【解決手段】熱プレスロールを用い銅箔(A)とポリイミドフィルム等の積層体(B)を加熱圧着させる加熱圧着工程と、再加熱工程とを有するフレキシブル銅張積層板の製造方法であって、前記積層体(B)におけるポリイミド層が、熱可塑性ポリイミド層(ii)を接着層として有する複数層のポリイミド層からなり、加熱圧着工程のラミネート温度T1が熱可塑性ポリイミド層(ii)のガラス転移温度以上であり、再加熱工程における加熱処理温度T2をT1以上とすることで、加熱圧着工程後の銅箔(A)の厚み方向でのX線回折によって求めた(200)面の回折強度(I)と微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面回折強度(Io)との関係をI/Io>100となるようにする。
ポリイミド層と、該ポリイミド層の一方の面に設けられた第1の銅箔層(A1)と、該ポリイミド層のもう一方の面に設けられた第2の銅箔層(A2)と、を備えたフレキシブル銅張積層板であって、以下のa〜dの構成:
a)ポリイミド層は複数層からなり、前記銅箔層(A1、A2)との各積層面として第1の熱可塑性ポリイミド層(iia)と第2の熱可塑性ポリイミド層(iib)とを備え、前記熱可塑性ポリイミド層(iia)及び前記熱可塑性ポリイミド層(iib)のガラス転移温度がいずれも260℃以上であること;
b)第1の銅箔層(A1)は、厚さ(t1)が9〜18μmの範囲内であり、X線回折によって求めた(200)面の回折強度(I)と微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面の回折強度(I0)との関係がI/I0>100である銅箔からなること;
c)第2の銅箔層(A2)は、厚さ(t2)が9〜18μmの範囲内であり、X線回折によって求めた(200)面の回折強度(I)と微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面の回折強度(I0)との関係がI/I0>100であるラミネート面銅箔からなること;
d)前記銅箔層(A1)におけるI/I0の値(I1)と前記銅箔層(A2)におけるI/I0の値(I2)の差が5〜10の範囲内であること;
を具備するフレキシブル銅張積層板。
前記熱可塑性ポリイミド層(iia)及び前記熱可塑性ポリイミド層(iib)を構成する酸無水物成分は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル銅張積層板。
前記熱可塑性ポリイミド層(iia)及び前記熱可塑性ポリイミド層(iib)を構成するジアミン成分は、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブル銅張積層板。
前記熱可塑性ポリイミド層(iia)及び前記熱可塑性ポリイミド層(iib)を構成する酸無水物成分の主成分はピロメリット酸二無水物であり、前記熱可塑性ポリイミド層(iia)及び前記熱可塑性ポリイミド層(iib)を構成するジアミン成分の主成分は2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフレキシブル銅張積層板。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るフレキシブル銅張積層板の製造方法について述べながら、ポリイミド層と、該ポリイミド層の両面に設けられた第1及び第2の銅箔層(A1、A2)とを備えたフレキシブル銅張積層板について説明する。
本発明のフレキシブル銅張積層板の製造方法では、銅箔(A)と、該銅箔(A)との積層面としての接着層を備えるポリイミドフィルム若しくは金属層付ポリイミド積層体(B)とを加熱圧着させるわけであるが、その加熱圧着には一対の熱プレスロールが用いられる。
【0015】
熱プレスロールとしては、金属ロールやその表面を樹脂被覆した樹脂被覆金属ロール等が挙げられるが、銅箔(A)とポリイミドフィルム若しくは金属層付ポリイミド積層体(B)との積層(ラミネート)は、比較的高温で行うことが好ましいことから、ロール表面に使用する材質の耐熱性やロール内部からの加熱を表面に伝熱する必要があり、そのような観点から金属ロールが好ましく、その表面の表面粗さ(Ra)は0.01〜5μm、特には0.1〜3μmの粗面化状態とすることが好ましい。
【0016】
