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特開2019-64893球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-64893(P2019-64893A)
(43)【公開日】2019年4月25日
(54)【発明の名称】球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20190329BHJP
【FI】
   C01B33/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-194580(P2017-194580)
(22)【出願日】2017年10月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】矢木 克昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦人
(72)【発明者】
【氏名】徳田 尚三
(72)【発明者】
【氏名】阿江 正徳
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA29
4G072AA30
4G072AA32
4G072AA35
4G072AA36
4G072BB05
4G072BB07
4G072DD02
4G072DD03
4G072GG02
4G072HH16
4G072JJ30
4G072MM36
4G072TT01
4G072TT19
4G072TT30
4G072UU01
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】従来よりも生産性が高く、製造コストは低く、且つ高熱膨張率のトリディマイトを多く含む、高流動性、高分散性、高充填性、低摩耗性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】結晶相が全体の90質量%以上であり、トリディマイト結晶が全体の50質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。また、粒子全体に対して、Naを酸化物換算で1〜10質量%含んでもよい。また、Alの含有量がAl2O3換算で50〜1000ppm含んでもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶相が全体の90質量%以上であり、トリディマイト結晶が全体の50質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
【請求項2】
粒子全体に対して、Naを酸化物換算で1〜10質量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項3】
粒子全体に対して、Alの含有量がAl2O3換算で50〜1000ppmであることを特徴とする、請求項2に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項4】
平均粒径(D50)が、1〜100μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項5】
平均円形度が、0.85以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項6】
非晶質の球状シリカ粒子に、非晶質の球状シリカ粒子の重量とNaの化合物の酸化物換算の重量の合計に対し酸化物換算で1〜10質量%のNaの化合物を混合し、
混合された球状シリカ粒子を800〜1200℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつトリディマイト結晶が全体の50質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項7】
Naの化合物と混合する非晶質の球状シリカ粒子のAlの含有量が、Al2O3換算で50〜1000ppmであることを特徴とする、請求項6に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項8】
球状結晶性シリカ粒子の平均粒径(D50)が、1〜100μmとなるように製造することを特徴とする、請求項6〜7のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項9】
