【課題】 反りが抑制され、且つ、長手方向及び幅方向における熱膨張係数の異方性がないポリイミドフィルムと、これを用いた高い寸法安定精度を実現した金属張積層板及び回路基板を提供する。
【解決手段】 単層又は複数層のポリイミド層からなり、(a)厚みが3μm以上50μm以下の範囲内にある;(b)熱膨張係数が10ppm/K以下である;(c)23℃、湿度50%下で、20時間調湿後の50mm角のポリイミドフィルムの中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の平均値を平均反り量としたとき、平均反り量が10mm以下である;(d)長手(MD)方向の熱膨張係数(CTE−MD)と、幅(TD)方向の熱膨張係数(CTE−TD)との差が±3ppm/K以下である;を満たすポリイミドフィルム。
前記ポリイミド層が複数層であり、かつ、熱膨張係数が最も低い単層の第1のポリイミド層及び前記第1のポリイミド層の片側に積層されている単層若しくは複数層の第2のポリイミド層からなり、
前記第1のポリイミド層の熱膨張係数(CTE1)及び第2のポリイミド層の熱膨張係数(CTE2)が、下記の数式(1);
1ppm/K<(CTE2−CTE1)≦10ppm/K ・・・(1)
を満たす請求項1に記載のポリイミドフィルム。
(但し、CTE1は、前記第1のポリイミド層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値であり、CTE2は、前記第2のポリイミド層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値である。)
前記第2のポリイミド層の少なくとも1層が、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むポリイミドからなり、該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対し、前記一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を20モル%以上含有する請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
[ポリイミドフィルム]
本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムは、単層又は複数層のポリイミド層からなるポリイミドフィルムであり、下記の条件(a)〜(d)を満たすものである。
【0025】
(a)厚みが3〜50μmの範囲内にあること。
本実施の形態のポリイミドフィルムの厚みは、熱膨張係数を制御するために、3〜50μmの範囲内、好ましくは3〜30μmの範囲内、より好ましくは10〜28μmの範囲内、特に好ましくは15〜25μmの範囲内がよい。本実施の形態のポリイミドフィルムの厚みが、3μm未満であると、電気絶縁性の低下やハンドリング性の低下により製造工程の取扱いが困難となる場合があり、50μmを超えると面内複屈折率(Δn)の制御が困難となり、熱膨張係数の増加が生じる傾向になる。
【0026】
(b)熱膨張係数が10ppm/K以下であること。
本実施の形態のポリイミドフィルムの熱膨張係数は、寸法変化を低減する為、10ppm/K以下の範囲、好ましくは7ppm/K以下の範囲がよい。熱膨張係数が10ppm/Kを超えると、本発明のポリイミドフィルムを基材とする金属張積層板や回路基板を製造する際、寸法変化が低減されず、電子部品の位置ずれなどの問題が生じることがある。
【0027】
(c)23℃、湿度50%下で、20時間調湿後の50mm角のポリイミドフィルムの中央部の凸面(ここで、「凸面」とは、全体的にゆるやかに屈曲したポリイミドフィルム断片において、屈曲の外周側の面を意味する)が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の平均値を平均反り量としたとき、平均反り量が10mm以下であること。
本実施の形態のポリイミドフィルムの平均反り量は、本実施の形態のポリイミドフィルムを基材として用いた金属張積層板及び回路基板を製造する際の、ハンドリング性向上、加工時における浮きによる電子部品の位置ずれを防止する為に、10mm以下の範囲、好ましくは5mm以下の範囲がよい。
【0028】
(d)長手(MD)方向の熱膨張係数(CTE−MD)と、幅(TD)方向の熱膨張係数(CTE−TD)との差が±3ppm/K以下であること。
本実施の形態のポリイミドフィルムを基材として用いた金属張積層板及び回路基板を製造する際の、加工時における寸法変化を低減する為、本実施の形態のポリイミドフィルムは、CTE−MDとCTE−TDとの差が±3ppm/K以下の範囲、好ましくは、±1ppm/K以下の範囲がよい。
【0029】
また、本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムは、好ましくは、上記(a)〜(d)の条件に加え、更に、下記の条件(e)を満たすものがよい。
【0030】
(e)面内複屈折率(Δn)が2×10
−3以下であること。
本実施の形態のポリイミドフィルムは、面内複屈折率(Δn)が2×10
−3以下、好ましくは0.8×10
−3以下、より好ましくは0.6×10
−3以下がよい。
【0031】
また、本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムは、好ましくは、複数層のポリイミド層からなるポリイミドフィルムがよい。
【0032】
本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムが複数層のポリイミド層からなる場合、ポリイミド層が、熱膨張係数が最も低い単層の第1のポリイミド層及び前記第1のポリイミド層の片側に積層されている単層若しくは複数層の第2のポリイミド層からなり、
前記第1のポリイミド層の熱膨張係数(CTE1)及び第2のポリイミド層の熱膨張係数(CTE2)が、下記の数式(1);
1ppm/K<(CTE2−CTE1)≦10ppm/K ・・・(1)