本発明では、上記一対の熱プレスロール間に、銅箔(A)とポリイミドフィルム若しくは金属層付ポリイミド積層体(B)とが導入され加熱圧着される。本明細書中では、この工程を加熱圧着工程というが、銅箔(A)と加熱圧着される対象物は、ポリイミドフィルム若しくは金属層付ポリイミド積層体(B)であり、銅箔(A)とポリイミドフィルムの接着層とが貼り合わされるか、又は、銅箔(A)と金属層付ポリイミド積層体(B)における接着層とが貼り合わされる。
【0017】
このうち、ポリイミドフィルム(B)としては、前記銅箔(A)との積層面に接着層を有していればよく、このようなものとしては、ガラス転移温度260℃以上である単層の熱可塑性ポリイミドフィルムのほか、非熱可塑性ポリイミド層の片面若しくは両面にガラス転移温度260℃以上の熱可塑性ポリイミド層を有する複数のポリイミド層から構成されるポリイミドフィルムが挙げられる。上記ポリイミドフィルム(B)は、公知の手法で製造準備することができる他、市販のポリイミドフィルムを使用することもできる。市販のポリイミドフィルムとしては、東レデュポン製のカプトンEN等が挙げられる。また、市販の低熱膨張性ポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミド層(ii)を与えるポリイミド前駆体の樹脂溶液を塗布、硬化させてもよい。
【0018】
また、金属層付ポリイミド積層体(B)としては、銅箔等の金属箔上に単層若しくは複数層のポリイミド層を設けたものが挙げられる。ポリイミドが単層の場合、そのポリイミド層自体が接着層となるため、ポリイミドはガラス転移温度260℃以上の熱可塑性ポリイミド層(ii)からなる必要があるが、ポリイミドが複数層の場合には、少なくとも前記銅箔(A)との積層される面が熱可塑性ポリイミド層(ii)であればよい。このような金属層付ポリイミド積層体(B)の構成としては、金属層/熱可塑性ポリイミド層(ii)/低熱膨張性ポリイミド層(i)/熱可塑性ポリイミド層(ii)や、金属層/低熱膨張性ポリイミド層(i)/熱可塑性ポリイミド層(ii)の構成が例示される。金属層付ポリイミド積層体(B)におけるポリイミドを複数層の構成とすることで、銅箔とポリイミドの接着強度や寸法安定性、半田耐熱性等のフレキシブル銅張積層板として要求される諸特性を満足することが出来る。なお、金属層を構成する金属箔としては、銅箔の他、アルミニウム箔、ステンレス箔が挙げられる。
【0019】
上記金属層付ポリイミド積層体(B)は、より具体的には、片面フレキシブル銅張積層板として準備することができる。片面フレキシブル銅張積層板は、長尺状の銅箔上に前記低熱膨張性ポリイミド層(i)や熱可塑性ポリイミド層(ii)を与えるポリイミド前駆体の樹脂溶液を逐次塗工乾燥し、硬化(イミド化)させることで得ることができる。本発明は、一対の熱プレスロールによる簡易的な手法でフレキシブル銅張積層板を連続的に効率よく製造することを1つの特徴としており、その観点から、金属層付ポリイミド積層体(B)を形成する銅箔は長尺状のものが用いられる。
【0020】
このような形態の銅箔はロール状に巻き取ったものが銅箔メーカーから市販され、それを使用することができる。また、本発明によれば、製造されたフレキシブル銅張積層板の銅箔から回路加工され形成された回路が、銅箔の持つ屈曲性能を最大限発現可能なものとすることができ、その観点から、最初に片面フレキシブル銅張積層板とする際に用いる銅箔にも、後に一対の熱プレスロールで加熱圧着される銅箔(A)と同じ圧延銅箔を使用することが好ましい。
【0021】
ポリイミド層を構成する低熱膨張性ポリイミド層(i)や熱可塑性ポリイミド層(ii)は、それらの特性を与えるその前駆体であるポリアミド酸をイミド化して得られるが、それらのポリアミド酸は、一般に公知のジアミンと酸二無水物とを求められるポリイミドの特性に合わせて適宜選択し、これらを有機溶媒中で合成することで得ることができる。重合される樹脂粘度は、例えば、500cps以上35,000cps以下の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
ポリイミドの原料として用いられるジアミンとしては、例えば、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,7-ジアミノジベンゾフラン、1,5-ジアミノフルオレン、ジベンゾ-p-ジオキシン-2,7-ジアミン、4,4'-ジアミノベンジルなどが挙げられる。
【0023】
また、ポリイミドの原料として用いられる酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0024】
