【解決手段】ポリイミド絶縁層とポリイミド接着剤層とを含む。ポリイミド絶縁層の全光線透過率が5%以下、ポリイミド絶縁層とポリイミド接着剤層の厚みの総和が20〜70μm、ポリイミド接着剤層の厚みと厚みの総和との比が0.4〜0.9、ポリイミド絶縁層の誘電係数(Da)とポリイミド接着剤層の誘電係数(Db)が下式(i)〜(iii)を満足するカバーレイフィルム。Da=(√DKa)×Dfa≦0.3・・・(i)、Db=(√DKb)×Dfb≦0.01・・・(ii)、Db/Da≧0.015・・・(iii)、[Dka及びDfaは、ポリイミド絶縁層の誘電率及び誘電正接を示し、Dkb及びDfbは、ポリイミド接着剤層の誘電率及び誘電正接を示す。]
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[カバーレイフィルム]
本発明の一実施の形態にかかるカバーレイフィルムは、ポリイミド絶縁層(A)と、このポリイミド絶縁層(A)の一方の面に設けられたポリイミド接着剤層(B)と、を含むカバーレイフィルムであり、下記の条件(a)〜(d)を満たすものである。
【0017】
(a)ポリイミド絶縁層(A)の全光線透過率が5%以下であること。
ポリイミド絶縁層(A)の全光線透過率は、5%を超えるとカバーレイフィルムを光が透過して遮光性、隠蔽性が低下し、また、薄い黒色を呈するために意匠性を損なう。従って、ポリイミド絶縁層(A)の全光線透過率は、5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下がよい。
【0018】
(b)ポリイミド絶縁層(A)及びポリイミド接着剤層(B)の厚みの総和(T)が20〜70μmの範囲内であること。
ポリイミド絶縁層(A)及びポリイミド接着剤層(B)の厚みの総和(T)が70μmを超えると省スペース化に対応できず、20μmを下回ると使用時のハンドリング性が悪くなる。従って、ポリイミド絶縁層(A)及びポリイミド接着剤層(B)の厚みの総和(T)は、20〜70μmの範囲内、好ましくは24〜65μmの範囲内にすることが良い。
【0019】
(c)ポリイミド接着剤層(B)の厚みと、厚みの総和(T)との比[ポリイミド接着剤層(B)の厚み/総和(T)]が0.4〜0.9の範囲内であること。
ポリイミド接着剤層(B)の厚みと総和(T)との比が0.4未満になると高周波信号伝送時の損失(伝送損失)を増大させ、0.9を超えると遮光性、隠蔽性、意匠性を損なう。従って、ポリイミド接着剤層(B)の厚みと総和(T)との比は、0.4〜0.9の範囲内、好ましくは0.45〜0.85の範囲内、より好ましくは0.5〜0.85の範囲内にすることが良い。
【0020】
(d)ポリイミド絶縁層(A)の誘電係数(Da)及びポリイミド接着剤層(B)の誘電係数(Db)の関係が下記式を満足すること。
Da=(√DKa)×Dfa≦0.3 ・・・(i)
Db=(√DKb)×Dfb≦0.01 ・・・(ii)
Db/Da≧0.015 ・・・(iii)
(上記式(i)〜(iii)において、Dka及びDfaは、ポリイミド絶縁層(A)の10GHzにおける誘電率及び誘電正接をそれぞれ示し、Dkb及びDfbは、ポリイミド接着剤層(B)の10GHzにおける誘電率及び誘電正接をそれぞれ示す。)
上記式(i)及び(ii)を満たしても、式(iii)を満たさない(つまり、Db/Daが0.015を下回る)と伝送損失が増大する。従って、Db/Daは、0.015以上、好ましくは0.017以上、より好ましくは0.02以上にすることが良い。
【0021】
また、本発明の一実施の形態に係るカバーレイフィルムは、好ましくは、上記(a)〜(d)の条件に加え、更に、下記の条件(e)を満たすものがよい。
【0022】
(e)ポリイミド絶縁層(A)の引張弾性率(Ea)とポリイミド接着剤層(B)の引張弾性率(Eb)の比(Ea/Eb)が2以上であること。
ポリイミド絶縁層(A)の引張弾性率(Ea)とポリイミド接着剤層(B)の引張弾性率(Eb)の比(Ea/Eb)が2未満になると、成型性が低下して回路基板等へ熱圧着加工できず、接着剤の回路への充填不良の問題が生じる。従って、ポリイミド絶縁層(A)の引張弾性率(Ea)とポリイミド接着剤層(B)の引張弾性率(Eb)の比(Ea/Eb)は、2以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上にすることが良い。
【0023】
なお、カバーレイフィルムは、ポリイミド接着剤層(B)側の面に離型材を貼り合わせて離型材層を有する形態としてもよい。離型材の材質は、カバーレイフィルムの形態を損なうことなく剥離可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、これらの樹脂フィルムを紙上に積層したものなどを用いることができる。
【0024】
次に、ポリイミド絶縁層(A)と、ポリイミド接着剤層(B)について、それぞれ詳細に説明する。
【0025】
<ポリイミド絶縁層(A)>
ポリイミド絶縁層(A)を構成するポリイミドは、原料の酸無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリイミドである。原料の酸無水物成分とジアミン成分としては、特に制限されず、公知のモノマーから選択できる。また、ポリイミド絶縁層(A)を構成するポリイミドは、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、ポリベンズイミダゾールイミドなど、分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂を意味する。
【0026】
ポリイミド絶縁層(A)は、遮光性、隠蔽性、意匠性等を効果的に発現させるために、黒色顔料を含有する。黒色顔料としては、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アントラキノンブラック等の有機系顔料、カーボンブラック、鉄マンガンビスマスブラック、鉄クロムブラック、コバルト鉄クロムブラック、鉄マンガン酸化物スピネルブラック、銅クロムマンガンブラック、マンガンビスマスブラック、マンガンイットリウムブラック、銅クロマイトスピネルブラック、ヘマタイト、マグネタイト、雲母状酸化鉄、チタンブラックなどの無機系顔料を挙げることができる。
