【解決手段】開口部11を有する金属層10と、金属層10に積層された、開口部21を有する単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂層20を備えた蒸着マスクであって、樹脂層20が、開口部を有しない樹脂フィルムの状態で、引き裂き伝播抵抗の値(mN)をYとし、厚み(μm)をXとしたとき、Z=Y/X
開口部を有する金属層と、該金属層に積層された、開口部を有する単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂層と、を備えた蒸着マスクにおいて前記ポリイミド層の少なくとも1層を形成するための蒸着マスク形成用ポリイミドフィルムであって、
請求項7に記載の蒸着マスク形成用ポリイミドを含むことを特徴とする蒸着マスク形成用ポリイミドフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
[蒸着マスク]
図1は、本発明の一実施の形態に係る蒸着マスクの構造を説明するための要部拡大断面図である。蒸着マスク100は、金属層10と樹脂層20とを積層した構造のFHM(ファイン・ハイブリッド・マスク)である。この蒸着マスク100は、少なくとも1つ以上の貫通した開口部11を有する金属層10と、該金属層10に積層された、少なくとも1つ以上の貫通した開口部21を有する単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂層20と、を備えている。
【0031】
<金属層>
蒸着マスク100において、金属層10の材料について特に制限はなく、公知の蒸着マスクで用いられるものと同様のものを使用することができる。具体的には、ステンレス、鉄ニッケル合金、アルムニウム合金等が例示されるが、なかでも鉄ニッケル合金であるインバー(又はインバー合金)は熱による変形が少ないため好適に使用される。また、被蒸着体に蒸着を行うにあたり、被蒸着体の後方に磁石等を設置し、蒸着マスク100を磁力によって引き付ける場合には、金属層10が磁性体で形成されるのが好ましい。このような磁性体の金属層10としては、上記のようなインバー又はインバー合金を含む鉄ニッケル合金のほか、炭素鋼、タングステン鋼、クロム鋼、KS鋼、MK鋼、NKS鋼等が例として挙げられる。
【0032】
金属層10の厚みについては特に制限はなく、破断や変形を抑制できるとともに、蒸着シャドウの抑制を考慮した厚みにするのがよく、好ましくは2〜100μmの範囲内であるのがよい。
【0033】
<樹脂層>
本実施の形態の蒸着マスク100において、単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂層20は、開口部21を有している。開口部21は、被蒸着体に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを形成している。
樹脂層20は、単層又は複数層のポリイミド層からなることが好ましく、単層のポリイミド層からなることがより好ましい。
【0034】
樹脂層20は、数式(I);
Z=Y/X
1.5 ・・・ (I)
で計算されるZの値が0.5以上である。ここで、数式(I)によって得られるZの値は、樹脂層20の靭性の指標となるものであり、値が大きいほど、高靭性であることを意味する。数式(I)において、Yは樹脂層20について開口部21を有しない樹脂フィルムの状態で測定される引き裂き伝播抵抗の値(mN)であり、Xは樹脂層20の厚み(μm)である。引き裂き伝播抵抗は実施例に記載の方法で測定される。
数式(I)で表されるZの値を0.5以上とすることで、加工時の破れ等の不具合を防止することができる。Zの値は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上である。Zの値の上限は、特に限定されるものではないが、例えば3.5以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。
【0035】
本実施の形態の蒸着マスク100に含まれる樹脂層20の熱膨張係数(CTE)は、開口部21を有しない樹脂フィルムの状態において、面内の全ての方向で、10×10
−6/K以下が好ましく、−10×10
−6/K以上10×10
−6/K以下がより好ましく、−8×10
−6/K以上8×10
−6/K以下がさらに好ましい。CTEをこのような範囲に制御することで、蒸着マスク100に適した低熱膨張性の金属層10との工程中の温度変化に伴う寸法のずれが小さくできることから、複数の開口部11を備えた金属層10と積層体を構成した際に、常温で平坦であるとともに、蒸着時に温度が上昇した際にも、その平坦性を維持することができる。また、樹脂層20の面内全ての方向でこのようなCTEであるようにすることで、工程中の温度変化による蒸着マスク100の反りや、蒸着マスク100内の温度ばらつきによる部分的なうねり、たるみを抑えることができる。ここで、CTEが「面内の全ての方向において10×10
−6/K以下である」とは、樹脂層20の一辺と平行な方向と直角な方向を含め、面内のいずれの方向においても熱膨張係数が10×10