上記ジアミン及び酸無水物は、それぞれ1種のみを使用してもよく2種以上を併用することもできる。また、重合に使用される溶媒は、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、1種又は2種以上併用して使用することもできる。
【0025】
ポリイミド層を熱膨張係数17×10
-6/K未満の低熱膨張性のポリイミド層(i)とするには、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリドを用いることがよく、特に好ましくは、ピロメリット酸二無水物及び2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルを原料各成分の主成分とするものがよい。
【0026】
また、ポリイミド層をガラス転移温度が260℃以上の熱可塑性ポリイミド層(ii)とするには、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用いることがよく、特に好ましくはピロメリット酸二無水物及び2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを原料各成分の主成分とするものがよい。
【0027】
本発明では、ポリイミドフィルムを使用する場合も、金属層付ポリイミド積層体を使用する場合のいずれの場合においても、銅箔(A)との積層面は接着層とする必要がある。
接着層は、熱可塑性ポリイミド層(ii)から構成されるが、そのガラス転移温度は260℃以上であり、280℃〜320℃の範囲にあることが好ましい。熱可塑性ポリイミド層(ii)のガラス転移温度をこの範囲とすることで、フレキシブル銅張積層板をフレキシブル回路基板に加工にする際に求められる、銅箔とポリイミド面との間の接着強度や寸法安定性、部品実装時の半田接合に要求される半田耐熱性が優れたものとなる。
【0028】
一方、低熱膨張性ポリイミド層(i)は、ポリイミド層全体の熱膨張係数が銅箔(A)の熱膨張係数に近い12〜23ppm/Kとなるように、17ppm/K未満の熱膨張係数であることが好ましく、より好ましくは5〜10ppm/Kの範囲である。これにより、ポリイミド層全体の熱膨張係数を銅箔(A)の熱膨張係数とあわせることが可能となり、フレキシブル銅張積層体の反りや、エッチング後、加熱後の寸法変化率を抑制することが容易となる。
【0029】
本発明のフレキシブル銅張積層板の製造に用いられる銅箔(A)は、圧延銅箔を使用することが好ましい。圧延銅箔としては、熱圧着及び後工程のアニール時に(200)面の結晶配向が進行するように添加元素としてAgやSnを添加した銅合金箔が挙げられる。公知のものとしてJX日鉱金属製のHA銅箔や日立電線製のHPF箔が挙げられる。銅箔(A)の厚さは特に限定されないが、一般的には、5〜100μmの範囲が有利であり、7〜50μmの範囲が好ましく、屈曲時の銅箔に付加される応力緩和の観点からは9〜18μmの範囲がより好ましい。
【0030】
次に、本発明における銅箔(A)とポリイミドフィルム若しくは金属層付ポリイミド積層体(B)との加熱圧着条件について説明する。ラミネート温度T1、すなわち加熱圧着工程における熱プレスロールの温度としては、銅箔(A)と接着層のポリイミドとの接着性の観点から、熱可塑性ポリイミド層(ii)のポリイミドのガラス転移温度以上とする必要があり、好ましくは300〜400℃であるのがよい。また、加熱ロール間の線圧を50〜500Kg/cm、ロール通過時間を2〜5秒間の条件下で加熱圧着することが望ましい。ラミネートの雰囲気としては大気雰囲気、イナート雰囲気が挙げられるが銅箔酸化変色防止の観点からイナート雰囲気であることが望ましい。ここでイナート雰囲気とは、不活性雰囲気と同義であり、窒素やアルゴン等の不活性ガスで置換され実質的に酸素を含まない状態をいう。
【0031】
ここで銅箔(A)の熱処理による(200)面結晶配向について詳細に説明する。一般的に前述した銅箔は熱処理により軟化が進み弾性率が低下し柔らかくなるとともに、(200)面の優先配向が進行し立方体組織が発達する。(200)面の結晶配向については半軟化温度以上の温度にて所定の時間処理することにより進行するが、少なくとも300℃以上の温度で10秒〜60秒が必要である。本発明のように一対の熱プレスロールにより加熱圧着する方法においては、その生産性を確保する観点からロールによる圧着が10秒以内の瞬時に実施されるため、加熱圧着工程の後に再加熱工程のアニール工程を組み合わせることが必要となる。
【0032】
