【解決手段】フッ化物と、蛍光体とを含む複合粉体であって、前記フッ化物の結晶子径が90nm以上かつ150nm以下、前記蛍光体の粒子の結晶子径が100nm以上かつ450nm以下、前記蛍光体の粒子の211面における半値幅が0.100°以下である複合粉体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の複合粉体、表面処理複合粉体、樹脂組成物、硬化体、光半導体発光装置を実施するための形態について説明する。
なお、以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[複合粉体]
本実施形態の複合粉体は、フッ化物と、蛍光体とを含む複合粉体であって、フッ化物の結晶子径が90nm以上かつ150nm以下、前記蛍光体の粒子の結晶子径が100nm以上かつ450nm以下、蛍光体の粒子の211面における半値幅が0.100°以下であることを特徴とする。
【0022】
本実施形態の複合粉体中におけるフッ化物の結晶子径は、90nm以上かつ150nm以下であり、95nm以かつ140nm以下であることが好ましく、95nm以上かつ130nm以下であることがより好ましく、95nm以上かつ120nm以下であることがさらに好ましい。
フッ化物の結晶子径が上記範囲であることにより、複合粉体を波長変換材料として用いた場合に、発光効率に優れる。
フッ化物の結晶子径が90nm未満では、複合粉体が水分を吸収しやすくなり、発光効率の低下を生じるため好ましくない。一方、フッ化物の結晶子径が150nmを超えると、複合粉体の表面同士が融着し、発光効率が低下するため好ましくない。
【0023】
本実施形態の複合粉体中における蛍光体の粒子の結晶子径は、100nm以上かつ450nm以下であり、110nm以上かつ400nm以下であることが好ましく、120nm以上かつ350nm以下であることがより好ましい。
蛍光体の粒子の結晶子径が上記範囲であることにより、複合粉体を波長変換材料として用いた場合に、内部量子効率に優れる。
蛍光体の粒子の結晶子径が100nm未満では、蛍光体の結晶性が悪く、内部量子効率が低下するため好ましくない。一方、蛍光体の粒子の結晶子径が450nmを超えると、複合粉体の比表面積が小さくなるため、内部量子効率が低下するため好ましくない。
【0024】
本実施形態の複合粉体は、体積粒度分布において、粒子径が5μm以下の積算値が0%であることが好ましい。すなわち、本実施形態の複合粉体は、体積粒度分布において、粒子径が5μm以下の粒子を含まないことが好ましい。
ここで、「体積粒度分布において、粒子径が5μm以下の積算値が0%である」とは、本実施形態の複合粉体を水に分散させた分散液を、粒度分布計(型番:LA−920、堀場製作所製)で測定した場合に、5μm以下の積算値が0%であり、5μm以下の粒子が観測されないことを意味する。分散液の調製方法は、特に限定されず、水に複合粉体を分散することができる方法であれば特に限定されない。分散液の調製方法としては、例えば、本実施形態の複合粉体0.2gと、水20gとを混合し、この混合液を超音波装置で1分間処理する方法が挙げられる。このようにして調製した分散液を、粒度分布計で測定することにより、本実施形態の複合粉体の体積粒度分布を測定することができる。
【0025】
本実施形態の複合粉体の平均体積粒子径は、10μm以上かつ50μm以下であることが好ましく、12μm以上かつ40μm以下であることがより好ましく、15μm以上かつ30μm以下であることがさらに好ましい。
なお、平均体積粒子径とは、上述のように測定した、複合粉体の分散液の体積粒度分布において、累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)を意味する。
複合粉体の平均体積粒子径が上記範囲であることにより、複合粉体を波長変換材料として用いた場合に、内部量子効率に優れる。また、複合粉体は、耐薬品性および耐水性に優れる。
【0026】
本実施形態の複合粉体の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましい。
本実施形態の複合粉体は、球状であることにより、後述する樹脂に分散し易くなる。また、本実施形態の複合粉体は、球状であることにより、励起光を均一に受光し易く、内部量子効率が向上する。
【0027】
