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特開2019-63732有価金属回収のための金属捕集材、その製造方法及び有価金属回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-63732(P2019-63732A)
(43)【公開日】2019年4月25日
(54)【発明の名称】有価金属回収のための金属捕集材、その製造方法及び有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/46 20060101AFI20190329BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20190329BHJP
【FI】
   C02F1/46 Z
   C22B3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-191987(P2017-191987)
(22)【出願日】2017年9月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健一
【テーマコード(参考)】
4D061
4K001
【Fターム(参考)】
4D061DA01
4D061DB18
4D061DC22
4D061DC23
4D061DC29
4D061EA01
4D061EB27
4D061EB28
4D061EB31
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA30
4K001AA41
4K001BA24
4K001DB17
(57)【要約】
【課題】海底熱水鉱床などの有価金属を多く含む水中から有価金属元素を容易に、かつ低コストで資源として回収し、利用することができる金属捕集材を提供する。
【解決手段】金属捕集材は、金属粒子1が、固体炭素質2の前駆体とともに造粒・焼結されて、金属粒子1と固体炭素質2とが一体化されている。金属捕集材100重量部に含まれる金属粒子1は、5〜90重量部の範囲内であり、金属粒子1を形成する金属としては、例えばアルミニウム、鉄、銅より選択されることが好ましい。固体炭素質2は、固体であって、金属と接触して水中で局部電池を形成可能な導電性炭素であればよく、固体炭素質2の前駆体は、非酸化性雰囲気下における600℃以上の焼成で炭素化する物質であればよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素よりも電位が低い金属からなる金属粒子と、炭素質物とを含有する焼結体である金属捕集材であって、
前記金属捕集材100重量部あたりの金属含有量が5〜90重量部の範囲内であり、
前記金属粒子よりも電位の高い有価金属元素が溶解している水中から、局部電池作用により前記焼結体の表面に前記有価金属元素を金属体として析出させて回収することを特徴とする金属捕集材。
【請求項2】
前記金属粒子を構成する金属が、アルミニウム及び鉄から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1の金属捕集材。
【請求項3】
前記炭素質物が、石油系および石炭系の重質油から得られるピッチを前駆体とする炭素質物である請求項1または2に記載の金属捕集材。
【請求項4】
前記炭素質物が、黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスから選ばれる1種以上の粉砕物をさらに含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の金属捕集材。
【請求項5】
前記焼結体が、常磁性を有する物質をさらに含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の金属捕集材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の金属捕集材を製造する方法であって、
炭素よりも電位の低い金属からなる金属粒子と炭素質の前駆体とを混合し、造粒して造粒物を得る工程、
及び、
前記造粒物を600℃以上の温度により還元雰囲気下で焼結させて焼結体を得る工程、
を含むことを特徴とする金属捕集材の製造方法。
【請求項7】