球状結晶性シリカ粒子の平均円形度が、0.85以上となるように製造することを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法、特に球状トリディマイト結晶粒子およびその製造方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は樹脂用フィラーとして用いられており、例えば、半導体素子の封止材用のフィラーとして用いられている。シリカ粒子の形状について、角張った形状であると樹脂中での流動性、分散性、充填性が悪くなる。これらを改善するため、球状のシリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
一般的には、球状シリカの製法として溶射法が用いられている。溶射では、粒子を火炎などの高温領域中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。溶融球状化された粒子は、粒子どうしが融着しないように気流搬送して回収されるが、溶射後の粒子は急冷される。溶融状態から急冷されるため、シリカは、ほとんど結晶を含有せず、非晶質(アモルファス)構造を有し、一般に石英ガラスと呼ばれるガラス状の粒子となる。
【0004】
球状シリカは非晶質であるため、その熱膨張率および熱伝導率が低い。これらの物性は、結晶構造を有さず非晶質(アモルファス)構造を有する、石英ガラスの熱膨張率と概ね同等と考えられ、熱膨張率は、0.5ppm/Kであり、熱伝導率は1.4W/mKである。
【0005】
一般に封止材などで用いられる球状シリカ粒子は、非晶質であることから、熱膨張率が低いため、樹脂と混合した際に混合物(樹脂組成物)の熱膨張率を下げる効果がある。これにより樹脂組成物の熱膨張率を半導体素子に近づけることができ、樹脂組成物を封止材などに用いた際に、樹脂の硬化過程などの加熱、冷却時に生じる変形を抑制することができる。しかしながら、半導体は、薄型化、小型化が進んでいることから、変形を抑制するためには従来より精密な熱膨張率の制御が必要となってきている。
例えば、封止材などで、より高強度な樹脂組成物を得るためには、樹脂に混合するシリカ粒子の量を多くすることが必要であるが、樹脂に混合する非晶質のシリカ粒子の量を多くした場合、樹脂組成物の熱膨張率はより低くなる。このため、半導体のチップや基板よりも熱膨張率が低くなり過ぎてしまい、樹脂の硬化過程などの加熱時や冷却過程で変形を起こしてしまう問題が発生する。
【0006】
このような半導体部品と樹脂組成物の熱膨張率の差による変形を抑制するためには、樹脂組成物の熱膨張率を精密に制御する必要がある。樹脂組成物の熱膨張率を制御する手法としては、低熱膨張の非晶質シリカ粒子と熱膨張の高い粒子を混合し、その配合比を変えることにより熱膨張率を所望の値に調整する方法が有用である。非晶質のシリカ粒子と混合して用いる高熱膨張の粒子としては、結晶性のセラミックス粒子を用いることができるが、特にクリストバライトやトリディマイトなどの結晶性シリカ粒子を用いることで、より高い効果を得ることができる。これは、クリストバライトやトリディマイトが封止材の硬化処理温度やハンダリフローの熱処理温度の付近で相転移が起こり、相転移に伴って起こる熱膨張が大きいため、他の材料よりも少量の添加で高い効果を得ることが可能であると考えられる。一方、結晶性シリカである石英は、非晶質シリカよりは熱膨張係数は大きいものの、相転移に伴う大きな熱膨張が起こる温度が573℃と半導体のプロセス温度よりかなり高温であるため、クリストバライトやトリディマイトに比べて、半導体部品等の変形を抑える効果が少ない。
【0007】
結晶性シリカ粒子を得るための手段としては、特許文献1でアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属を含有する有機金属化合物又は該有機金属化合物のゾルもしくはスラリーで非晶質シリカを表面処理した後、1,000〜1,600℃で加熱処理して、結晶化する方法が開示されている。
また、特許文献2では、ケイ砂と炭酸ナトリウムから水ガラスを製造する際に得られる濾過残渣をアルカリおよび酸により処理し、中和することで微細な結晶質シリカを製造する技術が開示されている。
また、特許文献3でケイ砂、ケイ石、溶融シリカ等をアルカリ金属、アルカリ土類金属化物と混合して焼成する方法が開示されている。
また、球状の結晶性シリカ粒子を得るための手段として、特許文献4および特許文献5で、シリカゾルを分散させた分散相液を、該分散相液と相溶性のない連続相液に、細孔を通過させて注入することによりエマルジョンを作製し、該エマルジョンから分散相を分離してケーキとし、分離することにより得られたケーキを、C a 、Y 、L a およびE u からなる群より選ばれる1 種以上の元素を含む結晶化剤の共存下に、8 0 0 ℃ 以上1 3 0 0 ℃ 以下の温度範囲で保持して焼成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−162849号公報
【特許文献2】特開平6−247709号公報
