【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載アドレス http://htsj−conf.org/symp2017/proceedings.html 掲載日 平成29年5月15日(講演論文集の公開日)
【解決手段】蓄熱材101として用いるAMPは、結晶転移温度(約80℃)以上まで昇温させることで、固相−固相相変化を生じ、蓄熱するという性質を有する。そして、AMPは、蓄熱後に降温させることで、固相の過冷却状態に遷移させることができ、蓄熱を維持したままAMPの温度を下げることができるという性質を有する。さらに、AMPは、過冷却状態のAMPを冷結晶化させることで、結晶転移による放熱を行わせることができるという性質を有する。
固相−固相相変化物質として、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMP)を含む蓄熱材を、前記AMPの結晶転移温度以上まで昇温させて前記蓄熱材に蓄熱させる第1工程と、
前記第1工程の後、前記蓄熱材を過冷却状態まで降温させる第2工程と、
を有する、蓄熱材の使用方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明、例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。なお、以下の説明および参照される図面は、当業者が本発明を理解するために提供されるものであって、本発明の請求の範囲を限定するためのものではない。
【0014】
<蓄熱材>
本発明では、蓄熱材として、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(2-amino-2-methyl-1,3-propanediol:AMP)を用いる。AMPは、固相−固相PCMを用いた潜熱蓄熱材として利用することができる。以下、AMPの性質について説明する。
【0015】
AMPは、融点(約110℃)未満の温度範囲において、2つの平衡状態(第1固相、第2固相)と1つの非平衡状態(第3固相)を取り得ることが分かっている。(例えば、下記の参考文献1参照)。
[参考文献1]M.Barrio,J.Font,D.O Lopez, Journal of Phase Equilibria 12−4(1991),409
【0016】
AMPは室温(例えば25℃)において第1固相である。この状態からAMPの温度を上昇させていくと、結晶転移温度(約80℃)にて第1固相から第2固相への結晶転移が生じる。この結晶転移に伴ってAMPは蓄熱を行う。
【0017】
第2固相からAMPの温度を下降させていくと、AMPは結晶転移温度以下となっても第2固相から第1固相に相変化せず、第2固相の過冷却状態(準安定状態)となる。なお、本明細書では、説明をわかりやすくするため、この第2固相の過冷却状態を便宜上第3固相と記載する。AMPが第3固相まで降温されても上記結晶転移の際の蓄熱は放出されていないので、この第3固相においてもAMPは蓄熱された状態である。すなわち、AMPは固相の過冷却状態となることができ、AMPを過冷却状態で安静に保持することにより、AMPが蓄熱した状態を維持させることができる。
【0018】
AMPが過冷却状態となった後、ある温度(以下、最低温度T
minと記載する)で降温をやめ、再度AMPを昇温させると、AMPは以下の2つのうち、いずれかの挙動を示す。なお、以下の説明において、蓄熱後に最低温度T
minまで降温させてから、再度昇温させることを再昇温と記載することがある。
【0019】
第1の挙動は、冷結晶化温度にて冷結晶化(第3固相(第2固相の過冷却状態)から第1固相への結晶転移)が生じ、上記結晶転移の際に蓄えた熱を放出する挙動である。AMPの冷結晶化温度は、蓄熱材として用いるAMPの質量や、最低温度T
minによって変動するが、例えば7℃〜13℃、または24℃〜40℃であることが実験により確認されている(後述の実施例1および2を参照)。この後さらに昇温させると、上記と同様に結晶転移温度(約80℃)にて第1固相から第2固相への結晶転移が生じ、AMPは蓄熱を行う。すなわち、AMPは温度を制御することにより、繰り返し蓄熱と放熱とを行うことができる。
【0020】