水中の有価金属を回収する有価金属回収方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の金属捕集材を、熱水鉱床から噴出する熱水、温泉又は鉱泉水から選ばれる水に接触させることによって、当該水中に溶解している有価金属元素を金属体として捕集する工程を含むことを特徴とする有価金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、熱水鉱床の噴出水や温泉、鉱泉などに溶け込んでいる銅やコバルトなどの有価金属を金属体として高濃度で回収することを可能とする金属捕集材、その製造方法及び有価金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は資源小国として金属をはじめとする工業資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている。しかし、陸域の11倍の領海や排他的経済水域(EEZ)には、海底熱水鉱床やコバルトリッチ・マンガンクラストなどの鉱物資源が豊富に存在していることが知られている。
【0003】
コバルトリッチ・マンガンクラストは、深海底に見られるマンガン団塊と同様の成因と化学組成を持ち、海山や海台などの露岩地帯を被覆するように産出するものである。これは、海水中に溶けていたマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金、希土類元素、リンなどが、非常にゆっくりした速度(百万年に2〜7mm程度)で沈殿してできたものと考えられている。
【0004】
一方、海底熱水鉱床は、チムニーとも呼ばれる噴出口から海底面に噴出する火山性の高温(250〜300℃)の熱水により形成される。海底熱水鉱床は、鉄、亜鉛、銅、コバルト、鉛、金、銀などの有価金属を多量に含み、コバルトリッチ・マンガンクラストよりも形成速度が早いため、将来的に利用可能な資源として有望視されている。
【0005】
海底熱水鉱床からの資源採掘方法としては、例えば、化学反応やイオン交換樹脂、ゼオライトなどの吸着剤を使用する手法が検討されているものの、有価金属を捕集するための捕集材を海中に漂わせる必要があり、係留装置やその捕集装置が必要であり、コスト的にも問題が多いのが現状である。
【0006】
特許文献1には、排水等に含まれる有害物質を除去するために、水溶性コーティング剤でコーティングされた金属粒子、炭粒子及びバインダーを含有する水処理用炭−金属複合体が提案されている。この特許文献1に記載される排水処理材料を、有価金属の回収に転用することも考えられるが、特許文献1の材料は、重金属を水酸化アルミニウムと共沈させることにより排水中から除去するものであるため、生成した水酸化アルミニウムフロックを回収せねばならず、大きな困難を伴う。また、回収物を金属資源として利用するためには、脱水や分離、濃縮等のさまざまな後処理が必要であるため、コスト面でも不利な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−25160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、海底熱水鉱床などの有価金属を多く含む水中から有価金属元素を容易に、かつ低コストで資源として回収し、利用することができる金属捕集材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の金属捕集材は、炭素よりも電位が低い金属からなる金属粒子と、炭素質物とを含有する焼結体である金属捕集材であって、
前記金属捕集材100重量部あたりの金属含有量が5〜90重量部の範囲内であり、
前記金属粒子よりも電位の高い有価金属元素が溶解している水中から、局部電池作用により前記焼結体の表面に前記有価金属元素を金属体として析出させて回収するものである。
【0010】
本発明の金属捕集材は、前記金属粒子を構成する金属が、アルミニウム及び鉄から選ばれる1種以上であってもよい。
【0011】
本発明の金属捕集材は、前記炭素質物が、石油系および石炭系の重質油から得られるピッチを前駆体とする炭素質物であってもよい。
【0012】
本発明の金属捕集材は、前記炭素質物が、黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスから選ばれる1種以上の粉砕物をさらに含有するものであってもよい。
【0013】
本発明の金属捕集材は、前記焼結体が、常磁性を有する物質をさらに含有するものであってもよい。
【0014】
本発明の金属捕集材の製造方法は、上記いずれかの金属捕集材を製造する方法であって、
炭素よりも電位の低い金属からなる金属粒子と炭素質の前駆体とを混合し、造粒して造粒物を得る工程、
及び、
前記造粒物を600℃以上の温度により還元雰囲気下で焼結させて焼結体を得る工程、