−6/K以下である状態を言うものとする。
【0036】
本実施の形態の蒸着マスク100に含まれる樹脂層20の総厚みは、蒸着シャドウの発生を極力抑制する観点から、好ましくは2〜25μmの範囲内、より好ましくは2〜10μmの範囲とすることがよい。樹脂層20の総厚みが2μmを下回ると靱性を担保できないため、加工時に破れ等の不具合が発生しやすい。また、樹脂層20の総厚みが25μmを上回ると、蒸着シャドウにより、表示部形成に不具合が発生する。
【0037】
<蒸着マスク形成用ポリイミド>
樹脂層20において、ポリイミド層を構成するポリイミド(蒸着マスク形成用ポリイミド)は、テトラカルボン酸二無水物成分から誘導される特定の酸無水物残基と、ジアミン成分から誘導される特定のジアミン残基と、を有するものである。なお、本発明において、酸無水物残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。
【0038】
以下、本実施の形態で用いるポリイミドに含まれる酸無水物残基及びジアミン残基について、まとめて説明する。
【0039】
(酸無水物残基)
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドは、酸無水物残基として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「PMDA残基」ともいう。)を含有することが好ましい。PMDA残基は、剛直骨格を有するため、他の一般的な酸無水物成分に比べて、イミド化後のポリイミド中の分子の面内配向性の制御が可能であり、CTEの抑制効果がある。
【0040】
このような観点から、本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドは、酸無水物残基の合計100モル部に対して、PMDA残基を50モル部以上100モル部以下の範囲内で含有することが好ましく、より好ましくは70モル部以上、さらに好ましくは80モル部以上、特に好ましくは90モル部以上で含有するように制御する。PMDA残基が50モル部未満では、CTEが増加するおそれがある。
【0041】
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドに含まれるPMDA残基以外の酸無水物残基としては、ポリイミドの原料として通常使用される酸無水物の残基を挙げることができる。具体的には、例えば、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0042】
(ジアミン残基)
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドは、ジアミン残基として、一般式(1)又は(2)、及び(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。
【0044】
[式(1)、(2)及び(3)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1〜6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、
Z
1は独立に単結合、−COO−、又は−NHCO−から選ばれる2価の基を示し、
Z
2は独立に単結合、芳香族環若しくは複素環を含む2価の基、−COO−、又は−NHCO−から選ばれる2価の基を示し、
Z
3は独立に単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示し、
XはNH又はOを示し、
n
1は独立に0〜3の整数、n
2は0〜1の整数、n
3は0〜2の整数を示す。
ただし、Z
3の少なくとも1つは−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示す。]
ここで、「独立に」とは、上記式(1)、(2)及び(3)において、複数の置換基R、2価の基Z
1、Z
2及びZ
3、さらに整数n
1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(1)、(2)及び(3)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば−NR
1R
2(ここで、R
1,R
2は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。他のジアミン化合物についても同様である。
【0045】
一般式(1)で表されるジアミン化合物(以下、「ジアミン(1)」と記すことがある)は、剛直構造によって、ポリイミドのCTEを低下させると考えられる。また、好ましくはビフェニル構造とすることで、イミド基濃度を低下させ、低吸湿化を促すと考えられる。
【0046】
また、一般式(2)で表される複素環含有ジアミン化合物(以下、「ジアミン(2)」と記すことがある)は、複素環を有しているため、平面性が高いので、低CTE化を促すと考えられる。
【0047】