なお、AMPは−50℃付近にガラス転移点を有し、ガラス転移点以下まで冷却が行われた場合、AMPは第3固相からガラスへと転移する。その後AMPが再昇温されると、ガラス転移点にてガラスから第3固相への転移が生じ、さらにその後冷結晶化温度において上記と同様に冷結晶化(第3固相から第1固相への結晶転移)が生じる。
【0021】
第2の挙動は、冷結晶化温度を超えても冷結晶化せず、第3固相(第2固相の過冷却状態)のまま温度が上昇する挙動である。第2の挙動では、AMPは過冷却状態のままであるため、蓄熱が維持されたままAMPの温度を室温付近まで戻すことができる。これにより、AMPを用いた蓄熱材のハンドリングが容易となる。
【0022】
AMPを再昇温させた場合に、AMPが上記いずれの挙動を示すかは、AMPの質量と、最低温度T
minと、によって決まることが実験によって分かっている。
図1は、AMPの質量および最低温度T
minと、再昇温時にAMPが示す挙動との関係について説明するための図である。
【0023】
図1の縦軸はAMPの質量であり、横軸は降温時の最低温度T
minである。
図1は縦軸、すなわちAMPの質量を対数とした片対数グラフである。
【0024】
なお、本明細書において、AMPの質量とは、蓄熱材として使用されるひとかたまり(バルク)のAMPの質量を意味する。換言すれば、本明細書におけるAMPの質量とは、例えば比較的小さい複数の粒のAMPの質量の合計ではない、ということである。
【0025】
図1において、○印は、第1の挙動、すなわち、再昇温時に冷結晶化に伴う放熱が生じる挙動に対応しており、×印は、第2の挙動、すなわち、再昇温時に冷結晶化が生じず、放熱しない挙動に対応している。また、△印は、10回実験を行った場合に第1の挙動を示した確率が0%より高く100%未満であることを示している。
【0026】
図1によれば、AMPの質量が小さいほど、最低温度T
minを低くしなければ、再昇温時に冷結晶化に伴う放熱が発生しないことが分かる。一方、AMPの質量が比較的大きければ、最低温度T
minをそれほど低くしなくても再昇温時に冷結晶化に伴う放熱が発生することが分かる。また、最低温度T
minを10℃未満(例えば0℃以下)にしなければ、質量にかかわらず再昇温時に冷結晶化に伴う放熱は生じないことが分かる。
【0027】
AMPが上記説明したような挙動を示す理由は、例えば以下のように推測される。すなわち、AMPを
図1の○印で示すように質量に対応した所定の最低温度まで降温させると、過冷却状態である第3固相の内部に第1固相の結晶核が生じ、成長する。この状態でAMPが再昇温され冷結晶化温度を超えると、この結晶核を起点にして冷結晶化が生じる。一方、AMPを
図1の×印で示すように所定の最低温度まで降温させない場合、内部に結晶核が発生しないためAMPが再昇温され冷結晶化温度を超えても、冷結晶化が生じない(生じにくい)。
図1の△印では、第3固相の内部に結晶核が生じる場合と生じない場合とに分かれる。これは、AMPの質量および最低温度によっては、第3固相のAMPの内部に結晶核が生じるか否かは確率の問題だからである。
【0028】
ここで、第3固相の内部に第1固相の結晶核が生じるか否かは確率に基づくため、AMPのバルクの質量が大きいほど、同じ温度でも第3固相の内部に第1固相の結晶核が生じやすい。このため、質量が大きいほど、最低温度T
minをそれほど低くしなくても再昇温時に冷結晶化に伴う放熱が発生することになる。
【0029】
図1ではAMPの質量と最低温度T
minとの関係の一部についてのみ例示しているが、実際には質量と最低温度T
minとのより詳細な関係に関する情報(以下、最低温度設定情報と称する)が、例えば実験等により予め得られていることが望ましい。最低温度設定情報は、例えば後述する記憶部103に予め記憶されている。
【0030】
なお、AMPが過冷却状態であるとき、AMPを再昇温させる方法以外に、AMPに対して過冷却状態を解消させて放熱させるための契機(例えばAMPに衝撃を加える、AMPに種結晶を加える等)を付与する方法によって、AMPに放熱を行わせることができる。すなわち、過冷却状態のAMPに対して上記契機を付与すると、その時点でAMPの冷結晶化が開始され、第3固相から第1固相への結晶転移とそれに伴う放熱が生じる。
【0031】
以上説明したAMPの性質を簡単にまとめると、
図2のようになる。
図2は、AMPの相変化についてまとめた図である。
【0032】
以上、AMPの性質について説明した。次に、このような性質を有するAMPを蓄熱材として用いる場合の使用方法について説明する。