また、本実施形態の複合粉体の屈折率は、光散乱を抑制する観点から、1.6以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の複合粉体は、フッ化物と蛍光体が複合化された粒子(以下、「複合粒子」と言うことがある。)の集合体である。複合粒子は、空隙を有する粒子よりも、空隙を有さない粒子を多く含有することが好ましい。
複合粒子(複合粉体)が空隙を有さないことにより、励起光が粒子内部に侵入したり、粒子1個あたりの内部量子効率が低下したりすることを抑制できる。
複合粒子の空隙の有無は、走査型電子顕微鏡で観察することができる。空隙は、複合粒子の内部に存在することが多いため、複合粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察することが好ましい。
本実施形態の複合粉体は、空隙を有さない粒子を50%以上含有することが好ましく、70%以上含有することがより好ましく、90%以上含有することがさらに好ましい。
また、本実施形態の複合粉体は、走査型電子顕微鏡観察により断面を見た際に、10μm
2の範囲内における空隙の数が2個未満であることが好ましい。本実施形態の複合粉体は、空隙の数が少ないことにより、発光効率の低下を抑制できるため好ましい。
【0029】
本実施形態の複合粉体において、フッ化物と蛍光体の質量比は、所望の特性に応じて適宜調整される。例えば、蛍光体の含有率は、本実施形態の複合粉体の全質量に対して20質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上かつ60質量%以下であることがより好ましい。
蛍光体の含有率が上記範囲であることにより、複合粉体を波長変換材料として用いた場合に、発光効率に優れる。
【0030】
「フッ化物」
フッ化物は、蛍光体を変質させない材料であれば特に限定されない。フッ化物は、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムおよびフッ化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、取り扱いが容易な点から、フッ化カルシウムがより好ましい。
これらのフッ化物は、非晶質シリカ等、他の材料を混合して用いてもよい。
【0031】
「蛍光体」
蛍光体は、特に限定されず、300nm〜400nmの波長帯域の紫外線、または400nm〜500nmの波長帯域の可視光線により励起され、350nm〜400nmの波長帯域の紫外線、400nm〜700nmの波長帯域の可視光線、または700nmを超える波長帯域の赤外線を発光するような蛍光体を用いることができる。
このような蛍光体としては、例えば、酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、バナジン酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、硫化物等の母材中に、希土類イオンや遷移金属イオン等の発光イオンをドープさせた蛍光体粒子を用いることができる。また、希土類金属酸化物からなる蛍光体粒子、希土類金属の複合化合物の蛍光体粒子等を用いてもよい。
本実施形態では、黄色蛍光体として、青色LEDに一般的に用いられるイットリウムアルミニウムガーネット系蛍光体(以下、「YAG系蛍光体」と言うことがある。)等のガーネット構造を有する蛍光体を例示して、この蛍光体について説明する。
【0032】
「ガーネット構造を有する蛍光体」
本実施形態において、ガーネット構造を有する蛍光体とは、希土類元素から選択される少なくとも1種の元素がドープされた、ガーネット構造を有する蛍光体を意味する。
ガーネット構造を有する化合物としては、例えば、イットリウムアルミニウムガーネット、テルビウムアルミニウムガーネット、カルシウムスカンジウムシリケートガーネット等を用いることができる。
希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
これらの蛍光体の中でも、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)にCeをドープした蛍光体(YAG:Ce)を用いることが好ましい。
【0033】
本実施形態の複合粉体では、蛍光体の粒子の211面における半値幅が0.100°以下であり、0.099°以下であることが好ましく、0.098°以下であることがより好ましい。なお、蛍光体の粒子の211面における半値幅の下限値は、特に限定されず、より小さいことが好ましい。例えば、半値幅の下限は0.050であってもよく、0.060であってもよく、0.070であってもよい。