ここで再加熱工程(アニール処理)は、ラミネート温度T1以上の温度で熱処理することが必要である。ラミネート温度T1以下の温度であると、一度、加熱圧着工程において部分的に再結晶化した銅箔の結晶組織を再度結晶成長させることが出来ず、(200)面結晶配向による立方体組織が十分進行することが出来ない。つまり、加熱圧着工程のラミネートで進んだ部分的再結晶を更に進行させるには再加熱工程の熱処理温度T2をラミネート温度T1以上に設定することが重要となる。この場合、後工程の再加熱工程の温度は300℃以上の場合10秒〜60秒程度の処理時間で十分である。一方で400℃を超えて設定した場合はポリイミドの耐熱劣化や加熱による反り等の問題が生じてくるため、400℃以下に設定することが好ましい。
【0033】
このような再加熱工程を経ることで、前記加熱圧着工程後の銅箔(A)の厚み方向でのX線回折によって求めた(200)面の回折強度(I)と微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面回折強度(Io)との関係をI/Io>100となるようにすることが可能となる。ここで、I値およびIo値はX線回折法によって測定することができ、銅箔の厚み方向のX線回折とは、銅箔の表面(圧延銅箔の場合は圧延面)における配向性を確認するものであり、(200)面の強度(I)はX線回折で求めた(200)面の強度積分値を示す。また、強度(Io)は、微粉末銅(関東化学社製銅粉末試薬I級、325メッシュ、純度99.99%以上)の(200)面の強度積分値を示す。
【0034】
再加熱工程のアニールの手段は制限されないが、連続して搬送されるポリイミドフィルム又は金属層付ポリイミド積層体(B)や銅箔(A)を均一な温度環境下に置くことを考慮すると、工程の一区画を炉型ブースとし、熱風で加熱することが好ましい。また、熱風には、銅箔表面の変質等の影響を防止するために加熱窒素とすることが好ましい。この窒素による加熱は温度条件をより高くするには限界があることから、その他の加熱手段を付加することができる。好ましい加熱手段は搬送路の近傍に加熱ヒーターを設けることが挙げられる。なお、加熱ヒーターは複数個設置することも可能で、その種類は同じであっても異なるものであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。なお、下記の実施例における各特性評価は、以下の方法により行った。
【0036】
[XRDによる結晶方位I/Ioの測定]
銅箔の(200)面結晶方位についてはMo対陰極を用いたXRD法により微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面回折強度(Io)に対して試料の(200)面回折強度(I)を算出しI/Io値として定義した。
【0037】
[屈曲特性の測定]
銅箔/ポリイミド/銅箔で構成された両面フレキシブル銅張積層板に対して市販のフォトレジストフィルムを貼り合せて、所定のパターン形成用マスクで露光した後、フォトレジストフィルムを貼り合せた側の銅箔が残るように反対面の銅箔を全面エッチオフしたのち、残った銅箔にL/S=100μm/100μmのパターンが形成されるようにレジスト層を硬化形成した(L:回路線幅、S:回路線間スペース幅)。次に、硬化レジスト箇所を現像して所定のパターン形成に不要な銅箔をエッチング除去し、更に硬化レジスト層をアルカリ液にて剥離除去することで試験サンプルを作製した。試験パターンにカバーレイを張り付けた後にIPC試験装置を用いて、屈曲半径r=1.5mm、ストローク25mm、摺動速度を1500cpmとした。屈曲寿命の判定としてはサンプルに所定の電圧を印可しながら屈曲試験を実施し、電気抵抗値が10%上昇したサンプルを配線断線とみなし屈曲回数とした。下記実施例及び比較例では、キャスト面銅箔に所定のパターンを形成した場合(ラミネート面銅箔(基材2)は除去)の屈曲特性と、ラミネート面銅箔(基材2)に所定のパターンを形成した場合の屈曲特性(キャスト面銅箔は除去)とを、それぞれ評価した。
【0038】
[半田耐熱性試験の測定]
市販のフォトレジストフィルムを銅箔/ポリイミド/銅箔で構成された両面フレキシブル銅張積層板に貼り合せて、所定のパターン形成用マスクで露光した後、銅箔表裏面それぞれの同位置に1mmの円形パターンのレジスト層を硬化形成する。次に、硬化レジスト箇所を現像して所定のパターン形成に不要な銅箔層をエッチング除去し、更に硬化レジスト層をアルカリ液にて剥離除去することで試験サンプルを作製した。サンプルを乾燥させた後に、温度の異なる半田浴槽に10秒浸漬し銅箔の膨れ、剥がれの現象が発生しない温度を測定しこの温度を半田耐熱温度とした。