【0033】
<蓄熱材としてのAMPの使用方法>
AMPを蓄熱材として使用する場合の使用方法は、AMPに蓄熱させるための蓄熱工程と、AMPを過冷却状態とするための降温工程と、AMPを放熱させる場合の放熱工程と、を含む。なお、蓄熱工程は本発明の第1工程の一例であり、降温工程は本発明の第2工程の一例であり、放熱工程は本発明の第3工程の一例である。
【0034】
[蓄熱工程]
蓄熱工程では、室温(例えば25℃)のAMPを結晶転移温度以上(例えば100℃)まで昇温させる。これにより、AMPを結晶転移させて蓄熱させることができる。
【0035】
[降温工程]
降温工程では、蓄熱工程において結晶転移温度以上に昇温されたAMPを最低温度T
minまで降温させる。これにより、AMPを過冷却状態とすることができる。最低温度T
minは、蓄熱材として用いられるAMPの質量と、蓄熱材の使用目的(再昇温時に放熱させるか、任意のタイミングで放熱させるか)とに基づいて、上記
図1に例示した最低温度設定情報に基づいて予め設定される。
【0036】
[放熱工程]
放熱工程は、蓄熱材の使用目的が再昇温時における放熱である場合と、任意のタイミングでの放熱である場合の2種類の工程を有する。
【0037】
まず、蓄熱材の使用目的が再昇温時における放熱である場合、放熱工程では、降温工程においてT
minまで降温されたAMPを冷結晶化温度以上まで再昇温させる。これにより、過冷却状態であったAMPを冷結晶化させ、冷結晶化に伴う放熱をさせることができる。
【0038】
一方、蓄熱材の使用目的が任意のタイミングでの放熱である場合、蓄熱材の使用者が決定する任意のタイミングまで、AMPは過冷却状態のまま保持される。任意のタイミングにて、AMPに対して過冷却状態を解消させるための契機が付与されると、AMPの過冷却状態が解消されて冷結晶化が始まり、放熱が行われる。なお、衝撃等によっても過冷却状態は解消されてしまうため、過冷却状態のAMPは安静な状態で保持されることが望ましい。
【0039】
<蓄熱装置の説明>
次に、上記説明した性質を有するAMPを蓄熱材として用いた蓄熱装置について説明する。
図3は、蓄熱装置100の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、蓄熱装置100は、蓄熱材101と、温度制御部102と、記憶部103と、冷結晶化部104と、熱抽出部105と、を有する。
【0040】
蓄熱材101は、上記説明した性質を有するAMPを用いた蓄熱材である。
【0041】
温度制御部102は、蓄熱材101の温度を制御する。温度制御部102による蓄熱材101の温度制御の例を
図4に示す。
図4は、温度制御部102による蓄熱材101の温度制御の一例を示すフローチャートである。なお、
図4のスタート時点では、蓄熱材101の温度(以下T
AMPと記載する)は室温(例えば25℃)付近であり、また蓄熱材101は蓄熱していないとする。
【0042】
ステップS101において、温度制御部102は、蓄熱材101を昇温させる。
【0043】
ステップS102において、温度制御部102は、蓄熱材101の温度T
AMPが結晶転移温度(約80℃)を超えたか否かを判定する。T
AMPが結晶転移温度を超えた場合(ステップS102:YES)、温度制御部102は処理をステップS103に進め、そうでない場合(ステップS102:NO)、処理をステップS101に戻す。AMPの温度が結晶転移温度を超えることにより、上記したようにAMPは第1固相から第2固相へと結晶転移して蓄熱する。
【0044】
ステップS103において、温度制御部102は、蓄熱材101を降温させる。これにより、AMPは過冷却状態(第3固相)へと移行する。
【0045】
ステップS104において、温度制御部102は、蓄熱材101の温度T
AMPが予め設定された最低温度T
min以下となったか否かを判定する。T
AMPがT
min以下であった場合、温度制御部102は、温度制御を終了し、そうでない場合、処理をステップS103に戻す。
【0046】
蓄熱装置100の構成の説明に戻る。記憶部103は、蓄熱材101として用いられているAMPの質量に関する情報と、上記
図1に示すような、蓄熱装置100の使用目的に応じた、AMPの質量および最低温度T