また、一般式(3)で表されるジアミン化合物(以下、「ジアミン(3)」と記すことがある)は、2つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(3)は、少なくとも2つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Z
3があることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与し、高靭性化を促すと考えられる。ここで、連結基Z
3としては、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、−S−が好ましい。また、2つ以上のベンゼン環は、ポリイミドのイミド基濃度を低下させ、低吸湿化を促すと考えられる。ここで、n
3は1〜2が好ましい。
【0048】
本実施の形態の蒸着マスク100に含まれるポリイミド層について高い寸法安定性と高靭性化を両立させるためには、ポリイミドの剛直性と柔軟性のバランスが重要である。そのため、蒸着マスク形成用ポリイミドとしては、剛直性を持ち、低CTE化を促すジアミン(1)又はジアミン(2)の割合を50モル部以上、90モル部未満として、屈曲性を持ち、高靱性化を促すジアミン(3)の割合については10モル部を越え、50モル部以下とするのがよい。この割合とすることで、寸法安定性の指標となるCTEを低く抑えつつ、ポリイミドの高靱性化が可能となる。一般に、ポリイミド層の低CTE化と高靱性化はトレード・オフの関係にあるが、剛直性若しくは平面性が高く、低CTE化を促すジアミン(1)又はジアミン(2)と、屈曲性を持ち、高靱性化を促すジアミン(3)とを組み合わせ、それらを上記比率で使用することによって、低CTEであり、かつ高靱性なポリイミド層とすることが可能になる。
【0049】
すなわち、蒸着マスク形成用ポリイミドに含まれるジアミン残基は、ジアミン残基の合計100モル部に対して、ジアミン(1)又は(2)から誘導されるジアミン残基を、好ましくは50モル部以上90モル部未満の範囲内、より好ましくは60モル部以上〜90モル部未満の範囲内、さらに好ましくは70モル部〜90モル部未満の範囲内で含有するようにし、
ジアミン(3)から誘導されるジアミン残基を、好ましくは10モル部を超え50モル部以下の範囲内、より好ましくは10モル部を越え40モル部以下の範囲内、さらに好ましくは10モル部を越え30モル部以下の範囲内で含有するように制御する。
ジアミン(1)又は(2)から誘導されるジアミン残基の割合が90モル部以上となると、靱性を担保できなくなり、50モル部を下回るとCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。
【0050】
<ジアミン(1)の説明>
ポリイミドの秩序構造を形成しやすくするため、ジアミン(1)は、好ましくは下記式(1−1)又は(1−2)で表されるジアミン化合物がよい。
【0052】
式(1−1)において、R
3は、独立してハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のアルコキシ基若しくは炭素数2〜3のアルケニル基を示す。
【0053】
ジアミン(1)の好ましい具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、2,2’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EOB)、2,2’−ジプロポキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−POB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも特に、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、4,4’‐ジアミノ‐2,2’‐ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)が好適なものとして挙げられる。
【0054】
<ジアミン(2)の説明>
ジアミン(2)は、好ましくは下記式(2−1)又は(2−2)で表される複素環含有ジアミノ化合物がよい。
【0056】
式(2−1)において、XはNH又はOを示し、Ar
1は単結合又は芳香族環を含む2価の基を示す。ここで、Ar
1としては、フェニル基を含む2価の基が好ましい。
式(2−2)において、XはNH又はOを示し、Ar
2は単結合又は芳香族環を含む2価の基を示す。
【0057】