蛍光体の粒子の211面における半値幅が上記範囲であることにより、複合粉体を波長変換材料として用いた場合に、内部量子効率に優れる。
蛍光体の粒子の211面における半値幅が0.100°を超えると、蛍光体の結晶性が悪いため、内部量子効率が低下する。
【0034】
「複合粉体の製造方法」
本実施形態の複合粉体は、蛍光体の前駆体溶液を調製し、その前駆体溶液に熱処理を施すことにより蛍光体の粒子を作製する工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、前記の工程で得られた蛍光体の粒子を焼成して、蛍光体の粒子径と結晶性を制御する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、前記の工程で粒子径と結晶性が制御された蛍光体の粒子を分散させる工程(以下、「第3の工程」と言う。)と、前記の工程で得られた蛍光体の粒子を含む分散液と、フッ化物コロイドとを混合して混合液を調製する工程(以下、「第4の工程」と言う。)と、前記の工程で得られた混合液から、蛍光体の粒子とフッ化物とを含む造粒粒子を作製する工程(以下、「第5の工程」と言う。)と、前記の工程で得られた造粒粒子を熱処理して、造粒粒子に含まれる有機分を除去する工程(以下、「第6の工程」と言う。)と、前記の工程で得られた熱処理物を焼成する工程(以下、「第7の工程」と言う。)と、を有する。
【0035】
本実施形態では、蛍光体として、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)にCeをドープした蛍光体(YAG:Ce)を用いる場合について説明する。
【0036】
(第1の工程)
蛍光体(YAG:Ce)の前駆体溶液は、Al、Y、Ceそれぞれの硝酸化合物を、水中で混合溶解させた酸溶液に、アルカリを添加することで、調製することができる。この際、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)にCeをドープするためには、Alのモル数×価数3と、Yのモル数×価数3と、Ceのモル数×価数3を合計したモル数以上となるように、Al、Y、Ceそれぞれの硝酸化合物を配合すればよい。
【0037】
得られた前駆体溶液に、有機物が分解する温度以上(例えば、300℃以上)で熱処理を施すことにより、Al、YおよびCeが配合された蛍光体の粒子を作製する。
【0038】
(第2の工程)
第1の工程で得られた蛍光体の粒子を、真空中で高温焼成することにより、蛍光体の粒子径と結晶性を制御する。
蛍光体の粒子を焼成する温度は、1320℃以上かつ1420℃以下であることが好ましく、1330℃以上かつ1410℃以下であることがより好ましい。
また、蛍光体の粒子を焼成する時間は、8時間以上かつ22時間以下であることが好ましく、10時間以上かつ20時間以下であることがより好ましい。
【0039】
第2の工程により、蛍光体の粒子径を100nm以上かつ250nm以下、蛍光体の粒子の211面における半値幅が0.100°以下とすることができる。
なお、従来、フッ化物と蛍光体とを含む複合粉体を製造するには、蛍光体の前駆体と、フッ化カルシウムのゾルとを混合して混合溶液を調製し、その混合溶液を焼成していた。しかしながら、フッ化カルシウムのゾルの表面融着温度が低いため、その混合溶液を1350℃以上で焼成すると、複合粉体において表面融着が生じるという問題があった。このようにして得られた複合粉体では、それに含まれる蛍光体の結晶性を所望の範囲に制御することが困難であった。
これに対して本実施形態の複合粉体の製造方法によれば、蛍光体の粒子を予め焼成することにより、蛍光体の結晶性を制御することが可能となり、蛍光体の結晶性の特性を向上することができる。そのため、蛍光体の内部量子効率を向上させることができ、発光効率を向上させることができる。
【0040】
(第3の工程)
第2の工程で得られた、粒子径と結晶性が制御された蛍光体の粒子と、分散剤と、水とを混合し、その混合液にサンドミルにより分散処理を施し、蛍光体の粒子を含む分散液を調製する。分散メディアとしては、アルミナビーズ、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ等を用いることができる。
サンドミルによる分散処理を行うことにより、D50が100nm以下の分散液を得ることができる。
