を導入した場合、すなわち、L1ノルム正規化によるスパースCCA、すなわち、L1−SCCAを使用する場合は、以下のような最適化問題を解くことになる。
【0198】
ここでも、行列X
1およびX
2を構成する列については、それぞれ平均が0で分散が1となるように正規化されているものとする。
【0199】
そうすると、L1−SCCAは、以下の式(1)のように定式化することができる。
【0201】
ここで、ハイパーパラメーターλ
1およびλ
2が、重みパラメーターw
1およびw
2の(w
1およびw
2により対応する変数がスパース化されることから「スパース投影ベクトル」と呼ぶ)スパース化の度合いをそれぞれ示す。
【0202】
具体的に、本実施の形態の例としては、人属性情報および機能的な結合FCの潜在している関係を識別するために、上記の変数に相当する2つのデータ行列を構築するものとする。
【0203】
以下では、参加者には、うつ病の患者群(疾患ラベルを「MDD(Major depressive disorder)」で表す)と健常者対照群(疾患ラベルを「HC(Healthy control)」で表す)第
1のデータ行列X
1の行は、1人の参加者の人属性情報(人特性情報および測定条件情報
)を表しており、たとえば、この特性情報や測定条件情報は、以下のものを含む:
i)疾患ラベル(MDDあるいはHC),
ii)サイト情報(参加者の脳活動がどこで計測されたか、サイトA,B,C)
iii)年齢
iv)性別
v)撮像条件(開眼あるいは閉眼)
vi)薬剤投与の状態1(抗精神病薬)
vii)薬剤投与の状態2(抗うつ薬)
viii)薬剤投与の状態3(精神安定剤)
具体的には、人属性情報データ行列X
1の列数は、10であり、つまりp
1=10である。
【0204】
最初の列は、1(=MDD)あるいは0(=HC)を含んでいる。
【0205】
次の3つの列は、脳活動の計測された施設(場所)を示しており、この場合は、3つの異なるサイトで計測が行われたことに相当して、[100](サイトA)、[010](サイトB)あるいは[001](サイトC)のいずれかを含んでいる。
【0206】
第5列は、参加者の年齢の値を含んでおり、第6列は、参加者の性別の情報であって、1(男性)あるいは0(女性)のいずれかの値を含んでおり、第7列は、測定条件のうち、測定中に参加者が、目を開いていたか、あるいは、目を閉じていたかを示し、1(開眼)あるいは0(閉眼)の値を含んでいる。また、最後の3つの列は、3つの薬剤の投薬履歴に関するステータス情報を含んでおり、それぞれの列は、1(薬物治療あり)あるい0(薬物治療履歴無し)の値を含んでいる。
【0207】
なお、人特性情報および測定条件情報は、上記のようなものに限定されず、たとえば、参加者の他の薬剤の投薬履歴の情報などの他の特性や、他の測定条件、たとえば、MRI装置の印加磁場の大きさなどの条件の情報を含んでいてもよい。
【0208】
第2のデータ行列X
2は、参加者の機能的結合の相関(FC)を表わす相関行列の非対
角の下三角の部分の要素を行ベクトル形式で表現したものであるとする。
【0209】
そして、L1−SCCSが、行列のペアX
1およびX
2に適用され、それから、スパース投影ベクトルw
1およびw
2が導き出される。
【0210】
そして、上述のとおり、ハイパーパラメーターλ
1およびλ
2を所定の値に設定したときに、スパース化により第1のデータ行列X
1が、スパース投影ベクトルw
1により、特定の
人属性情報、この場合は、「疾患ラベル」のみとなる正準変数に投影される条件が満たされるようにする。この場合に、対応する第2のデータ行列X
2において、疾患ラベルにの
み関連する機能的結合の相関行列要素を特定するためのインデックス(要素)を特定するために、スパース投影ベクトルw
2を使用する。
【0211】
すなわち、内ループ特徴選択では、L1−SCCAのハイパーパラメーターλ
1および
λ
2は、たとえば、0.1の大きさのステップで、0.1と0.9の間で独立して変更さ
れる。
【0212】
ただし、ハイパーパラメーターλ
1およびλ
2を可変とする範囲および変化させるステップの大きさは、このような例に限定されるものではない。
【0213】
L1−SCCAの処理に対して、「疾患」ラベルにのみ接続した正準変数が存在するようなハイパーパラメーターλ
1およびλ
2の範囲を見つけ出す。
【0214】
導出されたスパース投影ベクトルw
2のゼロでない要素によって規定される部分空間へ元の相関行列要素を投影することを以下のようにして表現する。
【0215】
ここで、投影ベクトルw
2のk番目のゼロでない要素のインデックスを示すために変数i
kを定義する。ここで、1≦k≦mであり、mはゼロでないエレメントの数を示す。
【0216】
そして、以下のような部分空間への投影マトリックスEを考える。
【0218】
最後に、元の相関行列要素ベクトルx
2を以下のように投影することにより部分空間z
∈R
mへのベクトルが導かれる。
【0220】
結果として、疾患ラベル(MDD/HC)に関連する特定の数だけの特徴量(相関行列の要素)を選択することができる。
【0221】
診断のラベルとのみ関係のある正準変数に相当する相関行列要素を選ぶことによって、分類に本質的な相関行列要素が選択される。
【0222】
(内ループ特徴抽出)
図7は、内ループ特徴選択を説明するための概念図である。
【0223】
図6のステップS104の内ループ特徴選択では、
図7に説明するようにして、参加者の集合をK個(K:2以上の自然数)に分割して、(K−1)個の部分集合のうち、1つの集合を除いた残りの部分集合について、上述したL1−SCCAを実行することを、(K−1)回繰り返す。
【0224】
すなわち、
図7(a)に示すように、参加者の集合のうちの(K−1)/K(たとえば、K=9であれば8/9)に相当する部分集合(これを、以下「内ループ訓練データ」と呼ぶ)が、このような内ループ特徴選択に使用される。K個の部分集合のうちの残りの1つは、後に説明する外ループ特徴選択において、訓練対象となるテストデータを含む「テストプール」として使用されるため、内ループ特徴選択では使用されない。
【0225】
図7(b)に示すように、(K−1)個の部分集合のうち、1つの集合(
図7(b)で斜線で示す)を除いた残りの部分集合について、ハイパーパラメーターλ
1およびλ
2を所定の範囲で、所定ステップずつ変化させ、L1−SCCAを実行する。特定のハイパーパラメーターλ
1およびλ
2の範囲で、「診断」ラベルとのみ関連がある正準変数に関係している機能的結合要素FCを特徴量として抽出する。
【0226】
このような抽出処理を、(K−1)個の部分集合のうち、除くことになる1つの集合を順次変えた部分集合について、反復する。
【0227】
各反復において、抽出された機能的結合の相関行列の要素FCの和集合を「内ループで選択された機能的結合要素FCの和集合」(第1の和集合)とする。
【0228】
このような処理を行うことで、攪乱変数NVに相当する、異なる撮像サイトでの人属性情報や異なる撮像サイトでの撮像条件の相違によって引き起こされた不適当な影響は縮小されることになる。
【0229】
この手続きは、後に説明するように、たとえば、日本国内の複数の撮像サイトからのMRI計測データに基づいて生成した第1の分類器を、外国、たとえば、米国にまで汎化するロバストに構築するのに役立つことになる。
【0230】
再び、
図6に戻って、続いて、データ処理部32は、内ループ特徴選択の結果に基づいて、スパースロジスティック回帰を用いて、第2の特徴抽出の処理を実行する(S106)。
【0231】
以下では、ステップS106の処理を「外ループ特徴選択」と呼ぶ。
【0232】
ここで、ステップS106での外ループ特徴選択の処理を説明するために、「スパースロジスティック回帰」と、「外ループ特徴選択」について、以下、それぞれ説明する。
【0233】
(スパースロジスティック回帰)
スパースロジスティック回帰は、ロジスティック回帰分析をベイズ推定の枠組みに拡張した手法であり、特徴ベクトルの次元圧縮を判別のための重み推定と同時に行う手法である。データの特徴ベクトルの次元数が非常に高く、不要な特徴量が多く含まれている場合に有用である。不要な特徴量に対しては線形判別分析における重みパラメータをゼロにし(すなわち、特徴選択を行い)、判別に関連するごく少数の特徴量だけを取り出す(スパース性)。
【0234】
スパースロジスティック回帰では得られた特徴データに対して、分類するクラスへの所属する確率pをクラス毎に求め、最大値を出力したクラスに割り当てる。pはロジスティック回帰式によって出力される。重みの推定はARD(Automatic Relevance determination)によって行われ、クラス判別への貢献が少ない特徴量は、重みが0に近づくことで
計算から除外される。
【0235】
すなわち、上述のL1正則化CCAを用いて抽出された特徴量の第1の和集合を入力と
して、次の階層ベイズ推定にもとづく第1の分類器を用いて、疾患ラベルの予測を行う。
【0236】
ここで、上述した式(2)で抽出された特徴入力z(選択されたFC)から診断のラベルが疾患(ここでは、自閉症との診断)となる確率を予測するために、分類器としてロジスティック回帰を使用する。
【0238】
ここで、yは、診断クラス・ラベルを表わし、つまり、y=1はMDDクラスを、y=0はHCクラスをそれぞれ示す。
【0239】
また、以下のzハット(文字の頭部に^が付けられたものを、「ハット」と呼ぶ)は、拡張入力を備えた特徴ベクトルである。
【0241】
ここで、特徴ベクトルzは、1人の参加者の安静時MRIサンプルの結合相関行列から式(2)に従って、抽出される。
【0242】
拡張入力“1”を使用することは、第1の分類器に対する一定の(バイアス)入力を導入するための、標準的なアプローチである。
【0243】
以下のようなθは、ロジスティック関数のパラメーター・ベクトルである。
【0245】
この際のパラメータθの分布を以下のような正規分布に設定する。
【0247】
さらに、パラメータwの分布のハイパーパラメータαの分布を以下のように設定することにより、階層ベイズ推定を行うことによりそれぞれのパラメータの分布を推定する。
【0249】
ここで、a
0, b
0はハイパーパラメータのガンマ分布を決定するパラメータである。αはベクトルθの正規分布の分散を表現するパラメータベクトルで、そのベクトルのi番目
の要素がα
iである。
【0250】
なお、このようなスパースロジスティック回帰については、以下の文献に開示がある。
【0251】
文献:Okito Yamashita, Masa aki Sato, Taku Yoshioka, Frank Tong, and Yukiyasu Kamitani. “Sparse Estimation automatically selects voxels relevant for the decoding of fMRI activity patterns.” NeuroImage, Vol. 42, No. 4, pp. 1414-1429, 2008.
