【0012】
本発明のターゲット材は、スパッタリング面の200000μm
2当たりで、70μmを超える最大長を有するNb相を1.0個未満とする。すなわち、本発明のターゲット材は、Moよりもスパッタリング率の低いNbを、最大長が70μm以下という粗大化していない状態でターゲット材の組織中に存在させている。これにより、本発明のターゲット材は、得られるMoNb薄膜の比抵抗が高くなることを抑制できるという効果を奏する。そして、本発明のターゲット材は、成膜速度の向上を目的に、高電力でスパッタリングした際にも、MoとNbが均一にスパッタリングされるため、スパッタリング面の表面粗さの増大が抑制され、ノジュールの生成を抑制できるという効果も奏する。
また、上記と同様の理由から、本発明のターゲット材は、そのスパッタリング面の200000μm
2当たりで、50μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満であることが好ましく、40μmを超える最大長を有するNb相が1.0個未満であることがより好ましい。
【0014】
そして、本発明のターゲット材は、ターゲット材の組織中に、スパッタリング率がMoよりも低いNbを微細に分散させる観点から、スパッタリング面の200000μm
2当たりで、Nb相の平均円相当径を15μm〜65μmにすることが好ましい。これにより、本発明のターゲット材は、成膜速度の向上を目的に、高電力でスパッタリングした際にも、MoとNbを均一にスパッタリングすることができ、ターゲット材の成分に近似した成分のMoNb薄膜を得ることができる点で好ましい。また、上記と同様の理由から、Nb相の平均円相当径は、50μm以下であることがより好ましく、45μm以下がさらに好ましい。
また、原料粉末の調整等といった生産性の観点からは、Nb相の平均円相当径は、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。
【0017】
原料粉末に用いるNb粉末は、D50が25μm〜65μmのNb粉末を篩にかけて、得られる70μmアンダーのNb粉末を使用することで、最大長が70μmを超える粗大なNb相がなく、Nb相の平均円相当径が15μm〜65μmの範囲にある、均一で微細な組織を有するターゲット材を得ることができる点で好ましい。
また、成膜速度の向上を目的に、より高電力でのスパッタリングを想定し、ノジュールの生成を抑制するためには、D50が25μm〜65μmのNb粉末を篩にかけて、得られる45μmアンダーのNb粉末を使用することがより好ましい。
そして、本発明のターゲット材を得るには、上記の原料粉末を加圧焼結する前に、上記の加圧容器を400℃〜500℃に加熱して真空脱気してから封止をすることにより、次工程の加圧焼結でNbが粒成長することを抑制できる点で好ましい。
【実施例】
【0020】
D50が4μmのMo粉末と、D50が55μmのNb粉末に篩を用いて70μmアンダーとしたNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例1のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0021】
D50が4μmのMo粉末と、D50が35μmのNb粉末に篩を用いて45μmアンダーとしたNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例2のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0022】
D50が4μmのMo粉末とD50が115μmのNb粉末とを、Nbを10原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成となるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、軟鋼製の加圧容器に上記で用意した混合粉末を充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、1250℃、145MPa、10時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、比較例のターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0023】
上記で得た各焼結体に、機械加工および研磨を施して、それぞれ、直径180mm×厚さ5mmのターゲット材を作製した。
上記で得た各ターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡の反射電子像で、任意の横:591μm×縦:435μm(面積:257085μm
2)の視野のうち、200000μm
2となる視野を3視野観察して、各視野内に存在する各Nb相の最大長を測定し、最大長が70μmを超えるNb相の個数を計測した。また、各視野に存在するNb相の円相当径を測定し、3視野の平均円相当径を算出した。
ここで、計測は、走査型電子顕微鏡によりMo相とNb相を高コントラストで撮影し、その画像について、OLYMPUS SOFT IMAGING SOLUTIONS GMBH製の画像解析ソフト(Scandium)を用いて行なった。その結果を表1に示す。
また、スパッタリング前の各ターゲット材のスパッタリング面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を
図1〜
図3に示す。
【0024】
各ターゲット材について、キヤノンアネルバ株式会社製のDCマグネトロンスパッタ装置(型式:C3010)を用いて、Ar雰囲気、圧力0.5Pa、電力500Wの条件で、厚さが300nmのMoNb薄膜をガラス基板上に形成して、比抵抗測定用の試料を3枚ずつ得た。そして、比抵抗の測定は、株式会社ダイヤインスツルメント製の4端子薄膜抵抗率測定器(MCP−T400)を用いた。その結果を表1に示す。
【0025】
各ターゲット材について、キヤノンアネルバ株式会社製のDCマグネトロンスパッタ装置(型式:C3010)を用いて、Ar雰囲気、圧力0.5Pa、電力1000W、スパッタリング時間30分の条件でスパッタリングを実施した。
そして、各ターゲット材について、スパッタリング前後におけるスパッタリング面の表面粗さを測定した。表面粗さは、株式会社ミツトヨ製の小形表面粗さ測定機(SU−210)を用いて、研磨方向に対して直角方向におけるJIS B 0601:2001で規定される算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果を表1に示す。
また、スパッタリング後の各ターゲット材のスパッタリング面を光学顕微鏡で観察した結果を
図4〜
図6に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明のターゲット材は、
図1および
図2に示すように、基地となるMo相1に微細なNb相2が分散していることがわかる。そして、本発明のターゲット材は、いずれの視野においても、Nb相の平均円相当径が30μm〜49μmであった。また、最大長が70μmを超えるNb相は1個も確認されず、その3視野の平均個数は1.0個未満であることが確認できた。
また、本発明のターゲット材は、確認した3視野で、Nb相の最大長が、最大値であっても68μmであることが確認できた。
【0028】
また、本発明のターゲット材は、
図4および
図5に示すように、スパッタリング後の算術平均粗さRaが2.00μm未満であり、高電力の継続スパッタリングによるノジュールの生成、すなわち配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜へのパーティクルが付着する問題に対して有用なターゲット材であることが確認できた。
また、本発明のターゲット材を用いて形成したMoNb薄膜は、比抵抗が15.2μΩ・cm以下であり、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜として低抵抗で有用な薄膜であることが確認できた。
【0029】
一方、比較例のターゲット材は、
図3に示すように、基地となるMo相1に粗大なNb相2が分散していることがわかる。そして、比較例のターゲット材は、いずれの視野においても、Nb相の平均円相当径が65μmを超えていた。また、最大長が70μmを超えるNb相が2個以上確認され、その3視野の平均個数は4.3個であった。また、比較例のターゲット材は、確認した3視野で、Nb相の最大長が、最大値で117μmもあった。
【0030】
また、比較例のターゲット材は、
図6に示すように、スパッタリング後の算術平均粗さRaが2.20μmを超えており、高電力の継続スパッタリングにより、ノジュールの生成の虞があることが確認された。
また、比較例のターゲット材を用いて形成したMoNb薄膜は、比抵抗が15.5μΩ・cmを超えており、配線薄膜や電極薄膜の下地膜やカバー膜として、高抵抗であり、不適であることが確認された。