を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の有価金属回収方法は、水中の有価金属を回収する方法であって、上記いずれかの金属捕集材を、熱水鉱床から噴出する熱水、温泉又は鉱泉水から選ばれる水に接触させることによって、当該水中に溶解している有価金属元素を金属体として捕集する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属捕集材は、炭素よりも電位の低い金属の粒子が炭素質物と複合化されているので、これを水に接触させることにより、局部電池作用によって、複合化した金属よりも電位の高い水中の有価金属(例えば、コバルト、亜鉛、銅、貴金属など)を金属捕集材の表面に金属体として析出させて、回収・資源化することができる。
従って、本発明の金属捕集材は炭素と金属からなる簡単で安価な材料でありながら、水中の有価金属を水酸化物の状態ではなく高濃度な金属体として低コストで回収することができ、資源としての利用も容易である。なお、本発明において、「電位」とは、例えば飽和硫酸銅電極や飽和塩化銀電極などを基準電極(参照電極)とした場合の炭素や各種金属と基準電極との電位差を示す腐食電位(自然電位)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施の形態に係る金属捕集材の外観構成を示す模式図である。
図2】本発明の第一の実施の形態に係る別の金属捕集材の外観構成を示す模式図である。
図3】本発明の第二の実施の形態に係る金属捕集材の外観構成を示す模式図である。
図4】本発明の第二の実施の形態に係る別の金属捕集材の外観構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の金属捕集材は、炭素よりも電位の低い金属粒子と炭素質物の焼結体である。金属捕集材は、金属粒子と炭素との接触部位で生じる局部電池効果を利用することにより、水中に溶解している亜鉛、コバルト、銅などの有価金属元素を金属捕集材の表面に金属体として析出させ、高濃度で回収するものである。このため、金属粒子が焼結されて炭素質物と一体化しており、局部電池を形成可能であれば、金属捕集材の形態は特に限定されるものではないが、好適な状態として下記の<形態1>、<形態2>の2種類を例示することができる。
【0019】
<形態1>
本発明の金属捕集材の第一の形態としては、図1又は図2に示す形態例を挙げることができる。
図1は、金属粒子1が、熱処理によって固体炭素質2となる前駆体とともに造粒・焼結されて、金属粒子1と固体炭素質2とが一体化された形態例を示すものである。
また、図2は、金属粒子1が、固体炭素質2の前駆体及び炭素骨材3とともに造粒・焼結されて、金属粒子1と固体炭素質2と炭素骨材3とが一体化された形態例を示すものである。
図1に示す形態例では、固体炭素質2が炭素質物に該当し、図2に示す形態例では、固体炭素質2及び炭素骨材3が炭素質物に該当する。
本形態の金属捕集材は、図1図2に示すように、金属粒子1と固体炭素質2が相互に結着してネットワークを形成することによって局部電池効果を発現するものであり、金属粒子1は材料全体に満遍なく存在する。
【0020】
<形態2>
本発明の金属捕集材の第二の形態としては、図3又は図4に示す形態例を挙げることができる。
図3は、金属粒子1が、固体炭素質2の前駆体とともに造粒・焼結されて、金属粒子1と塊状の固体炭素質2とが一体化されている形態例を示している。
また、図4は、金属粒子1が、固体炭素質2の前駆体及び炭素骨材3とともに造粒・焼結されて、金属粒子1と炭素骨材3の周囲にコーティングされた状態の固体炭素質2とともに一体化されたものである。図3及び図4に示す例では、固体炭素質2及び炭素骨材3が炭素質物に該当する。
【0021】
本形態の金属捕集材は、図3図4に示すように、金属粒子1が金属捕集材の表面に偏在しており、金属粒子1の表面の少なくとも一部が炭素質物から露出しているものである。なお、図4に示す形態例において、金属粒子1と炭素骨材3の接触は必須ではないものの、両者が接触していることが好ましい。
【0022】
(金属粒子)
金属捕集材100重量部に含まれる金属粒子1は、5〜90重量部の範囲内であり、好ましくは25〜90重量部の範囲内、より好ましくは50〜90重量部の範囲内である。金属粒子1の割合が5重量部未満であると水と接触する金属粒子1の面積が少なく、発生する金属イオンが少ないため、有価金属の回収効率が低下する。一方、金属粒子1の割合が90重量部を超えると炭素質物が少なすぎ、電池形成部位が少なくなって、発生する金属イオンが少なくなることから好ましくない。
【0023】
本発明の金属捕集材に使用される金属粒子1は、炭素よりも電位が低い金属からなるものであれば特に限定されず、捕集したい金属元素より電位の低いものを任意で使用することができる。ここで、電位とは飽和硫酸銅電極または飽和塩化銀電極を基準電極として測定される自然電位を指すが、目安として金属のイオン化傾向において銅以下の金属が好ましい。しかし、製造の際の安全性や水との反応性、環境への影響を考慮すると、金属粒子1を形成する金属としては、例えばアルミニウム、鉄、銅より選択されることが最も好ましい。金属粒子1の粒子形状は、特に限定されるものではなく、例えば球状でも不定形状であっても、あるいは繊維状であってもかまわない。金属粒子1の粒子径は、10μm〜5mmの範囲内が好ましく、100μm〜3mmの範囲内であることがより好ましい。
