【解決手段】アルコール、フェニルトリアルコキシシラン、酢酸、有機スズ、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシド、および水を混合し、加水分解後、前記アルコールを140℃以上160℃未満の温度で減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを、有機溶剤に溶解した固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が、3.5mPa・s以上35mPa・s以下である平坦化膜形成用塗布液。フェニルシルセスキオキサン1モルに対してTi,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシドを0.005モル以上0.05モル以下添加することにより、低温で減圧留去しても高分子量化が可能となり、合成歩留まりと液の適正粘度を両立することができた。
アルコール、フェニルトリアルコキシシラン、酢酸、有機スズ、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシド、および水を混合し、加水分解後、前記アルコールを140℃以上160℃未満の温度で減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを、有機溶剤に溶解した平坦化膜形成用塗布液であって、
前記金属アルコキシドの添加量が、前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、0.005モル以上0.05モル以下であり、
固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が、3.5mPa・s以上35mPa・s以下であることを特徴とする平坦化膜形成用塗布液。
前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、前記酢酸が、0.1モル以上1モル以下であり、前記有機スズが、0.005モル以上0.05モル以下であり、前記水が、2モル以上4モル以下であることを特徴とする請求項1に記載の平坦化膜形成用塗布液。
請求項1または2に記載の塗布液を、金属箔コイルに塗布後、熱処理プロセスでリフローおよび膜硬化させることにより、前記金属箔コイルの表面を、膜厚が2.0μm以上5.0μm以下であり、圧延に垂直な方向のRaが30nm以下であるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー膜で被覆したことを特徴とする平坦化膜付き金属箔コイル。
請求項1または2に記載の塗布液を、金属箔コイルに膜厚2.0μm以上5.0μm以下となるように連続塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理炉を通過させることによりリフローおよび膜硬化させた後、巻き取ることを特徴とする平坦化膜付き金属箔コイルの製造方法。
アルコール中に、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、有機スズ触媒0.005モル以上0.05モル以下、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシド0.005モル以上0.05モル以下を加えて、第1の混合溶液を作製する工程、
前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、2モル以上4モル以下の水に、0.1モル以上1モル以下の酢酸を加えて、第2の混合溶液を作製する工程、
前記第1の混合溶液に前記第2の混合溶液を添加してフェニルトリアルコキシシランの加水分解を行う工程、
前記加水分解されたフェニルトリアルコキシシランを含む溶液を、140℃以上160℃以下の温度で減圧留去して、前記アルコールおよび反応副生物の水を留去して、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを生成させる工程、および
前記生成したフェニルシロキサンラダーポリマーを有機溶剤に溶解して、固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が、3.5mPa・s以上35mPa・s以下である溶液得る工程を含む、平坦化膜形成用塗布液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの電子デバイスでは、フレキシブル基板が求められている。従来、これらの電子デバイスは硬いガラス基板上に作製されていたが、電子デバイスを、フレキシブル基板上に作製すれば、落としても割れることがなく、軽量性・柔軟性を活かした新しい用途が広がる。フレキシブル基板として検討されている樹脂フィルムは、耐熱性が乏しく寸法安定性が悪いという課題があり、薄ガラスは割れやすいという問題がある。フレキシブル基板として金属箔を用いる場合は、金属箔の表面は圧延すじやスクラッチ疵などがあり、ガラスとは比較できないほど粗い。このため金属箔を膜で被覆し、金属箔の表面をガラス基板並みに平坦化することが重要である。この平坦化膜は金属箔に絶縁性を付与することにもつながる。
【0003】
電子デバイスを作製する際のプロセス温度は、電子デバイスの種類および構成材料によって異なるが、有機ELディスプレイで求められるアモルファスシリコンあるいはLTPS(low−temperature poly silicon)のTFTを作る場合には300〜400℃程度のプロセス温度になる。従って金属箔を被覆する絶縁膜も400℃まで耐えられる耐熱性が求められる。
【0004】
金属箔を被覆する膜材料としては、無機・有機ハイブリッド材料が挙げられる。無機・有機ハイブリッド材料による絶縁膜としては、有機修飾シリカ膜が代表的である。有機基を含むため、無機膜より柔軟性があり厚膜が得られやすい。有機修飾シリカ膜は主骨格がSi−Oの無機骨格で形成されているため、耐熱性は主骨格を修飾している有機基の分解温度で決まる。有機基としてメチル基やフェニル基を選べば400℃程度の耐熱性を確保することができる。特にフェニル基で修飾されたシリカ膜は、フェニル基の高い疎水性により、高温高湿化(たとえば85℃85%RHの環境加速試験)においてもSi−O主骨格が加水分解を受けにくく耐湿性に優れる。このため電子デバイス用基板としては、フェニル基修飾シリカ膜で被覆した金属箔が好ましい。