【0252】
(外ループ特徴選択)
図11は、外ループ特徴選択を説明するための概念図である。
【0253】
図6のステップS106の外ループ特徴選択では、
図11に説明するようにして、内ループ特徴選択の際に、参加者の集合をK個(K:2以上の自然数)に分割したうち、内ループ特徴選択に使用した(K−1)個の部分集合を除く残りの1つの部分集合を、訓練対象となるテストデータを含む「テストプール」として使用する。
【0254】
すなわち、
図11に示すように、たとえば、このテストプールをL個のグループに分割し、このL個のグループから順次1つのグループ(
図11の点線四角内で、斜線で示す)を選択し、参加者の集合この選択されたグループを除く参加者について、第1の和集合である機能的結合の相関行列の要素FCを説明変数として、疾患ラベルを予測する第1の分類器をスパースロジスティック回帰により生成する。このときに、スパースロジスティック回帰により「機能的結合の相関行列の要素FC」が、さらに選択される。これを「外ループで選択された機能的結合の相関行列の要素FC」と呼ぶ。
【0255】
このようにして、L個のグループから順次1つのグループを選択して、このような処理をL回反復することで、抽出された機能的結合の相関行列の要素FCの和集合を「外ループで選択された機能的結合要素FCの和集合」(第2の和集合)とする。
【0256】
このように、外ループ特徴抽出において使用されるテスト集合は、内ループ特徴抽出において次元数を縮小するために使用されたデータ・セットから常に独立している。
【0257】
なお、ここでは、一例として、特に、L個のグループの各々は、1人の参加者を含むものとする。この場合は、上記反復処理において、除かれた1人の参加者について、生成された第1の分類器で予測処理を行い、その除かれた1人の参加者についての疾患ラベルと予測結果との誤差を累積処理することは、いわゆる1個抜き交差検証(Leave-One-Out Cross Validation:LOOCV)を行うことに相当する。したがって、
図11の処理において、各反復処理で、上述の誤差を算出し、これを累積してL回について平均することで、生成された第1の分類器の交差検証、言い換えると、汎化能力の評価を行うことも可能である。
【0258】
(第1の分類器の生成)
再び
図6に戻って、続いて、データ処理部32は、外ループ特徴選択の結果(第2の和集合)に基づいて、スパースロジスティック回帰により、分類器の生成処理を実行する(S108)。
【0259】
図13は、ステップS108での分類器の生成処理の概念を示す図である。
【0260】
図13に示すように、ステップS108では、第1の和集合から外ループ特徴選択により抽出された第2の和集合を説明変数として、全ての参加者についてのスパースロジスティック回帰により、分類器が生成される。
【0261】
生成された分類器を特定するための分類器データ(関数形およびパラメータに関するデータ)3112は、不揮発性記憶装置2080に格納され、後に、以上のような訓練に使用されたのとは異なるMRI測定データ(テストデータ)が入力された際に、テストデータに対する疾患ラベルの推定を実行する際の判別処理に使用される。
【0262】
すなわち、事前の医師の診断に基づいて、健常群、うつ病患者群に分けられた参加者の脳領域間(関心領域間)の活動度の相関(結合)を測定し、測定結果に対する機械学習により、これらとは異なる新たな参加者についてのテストデータがうつ症状または健常のいずれに相当するかを判別するように生成された分類器が、うつ症状のバイオマーカーとして機能する。
【0263】
このとき、バイオマーカーの出力である「疾患ラベル」としては、分類器がロジスティック回帰により生成されることから、疾患である確率(または健常である確率)を含んでもよい。たとえば、「疾患である確率は、○○%」といような表示として出力する。このような確率を、「疾患マーカー」として使用することが可能である。
【0264】
また、分類器の出力となる属性については、必ずしも、疾患の判別に限られず、他の属性についての出力であってもよい。この場合も、その属性について、いずれのクラスに属するかという離散的な判別結果を出力してもよいし、その属性について、あるクラスに属する連続的な値、たとえば確率を出力してもよい。
【0265】
すなわち、分類器の学習(作成)においては、うつ症状のバイオマーカー作成のため,安静時機能的結合MRI(rs-fMRI) データを入力として,上述の内ループ特徴選択およ
び外ループ特徴選択により特徴抽出を行い、抽出された特徴量を説明変数として生成された分類器によりうつ症状・健常ラベル判別を行う。
【0266】
(内ループ特徴選択での処理)
図8は、内ループ特徴選択処理の概念を説明するための図である。
【0267】
図9は、一例として、内ループ特徴選択を行った際の反復処理のうち、特定のハイパーパラメーターλ
1およびλ
2に対する結果を示す図である。
【0268】
図8を参照して、入れ子構造になっている特徴選択において、L1−SCCAの反復のうちの1つを表わし、ここでは、正準変数が「疾患ラベル」にのみ接続されている。
【0269】
図8では、正準変数が「疾患ラベル」にのみ接続されていることを、疾患ラベルがただ1つの正準変数w
1Tx
1と、実線で接続されることで表している。
【0270】
また、正準変数w
1Tx
1と正準変数w
2Tx
2とを接続する点線の上の記号c
jは、それぞれの
正準変数間の相関係数を表す。
【0271】
正準変数w
1Tx
1が「疾患ラベル」にのみ接続されているときに、対応する正準変数w
2Tx
2と接続する機能結合の相関行列の非対角の下三角行列の要素が、特徴量として選択される。
【0272】
図9では、例として、最初の外ループの中で、各人属性情報につき少なくとも1つの正準相関を生成する最も小さなハイパーパラメータの組合せを示す。
【0274】
左の列の丸は人特性情報と測定条件に由来する、正準変数w
1Tx
1を示す。一方で、右の
列の丸は、機能的結合(FC)に由来する正準変数w
2Tx
2を示す。
【0275】
上述のとおり、正準変数を接続する点線の上の数字は、正準変数w
1Tx
1とw
2Tx
2の間の相関係数を表わす。
【0276】
人属性情報のラベルおよび正準変数w
2Tx
2の間の接続は実線または点線で表わされる。
【0277】
(内ループ特徴選択での処理)
図10は、内ループ特徴選択の処理を、より詳しく説明するためのフローチャートである。
【0278】
内ループ特徴選択にあたっては、参加者の集合は、
図7(a)に示したように、K個の部分集合に分けられ、このうちの特定の1個の部分集合を除く(K−1)個の部分集合が、使用される。
【0279】
図10を参照して、内ループ特徴選択の処理が開始されると、演算処理装置(CPU)2040は、ハイパーパラメータλ
1およびλ
2を初期値である(λ
1,λ
2)=(0.1,0.1)に設定する(S200)。
【0280】
続いて、変数iの値が1に設定され(S202)、CPU2040は、iの値が、内ループ特徴選択の反復回数(K−1)を超えない場合(S204でN)は、内ループ訓練データのうち、i番目のデータブロックを除き、不揮発性記憶装置2080中に格納された
、参加者の人属性情報3104および機能結合の相関行列データ3106に基づいて、スパース正準相関分析を実行する(S206)。
【0281】
現在の(λ
1,λ
2)の値に組について、疾患ラベルとのみ結合する正準変数が存在する場合(S208でY)、CPU2040は、疾患ラベルとのみ結合する正準変数に対応する機能的結合の相関行列の要素(FC)を抽出し、不揮発性記憶装置2080に、記憶する(S210)。ステップS210の処理の後、または、現在の(λ
1,λ
2)の値に組について、疾患ラベルとのみ結合する正準変数が存在しない場合(S208でN)は、iの値を1だけインクリメントして、処理は、ステップS204に復帰する。
【0282】
したがって、CPU2040は、(K−1)回にわたって、ステップS206〜S212の処理を繰り返す。
【0283】
ステップS204において、iの値が、内ループ特徴選択の反復回数(K−1)を超えた場合(S204でY)は、CPU2040は、(λ
1,λ
2)について、所定のルールにしがたい、λ
1およびλ
2のいずれか一方を所定のステップ量だけ変化させる(S214)。ステップS216において、(λ
1,λ
2)の値が可変範囲内であるときは(S216でY)、CPU2040は、処理をステップS202に復帰させる。
【0284】
(λ
1,λ
2)の可能な全ての値の組について処理が終了すると(S216でN)、CPU2040は、これまでの処理で抽出された機能的結合の相関行列の要素(FC)の和集合を求め、不揮発性記憶装置2080に、第1の機能結合和集合データ3108として格
納することで処理が終了する。
【0285】
(外ループ特徴選択での処理)
図12は、外ループ特徴選択の処理を、より詳しく説明するためのフローチャートである。
【0286】
外ループ特徴選択にあたっては、参加者の集合は、
図11で示したように、K個の部分集合に分けられ、このうちの内ループ特徴選択では使用されなかった1個の部分集合がテストプールとして使用される。このテストプールに含まれる参加者の人数をNT人とする。
【0287】
また、以下では、一例として、1個抜き交差検証(LOOCV)処理を行うものとして説明する。
【0288】
図12を参照して、外ループ特徴選択の処理が開始されると、演算処理装置(CPU)2040は、変数iの値を1に設定し(S300)、CPU2040は、iの値が、外ループ特徴選択の反復回数NTを超えない場合(S302でN)は、テストプールのうち、i番目のデータを除き、不揮発性記憶装置2080中に格納された、参加者の人属性情報
3104および機能結合の相関行列データ3106に基づいて、スパースロジスティック回帰(SLR)を実行して、テスト分類器を生成する(S304)。
【0289】
続いて、CPU2040は、生成されたテスト分類器により、除かれたi番目のデータ
に対するSLRによる予測値を算出する(S306)。
【0290】
さらに、CPU2040は、テスト分類器を生成する際のスパース化により抽出された機能的結合FCを、選択された特徴量として不揮発性記憶装置2080に格納し、変数iの値を1だけインクリメントする(S310)。
【0291】
S304〜S308の処理がNT回繰り返された後、変数iの値がNTを超えると(S302でY)、CPU2040は、LOOCVとしての2乗誤差見積の算出する(S312)。
【0292】
続いて、CPU2040は、NT回の繰り返し処理により、抽出された機能的結合FCの和集合(第2の和集合)を求め、第2の機能結合和集合データ3110として、不揮発性記憶装置2080に格納して処理が終了する。
【0293】
(分類器の生成処理)
図13は、最終的に第1の分類器を生成する手続きを説明するための概念図である。
【0294】
図13に示すように、分類器生成処理では、内ループ特徴選択処理および外ループ特徴選択処理により、最終的に抽出された第2の機能結合和集合データ3110を説明変数とし、参加者全員について、スパースロジスティック回帰によって、第1の分類器を生成する。生成された第1の分類器を特定するための情報(ロジスティック関数のパラメータベクトルθ等)は、不揮発性記憶装置2080に記憶される。
【0295】
上述したように、ここまで説明した手続きでは、「うつ病」を疾患ラベルとした場合は、表1に記載の12個の機能的結合が、最終的に抽出された第2の機能結合和集合データ3110の説明変数として使用され、第1の分類器が生成される。
【0296】
ただし、ロジスティック回帰式で表現される分類器の生成には表1に記載の全ての機能
的結合を使用してもよいが、少なくとも機能的結合識別番号1及び機能的結合識別番号2の一方、あるいは両方を選択して使用してもよい。また、寄与度が高い複数の機能的結合を選択してもよい。このような12個の機能的結合からの分類器に使用する前記機能的結合の選択は、データ処理部32または後述するコンピュータ300のCPUが行ってもよいが、ヒトが行ってもよい。
【0297】
(判別処理)
図14は、生成した第1の分類器を用いて被検者のfMRIのデータから疾患ラベルを判別するためにデータ処理部32が行う処理を説明するためのフローチャート図である。
【0298】
CPU2040は、ステップS401において、MRI撮像部25から安静時の被検者fMRI測定データ3113をインタフェース部44を介して取得する。
【0299】
CPU2040は、ステップS402〜S403おいて上記2.に記載の前処理を行い、表1に記載の機能的結合の全て、あるいは一部について相関行列の要素を抽出する。
【0300】
ステップS404おいて、CPU2040は、抽出した相関行列の要素に対してピアソン相関係数を求める。ステップS405〜S406おいて、CPU2040は、前記相関係数を分類器に入力し、少なくとも1つの機能的結合についてうつ症状の疾患ラベルを判別するための指標値を生成する。あるいは、望ましくはCPU2040は、前記相関係数を分類器に入力し、複数の機能結合についての関連重み付け和をうつ症状の疾患ラベルを判別するための指標値として生成する。
【0301】
次にCPU2040は、ステップS407において指標値を基準値と比較する。例えば数6で表されるような数5によるロジスティック回帰の式では、うつ症状の疾患ラベルと健常者のラベルの閾値は0となるように設定されているため、基準値は0となる。たとえば、「関連重み付け和」をバイオマーカーの指標値として使用する場合は、第1の分類器の感度や特異度を調整するために、基準値を0とは異なる値に設定してもよい。たとえば、基準値を0よりも小さくすれば、「うつ病」の疾患レベルと判別される感度は向上するが、特異度は低下する。上述した分類器の判別結果を、後続する他の情報に基づく医師による診断のための参考情報(支援情報)として使用することを意図する場合は、感度の向上を優先させるという設定もあり得る。
【0302】
ステップS408においてCPU2040は、前記指標値が0よりも高い場合(「YES:Y」)には、前記被検者がうつ症状のラベルであると判別することができる(S409)。また、前記指標値が0よりも低い場合(「NO:N」)には、前記被検者がうつ症状のラベルに相当すると判別することができる(S410)。
【0303】
3−2.判別装置2