ジアミン(2)の好ましい具体例としては、4−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、6−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、7−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5−アミノ−2−(3−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、4−アミノ−2−(3−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、2,2’−p−フェニレンビス(5−アミノベンゾイミダゾール)、2,2’−p−フェニレンビス(6−アミノベンゾイミダゾール)、4−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、7−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5−アミノ−2−(3−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、4−アミノ−2−(3−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’−p−フェニレンビス(5−アミノベンゾオキサゾール)、2,2’−p−フェニレンビス(6−アミノベンゾオキサゾール)等が挙げられる。これらの中でも特に、6−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、6−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが好適なものとして挙げられる。
【0058】
<ジアミン(3)の説明>
また、ポリイミドの弾性率を下げ、靱性を向上させるため、ジアミン(3)は、好ましくは下記式(3−1)で表されるジアミン化合物がよい。
【0060】
式(3−1)において、Z
3は独立に単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示し、n
3は0〜2の整数を示す。ただし、Z
3の少なくとも1つは−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示す。
【0061】
ジアミン(3)の好ましい具体例としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)等が挙げられる。これらの中でも,4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DAPE)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)が好ましい。
【0062】
ただし、本発明の目的を阻害しない限り、ポリイミドの原料として通常用いられる他のジアミンを併用することも可能である。他のジアミンとしては、例えば、p‐フェニレンジアミン(p−PDA)、m−フェニレンジアミン(m−PDA)等が挙げられる。
【0063】
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドにおいて、上記酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合、それぞれのモル比を選定することにより、靭性、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
【0064】
<ポリイミドの合成>
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドは、上記酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0065】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。
【0066】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0067】
<フィラー>
本実施の形態の蒸着マスク100は、必要に応じて、樹脂層20中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
[蒸着マスク形成用ポリアミド酸]
蒸着マスク100の樹脂層20に含まれるポリイミド層を形成するための蒸着マスク形成用ポリアミド酸は、蒸着マスク形成用ポリイミドと同様の残基を含有する。例えば、蒸着マスク形成用ポリアミド酸は、酸無水物残基の合計100モル部に対して、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるPMDA残基を50モル部以上100モル部以下の範囲内で含有することが好ましい。また、蒸着マスク形成用ポリアミド酸は、ジアミン残基の合計100モル部に対して、上記式(1)又は(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を、50モル部以上90モル部未満の範囲内で含有することが好ましく、上記式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を、10モル部を超え50モル部以下の範囲内で含有することが好ましい。これらの残基のさらに好ましい含有量の範囲も、蒸着マスク形成用ポリイミドと同様である。蒸着マスク形成用ポリアミド酸は、上記例示の溶媒に溶解させたポリアミド酸溶液として好ましく使用できる。
【0069】