【0005】
フレキシブル基材上に電子デバイスを形成する場合には、Roll to Rollプロセスを採用することにより低コストで量産することが可能になる。そのためには平坦化膜を成膜した金属箔のシートではなく、平坦化膜付きの金属箔コイルが求められる。
【0006】
フレキシブルな電子デバイス基板として使える平坦化膜付き金属箔コイルを得るためには、金属箔の表面をガラス基板なみの高い平滑性になるよう被覆することができ、絶縁性を付与し、2分以内で硬化できるような無機・有機ハイブリッド膜、特にフェニル基で修飾されたシリカ膜が求められている。
【0007】
本願発明者は、特許文献1において、フェニルトリアルコキシシランを用いて、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを形成し、これを芳香族炭化水素系溶剤に溶解した平坦化膜形成用塗布液を提案した。特許文献1に記載の平坦化膜形成用塗布液は、有機溶媒中にフェニルトリアルコキシシラン、酢酸、および有機スズを触媒として加え、水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー(以下、単に「ラダーポリマー」ともいう)を芳香族炭化水素系溶剤に溶解して得られる。
【0008】
減圧留去は、反応容器を加熱しながら減圧し、反応容器内の溶媒を取り除いていく工程であり、反応容器を回転させたり、反応容器内を撹拌したりして、反応容器の内容物を混ぜながら反応を進める。大量製造のため反応容器を大型化すると、反応容器の回転は装置構成の点で非現実的になるので内容物を撹拌する方式になるが、溶媒を取り除くにしたがって、内容物の粘度が上昇するため、内容物の均一撹拌が困難になる。このため、特許文献1に記載の平坦化膜形成用塗布液を大型装置で合成すると、反応容器の壁面付近は容器内部より高温になるため反応が促進され、早期に高分子量化・高粘度化し、反応物が壁面に付着してしまう。反応容器内部まで反応が進む間に、壁面に付着した反応物は撹拌混合されることなく高温にさらされる。このため、生成したラダーポリマーがさらに縮合して3次元的な網目構造が形成され、塗布液とするためのトルエン等の有機溶剤に溶解しなくなる。その結果、大量合成時の平坦化膜形成用塗布液の歩留まりはラボレベルの合成に比べて大幅に低下してしまう。反応容器1Lのラボレベルで合成した場合の塗布液合成歩留まりはほぼ100%であるが、40Lの反応容器を用いてオイルバス温度を190℃にセットして減圧留去した場合は、壁面にトルエン等の有機溶剤に溶けない付着物が生成してしまうため、塗布液合成歩留まりは65%程度に低下した。一方、加熱オイルバス温度を160℃未満にセットした場合には、容器壁面部分付近の、トルエン等の有機溶剤に溶解できなくなる反応物は減少した。しかしながら、平坦化膜形成用塗布液の固形分濃度をどのように調整しても、グラビアコートで膜厚1μm以上の成膜ができなかった。これは、160℃未満の低温合成でフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを合成したため、ラダーポリマーが低分子量となり平坦化膜形成用塗布液が低粘度化したためと考えられる。塗布液の粘度が低すぎると、グラビアのくぼみや溝にトラップされた塗布液の転写率が下がってしまい、一定以上の厚みで成膜することができなくなる。またダイコートの場合においても、ダイヘッドから液だれが発生し、所望の膜厚での成膜ができなくなる。
特許文献2には特定の分子量分布を有する2種類のフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を、無溶剤で用いてフェニル基修飾シリカ膜を形成することが提案されている。ここでは、Al,Ti,Sn,Zn,Zr,Ta,Nbから選ばれる1種類以上の金属元素は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応の触媒として用いることが提案されている。これらは、ここではフェニルトリアルコキシシランの1分子、すなわちモノマーに作用する触媒として用いられている。特許文献2の塗布液は無溶剤系であるが、無溶剤でも塗布可能ということは前駆体がフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解物・縮合反応物になっており、相当量のアルコキシ基を含有することを意味している。特許文献2で得られるフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物はフェニルトリアルコキシシランが線状、あるいはランダムにつながったもので、本発明のラダー構造のフェニルシルセスキオキサンポリマーとは異なるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電子デバイスの量産や低コスト化を図るために電子デバイスそのものをRoll to Rollで製造できるようにフレキシブル基板となる平坦化膜付き金属箔もロールとして提供できることが必要となっている。しかし、上述したように特許文献1に記載の平坦化膜形成用塗布液は、製造の時の有機溶媒を減圧留去する温度を160℃以上にセットすると、特に大型装置で大量合成する場合、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーが容器壁面の高温部で3次元的な網目構造を作って不溶性になるため合成歩留まりが低下する。一方、特許文献1の合成で、160℃未満で有機溶媒を減圧留去した場合には、低分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーしか得られないため、塗布液が低粘度になり、所望の膜厚で成膜することができない。