【0027】
ポリイミド絶縁層(A)中の黒色顔料の含有量は、ポリイミド100重量部に対して、1〜20重量部の範囲内が好ましく、1〜10重量部の範囲内がより好ましい。黒色顔料の含有量が1重量部未満であると、着色が不十分になる場合があり、20重量部を超えると、ポリイミドフィルムが脆弱になったり、電気絶縁性が低下したり、誘電特性を悪化させる場合がある。
【0028】
また、ポリイミド絶縁層(A)は、遮光性、隠蔽性、意匠性等を効果的に発現させるために、誘電特性の改善効果を損なわない範囲で、ポリイミド絶縁層(A)の表面の光沢を抑制するつや消し顔料などの任意成分を含むことができる。
【0029】
つや消し顔料としては、例えば、シリカ、雲母、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。つや消し顔料は、ポリイミド絶縁層(A)の光沢度を、例えば40%以下、好ましくは30%以下に抑えるために、ポリイミド100重量部に対して、例えば3〜12重量部の範囲内で含有させることが好ましい。つや消し顔料の含有量が3重量部未満であると、光沢性の抑制が不十分になる場合があり、12重量部を超えると、ポリイミド絶縁層(A)の強度を低下させる場合がある。
【0030】
ポリイミド絶縁層(A)としては、市販の黒色ポリイミドフィルムを使用することが可能であり、例えばタイマイド社製、BKシリーズ(商品名)、レイテック社製、HB−Nシリーズ(商品名)、デュポン社製、ブラックカプトンMBCシリーズ(商品名)、寧波今山電子材料社製の黒色ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
【0031】
[ポリイミド接着剤層(B)]
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、芳香族テトラカルボン酸無水物成分を含む酸無水物成分と、脂肪族ジアミン及び/又は芳香族ジアミンを含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミドである。以下、ポリイミド接着剤層(B)の材料として好ましいポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0032】
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料の酸無水物として、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA、別名;5,5’−オキシビス−1,3−イソベンゾフランジオン)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、5,5'-[1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)ビスオキシ]ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)(BISDA)、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン等を好ましく使用することができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
<脂肪族ジアミン>
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料のジアミン成分として、例えばダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基若しくはアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン等のジアミノアルカン類、トリス(2−アミノエチル)アミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、ジエチレントリアミン、N−メチル−2,2’−ジアミノジエチルアミン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン等の窒素原子を含有するアミン類、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]−ウンデカン等の酸素原子を含有するアミン類、2,2’−チオビス(エチルアミン)等の硫黄原子を有するアミン類等の脂肪族ジアミン類を主成分とすることが望ましく、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
<芳香族ジアミン>
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料のジアミン成分として、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等の芳香族ジアミンを含んでもよく、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、芳香族ジアミンと脂肪族ジアミンとを組み合わせてもよい。
【0035】
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、上記の酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、前駆体を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。ここで、酸無水物とジアミン成分は、ポリイミドの使用目的に応じて適宜選択できる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。有機溶剤の使用量としては、特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0036】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0037】
