粘着層を更に含み、前記粘着層は、前記基材層と前記保護層との間に前記基材層及び前記保護層と接するように設けられている、請求項1に記載の導電フィルム用多層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、ある方向に対して「垂直」である又は「平行」であるとは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0014】
以下の説明において、線膨張係数は、JIS K7140−1に示される試験条件に従った値であり、すなわち、JIS K7139に従って作成された短冊形試験片(タイプB)について、ISO11359−2に従って、23℃以上55℃以下の温度範囲において試験された結果に基づく値である。1ppm/℃は、1×10
−6/℃である。
【0015】
以下の説明において、別に断らない限り、熱収縮率は、JIS K7133に準拠し、140℃で30分間加熱する条件で試験された結果に基づく値である。
【0016】
[1.多層フィルム]
本発明の多層フィルムは、基材層と保護層とを含み、基材層は、樹脂Aから形成されている。保護層は、樹脂Aとは異なる樹脂Bから形成されている。
基材層の線膨張係数α
1と前記保護層の線膨張係数α
2との差の絶対値は、0ppm/℃以上20ppm/℃以下であり、少なくとも一方向における、基材層の熱収縮率S
1と保護層の熱収縮率S
2との差の絶対値が0%以上0.15%以下である。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る多層フィルムを模式的に示す断面図である。
本実施形態に係る多層フィルム100は、基材層110と、保護層120とを含む。
基材層110は、面110U及び面110Dを有しており、保護層120は、基材層110の面110D側に設けられている。本実施形態では、多層フィルム100には、基材層110と保護層120との間に、粘着層130が設けられており、粘着層130は、基材層110及び保護層120に接している。本実施形態では、多層フィルム100は粘着層130を備えているが、多層フィルムは、基材層と保護層との間に粘着層を備えていなくてもよい。
多層フィルム100の表面は、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理などの処理が施されていてもよい。
以下、多層フィルム100の構成要素について説明する。
【0018】
[1.1.基材層]
[樹脂A]
樹脂Aは、任意の樹脂であり、通常重合体を含む。
樹脂Aに含まれる重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;脂環式構造を有する重合体;棒状液晶ポリマー;スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体、又はスチレン又はスチレン誘導体、及びこれらと共重合しうるコモノマーとの共重合体を含むポリスチレン系重合体;ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート;あるいは、これらの多元共重合ポリマー、などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0019】
樹脂Aは、機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れることから脂環式構造を有する重合体を含むことが好ましく、脂環式構造を有する重合体を主成分として含むことがより好ましい。ここで、本明細書において、主成分とは、樹脂に含まれる成分の中で、最も重量割合が大きい成分を意味する。
脂環式構造を有する重合体は、その重合体の構造単位が脂環式構造を有する重合体である。
脂環式構造を有する重合体は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖及び側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2以上の任意の比率の混合物としうる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0020】
脂環式構造の例としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、及び不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0021】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲であると、樹脂Aの機械強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0022】
脂環式構造を有する重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、適宜選択しうる。脂環式構造を有する重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、樹脂Aの透明性及び耐熱性が良好となる。
【0023】
脂環式構造を有する重合体の中でも、シクロオレフィン重合体が好ましい。シクロオレフィン重合体とは、シクロオレフィン単量体を重合して得られる構造を有する重合体である。また、シクロオレフィン単量体は、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。重合性の炭素−炭素二重結合の例としては、開環重合等の重合が可能な炭素−炭素二重結合が挙げられる。また、シクロオレフィン単量体の環構造の例としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらを組み合わせた多環等が挙げられる。中でも、得られる重合体の誘電特性及び耐熱性等の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィン単量体が好ましい。
【0024】
上記のシクロオレフィン重合体の中でも好ましいものとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、成形性が良好なため、特に好適である。