蒸着マスク形成用ポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000〜400,000の範囲内が好ましく、50,000〜350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0070】
[蒸着マスク形成用ポリイミドフィルム]
本実施の形態の蒸着マスク形成用ポリイミドフィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を有する。蒸着マスク形成用ポリイミドフィルムは、開口部が形成されていない点を除き、蒸着マスク100における樹脂層20と同様の構成とすることができる。例えば、蒸着マスク形成用ポリイミドフィルムに含まれる残基、該フィルムのCTE、数式(I)で表されるZの値及び厚みは、蒸着マスク100における樹脂層20と同様であってもよい。また、蒸着マスク形成用ポリイミドフィルムは、上記フィラーを含有してもよい。
【0071】
[蒸着マスク形成用金属張積層体]
本実施の形態の蒸着マスク形成用金属張積層体は、金属層と、単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂層と、を有する。蒸着マスク形成用金属張積層体における金属層及び樹脂層は、樹脂層に開口部が形成されていない点を除き、蒸着マスク100における金属層10及び樹脂層20と同様の構成とすることができる。例えば、蒸着マスク形成用金属張積層体における樹脂層中のポリイミドに含まれる残基、該樹脂層のCTE、数式(I)で表されるZの値及び厚み、並びに、金属層の材質及び厚みは、蒸着マスク100と同様であってもよい。また、蒸着マスク形成用金属張積層体における樹脂層は、上記フィラーを含有してもよい。なお、蒸着マスク形成用金属張積層体における金属層は、開口部を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0072】
<蒸着マスク形成用金属張積層体の構成例>
本実施の形態の蒸着マスク形成用金属張積層体において、例えば、蒸着マスク形成用ポリイミドによるポリイミド層をP1、任意のポリイミド層をP2、金属層をMとすると、好ましくは次のような構成1〜3が例示される。ここで、P1の合計の厚みは、樹脂層の総厚みに対して、50%以上とすることが好ましい。
【0073】
構成1;M/P1
構成2;M/P1/P2
構成3;M/P2/P1
【0074】
[蒸着マスク形成用金属張積層体の製造方法]
本実施の形態の蒸着マスク形成用金属張積層体を形成する方法については特に制限はないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。なお、ここでは、樹脂層の全体がポリイミド層である場合を例に挙げる。
(1)金属層にポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物(樹脂溶液)を塗布した後、加熱処理を行い、金属層上に直接ポリイミド層を形成する方法。
(2)ガラスやSUS等の支持基材上に樹脂溶液を塗布した後、加熱処理を行い、支持基材上にポリイミド層を形成した後に、このポリイミド層上に、例えばスパッタやメッキ等を含むセミアディティブ工法により金属層を形成し、その後、支持基材を分離する方法。この場合、あらかじめ支持基材とポリイミド層とを分離して、ポリイミドフィルムを得た後、このポリイミドフィルム上に金属層を形成してもよい。
(3)上記(2)と同様の方法等によって、ポリイミド層又はポリイミドフィルムを得た後に、接着剤を介すことなく、ポリイミド層又はポリイミドフィルムと金属層とを直接熱圧着する方法。なお、熱圧着後、支持基材を分離してもよい。
(4)上記(2)と同様の方法等によって、ポリイミド層又はポリイミドフィルムを得た後に、金属層と、ポリイミド層又はポリイミドフィルムとを接着剤、粘着剤等で貼り合わせる方法。なお、貼り合わせ後、支持基材を分離してもよい。
上記(1)〜(4)のいずれの手法においても、蒸着マスク形成用金属張積層体を蒸着マスク100へと加工する事を踏まえて、金属層にはあらかじめ開口パターンが形成されていてもよいし、スパッタやメッキ等を含むセミアディティブ工法により、樹脂層表面に部分的に金属層を形成してもよい。
【0075】
[蒸着マスクの製造方法]
本実施の形態の蒸着マスク100を製造する方法については特に制限はないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。
・開口部を有さない金属層を備えた蒸着マスク形成用金属張積層体の金属層に複数の開口部を形成するか、又は、複数の開口部を有する金属層を備えた蒸着マスク形成用金属張積層体を製造した後、金属層の開口部における開口範囲内の樹脂層を貫通させて貫通孔を設けて、薄膜パターンに対応する開口パターンを形成する方法。なお、樹脂層への開口パターンの形成は、任意の支持基材が積層された状態で行ってもよい。
・ポリイミドフィルム上に、スパッタやメッキ等を含むセミアディティブ工法により開口部が形成された金属層を形成し、開口範囲内のポリイミド層を貫通させて貫通孔を設けて、薄膜パターンに対応する開口パターンを形成する方法。