【特許文献3】特開2001−3034号公報
【特許文献4】特開2005−231973号公報
【特許文献5】特開2012−102016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体製品では、薄型化、高細密化が進んでおり、半導体の封止材などに用いられるフィラーとして、高強度な樹脂組成物とするために、高い充填率が得られ、微細な隙間を充填するためには、高い流動性を有する封止材が必要であることから、球状粒子は必要不可欠である。更に、封止材などの熱膨張率を精密に制御するためには、従来の熱膨張率が小さい非晶質の球状シリカ粒子に加えて、熱膨張率が大きい結晶質の球状シリカ粒子を混合して用いることが必要となる。結晶質の球状シリカの中でも、半導体プロセス温度で大きな熱膨張が起こるトリディマイトやクリストバライトの球状粒子は有効と考えられる。
トリディマイトは、α−トリディマイトからβ1−トリディマイトの相転移が117℃、β1−トリディマイトからβ2−トリディマイトの相転移が163℃と、2段階の相転移が起こる。また、クリストバライトはα−クリストバライトからβ-クリストバライトへの1段階の相転移が200〜275℃で起こる。これらの相転移は熱膨張を伴うが、クリストバライトは1段階の相転移で急激な熱膨張が起こるため、樹脂との界面の剥離などが起こりやすくなる。一方、トリディマイトは、2段階の相転移に伴って熱膨張が起こり、それぞれの相転移の際に生じる熱膨張は、クリストバライトの場合よりも小さく、比較的緩やかに起こる。このためトリディマイトの場合は、樹脂との界面での剥離等、急激な熱膨張に伴う問題が起こりにくく、更にクリストバライトより低温で熱膨張が起こるため、樹脂の硬化プロセスやハンダリフロープロセスの加熱、冷却過程での変形抑制のために、より大きな効果を得ることができる。そのため、トリディマイトの球状粒子は特に有用と考えられる。
【0010】
球状結晶性シリカを得る方法としては、非晶質の球状シリカを高温で熱処理して、結晶化する方法が開示されている。しかしながら、高温での熱処理をする際に、シリカ粒子どうしが融着したり、焼結したりすることにより結合してしまうという問題がある。このため、強固に結合した粒子の固まりを粉砕して粒子を得るため、破砕状(不定形)の粒子しか得ることができない。また、シリカゾルなどを原料として用いて、液相で球状の粒子を作製、焼成する方法が開示されているが、生産性が低く、製造コストが高いという問題がある。
【0011】
特許文献1に、非晶質シリカをアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属を含有する有機金属化合物又は該有機金属化合物のゾルもしくはスラリーで表面処理した後、1,000〜1,600℃で加熱処理して、結晶化する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、結晶相としてクリストバライトしか析出させることができず、トリディマイトを含む結晶質のシリカを得ることができない。
特許文献2は、ケイ砂と炭酸ナトリウムとから水ガラスを製造する際に得られるろ過残渣をアルカリおよび酸により順次処理し、中和することにより、微細な結晶質シリカを製造する方法を提案している。この方法では、X線回折でα―石英、クリストバライトおよびトリディマイトが同定されているが、その比率については明示されておらず、特にトリディマイトを多く含有するシリカ粒子を製造することはできないと考えられる。また、この方法は、ケイ素と炭酸ナトリウムの混合物を融解、固化させたガラス状物(カレット)を水に溶解させた濾過する際、珪藻土等のろ過助剤とともに得られる濾過残渣を用いるので、カレットの溶解で生じる析出物が微細な不定形乃至鱗片状の固形物となり、この方法により球状の粒子を得ることはできない。
特許文献3は、ケイ砂、ケイ石、溶融シリカ等をアルカリ金属、アルカリ土類金属と混合して焼成する方法を提案している。この方法では、溶融石英粉末を炭酸ソーダと混合し1200℃で4時間焼成することでトリディマイトの結晶相の比率が100%のものが得られているが、その焼成物を粉砕し、粉砕焼成物を400メッシュ篩通過させ、研磨材を得ている。このことから、焼成後の処理物は粉砕が必要な固まった状態であり、この技術は、研磨材に用いる粒子を得るためのもので、研磨特性の高い、つまり角張った形状のものを得ることを目的としており、焼成して得られた焼成物を粉砕して研磨材を得るものである。このため、この技術ではトリディマイトが高含有量の球状粒子を得ることはできない。
【0012】