【0025】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0026】
ノルボルネン構造を有する単量体の例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)を挙げることができる。ここで、置換基の例としては、アルキル基、アルキレン基、及び極性基を挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって、複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
極性基の例としては、ヘテロ原子、及びヘテロ原子を有する原子団が挙げられる。ヘテロ原子の例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子が挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトリル基、及びスルホン酸基が挙げられる。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な単量体の例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体が挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体は、例えば、単量体を開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0030】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な単量体の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン及びこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体は、例えば、単量体を付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0032】
上述した開環重合体及び付加重合体の水素化物は、例えば、これらの開環重合体及び付加重合体の溶液において、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む水素添加触媒の存在下で、炭素−炭素不飽和結合を、好ましくは90%以上水素添加することによって製造しうる。
【0033】
単環の環状オレフィン系重合体の例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0034】
環状共役ジエン系重合体の例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−又は1,4−付加重合体;及びこれらの水素化物を挙げることができる。
【0035】
樹脂Aに含まれる重合体の重量平均分子量(Mw)は、適宜選定でき、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、多層フィルムの機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされる。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量である。前記のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにおいて、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合には、溶媒としてトルエンを用いてもよい。
【0036】
樹脂Aに含まれる重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布を前記下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。
【0037】
樹脂Aは、非晶性の樹脂であることが好ましい。
樹脂Aのガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度が前記範囲内であることにより、耐久性に優れる基材層が容易に得られる。
【0038】
樹脂Aにおける重合体の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは91重量%以上、特に好ましくは92重量%以上である。重合体の割合を前記下限値以上にすることにより、基材層が十分な耐熱性及び透明性を発揮できる。樹脂Aにおける重合体の割合は、100重量%以下としうる。
【0039】
樹脂Aが、脂環式構造を有する重合体を含む場合、樹脂Aに含まれる重合体の総重量に対して、脂環式構造を有する重合体は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。樹脂Aに含まれる重合体のすべてが、脂環式構造を有する重合体であってもよい。
【0040】
樹脂Aは、重合体以外に、任意の添加剤を含んでいてもよい。樹脂Aが含みうる添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、及び老化防止剤が挙げられる。また、添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
樹脂Aにおける添加剤の濃度は、例えば、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下としてもよく、0重量%としてもよい。
【0042】
[基材層の線膨張係数]
基材層の線膨張係数α
1は、好ましくは100ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下、更に好ましくは60ppm/℃以下であり、好ましくは10ppm/℃以上、より好ましくは40ppm/℃以上、更に好ましくは50ppm/℃以上である。
【0043】
[基材層の熱収縮率]
基材層の幅方向における熱収縮率S
