特開2020-105158(P2020-105158A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2020105158-免疫調整剤 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-105158(P2020-105158A)
(43)【公開日】2020年7月9日
(54)【発明の名称】免疫調整剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20200612BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20200612BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200612BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20200612BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20200612BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20200612BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20200612BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20200612BHJP
【FI】
   A61K35/742
   A61P37/02
   A61P43/00 107
   A61P43/00 117
   A61P43/00 111
   A61P37/08
   A61K8/99
   A61Q19/00
   A23L33/135
   A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-248989(P2018-248989)
(22)【出願日】2018年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(72)【発明者】
【氏名】河本 正次
(72)【発明者】
【氏名】堀 采音
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
(72)【発明者】
【氏名】虫明 優一
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AA06
2B150AB10
2B150AC15
2B150AC36
2B150DD12
2B150DD13
4B018LB10
4B018MD85
4B018ME07
4B018ME14
4B018MF03
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF13
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC01
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC65
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB13
4C087ZB22
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】 本発明は、天然物由来の新規な免疫調整剤を提供する。
【解決手段】 発明者らは、枯草菌の芽胞形成能欠損株に免疫調整効果があることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、免疫調整剤。
【請求項2】
脾臓細胞増殖促進用、インターフェロン−γ産生促進用又はインターロイキン−10産生促進用である、請求項1記載の免疫調整剤。
【請求項3】
枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、抗アレルギー剤。
【請求項4】
枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、免疫賦活剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の免疫調整剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【請求項6】
請求項3に記載の抗アレルギー剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【請求項7】
請求項4に記載の免疫賦活剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫調整剤及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進展に伴って健康に対する意識がますます高まっており、疾病の予防や改善において極めて重要な免疫機能を、正常に維持することができる食品や医薬品の開発が強く望まれている。
【0003】
これまでに免疫調整剤として、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズクレモリス H−61株(NITE AP−92)を含有することを特徴とする免疫調整剤(特許文献1)、カテキン類を有効成分とする免疫調整剤(特許文献2)及びコエンザイムQ10とザクロ加工物とを含有する免疫調整剤(特許文献3)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4604207号公報
【特許文献2】特開2008−63318号公報
【特許文献3】特開2015−17081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の新規な免疫調整剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、枯草菌の芽胞形成能欠損株に優れた免疫調整効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]の態様に関する。
[1]枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、免疫調整剤。
[2]脾臓細胞増殖促進用、インターフェロン−γ産生促進用又はインターロイキン−10産生促進用である、[1]記載の免疫調整剤。
[3]枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、抗アレルギー剤。
[4]枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とする、免疫賦活剤。
[5][1]又は[2]に記載の免疫調整剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
[6][3]に記載の抗アレルギー剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
[7][4]に記載の免疫賦活剤を含む飲食品、化粧品、医薬品又は飼料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、天然物由来の新規な免疫調整剤を提供できる。また、殺菌後の死菌において免疫調整効果が認められることから、死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、免疫調整剤を効率的に製造できる。また、有効成分が化学合成品ではなく、食経験のある菌のため、継続した長期的な摂取が望ましい免疫調整剤として最適である。さらに、芽胞形成能欠損株のため、一般的な微生物と同様に100℃以下の穏和な条件で殺菌を行うことができ、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができるため、各種食品への添加や製剤化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】脾臓細胞の増殖能に及ぼす枯草菌の添加効果を示す。