ここで、蛍光体の粒子を含む分散液とは、上記の蛍光体の粒子と、その表面に付着した分散剤と、水とを含む分散液である。この分散液において、蛍光体の粒子は二次粒子である。
D50とは、上記の蛍光体の粒子と、分散剤とを含む分散液において、累積体積百分率が50%のときの粒子径である。D50は、粒度分布計(商品名:マイクロトラックUPA150、日機装社製)により測定することができる。
【0041】
(第4の工程)
第3の工程で得られた、蛍光体の粒子を含む分散液と、体積粒度分布における累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)が5nm以上かつ100nm以下のフッ化物コロイドとを、撹拌機等を用いる公知の混合方法で混合し、蛍光体の粒子を含む分散液と、フッ化物コロイドとを含む混合液を調製する。
【0042】
(第5の工程)
第4の工程で得られた混合液を、アトマイザー方式のスプレードライヤ装置を用いて、ゆっくり噴霧乾燥することにより、空気の含有が抑制され、蛍光体の粒子を含む分散液と、フッ化物とを含む造粒粒子を作製する。
得られた造粒粒子は、粒子径が15μm以上かつ90μm程度である。
【0043】
造粒粒子において、空気の含有を抑制するには、アトマイザー方式のスプレードライヤ装置における熱風温度と排風温度を低くすることが好ましい。熱風温度と排風温度は、造粒粒子の作製量に応じて適宜調整されるが、例えば、112℃以上かつ120℃であることが好ましい。
アトマイザー方式のスプレードライヤ装置を用いることにより、ミクロンサイズの造粒粒子を容易に作製できる。そのため、複合粉体が、粒子径が5μm以下の粒子を含まないようにすることもできる。
【0044】
(第6の工程)
第5の工程で得られた造粒粒子を大気中で熱処理して、造粒粒子に含まれる有機分を除去し、熱処理物を得る。
第5の工程では、造粒粒子に含まれる有機分である、分散剤が除去されればよいので、分散剤の種類に応じて、熱処理温度を調整すればよい。熱処理温度は、例えば、500℃以上かつ700℃以下であることが好ましい。
【0045】
(第7の工程)
第6の工程で得られた熱処理物を、不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で焼成することにより、本実施形態の複合粉体を得る。
熱処理物を焼成する温度は、1200℃以上かつ1300℃以下であることが好ましい。前記の温度範囲で熱処理物を焼成することにより、表面にて融着していない球状の複合粉体が得られる。
【0046】
[表面処理複合粉体]
本実施形態の表面処理複合粉体は、本実施形態の複合粉体がシランカップリング剤で表面処理されたものである。
【0047】
本実施形態で用いられるシランカップリング剤は、後述する樹脂と混合しやすい(相溶性が高い)ものであれば特に限定されない。
このようシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
シランカップリング剤による複合粉体の表面処理量、複合粉体の表面に付着(存在)しているシランカップリング剤の量は、所望の特性に応じて適宜調整される。シランカップリング剤による複合粉体の表面処理量は、例えば、シランカップリング剤と複合粉体の合計質量を100質量%とした場合、1質量%以上かつ50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上かつ15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
シランカップリング剤により、本実施形態の複合粉体を表面処理する方法は特に限定されない。シランカップリング剤により、本実施形態の複合粉体を表面処理する方法としては、例えば、複合粉体と、シランカップリング剤と、溶媒とを混合し、これらの混合物(分散液)を攪拌しながら、加熱する方法が挙げられる。これにより、本実施形態の表面処理複合粉体を得ることができる。
【0050】
溶媒としては、複合粉体とシランカップリング剤を均一に分散できものであれば特に限定されない。このような溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素等の有機溶媒等が挙げられる。
【0051】
なお、シランカップリング剤で複合粉体を表面処理する場合には、条件によってはフッ化物が水と反応することがあるため、水を添加しない(溶媒として水を用いない)ことが好ましい。