【0039】
[ピール強度の測定]
市販のフォトレジストフィルムを銅箔/ポリイミド/銅箔で構成された積層体にラミネートし所定のパターン形成用マスクで露光した後、銅配線幅が1mmのパターンになるようにレジスト層を硬化形成する。次に、硬化レジスト箇所を現像して所定のパターン形成に不要な銅箔層をエッチング除去し、更に硬化レジスト層をアルカリ液にて剥離除去することで試験サンプルを作製した。サンプルを乾燥させた後に、東洋精機株式会社製引っ張り試験器(ストログラフ M-1)にて180°引き剥がし法によりピール強度を測定した。
【0040】
[寸法変化率の測定]
寸法変化率の測定は、以下の手順で行った。
まず、300mm角の試料(フレキシブル銅張積層板)を用い、200mm間隔にてドライフィルムレジストを露光、現像することによって、位置測定用ターゲットを形成した。更に温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にてエッチング前(常態)の寸法を測定した後に、試験片のターゲット以外の銅をエッチング(液温40℃以下、時間10分以内)により除去した。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24±4時間静置後、位置ターゲット間の距離を測定した。縦方向及び横方向の各3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもってエッチング後の寸法を測定した。次に、本試験片を250℃のオーブンで1時間加熱処理し、その後の位置ターゲット間の距離を測定する。縦方向及び横方向の各3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもって加熱処理後の寸法変化率とする。加熱寸法変化率は下記数式により出した。
エッチング後寸法変化率(%)=(B−A)/A × 100
A ; レジスト現像後のターゲット間距離
B ; 配線形成後のターゲット間距離
加熱寸法変化率(%)=(D−C)/C × 100
C ; 配線形成後のターゲット間距離
D ; 加熱後のターゲット間距離
【0041】
[反りの測定]
フレキシブル銅張積層板から10cm×10cmサイズのシートを作成し、このシートを机上に載置したときに最も机の面から浮き上がった部分の机の面からの高さを、ノギスを用いて測定した。その高さを反り量とし、反り量が2mm未満の場合「反りがない」と評価した。
【0042】
[ガラス転移温度の測定]
銅箔上にポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、熱処理し積層体とした。この積層体の銅箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルム(10mm×22.6 mm)をDMAにて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度Tg(tanδ極大値)を求めた。
【0043】
[熱膨張係数の測定]
銅箔をエッチングして得られたポリイミドフィルムを、セイコーインスツルメンツ製のサーモメカニカルアナライザーを使用し、250℃まで昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0044】
次に、実施例、比較例に用いたポリアミド酸の合成例を示す。
(合成例1)
熱電対及び攪拌機を備えるとともに窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れ、この反応容器に2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を投入して容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をモノマーの投入総量が12wt%となるように投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸aの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸aから得られたポリイミドのガラス転移点温度は310℃で、線熱膨張係数は45ppm/Kであった。
【0045】
(合成例2)
