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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-65181(P2019-65181A)
(43)【公開日】2019年4月25日
(54)【発明の名称】ポリイミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20190329BHJP
【FI】
   C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-191995(P2017-191995)
(22)【出願日】2017年9月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】柿坂 康太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA05
4J043PA08
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA34
4J043SA05
4J043SB04
4J043TA12
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA081
4J043UA121
4J043UA432
4J043UB231
4J043VA022
4J043XA19
4J043XB09
4J043ZB01
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】原料としてダイマージアミン組成物を使用しながら、特性が良好なポリイミドを安定的に重合できる製造方法を提供する。
【解決手段】ダイマージアミン組成物として、(a)ダイマージアミン;(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く)について、(a)の含有量が96重量%以上であり、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントで、(b)及び(c)の合計が4%以下であるものを用いるポリイミドの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸無水物成分と、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を含有するジアミン成分と、を反応させてなるポリイミドの製造方法であって、
前記ダイマージアミン組成物は、下記成分(a)〜(c);
(a)ダイマージアミン;
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
について、
前記(a)成分の含有量が、前記ダイマージアミン組成物に対し、96重量%以上であり、
前記ダイマージアミン組成物のゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定におけるクロマトグラムの面積パーセントで、前記成分(b)及び(c)の合計が4%以下であることを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項2】
前記(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントが3%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項3】
前記成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上であり、前記テトラカルボン酸無水物成分及び前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)が0.97以上1.0未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
前記成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満であり、前記テトラカルボン酸無水物成分及び前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)が0.97以上1.1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドの重量平均分子量が40,000〜150,000の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイマージアミンを原料とするポリイミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
また、電子機器の高機能化の更なる進展により、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。高周波信号を伝送する際に、伝送経路における伝送損失が大きい場合、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じる。そのため、今後はFPCにおいても、伝送損失の低減が重要となる。高周波化に対応するFPCや接着剤が求められる。
【0004】
ところで、ポリイミドを主成分とする接着層に関する技術として、ダイマー酸(二量体脂肪酸)などの脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン化合物を原料とするポリイミドと、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物と、を反応させて得られる架橋ポリイミド樹脂を、カバーレイフィルムの接着剤層に適用することが提案されている(例えば、特許文献1)。また、このようなポリイミドとエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と架橋剤とを併用した樹脂組成物を、銅張積層板に適用することが提案されている(例えば、特許文献2)。しかし、特許文献1及び2では、原料に含まれるダイマー酸から誘導されるダイマージアミン以外の副生成物の影響については、何ら考慮されていない。
【0005】
ダイマー酸は、例えば大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸及びこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得られる二量体化脂肪酸であり、ダイマー酸から誘導される多塩基酸化合物は、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られることが知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−1730号公報
【特許文献2】特開2017−119361号公報
【特許文献3】特開2017−137375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリイミドを主成分とする樹脂の物性を制御する手段として、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸又はポリイミドの分子量を制御することは重要である。しかしながら、ダイマージアミンを原料として適用する場合、ダイマー酸から誘導されるダイマージアミン以外の副生成物を含む状態で使用されるため、ポリイミドの分子量を一定の範囲内に制御することは困難であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、原料としてダイマージアミンを使用しながら、特性が良好なポリイミドを安定的に重合できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ダイマージアミン組成物を原料とするポリイミドの製造において、ダイマージアミン以外のアミン化合物がポリイミドの分子量に影響を及ぼすことに着目し、これらのアミン化合物の量を制御することによって、ポリイミドを安定的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、テトラカルボン酸無水物成分と、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を含有するジアミン成分と、を反応させてなるポリイミドの製造方法である。
本発明のポリイミドの製造方法において、前記ダイマージアミン組成物は、下記成分(a)〜(c);
(a)ダイマージアミン;
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
について、
前記(a)成分の含有量が、前記ダイマージアミン組成物に対し、96重量%以上であり、
前記ダイマージアミン組成物のゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定におけるクロマトグラムの面積パーセントで、前記成分(b)及び(c)の合計が4%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明のポリイミドの製造方法は、前記(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントが3%以下であってもよい。
【0012】
本発明のポリイミドの製造方法は、前記成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上であってもよく、この場合、前記テトラカルボン酸無水物成分及び前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)が0.97以上1.0未満であってもよい。
【0013】
本発明のポリイミドの製造方法は、前記成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満であってもよく、この場合、前記テトラカルボン酸無水物成分及び前記ジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)が0.97以上1.1以下であってもよい。
【0014】
本発明のポリイミドの製造方法は、前記ポリイミドの重量平均分子量が40,000〜150,000の範囲内にあってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリイミドの製造方法は、ダイマージアミン組成物におけるダイマージアミン以外のアミン化合物の含有量を制御しているので、ダイマージアミン組成物を原料とするポリイミドの製造において、ロット毎のポリイミドの重量平均分子量のバラつきを抑制できる。その結果、特性が良好なポリイミドを安定的に製造することができ、品質の安定化と歩留まりの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリイミドの製造方法は、テトラカルボン酸無水物成分と、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を含有するジアミン成分と、を反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化するものである。
【0018】
[テトラカルボン酸無水物成分]
本発明の実施の形態に係るポリイミドに使用されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、2,2‐ビス〔4-(3,4‐ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、4,4’- (ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の酸二無水物が挙げられる。この中でも特に2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を使用する場合は、分子骨格に存在するケトン基と、後述する成分(b)又は(c)のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、本発明の効果を発現しやすい。
【0019】
[ダイマージアミン組成物]
本発明方法で使用するダイマージアミン組成物は、下記成分(a)を含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されているものである。
【0020】
(a)ダイマージアミン;
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(−COOH)が、1級のアミノメチル基(−CH−NH)又はアミノ基(−NH)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。
【0021】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0022】