特許文献4および5は、シリカゾル分散液を細孔に通して球状のエマルジョンにした上で、分散相を分離してケーキとし、これにCa、Y、LaおよびEuの1種以上を含む結晶化剤の共存下で、熱処理して結晶質のシリカを得る方法を提案している。この方法は、エマルジョンを分離、乾燥する工程が加わるために、生産性は低く、高価なシリカゾルを原料として用いるため製造コストも高くなる。また、この方法により得られる結晶質のシリカは、結晶相がα石英とクリストバライトとからなり、α石英の割合が24〜67%、クリストバライトの割合が76〜33%の球状粒子を得ることはできるが、トリディマイトを含有する球状粒子を得ることはできない。
【0013】
このように従来開示されている技術では、トリディマイト結晶を多く含む結晶質の球状シリカ粒子を得ることができなかった。トリディマイトは熱膨張率が高く且つ相転移の際に比較的緩やかに熱膨張するので、トリディマイト結晶を多く含む球状シリカ粒子を得ることができれば、非晶質シリカ粒子と併せて樹脂と混合して封止材等に用いた場合に、封止工程やリフロー工程等の半導体製造過程での半導体の変形を抑制する効果が得られる。また、トリディマイトは、結晶であることから非晶質シリカに比べて、熱伝導率が高いため、半導体チップで発生した熱を効率良く逃がす効果も期待できる。
【0014】
本発明は、高熱膨張率を有するトリディマイト結晶を多く含み、高流動性、高分散性、高充填性を備えるために球状の形状を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、「Na化合物を原料に所定割合添加して製造することで、結晶相が全体の90質量%以上であり、トリディマイト結晶が全体の50質量%以上である球状結晶性シリカ粒子」を製造することができることを見出し、これによって、従来よりも生産性が高く、製造コストが低く、且つ高熱膨張率のトリディマイトを多く含む、高熱伝導率、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子を実現できることを見出した。これによって発明を為すに至った。
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
結晶相が全体の90質量%以上であり、トリディマイト結晶が全体の50質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
[2]
粒子全体に対して、Naを酸化物換算で1〜10質量%含むことを特徴とする、[1]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[3]
粒子全体に対して、Alの含有量がAl2O3換算で50〜1000ppmであることを特徴とする、[2]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[4]
平均粒径(D50)が、1〜100μmであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[5]
平均円形度が、0.85以上であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[6]
非晶質の球状シリカ粒子に、非晶質の球状シリカ粒子の重量とNaの化合物の酸化物換算の重量の合計に対し酸化物換算で1〜10質量%のNaの化合物を混合し、
混合された球状シリカ粒子を800〜1200℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつトリディマイト結晶が全体の50質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[7]
Naの化合物と混合する非晶質の球状シリカ粒子のAlの含有量がAl2O3換算で50〜1000ppmであることを特徴とする、[6]に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[8]
球状結晶性シリカ粒子の平均粒径(D50)が、1〜100μmとなるように製造することを特徴とする、[6]〜[7]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[9]
球状結晶性シリカ粒子の平均円形度が、0.85以上となるように製造することを特徴とする、[6]〜[8]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高熱膨張率のトリディマイトを多く含み、高熱伝導率、高流動性、高分散性、高充填性のため球状の形状を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のシリカ粒子は、結晶相を90質量%以上含む。非晶質シリカの熱伝導率は1.4W/mKと低いため、非晶質のシリカを10質量%より多く含むとシリカ粒子の熱伝導率を低下させてしまう。また、結晶相はトリディマイト結晶が非晶質を含む粒子全体の50質量%以上である。