の範囲内がよい。ポリイミドフィルムの厚さ方向において熱膨張係数を変化させることにより、厚さ方向のリタデーション(ROL)の低下を防止し、平均反り量の低減が可能となる。CTE1とCTE2の差(CTE2−CTE1)は、2ppm/K以上10ppm/K以下の範囲内が好ましく、2ppm/K以上7ppm/K以下の範囲内がより好ましい。ここで、CTE1は、前記第1のポリイミド層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値であり、CTE2は、前記第2のポリイミド層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値である。
【0033】
<ポリイミドフィルムの形態>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、上記のとおり、条件(a)から(d)を満たすものであれば、その形態は特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態であってもよい。
【0034】
<フィラー>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、必要に応じて、無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーとしては、具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
<ポリイミド>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、樹脂成分がポリイミドからなるポリイミド層を有し、単層又は複数層からなるものである。ここで、ポリイミド層が複数層からなる場合は、熱膨張係数が最も低い単層の第1のポリイミド層及びこの第1のポリイミド層の片側に積層されている単層若しくは複数層からなる第2のポリイミド層を含んでいてもよい。なお、本明細書では、「第1のポリイミド層」と「第2のポリイミド層」を区別しない場合は、単に「ポリイミド層」と記す。
【0036】
ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンと、を反応させて得られるポリアミド酸をイミド化して得られるものである。従って、本実施の形態のポリイミドフィルムにおいて、ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基及びジアミンから誘導されるジアミン残基を含むものである。なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。
【0037】
以下、酸無水物とジアミンを説明することにより、本実施の形態で用いるポリイミドの具体例が理解される。
【0038】
ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基としては、例えば3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等から誘導されるテトラカルボン酸残基が好ましく挙げられる。これらの中でも特に、BPDAから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、BPDA残基ともいう。)は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下での面内複屈折率(Δn)の変化量を小さくすることができるので特に好ましい。また、BPDA残基は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸のゲル膜の自己支持性を付与できるが、その一方で、イミド化後のCTEを増大させる傾向になる。このような観点から、BPDA残基は、ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基に対して、好ましくは20〜70モル%の範囲内、より好ましくは20〜60モル%の範囲内がよい。
【0039】
ポリイミドに含まれる上記BPDA残基以外のテトラカルボン酸残基としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、PMDA残基ともいう。)が好ましく挙げられる。PMDA残基は、ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基に対して、好ましくは0〜60モル%の範囲内、より好ましくは0〜50モル%の範囲内がよい。PMDA残基は任意であるが、熱膨張係数の制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。
【0040】
その他のテトラカルボン酸残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0041】
ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基において、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物及び2,3',3,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物のテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基は、ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下がよい。ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基に対し、これらのテトラカルボン酸残基が20モル%を超えると、分子の配向性が低下し、面内複屈折率(Δn)の制御が困難となる。
【0042】
本実施の形態のポリイミドフィルムにおいて、ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、例えば下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(以下、「A1残基」と記すことがある)が好ましく挙げられる。
【0044】
上記式(A1)において、連結基X
0は単結合又は−COO−を示し、Yは独立に、ハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1〜3の1価の炭化水素基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、n