(b)炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
炭素数10〜40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10〜20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21〜40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0023】
(b)成分のモノアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を抑制する成分である。ポリアミド酸又はポリイミドの重合時に、該モノアミン化合物の単官能のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応することで末端酸無水物基が封止され、ポリアミド酸又はポリイミドの分子量増加を抑制する。
【0024】
(c)炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
炭素数41〜80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41〜80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41〜80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0025】
(c)成分のアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を助長する成分である。トリマー酸を由来とするトリアミン体を主成分とする三官能以上のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応し、ポリイミドの分子量を急激に増加させる。また、炭素数41〜80のダイマー酸以外の重合脂肪酸から誘導されるアミン化合物も、ポリイミドの分子量を増加させ、ポリアミド酸又はポリイミドのゲル化の原因となる。
【0026】
上記ダイマージアミン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって各成分の定量を行うが、ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用する。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量する。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行う。
【0027】
また、ダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
【0028】
また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(b)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0029】
また、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0030】
また、成分(b)及び(c)のクロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.0未満とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0031】
また、成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.1以下とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0032】
ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜200,000の範囲内が好ましく、このような範囲内であれば、ポリイミドの重量平均分子量の制御が容易となる。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、ポリイミドの重量平均分子量は、40,000〜150,000の範囲内がより好ましい。ポリイミドの重量平均分子量が40,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0033】
本発明で用いるダイマージアミン組成物は、ダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。精製前のダイマージアミン組成物は、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0034】
ポリイミドに使用されるダイマージアミン以外のジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。それらの具体例としては、1,4−ジアミノベンゼン(p−PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0035】
ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜50重量%の範囲内、好ましくは10〜40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0036】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps〜100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0037】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0039】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200〜250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3〜7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V×C)−(V×C)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg−KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1Mエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0040】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0041】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHFで前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC−8220GPCを用いて、カラム:TSK−gel G2000HXL,G1000HXL,G1000HXL、 フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0042】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)〜(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0043】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。なお、b成分、c成分の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA1:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;97重量%、b成分:0.4%、c成分;2.1%、アミン価:206mg KOH/g)
DDA2:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074を蒸留精製したもの(a成分;96重量%、b成分:0%、c成分;3.6%、アミン価:210mg KOH/g)
DDA3:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074を蒸留精製したもの(a成分;96重量%、b成分:0%、c成分;3.9%、アミン価:210mg KOH/g)
DDA4:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074を蒸留精製したもの(a成分;96重量%、b成分:0%、c成分;3.7%、アミン価:208mg KOH/g)
DDA5:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;97重量%、b成分:2.8%、c成分;1.0%、アミン価:210mg KOH/g)
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
APB:1,3-ビス(3‐アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
1,3−BAC:1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
BisDA:4,4‘−[プロパン―2,2−ジイルビス(1,4−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製、商品名;BisDA−1000)
なお、上記DDA1〜DDA5の分子量は下記式(1)により算出した。
分子量=56.1×2×1000/アミン価・・・(1)
【0044】
[実施例1]
1000mlのセパラブルフラスコに、55.55gのBTDA(0.17203モル)、94.45gのDDA1(0.17342モル)、210gのNMP及び140gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4時間加熱、攪拌し、140gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;84,800)を調製した。
【0045】
[実施例2〜19]
表1に示す原料組成とした他は、実施例1と同様にしてポリイミド溶液2〜19を調製した。
【0046】
【表1】
【0047】
重量平均分子量が40,000〜150,000の範囲内のポリイミドの製造例を実施例1〜19に示した。
【0048】
実施例1、実施例4、実施例6及び実施例7〜9は、酸無水物/ジアミン比が0.992である。ここで、実施例1及び実施例7におけるポリイミドの重量平均分子量の比較によって、b成分がポリイミドの重量平均分子量の増加を抑制する成分であること、又はc成分がポリイミドの重量平均分子量の増加を助長する成分であることが示され、実施例4及び実施例6の比較により、c成分がポリイミドの重量分子量増加を助長する成分であることが示された。
【0049】
実施例7〜9の結果より、ポリイミドの重量平均分子量におけるロット間のバラつきが小さいことが確認された。また、実施例2、実施例3及び実施例5の結果より、酸無水物/ジアミン比を1.008にすることによって、ポリイミドの重量平均分子量を44,790〜48,450の範囲に抑制できることを確認した。また、実施例7、実施例10及び実施例11の結果から、b成分/c成分が1以上のとき、酸無水物/ジアミン比を0.992から0.980に減少させることによって、ポリイミドの重量平均分子量を67,820から108,880に増加させることができることを確認した。一方、実施例1、実施例2及び実施例12の結果から、b成分/c成分が1未満のとき、酸無水物/ジアミン比を0.992から1.020に増加させることによって、ポリイミドの重量平均分子量を84,800から40,520に減少させることができることを確認した。
【0050】
実施例13〜19は、ジアミン成分として、ダイマージアミン組成物以外のジアミンを併用した例を示す。実施例13〜15の結果から、APBのモル比の減少に伴い、ダイマージアミン組成物中のc成分の割合が増加し、ポリイミドの重量平均分子量も増加することが確認された。また、実施例13及び実施例18の結果から、酸無水物/ジアミン比を0.992から1.008にすることによって、ポリイミドの重量平均分子量を43,300に制御できることが確認された。実施例16及び実施例17の結果から、ダイマージアミン組成物以外のジアミン成分を変更しても同様に、ポリイミドの重量平均分子量を制御できることが確認された。また、実施例14及び実施例19の結果から、酸無水物/ジアミン比を変更しても同様に、ポリイミドの重量平均分子量を制御できることが確認された。
【0051】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。