トリディマイト結晶以外の結晶相としては、クリストバライトおよび石英を含んでも良い。いずれの結晶も、非晶質のシリカより高い熱膨張率を有する。粒子全体の90質量%以上が結晶相で、粒子全体の50質量%以上がトリディマイト結晶であれば目的とする高熱伝導率の球状シリカ粒子を得ることができる。また、クリストバライトや石英の含有量が50質量%より多くなると、トリディマイトがαトリディマイト→β1トリディマイト→β2トリディマイトへ相転移に伴う体積膨張による、高熱膨張化の十分な効果が得られなくなる。このため、トリディマイト結晶を全体の50質量%以上にして、クリストバライトや石英および非晶質の含有量を少なくすることが重要である。
結晶相と非晶質の含有量およびトリディマイト、クリストバライト、石英の含有量は、X線回折により定量分析することができる。X線回折による定量分析では、リートベルト法などの解析方法を用いることにより、標準試料を用いずに定量分析することが可能である。
【0019】
本発明のシリカ粒子は、酸化物換算でNaの化合物を1〜10質量%を含んでもよい。
特定の理論に拘束されるものではないが、Naは、熱処理の際に非晶質のシリカのネットワーク構造の内部に侵入し、結晶構造を安定化することが考えられる。トリディマイトは、いくつかの種類があるシリカの結晶の中でも密度が低く、これは結晶構造の内部に大きな空間を有するためである。シリカの状態図では、トリディマイトは、867〜1470℃で生成するとされているが、その温度域で熱処理して冷却してもトリディマイトの結晶を得ることは困難である。これは、トリディマイト結晶が結晶内部に大きな空隙を有するため、結晶構造が安定ではなく、熱処理ないしは冷却過程でクリストバライトなどの他の結晶に変化してしまうためと考えられる。
トリディマイト結晶中の空隙は、170pm程度のサイズであるが、このような大きな空隙部分を有する構造を安定化する方法としては、空隙部分に元素を導入することが有効と考えられる。非晶質のシリカのネットワーク構造内に入る元素としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属が考えられる。しかしながら、トリディマイト結晶の空隙が大きいため、構造を安定化させる元素も大きなイオン半径を有する元素が望ましい。特にNaは、イオン半径が116pmと大きいため、トリディマイトの結晶構造安定化する元素として非常に有効である。なお、同族のアルカリ金属であるLiはイオン半径が小さくトリディマイトの結晶構造を安定化する効果が十分に得られない。また、同族のアルカリ金属であるK、Rb、Cs、Frは、イオン半径が大きすぎてトリディマイトの結晶構造を安定化する効果が十分に得られない。
【0020】
Naの含有量は、1質量%以上であることが望ましい。Naの含有量が1質量%より少ない場合、トリディマイトの結晶構造を安定化させるのに十分ではないため、他の結晶が多く生成してしまい、目的とする高いトリディマイト含有量のシリカ粒子を得ることが困難である。また、Naの含有量は、10質量%以下であることが望ましい。Naの含有量が10質量%より多い場合、樹脂と混合して用いる場合に樹脂の硬化阻害を起こすことがあったり、配線等の金属の腐食の原因となったりすることがある。
【0021】
また、アルカリ金属は、シリカの融点を低下させる効果も知られており、例えばシリカガラスの融点降下剤としても利用されている。特にNaは、ソーダガラスに用いられるようにSiO2系のガラスを低融点化するために用いられている。このため、アルカリ金属の含有量が多くなると、シリカ粒子の融点が著しく低下し、非晶質のシリカ粒子の結晶化に必要な熱処理で、シリカ粒子どうしが融着または焼結により結合しやすくなる。粒子どうしの結合が進むと、球状の粒子が得られにくくなるため、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなくなる。
【0022】
また、Naを添加してトリディマイト粒子を得る場合、金属アルミニウム換算で50〜1000ppmのアルミニウムを含むことが望ましい。特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理の際に結晶核形成剤として作用し、アルカリ金属、特にNaとともに用いた場合にトリディマイト結晶を多く生成する効果を得ることができる。更にアルミニウムを含有することにより、結晶化が低温の熱処理で起こりやすくなるため、シリカ粒子どうしが融着または焼結を起こしにくい低い温度での熱処理でトリディマイト粒子を得ることができる、アルミニウムが金属アルミニウム換算で50ppmより少ない場合、結晶化を促進する効果を得ることができない。また、アルミニウムが金属アルミニウム換算で1000ppmより多くなると、クリストバライトが生成し易くなり、トリディマイト結晶の生成量が少なくなってしまう。このため、アルミニウムが金属アルミニウム換算で50〜1000ppmの範囲であることがより望ましい。