実施の形態1では、脳活動計測装置(fMRI装置)で、複数の測定場所で計測された脳活動データを計測し、この脳活動データに基づいて、分類器の生成および分類器による疾患ラベルの推定(予測)を、同一のコンピュータによる処理または分散処理により行う構成を説明した。
【0304】
ただし、i)分類器を機械学習により訓練するための脳活動データの計測(データ収集)、ii)分類器の機械学習による生成処理および特定の被験者についての分類器による疾患ラベルの推定(予測)の処理(推定処理)、iii)上記特定の参加者についての脳活動データの計測(対象者の脳活動計測)を、それぞれ、異なる施設で分散して実行する構成とすることも可能である。
【0305】
すなわち、健常群およびうつ病患者群のデータは、MRI装置10自身で測定される場合に限られず、他のMRI装置において測定されたデータをも総合して、分類器の生成が行われてもよい。また、より一般には、データ処理部32は、MRI装置の制御を実行するためのコンピュータである必要は必ずしもなく、1つまたは複数のMRI装置からの測定データを受け取って、分類器の生成処理および生成された分類器により、判別処理を行うことに特化したコンピュータであってもよい。
【0306】
図15は、本発明の実施の形態1の別実施形態である、データ収集、推定処理および対象者の脳活動計測を、分散して処理する場合の一例を示す機能ブロック図である。
【0307】
図15を参照して、サイト100.1〜100.Nは、うつ病患者群、健常者群を含む参加者のデータを脳活動計測装置により計測する施設であり、管理サーバ200は、サイト100.1〜100.Nからの計測データを管理する。
【0308】
判別装置2に相当するコンピュータ300は、管理サーバ200に格納されたデータから分類器を生成する。
【0309】
MRI装置410は、コンピュータ300上の分類器の結果を利用する別サイトに設けられており、特定の被検者について脳活動のデータを計測する。
【0310】
コンピュータ400は、MRI装置410が設けられる別サイトに設置され、MRI装置410の測定データから特定被検者の脳の機能結合の相関データを算出し、機能結合の相関データをコンピュータ300に送信して、返信されてくる分類器による判別結果を利用する。
【0311】
サーバ200は、サイト100.1〜100.Nから送信されてくるうつ病患者群および健常者群の参加者FMRI測定データ3102と、参加者FMRI測定データ3102に関連付けられた参加者の人属性情報3104とを格納し、コンピュータ300からのアクセスに従って、これらのデータをコンピュータ300に送信する。
【0312】
コンピュータ300は、通信インタフェース2090を介して、サーバ200からの参加者FMRI測定データ3102および被験者の人属性情報3104を受信する。
【0313】
なお、サーバ200、コンピュータ300、コンピュータ400のハードウェアの構成は、基本的に、
図2で説明した「データ処理部32」の構成と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0314】
図15に戻って、相関行列算出部3002、第1特徴選択部3004、第2特徴選択部3006、分類器生成部3008および判別処理部3010、ならびに、機能結合の相関行列のデータ3106、第1の機能結合和集合データ3108、第2の機能結合和集合データ3110および分類器データ3112については、実施の形態1で説明したのと同様であるので、その説明は、繰り返さない。
【0315】
MRI装置410は、診断ラベルの推定対象となる被検者の脳活動データを計測し、コンピュータ400の処理装置4040は、計測されたMRI測定データ4102を不揮発性記憶装置4100に格納する。
【0316】
さらに、コンピュータ400の処理装置4040は、MRI測定データ4102とMRI装置410の計測対象の被験者の人属性情報とに基づいて、相関行列算出部3002と同様にして、機能結合の相関行列のデータ4106を算出し、不揮発性記憶装置4100
に格納する。
【0317】
コンピュータ400のユーザから診断の対象となる疾患が指定され、当該ユーザの送信の指示に従い、コンピュータ400が、機能結合の相関行列のデータ4106をコンピュータ300に送信する。これに応じて、判別処理部3010は、指定された診断ラベルについての判別結果を算出し、コンピュータ300は、通信インタフェース2090を介して、コンピュータ400に送信する。
【0318】
コンピュータ400では、図示しない表示装置などを介して、ユーザに対して、判別結果を知らせる。
【0319】
このような構成とすることで、より多くの被験者について収集したデータに基づいて、より多くのユーザに対して、分類器による診断ラベルの推定結果を提供することが可能となる。
【0320】
また、サーバ200とコンピュータ300とを別個の管理者が管理する形態とすることも可能で、その場合、サーバ200にアクセスできるコンピュータを制限することで、サーバ200に格納される被験者の情報のセキュリティを向上させることも可能となる。
【0321】
さらに、コンピュータ300の運営主体からみると、「分類器による判別のサービスを受ける側(コンピュータ400)」に対して、分類器についての情報は、一切提供しなくても、「判別結果を提供するサービス」を行うことが可能となる。
【0322】
3−4.分類器及び判別装置の用途
前記判別装置1及び2は、うつ症状に対する疾患ラベルを判別する他、うつ症状のレベルを判別するために、うつ症状の治療の効果の程度を判別した情報を生成するために、又はうつ症状が予め設定された複数のサブクラスに層別化されている場合に、又は被検者を前記サブクラスに層別化する際の支援情報を生成するために使用することができる。それぞれの使用方法については、後述する。
【0323】
第1の分類器は、うつ症状を判別するための診断バイオマーカーとして使用することができる。また、第1の分類器は、うつ症状のレベルを判別するための診断バイオマーカーとして使用することができる。第1の分類器は、うつ症状の治療の効果を判別するための薬効マーカーとして使用することができる。第1の分類器は、被検者をうつ病のサブクラスに層別化するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0324】
3−5.分類器を生成するためのコンピュータプログラムとうつ症状を判別するためのコンピュータプログラム
実施の形態1の別形態には、ステップS100〜S108(具体的には、S200〜S218とS300〜S314を含む)を含む処理を実行させて、分類器生成処理の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムと、ステップS401〜S410を含む処理を実行させて、判別処理の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムとを含む。また実施の形態1の別形態には、ステップS100〜S108(具体的には、S200〜S218とS300〜S314を含む)と、ステップS401〜S410を含む処理を実行させて、判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。これらのプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0325】
3−6.うつ症状の判別方法
実施の形態2は、うつ症状の判別方法に関する。前記判別方法は、安静時の被検者において計測された機能的結合の相関行列の要素について、うつ症状を評価するための指標値を生成する工程と、前記指標値が基準値を超えた場合に、前記被検者がうつ症状であると決定する工程を備える。具体的な工程は、上記S401〜S410に準ずるが、前記工程は、指標値を生成する工程を除いた工程の全部または一部をヒトが行ってもよい。
【0326】
4.うつ症状のレベルの判別装置及び判別方法
4−1.判別装置
判別装置1及び判別装置2は、うつ症状のレベルを判別するために使用することができる。この場合、判別装置1及び判別装置2の構成は、上記3.に記載した構成と同様であるため、説明は省略する。判別処理部3010は、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して判別処理を行い、前記被検者のうつ症状のレベルを判別する。
【0327】
この場合、「うつ症状のレベル」の判別には、たとえば、指標値である「関連重み付け和」の値が取り得る値を、予め、複数のレベルの基準範囲に分類しておくことで、「うつ症状のレベル」に対応した判別結果を出力することが可能となる。
【0328】
あるいは、この場合、分類器の生成に用いる「疾患ラベル」を予めうつ病のレベルに応じた複数の「レベル別疾患ラベル」として、分類器の機械学習を実行してもよい。
【0329】
4−2.判別方法
実施の形態3は、うつ症状のレベルの判別方法に関する。前記判別方法は、安静時の被検者において計測された機能的結合の相関行列の要素について、うつ症状を評価するための指標値を生成する工程と、あらかじめ前記機能的結合ごとにうつ症状のレベルに応じて設定された指標値の基準範囲と比較する工程と、前記被検者が、前記指標値が含まれる基準範囲に対応するうつ症状のレベルであると決定する工程とを備える。
【0330】
図16は、生成した分類器を用いて被検者のfMRIのデータからうつ症状のレベルを判別するためにデータ処理部32が行う処理を説明するためのフローチャート図である。
【0331】
CPU2040は、
図15に記載のステップS401〜S406を行うことにより、指標値を生成する。次にCPU2040は、
図16に示すステップS501において前記指標値を予めうつ症状のレベルに応じて設定された指標値の基準範囲と比較する。前記12対の機能的結合は、たとえば、BDIのうつ症状の重症度と相関するため、うつ症状のレベルを決定するための指標値の基準範囲は、BDIのうつ症状の重症度との相関から予め決定しておくことができる。ステップS502においてCPU2040は、
図15のステップS406で生成された指標値が、どのレベルのうつ症状に対応しているかを決定する(S502)。そして、CPU2040は、ステップS503において、前記被検者がステップS502で決定されたうつ症状のレベルであると判別する。前記CPU2040が行う各ステップは、指標値を生成する工程を除いた工程の全部または一部をヒトが行ってもよい。
【0332】
また、実施の形態3の別態様として、上記ステップS501〜S503を含む処理を実行させて、判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態3の別態様として、上記ステップS401〜S406およびステップS501〜S503を含む処理を実行させて、判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。これらのプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラム
の記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0333】
5.第1の分類器を使用する治療効果の判別装置及び判別方法
5−1.判別装置
判別装置1及び判別装置2は、治療効果を判別するための情報の生成のために使用することができる。この場合、判別装置1及び判別装置2の構成は、上記3.に記載した構成と同様であるため、説明は省略する。判別処理部3010は、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して判別処理を行い、前記被検者における治療効果を判別する情報を生成する。
【0334】
本実施の態様の別の態様は、前記判別装置を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0335】
5−2.判別方法
実施の形態4は、前記第1の分類器に、少なくとも2つの時点において撮像された被検者の安静時fMRIのデータから取得される表1に記載の機能的結合についての相関行列の要素を入力し、治療効果を判別する情報を生成する。具体的には、第1の時点の被検者において安静時に計測された、機能的結合の相関行列の要素について、うつ症状を評価するための第1の値を生成する工程と、第2の時点の前記被検者と同一の被検者の安静時の脳内における、前記機能的結合と同一の機能的結合の相関行列の要素ついてうつ症状を評価する第2の値を生成する工程と、第1の値と第2の値とを比較する工程と、第2の値が第1の値よりも改善している場合に、前記治療が被検者のうつ症状の改善に有効であると決定し、有効である可能性を示す情報を生成する工程とを備える。第1の時点は、治療前であっても、治療開始から所定の時間が経過していてもよいが、好ましくは、治療開始前である。また、一度治療を終了した後、治療が再度開始される場合も治療終了から治療再開前までの間は、「治療前」としてもよい。第2の時点は、治療開始後であって第1の時点よりも後である限り制限されない。
【0336】
図17は、第1の分類器を用いて被検者のfMRIのデータから治療効果を判別するための処理を説明するためのフローチャート図である。
【0337】
CPU2040は、
図17に記載のステップS601において、第1の時点においてMRI撮像部25によって被検者から撮像された安静時の被検者fMRI測定データ3113をインタフェース部44を介して取得する。
【0338】
ステップS602〜S603おいて上記2.に記載の前処理を行い、表1に記載の12対の機能的結合から選択した全て、あるいは一部の機能結合について第1の時点での相関行列の要素を抽出する。
【0339】
ステップS604において、CPU2040は、ステップS603で抽出した第1の時点での相関行列の要素に対してピアソン相関係数を算出する。
【0340】
ステップS605〜S606おいて、CPU2040は、ステップS604において算出された相関係数を第1の分類器に入力し、前記選択された機能結合について第1の値を生成する。前記第1の値は、例えば、上記2.で述べた指標値そして算出される。
【0341】
CPU2040は、第2の時点において、ステップS607に示すMRI撮像部25によって被検者から撮像された安静時の被検者fMRI測定データ3113をインタフェース部44を介して取得する。
【0342】