また、ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂には、ポリイミドの他に、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。ただし、可塑剤には、極性基を多く含有するものがあり、それが銅配線からの銅の拡散を助長する懸念があるため、可塑剤は極力使用しないことが好ましい。
【0038】
以上のようにして得られるポリイミド接着剤層(B)用の樹脂は、これを用いて接着剤層を形成した場合に優れた柔軟性と熱可塑性を有するものとなり、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などの配線部を保護するカバーレイフィルム用の接着剤として好ましい特性を有している。
【0039】
[カバーレイフィルムの製造]
本実施の形態のカバーレイフィルムは、例えば、以下に例示する方法で製造できる。
まず、第1の方法として、ポリイミド絶縁層(A)用のフィルム材の片面にポリイミド接着剤層(B)となる接着剤樹脂組成物を溶液の状態(例えば、溶剤を含有するワニス状)で塗布した後、例えば60〜220℃の温度で熱圧着させることにより、ポリイミド絶縁層(A)とポリイミド接着剤層(B)を有するカバーレイフィルムを形成できる。
【0040】
また、第2の方法として、任意の基材上に、ポリイミド接着剤層(B)用の接着剤樹脂組成物を溶液の状態(例えば、溶剤を含有するワニス状)で塗布し、例えば80〜180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより、ポリイミド接着剤層(B)用の接着剤フィルムを形成し、この接着剤フィルムを、ポリイミド絶縁層(A)用のフィルム材と例えば60〜220℃の温度で熱圧着させることによっても、本実施の形態のカバーレイフィルムを形成できる。なお、ポリイミド接着剤層(B)は、任意の基材上に、例えばスクリーン印刷により接着剤樹脂組成物を溶液の状態で塗布して塗布膜を形成し、これを例えば80〜180℃の温度で乾燥させてフィルム化して使用することもできる。
【0041】
[回路基板]
回路基板は、以上のようにして得られるカバーレイフィルムを備えている限り、その構成に特に制限はない。回路基板の好ましい形態は、例えば、少なくとも基材と、基材上に所定のパターンで形成された銅などの金属からなる配線層と、該配線層を覆うカバーレイフィルムとを備えている。回路基板の基材としては、特に限定する趣旨ではないが、FPCの場合は、上記カバーレイ用フィルム材と同様の材質を用いることが好ましく、ポリイミド製の基材を用いることが好ましい。回路基板は、カバーレイフィルムを用いることにより、接着剤層が配線間に充填され、カバーレイフィルムと配線層との高い密着性が得られる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
なお、実施例及び参考例における各特性の評価は次のようにして評価した。
【0044】
[誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名E8363C)ならびにSPDR共振器を用いて、周波数10GHzにおける樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0045】
[引張弾性率の測定]
引張弾性率は、以下の手順で測定した。まず、テンションテスター(オリエンテック製テンシロン)を用いて、樹脂シート(硬化後の樹脂シート)から、試験片(幅12.7mm×長さ127mm)を作製した。
この試験片を用い、50mm/minで引張試験を行い、25℃における引張弾性率を求めた。
【0046】
[全光線透過率の測定]
厚み約12μmのポリイミドフィルムを30mm×30mmに切断したサンプルについて、濁度計(日本電色工業社製、商品名:HAZE METER NDH5000)を用いて、JISK7136に準拠した方法で全光線透過率を測定した。
【0047】
[銅箔の表面粗度の測定]
AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m )を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲について測定し、十点平均粗さ(Rz)を求めた。
【0048】
[伝送損失の測定]
銅張積層板を回路加工し、特性インピーダンスを50Ωとしたマイクロストリップ線路を回路加工したサンプルを使用し、回路加工した側(伝送線路側)にカバーレイフィルムを熱圧着した評価サンプルを使用した。SOLT法(SHORT−OPENLOOD−Thru)にて校正したベクトルネットワークアナライザにより、所定の周波数領域でSパラメータを測定することにより、S21(挿入損失)で評価を行った。なお、測定に使用した評価サンプルは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0049】
[粘度の測定]
粘度は、E型粘度計を用いて測定することにより求めた。
【0050】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0051】
実施例及び参考例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BPDA:3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PDA :パラフェニレンジアミン
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
N−12:ドデカン二酸ジヒドラジド
OP935:ホスフィン酸のアルミニウム塩(クラリアントジャパン株式会社製、商品名;エクソリットOP935、リン含有量;23%、平均粒径:2μm)
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
銅箔:Rz=0.35μm、厚み;12μm