minとの関係を示す情報(上記説明した最低温度設定情報)と、を記憶する。記憶部103に記憶されたこれらの情報と、蓄熱装置100の使用目的に関する情報と、を用いて、例えば温度制御部102は、上記説明したステップS104にて用いられるパラメータである最低温度T
minを設定する。温度制御部102による最低温度T
minの設定は、
図4に例示する温度制御処理の開始より前に行われ、記憶部103に最低温度T
minに関する情報が予め記憶されることが望ましいが、ステップS104より前であればどの時点で行われてもよい。また、最低温度T
minの設定は、温度制御部102ではなく図示しない他の構成が行ってもよい。
【0047】
蓄熱装置100の使用目的に関する情報とは、蓄熱装置100の使用目的が再昇温時の放熱と、任意タイミングでの放熱と、のどちらであるかを示す情報である。当該情報は、例えば予め設定されて記憶部103に記憶されていてもよいし、例えば図示しない操作部等を介して、蓄熱装置100の使用者等によって随時入力されてもよい。
【0048】
また、記憶部103は、蓄熱装置100の使用目的に応じた最低温度設定情報を、例えばマップ形式やテーブル形式等で記憶していることが望ましい。
【0049】
冷結晶化部104は、温度制御部102によって過冷却状態となった蓄熱材101に対して、所定の処理を行って冷結晶化させる。蓄熱材101(AMP)の冷結晶化に伴って、蓄熱材101に蓄えられていた熱量が放出される。所定の処理の一例を
図5に示す。
図5は、冷結晶化部104による冷結晶化処理の一例を示すフローチャートである。
【0050】
ステップS201において、冷結晶化部104は、上記した蓄熱装置100の使用目的に関する情報に基づいて、蓄熱装置100の使用目的が、任意タイミングでの放熱ではなく、再昇温時の放熱であるか否かを判定する。冷結晶化部104は、使用目的が再昇温時の放熱であると判定した場合(ステップS201:YES)、処理をステップS202に進め、そうでない場合(ステップS201:NO)、処理をステップS203に進める。
【0051】
再昇温時の放熱が目的である場合、ステップS202において、冷結晶化部104は、蓄熱材101を冷結晶化温度以上まで再昇温させる。過冷却状態のAMPが冷結晶化温度以上まで再昇温されることにより、上記したようにAMPは冷結晶化を生じ、放熱する。
【0052】
一方、任意タイミングでの放熱が目的である場合、ステップS203において、冷結晶化部104は、放熱すべきタイミングが訪れたか否かの判定を行う。放熱すべきタイミングとは、例えば蓄熱装置100の利用者によって決定されるタイミングであり、冷結晶化部104は、例えば図示しない操作部等に対する入力操作に基づいて放熱すべきタイミングであるか否かを判定する。冷結晶化部104は、放熱すべきタイミングであると判定した場合(ステップS203:YES)、処理をステップS204に進め、そうでない場合(ステップS203:NO)、ステップS203を繰り返す。
【0053】
ステップS204において、冷結晶化部104は、過冷却状態の蓄熱材101に対して放熱契機を付与する。放熱契機とは、蓄熱材101の過冷却状態を解消させて冷結晶化させるための契機である。放熱契機の具体例としては、例えば蓄熱材101に対して衝撃や種結晶を加えること等が挙げられる。これにより、過冷却状態の蓄熱材101が冷結晶化し、それに伴って放熱する。
【0054】
以上説明したように、冷結晶化部104は、蓄熱装置100の使用目的に応じて、蓄熱材101を再昇温させる、または蓄熱材101に対して放熱契機を付与することにより、蓄熱材101の過冷却状態を解消させて放熱させる。
【0055】
蓄熱装置100の構成の説明に戻る。熱抽出部105は、蓄熱材101の放熱を外部に抽出する。熱抽出部105は、例えば熱交換器により構成される。
【0056】
なお、上記説明した蓄熱装置100の構成は一例であり、本発明はこれに限定されない。例えば、上記説明において、再昇温時の放熱が目的である場合、冷結晶化部104が再昇温させるように説明したが、本発明はこれに限定されず、再昇温を温度制御部102が行うようにしてもよい。この場合、冷結晶化部104の機能の一部を温度制御部102が担うことになる。
【0057】
<蓄熱材としてAMPを用いた場合の利点>
以上、AMPを蓄熱材101として用いた蓄熱装置100の構成について説明した。以下では、蓄熱装置100の蓄熱材としてAMPを用いた場合の利点について具体例を挙げて説明する。
【0058】