1は0〜2の整数を示し、p及びqは独立に0〜4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、上記式(A1)において、複数の置換基Y、整数p、qが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0045】
A1残基は、秩序構造を形成しやすく分子鎖の面内方向の配向を促進する為、面内複屈折率(Δn)を抑制することができる。このような観点から、A1残基は、ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは70〜99モル%の範囲内がよい。
【0046】
また、A1残基として、例えば下記の一般式(1)で表されるジアミン残基が好ましく挙げられる。
【0048】
上記一般式(1)において、R
1、R
2は、独立して、ハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基若しくは炭素数2〜3のアルケニル基を示す。
【0049】
一般式(1)で表されるジアミン残基は、秩序構造を形成しやすく、特に高温環境下での面内複屈折率(Δn)の変化量を有利に抑制することができる。このような観点から、一般式(1)で表されるジアミン残基は、ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60〜90モル%の範囲内がよい。
【0050】
一般式(1)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、2,2’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EOB)、2,2’−ジプロポキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−POB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも特に、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下での面内複屈折率(Δn)の変化量を小さくすることができるので特に好ましい。
【0051】
一般式(1)で表されるジアミン残基以外のジアミン残基としては、p‐フェニレンジアミン(p−PDA)、m‐フェニレンジアミン(m−PDA)等から誘導されるジアミン残基が好ましく挙げられ、より好ましくはp−PDAから誘導されるジアミン残基(以下、PDA残基ともいう。)がよい。PDA残基は、ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対して、好ましくは0〜80モル%の範囲内、より好ましくは0〜50モル%の範囲内がよい。PDA残基は任意であるが、熱膨張係数の制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。
【0052】
なお、本明細書において、「ジアミン化合物」は、末端の二つのアミノ基における水素原子が置換されていてもよく、例えば−NR
3R
4(ここで、R
3,R
4は、独立にアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0053】
また、ポリイミドフィルムとした場合の伸度及び折り曲げ耐性等を向上させるため、ポリイミドが、下記の一般式(2)〜(4)で表されるジアミン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミン残基を含むことが好ましい。
【0055】
上記式(2)において、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、Xは独立に−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−COO−、−SO
2−、−NH−又は−NHCO−から選ばれる2価の基を示し、m及びnは独立に0〜4の整数を示す。
【0057】
上記式(3)において、R
5、R
6及びR
7はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、Xは独立に−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−COO−、−SO
2−、−NH−又は−NHCO−から選ばれる2価の基を示し、m、n及びoは独立に0〜4の整数を示す。
【0059】
上記式(4)において、R
5、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、X
1及びX
2はそれぞれ独立に単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−COO−、−SO
2−、−NH−又は−NHCO−から選ばれる2価の基を示すが、X
1及びX
2の両方が単結合である場合を除くものとし、m、n、o及びpは独立に0〜4の整数を示す。
【0060】
なお、「独立に」とは、上記式(2)から(4)の内の一つにおいて、または(2)から(4)において、複数の連結基X、連結基X
1、X
2、複数の置換基R
5、R
6、R
7、R
8、さらに、整数m、n、o、pが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0061】
一般式(2)〜(4)で表されるジアミン残基は、屈曲性の部位を有するので、ポリイミドフィルムに柔軟性を付与することができる。ここで、一般式(3)及び(4)で表されるジアミン残基は、ベンゼン環が3個又は4個であるので、熱膨張係数(CTE)の増加を抑制するために、ベンゼン環に結合する末端基はパラ位とすることが好ましい。また、ポリイミドフィルムに柔軟性を付与しながら熱膨張係数(CTE)の増加を抑制する観点から、一般式(2)〜(4)で表されるジアミン残基は、ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対して、好ましくは10〜40モル%の範囲内、より好ましくは10〜30モル%の範囲内がよい。一般式(2)〜(4)で表されるジアミン残基が10モル%未満であると、フィルムとした場合の伸度が低下し、折り曲げ耐性等の低下が生じる。一方、40モル%を超えると、分子の配向性が低下し、低CTE化が困難となる。