【0023】
本発明のシリカ粒子は、平均粒径(D50)が1〜100μmであってもよい。平均粒径が100μmを超えると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、粒径が粗くなりすぎてゲートづまりや金型摩耗を引き起こしやすくなることがあり、平均粒径が1μm未満では粒子が細かくなりすぎて多量に充填することができなくなることがある。なお、ここでの平均粒径は、例えばレーザー回折法による粒度分布測定等により求めることができる。
ここで言う平均粒径は、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法等の方法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0024】
上記の粒径範囲にするためには、原料の非晶質の球状シリカ粒子(結晶化する前の粒子)の粒径を調節することで可能である。これは、本発明のシリカ粒子の平均粒径は、結晶化のための加熱処理の前後で、ほとんど変化をしないためである。通常の非晶質のシリカ粒子は、結晶化に1300℃以上の高温が必要であるため、粒子が軟化し、融着または焼結により結合することがあるが、本発明のシリカ粒子は、800〜1200℃の比較的低温で結晶化し、融着または焼結により粒子どうしの結合を比較的抑えることが可能である。特に、粒子どうしの融着または焼結による結合は、粒子の表面積比が大きいほど、つまり粒径が小さいほど生じやすい。ただし、本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800〜1200℃)で結晶質になるため、平均粒径が1μmであっても、融着または焼結による結合をすることが十分に抑えられ、凝集しにくい。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高くすることができる。
【0025】
本発明のシリカ粒子は、球状である。球状にするための手段は特に制限されるものではなく、粉砕、研磨等の手段を用いてもよい。特に、球状の非晶質シリカ粒子を結晶化することにより、生産性が高く、低コストで球状の結晶質シリカ粒子を得ることができる。この場合、溶射法による球状非晶質シリカ粒子を用いることができる。溶射による非晶質の球状シリカ粒子では、溶射の原料に用いるシリカ粉末の粒径によって得られる球状シリカ粒子の粒径を変えられるため、これを結晶化することにより所望の粒径の球状の結晶質シリカ粒子を得ることができる。球状の結晶質シリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高く、また封止材作製用機器の摩耗も抑えることができる。
【0026】
本発明のシリカ粒子は、平均円形度が0.85以上であってもよく、好ましくは0.86以上であってもよい。円形度は、市販のフロー式粒子像分析装置により測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡写真から画像解析処理ソフトウェアを用いて次のように求めることができる。シリカ粒子のサンプルの写真を撮影し、シリカ粒子(二次元投影図)の面積、周囲長さを計測する。シリカ粒子が真円であると仮定し、計測された面積を有する真円の円周を計算する。円形度=円周/周囲長さの式により、円形度を求める。円形度=1のときが、真円である。つまり、円形度が1に近いほど、真円に近いとされる。平均円形度は、100個以上の粒子について測定した円形度の平均値として算出する。平均円形度が0.85未満であると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなく、また封止材作製用機器の摩耗が促進される場合がある。
円形度の上限は1.0であってもよいが、実際に円形度を1.0にするのは実質的に困難であり、実現しようとする場合、製造コスト、管理コストが高くなる。用途等に応じて、円形度の上限を0.98、好ましくは0.95にしてもよい。
【0027】