黒色PIフィルム1:表1に記載の物性を示すポリイミドフィルム、厚み;12μm
黒色PIフィルム2:表1に記載の物性を示すポリイミドフィルム、厚み;12μm
黒色PIフィルム3:表1に記載の物性を示すポリイミドフィルム、厚み;12μm
褐色PIフィルム:東レ・デュポン株式会社製、商品名;カプトン50EN−S、厚み;12μm
【0052】
【表1】
【0053】
(合成例1)
<ポリイミド絶縁層用の樹脂の調製>
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、14.00gのm‐TB(0.066モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、6.73gのBPDA(0.023モル)及び9.26gのPMDA(0.042モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを調製した。ポリアミド酸溶液aにおける固形分濃度は15重量%であり、溶液粘度は20,600cpsであった。
【0054】
(合成例2)
<ポリイミド絶縁層用の樹脂の調製>
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、19.66gのBAPP(0.0479モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.34gのPMDA(0.0474モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液bを調製した。ポリアミド酸溶液bにおける固形分濃度は15重量%であり、溶液粘度は4,500cpsであった。
【0055】
<回路基板の作製>
実施例及び参考例に用いた回路基板の作製は、以下の作製例1によるものである。
【0056】
[作製例1]
銅箔上に、ポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分加熱乾燥して溶媒を除去した。その上にポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが、約18μmとなるように均一に塗布した後、120℃で3分加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分加熱乾燥して溶媒を除去した。その後、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面銅張積層板を調製した。この片面銅張積層板のポリイミド絶縁層側に、銅箔を重ね合わせ、温度360℃、圧力6.7MPaの条件で15分間熱圧着して、両面銅張積層板を調製した。得られた両面銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔の片面に対して所定のパターンの配線加工を形成し、回路配線板を得た。
【0057】
<ポリイミド接着剤層用の樹脂の調製>
(合成例3)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、44.98gのBTDA(0.139モル)、75.02gのDDA(0.140モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、40℃で30分間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4.5時間加熱、攪拌し、112gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド接着剤溶液aを調製した。
ポリイミド接着剤溶液aにおける固形分は29.1重量%であり、粘度は7,800cpsであった。また、ポリイミド接着剤溶液aの重量平均分子量(Mw)は87,700であった。
【0058】
<ポリイミド接着剤層用の樹脂の調製>
(合成例4)
合成例3で調製したポリイミド接着剤溶液aの34.4g(固形分として10g)、1.25gのN−12及び2.5gのOP935を配合し、1.297gのN−メチル−2−ピロリドン及び3.869gのキシレンを加えて希釈してポリイミド接着剤溶液bを調製した。
【0059】
(作製例2)
<接着層用の樹脂シートの調製>
合成例4で調整したポリイミド接着剤溶液bを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、80℃で15分間乾燥を行った後、剥離することによって、樹脂シート1a(厚さ;25μm)を調製した。160℃で120分間熱処理した樹脂シート1aの誘電率(Dkb)及び誘電正接(Dfb)はそれぞれ、2.78及び0.0023であり、誘電係数Db(√Dkb×Dfb)は0.004であった。引張弾性率は0.6GPaであった。
【0060】
(実施例1)
合成例4で調製したポリイミド接着剤溶液bを乾燥後の厚みが約12μmとなるように、黒色PIフィルム1の片面に塗布した後、80℃で15分間加熱乾燥して黒色カバーレイフィルム1を調製した。作製例1で得た回路配線板の配線上に、黒色カバーレイフィルム1の接着性ポリイミド層が接するように積層後、160℃で120分間、2MPaの圧力をかけて圧着することで回路基板1を作製した。
【0061】
(実施例2〜5)及び(参考例1〜4)
カバーレイフィルムにおける黒色PIフィルムの種類とポリイミド接着剤層の厚みが表2に示す組み合わせであること以外は、実施例1と同様に回路基板2〜9を作製した。なお、参考例2は褐色ポリイミド絶縁層厚み12μm、接着剤層厚み25μm、誘電率(Dkc)3.4、誘電正接(Dfc)0.0164の汎用褐色カバーレイフィルムである。
【0062】
実施例1〜5及び参考例1〜4の結果をまとめて表2、表3及び
図1に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表2及び表3に示すように、条件(a)〜(d)を具備する実施例1〜5の黒色カバーレイフィルムは、優れた高周波伝送特性を有するものであった。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。