【0062】
一般式(2)において、m及びnの一つ以上が0であるものが好ましく、また、基R
5及びR
6の好ましい例としては、炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基、又はアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(2)において、連結基Xの好ましい例としては、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。一般式(2)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-DAPE)、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、3,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0063】
一般式(3)において、m、n及びoの一つ以上が0であるものが好ましく、また、基R
5、R
6及びR
7の好ましい例としては、炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基、又はアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(3)において、連結基Xの好ましい例としては、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。一般式(3)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、ビス(4‐アミノフェノキシ)−2,5−ジ−tert−ブチルベンゼン(DTBAB)、4,4−ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BAPK)、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0064】
一般式(4)において、m、n、o及びpの一つ以上が0であるものが好ましく、また、基R
5、R
6、R
7及びR
8の好ましい例としては、炭素数1〜4のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基、あるいは炭素数1〜3のアルコキシ基、又はアルケニル基を挙げることができる。また、一般式(4)において、連結基X
1及びX
2の好ましい例としては、単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−SO
2−又は−CO−を挙げることができる。但し、屈曲部位を付与する観点から、連結基X
1及びX
2の両方が単結合である場合を除くものとする。一般式(4)で表されるジアミン残基の好ましい具体例としては、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0065】
その他のジアミン残基としては、例えば、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0066】
ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、面内複屈折率(Δn)のばらつきを抑制する観点から、ランダムに存在することが好ましい。
【0067】
<ポリイミドフィルムの製造方法>
本実施の形態のポリイミドフィルムの製造方法の態様として、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法がある。また、本実施の形態のポリイミドフィルムが、複数層のポリイミド層からなるポリイミドフィルムである場合、その製造方法の態様としては、例えば[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(キャスト法)、[4]多層押出により、同時にポリアミド酸を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(多層押出法)などが挙げられる。
【0068】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程1a〜1c;
(1a)支持基材にポリアミド酸の溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)支持基材上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層を形成する工程と、
(1c)支持基材とポリイミド層とを分離することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0069】
上記[2]の方法は、例えば、次の工程2a〜2c;
(2a)支持基材にポリアミド酸の溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(2b)支持基材とポリアミド酸のゲルフィルムとを分離する工程と、
(2c)ポリアミド酸のゲルフィルムを熱処理してイミド化することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0070】
上記[3]の方法は、上記[1]の方法又は[2]の方法において、工程1a又は工程2aを複数回繰り返し、支持基材上にポリアミド酸の積層構造体を形成する以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0071】
上記[4]の方法は、上記[1]の方法の工程1a、又は[2]の方法の工程2aにおいて、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0072】
本発明で製造されるポリイミドフィルムは、支持基材上でポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミドフィルムの厚みや寸法精度を維持することができる。
【0073】
また、支持基材上のポリアミド酸のゲルフィルムを分離し、ポリアミド酸のゲルフィルムを一軸延伸又は二軸延伸と同時あるいは連続的にイミド化を行う方法によって、面内複屈折率(Δn)を制御してもよい。この際、Δnをより精密に高度に制御するために、延伸操作及びイミド化時の昇温速度、イミド化の完結温度、荷重等の条件を適宜調整することが好ましい。