【0076】
本発明において、金属層に開口部を形成したり、開口部を有する金属層を形成したりする方法については特に制限されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
・金属層の表面に感光性レジストを塗布し、所定の箇所を露光し、現像後、エッチングにより開口部を形成する方法。
・金属層に対し、レーザー照射により開口部を形成する方法。
・樹脂層、または、他の基材上に感光性レジストを塗布し、所定の箇所を露光し、現像後、スパッタ、蒸着、メッキ等で金属層を形成する方法。
これらの中でも、生産性に優れることから、好ましくはエッチングにより開口部を形成するのがよい。
【0077】
本発明において、樹脂層に貫通孔を設けて開口パターンを形成する方法については特に制限されず、例えば、以下の方法を挙げることができる。
・樹脂層の表面に感光性レジストを塗布し、所定の箇所を露光し、現像後、エッチングにより貫通孔を形成する方法。
・レーザーを照射して貫通孔を形成する方法。
・メカニカルドリルで貫通孔を形成する方法。
これらの中でも、精度や生産性等の観点から、好ましくはレーザー照射によるのがよい。ここで、樹脂層に開口パターンを形成するのに用いられるレーザーとしては、例えば、UV−YAGレーザー(波長355nm)、エキシマレーザー(波長308nm)等を用いることができ、なかでも好ましくは、UV−YAGレーザー(波長355nm)であるのがよい。
【0078】
次に、蒸着マスク100の好ましい製造方法について、より具体的な3つの態様を挙げて説明する。なお、これらの態様では、樹脂層20の全体がポリイミド層である場合を例に挙げる。
【0079】
<第1の態様>
第1の態様の蒸着マスクの製造方法は、下記の工程を含むことができる。
図2に、第1の態様における主要な工程を例示した。
【0080】
(工程I)
まず、蒸着マスク形成用ポリアミド酸の溶液を、例えばガラス基板などの支持基材30上に塗工した後、熱処理することにより、単層又は複数層のポリイミド層からなる樹脂層20Aを形成し、
図2(a)に示すように、ポリイミド積層体101Aを得る。
【0081】
(工程IIa)
次に、ポリイミド積層体101Aの樹脂層20A上に、少なくとも一つの開口部11を有する磁性金属体としての金属層10を形成し、
図2(b)に示すように、磁性金属積層体101Bを得る。樹脂層20A上に金属層10を形成する方法は、特に制限はないが、例えばスパッタ、蒸着、メッキ等を含むセミアディティブ工法を挙げることができる。
【0082】
(工程IIb)
次に、磁性金属積層体101Bから支持基材30を分離し、
図2(c)に示すように、磁性金属積層体101Cを得る。
【0083】
(工程III)
次に、磁性金属積層体101Cの開口部11に重なる範囲内の樹脂層20Aに複数の開口部21を形成し、
図2(d)に示すように、開口部11を有する金属層10と、開口部21を有する樹脂層20とが積層された蒸着マスク100を得る。ここで、開口部21を形成する方法に制限はないが、例えばレーザー照射が好ましい。なお、上記の工程において、(工程IIa)の次に(工程III)を実施し、その後に(工程IIb)を実施するように、樹脂層20Aに複数の開口部21を形成した後に、支持基材30を分離してもよい。
【0084】
<第2の態様>
第2の態様の蒸着マスクの製造方法は、下記の工程を含むことができる。
図3に、第2の態様における主要な工程を例示した。
【0085】
(工程i)
まず、蒸着マスク形成用ポリアミド酸の溶液を、例えばガラス基板などの支持基材30上に塗工した後、熱処理することにより、単層又は複数層のポリイミド層からなる樹脂層20Aを形成し、
図3(a)に示すように、ポリイミド積層体102Aを得る。
【0086】
(工程ii)
次に、ポリイミド積層体102Aの樹脂層20A上に、少なくとも一つの開口部11を有する磁性金属体としての金属層10を固定し、
図3(b)に示すように、磁性金属積層体102Bを得る。ここで、樹脂層20A上に磁性金属体を固定する方法は、特に制限されるものではないが、例えば接着剤からなる接着層40を介して貼り合わせる方法などが好ましく採用される。
【0087】
(工程iii)
次に、磁性金属積層体102Bの開口部11に重なる範囲内の樹脂層20Aに複数の開口部21を形成し、
図3(c)に示すように、金属層10と樹脂層20と支持基材30とが積層された磁性金属積層体102Cを形成する。ここで、開口部21を形成する方法に制限はないが、例えばレーザー照射が好ましい。
【0088】
(工程iv)
次に、磁性金属積層体102Cの樹脂層20から支持基材30を分離することによって、
図3(d)に示すように、開口部11を有する金属層10と、開口部21を有する樹脂層20とが積層された蒸着マスク100を得る。なお、上記の工程において、(工程ii)の次に(工程iv)を実施し、その後に(工程iii)を実施するように、支持基材30を分離した後に、樹脂層20Aに複数の開口部21を形成してもよい。
【0089】
<第3の態様>
第3の態様の蒸着マスクの製造方法は、下記の工程を含むことができる。