ステップS608〜S609おいて上記2.に記載の前処理を行い、表1に記載の12対の機能的結合から選択した全て、あるいは一部の機能結合について第2の時点での相関行列の要素を抽出する。
【0343】
ステップS610において、CPU2040は、ステップS609で抽出した第1の時点での相関行列の要素に対してピアソン相関係数を算出する。
【0344】
ステップS611〜S612おいて、CPU2040は、ステップS610において算出された相関係数を第1の分類器に入力し、前記選択された機能結合について第1の値を生成する。前記第2の値は、例えば、上記2.で述べた指標値として生成される。
【0345】
CPU2040は、ステップS606において生成された第1の値とステップS612おいて生成された第2の値を比較する(S613)。
【0346】
CPU2040は、ステップS614において、第1の値よりも第2の値が改善していると判別した場合には(「YES:Y」)、前記被検者のうつ病症状の改善に対する前記治療の状態を示す情報を生成する(S615)。この場合、次にCPU2040は、ステップS616に進み、前記治療の継続の可能性を示す情報を提示してもよい。医師は、このような治療継続の可能性を示す情報を元に、治療継続をするか否かの判断を行う。特に限定されないが、たとえば、出力画面上には、治療の有効性があると予め設定された領域についての情報が区別可能に表示されており、「治療の状態を示す情報」とは、分類器の出力する指標値であり、「治療を継続の可能性を示す情報の提示」とは、上記領域を表示した状態で、併せて、この指標値を表示することであってもよい。
【0347】
また、CPU2040は、ステップS614において、第1の値よりも第2の値が改善していないと判別した場合には(「NO:N」)、前記被検者のうつ病症状の改善に対する前記治療の状態を示す情報を生成する(S617)。この場合、次にCPU2040は、ステップS618に進み、前記治療の終了の可能性を示す情報を提示してもよい。
【0348】
医師は、このような治療終了の可能性を示す情報を元に、治療を終了をするか否かの判断を行う。特に限定されないが、たとえば、出力画面上には、治療の有効性がないと予め設定された領域についての情報が区別可能に表示されており、「治療の状態を示す情報」とは、分類器の出力する指標値であり、「治療の終了の可能性を示す情報の提示」とは、上記領域を表示した状態で、併せて、この指標値を表示することであってもよい。
【0349】
さらに、CPU2040は、ステップS619に進み、他の治療方法に変更可能性を示す情報を提示してもよい。この場合、さらに具体的な治療方法の可能性を提示してもよい。この場合、医師は、表示された治療方法の可能性のうちから、現在の治療方法から変更すべき治療方法を判断することができる。
【0350】
例えば数6で表される式では、うつ症状の疾患ラベルと健常者のラベルの閾値は0となるように設定されているため、基準値は0となる。
【0351】
たとえば、「関連重み付け和」をバイオマーカーの指標値として使用する場合は、ステップS614において、うつ症状が重くなるにつれ、前記指標値は、正方向に大きくなる。したがって、CPU2040は、前記第1の値よりも前記第2の値が小さくなっている場合に、第1の値よりも第2の値が改善していると判別することができる。また、CPU2040は、前記第1の値よりも前記第2の値が大きくなっている場合、または第1の値と第2の値に顕著な差が認められない場合に、第1の値よりも第2の値が改善していない
と判別することができる。
【0352】
前記第1の値及び第2の値は、指標値であってもよいが、ステップS604及びステップS610で算出される相関係数を、それぞれ第1の値及び第2の値としてもよい。
【0353】
また、実施の態様3では、ステップS601は、ステップS607よりも前に行われている必要があるが、ステップS602〜S606は、ステップS607よりも前に行われている必要はない。ステップS602〜S606は、ステップS601の後、少なくともステップS613よりも前のどこかで行われていればよい。
【0354】
ステップS601〜S619は、その全部あるいは一部をヒトが行ってもよい。
【0355】
実施の形態3は、投薬治療の効果判定に使用することも可能である。第1の分類器を使って投薬効果を判定する場合には、少なくとも機能的結合識別番号1及び2の機能結合を指標とすることが好ましい。
【0356】
実施の態様4の別の態様は、前記判定方法を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0357】
また、実施の形態4の別態様として、上記ステップS601〜S619を含む処理を実行させて、判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。このプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0358】
6.うつ病患者の層別化装置及び層別化方法
6−1.層別化装置
実施の形態4は、うつ病患者の層別化装置に関する。うつ病が予め設定された複数のサブクラスに層別化されている場合に、判別装置1及び判別装置2は、それぞれうつ病患者を医師が層別化するための支援をする層別化装置1及び層別化装置2として使用することができる。この場合、層別化装置1及び層別化装置2の構成は、上記3.に記載した判別装置1及び判別装置2の構成と同様であるため、説明は省略する。
図19と
図20には、層別化装置1及び層別化装置2の機能ブロック図を示す。
図19と
図20では、判別処理部3010が、層別化処理部3020となる点を除き、
図5及び
図15と同じである。層別化処理部3020は、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して層別化処理を行い、うつ病患者の層別化のための判別を行い結果を出力する。
【0359】
医師は、層別化装置1または層別化装置2にから出力される、うつ病患者の層別化のための判別結果を支援情報として、患者の層別化を行う。この意味で、このような装置を、層別化支援装置と呼ぶこともできる。
【0360】
6−2.層別化方法
実施の形態5は、うつ病患者得層別化するための層別化する方法に関する。前記判別方法は、うつ病が予め設定された複数のサブクラスに層別化されている場合に、安静時の被検者において計測された機能的結合の相関行列の要素について、うつ症状を評価するための指標値を生成する工程と、あらかじめ前記機能的結合ごとに前記サブクラスに応じて設定された指標値の基準範囲と比較する工程と、前記被検者が、前記指標値が含まれる基準範囲に対応する前記サブクラスであると決定する工程を備える。
【0361】
図18は、生成した分類器を用いて被検者のfMRIのデータからうつ症状のサブクラスを判別するための情報を生成するデータ処理部32が行う処理を説明するためのフローチャート図である。
【0362】
CPU2040は、
図14に記載のステップS401〜S406を行うことにより、指標値を生成する。次にCPU2040は、
図18に示すステップS701において前記指標値を、予めうつ病のサブクラスに応じて設定された指標値の基準範囲と比較する。うつ病のサブクラスは、臨床所見からメランコリー型MDD、非メランコリー型MDD及び治療抵抗性MDDのサブクラスに分類される。このため、たとえば、メランコリー型MDDを「疾患ラベル」として生成した分類器を用いることで、脳活動を計測した対象者からの計測データが、メランコリー型MDDの疾患ラベルに対応するか否かを判別できる。同様にして、非メランコリー型MDDまたは治療抵抗性MDDを「疾患ラベル」として生成した分類器を用いることで、脳活動を計測した対象者からの計測データが、非メランコリー型MDDまたは治療抵抗性MDDの疾患ラベルに対応するか否かを判別できる。
【0363】
ステップS702においてCPU2040は、
図15のステップS406で生成された指標値が、どのサブクラスに対応しているかを決定する。そして、CPU2040は、ステップS703において、前記被検者がステップS702で決定されたうつ病のサブクラスに属すると判別する。医師は、このようにして出力されるサブクラスの情報を、うつ病患者の層別化のための支援情報として、患者の層別化を行う。この意味で、このような方法を、層別化支援方法と呼ぶこともできる。前記CPU2040が行う各ステップは、指標値を生成する工程を除いた全部または一部をヒトが行ってもよい。
【0364】
また、実施の形態5の別態様として、上記ステップS701〜S703を含む処理を実行させて、層別化装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態5の別態様として、上記ステップS401〜S406およびステップS701〜S703を含む処理を実行させて、層別化装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。これらのプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0365】
7.第2の分類器の生成と第2の分類器を使用する治療効果の判別
7−1.治療効果判別装置
実施の態様6は、複数の対象者について、治療のために投与した治療薬の薬効がみられる群とみられない群とを判別するための第2の分類器を生成する分類器生成処理を実行し、医師が治療効果の判断をする支援のための指標となる情報を生成するする、治療効果判別装置、あるいは、治療支援装置に関する。
【0366】
治療効果判別装置の構成は、基本的に
図1と同じであるが、
図1におけるデータ処理部32を実施の態様6ではデータ処理部62と読み替える。また、治療効果判別装置において、データ処理部62の構成は、
図1及び
図2と基本的に同様であるが、実施の形態6では、
図1において記憶部36を記憶部66と、制御部42を制御部62と、入力部40を入力部70と、インタフェース部44をインタフェース部74と、データ収集部46をデータ収集部76と、画像処理部48を画像処理部78と、表示部38を表示部68と、表示制御部34を表示制御部64と読み替える。また、
図2において、データ処理部32のコンピュータ本体2010をコンピュータ本体6010と、メモリドライブ2020をメモリドライブ6020、ディスクドライブ2030をディスクドライブ6030と、演算装置(CPU)2040を演算装置(CPU)6040と、ディスクドライブ2030を
ディスクドライブ6030と、メモリドライブ2020をメモリドライブ6020と、バス2050をバス6050と、ROM2060をROM6060と、RAM2070をRAM6070と、不揮発性記憶装置2080を不揮発性記憶装置6080と、通信インタフェース2090を通信インタフェース6090と読み替える。データ処理部62のハードウェアとしては、上述のとおり、特に限定されないが、汎用コンピュータを使用することが可能である。
【0367】
(分類器の生成)
図23は、第2の分類器の生成処理および生成された第2の分類器による判別処理を行うための機能ブロック図である。
【0368】
不揮発性記憶装置6080には、健常者、投薬を受けたうつ病患者を含む複数の対象者の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号をMRI装置により時系列で予め測定した信号の情報であって、第1の時点で測定した対象者のfMRI測定データ6102と、第2の時点で測定した対象者のfMRI測定データ6104と、前記fMRI測定データを計測した各対象者に関連づけられた、複数の投薬データ6105とが格納されている。
【0369】
ここで、投薬データ6105には、対象者の疾患ラベル、投薬履歴(投薬した薬剤名、用量、投与期間等)の情報が含まれる。CPU6040は、第1の時点の対象者のfMRI測定データ6102と、第2の時点の対象者のfMRI測定データ6104と、対象者の投薬デー6105に基づいて、複数の対象者において薬効がみられた群(「寛解群(remitted)」)と薬効がみられない群(「非寛解群(non-remitted)」)とを識別するための分類器を生成する処理を行う。したがって、疾患ラベルには、この場合、「寛解ラベル」と「非寛解ラベル」とが含まれる。
【0370】
第1の相関計測部6002は、第1の時点の対象者のfMRI測定データ6102から、複数の所定領域間の脳活動の機能的結合の相関行列を対象者ごとに算出する。算出された機能的結合の相関行列のデータは、対象者ごとに、不揮発性記憶装置6080に、機能結合の相関行列の第1の相関計測データ6106として格納される。
【0371】
第2の相関計測部6004は、第2の時点の対象者のfMRI測定データ6104から、複数の所定領域間の脳活動の機能的結合の相関行列を対象者ごとに算出する。算出された機能的結合の相関行列のデータは、対象者ごとに、不揮発性記憶装置6080に、機能結合の相関行列の第2の相関計測データ6108として格納される。
【0372】
第2の分類器生成部6008は、前記複数の機能的結合の第1の時点と第2の時点の前記相関の差に基づいて、回帰式を求める。前記回帰式は、第2の分類器を特定するための第2の分類器データ6020として、不揮発性記憶装置6080に格納する。治療効果判別処理部6100は、第2の分類器データ6020により特定される第2の分類器に基づいて、入力データに対して治療効果の判別処理を行う。
【0373】
図21は、第2の分類器を生成するためにデータ処理部62が行う処理を説明するためのフローチャートを示す。
【0374】
以下、
図23で説明した処理を
図21を参照しながら、より詳しく説明する。
【0375】
図21において、データ処理部62は、記憶部66から分類器生成の処理が開始されると(スタート)、第1の時点の各対象者のfMRI測定データ6102を読み出し、各表1に示される複数の機能的結合それぞれについて、第1の時点の相関を計測する(S80
2)。この相関の計測は、各機能的結合のピアソン相関係数を算出することによって行われる。
【0376】
次にデータ処理部62は、記憶部66から第2の時点の各対象者のfMRI測定データ6104を読み出し、各対象者について表1に示される複数の機能的結合それぞれについて、第2の時点の相関を計測する(S803)。この相関の計測は、各機能的結合のピアソン相関係数を算出することによって行われる。