このため、高い歩留まりで大量合成が可能で、かつ、所望の膜厚で成膜が可能な平坦化膜形成用塗布液が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らはフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを有機溶剤に溶解した平坦化膜形成用塗布液を調合するにあたり、加水分解時に特定の金属アルコキシド添加することにより、特許文献1に記載の減圧留去温度よりも低い140℃以上160℃未満の温度でアルコールを減圧除去したとき、高分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーが得られることを見出した。容器壁面へ付着する不溶物の発生はごく微量であり、90%以上が有機溶剤に溶解し、高歩留まりで平坦化膜塗布液が合成できた。高分子量のラダーポリマーが溶解しているので、平坦化膜形成用塗布液の粘度が適正範囲にあり、所望の膜厚でグラビアコート、スリットダイコートが可能であった。
【0013】
本発明により以下が提供される。
(1)アルコール、フェニルトリアルコキシシラン、酢酸、有機スズ、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシド、水を混合し、加水分解後、前記アルコールを140℃以上160℃未満の温度で減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを有機溶剤に溶解した平坦化膜形成用塗布液であって、
前記金属アルコキシドの添加量が、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、0.005モル以上0.05モル以下であり、
固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が3.5mPa・s以上35mPa・s以下であることを特徴とする平坦化膜形成用塗布液。
(2)前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、前記酢酸が、0.1モル以上1モル以下であり、前記有機スズが、0.005モル以上0.05モル以下であり、前記水が、2モル以上4モル以下であることを特徴とする前記(1)に記載の平坦化膜形成用塗布液。
(3)前記(1)または(2)に記載の塗布液を、金属箔コイルに塗布後、熱処理プロセスでリフローおよび膜硬化させることにより、前記金属箔コイルの表面を、膜厚が2.0μm以上5.0μm以下であり、圧延に垂直な方向のRaが30nm以下であるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー膜で被覆したことを特徴とする平坦化膜付き金属箔コイル。
(4)前記金属箔がステンレス箔であることを特徴とする前記(3)に記載の金属箔コイル。
(5)前記(1)または(2)に記載の塗布液を、金属箔コイルに膜厚2.0μm以上5.0μm以下となるように連続塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理炉を通過させることによりリフローおよび膜硬化させた後、巻き取ることを特徴とする平坦化膜付き金属箔コイルの製造方法。
(6)前記金属箔がステンレス箔コイルであることを特徴とする前記(5)に記載の金属箔コイルの製造方法。
(7)アルコール中に、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、有機スズ触媒0.005モル以上0.05モル以下、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシド0.005モル以上0.05モル以下を加えて、第1の混合溶液を作製する工程、
前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、2モル以上4モル以下の水に、0.1モル以上1モル以下の酢酸を加えて、第2の混合溶液を作製する工程、
前記第1の混合溶液に前記第2の混合溶液を添加してフェニルトリアルコキシシランの加水分解を行う工程、
前記加水分解されたフェニルトリアルコキシシランを含む溶液を、140℃以上160℃以下の温度で減圧留去して、前記アルコールおよび反応副生物の水を留去して、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを生成させる工程、および
前記生成したフェニルシロキサンラダーポリマーを有機溶剤に溶解して、固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が、3.5mPa・s以上35mPa・s以下である溶液得る工程を含む、平坦化膜形成用塗布液の製造方法。
(8)前記加水分解工程の後、さらに、加水分解生成物を70℃以上90℃以下で還流する工程を含む、前記(7)に記載の平坦化膜形成用塗布液の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Roll to Rollプロセスに適用可能な短時間硬化が可能な平坦化膜形成用塗布液を大量に歩留まり良く得ることができる。また、高分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの平坦化膜付き金属箔コイルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
平坦化膜付き金属箔コイルを得るには、平坦化という観点では、膜が硬化過程でリフローして金属箔の表面の凹凸をならすことが可能となるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーで構成される平坦化膜を用いることと、その膜がRoll to Rollプロセスで成膜できるよう2分以内の熱処理時間で硬化できることの2点が重要である。
【0017】
発明者らはそのような平坦化膜が形成可能な塗布液を高い歩留まりで安定製造させる方法として、以下の方法を見出した。
すなわち、特許文献1よりも低温である140℃以上160℃未満の温度でアルコールを減圧留去することにより容器壁面のトルエン等の有機溶剤に溶解しなくなる縮合反応物の生成を抑制し、かつ適切な触媒下における低温合成を行うことにより有機溶剤に可溶な高分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー得る方法である。