図4に、第3の態様における主要な工程を例示した。
【0090】
(工程1)
まず、例えば磁性金属からなる金属層10A上に、蒸着マスク形成用ポリアミド酸の溶液を塗工した後、熱処理することにより、単層又は複数層のポリイミド層からなる樹脂層20Aを形成し、
図4(a)に示すように、金属層10Aと樹脂層20Aとが積層された金属張積層体103Aを得る。
【0091】
(工程2)
次に、金属張積層体103Aの金属層10Aを部分的に除去して開口部11を形成し、
図4(b)に示すように、開口部11を有する金属層10と樹脂層20Aとが積層された金属張積層体103Bを得る。金属層10Aに開口部11を形成する方法は、特に制限はないが、例えばエッチングやレーザー照射等の方法を挙げることができる。
【0092】
(工程3)
次に、金属張積層体103Bの開口部11に重なる範囲内の樹脂層20Aに複数の開口部21を形成し、
図4(c)に示すように、開口部11を有する金属層10と、開口部21を有する樹脂層20とが積層された蒸着マスク100を得る。ここで、樹脂層20Aに開口部21を形成する方法に制限はないが、例えばレーザー照射が好ましい。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0094】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0095】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にN,N‐ジメチルアセトアミドを用いた。なお、ポリアミド酸をイミド化して得られるポリイミド樹脂の重量平均分子量も、ポリアミド酸の状態で測定されるものと略等しいため、ポリアミド酸の重量平均分子量をもってポリイミド樹脂の重量平均分子量と見做すことができる。
【0096】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/minの速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。なお、測定は、長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)について実施した。
【0097】
[引き裂き伝播抵抗の測定]
実施例に記載の方法に従い、ポリイミドフィルム(63.5mm×50mm)を準備し、このポリイミドフィルムに長さ12.7mmの切り込みを入れ、軽荷重引き裂き試験機(東洋精機社製)を用いて測定した。
【0098】
[レーザーリフトオフ;LLO]
ポリイミド層とガラス基板との積層体に、エキシマレーザー加工機(波長308nm)を用いて、ビームサイズ14mm×1.2mm、移動速度6mm/sのレーザーを支持基材(ガラス基板)側から照射し、ガラス基板とポリイミド層が完全に分離された状態(カッターで剥離範囲を決め、切り口を1周入れてからポリイミドフィルムがガラス基板から自然剥離)とした。この際、レーザー照射エネルギー密度を110(mJ/cm
2)とした。
【0099】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
APBIZ :5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール
TPE−R :1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
DAPE: 3,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PMDA :ピロメリット酸二無水物
BPDA :3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
DMAc:N,N−-ジメチルアセトアミド
【0100】
(合成例1〜7)
ポリアミド酸a〜gを合成するため、窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を攪拌しながら溶解させた。その後、溶液を室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸a〜gの黄〜茶褐色の粘稠な溶液を調製した。
【0101】
【表1】
【0102】
(実施例1〜7)
シート状のインバー箔(厚み;100μm)に、ポリアミド酸a〜fの溶液を、それぞれアプリケータを用いて塗布し、50〜130℃で1〜60分間乾燥した後、更に130℃〜360℃の温度範囲で段階的な熱処理を行い、銅箔上に表2に示す厚みでポリイミド層a〜fを形成し、金属張積層体1〜7を調製した。
【0103】
(比較例1)
シート状のインバー箔(厚み;100μm)に、ポリアミド酸gの溶液を、実施例1〜7と同様にアプリケータを用いて塗布し、50〜130℃で1〜60分間乾燥した後、更に130℃〜360℃の温度範囲で段階的な熱処理を行い、銅箔上に表2に示す厚みでポリイミド層gを形成し、金属張積層体9を調製した。
【0104】
塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層体1〜7及び9のインバー箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1〜7及び9を調製した。各ポリイミドフィルムの引き裂き伝播抵抗、熱膨張係数(CTE)の評価結果を表2に示す。ここで、表2中、CTE(MD)はMD方向のCTEを示し、CTE(TD)はTD方向のCTEを示す。
【0105】
【表2】
【0106】
実施例5と比較例1の結果を比較すると、実施例5では屈曲性の構造をもつTPE−Rを増やしたことで、比較例1よりも靱性の指標であるZ値が大きく向上していることが分かる。一方で、CTEについては、実施例5の方が比較例1よりもやや増大傾向となるため、実施例1〜3のように酸無水物側について、剛直構造の割合を増やすことで、CTEと靱性のバランスを取ることが好ましい。また、実施例4のように屈曲性のモノマーは複数組み合わせることも可能である。さらに、剛直構造のモノマーとしては、実施例1〜5のようにビフェニル骨格の他に、実施例6〜7にあるような平面性の高い複素環構造を含むジアミンを用いることも有効である。
【0107】
(実施例1−2)
実施例1で得られた金属張積層体1のインバー表面にドライフィルムレジストをラミネートし、ドライフィルムレジストをパターニングし、そのパターンに沿ってインバーを塩化第二鉄水溶液でエッチングして、幅10mm、長さ30mmの金属層の開口部を形成した。また、この開口部内のポリイミド層にUV−YAGレーザー加工機により、径50μmの貫通孔となるように開口パターンを形成し、蒸着マスク1を得た。
【0108】
(実施例8−1)
ポリアミド酸溶液aについて、ガラス基板(コーニング社製、商品名;E−XG、サイズ;150mm×150mm、厚み;0.7mm)上に、スピンコーターを用いて、硬化後のポリイミド層の厚みが約7.5μmになるように塗工した。続いて、空気雰囲気下で、50〜130℃で1〜60分間乾燥した後、更に130℃〜360℃の温度範囲で段階的な熱処理を行い、ガラス基板上にポリイミド層(ポリイミドa)を形成し、ポリイミド積層体8を得た。
【0109】
得られたサンプルについて、レーザーリフトオフ(LLO)によりガラス基板からポリイミドフィルムを剥離することで、ポリイミドフィルム8を得た。この際、引き裂き伝播抵抗は24mN、MD方向のCTEが9.1ppm/K、TD方向のCTEが9.2ppm/Kであり、Z値は1.17であった。
【0110】
(実施例8−2)
実施例8−1で得られたポリイミドフィルム8を0.5Nの水酸化カリウム水溶液(50℃)中に5分間浸漬した。その後、浸漬したポリイミドフィルム8を水洗し、ポリイミドフィルム8の表面にアルカリ改質層を形成した。
【0111】
次に、10mM濃度の酢酸パラジウムと60mM濃度のアンモニアを混合した水溶液(25℃)に60分間浸漬し、アルカリ改質層にパラジウムイオンを含浸することで、パラジウムイオン含浸層を形成した。
【0112】
前記含浸層を形成したポリイミドフィルム8を、50mM濃度のジメチルアミンボラン水溶液(30℃)中に5分間浸漬することで含浸層のパラジウムイオンを還元しパラジウム析出層の形成を行い、さらに無電解ニッケルめっき(ニッケル−リン合金系)水溶液(90℃)へ20秒間浸漬後し、ニッケルめっき行い、ポリイミド積層体8を得た。
【0113】
無電解めっき後のポリイミド積層体8について、めっき表面にドライフィルムレジストを90℃にてラミネートし、フォトマスクを介して紫外線露光し、0.5重量%の炭酸ナトリウム水溶液にて現像することにより、マスクパターンが形成された表面改質ポリイミド積層体8を得た。
【0114】
次に、ニッケルのめっき浴に浸漬して電気めっきすることで、レジストマスクで被覆されていない部分に、電気めっきによるニッケル層(厚み;10μm)を形成したニッケルパターン形成ポリイミド積層体8を得た。得られたニッケルパターン形成ポリイミド積層体8を2重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)に3分間浸漬後、水洗することでレジストパターンの剥離を行った。
【0115】
その後、窒素雰囲気下で、10分間、360℃で加熱することで、アルカリ改質層の再イミド化を完了し、さらにフラッシュエッチング液を用いた無電解ニッケルめっき層の除去を実施した。得られた積層体のポリイミド露出部について、355nmのYAGレーザーを用いて一定間隔でポリイミドに貫通孔を形成した後、レーザーリフトオフによりガラス基板から剥離し、ニッケル層及びポリイミド層に貫通開口パターンを有する蒸着マスク8を形成した。
【0116】
本発明を用いて、蒸着マスクを製造するにあたり、実施例1のように開口部を有さない金属箔上に、ポリイミド層を形成した後に、蒸着マスクへと加工してもよいし、実施例8のように例えばガラス基板上にポリイミド層を形成した後に、開口部を有する金属層を形成し、その後、蒸着マスクへと加工しても良い。いずれの製造方法においても、樹脂層は低CTEかつ、高靱性となり、本発明の効果が発現する。
【0117】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。