1Tは、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、更に好ましくは0.03%以下であり、好ましくは0%以上である。
【0044】
[基材層の厚み]
基材層の厚みは、好ましくは70μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下である。このように基材層の厚みが薄くても、多層フィルムのカールの程度を抑制することができる。基材層の厚みは、0μmを超え、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。
【0045】
[1.2.保護層]
[樹脂B]
樹脂Bは、樹脂Aとは異なる任意の樹脂である。樹脂Bは、通常重合体を含む。
樹脂Bが樹脂Aと異なるとは、樹脂Bに主成分として含まれる重合体が、樹脂Aに主成分として含まれる重合体と異なっていることを意味する。
保護層が、基材層を形成する樹脂Aとは異なる樹脂Bから形成されていることで、保護層を基材層とは異なる特性(例、機械的特性、熱安定性など)を有するものとできる。そのため、例えば、基材層の機械的強度を補完しうる保護層とすることができる。また、基材層の材料よりも安価な材料により保護層を形成しうるので、多層フィルムの製造コストを削減しうる。
【0046】
樹脂Bに含まれうる重合体としては、例えば、樹脂Aに含まれうる重合体として挙げた例が挙げられる。ただし、樹脂Bに含まれる主成分である重合体は、樹脂Aに含まれる主成分である重合体とは異なる。
【0047】
樹脂Bは、非晶性であることが好ましい。
樹脂Bのガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは140℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度が前記範囲内であることにより、耐熱性に優れる保護層が容易に得られる。
【0048】
樹脂Bにおける重合体の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは91重量%以上、特に好ましくは92重量%以上である。重合体の割合を前記下限値以上にすることにより、保護層が十分な耐熱性を発揮できる。樹脂Bにおける重合体の割合は、100重量%以下としうる。
【0049】
樹脂Bに含まれる重合体としては、ポリカーボネートが好ましい。
【0050】
樹脂Bが、ポリカーボネートを含む場合、樹脂Aに含まれる重合体の総重量に対して、ポリカーボネートは、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。樹脂Bに含まれる重合体のすべてが、ポリカーボネートであってもよい。
【0051】
樹脂Bは、重合体以外に、任意の添加剤を含んでいてもよい。樹脂Bが含みうる添加剤としては、例えば、樹脂Aが含みうる添加剤として挙げた例が挙げられる。
【0052】
樹脂Bにおける添加剤の濃度は、例えば、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下としてもよく、0重量%としてもよい。
【0053】
[保護層の線膨張係数]
保護層の線膨張係数α
2は、好ましくは100ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下、更に好ましくは65ppm/℃以下であり、好ましくは10ppm/℃以上、より好ましくは50ppm/℃以上、更に好ましくは55ppm/℃以上である。
【0054】
[保護層の熱収縮率]
幅方向における保護層の熱収縮率S
2Tは、好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.01%以下であり、好ましくは0%以上である。
【0055】
[保護層の厚み]
保護層の厚みは、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下であり、0μmを超え、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上である。
【0056】
[1.3.任意の層]
多層フィルムは、基材層、保護層の他に粘着層、アンダーコート層などの任意の層を含みうる。
【0057】
[粘着層]
粘着層は、粘着剤で形成された層である。粘着剤としては、例えば、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa未満である材料が挙げられる。粘着剤として、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などの任意の粘着剤を使用することができる。
【0058】
粘着層の厚みは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上である。
【0059】
[1.4.基材層及び保護層の物性の関係]
[線膨張係数]
基材層の線膨張係数α
1と保護層の線膨張係数α
2との差の絶対値|α
1−α
2|は、通常0ppm/℃以上であり、通常20ppm/℃以下、好ましくは10ppm/℃以下、より好ましくは5ppm/℃以下、更に好ましくは3ppm/℃以下である。値|α
1−α
2|を、上記範囲とすることにより、加熱条件下でも、多層フィルムのカールの程度を抑制することができる。
【0060】
基材層を形成する樹脂A及び保護層を形成する樹脂Bに含まれる重合体の種類、重合体の配合などを調整することにより、値|α
1−α
2|を上記範囲に調整することができる。
【0061】
[熱収縮率の関係]
多層フィルムの少なくとも一方向における、基材層の熱収縮率S
1と保護層の熱収縮率S
2との差の絶対値|S
1−S
2|は、通常0%以上であり、通常0.15%以下、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.07%以下、更に好ましくは0.05%以下である。値|S
1−S
2|を上記範囲とすることにより、加熱条件下でも、多層フィルムのカールの程度を抑制することができる。
【0062】