【0377】
次に、データ処理部62は、各対象者の表1に示される複数の機能的結合のうち、たとえば、第1の機能結合および第2の機能結合のそれぞれについて、第1の時点の相関と第2の時点の相関との差を算出する(S804)。前記差は、例えば、下式(4)に基づいて算出される。
【0379】
式(4)において、FC1は、表1における第1番目の結合強度を示し、FC2は、表1における第2番目の結合強度を示す。すなわち、関連重み付け和の計算の結果、重みの絶対値が最も大きな結合がFC1であり、2番目に大きな結合がFC2である。上付きの“post”は、第2の時点を示し、“pre”は、第1の時点を示す。典型的には、第1の時
点は、治療前(投薬前)の時点であり、第2の時点は、治療開始後(投薬開始後)、所定の時点である。また、sign(w
1)は、FC1の重みの符号を示し、sign(w
2)は、FC2の重みの符号を示す。たとえば、後述するように
図33fにおいて作成したこの分類器は、正確性:0.75, AUC:0.79, 特異度0.88、感度0.43を示す。
【0380】
さらに、データ処理部62は、各対象者の各機能的結合における前記2つの相関の差と、投薬データ6105に含まれる説明変数(「寛解群」または「非寛解群」のラベル)との関係を説明するための回帰式を求める。回帰式は、特に制限されないが、線形回帰分析によって求めることができる。この回帰式に基づいて、相関状態空間における薬効あり群と、薬効なし群を識別する分類器を生成することができる(S804)。
【0381】
ここで、「相関状態空間」とは、このようにして複数の機能結合の第1および第2の時点の間の強度差(必要により、さらに強度差に重みの符号をかけたもの)をそれぞれ空間の軸として張られる空間のことをいう。上記の例では、2次元の空間となる。
【0382】
上述のとおり、例えば、各対象者の表1に示す機能的結合識別番号1における第1の時点と第2の時点の前記相関の差(Δsign(W)FC1とする)と、表1に示す機能的結合識
別番号2における第1の時点と第2の時点の前記相関の差(Δsign(W)FC2とする)の
相関状態をプロットすると
図33fのようになる。Δsign(W)FC1とΔsign(W)FC2の相関と、各対象者における投薬の効果の有無との関係をみると負の傾きをもつ線形回帰式を求めることができる。そして、この線形回帰式に基づく回帰直線を基準として、回帰直線よりも上に分布する対象者を薬効が認められない群、回帰直線よりも下に分布する対象者を薬効が認められる群として識別することができる。
【0383】
医師は、このようにして出力される薬効に関する情報を、支援情報として、うつ病患者に対する治療効果の判断を行う。
【0384】
(説明変数としてのΔsign(W)FC1とΔsign(W)FC2)
上記の例では、各結合強度の重みの符号sign(W)は、図として表示する際の便宜のため
であり、本質的には、治療(投薬)前と治療(投薬開始後)後におけるFC1とFC2の強度変化が重要である。
【0385】
図33fのように、寛解と非寛解を区別せずに見れば、第1の機能的結合の強度変化Δsign(W)FC1と第2の機能的結合の強度変化Δsign(W)FC2との間には、投薬の前と投薬後所定期間経過後の強度変化の間には相関が見られず、各々の変化に対する補償のような現象は見られない。言い換えれば、これらの結合強度の変化は、相互に独立であることになり、投薬の効果を説明するための変数の選択としては適切であることを示している。
【0386】
したがって、上記のように、投薬の前後における強度変化が相互に独立と見なせる機能的結合を用いて、上記のような第1および第2の機能的結合に限られず、他の機能結合を用いることも可能である。また、投薬の効果を説明するための変数としては、より多くの機能的結合を、表1に示した機能的結合から選択してもよい。
【0387】
(判別処理)
図22は、実施の形態7生成した第2の分類器を用いて被検者のfMRIのデータから薬効を判別するデータ処理部62が行う処理を説明するためのフローチャート図である。
【0388】
CPU6040は、ステップS901において、MRI撮像部25から第1の時点における安静時の被検者fMRI測定データ6113をインタフェース部64を介して取得する。
【0389】
CPU6040は、ステップS902〜S903おいて上記2.に記載の前処理を行い、表1に記載の機能的結合の全て、あるいは一部について相関行列の要素を抽出し、第1の時点の各機能的結合の相関を計測する。
【0390】
CPU6040は、ステップS904において、MRI撮像部25から第2の時点における安静時の被検者fMRI測定データ6113をインタフェース部64を介して取得する。
【0391】
CPU6040は、ステップS905〜S906おいて上記2.に記載の前処理を行い、表1に記載の機能的結合の全て、あるいは一部について相関行列の要素を抽出し、第2の時点の各機能的結合の相関を計測する。
【0392】
次に、CPU6040は、ステップS907おいて、前記複数の機能的結合それぞれについて、ステップS903で計測された第1の時点の各機能的結合の相関とステップS906で計測された第2の時点の各機能的結合の相関の差を算出する。
【0393】
CPU6040は、ステップS907で算出された差を第2の分類器に入力し(S908)、第2の分類器によって前記被検者において薬効が認められているか、認められていないかを判別する(S908)。
【0394】
各相関の計測方法、各相関の差の算出方法、及び薬効の判別方法は、第2の分類器の生成方法で記載した内容と同様である。
【0395】
ここで、第1の時点は、投薬前であっても、投薬開始から所定の時間が経過していてもよいが、好ましくは、投薬開始前である。また、一度投薬を終了した後、投薬が再度開始される場合も投薬終了から投薬再開前までの間は、「投薬前」としてもよい。第2の時点
は、投薬開始後であって第1の時点よりも後である限り制限されない。
【0396】
また、実施の態様7は、ステップS901は、ステップS606よりも前に行われている必要があるが、ステップS902〜S903は、ステップS904よりも前に行われている必要はない。ステップS902〜S903は、ステップS901の後、少なくともステップS907よりも前のどこかで行われていればよい。
【0397】
また、実施の態様6の別の態様は、前記第2の分類器、治療効果判別装置、あるいは、治療支援装置を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0398】
7−2.治療効果判別方法
実施の形態7は、第2の分類器を用いた治療効果の判別方法に関する。前記判別方法は、第1の時点の被検者の安静時の脳内における、前記複数の機能的結合の第1の相関を計測する工程と、第2の時点の前記被検者と同一の被検者の安静時の脳内における、前記複数の機能的結合の第2相関を計測する工程と、前記被検者の前記複数の機能的結合の前記第2の相関と前記第1の相関との差に基づき、前記分類器により、前記被検者に対する薬効を判別する工程とを備える。具体的な工程は、上記S901〜S909に準ずるが、前記工程は、全部または一部をヒトが行ってもよい。
【0399】
ここでも、このようにして出力される薬効に関する判別情報を、支援情報として、うつ病患者に対する治療効果の判断を行う。
【0400】
実施の態様7の別の態様は、前記治療効果判別方法を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0401】
また、実施の形態7の別態様として、上記ステップS801〜S804を含む処理を実行させて、第2の分類器としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態7の別態様として、上記ステップS801〜S804およびステップS901〜S909を含む処理を実行させて、治療効果判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態7の別態様として、上記ステップS901〜S909を含む処理を実行させて、治療効果判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。これらのプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0402】
8.層別化されたうつ病患者における第2の分類器を使用した薬効の判定
8−1.治療効果判別装置
実施の態様8は、実施の態様4に記載のうつ病患者の層別化装置において、層別化されたうつ病患者からのrs−fMRIデータを使って、実施の形態6の治療効果判別装置において、治療効果を判別する装置である。
【0403】
すなわち、実施の態様8は、上記3.で述べた第1の分類器生成処理と、上記6.で述べた層別化処理と上記7.で述べた第2の分類器生成処理と、第1の相関計測処理と、第2の相関計測処理と、前記第2の分類器により、前記被検者に対する薬効を判別する判別処理とを実行する治療効果判別装置である。
【0404】
したがって、上記3.の記載、上記6−1.の記載と、上記7−1.記載は、ここに援用される。
【0405】
実施の態様8の別の態様は、前記治療効果判別装置を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0406】
8−2.治療効果判別方法
実施の態様9は、層別化されたうつ病患者における第2の分類器を使用した薬効の判別方法に関する。
【0407】
図24に、層別化されたうつ病患者における第2の分類器を使用した薬効を判別するためのフローチャートを示す。
【0408】
図24において、ステップS701〜S703は、
図18と同じである。したがって、上記6−2.の説明は、ここに援用される。
【0409】
CPU6040は、
図24に示すステップS703においてサブクラスが決定された被検者について、ステップS921〜S929を行う。ステップS921〜S929の各ステップは、上記7−2.及び
図22に記載のステップS901〜S909の各ステップに対応する。したがって、上記7−2.の記載は、ここに援用される。
【0410】
なお、特に限定されないが、以上の説明において、治療効果判別装置の支援により、医師が、現在継続中の治療方法(特定薬の投薬など)に効果が見られないと判断した場合は、それ以後に、医師は、別の治療方法(別の特定薬の投与、ニューロフィードバック法、反復経頭蓋磁気刺激治療法など)の治療方法を併用する、あるいは、別の治療方法へと治療方法を変更する、という判断をすることができる。
【0411】
実施の態様9の別の態様は、前記治療効果判別方法を、ドラッグリプロファイリングのために使用することを含む。
【0412】
また、実施の形態8の別態様として、上記ステップS921〜S929を含む処理を実行させて、第2の分類器としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態8の別態様として、上記ステップS701〜S703およびステップS921〜S929を含む処理を実行させて、治療効果判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。実施の形態7の別態様として、上記ステップS401〜S406、ステップS701〜S703およびステップS901〜S909を含む処理を実行させて、治療効果判別装置としての機能をコンピュータに実行させるプログラムを含む。これらのプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0413】
II.哺乳動物におけるうつ病の病態プロファイルを検出するバイオマーカーとその利用
うつ状態の程度の評価に当たっては、機能的結合の計測値をインデックス化し、その変動と基準値からの逸脱の場合に注目する。たとえば、12種の機能的結合の計測値に、それぞれ注目度に応じた係数を乗じ、その合計値でうつ状態の程度を可視化することである。全体の合計値が正側にシフトするとうつ状態は悪化、負側にシフトすると健常化と判定できる。表1に示した機能的結合識別番号1と2の結合は、特にうつ状態の指標として重要と考えられるので、これらには1.0以上の係数を、一方、機能的結合識別番号の結合シグナルには係数1.0以下を乗じ、その合計値でうつ状態のプロフィールを明確化することも可能である。こうした手法は、薬物のスクリーニングの際には、数値比較で簡便に抗うつ活性の強い薬物を選定することに有用である。また、12種の機能的結合に乗じる係数は、ヒトの臨床的観点に照らして任意に設定することで、より臨床症状を反映した観測ができる。この場合、ヒトにおける臨床症状はメランコリー型うつ病において特に好ましく反映できる。
【0414】
ヒト以外の哺乳動物において、12種の機能的結合が直接観測できない場合には、予備実験として、健常状態とうつ状態での比較、あるいはうつ状態を増悪させる標準薬及びうつ状態を改善させる標準薬を予め投与して比較することにより、薬物応答性を評価するのに適切な機能的結合を設定することもできる。この手法によって、哺乳動物ごとに異なる薬物応答性をヒトのデータに一定部分を外挿することが可能となる。薬物は動物ごとに代謝の程度が異なるので、事前にヒトに対応する機能的結合の予備データを取得しておくことにより、ヒトの臨床に応用可能な薬物スクリーニング系を構築することができる。
【0415】
ヒトとヒト以外の哺乳動物との薬物応答に対する蓋然性と外挿性は、医薬品が薬事承認を受ける際に審査される非臨床試験における動物試験において、ヒトの病態を合理的に説明するモデルを提案することで、その妥当性が広く認められている。ヒト以外の哺乳類動物との薬物応答性は非臨床試験の薬効薬理を評価したデータとして示され、たとえば、代表的なSSRI製剤であるエスシタロプラムシュウ酸塩(商品名「レクサプロ」)では、電撃刺激によるラット恐怖条件付けやマウス明暗箱探索行動などのげっ歯類動物における不安障害モデルで不安障害を軽減させる薬効が示されている(同薬のインタビューフォームによる)。
【0416】
同様にSNRI製剤であるデュロキセチン塩酸塩(商品名「サインバルタ」)では、ラットの強制水泳時の無動行動減少作用や電気刺激に対する学習性無力状態改善作用などの薬効が示されている(同薬のインタビューフォームによる)。こうしたげっ歯類動物の不安障害や無行動・無力症状などの行動及び臨床的症状とヒトにおけるうつ症状には蓋然性が高いことから、抗うつ薬に対する薬物応答時の動物においてもヒトで有用とされる評価パラメーターを利用すればよく、たとえば、ヒトの神経結合プロファイルの解析技術もその範疇に含まれる。