【0052】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の複合粉体および本実施形態の表面処理複合粉体の少なくとも一方と、樹脂と、を含む。
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂の種類や用途等に応じて、本実施形態の複合粉体または本実施形態の表面処理複合粉体のいずれか一方、あるいは、本実施形態の複合粉体および本実施形態の表面処理複合粉体の両方が用いられる。本実施形態の複合粉体と本実施形態の表面処理複合粉体を用いる場合、その配合比は、樹脂の種類や用途等に応じて適宜調整される。
【0053】
樹脂組成物における複合粉体の含有量は、所望の特性に応じて、適宜調整される。樹脂組成物における複合粉体の含有量の下限値は、例えば、樹脂組成物の全量を100質量%とした場合、1質量%であってもよく、5質量%であってもよく、10質量%であってもよい。樹脂組成物における複合粉体の含有量の上限値は、例えば、樹脂組成物の全量を100質量%とした場合、99質量%であってもよく、90質量%であってもよく、70質量%であってもよく、50質量%であってもよい。樹脂組成物における複合粉体の含有量が上記の範囲であることにより、発光効率に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0054】
「樹脂」
本実施形態で用いられる樹脂は、目的とする光の波長帯域に対して透明性を有する樹脂であれば特に限定されない。このような樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、可視光線や紫外線や赤外線等により硬化する光(電磁波)硬化性樹脂、電子線照射により硬化する電子線硬化性樹脂等の硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらの中でも、シリコーン樹脂は、耐熱性および耐光性に優れ、さらに本実施形態の複合粉体との親和性も高い点で好ましい。
【0055】
このようなシリコーン樹脂としては、例えば、ジメチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、ジフェニルシリコーン樹脂、ビニル基含有シリコーン樹脂、アミノ基含有シリコーン樹脂、メタクリル基含有シリコーン樹脂、カルボキシ基含有シリコーン樹脂、エポキシ基含有シリコーン樹脂、カルビノール基含有シリコーン樹脂、フェニル基含有シリコーン樹脂、オルガノハイドロジェンシリコーン樹脂、脂環式エポキシ基変性シリコーン樹脂、多環式炭化水素含有シリコーン樹脂、芳香環炭化水素含有シリコーン樹脂等が挙げられる。
これらのシリコーン樹脂は、通常は単独で用いられるが、用途によっては2種類以上のシリコーン樹脂を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、所望の効果を阻害しない範囲で、蛍光体、溶媒、分散剤、硬化剤、酸化防止剤等の一般的に用いられる添加剤等を含んでいてもよい。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態の複合粉体および本実施形態の表面処理複合粉体の少なくとも一方と、樹脂とを、公知の方法で混合することにより得ることができる。
【0058】
[硬化体]
本実施形態の硬化体は、本実施形態の樹脂組成物を硬化してなる。
【0059】
本実施形態の硬化体は、基材等の被塗布物の一面に塗布した本実施形態の樹脂組成物を硬化して塗膜の形態としてもよく、金型等を用いて本実施形態の樹脂組成物を成形し、硬化して成型体の形態としてもよく、本実施形態の樹脂組成物をフィルム状に成形してフィルムの形態としてもよい。
【0060】
基材の種類は、本実施形態の樹脂組成物を塗布できるものであれば特に限定されず、例えば、ガラス基材やプラスチック基材等を用いることができる。
【0061】
本実施形態の硬化体の厚さは、所望の特性と、所望の形状に応じて適宜調整される。
【0062】
本実施形態の硬化体のうち、塗膜の形態の硬化体の製造方法は、本実施形態の樹脂組成物を基材等の被塗布物の一面に塗工して塗膜を形成する工程と、この塗膜を硬化させる工程と、を有する。
塗膜を形成する塗工方法としては、例えば、バーコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法、グラビアコート法、吸上げ塗工法、はけ塗り法等の通常のウェットコート法が用いられる。