【0018】
本発明で用いる金属アルコキシドは、Ti,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上と成ることができる。Ti,Zr,Nb,Taは、いずれも遷移金属であり、周期律表の第4族、第5族に属する金属である。これらの金属アルコキシドは、単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明ではこれらの金属を、金属アルコキシド、M(OR)
n(ここで、Mは、Ti,Zr,Nb,Taを表し、Rは、有機基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基から選ばれる。nはMの価数である)の形態で用いる。本発明では、これらの金属アルコキシドを化学改質しないで用いる。
【0020】
本発明では金属アルコキシドを用いることにより、従来技術よりも低い温度で加水分解を行っても高分子量のラダー型ポリフェニルシルセスキオキサンを得ることができる。
【0021】
特許文献1に記載の方法で合成したフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーは、160℃以上210℃以下の温度の減圧留去工程で進行する脱水縮合によりSi−O−Si結合ができる一方、若干の水分も残るのでSi−O−Si結合が、Si−O−Si+H
2O→SiOH+SiOHのように加水分解を受け低分子量化してしまう。減圧度を高めれば系内に残留する水分量を減らすことができるが、一般的に減圧留去装置における減圧度は30mmHg前後である。したがって系内の残留水分量は系を高温で保つほど減らせることになり、160℃未満の低温で合成したフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーは残留水分による加水分解を多く受けることになり高分子量化が進まない。
【0022】
減圧留去装置を160℃未満の低温で保持している水分が多い状態であっても、Si−O−Si結合が加水分解を受けにくくすることが、低温であっても高分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを得る重要なポイントである。本発明では、この目的のためにM(OR)nの添加が有効であることを見出した。
【0023】
金属アルコキシドM(OR)nの添加に伴い、Si−O−Si結合に加えてM−O−Si結合が形成されるようになるが、M(OR)nとSi(OR)4を比較すると分子内の電荷の偏りに違いがありMの方がSiより多くの正電荷を保有している(非特許文献1)。このためSiよりMの方が水分子のOによる求核置換を受けやすくなり、Si−O−Si結合とM−O−Si結合が共存している場合、M−O−Si結合が選択的に開裂する。その結果、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーは加水分解を受けにくくなるので高分子量化が可能になる。最終的にM(OR)
nの一部が水酸化物として沈殿することにより、反応系内の多くの水分をM(OH)
nとして消費すると考えられる。M(OH)
nとして沈殿しなかったM(OR)
nの一部はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのポリマー鎖同士をM−O−Si結合でつなぐことも可能で、この結合の一部は前述のように加水分解を受けて開裂するが、加水分解を受けなかった場合にはフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのポリマー鎖同士を架橋剤としてつなぐことにより、更なる分子量増大に寄与すると推測される。
【0024】
このような縮合反応を効果的に進めるためには、フェニルトリアルコキシシランに比べて反応性の高い金属アルコキシドM(OR)
nが、フェニルトリアルコキシシランの加水分解時にM(OH)
nとして沈殿することを避け、Si−O−Siの縮合反応時に触媒として機能しなければならない。一般的にはアセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどで、M(OR)
nの化学改質を行って、加水分解時に沈殿することを抑制するが、これらの化学改質剤はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー中に不純物として含まれ、ラダーポリマーの生成を抑制したり、金属箔上に形成される塗膜の欠陥につながったりする。本発明では、M(OR)
nに対して十分に過剰な酢酸とともに用いることで、加水分解時にM(OH)
nの沈殿が発生することを防止している。
【0025】
本発明で用いるフェニルトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどが挙げられる。
【0026】
本発明では、フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0027】
減圧留去時に留去する溶媒は、フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いたアルコールに加えてフェニルトリアルコキシシランの加水分解によって生成したアルコールも含まれる。また加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの縮合反応に伴って生成する水が若干量含まれる。
【0028】
有機スズはフェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物や、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの縮合反応を促進する触媒である。
有機スズとしては、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドなどが挙げられる。ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズビスアセチルアセトナートが特に好ましい。
【0029】
減圧留去後には、反応容器内にフェニルシルセスキオキサンラダーラダーポリマーの固形物、すなわちレジンが得られる。このフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを溶解させる有機溶剤としては、トルエン、キシレン、MEK、MIBK、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらは1種類で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0030】
平坦化膜形成用塗布液の粘度はラダーポリマーと溶剤の量比、すなわち固形分量で調整することができる。本発明の平坦化膜形成用塗布液は、固形分濃度30mass%時の25℃での粘度が3.5mPa・s以上35mPa・s以下である。この固形分濃度での粘度が3.5mPa・s以上35mPa・s以下であると、Roll to Roll方式の塗布現場においてダイコート、グラビアコートなどの塗工ヘッドを用いて液だれや転写不良が発生することなく2.0〜5.0μmの膜厚で均一に塗ることができ、塗布液の貯蔵安定性も良好である。
【0031】
アルコールにフェニルトリアルコキシシランと有機スズ触媒とTi,Zr,Nb,Taから選ばれる1種類以上の金属アルコキシドを加えた第1の混合溶液を作製した。次に水と酢酸から成る第2の混合溶液を作製する。第1の混合溶液に第2の混合溶液を添加して、フェニルトリアルコキシシランの加水分解を行う。その後、加水分解をより促進するために、窒素気流下で、80℃前後で還流をしてもよい。その後、加水分解されたフェニルトリアルコキシシランを含む溶液を、140℃以上160℃未満の温度で減圧留去して、フェニルトリアルコキシシランの加水分解時に用いたアルコール、反応副生成物である水およびアルコールを取り除き、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを得る。このフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを有機溶剤に溶解し、濾過して、平坦化膜形成用塗布液を得た。
【0032】
金属アルコキシドM(OR)
nの添加量は、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.005モル以上0.05モル以下である。添加量が0.005モルより少ない場合は、Si−O−M結合の生成量が少なすぎるため、減圧留去中にSi−O−Si結合の加水分解が起きてフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの高分子量化が進まないので不適である。0.05モルより多い場合は、加水分解時にM(OR)nがフェニルトリアルコキシシランと結合してM−O−Siの結合が形成されたり、クラスター状のMの酸化物あるいは水酸化物が形成されたりするようになる。このため加水分解中、あるいは加水分解促進のための還流中にゲル化が発生しやすくなるため不適である。
【0033】
酢酸の量はフェニルトリアルコキシシランの加水分解の進行具合に大きく影響を及ぼす。フェニルトリアルコキシシラン1モルに対する酢酸の量が0.1モルより少ない場合は、加水分解工程で重縮合反応がなかなか進行せず、低分子量のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーとなってしまう。ラダーポリマーとしてある程度の長さがなければ、絡まり合ったポリマーが熱振動でほどけてリフロー性を発揮することにならないので好ましくない。酢酸の量が増えるにつれフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの高分子量化が進むが、酢酸の量が1モルより多い時は、その効果が飽和する。それに加え、酢酸使用量増大に伴う臭気が合成現場で強くなるので好ましくない。
【0034】
有機スズの量はフェニルトリアルコキシシランの加水分解反応の促進、そして平坦化膜形成用塗布液後のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの重縮合反応の促進に影響を及ぼす。有機スズの量が、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、0.005モルより少ない時は、金属箔上に塗布した後の熱処理中のラダーポリマーの縮合反応促進効果が不十分となり、短時間硬化ができなくなるので好ましくない。有機スズの量が0.05モルを超えると、フェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物の重縮合が進みすぎ、減圧留去前の加水分解の段階でフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのゲル化が発生するため好ましくない。
【0035】
加水分解に用いる水の量が、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して2モルより少ない場合、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーに大量のアルコキシ基が残存するため、平坦化膜形成用塗布液を塗布後の熱処理中に縮合反応を促進させなければならなくなる。このため350〜450℃において2分の熱処理では熱処理時間が不十分で、溶剤や水分が膜に残り絶縁不良となるため好ましくない。水の量が4モルを超える場合は急速に加水分解が進むため、ラダー状の規則正しい構造を作るよりもランダムに網目構造ができてしまい、ラダーポリマーが溶解しなくなるため塗布液が作製できず好ましくない。
【0036】