【0024】
金属粒子1は、単一の金属元素からなることが好ましいが、他の金属元素を含んでいてもかまわないし、例えば合金でもよく、また、後述するように焼結体とするために還元性雰囲気で焼成することから、原料の段階では酸化物などの化合物であってもかまわない。但し、金属原料として化合物を使用する場合は、硫酸塩や塩化物などは製造工程において腐食性ガスや有毒ガスが発生する危険性があるため、水酸化物や酸化物の形のものを使用することが好ましい。特に、金属粒子1の酸化物は製鉄スケールや加工時に発生する粉体や切りくずなどを用いることができるため、金属捕集材における材料コストを低減させることが可能であり、好ましく使用できる材料の一つである。
【0025】
(固体炭素質及びその前駆体)
固体炭素質2は、固体であって、金属と接触して水中で局部電池を形成可能な導電性炭素であればその由来は問わない。金属粒子1とともに焼結される固体炭素質2の前駆体は、非酸化性雰囲気下における600℃以上の焼成で炭素化する物質であれば制限はない。固体炭素質2の前駆体としては、例えば、でんぷん糊や水あめ、リグニンなどの天然有機物やエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの有機合成樹脂なども使用することができるが、残炭率が50%以上と炭素収率が高く、かつ導電性の高い炭素となる石油系または石炭系より得られる重質油から製造されるピッチが前駆体として好ましい。特に軟化点が70℃以上のピッチは、粉末として使用することができるため、金属粒子1と混合して加熱することで造粒がしやすく、焼結後に固体炭素質2となる量も多いので前駆体として好ましい材料である。
【0026】
(炭素骨材)
本発明の金属捕集材は、表面積や見かけ比重の調整、局部電池効果の向上などを目的に、さらに任意で炭素骨材3を添加することも可能である。炭素骨材3としては、例えば、黒鉛やニードルコークス、ピッチコークスの粉砕物を用いることが好ましい。
【0027】
炭素骨材3を使用した金属捕集材は、例えば金属粒子1と炭素骨材3である黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの粉砕物を固体炭素質2の前駆体であるピッチと混合して造粒した後、焼結させたものであったり、炭素骨材3である黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの表面に、金属粒子1が固体炭素質2とともに焼結したものなどがあげられる。
【0028】
炭素骨材3として、黒鉛、ニードルコークス、ピッチコークスなどの粉砕物を使用する場合、その粒子径は10μm〜10mmの範囲内が好ましく、50μm〜5mmの範囲内であることがより好ましい。また、固体炭素質2の前駆体との配合比については、粉砕物100重量部に対して固体炭素質2の前駆体を3〜50重量部の範囲内が好ましく、5〜25重量部の範囲内がより好ましい。
【0029】
(任意成分)
さらに、本発明の金属捕集材は、その性能を妨げない範囲内で、見かけ比重の調整や副次効果を与えるために各種添加物を配合することもできる。添加物としては、例えば、シリカやアルミナ、煉瓦などのセラミックス類のほか、マグネタイトなどの磁性を示す物質の塊状物が例示されるが、磁性体の配合は有価金属を捕集した金属捕集材の磁気による回収を可能とすることから好ましいものである。
【0030】
(見かけ比重)
また、金属捕集材の見かけ比重は、例えば1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。見かけ比重が1.1以上であれば、海流などの流れによる影響を受けにくくなり、所望の位置に金属捕集材を撒布・設置することが容易になるとともに、回収時までに広範囲に拡散しにくくなるため好ましい。
【0031】
<製造方法>
本実施の形態の金属捕集材は、炭素よりも電位の低い金属からなる金属粒子1が炭素と焼結されて一体化しており、局部電池を形成することができるのであれば、製造方法は特に限定されるものではない。
【0032】
金属捕集材の好ましい製造方法は、以下の工程A〜工程Cを含むものである。
工程A:
金属粒子1と固体炭素質2の前駆体、必要に応じて炭素骨材3(さらに、必要に応じて水や有機溶剤、結着助剤を含んでもよい)を混合する工程。
工程B:
混合物中の金属粒子1と固体炭素質2の前駆体とを付着・造粒させて複合化する工程。
工程C:
工程Bで得た複合体を不活性または還元雰囲気において600℃以上の温度で焼成して焼結体とし、金属捕集材を得る工程。
【0033】
なお、工程Aにおいて、各原料の配合順序は、特に限定されず、金属粒子1と結着助剤などとの混合物をまず作成してから固体炭素質2の前駆体を配合してもよいし、すべての原料を一度に配合してもよい。他の添加物を配合する場合もまた同様である。
【0034】
配合方法については、各種ブレンダーやミキサーなど一般的な混合機を使用することができる。
【0035】
また、工程Bで混合物を造粒する装置は、たとえば、ブリケットマシン、打錠機、押し出し機などのプレス成型機やパンペレタイザーなどを用いることが好ましい。
なお、混合物の造粒は造粒助剤の使用により常温でも行うことができるが、加熱されていることが好ましい。混合物を加熱して固体炭素質2の前駆体を軟化させて金属粒子1との複合体を形成させるためには、固体炭素質2の前駆体の軟化点または融点以上の温度を確保しておく必要がある。具体的には、工程Bで固体炭素質2の前駆体を、70℃〜300℃の範囲内の温度、好ましくは固体炭素質2の前駆体の軟化点または融点よりも30〜150℃の範囲内で高い温度に加熱することが好ましい。たとえば、固体炭素質2の前駆体が、軟化点が90℃のバインダーピッチの場合には、混合物を100℃に加熱したり、骨材の表面を200℃くらいに加熱しておくと接着性が高くなる。加熱温度が低すぎると、固体炭素質2の前駆体が軟化または溶融せず、接着性が低く、金属粒子1が欠落しやすい。加熱温度が高すぎると、固体炭素質2の前駆体がダマになってしまい、複合体の組成に大きなムラができてしまい好ましくない。
【0036】
工程Bにおいては、生産性や作業性を向上させるために水や有機溶剤、造粒助剤を使用することもできる。造粒助剤はその粘着性により金属粒子1と固体炭素質2の前駆体の複合化を促進するものであって、常温で粘調であり、焼成時には600℃でほぼ完全に分解もしくは炭化する物質が好ましい。例えば、ゼラチンやデンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが造粒助剤として好適であり、固体炭素質2の前駆体との重量配合比(固体炭素質2の前駆体:造粒助剤)が、99:1〜30:70の範囲となるように配合されて使用されることが好ましい。造粒助剤と固体炭素質2の前駆体を前記範囲内となるようにその配合比を調整することによって、金属粒子1と固体炭素質2の前駆体との焼結性や金属捕集材としての性能に悪影響を及ぼすことなく、金属捕集材の容易な製造を可能とすることができる。
【0037】
工程Bで作成された複合体は、工程Aで水や有機溶剤を使用した場合は60℃以上で乾燥した後、工程Cで不活性又は還元雰囲気下において焼成される。なお、還元雰囲気とは窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下、または低酸素雰囲気のような非酸化性雰囲気であってもよい。焼成には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、連続式又はバッチ式のどちらであってもよい。焼成温度は固体炭素質2の前駆体が炭化する温度であれば特に制限はないが、少なくとも600℃以上であり、炭素と焼結させる金属粒子1の沸点以下であることが好ましい。特に有機バインダーとしてバインダーピッチを使用する場合は、ベンゾピレンなどの芳香族化合物が残留することが無いようにするため、焼成温度は700℃以上であることが好ましく、900℃以上がより好ましく、1000℃以上であることが更に好ましい。600℃以上の還元雰囲気下で焼成は固体炭素質2の前駆体を確実に炭化させることができるほか、金属粒子1表面に存在する酸化膜の還元も行うことができる。このため、焼成により得られた本発明の金属捕集材は、BODの増加や有害な化学物質および重金属の溶出などの環境負荷がなく、局部電池効果によって金属粒子1がイオン化して溶出する際の電子を利用して、水中に含まれる金属粒子1よりも電位が高い有価金属イオンを金属体として金属捕集材の表面に析出させることができる。
【0038】
本発明の金属捕集材は、回収対象の有価金属が溶解している水であれば、例えば、工業廃水、鉱山廃水、温泉水、鉱泉水、海底熱水鉱床からの噴出水など幅広く適用することができる。これらのなかでも温泉水、鉱泉水、海底熱水鉱床の噴出水は有価金属を高濃度で含むので好ましく、特に海底熱水鉱床の噴出水は豊富に存在することから有価金属の回収対象として好ましい。
設置に関しては、例えば海底熱水鉱床の熱水噴出孔の近傍、温泉や鉱泉の湧出孔近辺やその流路にそのまま撒布したり、例えば網やカゴなどの保持部材に金属捕集材を収納したものを浸漬するなどして配置してもよい。
【0039】