熱電対及び攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れ、この反応容器に2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル(m-TB)を投入して容器中で攪拌しながら溶解させた。次に、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)をモノマーの投入総量が15wt%、各酸無水物のモル比率(BPDA:PMDA)が20:80となるように投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸bの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸bから得られたポリイミドのガラス転移点温度は380℃で、線熱膨張係数は8ppm/Kであった。
【0046】
(合成例3)
熱電対及び攪拌機を備えるとともに窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミドを入れ、この反応容器に2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を投入して容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)をモノマーの投入総量が12wt%となるように投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸cの樹脂溶液を得た。このポリアミド酸cから得られたポリイミドのガラス転移点温度は240℃で、線熱膨張係数は42ppm/Kであった。
【0047】
(実施例1)
厚さ12μmで長尺状の圧延銅箔(JX日鉱日石金属製HA箔;I/Io=7)の片面に合成例1で調製したポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが2.2μmとなるように均一に塗布した後(第一層目)、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、この塗布面側に合成例2で調製したポリアミド酸bの樹脂溶液を硬化後の厚みが7.6μmとなるように均一に塗布し(第二層目)、135℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、この塗布面側に第一層目で塗布したものと同じポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが2.2μmとなるように均一に塗布し(第三層目)、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。この長尺状の積層体を130℃から開始して300℃まで段階的に温度が上がるように設定した連続硬化炉にて、合計6分程度の時間をかけて熱処理し、ポリイミド層の厚みが12μmの片面フレキシブル銅張積層板を得た(基材1)。
【0048】
次に、この片面フレキシブル銅張積層板(基材1)のポリイミド層の表面に対して、基材2として長尺状の圧延銅箔(JX日鉱日石金属製HA箔;I/Io=7)を加熱圧着した。ラミネート装置としては、ラミネートする長尺状の基材を巻出し軸からガイドロールを経由して搬送し、イナート雰囲気下の炉内において一対の対向する金属ロール(表面粗さRa=0.15μm)により加熱圧着させる方式を適用した。熱圧着条件は、温度360℃、圧力130Kg/cm、通過時間;2〜5秒とした(ラミネート:加熱圧着工程)。その後、380℃の加熱熱風炉にて60秒加熱処理を行って(再加熱工程)、両面フレキシブル銅張積層板を得た。表1には各実施例に用いた基材、熱ラミネート温度とアニール条件を示す。
【0049】
上記で得られた両面フレキシブル銅張積層板における、ポリアミド酸の樹脂溶液を塗布した銅箔(「キャスト面銅箔」という)と、加熱圧着工程でラミネートした銅箔(基材2:「ラミネート面銅箔」という)とについて、それぞれ厚み方向でのX線回折によって求めた(200)面の回折強度(I)と微粉末銅のX線回折によって求めた(200)面回折強度(Io)との比I/Io値を表2に示す。また、屈曲特性、及び半田耐熱性を表2に示す。キャスト面銅箔では、(200面)I/Ioが195であり、IPC試験による屈曲回数は1700万回であった。一方のラミネート面銅箔では、(200面)I/Ioが185、IPC試験による屈曲回数は1600万回でありキャスト面銅箔と同等の屈曲特性を有していた。また、半田耐熱温度は350℃であり実用上十分なレベルであった。
【0050】
(実施例2)