まず、AMPは融点(約110℃)未満の温度範囲において、第1固相、第2固相、第3固相およびガラスの間で相変化を行う固相−固相PCMである。このため、液相−固相PCMを用いた蓄熱材では必要となる流出防止用の容器等が不要となり、取り扱いが容易となるとともに、蓄熱装置100の小型化および製造コスト低減が可能となる。また、容器が不要であるため、容器を介して熱を取り出すことによる熱損失を低減する(接触熱抵抗を低く抑える)ことができる。さらに、固相から固相への相変化による体積の変化率は、液相から固相への相変化による体積変化率より一般に小さいため、蓄熱装置100の設計時に、蓄熱材101の体積変化を考慮する必要が小さくなる。
【0059】
また、AMPを結晶転移温度以上まで昇温させて蓄熱させた後、例えば室温以下(例えば−50℃等)まで降温させても、放熱が生じない。一般の蓄熱材では、蓄熱後に降温させると放熱してしまうが、AMPの場合降温による放熱が生じないので、AMPを用いた蓄熱材101では、蓄えた熱が自然に放熱してしまうことがなく、熱を有効に利用することが可能となる。
【0060】
また、蓄熱させた後、AMPを降温させてからさらに再度昇温させる場合に、AMPは最低温度T
minによって異なる2つの挙動を示す。第1の挙動では、AMPは昇温中に冷結晶化温度付近で冷結晶化に伴う放熱を生じる。一方、第2の挙動では、AMPは昇温させても冷結晶化せず、放熱しない。
【0061】
このため、最低温度T
minを好適に設定することによって、蓄熱装置100に使用目的に応じた挙動を取らせることが可能となる。すなわち、蓄熱装置100の利用者は、使用目的によって蓄熱装置100の挙動を任意に選択できるため、蓄熱装置100の使い勝手が向上する。
【0062】
再昇温時の放熱が目的である(第1の挙動が選択された)場合、蓄熱材101は温度上昇を補助する温度上昇補助材として利用されうる。具体的な利用方法として、例えば電気自動車等のヒータに蓄熱装置100を用いることで、車内を暖めるために必要な消費電力量を低減させることができる。
【0063】
任意タイミングでの放熱が目的である(第2の挙動が選択された)場合、蓄熱材101は例えば0℃より高い温度(例えば10℃以上)(
図1参照)では温度によらず蓄熱を継続することができる。すなわち、蓄熱材101の温度を室温付近とすることができるので、蓄熱継続の際の蓄熱材101の維持が容易である。また、多少の温度変化が生じても蓄熱材101は放熱しないので、蓄熱装置100の使い勝手が向上する。
【0064】
さらに、過冷却状態を解消させるための契機を蓄熱材101に対して付与することにより、任意のタイミングで冷結晶化を生じさせ、放熱させることができる。このため、特定のタイミングでしか放熱できない場合と比較して、蓄熱装置100の使い勝手が向上する。
【0065】
<作用・効果>
以上説明したように、本発明の蓄熱材は、固相−固相相変化物質(PCM)として、 2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMP)を含む。
【0066】
AMPは、結晶転移温度(約80℃)以上まで昇温させることで、固相−固相相変化を生じ、蓄熱するという性質を有する。そして、AMPは、蓄熱後に降温させることで、固相の過冷却状態に遷移させることができ、蓄熱を維持したままAMPの温度を下げることができるという性質を有する。さらに、AMPは、過冷却状態のAMPを冷結晶化させることで、結晶転移による放熱を行わせることができるという性質を有する。
【0067】
また、AMPは、蓄熱後降温させるときの最低温度T
minをAMPの質量に応じて適切に設定することにより、降温後に再昇温させる場合に2つの挙動のいずれかを取らせることができるという性質を有する。第1の挙動では、AMPは再昇温中に冷結晶化温度付近で冷結晶化に伴う放熱を生じる。一方、第2の挙動では、AMPは再昇温させても冷結晶化せず、放熱しない。
【0068】
本発明は、このような性質を有するAMPを蓄熱材として用いることにより、以下のような効果を奏する。すなわち、AMPは固相−固相PCMであるため、液相−固相PCMを用いた蓄熱材では必要となる流出防止用の容器等が不要となり、取り扱いが容易となるとともに、AMPを蓄熱材として用いた蓄熱装置の小型化および製造コスト低減が可能となる。また、容器が不要であるため、容器を介して熱を取り出すことによる熱損失を低減する(接触熱抵抗を低く抑える)ことができる。さらに、固相から固相への相変化による体積の変化率は、液相から固相への相変化による体積変化率より一般に小さいため、蓄熱装置の設計時に、蓄熱材として用いるAMPの体積変化を考慮する必要が小さくなる。