【0417】
ヒトの精神神経科学研究を推進するために、実験動物を用いてfMRIで脳の機能的結合を解析することの蓋然性と重要性はすでに強く提唱されている(Pan WJ et al., Front Neurosci. 2015; 9:269)。ヒトに近い霊長類動物の例では、ヒト脳神経発達過程をマーモセットサルをモデルとして解析する方法(Uematsu A et al., Neuroimage. 2017;163:55-67)にMRIが用いられ、さらに、ヒトと同様にfMRIではマカクサルで神経結合を計測解析できること(Zhang W et al., Neuroscience. 2017. pii: S0306-4522(17)30588)が報告されている。また、マカクサルについては、脳ネットワークの構成についての報告がある(Barbara L. Finlay, PLoS Biol. 2016 Sep; 14(9): e1002556)。
【0418】
ヒト以外の哺乳動物で、特にマウスやラットでは、fMRI計測時の安静を保つために麻酔をかけることが脳機能に影響を与えることが従来指摘されてきたが、近年ではハタネズミ(Yee JR et al., Neuroimage. 2016;138:221-232)やマウス(Madularu D et al., J Neurosci Methods. 2017; 287:53-57)の覚醒状態のfMRI検査が可能となり、また、覚醒時のラットで脳のfMRIシグナルを計測する手法も開発され(Chang P-C et al., J Neurophysiol 2019;116: 61-80)、実際にラット脳のfMRI解析でセロトニン受容体拮抗薬とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の併用効果を見出すことも可能となった(Ferris CF et al., Front Pharmacol. 2017;8:1-18)。また、動物用保定器具と脳電極の開発でマウスやラットで覚醒時の脳MRI検査を行う技術も商業化されている(たとえば、Animal Imaging Research , LLC, Holden, MA, USA)。
こうしたfMRI解析技術の進展は、ヒトで開発された脳神経結合の解析技術が、これらの哺乳動物がヒトをシミュレーションした評価系として利用できることが示されている。実験動物で薬物応答性の解析や精神神経系の薬物のスクリーニングができる時代になったといえる。
【0419】
本発明によるfMRIの脳の機能的結合解析によって、抗うつ薬の治療プロセスのモニタリングが可能となる。すなわち、個々の患者における抗うつ薬の相性(一般的に抗うつ薬の奏効率は50%前後とされる)、投薬時の有効性、投薬をやめるタイミングと再開するタイミングなどの判断に必要な情報を得ることができる。特に併用薬がある場合には、併用薬の適切な選択に利用できる価値は高い。
また、抗うつ薬の臨床試験の際にも、有効性が期待できる被験者の層別化により、臨床試験の精度と品質の向上が期待できる。臨床試験では選択基準と除外基準を設けて適切な被験者選択を行うのが普通であるが、問診や罹患エピソードの聴収だけでは治験医師の経験の程度によって画一化できない可能性も高いが、本発明によって予備試験を行うなどによって、適切な被験者群を選択することも可能となり、治験医師と被験者の双方に有益である。抗うつ薬を製造販売する製薬企業においては、いわゆる市販後調査と製造販売時に策定するリスク管理計画(RMP)の実施に必要な服薬患者のフォローアップに有用な技術となる。
【0420】
以上のように、本発明は新規な抗うつ薬の研究開発における創薬スクリーニング、臨床試験における適切な被験者の選択、臨床試験中及び実臨床における薬物応答性のモニタリング、適切な併用薬の選択、抗うつ薬の市販後調査におけるフォローアップ検査等に、有用な技術となる。
【0421】
<fMRI画像データの分類と判別の処理>
機能的結合の分類は、安静時の被検動物の各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号を脳活動検知装置により時系列で予め測定した信号から、前記複数の所定領域間の機能的結合の機械学習により、うつ症状の疾患ラベルに関連するとして特徴選択により選択された機能的結合の重みに基づいて、うつ症状の疾患ラベルを判別するように生成される。
【0422】
すなわち、後述するように、予め設定された複数のROIに対する機能的結合のうち、うつ症状の疾患ラベルに特異的に関連するとしてスパース正準相関分析により抽出された機能的結合から、スパースロジスティック回帰による特徴選択により、うつ病の疾患ラベルの判別に使用される機能的結合が選択される。そして、このようにして選択された機能的結合から、上述した関連重み付け和が算出される。
図1は、本発明の実施の形態にかかる判別装置であるMRI装置10の全体構成を示す模式図である。被検動物がヒトの場合を例にして説明する。
第1の分類器は、
図1に示すMRI装置10から取得されるfMRIの画像データから生成される。
図1に示すように、MRI装置10は、MRIを撮像するMRI撮像部25とMRI撮像部25の制御シーケンスを設定するとともに各種データ信号を処理して画像を生成するデータ処理部32とを備える。MRI撮像部25は、被検者2の関心領域に制御された磁場を付与してRF波を照射する磁場印加機構11と、この被検者2からの応答波(NMR信号)を受信してアナログ信号を出力する受信コイル20と、この被検者2に付与される磁場を制御するとともにRF波の送受信を制御する駆動部21とを備える。
【0423】
なお、ここで、被検者2が載置される円筒形状のボアの中心軸をZ軸にとりZ軸と直交する水平方向にX軸及び鉛直方向にY軸を定義する。
【0424】
MRI装置10は、このような構成であるので、磁場印加機構11により印加される静磁場により、被検者2を構成する原子核の核スピンは、磁場方向(Z軸)に配向するとともに、この原子核に固有のラーモア周波数でこの磁場方向を軸とする歳差運動を行う。そして、このラーモア周波数と同じRFパルスを照射すると、原子は共鳴しエネルギーを吸収して励起され、核磁気共鳴現象(NMR現象;Nuclear Magnetic Resonance)が生じる。この共鳴の後に、RFパルス照射を停止すると、原子はエネルギーを放出して元の定常状態に戻る緩和過程で、ラーモア周波数と同じ周波数の電磁波(NMR信号)を出力する。この出力されたNMR信号を被検者2からの応答波として受信コイル20で受信し、データ処理部32において、被検者2の関心領域が画像化される。
【0425】
磁場印加機構11は、静磁場発生コイル12と、傾斜磁場発生コイル14と、RF照射部16と、被検者2をボア中に載置する寝台18とを備える。被検者2は、寝台18に、たとえば、仰臥する。被検者2は、特に限定されないが、たとえば、プリズムメガネ4により、Z軸に対して垂直に設置されたディスプレイ6に表示される画面を見ることができる。このディスプレイ6の画像により、被検者2に視覚刺激が与えられる。なお、被検者2への視覚刺激は、被検者2の目前にプロジェクタにより画像が投影される構成であってもよい。このような視覚刺激は、上述したニューロフィードバックでは、フィードバック情報の提示に相当する。
【0426】
駆動部21は、静磁場電源22と、傾斜磁場電源24と、信号送信部26と、信号受信部28と、寝台18をZ軸方向の任意位置に移動させる寝台駆動部30とを備える。
データ処理部32は、操作者(図示略)から各種操作や情報入力を受け付ける入力部40と、被検者2の関心領域に関する各種画像及び各種情報を画面表示する表示部38と、各種処理を実行させるプログラム・制御パラメータ・画像データ(構造画像等)及びその他の電子データを記憶する記憶部36と、駆動部21を駆動させる制御シーケンスを発生させるなどの各機能部の動作を制御する制御部42と、駆動部21との間で各種信号の送受信を実行するインタフェース部44と、関心領域に由来する一群のNMR信号からなるデータを収集するデータ収集部46と、このNMR信号のデータに基づいて画像を形成する画像処理部48と、ネットワークとの間で通信を実行するためのネットワークインタフェース部50を備える。
【0427】
また、データ処理部32は、専用コンピュータである場合の他、各機能部を動作させる機能を実行する汎用コンピュータであって、記憶部36にインストールされたプログラムに基づいて、指定された演算やデータ処理や制御シーケンスの発生をさせるものである場合も含まれる。以下では、データ処理部32は、汎用コンピュータであるものとして説明する。
【0428】
静磁場発生コイル12は、Z軸周りに巻回される螺旋コイルに静磁場電源22から供給される電流を流して誘導磁場を発生させ、ボアにZ軸方向の静磁場を発生させるものである。このボアに形成される静磁場の均一性の高い領域に被検者2の関心領域を設定することになる。ここで、静磁場コイル12は、より詳しくは、たとえば、4個の空芯コイルから構成され、その組み合わせで内部に均一な磁界を作り、被検者2の体内の所定の原子核、より特定的には水素原子核のスピンに配向性を与える。
【0429】
傾斜磁場発生コイル14は、Xコイル、Yコイル及びZコイル(図示省略)から構成され、円筒形状を示す静磁場発生コイル12の内周面に設けられる。これらXコイル、Yコイル及びZコイルは、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を順番に切り替えながら、ボア内の均一磁場に対し傾斜磁場を重畳させ、静磁場に強度勾配を付与する。Zコイルは励起時に、磁界強度をZ方向に傾斜させて共鳴面を限定し、Yコイルは、Z方向の磁界印加の直後に短時間の傾斜を加えて検出信号にY座標に比例した位相変調を加え(位相エンコーディング)、Xコイルは、続いてデータ採取時に傾斜を加えて、検出信号にX座標に比例した周波数変調を与える(周波数エンコーディング)。
【0430】
この重畳される傾斜磁場の切り替えは、制御シーケンスに従って、Xコイル、Yコイル及びZコイルにそれぞれ異なるパルス信号が送信部24から出力されることにより実現される。これにより、NMR現象が発現する被検者2の位置を特定することができ、被検者2の画像を形成するのに必要な三次元座標上の位置情報が与えられる。ここで、上述のように、3組の直交する傾斜磁場を用いて、それぞれにスライス方向、位相エンコード方向、および周波数エンコード方向を割り当ててその組み合わせにより様々な角度から撮影を行える。たとえば、X線CT装置で撮像されるものと同じ方向のトランスバーススライスに加えて、それと直交するサジタルスライスやコロナルスライス、更には面と垂直な方向が3組の直交する傾斜磁場の軸と平行でないオブリークスライス等について撮像することができる。
【0431】
RF照射部16は、制御シーケンスに従って信号送信部33から送信される高周波信号に基づいて、被検者2の関心領域にRF(Radio Frequency)パルスを照射するものである。
【0432】
なお、RF照射部16は、
図1において、磁場印加機構11に内蔵されているが、寝台18に設けられたり、あるいは、受信コイル20と一体化されていてもよい。
受信コイル20は、被検者2からの応答波(NMR信号)を検出するものであって、このNMR信号を高感度で検出するために、被検者2に近接して配置されている。ここで、受信コイル20には、NMR信号の電磁波がそのコイル素線を切ると電磁誘導に基づき微弱電流が生じる。この微弱電流は、信号受信部28において増幅され、さらにアナログ信号からデジタル信号に変換されデータ処理部32に送られる。
【0433】
すなわち、静磁界にZ軸傾斜磁界を加えた状態にある被検者2に、共鳴周波数の高周波電磁界を、RF照射部16を通じて印加すると、磁界の強さが共鳴条件になっている部分の所定の原子核、たとえば、水素原子核が、選択的に励起されて共鳴し始める。共鳴条件に合致した部分(たとえば、被検者2の所定の厚さの断層)にある所定の原子核が励起され、スピンがいっせいに回転する。励起パルスを止めると、受信コイル20には、今度は、回転しているスピンが放射する電磁波が信号を誘起し、しばらくの間、この信号が検出される。この信号によって、被検者2の体内の所定の原子を含んだ組織を観察する。そして、信号の発信位置を知るために、XとYの傾斜磁界を加えて信号を検知する、という構成になっている。
【0434】
画像処理部48は、記憶部36に構築されているデータに基づき、励起信号を繰り返し与えつつ検出信号を測定し、1回目のフーリエ変換計算により、共鳴の周波数をX座標に還元し、2回目のフーリエ変換でY座標を復元して画像を得て、表示部38に対応する画像を表示する。
たとえば、このようなMRIシステムにより、上述したBOLD信号をリアルタイムで撮像し、制御部42により、時系列に撮像される画像について、後に説明するような解析処理を行うことで、安静時機能結合的MRI(rs-fcMRI)の撮像を行うことが可能となる。
【0435】
図19は、fMRI測定データの分類及び層別化処理を行う機能ブロック図である。
まず、不揮発性記憶装置2080には、健常状態とうつ状態の個体(以下、「参加者」という)各々の脳内の複数の所定領域における脳活動を示す信号をMRI装置により時系列で予め測定した信号の情報である参加者fMRI測定データ3102と、MRI測定データを計測した各参加者に関連づけられた、複数の人属性情報3104とが格納されている。
【0436】
ここで、「人属性情報」とは、参加者個人を特定するための「人特性情報」と、各参加者に対する測定条件を特定するための「測定条件情報」とを含む。
「人特性情報」とは、参加者に対する疾患ラベル、年齢、性別、投薬履歴などの情報を意味する。
【0437】
「測定条件情報」とは、参加者を測定した測定サイト情報(測定した施設および/または測定した装置を特定する情報を含む)や、測定中に、開眼/閉眼のいずれで計測したか、測定磁場強度などの測定条件を特定する条件である。
演算装置2040は、参加者fMRI測定データ3102および対応する人属性情報3104とに基づいて、疾患ラベルに対する分類器を生成する処理を行う。