【0074】
<ポリイミドの合成>
一般にポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0075】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps〜100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0076】
<金属張積層板>
本実施の形態の金属張積層板における金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
【0077】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば金属層として銅箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5〜25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から、銅箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。
【0078】
本実施の形態の金属張積層板は、ポリイミドフィルムと金属層の接着性を高めるために、ポリイミドフィルムの表面に例えばプラズマ処理などの改質処理を施しても良い。また、ポリイミドフィルムにおける金属層に接する層が、例えば熱可塑性ポリイミド層を積層してもよい。本実施の形態の金属張積層板は、片面金属張積層板でもよいし、両面金属張積層板でもよい。
【0079】
本実施の形態の金属張積層板は、例えば本実施の形態のポリイミドフィルムを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅層を形成してもよい。
【0080】
また、本実施の形態の金属張積層板は、本実施の形態のポリイミドフィルムを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0081】
<回路基板>
本実施の形態の金属張積層板は、主にFPC等の回路基板の材料として有用である。すなわち、本実施の形態の金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態であるFPC等の回路基板を製造できる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0083】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。なお、CTE−MDとは、長手(MD)方向の熱膨張係数、CTE−TDとは、幅(TD)方向の熱膨張係数である。
【0084】
[面内リタデーション(RO)の測定]
複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;ワイドレンジ複屈折評価システムWPA−100、測定エリア;MD:200mm×TD:150mm)を用いて、所定のサンプルの面内方向のリタデーションを求めた。なお、入射角は0°、測定波長は543nmである。
【0085】
[面内リタデーション(RO)の評価用サンプルの調製]
ポリイミドフィルムにおけるTD方向の左右2つの端部(Left及びRight)並びに中央部(Center)のそれぞれにおいて、A4サイズ(TD:210mm×MD:297mm)に切断し、サンプルL(Left)、サンプルR(Right)及びサンプルC(Center)を調製した。
【0086】
[面内複屈折率(Δn)の評価]
サンプルL、サンプルR及びサンプルCのそれぞれについて面内リタデーション(RO)をそれぞれ測定した。各サンプルの測定値の最大値を評価用サンプルの厚さで除した値を「面内複屈折率(Δn)」とした。
【0087】
[厚さ方向のリタデーション(ROL)及び複屈折率(Δnz)の測定]
ポリイミドフィルムのウルトラミクロトームによる薄膜切断により調製したサンプル(厚さ;0.5μm)を、顕微鏡型複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;顕微鏡取付用複屈折分布観察カメラPI−micro)を用いて、厚さ方向のリタデーション(ROL)を測定した。なお、入射角は0°、測定波長は520nmである。
また、ROLの値を薄膜切断サンプルの厚さ(0.5μm)で除した値を「複屈折率(Δnz)」とした。
【0088】
[反りの測定]
ポリイミドフィルムの反りは、50mm×50mmのサイズのポリイミドフィルムを23℃、湿度50%下で、20時間調湿後、サンプルの中央部の凸面が平らな面上に接するよう静置し、サンプルの4角の静置面からの浮き上がりの距離を計測し、その平均値を平均反り量とした。
【0089】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0090】
(合成例1)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、2.550gのDAPE(0.0127モル)、15.333gのm‐TB(0.0721モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、6.0847gのBPDA(0.0207モル)及び13.532gのPMDA(0.0620モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを調製した。
【0091】
次に、ポリアミド酸溶液aをステンレス製の支持基材上に、硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。更に、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、樹脂フィルム1(CTE;7.6ppm/K)を調製した。
【0092】