基材層を形成する樹脂A及び保護層を形成する樹脂Bに含まれる重合体の種類、重合体の配合などを調整することにより、値|S
1−S
2|を上記範囲に調整することができる。
【0063】
値|S
1−S
2|は、多層フィルムの少なくとも一方向について、上記範囲であってよく、例えば、長尺である多層フィルムの搬送方向(MD方向)及び/又は多層フィルムの幅方向(TD方向)について、上記範囲であってよく、好ましくは、多層フィルムの幅方向について上記範囲である。
ここで、フィルムの幅方向とは、フィルムの搬送方向と垂直な方向をいう。
【0064】
[ガラス転移温度の関係]
基材層を形成する樹脂Aのガラス転移温度Tg
Aは、カールの程度をより抑制する観点からは、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0065】
保護層を形成する樹脂Bのガラス転移温度Tg
Bは、カールの程度をより抑制する観点からは、好ましくは140℃以上、より好ましくは145℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下である。
【0066】
樹脂Aのガラス転移温度Tg
Aと樹脂Bのガラス転移温度Tg
Bとの差の絶対値|Tg
A−Tg
B|(℃)は、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下であり、通常0℃以上である。値|Tg
A−Tg
B|(℃)が上記範囲にあることで、カールの程度をより抑制することができる。
【0067】
[1.5.多層フィルムの製造方法]
多層フィルムは、任意の方法で製造することができる。例えば、あらかじめ製造した基材層と保護層とを、粘着層を介して貼り合せることにより製造してもよい。多層フィルムを、共押出法や共流涎法などにより製造してもよい。
【0068】
基材層及び保護層は、それぞれ樹脂A及び樹脂Bを、溶融押出法などの公知の方法により成形することにより製造することができる。基材層及び保護層は、延伸された層であってもよいし、未延伸の層であってもよい。好ましくは、基材層及び保護層のいずれもが、未延伸の層である。基材層及び保護層の双方を、未延伸の層とすることにより、値|α
1−α
2|及び値|S
1−S
2|をそれぞれ上記好ましい範囲に調整することが容易となる。
【0069】
未延伸の層は、延伸工程を経ていない層を意味し、未延伸の層は、通常(ガラス転移温度Tg−5)℃以下において、面内方向における熱収縮率の最大値が0%以上0.5%以下である。ここで、熱収縮率は、JIS K7133に準拠し、(ガラス転移温度Tg−5)℃以下において30分間加熱する条件で試験された結果に基づく値である。
【0070】
基材層及び保護層として、アニールされたフィルムを用いてもよい。アニールの温度は、例えば、(多層フィルムを実際に使用する温度−5)℃以上(多層フィルムを実際に使用する温度+10)℃以下としてもよい。
具体的には、アニールの温度は、例えば100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上としてもよく、例えば、150℃以下としてもよい。アニールの時間は、例えば、1分以上60分以下としてもよい。
【0071】
[1.6.多層フィルムの用途]
本実施形態の多層フィルムは、加熱条件下でもカールの程度が抑制され、多層フィルムから導電フィルムを製造する際の作業性に優れる。したがって、本実施形態の多層フィルムは、導電層を形成して導電フィルムを製造するために好適である。
【0072】
[2.導電フィルム]
図2は、本発明の一実施形態に係る導電フィルムを模式的に示す断面図である。
本実施形態に係る導電フィルム300は、多層フィルム200と、導電層240とを含む。多層フィルム200は、基材層210と、保護層220とを含む。基材層210は、面210U及び面210Dを有しており、保護層220は、基材層210の面210D側に設けられている。本実施形態では、多層フィルム200には、基材層210と保護層220との間に、粘着層230が設けられており、粘着層230は、基材層210及び保護層220に接している。本実施形態では、多層フィルム200は粘着層230を備えているが、多層フィルムは、基材層と保護層との間に粘着層を備えていなくてもよい。導電層240は、基材層210の面210U側に設けられており、導電層240は、基材層210の面210Uに接している。
【0073】
本実施形態の導電層240は、パターンが形成されていないが、導電層は、パターンが形成された層であってもよい。
【0074】
導電層240は、導電性を有する任意の材料で形成されている。導電層を形成するための材料としては、例えば、ITO、ATO(アンチモン−スズ酸化物)などの金属酸化物;銀、金などの金属(薄膜、メッシュ、ナノワイヤーなどの形態);カーボンナノチューブなどのナノ材料;これらの混合物が挙げられる。
多層フィルム200の構成要素:基材層210、保護層220、及び粘着層230の例及び好ましい例については、多層フィルム100において説明した例及び好ましい例と同様である。
【0075】
導電フィルム300を製造する方法としては、任意の方法を用いることができる。通常、多層フィルム200を製造し、多層フィルム200の基材層210側の面(本実施形態では、基材層210の面210U)上に、導電性を有する材料を積層することにより、導電フィルム300を製造することができる。導電性を有する材料を積層する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及び塗布法が挙げられる。積層の際の温度条件は、例えば、180℃以下、170℃以下、160℃以下としうる。
【0076】
本実施形態の導電フィルムは、タッチパネルの部材として好適である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0078】
[評価方法]
[ガラス転移温度]
樹脂のガラス転移温度は、ISO11357−2に従い、10℃/minの昇温速度で測定された。
【0079】
[線膨張係数]
フィルムの線膨張係数は、K7140−1に示される試験条件に従って得られた。すなわち、JIS K7139に従って作成された短冊形試験片(タイプB)について、ISO11359−2に従って、23℃以上55℃以下の温度範囲において試験された結果に基づき得られた。