【0063】
塗膜を硬化させる方法としては、樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、熱硬化させる方法や光硬化させる方法が用いられる。
【0064】
本実施形態の硬化体のうち、成型体の形態の硬化体の製造方法は、本実施形態の樹脂組成物を、金型等の型を用いて成型したり、型状の容器に充填したりすることにより、所望の形状に成形された成型体(成型体および充填物)を得る工程と、この成型体を硬化する工程と、を有する。
【0065】
本実施形態の硬化体のうち、フィルム状の硬化体の製造方法は、本実施形態の樹脂組成物を公知の方法により、フィルム状に成形する工程を有する。
【0066】
[光半導体発光装置]
本実施形態の光半導体発光装置は、本実施形態の硬化体を備えてなる。
【0067】
本実施形態の光半導体発光装置では、本実施形態の硬化体が、半導体発光素子が発光する光を受光できる位置に設けられていればよい。
本実施形態の硬化体を、本実施形態の光半導体発光装置に実装する方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0068】
半導体発光素子としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LED(Light−Emitting Diode)またはGaN系LD(Laser Diode)が好ましい。
その理由は、GaN系LEDやGaN系LDは、この領域の光を発するSiC系LEDと比べて、発光出力および外部量子効率が格段に大きく、本実施形態の硬化体と組み合わせることにより、従来よりも明るい発光が得られるからである。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
(フッ化カルシウムコロイド溶液の調製)
塩化カルシウム2水和物294.1gと、純水2000gとを混合し、塩化カルシウム水溶液を調製した。
また、フッ化アンモニウム148.2gと、純水2000gとを混合し、フッ化アンモニウム水溶液を調製した。
次いで、得られた塩化カルシウム水溶液の全量とフッ化アンモニウム水溶液の全量を混合し、その混合液中にて、フッ化カルシウム粒子を作製した。
このフッ化カルシウム粒子を含む溶液を、限外ろ過装置を用いて洗浄、濃縮し、フッ化カルシウム粒子を2質量%含むフッ化カルシウムコロイド溶液を調製した。
このフッ化カルシウムコロイド溶液の体積粒度分布における累積体積百分率が50%のときの粒径(D50)を粒度分布計(商品名:マイクロトラックUPA150、日機装社製)を用いて測定した結果、30nmであった。
また、このフッ化カルシウム粒子の結晶子径を、X線回折装置(商品名:X'Pert PRO、PANalytical社製)により、CuKα線を用いて測定した。その結果、フッ化カルシウムの結晶子径は8nmであった。
【0071】
(ガーネット構造の蛍光体(YAG:Ce)の作製)
炭酸水素アンモニウム72.03gと、純水1000gとを混合して、炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した。
硝酸アルミニウム9水和物61.91gと、硝酸イットリウム6水和物34.89gと、硝酸セリウム6水和物4.74gと、純水1000gとを混合し、硝酸塩水溶液を調製した。
【0072】
得られた炭酸水素アンモニウム水溶液の全量と、硝酸塩水溶液の全量とを混合し、Al、Y、Ceのヒドロキシ炭酸塩の沈殿物を作製した。
この沈殿物を真空濾過装置で洗浄し、固液分離した。
回収した固形物を120℃にて24時間乾燥することにより、Al、Y、Ceのヒドロキシ炭酸塩の乾燥粉体を得た。
【0073】
次いで、Al、Y、Ceのヒドロキシ炭酸塩の乾燥粉体33.9g(YAG:Ceに換算して20g)を、1000℃で大気焼成することにより有機分を除去し、Al、Y、Ceの酸化物(YAG:Ce)を作製した。
【0074】
得られたYAG:Ceを高温で焼成して、その粒子径を所定の範囲内に制御するとともに、発光特性の高い結晶粒子にした。
具体的には、粉末のYAG:Ce10gを、アルミナ製の皿に載せ、真空中、1400℃にて12時間熱処理を行った。
【0075】
(分散液の調製)
熱処理後のYAG:Ceの粉末を、サンドミルを用いて分散処理を行った。