減圧留去は、140℃以上160℃未満の温度で行う。減圧留去時の温度が140℃より低い場合は、金属アルコキシドを添加しても、フェニルトリアルコキシシランの加水分解縮合反応が不十分となるため、有機溶剤に溶解後のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの分子量が小さくなるため塗布液としての粘度が低下し所望の膜厚を得ることが困難になるので好ましくない。減圧留去時の温度が160℃を超える場合は、縮合反応が進みすぎて生成するフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーラダーポリマーが溶解しにくくなるので好ましくない。特に大型容器で大量合成する場合には容器の壁面と内部の温度差が発生し、160℃を超える場合には壁面に溶解しないフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーが付着するので好ましくない。
【0037】
得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを有機溶剤に溶解させ、濾過して、固形分濃度30mass%に調整したときの25℃での粘度は3.5mPa・s以上35mPa・s以下である。粘度が3.5mPa・s未満の場合はダイコート時にダイヘッドから液だれが発生したり、グラビアコートでは液の転写率が低くなったりして所望の膜厚を得ることが困難になるので不適である。固形分濃度30mass%に調整したときの粘度が3.5mPa・s未満の場合は、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの重量平均分子量がおおむね5000未満という低分子量になっているため、固形分濃度を高めても粘度を上げることができず液だれなどの問題は解決できない。固形分濃度30mass%に調整したときの粘度が35mPa・sを超える場合は、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの重量平均分子量がおおむね100000を超える高分子量になっているため、ゲル化が進行しやすく塗布液の保管寿命が短くなるので不適である。
【0038】
フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの形成過程について説明する。加水分解後の溶液は25℃での粘度1〜2mPa・sの透明なものであった。GPC(gel permeation chromatography)により求めたスチレン換算重量平均分子量は300であり、部分加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの単分子あるいは2分子程度の縮合物であることを示した。減圧留去は室温から初めて突沸が起きないように徐々に温度を上げていく。オイルバスを用いてロータリーエバポレータで600mlの加水分解溶液の溶媒を減圧留去する場合、オイルバス50℃で溶媒が出なくなるまで約30分保った後、130℃にオイルバスの温度を上げて溶媒が出なくなるまで30分保つ。温度上昇と溶媒除去に伴って、固形分濃度が上がり、固形物の粘度が高くなり、曳糸性を示すようになる。140〜160℃にオイルバスの温度を上げて溶媒が出なくなるまで30分保ち、さらに15分保持して溶媒を完全に取り除くことができる。溶媒がほとんどなくなると固形物すなわち曳糸性を示していたラダーポリマーは140〜160℃において流動性がなくなってくる。この時得られるラダーポリマーは室温では半透明〜白色の固体である。ラダーポリマーを芳香族炭化水素系溶剤に溶解後、GPCにより求めたスチレン換算重量平均分子量は5000〜100000であった。
【0039】
このように曳糸性を示したことと、高分子量でありながら溶剤に溶解したこと、赤外線吸収スペクトルにおいて1100cm
-1付近にシロキサン結合に由来するダブルピークを示したことから、本発明によるフェニルトリエトキシシランを原料としたラダーポリマーはラダー構造に近い形をとっていると推定される。
【0040】
さらに、本発明においては触媒として加えている有機スズ由来のSnにより塗布後の熱処理中の縮合反応が一層促進され、300〜450℃において2分以内という連続熱処理可能な短時間での膜硬化が可能となる。
【0041】
次に本発明のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーによる平坦化膜付き金属箔について説明する。
【0042】
金属箔は圧延によって薄くするので、圧延方向にすじが認められる。また、元の溶融金属に含まれる介在物や、圧延ロールに巻き込まれた異物などによって、圧延方向に引き伸ばされた疵も存在する。疵の大きさは幅数十μm、長さ1〜数mm程度であることが多い。
【0043】
金属箔の表面粗さは、圧延すじに対して平行な方向と垂直な方向で異なり、垂直方向の方が表面粗さとしては大きい数字となる。したがって、被覆によって金属箔の平坦性を向上させる目的では表面粗さとして最も大きい数字になる垂直方向に注目する必要がある。具体的には、触針式粗さ計により1.25mmの測定長さで表面粗さを10箇所以上、金属箔コイルの圧延方向に対して垂直、すなわちコイルの幅方向に測定し、平均値を採用する。
【0044】
平坦化膜付き金属箔の表面粗さと、その上に形成した有機EL素子の特性の関係を詳細に調べた結果、膜表面の平坦性は素子のリーク電流を減らすうえで重要であることがわかった。平坦化膜付き金属箔表面の圧延と垂直方向の算術平均粗さRaが30nm以下であれば、有機EL発光素子のリーク電流を1E−4A/m
2以下という実用的なレベルにすることができる。素子のリーク電流はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの上に、素子の下部電極、発光部、上部電極の順に成膜して素子を作り下部電極と上部電極の間に3Vの電圧を加えたときの電流を素子面積で割って求める。発光部は複数の層から成り全層厚は100〜150nm程度であるので、膜の表面が粗い場合は下部電極と上部電極の間の距離の短いところができてしまい、素子のリーク電流が増えることになる。平坦化膜付き金属箔のRaが30nmを超える場合は、1E−4A/m
2を超えるリーク電流の大きい素子になるため素子としての効率が悪くなったりショートが発生したりするので不適である。Raのより好ましい範囲は20nm以下、さらに好ましくは15nm以下で、より小さなリーク電流にすることができる。