(合成例2)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、1.188gのDAPE(0.0059モル)、16.740gのm‐TB(0.0787モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、6.071gのBPDA(0.0206モル)及び13.502gのPMDA(0.0618モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液bを調製した。
【0093】
次に、ポリアミド酸溶液bをステンレス製の支持基材上に、硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。更に、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、樹脂フィルム2(CTE;3.9ppm/K)を調製した。
【0094】
(合成例3)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、0.862gのDAPE(0.0043モル)、17.381gのm‐TB(0.0817モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、3.703gのBPDA(0.0126モル)及び15.554gのPMDA(0.0712モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液cを調製した。
【0095】
次に、ポリアミド酸溶液cをステンレス製の支持基材上に、硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。更に、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、樹脂フィルム3(CTE;1.3ppm/K)を調製した。
【0096】
(作製例1)
厚み18μmの銅箔上に、合成例1で調製したポリアミド酸溶液aを180μmの厚みで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し、溶剤を除去した。次に、160℃から360℃まで約15℃/分の昇温速度で熱処理しイミド化させ、厚み25μmのポリイミド層が銅箔上に形成された支持基材1を調製した。
【0097】
[実施例1]
支持基材1のポリイミド層側の面に、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その後、130℃から360℃まで、段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材1より剥離することで、ポリイミドフィルム1を調製した。
【0098】
ポリイミドフィルム1の評価結果は次のとおりである。なお、支持基材より剥離前のポリイミドフィルムにおいて、支持基材に接している面をA面とし、もう一方の表面をB面とする。
CTE;3.9ppm/K
CTE−MD;3.8ppm/K
CTE−TD;4.0ppm/K
面内リタデーション(RO);18nm
面内複屈折率(Δn);0.72×10
−3
平均反り量;1.0mm
A面から深さ方向に4μm地点のリタデーション(ROL);70nm
B面から深さ方向に20μm地点のリタデーション(ROL);69nm
A面から深さ方向に4μm地点の複屈折率(Δnz);140×10
−3
B面から深さ方向に20μm地点の複屈折率(Δnz);138×10
−3
【0099】
[実施例2]
支持基材1のポリイミド層側の面に、合成例3で調製したポリアミド酸溶液cを硬化後の厚みが約12.5μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その上に、合成例1で調製したポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが約12.5μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥した後、130℃から360℃まで、段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材1より剥離することで、ポリイミドフィルム2を調製した。
【0100】
ポリイミドフィルム2の評価結果は次のとおりである。
各層のCTE;1.5ppm/K(A面側)、及び8.2ppm/K(B面側)
CTE−MD;6.6ppm/K
CTE−TD;6.1ppm/K
面内リタデーション(RO);11nm
面内複屈折率(Δn);0.44×10
−3
平均反り量;1.2mm
第1のポリイミド層(A面側)と第2のポリイミド層(B面側)のCTE差(CTE2−CTE1);6.7ppm/K
【0101】
[実施例3]
支持基材1のポリイミド層側の面に、合成例3で調製したポリアミド酸溶液cを硬化後の厚みが約16μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その上に、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約9μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥した後、130℃から360℃まで、段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材1より剥離することで、ポリイミドフィルム3を調製した。
【0102】
ポリイミドフィルム3の評価結果は次のとおりである。
各層のCTE;2.5ppm/K(A面側)、及び5.1ppm/K(B面側)
CTE−MD;4.0ppm/K
CTE−TD;4.3ppm/K
面内リタデーション(RO);3.0nm
面内複屈折率(Δn);0.12×10
−3
平均反り量;0.7mm
第1のポリイミド層(A面側)と第2のポリイミド層(B面側)のCTE差(CTE2−CTE1);2.6ppm/K
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置のスパッタリングカソードに、下地金属層を成膜する為のニッケル−20重量%クロム合金ターゲットと、銅ターゲットをそれぞれ装着した。ポリイミドフィルム3をセットした装置内を真空排気した後、アルゴンガスを導入して装置内の圧力を1.3Paに保持して銅薄膜層付ポリイミドフィルム1を調製した。下地金属層(ニッケル−20重量%クロム合金)の膜厚は20nm、銅薄膜層の膜厚は200nmであった。
【0103】