相関行列算出部3002は、参加者fMRI測定データ3102から複数の所定領域間の脳活動の機能的結合の相関行列を参加者ごとに算出する。算出された機能的結合の相関行列のデータは、参加者ごとに、不揮発性記憶装置2080に、機能結合の相関行列のデータ3106として格納される。
【0438】
第1特徴選択部3004は、複数の参加者から抽出されたK個(K:2以上の自然数)の異なる部分集合に対して、順次1つの部分集合を選択し、選択された部分集合を除く(K−1)個の部分集合に対して、複数の属性情報と相関行例の要素とに対するスパース正準相関分析により、複数の人属性情報のうちの特定の属性情報、たとえば、疾患ラベルのみに対応する正準変数と接続する相関行例の要素を抽出する。さらに、第1特徴選択部3004は、順次選択される部分集合にわたって、抽出された相関行例の要素の和集合である第1和集合を取得し、不揮発性記憶装置2080に、第1の機能結合和集合データ3108として格納する。なお、「第1の機能結合和集合データ」は、機能結合の相関行列のデータ3106のうち、第1の和集合に対応する要素を特定するためのインデックスであってもよい。
【0439】
第2特徴選択部3006は、複数の参加者のうち上記K個の部分集合を除く残りの参加者をテスト集合とし、テスト集合を異なるN個のグループに分けるとき、複数の参加者からN個のグループうちの選択された1つのグループを除く参加者の集合を対象として、第1和集合に基づいて、上記特定の属性情報(たとえば、疾患ラベル)を推定するためのテスト分類器をスパースロジスティック回帰により算出し、スパース化に伴いテスト分類器の説明変数となる相関行例の要素を抽出する。第2特徴選択部3006は、さらに、N個のグループうちから1つのグループを順次選択しつつ、特徴抽出を繰り返して、テスト分類器の説明変数として抽出された相関行例の要素の和集合である第2和集合を取得して、不揮発性記憶装置2080に、第2の機能結合和集合データ3110として格納する。なお、「第2の機能結合和集合データ」も、機能結合の相関行列のデータ3106のうち、第2の和集合に対応する要素を特定するためのインデックスであってもよい。N個グループの各々の要素の個数は1個であってもよい。
【0440】
分類器生成部3008は、第2和集合を説明変数として、特定の属性情報(たとえば、疾患ラベル)を推定するための第1の分類器をスパースロジスティック回帰により算出する。分類器生成部3008は、生成された第1の分類器を特定するための情報を、不揮発性記憶装置2080に、分類器データ3112として格納する。
判別処理部3010は、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して判別処理を行う。
【0441】
なお、上記の説明では、分類器生成部3008は、第2和集合を説明変数として、分類器を生成するものとして説明したが、たとえば、分類器生成部3008は、直接、第1和集合を説明変数として、第1の分類器を生成してもよい。ただし、後に説明するように、次元の低減や、汎化性能の観点からは、第2和集合を説明変数とすることが、望ましい。
なお、第1の分類器の生成にあたっては、正則化法(たとえば、L1正則化やL2正則化)を用いたロジスティック回帰である正則化ロジスティック回帰を用いることができ、より具体的には、たとえば、上述した「スパースロジスティック回帰」を使用することもできる。また、第1の分類器の生成には、サポートベクトルマシンや、LDA(Linear discriminant analysis)などを使用してもよい。以下では、スパースロジスティック回帰を例にとって説明することにする。
【0442】
後に説明するように、第2特徴選択部3006による特徴選択処理と並行して、N個のグループうちから除かれる1つのグループを順次選択しつつ、第2特徴量選択部3006により算出されたテスト分類器により、除かれたグループをテストサンプルとして判別結果を算出することにより交差検証を行ってもよい。このように説明変数の次元の縮小を、入れ子構造となった特徴選択手続きにより行うことにより、第2特徴選択部3006の行う処理において、ほとんどの参加者のデータを使用する一方、時間的に効率的な次元の数の縮小を実行できる。
【0443】
さらに、第2特徴選択部3006の処理におけるテスト集合を、次元の数を縮小するために使用されるデータセットとは、独立となるようにしておくことにより、極端に楽観的な結果が得られることを回避することができる。
得られたfMRI測定データは、層別化処理部3020に入り、分類器データ3112により特定される分類器に基づいて、入力データに対して層別化処理を行い、うつ病状態の層別化のための判別を行い結果が出力される。
【0444】
本システムは、ヒトを含む哺乳動物に適用できる。
fMRI測定の場合には、安静状態であることが望ましい。測定対象がヒトである場合には、安静を保つように被験者に伝え、その安静状態を確保してから計測する。他の哺乳動物の場合には、覚醒時の動物の保定に留意する、動物が安静化してから計測する。商業的にサル及びげっ歯類用に販売されている動物用保定器具と脳電極(たとえば、Animal Imaging Research , LLC, Holden, MA, USA)を利用することもできる。
【0445】
ヒトで同定された12種の機能的結合されたがげっ歯類等で再現されない場合には、うつ状態の動物にSSRI投薬前後のfMRI測定を行い、投薬前と投薬後の差のスペクトルから薬物の応答性を判定することができる。また、既存の抗うつ薬、鎮静剤や興奮剤等を動物に適量投与し、精神状態を反映する標準的なデータを蓄積して、動物における精神神経解析データベースを作成し、それを参考情報にして新たな抗うつ薬の化合物スクリーニングを行うこともできる。
【0446】
(実施例)
I.データ収集及び評価方法
1.データ収集対象
広島大学病院及び広島市内のクリニックで募集した105名の患者について、精神障害の
診断と統計マニュアル-IVの基準の大うつ病性障害(MDD)の患者を選別するために、M.I.N.I.(精神疾患簡易構造化面接法)を使用してスクリーニングした。現在及び過去に躁病症状、精神病症状、アルコール依存症又は乱用、薬物(substance)依存症又は乱用、反
社会性人格障害を除外基準とした。そして、最終的には、自己申告でうつ症状を伴う93名の患者をMDD分類器の訓練データセットとして選択した。患者は、投薬を開始する前に、
又は投薬開始から0〜2週間以内に後述する条件でfMRIデータを取得した。145人の健常
者は、地域から募集し、M.I.N.I.面接を行い、いかなる精神疾患の既往もない者を選択し
た。本実施例における実験は、広島大学の倫理委員会の承認を得て行った。また、実験を開始するに先立ち、全ての参加者に対して書面でインフォームドコンセントを行った。
【0447】
また、完全に独立した4つ施設からもうつ病コホートを収集した。
【0448】
前記MDDには、メランコリー型MDD、非メランコリー型MDD、治療抵抗型MDDの3つのサブ
タイプが含まれる。以下、実施例において、全てのMDD患者を含む群を全MDD群、メランコリー型MDD患者を含む群をメランコリー型MDD群、非メランコリー型うつ病患者を含む群を非メランコリー型MDD群、治療抵抗型MDD患者を含む群を治療抵抗型MDD群、健常者の群を
健常対照群とする。
【0449】
メランコリー型MDD分類器を生成するための訓練データセットは、Beck Depression Inventory(BDI)に基づいて、年齢及び性別が健常対照群と一致した、中程度のうつ病症状
を伴ううつ病の(M.I.N.I.に基づく)サブタイプとなるよう限定した。各グループに偏りがないようにするために、患者数及び健常者(年齢及び性別が患者と一致し、かつBDI-IIスコアが10未満である)数を等しくした(表2a)。知能指標値(IQ)を評価するためのJapanese Adult Reading Test(JART)の得点については、訓練データセットに3つの欠失
データ(メランコリー型MDD群に1つ、全MDD群及びメタンコリー型MDD群の両方に対する健常対照群うち2つ)と、テストデータセットの治療抵抗型MDD群に2つの欠失データがあった。BDIスコアでは、訓練データセットに、全MDD群のみに対する健常対照群に2つの欠失
データと抗うつ剤治療後のデータに1つの欠失データがあった。
【0450】
表2bには、本実施例で使用するテストデータの内訳を示す。
【0452】
2.独立外部バリデーションコホートに対する汎化
日本放射線医学研究所において独立した検証コホート(千葉のコホート)を作成した。参加者について、M.I.N.I.に基づいて精神疾患の生涯履歴を評価した。
【0453】
MDD患者には併存症の精神障害はなく、健常対照群には身体的、神経学的、精神医学的
障害はなく、現在または過去の薬物乱用の病歴はなかった。すべての参加者に対して実験前に書面によるインフォームドコンセントを実施した。今回の実験は、1964年ヘルシンキ宣言及びその後の改正に規定された倫理基準に従って、放射性医薬品安全委員会および放射線医学研究所の機関レビュー委員会によって承認された。
【0454】
3.うつ病及びうつ症状の評価
うつ病及びうつ病の症状を評価するためにBeck Depression Inventory(BDI)を使用した。さらに、治療効果の評価には、Hamilton Rating Scale for Depression(HAMD)も使用した。
【0455】
4.非メランコリー型MDD及び治療抵抗型MDD
非メランコリー型MDD群は、BDIスコア17以上のすべてのMDDを含む。治療抵抗型MDDは、MDDと診断された中で、抗うつ薬を2種類以上投与しても抑うつ症状が改善しない者である。
【0456】
5.他の精神疾患における分類器の評価
自閉症(ASD)患者および統合失調症(SSD)患者のfMRIデータは、Yahataらの文献(NATURE COMMUNICATIONS | 7:11254 | DOI: 10.1038/ncomms11254)に記載のデータを使用した。うつ病の合併症による影響を最小限に抑えるために、ASD群は、抗うつ薬が有効でな
かった者に限定した。fMRIデータは、MDD患者健常者と同様に、目を開いた安静状態で取
得した。
【0457】
6.fMRIデータの取得
fMRIデータの取得の際、被験者に、暗い照明のあるスキャンルームでは、特に何も考えず、眠らずに、モニター画面中央の十字マークを見続けてもらうように依頼した。各施設におけるfMRIデータ取得条件の詳細は表3に示す。
【0459】
8.fMRIイメージングデータの前処理及び領域間相関
すべてのfMRIデータは、Yahataらの以下の文献に記載されている同一の手法を用いて前処理した。
【0460】
文献:Noriaki Yahata, Jun Morimoto, Ryuichiro Hashimoto, Giuseppe Lisi, Kazuhisa Shibata,Yuki Kawakubo, Hitoshi Kuwabara, Miho Kuroda, Takashi Yamada, Fukuda Megumi, Hiroshi Imamizu, Jose´ E. Na´n
〜ez Sr, Hidehiko Takahashi, Yasumasa Okamoto, Kiyoto Kasai, Nobumasa Kato, Yuka Sasaki, Takeo Watanabe & Mitsuo Kawato,
“A small number of abnormal brain connections predicts adult autism spectrum disorder”, NATURE COMMUNICATIONS, DOI: 10.1038/ncomms11254
Matlab R2014a(Mathworks inc., USA)のSPM8(Wellcome Trust Center for Neuroimaging、University College London、UK)を用いてT1強調構造画像及び安静状態機能画像
を前処理した。機能イメージは、スライスタイミング補正および平均イメージへのアライメントで前処理された。次に、平均機能画像により同調した構造画像のセグメント化によって得られた正規化パラメータを用いて、fMRIデータを正規化し、2×2×2mm
3ボクセルで再サンプリングした。最後に、機能的画像を等方性6mm全幅半値ガウスカーネルで平滑化
した。これらの前処理ステップの後、時系列データのフレーム間の相対的な変化に基づいて、スクラビング手順を実行して余分な頭部運動を伴う任意のボリューム(すなわち、機能的画像)を除外した。(頭部運動の要約については表4参照)。
【0461】
各参加者について、Brainvisa Sulci Atlas(BSA; http:// brainvisa)に解剖学的に定義された大脳皮質全体を覆う137の関心領域(ROI)のそれぞれについて、fMRIデータを経時的に抽出した。本実施例において、施設1において、参加者の小脳の構造及び機能画像が含まれていなかったため、ROIには小脳は含まれていない。バンドパスフィルタ(0.008〜0.1Hz)をかけた後、以下の9つのパラメータ(再配列からの6つの頭部運動パラメー
タ、白質の時間的ゆらぎ、脳脊髄液の時間的ゆらぎ、脳全体のゆらぎ)を直線的に回帰した。
【0462】
各参加者の9,316機能結合(FC)それぞれの行列を得るため、137のROI間のペアワイズ
ピアソン相関を算出した。
【0464】
II.実施例1.メランコリー型MDD分類のための12対の機能結合の選択
メランコリー型MDDを分類するための12対の機能結合を選択するため、表1aに示す66名のメランコリー型MDD患者と66名の健常者のrs-fMRIのデータを使用した。メランコリー型MDD群を分類するための機能的結合の選択は、上述したYahataらの文献で報告した自閉症
(ASD)を分類する分類器の作成方法に順じて、実施の形態において説明した手順で行っ
た。
【0465】
このシステムは、L1正規化されたスパース正準相関分析(L1-SCCA)とスパースロジス
ティック回帰(SLR)を使用している。SLRは、MDD分類の目的には有用ではないが、客観
的に各機能結合を枝切りしながら、ロジスティック回帰モデルを訓練する能力がある。SLRで訓練する前に、L1-SCCAにより、入力量をある程度減らし、同時に致命的な過適応(過学習)を引き起こす可能性のある攪乱変数(NV:nuisance variable))の影響を減らし