【0069】
また、AMPを結晶転移温度以上まで昇温させて蓄熱させた後、例えば室温以下(例えば−50℃等)まで降温させても、放熱が生じない。一般の蓄熱材では、蓄熱後に降温させると放熱してしまうが、AMPの場合降温による放熱が生じないので、AMPを用いた蓄熱材では、蓄えた熱が自然に放熱してしまうことがなく、熱を有効に利用することが可能となる。
【0070】
また、蓄熱させた後、AMPを降温させてからさらに再度昇温させる場合に、AMPは最低温度T
minによって異なる2つの挙動を示す。
【0071】
このため、最低温度T
minを好適に設定することによって、蓄熱装置100に使用目的に応じた挙動を取らせることが可能となる。すなわち、蓄熱装置100の利用者は、使用目的によって蓄熱装置100の挙動を任意に選択できるため、蓄熱装置100の使い勝手が向上する。
【0072】
AMPに再昇温時の放熱を行わせる(第1の挙動が選択された)場合、AMPは温度上昇を補助する温度上昇補助材として利用されうる。具体的な利用方法として、例えば電気自動車等のヒータにAMPを用いることで、車内を暖めるために必要な消費電力量を低減させることができる。
【0073】
AMPに再昇温時に放熱させない(第2の挙動が選択された)場合、AMPは温度によらず蓄熱を継続することができる。すなわち、AMPの温度を室温付近とすることができるので、蓄熱継続の際のAMPの維持が容易である。また、多少の温度変化が生じてもAMPは放熱しないので、AMPを蓄熱材として用いた蓄熱装置の使い勝手が向上する。
【0074】
さらに、過冷却状態を解消させるための契機を蓄熱材に対して付与することにより、任意のタイミングで冷結晶化を生じさせ、放熱させることができる。このため、特定のタイミングでしか放熱できない場合と比較して、AMPを蓄熱材として用いた蓄熱装置の使い勝手が向上する。
【0075】
また、本発明の蓄熱装置は、固相−固相相変化物質として、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMP)を含む蓄熱材と、前記蓄熱材の温度を制御する温度制御部であって、前記蓄熱材を前記AMPの結晶転移温度以上まで昇温させて前記蓄熱材に蓄熱させ、その後前記蓄熱材を過冷却状態まで降温させる温度制御部と、を有する。
【0076】
このような構成により、本発明の蓄熱装置は、上記説明したようなAMPの性質を有効に利用し、効率のよい蓄熱と好適なタイミングでの放熱とを実現することができる。
【実施例1】
【0077】
次に、本発明の実施例として、AMPの蓄熱性能および放熱性能について具体例を挙げて説明する。以下示す実施例は、本発明の実施の例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
[実施例1]
実施例1では、AMPの蓄熱性能および放熱性能を、示差走査熱量計(DSC1;METTLER TOLEDO社)を用いて測定した。試料容器としてアルミニウムパン(40μL)を使用し、試料容器に5.38mgのAMPを載せて測定した。
【0079】
測定の前処理として、AMPを125℃まで加熱した後、30分間125℃を保持して完全融解させ、その後−50℃まで10℃/分で降温して、30分間−50℃で保持した。これにより、AMPが試料容器に完全に密着し、温度測定の精度を向上させることができる。測定温度範囲は、最低温度T
minから、結晶転移温度(約80℃)よりも高く、融点(約110℃)よりも低い温度(例えば100℃)の間とした。最低温度T
minは、−140℃から0℃の間で変化させた。最低温度および最高温度において、それぞれ10分ずつ温度を保持した。
【0080】
実施例1における1サイクルの流れは、以下の通りである。
(1)10分間材料を100℃で保持
(2)−10℃/分で降温
(3)10分間材料を最低温度T
minで保持
(4)+10℃/分で再昇温
【0081】
実施例1では、上記を1サイクルとして12サイクル繰り返し、AMPの温度変化とヒートフローとを測定した。なお、本実施例1において、昇温および降温は窒素雰囲気中で行った。窒素流量は30ml/分であった。