銅薄膜層付ポリイミドフィルム1を用い、セミアディティブ法により導体回路層を形成して、回路基板を調製した。
【0104】
[実施例4]
リップ幅200mmのマルチマニホールド式の3層共押出三層ダイを用い、支持基材1に近い側から、合成例3で調製したポリアミド酸溶液c、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bの順の2層構造となるように支持基材1のポリイミド樹脂層側の面に押出し流延塗布した。その後、130℃から360℃の温度で段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材1より剥離することで、ポリイミドフィルム4を調製した。
【0105】
ポリイミドフィルム4の評価結果は次のとおりである。
各層のCTE;2.3ppm/K(A面側)、及び5.3ppm/K(B面側)
CTE−MD;4.2ppm/K
CTE−TD;4.5ppm/K
面内リタデーション(RO);5nm
面内複屈折率(Δn);0.20×10
−3
平均反り量;1.3mm
第1のポリイミド層(A面側、厚み;16μm)と第2のポリイミド層(B面側、厚み;9μm)のCTE差(CTE2−CTE1);3.0ppm/K
【0106】
(参考例1)
支持基材2(ステンレス製、厚み;16μm)の離型処理した面に、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約35μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その後、130℃から380℃まで、段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材2より剥離することで、ポリイミドフィルム5を調製した。
【0107】
ポリイミドフィルム5の評価結果は次のとおりである。
CTE−MD;3.9ppm/K
CTE−TD;3.8ppm/K
面内リタデーション(RO);18nm
面内複屈折率(Δn);0.51×10
−3
平均反り量;11.3mm
【0108】
(参考例2)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液aを支持基材2上に、硬化後の厚みが約16μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その上に、合成例2で得られたポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約9μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥した後、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材2より剥離することで、ポリイミドフィルム6を調製した。
【0109】
ポリイミドフィルム6の評価結果は次のとおりである。
CTE−MD;13.5ppm/K
CTE−TD;14.6ppm/K
面内リタデーション(RO);19.4nm
面内複屈折率(Δn);0.78×10
−3
平均反り量;13.0mm
【0110】
[実施例5]
支持基材2上に、合成例2で調製したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約18μmとなるように均一に塗布し、加熱乾燥した。その上に、合成例3で調製したポリアミド酸溶液cを硬化後の厚みが約20μmとなるように均一に塗布し、加熱乾燥した後、熱処理を行い、イミド化を完結し、常温まで冷却後、支持基材2より剥離することで、ポリイミドフィルム7を調製した。
【0111】
ポリイミドフィルム7の評価結果は次のとおりである。
各層のCTE;2.6ppm/K(A面側)、及び7.8ppm/K(B面側)
CTE−MD;5.3ppm/K
CTE−TD;5.5ppm/K
面内複屈折率(Δn);1.4×10
−3
平均反り量;8.0mm
第1のポリイミド層(A面側、厚み;18μm)と第2のポリイミド層(B面側、厚み;20μm)のCTE差(CTE2−CTE1);5.2ppm/K
【0112】
実施例1〜5及び参考例1〜2は、ポリアミド酸溶液を支持基材上に塗布し、支持基材上で乾燥及びイミド化を完結したポリイミドフィルムであり、いずれのポリイミドフィルムにおいてもCTE等方性が良く、面内複屈折率も低いため、寸法安定性に優れていることが確認された。
【0113】
ポリイミド層が単層である実施例1及び参考例1を比較すると、実施例1では、ポリイミドフィルムの厚み及び厚さ方向の複屈折率(Δnz)を高精度に制御しているので、平均反り量を10mm以下に抑えることできた。ポリイミド層が単層であり、ポリイミドフィルムの厚みが35μm以上である参考例1では、平均反り量が10mmを超える結果となったが、実施例5では、ポリイミド層を2層とすることで、平均反り量を10mm以下に抑えることができた。
【0114】
また、ポリイミド層が複数層である実施例2〜実施例5及び参考例2を比較すると、実施例2〜4では、支持基材上に直接積層した層を低熱膨張性の第1のポリイミド層とし、その熱膨張係数(CTE)を、数式(1)を満たす範囲で第2のポリイミド層のCTEよりも小さく設計することで、A面側への反りを抑制し、ポリイミドフィルムの平均反り量を10mm以下に抑えることができた。一方、参考例2では、2層のポリイミド層の内、CTEの大きいポリイミド層をA面側に配置した為に、平均反り量が10mmを超える結果となった。これまで、支持基材上に複数層のポリイミド層を形成する場合に、厚さ方向の複屈折率(Δnz)を考慮した各層間のCTEの制御を行なっていなかったため、支持基材上に直接積層するポリイミド層のA面側のΔnzが低くなり、B面側に比べてCTEが増加する傾向があり、参考例2のようにA面側への反りが発生しやすくなっていた。それに対し、実施例2〜実施例5に示したように、厚さ方向の複屈折率(Δnz)を考慮して、支持基材上に直接積層した層を第1のポリイミド層として、そのCTEを、積層される他のポリイミド層(第2のポリイミド層)のCTEよりも小さく設計することで、反りの発生が抑制された多層ポリイミドフィルムを製造できることが確認できた。
【0115】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。