【0045】
金属箔の少なくとも一方の表面に絶縁被覆が施されていてもよい。絶縁被覆された金属箔を用いることにより、平坦化膜形成後の金属箔の絶縁性がより高く確実になる。絶縁膜の種類はシリカ・アルミナなどの金属酸化物、リン酸アルミニウム・リン酸カルシウムなどの無機塩、ポリイミド・テフロン(登録商標)などの耐熱性樹脂が挙げられる。金属酸化物の膜は例えばスパッタ・蒸着・CVDなどにより成膜することができる。無機塩の膜は例えばロールコーター・スプレイなどの塗布法により成膜することができる。耐熱性樹脂の膜は例えばコンマコーター・ダイコーター・スプレイなどの塗布法により成膜することができる。
【0046】
金属箔としてステンレス箔を用いる場合、ステンレス箔の少なくとも一方の表面には反射膜が形成されていてもよい。ステンレス箔は工業的に安価に製造しやすく、折れが入りにくいので電子デバイス用フレキシブル基板として優れているが、反射率が60%と低い。電子デバイスとして透明な下電極を使ってトップエミッションの有機EL照明や有機ELディスプレイを作製する場合、光はステンレス箔表面で繰り返し反射されるが、その反射率が60%程度であると多くの光が失われデバイスの効率が悪くなる。これに対しステンレス箔の表面に95%程度の反射率を有する反射膜を形成すれば、ほとんどの光は反射膜で反射されるのでデバイスの効率は著しく向上する。95%程度の高い反射率を有する反射膜の種類としては純Al、Al合金、純Ag、Ag合金などが挙げられる。Al合金としてはAl−Si、Al−Nd合金などが挙げられる。反射膜の成膜はスパッタ法などにより行うことができる。Ag合金としてはAg−Nd、Ag−Inなどの合金が挙げられる。
【0047】
平坦化膜の膜厚は2.0μm以上5.0μm以下であることが望ましい。2μmより薄い場合は、金属箔そのものの凹凸を被覆しきれない。5μmを超える場合は膜にクラックが入りやすくなる。成膜時のクラックが入りやすいだけでなく、平坦化膜で被覆されたステンレス箔をフレキシブル基板として曲げたときにも膜にクラックが入りやすくなる。膜厚は2.5μm以上4μm以下であることが、凹凸被覆とクラック防止の観点からさらに好ましい。
【0048】
平坦化膜は1ppm以上5000ppm以下の、Snおよび金属アルコキシドM(OR)nに由来するMを含むことが望ましい。これらの金属元素の濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析あるいはX線蛍光分析によって測定することができる。SnおよびMの濃度が1ppmよりも少ない時は、短時間での膜硬化ができにくいためRoll to Rollでコイルに連続成膜することが難しい場合がある。SnおよびMの濃度が5000ppmを超えるときは膜が硬くなり曲げたときにクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0049】
金属箔コイルへの塗布後、乾燥処理は20℃以上150℃以下の温度で行うことが望ましいい。乾燥工程では塗布した膜に含まれる溶剤や水分を除去して乾燥膜とするのが目的である。減圧留去によるラダーポリマー合成温度より高い乾燥温度にすると、ラダーポリマーを形成しているラダーポリマーが軟化する可能性があるため、乾燥温度はラダーポリマー合成温度より低いことが望ましい。乾燥膜中ではラダーポリマーが絡まり合って見掛け上、網目構造のようになって膜硬化しているように見えるが、熱振動で分子の運動が活発になるとラダーポリマーはほどけて流動性を示すようになる。熱処理工程は乾燥膜を形成しているラダーポリマーを溶融軟化、すなわちリフローさせて膜の表面を平坦化させることと、リフローに引き続きポリマーの架橋を進めて三次元網目構造を形成させ膜を硬化させることの2つが目的である。リフローは減圧留去によるラダーポリマー合成温度より高温域、三次元的な架橋が進んで膜が硬化し始める温度より低い温度域で発生する現象である。リフローのために特別な熱処理プロセスをとる必要はなく、熱処理を300℃以上450℃以下で行えば、熱処理温度まで昇温される過程でリフローが起き、引き続き架橋による膜硬化が進む。金属箔の表面を平坦にするには
図1に示したように水平な状態で熱処理を行うことが効果的である。膜硬化は架橋反応による網目構造形成であるので、ひとたび膜が硬化すると、再度リフローすることはない。熱処理温度が300℃より低い場合は、架橋が十分進まずシラノール基などの反応基が膜の中に残るため絶縁性が不十分となるうえ、有機電子デバイス作製中にシラノール基などに吸着した水分が脱離すると素子に悪影響を及ぼすので不適である。熱処理温度が450℃より高い場合は、フェニル基の熱分解による体積収縮が起き、クラックが入りやすくなるので不適である。より好ましい熱処理温度は360℃以上420℃以下である。
【0050】
金属箔コイルに成膜するにはRoll to Rollによる連続成膜を行う。一般的な装置構成はコイルの巻きだし部、塗工部、乾燥炉、熱処理炉、コイル巻き取り部から成る。通板速度は速いほど生産性がよいが、1mpmから20mpm程度が一般的である。塗布する方法としては、マイクログラビアロール、グラビアロールなどによる塗布や、スリットコータ、スクリーン印刷などが挙げられる。ステンレス箔の両面に塗工したい場合は、ディップコートによる成膜もできる。乾燥は20℃以上150℃以下で0.5〜2分程度行う。乾燥時の炉内の雰囲気は大気でも窒素などの不活性ガス雰囲気でもよい。熱処理はフェニル基が熱分解しにくいように不活性ガスを流しながら行う。連続成膜装置の場合、基材が熱処理炉内に入るときに若干量の大気を持ち込むが、本発明のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーは1%程度の大気の混入があっても膜特性に影響はない。乾燥炉および熱処理炉内では電子デバイス形成側の膜面にロールが当たらないような装置設計にする。巻き取り時には膜面に保護フィルムを貼りつけたり、疵が入らないように合紙を挿入したりしてもよい。また、乾燥と熱処理を連続して行うのではなく、乾燥膜が付いたコイルを一度巻き取って、再度熱処理のみを行ってもよい。この場合は乾燥膜作製用の設備と熱処理用の設備と2種類必要になるが、それぞれを最適の通板速度で処理できる長所がある。