本発明の金属捕集材は、水中に溶解している有価金属イオンを、局部電池効果によるイオン交換によって、金属捕集材の表面に金属体として析出させるものである。このため、水酸化物とともに共沈させたり、水酸化物のフロックに捕集するものではないため、有価金属の回収は撒布や設置した金属捕集材を回収するだけでよく、回収後の脱水や濃縮作業も簡便となり全体的な回収コストを抑制することができる。
【0040】
さらに、本発明の金属捕集材は、造粒や成型に際して炭素を利用していることから、水中でも長期間安定であり、セメントなどの非導電性の物質は含まれていないため、金属捕集材からの有価金属回収効率も良好である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0042】
<見かけ比重>
電子比重計(EW−300SG、アズワン)を用いてアルキメデス法により測定した。
【0043】
<有価金属回収量>
有価金属イオンを含有する液体(30ml)に金属捕集材を一定期間浸漬させたあと、液体中の有価金属の濃度を測定する。また、一定期間浸漬した後に金属捕集材を取り出し、105℃で1昼夜乾燥する。それを粉砕後、付着回収した有価金属を硝酸に溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)で分析して、有価金属の回収量を求めた。
【0044】
<原材料>
金属粉
・鉄粉(竹内工業株式会社製 鋳鉄粉 28メッシュアンダー品 炭素:2〜4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5〜1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)
・アルミウム粉(関東化学株式会社製 粒子径:45μm)
固体炭素質の前駆体
・コールタールピッチ(新日鉄住金化学株式会社製 軟化点:85℃、固定炭素分:58重量%、50メッシュアンダー)
炭素骨材
・ピッチコークス粉(新日鉄住金化学株式会社製 200メッシュアンダー、50〜200メッシュ、6〜9メッシュ)
・ピッチコークス塊(新日鉄住金化学株式会社製 2〜5g)
造粒助剤
・でんぷん(沼田製粉株式会社 ライバインダー 主成分:でんぷん 約80% 嵩比重 約0.5)
【0045】
<金属捕集材(形態1)の作製>
所定量の原料(金属粉、固体炭素質の前駆体、炭素骨材、造粒助剤)を混合攪拌機で混合・混練した後、混合物をハンドプレスを使用して、10MPaの条件で、直径20mm、厚み2〜6mmの円盤状の造粒物を作製した。
作製した造粒物は、コークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉を用いて100℃/時間で昇温し、900℃で2時間焼成し、50℃以下になるまで炉内で自然放冷して焼結体を取り出した。
【0046】
<金属捕集材(形態2)の作製>
所定量の原料(金属粉、固体炭素質の前駆体)を混合攪拌機で混合した後、混合物をパンペレタイザー(型式1237−S−3 株式会社吉田製作所)に投入した。また、予め空気雰囲気下において高温炉230℃で2時間熱処理した炭素骨材(ピッチコークス塊 大きさ1〜5cm)を混合物が投入されたパンペレタイザーに30rpmで回転させながら投入して、3分間回転して炭素骨材表面に金属粒子が付着した複合体を作製した。
作製した複合体は、コークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉を用いて100℃/時間で昇温し、900℃で2時間焼成し、50℃以下になるまで炉内で自然放冷して焼結体を取り出した。
【0047】
[実施例1〜3]
金属粉としてアルミニウム粉、固体炭素質の前駆体としてのコールタールピッチ、炭素骨材としてのピッチコークス粉に造粒助剤としてでんぷん水溶液を使用して、形態1の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材を、亜鉛、コバルト、銅をそれぞれ溶解した水溶液30mlをいれたサンプル瓶に浸漬し、常温常圧下で7日間放置した後、亜鉛、コバルト、銅の濃度を測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0048】
[実施例4]
実施例1〜3と同様の原料を使用して、表1の実施例4に記載される形態2の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材は、銅を溶解した水溶液30mlをいれたサンプル瓶に金属捕集材を浸漬し、常温常圧下で7日間放置した後、銅の濃度を測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0049】
[実施例5、6]