上記の平均円形度にするためには、非晶質の球状シリカ粒子(結晶化する前の粒子)の円形度を調節することで可能となる。溶射手段であれば、シリカ粉末を容易に円形度の高い粒子にすることができる。そして、本発明のシリカ粒子の平均円形度は、結晶化のための加熱処理の前後で、ほとんど低下しない。本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800〜1200℃)で結晶質にされており、この温度範囲では円形度がほとんど低下しないためである。つまり、通常の非晶質のシリカ粒子を結晶化する場合、1300℃以上の高温が必要となるため、粒子どうしが融着または焼結により結合することがあり、粒子どうしが結合すると円形度が低下する。しかしながら、本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800〜1200℃)で結晶質になるため、融着または焼結により結合することが十分に抑えられるために、平均円形度がほとんど低下しない。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高くすることができる。
【0028】
本発明の製造方法について、以下に詳細を説明する。本発明の球状結晶性シリカ粒子は、以下の工程を含む方法で製造することができる。すなわち、本発明の製造方法は、
非晶質の球状シリカ粒子を酸化物換算で1〜10質量%のNaの化合物と混合し、
混合された球状シリカ粒子を800〜1200℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含む。そして、この方法によって製造された球状結晶性シリカ粒子は、90質量%以上の結晶相を有し、かつトリディマイト結晶が全体の50質量%以上である。
球状シリカ粒子は、アルミナ等のシリカ粒子と反応しない容器に入れて熱処理を行うことが望ましい。熱処理は、例えば、電気炉、ガス炉などを用いて、所定の温度に加熱して行う。冷却は、冷却速度を制御しながら行うことが望ましい。
【0029】
原料である非晶質の球状シリカ粒子は溶射法などの方法により作製することができる。例えば溶射法では、粉砕して所望の粒径に調製したシリカ粉末を火炎中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。
【0030】
また、溶射前のシリカ粉末に酸化物換算で50〜1000ppmのアルミニウムを含むように、シリカ粉末を調製してもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理の際に結晶核形成剤として作用することが考えられる。溶射工程(溶融)を通じて、アルミニウムがシリカ粒子中に均一に分散する。アルミニウムは、続く熱処理工程の際に結晶核形成剤として作用することが考えられ、シリカ粒子中に均一に分散していることにより、均等且つ従来よりも低い温度と短い時間での結晶成長が実現される。
また、アルミニウムが酸化したアルミナはシリカ粒子の化学耐久性(耐酸性など)を高める効果も期待できる。アルミニウムの含有量が50ppm未満では、結晶化促進効果や化学耐久性向上効果が十分でないことがある。一方でアルミニウムまたはアルミナは、非晶質シリカを結晶化させる際にクリストバライトを生成しやすくする。そのため、アルミニウムの含有量が1000ppmを超えると、クリストバライトが優先的に生成し、トリディマイトが生成しにくくなる。
アルミニウムの含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP−MS)により測定することができる。
【0031】
溶融球状化された粒子どうしが融着しないように、溶射後の粒子は急冷処理してもよい。その場合、溶融状態から急冷されるため、球状シリカ粒子は、結晶構造を有さず、非晶質(アモルファス)構造を有している。球状シリカ粒子は溶射されているため、非多孔質であってもよい。非多孔質の球状シリカ粒子は、緻密であり、熱伝導率が高くなると期待される。
【0032】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均粒径(D50)が1〜100μmであってもよい。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1200℃程度であるため、球状シリカ粒子の粒径はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に粒径を調節することができる。このため、本発明の方法では、所望の平均粒径の球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
【0033】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均円形度が0.85以上であってもよい。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1200℃程度であるため、球状シリカ粒子の円形度はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に平均円形度の高い粒子を得ることができる。このため、本発明の方法では、所望する円形度の高い球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