【0082】
下記表1は、実施例1における測定結果を示す表である。また、
図6は、実施例1の1サイクル目(T
min=−120℃)における測定結果を示すDSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線を示す図である。
【0083】
【表1】
【0084】
図6に示すように、昇温過程において、結晶転移温度である80℃付近(約357K)で結晶転移による蓄熱ピークP1が観察される。その後の降温過程において結晶転移による放熱は確認されず、−50℃付近(約223K)にガラス転移点と推測できる変化が観察された。
【0085】
降温過程によりAMPが約−120℃まで降温された後、再び昇温されると、−50℃付近(約223K)にガラス転移点と推測できる変化が再度観察された後、冷結晶化温度である8℃付近(約281K)にて冷結晶化と推測できる放熱ピークP2が観察された。
【0086】
図6において、蓄熱ピークP1は357.15Kであった。蓄熱ピークP1による蓄熱量は1106.57mJであり、単位質量あたりの蓄熱量は205.68J/gであった。
【0087】
一方、
図6において、放熱ピークP2は281.48Kであった。放熱ピークP2による放熱量は734.22mJであり、単位質量あたりの放熱量は136.47Kであった。
【0088】
また、表1に示すように、最低温度T
minが−50℃以下であるサイクルNo.1、2、3、5、6、10、11、12においてAMPは昇温時に放熱した。一方、最低温度が−50℃より高いサイクルNo.4(T
min=−20℃)、7(T
min=−20℃)、8(T
min=−30℃)、9(T
min=−40℃)では、昇温時に放熱しなかった。このような測定結果から、実施例1(AMP質量=5.38mg)では、T
minを−50℃以下とすることにより、昇温時に放熱させうることが分かる。
【0089】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と比較してAMPの質量が大きい場合について、AMPの蓄熱性能および放熱性能を測定した。実施例2では、実験装置として恒温槽(S−8−8200;THERMOTRON社)を用いた。実施例2では、試料容器としてアルミニウム製のネジスクリューキャップ缶(50mL)を使用した。実施例2では、4gと10gの2種類の質量のAMPを使用した。
【0090】
前処理として、試料容器に封入したAMPを125℃まで加熱した後、30分間125℃を保持することで完全融解させ、その後−50℃まで2℃/分で降温、30分間−50℃で保持した。
【0091】
実施例2において、測定温度範囲は、実施例1と同様、最低温度T
minから100℃とした。但し、実施例2においては最低温度T
minを、−10℃〜20℃の間で変化させた。最低温度および最高温度において、それぞれ25分ずつ温度を保持した。アルミニウムテープを用いて白金抵抗温度センサ(R060−33;株式会社チノー)を試料容器の底面に取り付け、温度計測を行った。また、試料容器にAMPを封入せずに同様の測定を行い、対照とした。
【0092】
実施例2における1サイクルの流れは、以下の通りである。
(1)25分間材料を100℃で保持
(2)−2℃/分で降温
(3)25分間材料を最低温度T
min(−10℃〜20℃)で保持
(4)+2℃/分で昇温
【0093】
実施例2では、上記1サイクル分を10回繰り返してAMPの温度変化とヒートフローとを測定した。
【0094】
下記表2および表3は、実施例2において、10サイクルのうち、昇温中に放熱したサイクルの確率を示す表である。表2はAMPが4gの場合を、表3はAMPが10gの場合を、それぞれ示している。
【表2】
【表3】
【0095】
表2および表3に示すように、AMPの質量が実施例1と比較して大きい実施例2では、再昇温時に放熱する確率が高い最低温度T
minが0℃となった。これにより、AMPの質量が大きくなると、最低温度T
minを−50℃等の低温まで下げなくとも再昇温時に放熱する確率が大幅に上昇していることが分かる。
【0096】
AMPが再昇温時に放熱する(=冷結晶化する)条件としては、再昇温前の降温時に、過冷却状態のAMP中に結晶核が発生し成長している必要がある。そして、AMP質量が大きいほど、AMPの温度が比較的高くても過冷却状態のAMP中に結晶核が発生しやすくなる。このような理由により、AMPの質量が大きいほど最低温度T