た。本実施例において、施設、性別、年齢は確率変数に含められているため、これらのうち不要な要素をL1-SCCAにより排除した。この方法では、後述するような内ループと外ル
ープによる入れ子状の(nested)特徴選択とLOOCV(Leave-One-Out Cross Validation)の
逐次工程を使用して、情報リークや楽観的すぎる結果を回避した。SLRにより出力された
のは54対の機能結合であった(
図26)。さらに、LOOCVを行い、最終的に12対の機能結
合を選択した(表5及び
図26)。
【0466】
選択された12個の機能的結合FCは、はたして、外ループの手続きの全体にわたって、大きな重みで、頻繁に選択されたかものかどうかについて検討した。これは、最後に選択された12個の機能的結合FCの安定性およびロバスト性に関して重要である。
【0469】
でk番目のFC(k=1,2,…,9316)のための累積的な絶対的な重みを定義する。
【0470】
ここで、NがLOOCV回数(つまり被験者の数)であり、w
ikは、i番目のLOOCV
のk番目の機能的結合FCに関連した重みである。
【0471】
累積的な重みc
ikがより大きな値であることは、LOOCVの全体にわたって、MDDとHCへの分類に対してk番目の機能的結合FCが、より重要な貢献をすることを意味する。
【0473】
表2で、Lat.の“L”と“R”は、左脳と右脳の区別を示す。BSAは、ブロードマン領
野を示し、BAは、ブロードマンの領野の番号を示す。rControlは、健常者対照群に対する相関係数を示す。rMDDは、メランコリー型MDD群に対する相関係数を示す。Weightは、関
連重み付け和の重みを示す。
【0474】
図25に選択された12対の機能結合とその重みを示す。
【0475】
特に重みが大きかった2つの機能結合は、left dorsolateral prefrontal cortex (DLPFC, BA46) - left posterior cingulate cortex (PCC) / Precuneusと、left inferior frontal gyrus (IFG opecular, BA44) - right DLPFC (BA9) / frontal eye field (FEF, BA8) /supplementary motor area (SMA, BA6) であった。これらの機能結合は、MDDの反
復経頭蓋磁気刺激(rTMS)治療において標的とされるLeft DLPFC/IFGと重複していた。
【0476】
このようにして、メランコリー型MDD患者と健常者を分類するための回帰式、すなわち
分類器を作成した。さらに、各被験者がメランコリー型MDDか健常であるかを判断するた
めの指標として関連重み付け和(the associated weighted linear sum:WLS)を算出し
た。
【0477】
メランコリー型MDD群と健常対照群のWLSの分布を
図27aに示す。黒棒がメランコリー
型MDD群であり、白棒が健常対照群である。正確性は70 %であった(感度64 %, 特異度77 % AUC 0.77; 並べ替え検定においてp=.049:
図30a)。この結果は、選択された12対の
機能的結合から構成される分類器(以下、「本発明の第1の分類器」とする)は、メランコリー型MDDを健常者と識別できることを示している。
【0478】
また、千葉において集められたコホート(慶応大学病院にて収集した。11名のメランコリー型MDDと40名の健常者を含む)についても同様に上記方法で取得した分類器を使って
検討した。その結果を
図27bに示す。千葉から集めたコホートの正確性は65%(感度64 %,特異度65 %, 及びAUC 0.62; 並べ替え検定においてp=0.036(
図30b))であった。本発明の分類器は、訓練データからは独立したコホートについてもメランコリー型MDDと健
常者を分類可能であった。
【0479】
以上の結果から本発明の分類器は、メランコリー型MDDを分類可能であり、かつ汎化さ
れていると考えられた。
【0480】
III.実施例2.本発明の分類器の非メランコリー型MDD群及び全MDD群への適用
図27cには、全MDD群、メランコリー型MDD群、及び非メランコリー型MDD群の各群を訓練データ(縦方向)として本発明の分類器を作成し、それぞれの群をテストデータ(横方向)として正確性を検討したデータを示す。LOOCVを行った結果、たとえば、メランコリ
ー型MDD群で生成した分類器は、非メランコリー型MDDにおける正確性は、54%(感度42 %
、特異度67 %、AUC 0.65)であった。全MDD群については、LOOCVにおける正確性は66 % (感度58 %、特異度74 %、AUC 0.74)であった。
【0481】
この結果は、全MDD群を訓練データとする分類器は、メランコリー型MDD群を訓練データとした分類器やメランコリー型MDD群を訓練データとした分類器と比較して分類精度が悪
くなることを示している。そして、全MDD群が、より多様なMDDのサブタイプを含んでいると考えられた。
【0482】
図28d、e及び
図29f、g、hには、メランコリー型MDD群(d)、非メランコリー型MDD群(e)、治療抵抗型MDD群(f)、ASD群(g)、SSD群(h)の各被験者について求められたWLSの平滑化ヒストグラムとAUC値を示す。有意差は、Benjamini-Hochberg修正Kolmogorov-Smirnov
検定により算出した。各群のWLSデータは、健常対照群の中央値と標準偏差が一致するよ
うに標準化した。なお、この標準化は定量分析には適用されない。メランコリー型MDD群
−健常対照群(d)についてはAUC 0.77、p=1.5×10
-5であった。非メランコリー型MDD群−
健常対照群(e)では、AUC 0.65、p=.051であった。治療抵抗型MDD群−健常対照群(f)ではAUC 0.46、p=0.54であった。自閉症群−健常者対象群(g) では、AUC 0.51、p=0.74であっ
た。統合失調症群−健常者群(h)ではAUC 0.43、p=0.038であった。
【0483】
IV. 実施例3.WLSスコアを用いたうつ病の重症度の評価と治療効果の評価
WLSスコアがうつ病の重症度と相関するか否かを調べるため、BDスコアとWLSスコアの相関を検証した。
図31aに示すように、全MDD群と健常対照群を合わせた群についてBDIス
コアとWLSスコアの相関をとったところ、n=186 r = 0.655, 並び替え検定p = 0.001とな
り、両者は相関していることが示された。また、全MDD群のみをみても(
図31b)、n=93でr=0.188、並び替え検定p =0.046となり、比較的相関していた。
【0484】
次に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるエスシタロプラムの効果をWLSスコアで評価できるか検討した。エスシタロプラムを6〜8週間投与した、表1aに示す寛解した24名のメランコリー型MDD患者各々のWLSスコアの平滑化ヒストグラムを
図31cに
示す。抗うつ剤を投与するとWLSスコアの分布は健常対照群よりにシフトした。AUC 0.72
、Benjamini-Hochberg修正Kolmogorov-Smirnov検定p=0.008であった。
【0485】
ただし、この結果は、集団についての結果であり、WLSと個人の改善との関係を示すも
のではない。そこで、ΔWLS(具体的には WLS
post - WLS
pre)とΔBDI(具体的には BDI
post - BDI
pre)の関係、ΔWLSとΔHAMD (具体的にはHAMD
post - HAMD
pre)を検討した。有
意差は並び替え検定で求めた。
図31dに示すように、ΔBDIとΔWLSは有意に相関してい
た(r=0.373、p=0.040)が、ΔHAMDとΔWLSは相関していなかった(r=0.154、p=0.237)
。BDIとHAMDが乖離することは既に報告されている。
【0486】
実施例5:12対の機能的結合それぞれの治療前後での変化
次に12対の機能的結合それぞれに対するSSRI(エスシタロプラム)の影響について検討するため、個々の機能的結合についてΔWLSに対する寄与を検討した。
【0487】
具体的には、投与前後解析において、式:
【0489】
(式中、Nは治療を受け患者数を示す。w
iは、分類器の重みを示す。)
を用いて各機能的結合の寄与スコアを算出した。
【0490】
さらに、参考点を得るために、同様の寄与スコアをMDDと健常対照群の間でも式:
【0492】
(式中、MはMDDの数を示し、Nは健常対照の数を示す。)
によって寄与スコアを算出した。
【0493】
すなわち、s
iは分類器の重みで重み付けされた健常対照群とMDD群の平均結合強度の差
を示す。分類器において、MDDは陽性(正のスコア)を示し、健常者は陰性(負のスコア
)示すため、s
iは常に陰性(負のスコア)となる。また、式2において
は減数 (減算において負の符号)となる。c
iとs
iが大きな負の値をとることは治療後−治
療前健常者−MDDにおいてFC
iの寄与が大きいことを示す。言い換えると、c
iが負になることは 治療後のFC
iが健常者の対応するFCにより近づいたことを示す。これに対して、c
iが正になることは治療後のFC
iがMDDとなったことを示す。健常対照群とMDD群で人数が異な
るため、それぞれのFC
iについてのc
iとs
iの有意差は、ウェルチのt-検定で評価した。ウ
ェルチのt-検定は、下式:
【0494】
【数14】
(式中
は
のサンプルの分散を示し
と
の分散の合計として分散和の法則を使って算出される。同様に、
と
との分散和の合計として算出される。
と
はサンプルのサイズを示す。)にしたがって、算出した。
【0495】
各検定のp値は、Benjamini-Hochberg法によって複数の比較に批准させた。
図32aに示すように、FC1 (i.e. DLPFC-Precuneus/PCC)は、c
i及びs
iの差が最も大きく顕著であった。これは、抗うつ剤の投与後に FC1が健常対照群とは反対のMDD群の方に推移したことを
示す。
【0496】
メランコリー型MDD分類のための12対の機能的結合(表Cに記載のこの機能的結合識別番号を「FC♯」と標記することがある)の中で8つの機能的結合については、健常対照群の
方向へ向かって推移し、いわゆる「正常化」した。しかし、FC# 1、3、9、12の4対の機
能的結合については、健常対照群とは逆の方向に向かって推移した(
図32a)。この中
で、FC# 1(Left DLPFC - Left Precuneus / PCC FC)は、12対の中で最も寄与度が高い
機能的結合である。メランコリー型MDD群と健常対照群の分類においてFC#1の治療前後の
変化の有意差は、ペアワイズ比較でp=0.009であった(
図32a)。
【0497】
最も寄与度が高い、2つの主要な機能結合(FC#1, FC#2)に着目した結果、治療後に有意な差が観察されたのに対して(対応のあるt検定, p = .002)、治療前での差異は観察されなかった(p= 0.96)。二要因分散分析による検定では、FC#1・FC#2の機能結合と、治
療前後の時間の交互作用が有意であり(FC #number x time, F(1,23)=6.70, p =0.016)、
各主効果に関しては有意な差は見られなかった。しかし、治療後のFC# 1とFC#2との間でのペアワイズt-検定では、推移に有意差が認められた(p=0.002)。ここで、
図32、3
3の全ての図において、正方向への推移はメランコリー型MDDの方向へ向かっていること
を示し、負方向への推移は健常者方向へ向かっていることを示す。これは、メランコリー型MDD分類器の重みの符号に、FCまたはFCの差を乗じているためである。上述のように、
エスシタロプラム治療後にFC# 1で正方向へ推移したため、完全に独立したコホートでも
同じ結果となるか検証した。千葉において収集された11名のメランコリー型MDDの患者(
セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)デュロキセチンを6〜8週間投与
)について検討した(
図32c)。治療前には有意差がなかった(n.s.、p = 0.77)のに
対して、治療後の対t-検定では、FC# 1とFC#2のトレンドレベルの差が認められた(p=0.10)。次に、健常対象者(19名)にSSRIを投与した際のFC# 1とFC#2の変化を観察した。パロキセチン投与の単回投与後にFC#1とFC#2との間に有意差が認められた(p=0.033 )。治療前には差はなく(p = 0.18)、有意な関連は認められなかった(
図32d)。
【0498】
さらに、広島コホート内の、臨床医によって治療効果を判定された患者について、非寛解患者(n=7)と寛解患者(n=7)に分け、抗うつ治療の効果を調べた。その結果、この結果、寛解・非寛解の群間 x FC#1・FC#2の機能結合間 x 治療前後の時間に有意な交互作用が見られ (Fig. 33e, F(1,22) = 8.86, p=.007)、FC#1とFC#2における治療反応のパ
ターンに差があることが示された。具体的には、FC#2の値は、寛解群においてのみ、抗うつ剤の治療後に減少し(p=0.001)、これらの値には有意差が認められた(p=.019)。さらに
、非寛解群では、治療前には差がないにも関わらず、抗うつ剤治療後にFC#1とFC#2に有意差が認められた(p=0.033)。
【0499】
寛解群と非寛解群でFC#1とFC#2がどのように変化するかを検討するため、24名の患者についてFC#1の変化とFC#2の変化を2次元プロットに表した(
図33f)。
【0500】
FC#1及びFC#2は、下式によりもとめた。
【0502】
FC1
postは、FC1の投与後を示し、FC1
preは、FC1の投与前を示し、 FC2
postは、FC2の
投与後を示し、FC2
preは、FC2の投与前を示し、signは各機能結合の重みの符号を示す。
この式の精度は、Accuracy:0.75, AUC:0.79, Specificity:0.88, Sensitivity:0.43であ
った。
【0503】
その結果、FC#1の変化とFC#2の変化は、寛解に寄与しているように見える。一方で、
FC#1の変化とFC#2の変化との間には、有意差や相関は認められなかった(p=0.57)。