【0034】
非晶質の球状シリカ粒子を酸化物換算で1〜10質量%のNaの化合物と混合したものを熱処理し、熱処理された球状シリカ粒子を冷却して、球状結晶性シリカ粒子を得ることができる。
【0035】
非晶質の球状シリカ粒子と混合するNaの化合物は、酸化物、炭酸化物、水酸化物、硝酸化物など、添加する際の形態は特に制限されない。非晶質の球状シリカ粒子と均一に混合されるものであれば、粉末や水溶液等の状態で添加することができる。
【0036】
非晶質の球状シリカ粒子とNaの化合物と混合したものの熱処理は、非晶質球状シリカの粒径や添加するNa化合物の添加量により、結晶化および球状の保持に好適な条件で行う。熱処理温度は例えば800〜1200℃の範囲で選択することができる。また、保持時間も例えば1〜48時間の範囲で実施することができる。また、昇温および冷却の速度は、例えば100〜300℃/時の範囲で実施することができる。
【0037】
熱処理した結晶性シリカ粒子が凝集している場合、ジェットミルなどの解砕方法を用いることにより、凝集をほどき、球状の結晶性シリカ粒子を得ることができる。
【0038】
冷却された球状結晶性シリカ粒子は、90質量%以上の結晶相を有する。また、トリディマイト結晶を全体の50質量%以上含有する。この結晶性シリカ粒子は、非晶質のシリカよりも、高い熱膨張率を有する。シリカ粒子を半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、半導体チップ等の変形を抑制するために熱膨張率の高い結晶性シリカは有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例1】
【0040】
平均粒径(D50)11.9μm、AlをAl2O3換算で147ppm含む非晶質シリカ粒子を炭酸ナトリウムと混合し、大気中で800〜1200℃まで昇温し、1〜48時間保持した後、常温まで冷却した。得られたシリカ粒子を表1に示す。
【0041】
円形度は、Sysmex社製フロー式粒子像解析装置「FPIA−3000」を用いて測定した。
【0042】
結晶化率は、X線回折により、非晶質のピークと結晶質のピークの積分面積を求め、その結晶質の面積の比率を結晶化率とした。つまり、結晶化率=結晶質のピークの積分面積/(非晶質のピークの積分面積+結晶質のピークの積分面積)として計算した。同様に、非晶質、クリストバライト、石英、トリディマイト、その他の結晶の比率を計算した。
原料および熱処理後の平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(CILAS社製CILAS920)を用いて測定した。尚、D50とは、メディアン径ともよばれ、積算重量%が50%となる粒径である。
原料および熱処理後の不純物含有量は、試料を酸で加熱分解して得られた試料水溶液を原子吸光法により測定した。
【0043】
本発明による実施例では、いずれも結晶化率は全体の90質量%以上であり、トリディマイトを全体の50質量%以上含む結晶性球状シリカ粒子が得られた。
また、本発明による実施例の粒子は、円形度が0.86〜0.95であり、平均粒径(D50)が12.6〜15.7μmの結晶質シリカ粒子が得られた。
一方、比較例6の700℃で48h熱処理したサンプルは、結晶化が不十分で非晶質が34.4%と多く残っていた。また、比較例7の1300℃で1h熱処理したサンプルは、粒子が固まった状態になっており、粒子状のものを得ることができなかった。
【0044】
【表1】
【実施例2】
【0045】
平均粒径(D50)31.8〜93.2μm、AlをAl2O3換算で194〜2013ppm含む非晶質シリカ粒子を炭酸ナトリウムと混合し、大気中で1000℃まで昇温し、6〜24時間保持した後、常温まで冷却した。得られたシリカ粒子を実施例1と同様の方法で評価した結果を表2に示す。
本発明による実施例では、非晶質は確認されず、いずれも結晶化率100質量%で、トリディマイトを全体の50質量%以上含む結晶性球状シリカ粒子が得られた。
また、本発明による実施例の粒子は、円形度が0.86〜0.91であり、平均粒径(D50)が35.4〜98.2μmの結晶質シリカ粒子が得られた。
一方、比較例12のNa量が本発明より少ない場合、球状の結晶性粒子は得られたものの、トリディマイトの含有量が4.2質量%のものしか得られなかった。比較例13のNa量が本発明より多い場合、トリディマイトの含有量は57.8質量%であったが、粒子が強固に結合し、塊状となってしまったため、解砕しても球状の粒子を得ることができなかった。また、比較例14のAlをAl2O3換算で2013ppm含む非晶質シリカを原料に用いた場合、本発明のものよりトリディマイトの含有量が低い結晶質シリカ粒子であった。
【0046】
【表2】