【実施例】
【0051】
次に、実施例により本発明を更に説明する。本発明がここに提示した実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0052】
40Lの反応容器を用いてフェニルトリエトキシシランを30モル投入して合成を行った。エタノール溶媒中でフェニルトリエトキシシラン1モルに対して、表1に記載の条件で酢酸と有機スズと金属アルコキシドM(OR)
nと水を添加して加水分解を行った。窒素気流下80℃で5時間還流後、ロータリーエバポレータで溶媒を減圧留去した。減圧留去時に徐々に温度を上げていくが、その時の最高温度が減圧留去温度として表1に記載されている。
【0053】
フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーは固形分濃度が30mass%となるようにMEKで希釈した。歩留まりに相当するパラメータとして、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの溶解した割合を表1に記載した。溶解した割合が90mass%以上であれば工業的に受け入れることができる。重量平均分子量はWaters株式会社製2695型HPLC装置を用い、スチレン換算分子量として求めた。30mass%希釈時の塗布液の粘度は、CBC株式会社製VISCOMATE VM−10A型振動式粘度計を用い25℃で測定した。同一固形分濃度の粘度がフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの重量平均分子量と相関があることを参考までに示すため、Waters株式会社製2695型HPLC装置を用い、スチレン換算分子量として求めた結果も表1に記載した。
【0054】
比較例1は金属アルコキシドM(OR)
nの添加なしで、190℃で減圧留去しているため、30%希釈時の粘度は適正であるが、減圧留去後のフラスコにMEKを添加したとき、フラスコ壁面に不溶物が大量に残り、溶解した割合は68mass%と低かった。比較例2はM(OR)
nの添加なしで、150℃で減圧留去したため、溶解した割合は高かったが、30%希釈時の粘度が低かった。比較例3はM(OR)nの添加量が少なすぎるため、30%希釈時の粘度が低かった。比較例4はM(OR)
nの添加量が多すぎたため、加水分解後にゲル化してしまい、減圧留去工程に進めることができなかった。
【0055】
比較例5で用いたWのエトキシドは、正電荷の偏りがSiに比べてわずかに高い程度であるため、添加効果がほとんどなく、高分子量化が進まず30%希釈時の粘度が低かった。比較例6は、減圧留去温度が低すぎるため、高分子量化が進まず粘度が低かった。比較例7はレジンを30%希釈時の粘度が高すぎるものであったため、希釈後まもなくゲル化してしまった。比較例8は減圧留去温度が高すぎたため、歩留まりが低かった。実施例1〜6は本発明の範囲内であり良好な結果が得られた。
【0056】
最後に実施例3の組成の塗布液を用いてRoll to Rollの成膜試験を実施した。成膜試験には厚さ25μm、幅430mm、長さ800mのSUS304MW仕上げのステンレス箔を用いた。ステンレス箔はベークライト製の6インチのコアに巻いてロール状にしたものを巻きだし部に取り付けた。塗布液の粘度は6.2mPa・sで固形分濃度は30%であった。塗布はセル容積の異なる複数のグラビアロール使って行い、乾燥膜の厚さが3μm前後になるものを選定した。用いたR2R(Roll to Roll)の成膜装置の概略は
図1に示したものと同じである。総張力200Nをかけてステンレス箔を搬送した。巻き取り部にはEPC(Edge Position Control)センサーを取り付けて箔の端部を揃えて、ベークライト製の6インチのコアに巻き取った。乾燥炉および熱処理炉はどちらも赤外線パネルヒータと熱風による加熱方式とした。乾燥炉は総長が8mあり炉内設定温度を100℃として運転した。熱風として100℃に加熱した大気を送風した。熱処理炉は長さが12mあり炉内設定温度を400℃とした。熱風として400℃に加熱した窒素を送風した。冷却帯では室温の大気をステンレス箔の上下から吹き付けた。冷却帯の長さは2mであった。巻きだしから巻き取りまでの総長は35mであった。搬送速度2mpmでステンレス箔を通板し、塗布・乾燥・熱処理を実施し、平坦化膜付きステンレス箔を約150mロールとして巻き取った。
【0057】
計算上の乾燥処理時間は2分、熱処理時間は3分となるが、ステンレス箔に熱電対を取り付けて4mpmで搬送したところ乾燥炉内でステンレス箔の基板の温度が上がり始め100℃になるまでに約1分、100℃に保持されている時間が約1分であることがわかった。また熱処理炉については、約100℃のステンレス箔が熱処理炉内に入った後、400℃にステンレス箔の温度が上がるまでに1.5分、400℃に保持されている時間が1.5分であることがわかった。したがって、グラビアコータで塗布された膜のトルエンなどの溶剤が乾燥炉内で蒸発して取り除かれ、熱処理炉に入った後、1分前後の間に200〜250℃のリフローが起きやすい温度域を通過して膜がレベリングされ、残りの2分で膜硬化することになる。
【0058】
得られた平坦化膜付きステンレス箔のロールについてJIS K5600に従って鉛筆硬度を測定したところ5Hの硬さであった。平坦化膜付きステンレス箔の断面をSEMで観察したところ、膜厚は3.0μmであった。1cm角の上部電極を付けてリーク電流を測定したところ1E−9A/cm
2であった。触針式粗さ計によるコイルの幅方向の表面粗さRaは12nmであった。耐熱性を確認するために皮膜を削り取って熱重量分析を窒素ガス中で実施した。5%重量減少を示した温度は500℃を超えており400℃までの耐熱性は十分あることが示唆された。次に耐湿性を評価するために、膜付きの基板を85℃85%RH(相対湿度)の恒温恒湿槽に保管してリーク電流の変化を調べた。リーク電流は200時間保管後まで全く変化がなく1E−9A/cm
2であり、膜質の劣化がないことが確認された。
【0059】
【表1】