基材1に用いる銅箔と、基材2の銅箔として、それぞれ長尺状の厚さ12μmの圧延銅箔(日立金属製HPF-ST-X)を用いた以外は実施例1と同様にして、両面フレキシブル銅張積層板を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。キャスト面銅箔では、(200面)I/Ioが205であり、IPC試験による屈曲回数は1600万回であった。一方のラミネート面銅箔の(200面)I/Ioは200であり、IPC試験による屈曲回数は1700万回でありキャスト面同等の屈曲特性を有していた。また、半田耐熱温度は350℃であった。
【0051】
(実施例3)
市販のポリイミドフィルム(カプトンEN)の両面に合成例1にて合成したポリアミド酸aの樹脂溶液を塗布乾燥した後、大気雰囲気にて硬化を行い、熱・BR>ツ塑性ポリイミドを含むポリイミドイミドフィルムを得た(基材1)。このポリイミドフィルムの両側に実施例1で示した銅箔(基材2)を実施例1と同様にして360℃の温度で熱ラミネートし、その後、熱風加熱炉にて380℃1分間の加熱処理を行い、両面フレキシブル銅張積層体を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。ラミネート面側の銅箔の(200面)I/Ioは198であり、IPC試験による屈曲回数は1300万回であった。半田耐熱温度は320℃であった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同様にして片面銅張積層板(基材1)を作製した後、実施例1で示した銅箔(基材2)を用いて、ラミネート条件を表1の条件にて実施した。そして、再加熱工程の熱処理を行わずに、比較例1に係る両面フレキシブル銅張積層板を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。キャスト面銅箔では、(200面)I/Ioが195であり、IPC試験による屈曲回数は1700万回であった。一方のラミネート面銅箔の(200面)I/Ioは87とキャスト面銅箔や実施例におけるラミネート面銅箔の約半分に満たず、IPC試験による屈曲回数は700万回と実施例の50%以下であった。
【0053】
(比較例2)
加熱圧着工程におけるラミネート温度T1を380℃にし、また、再加熱工程を350℃60秒で行った以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る両面フレキシブル銅張積層板を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。キャスト面銅箔では、(200面)I/Ioが195であり、IPC試験による屈曲回数は1700万回であった。一方のラミネート面銅箔の(200面)I/Ioはラミネート後から向上せず90であり、IPC試験による屈曲回数は760万回であった。
【0054】
(比較例3)
加熱圧着工程におけるラミネート温度T1を380℃にし、また、再加熱工程を350℃600秒で行った以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る両面フレキシブル銅張積層板を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。再加熱工程の時間を延長させてもラミネート面銅箔の(200面)I/Ioは89であり、IPC試験による屈曲回数は720万回であった。
【0055】
(比較例4)
基材1の片面フレキシブル銅張積層板を得るにあたり、実施例1において第一層目と第三層目で使用したポリアミド酸のかわりに、それぞれ合成例3で示したポリアミド酸cを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例4に係る両面フレキシブル銅張積層板を得た。得られた両面フレキシブル銅張積層板についての評価結果を表2に示す。ラミネート面銅箔(200面)I/Ioは189と向上しIPC試験による屈曲回数は1550万回とキャスト面銅箔と同等まで発現したが、半田耐熱性が250℃であり部品実装時の半田リフロー等に耐えられないレベルであった。
【0056】
尚、本実施例後のフレキシブル銅張積層板のピール強度、寸法変化率、反りについて評価したが何れの実施例もピール強度は0.8kN/mであった。エッチング後の寸法変化率、加熱寸法変化率何れも0.1%以内であり、反りも2mm以下であった。つまり、フレキシブル銅張積層板に要求される特性は保持しており実用上の問題もないことを確認した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】