minが高くても再昇温時に放熱する確率が高くなると推測される。
【0097】
また、
図7は、実施例2において、AMPが4g、かつT
min=0℃とした場合のAMPの温度履歴を示すグラフである。実線がAMPの温度、破線が空気温度(対照)、一点鎖線がAMPと空気との温度差である。
図7に示すように、約76℃〜96℃付近でAMPの温度が空気温度よりも低くなっており、AMPが蓄熱していることが分かる。また、再昇温時の24℃〜40℃付近でAMPの温度が空気温度よりも高くなっており、AMPが放熱していることが分かる。
【0098】
なお、上記説明した実施例1および実施例2のようなAMPの蓄熱性能および放熱性能の測定を、AMPの質量や最低温度T
min等の条件を変えて行うことで、上記
図1に示す、AMPの質量および最低温度T
minと、再昇温時にAMPが示す挙動との関係が取得された。
【0099】
[実施例3]
実施例3では、実施例1と同じ実験条件(すなわち、AMPの質量=5.38mg)で最低温度T
minを0℃として実験を行った。T
minで10分間保持したあと、温度T
h(=20℃,30℃,40℃,50℃,60℃)まで昇温させてそれぞれ30分間保持した。
【0100】
実施例3における1サイクルの流れは、以下の通りである。
(1)25分間材料を100℃で保持
(2)−10℃/分で降温
(3)25分間材料を最低温度T
min(0℃)で保持
(4)+10℃/分で昇温
(5)30分間材料を温度T
h(20℃,30℃,40℃,50℃,60℃)で保持
(6)+10℃/分で昇温
【0101】
実施例3では、AMPを蓄熱させた後0℃まで降温させ、20℃から60℃のいずれの温度まで再昇温させても、放熱が測定されなかった。すなわち、実施例2と比較してAMPの質量が小さいため、最低温度T
min=0℃では冷結晶化の条件となる結晶核の発生が起こらなかったものと推測される。
【0102】
[実施例4]
実施例4および5は、最低温度T
minが比較的高く、再昇温時に放熱が生じない場合に放熱契機を付与して任意タイミングで放熱させることを試みた。実施例4および5では、実施例2と同様に、実験装置として恒温槽(S−8−8200;THERMOTRON社)を用いた。試料容器としてアルミニウム製のネジスクリューキャップ缶(100mL)を使用し、7gのAMPを封入した。測定の前処理として130℃まで加熱することで完全融解させ、その後室温(25℃)まで自然降温させた。
【0103】
その後、融解後、固まったAMPの上に、種結晶として5.17mgのAMPを載置した。また、アルミニウムテープを用いて白金抵抗温度センサ(R060−33;株式会社チノー)を試料容器の底面に取り付け、温度計測を行った。
【0104】
図8A〜
図8Cは、種結晶をAMPに加えてからの経時的変化を示す写真である。
図8Aは5秒後、
図8Bは270秒後、
図8Cは660秒後の写真である。これらの写真において、中央下部の領域に種結晶を載置している。また、
図9は、種結晶をAMPに加えてからの、AMPの温度の経時的変化を示すグラフである。
図9において、実線はAMPの温度、破線は空気温度(対照)である。
図8A〜
図8Cに示すように、種結晶をAMPに加えてから時間が経過するとともに、種結晶を起点として白色に変化する領域が広がる、すなわち結晶転移が進行していくことが確認できた。また、
図9に示すように、種結晶を投入して結晶転移が進むにつれて、AMPの温度も上昇し、結晶転移による放熱が確認された。
【0105】
[実施例5]
実施例5では、実施例4と同様の条件でAMPを室温まで降温させて固まらせた後、はさみの先端で衝撃を加えた。
図10A〜
図10Eは、AMPに衝撃を加えてからの経時的変化を示す写真である。
図10Aは0秒後、
図10Bは5秒後、
図10Cは60秒後、
図10Dは120秒後、
図10Eは180秒後の画像である。
図10Aにははさみも写っている。また、
図11は、AMPに衝撃を加えてからの、AMPの温度の経時的変化を示すグラフである。
図11において、実線はAMPの温度、破線は空気温度(対照)である。
図10A〜
図10Eに示すように、衝撃を与えた場所を起点として、白色に変化、すなわち結晶転移が進行していくことが確認できた。また、種結晶を投入して結晶転移が進むにつれて、
図11に示すようにAMPの温度も上昇し、結晶転移による放熱が確認された。