【0080】
[熱収縮率]
基材層又は保護層として用いられたフィルムの熱収縮率は、JIS K7133に準拠し、140℃で30分間加熱する条件で試験された結果に基づき得られた。
具体的には、下記の方法によりフィルムの熱収縮率が得られた。
フィルムから、120mm×120mmの試料を切り出した。試料の面上に、フィルム搬送方向の標線を2本、幅方向の標線を2本、合計4本記した。2本の互いに平行な標線間の距離は、100mmとした。
標線を記した試料を、140℃の炉の中に30分間置いた後、試料を炉から取り出して室温で放冷した。次いで、試料に記した標線間の距離を測定した。測定されたフィルム搬送方向の2本の標線間の距離をL
TD(mm)、フィルム幅方向の2本の標線間の距離をL
MD(mm)とすると、フィルム搬送方向におけるフィルムの熱収縮率S
M(%)及びフィルム幅方向におけるフィルムの熱収縮率S
T(%)は、それぞれ下記の式で算出される。
【0081】
S
M=(100−L
MD)/100(%)
S
T=(100−L
TD)/100(%)
【0082】
2枚の試料について試験を行い、得られた熱収縮率の平均をフィルムの熱収縮率として示した。
【0083】
[カールの程度]
多層フィルムから、80mm×80mmのサンプルを切り出し、サンプルを炉内温度140℃としたのぞき窓の有る炉の中に基材層を下にして略水平になるように置き、5分後にのぞき窓からサンプルを写真撮影した。撮影した写真から、基準面(載置面)からサンプルの四隅までの高さを測定し、四隅の高さの平均値を求めた。
【0084】
[実施例1]
基材層として、ノルボルネン系重合体を含む樹脂から形成されたフィルムA(日本ゼオン株式会社製「ゼオノアフィルムZF16−040」、線膨張係数56ppm/℃、ガラス転移温度163℃、厚み40μm)を準備した。
粘着層として、粘着フィルムF(トーヨーケム株式会社製「ダブルフェース R390−SK」、厚み50μm)を準備した。
保護層として、ポリカーボネート(PC)を含む樹脂から形成されたフィルムB(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン FS2000」、線膨張係数60ppm/℃、ガラス転移温度149℃、厚み100μm)を準備した。フィルムA及びBの熱収縮率を、表1に示す。
【0085】
フィルムAとフィルムBとを、それぞれの搬送方向が平行になるように粘着フィルムFを介して貼り合せ、多層フィルムを得た。多層フィルムは、得られた多層フィルムについて、カールを評価した。結果を表2に示す。
【0086】
[実施例2]
フィルムBを140℃で30分間アニールすることにより、フィルムCを準備した(線膨張係数59ppm/℃、ガラス転移温度149℃、厚み100μm)。フィルムCの熱収縮率を表1に示す。フィルムBの代わりにフィルムCを用いた以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得て、カールを評価した。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂から形成されたフィルムD(東レ株式会社製「ルミラー」、線膨張係数15ppm/℃、融点70℃、厚み100μm)を準備した。フィルムDの熱収縮率を表1に示す。フィルムBの代わりにフィルムDを用いた以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得て、カールを評価した。結果を表2に示す。
【0088】
[比較例2]
フィルムDを140℃で30分間アニールすることにより、フィルムEを準備した(線膨張係数16ppm/℃、融点70℃、厚み100μm)。フィルムBの代わりにフィルムEを用いた以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得て、カールを評価した。結果を表2に示す。
【0089】
[参考例1]
フィルムBの代わりにフィルムAを用いた以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得て、カールを評価した。結果を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
上記表において、S
Mは、フィルムの搬送方向における熱収縮率(%)を意味し、S
Tは、フィルムの幅方向における熱収縮率(%)を意味する。
【0092】
【表2】
【0093】
上記表における略号は、下記を意味する。
α
1は、基材層の線膨張係数(ppm/℃)を意味し、α
2は、保護層の線膨張係数(ppm/℃)を意味する。
S
1Mは、基材層の搬送方向における熱収縮率(%)を意味し、S
2Mは、保護層の搬送方向における熱収縮率(%)を意味する。
S
1Tは、基材層の幅方向における熱収縮率(%)を意味し、S
2Tは、保護層の幅方向における熱収縮率(%)を意味する。
【0094】
上記結果によれば、値|α
1−α
2|が20ppm/℃以下であり、かつフィルムの搬送方向及び幅方向における、基材層の熱収縮率と保護層の熱収縮率の差の絶対値が、0.15%以下である実施例1又は2の多層フィルムは、カールが1mm未満でありほとんど生じていない。一方、値|α
1−α
2|が20ppm/℃より大きく、基材層の熱収縮率と保護層の熱収縮率の差の絶対値が0.15%より大きい比較例1の多層フィルムは、カールの程度が大きい。
また、値|α
1−α
2|が20ppm/℃より大きい比較例2の多層フィルムもカールの程度が大きい。したがって、以上の結果は、本発明の多層フィルムによれば、カールの程度を抑制しうることを示す。
また、実施例1及び2の多層フィルムでは、基材層と保護層が、互いに異なる樹脂から形成されているにも関わらず、基材層と保護層が同じ樹脂から形成されている参考例1の多層フィルムと同様にカールが1mm未満でありほとんど生じていない。したがって、以上の結果は、本発明の多層フィルムによれば、カールの程度を抑制しうると同時に、基材層と保護層とを互いに異なる特性を有するものとしうることを示す。