金属粉に鉄粉を使用した以外は実施例1〜3と同様にして、表1の実施例5〜6に記載される形態1の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材は、亜鉛、コバルト、銅をそれぞれ溶解した水溶液30mlをいれたサンプル瓶に金属捕集材を浸漬し、常温常圧下で7日間放置した後、亜鉛、コバルト、銅の濃度を測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0050】
[実施例7]
実施例5、6と同様の原料を使用して、表1の実施例7に記載される形態2の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材は、銅を溶解した水溶液30mlをいれたサンプル瓶に金属捕集材を浸漬し、常温常圧下で7日間放置した後、銅の濃度を測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0051】
[実施例8]
実施例5、6と同様の原料を使用して、表1の実施例8に記載される形態1の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材は、コバルトと銅を溶解した水溶液30mlを入れたサンプル瓶に金属捕集材を浸漬し、常温常圧かで7日間放置した後、コバルトと銅の濃度をそれぞれ測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0052】
[実施例9]
金属粉として鉄粉とアルミニウム粉を1:1の重量比で配合物を使用したこと以外は実施例8と同様にして形態1の金属捕集材を作製した。
作製した金属捕集材は、銅を溶解した水溶液30mlをいれたサンプル瓶に金属捕集材を浸漬し、常温常圧下で7日間放置後、銅の濃度を測定した。
表1に金属捕集材の金属含有量、炭素量、浸漬試験、見かけ比重及び有価金属回収量の結果について示す。
【0053】
[実施例10〜12、14〜16]
実施例5、6と同様にして作製した形態1の金属捕集材をコバルトおよび銅がそれぞれ溶解した水溶液に浸漬し、常温常圧下で7日間ごとにコバルトおよび銅が溶解した水溶液を全量交換しながら浸漬試験を4週間の間行った。
表2に金属捕集材の金属含有量、炭素量、見かけ比重及び4週間の浸漬試験の結果を示す。
【0054】
[実施例13、17]
実施例4と同様にして作製した形態2の金属捕集材をコバルトおよび銅が溶解した水溶液に浸漬し、常温常圧下で7日間ごとにコバルトおよび銅が溶解した水溶液を全量交換しながら浸漬試験を4週間の間行った。
表2に金属捕集材の金属含有量、炭素量、見かけ比重及び4週間の浸漬試験の結果を示す。
【0055】
[実施例18]
実施例5、6と同様にして作製した形態1の金属捕集材をコバルトと銅が溶解した水溶液に浸漬し、常温常圧下で7日間ごとにコバルトおよび銅が溶解した水溶液を全量交換しながら浸漬試験を4週間の間行った。
表2に金属捕集材の金属含有量、炭素量、見かけ比重及び4週間の浸漬試験の結果を示す。
【0056】
[実施例19]
実施例9と同様にして作製した形態1の金属捕集材を銅が溶解した水溶液に浸漬し、常温常圧下で7日間ごとに水溶液を全量交換しながら4週間放置した。
表2に金属捕集材の金属含有量、炭素量、見かけ比重及び4週間の浸漬試験の結果を示す。
【0057】
[比較例1〜6]
鉄粉または、アルミニウム粉1.00gを亜鉛、コバルト、銅をそれぞれ溶解した水溶液に浸漬し、常温常圧環境下において7日間放置した後、亜鉛、銅、コバルトの濃度を測定した。
また、7日間ごとに亜鉛、コバルト、銅が溶解した水溶液を全量交換しながら浸漬試験を4週間の間行った。
表3に金属含有量、炭素量、真比重及び4週間の浸漬試験の結果を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表1〜2に示すように、金属粒子と炭素の焼結体である実施例1〜19の金属捕集材は、金属粉単独である比較例1〜6(表3を参照)に比べて、局部電池作用によって金属捕集材に使用されている金属よりも電位の高い有価金属を、水中から高効率で捕集することができる。
また、有価金属を水酸化物の沈殿に含ませることによる捕集が主体ではなく、金属捕集材に表面に金属体として析出させるので回収が容易であり、浸漬期間を長くしてより大量の有価金属を析出させて回収することも可能である。
このように、本発明の金属捕集材は、例えば、海底熱水鉱床から噴出する熱水や温泉や鉱泉、鉱山廃水などから、低コストで有価金属を回収する場合に好適な材料であることが確認された。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【符号の説明】
【0063】
1…金属粒子
2…固体炭素質
3…炭素骨材


図1
図2
図3
図4