具体的には、次のような処理を行った。蛍光体粉体10質量%、有機系分散剤0.2質量%および水89.8質量%を混合して混合液を調製し、その混合液に、分散メディアとして、混合液と同質量の粒子径0.1mmのアルミナビーズを混合した。アルミナビーズを含む混合液を、サンドミルにより、2500rpmで混合粉砕し、蛍光体を含む分散液を調製した。
得られた分散液の一部を採取し、体積分布におけるD50を粒度分布計(商品名:マイクロトラックUPA150、日機装社製)を用いて測定した結果、290nmであった。
【0076】
(複合粉体の作製)
蛍光体を含む分散液と、フッ化カルシウムコロイド溶液とを、不揮発分での比率が質量比で50:50となうように混合し、200gの混合液を調製した。
ここで、不揮発分とは、分散液または溶液1.2gを磁性るつぼに入れて、ホットプレートで、150℃で1時間加熱した場合に、揮発せずに残留する量を意味する。
この混合液を、アトマイザー方式のスプレードライヤ装置を用いて噴霧乾燥することにより、粒子径約35μmの造粒粒子を作製した。なお、スプレードライヤの装置において、熱風温度を80℃、排風温度を50℃とした。
【0077】
次いで、得られた造粒粒子を、大気中、600℃にて2時間熱処理を行い、造粒粒子に含まれる有機分を除去し、熱処理物を得た。
次いで、この熱処理物を、5%水素−95%窒素の混合ガスの還元性雰囲気中、1300℃にて2時間焼成し、実施例1の複合粉体を得た。
【0078】
「複合粉体の評価」
得られた複合粉体を走査型電子顕微鏡により観察した。結果を
図1に示す。
得られた複合粉体は、形状がほぼ球状であり、空隙をほとんど有していなかった。
【0079】
「結晶子径と半値幅」
得られた複合粉体の結晶子径を、X線回折装置(商品名:X'Pert PRO、PANalytical社製)により、CuKα線を用いて測定した。その結果、フッ化カルシウムの結晶子径は109nmで、YAG:Ceの結晶子径は160nmであった。
また、YAG:Ceの211面における半値幅は、0.092°であった。
【0080】
「内部量子効率と外部量子効率」
実施例1の複合粉体の内部量子効率と外部量子効率を、量子効率測定システム(QE−2100、大塚電子社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2、3]
(蛍光体の作製、複合粉体の作製)
実施例2において、蛍光体を1350℃にて12時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
実施例3において、蛍光体を1400℃にて18時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
【0082】
「蛍光体および複合粉体の評価」
蛍光体を含む分散液の体積分布におけるD50を、実施例1と同様にして測定した。
フッ化物と蛍光体の結晶子径、蛍光体の211面における半値幅、および複合粉体の内部量子効率と外部量子効率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例1〜比較例4]
(蛍光体の作製、複合粉体の作製)
比較例1において、蛍光体を1300℃にて24時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
比較例2において、蛍光体を1450℃にて24時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
比較例3において、蛍光体を1500℃にて24時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
比較例4において、蛍光体を1400℃にて24時間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、複合粉体を得た。
【0084】
「蛍光体および複合粉体の評価」
蛍光体を含む分散液の体積分布におけるD50を、実施例1と同様にして測定した。
フッ化物と蛍光体の結晶子径、蛍光体の211面における半値幅、および複合粉体の内部量子効率と外部量子効率を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例と比較例を比較することにより、結晶子径が450nm以下、かつ211面における半値幅が0.100°以下の蛍光体を核とする複合粉体は、内部量子効率に優れることが確認された。すなわち、LEDパッケージにした時の発光効率に優れることが確認された。