図2】インターフェロン−γ又はインターロイキン−10の産生能に及ぼす枯草菌の添加効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、芽胞形成能欠損株を有効成分とする免疫調整剤に関するものであって、脾臓細胞増殖促進用、インターフェロン−γ産生促進用又はインターロイキン10産生促進用として使用でき、脾臓細胞増殖促進効果、インターフェロン−γ産生促進効果又はインターロイキン10産生促進効果の少なくとも1つを有し、好ましくは全ての効果を有し、抗アレルギー剤又は免疫賦活剤としても有効である。
【0011】
本発明に記載の芽胞形成能欠損株は、免疫調整剤の有効成分となる枯草菌(Bacillus subtilis)芽胞形成能欠損株であれば、特に限定されないが、変異前の野生株はバチルス・サブチリス・サブスピーシーズ・サブチリス(B.subtilis.subsp.subtilis)が好ましく、バチルス・サブチリスNBRC3009、バチルス・サブチリスNBRC3013、バチルス・ザブチリスNBRC13169等の納豆菌がより好ましく、独立行政法人製品評価技術基盤機構等から入手することができる。
【0012】
前記の野生株を、遺伝子組換えによる方法、突然変異による方法等により変異させることで、芽胞形成能欠損株が得られるが、自然突然変異による方法が好ましい。自然突然変異による芽胞形成能欠損株の取得方法は、特に限定されず、高温培養法や、野生株と欠損株のコロニーのメラニン色素の着色により識別するランダム法、異化代謝産物抑制(Catabolite repression)様現象を利用した方法(J.F.Michel,B.Cami,P.Schaeffer:Ann.Inst.Pasteur,114,11;21(1968))が例示できるが、異化代謝産物抑制様現象を利用した方法が好ましい。異化代謝産物抑制様現象を利用する方法により得られる芽胞形成能欠損株は、芽胞形成能と供にリゾチーム活性及び形質転換能が欠損しているため、溶菌による問題がなく継代することができ、芽胞形成能欠損という形質を維持することができる。芽胞形成能欠損株を使用すれば、本発明の免疫調整剤の有効成分とすることができる他、100℃以下の穏和な殺菌条件で死菌体を調製することができるため、芽胞形成株で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができ、各種食品への添加や製剤化が容易となる。また、生菌でも死菌でも免疫調整効果を有するが、死菌体を使用するのが好ましく、死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、免疫調整剤を効率的に製造できる。
【0013】
芽胞形成能欠損株の培養には、通常の細菌培養用培地が使用でき、炭素源、窒素源、無機物、その他枯草菌が必要とする微量栄養素等を含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL−アラニン、L−グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用できる。
【0014】
培養条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的に液体培養するのが好ましく、培養温度は例えば20〜50℃が例示でき、30〜45℃が好ましく、培養時間は例えば2〜72時間が例示でき、4〜48時間が好ましく、6〜36時間がより好ましく、培地のpHは例えば5.0〜9.0が例示でき、5.5〜8.5が好ましい。
【0015】
培養後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば加熱温度は、70〜150℃であり、加熱時間は、温度に応じて決定すればよいが、通常1〜60分である。また本発明に記載の芽胞形成能欠損株は、芽胞を形成しないため、100℃以下の穏和な条件で殺菌を行うことができ、例えば70〜100℃、5〜20分間の加熱が例示できる。本発明に記載の芽胞形成能欠損株は、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができるため、各種食品への添加や製剤化が容易である。菌体の回収は、遠心分離機等で培地を除去した後、緩衝液、生理食塩水、滅菌水等で菌体を洗浄し、遠心分離機等により固液分離して集菌できる。さらに、エアードライ、スプレードライ、真空及び/又は凍結乾燥等を行って粉末化してもよい。
【0016】
本発明の免疫調整剤、抗アレルギー剤又は免疫賦活剤はその有効成分が天然物由来であり、かつ、製造が容易なため、広く利用でき、各種製品に添加が可能で、液状で添加してもよく、冷蔵、冷凍又は乾燥状態で添加してもよく、免疫調整効果、抗アレルギー効果又は免疫賦活効果を有する飲食品、化粧品、医薬品、飼料等を調製することができる。各種製品中の枯草菌含有量は、摂取により効果が認められる量であれば特に限定されないが、0.1〜20重量%が好ましく、0.2〜10重量%がより好ましく、0.5〜5重量%がさらに好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例1】
【0018】
(芽胞形成能欠損株の死菌体粉末の調製)
異化代謝産物抑制様現象を利用した自然突然変異により、納豆菌の一種であるバチルス・サブチリスNBRC13169から、芽胞形成能を欠損した、芽胞形成能欠損株:バ
利用した自然突然変異は、特許第6019528号公報の実施例に記載の方法で行い、該公報に記載の方法で芽胞形成能が欠損した株であることを確認した。
【0019】
前記枯草菌を、液体培地(酵母エキス:2%、グルコース:5%、水道水:93%)に接種して37℃で24時間通気攪拌培養した後、90℃で10分間加熱殺菌処理した(一般生菌数:10個/g未満)。次いで、遠心分離機を用いて培地を除去し、回収した菌体を水道水で洗浄した後、さらに遠心分離機で固液分離することで、菌体を回収した。回収した菌体をスプレードライヤーで乾燥し、枯草菌の芽胞形成能欠損株の死菌体粉末(実施品1、一般生菌数:10個/g未満)を調製した。
【0020】
[比較例1]
(芽胞形成株の死菌体粉末の調製)
実施例1記載のバチルス・サブチリスNBRC13169を未変異のまま使用し、実施例1と同様に培養した後、121℃で15分間加熱殺菌処理した(一般生菌数:10個/g未満)。次いで、実施例1と同様に処理し、枯草菌の芽胞形成株の死菌体粉末(比較品1、一般生菌数:10個/g未満)を調製した。
尚、未変異株は芽胞形成株のため、実施例1と同じ殺菌条件90℃、10分間処理では、一般生菌数3.0×10個/gと殺菌できなかったため、121℃、15分間の処理とした。
【0021】
[評価試験1]
(脾臓細胞増殖促進作用)
BALB/cマウスの脾臓から採取した脾臓細胞を細胞培養プレートに播き、実施品1もしくは比較品1の菌体粉末を50μg/mlとなるようにそれぞれ添加、又は菌体粉末添加無しで、37℃で30時間培養した後、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を添加した。さらに18時間培養した後、標識済み抗BrdU抗体を用いて発色させ、450nmの吸光度(OD450)を測定することにより、脾臓細胞の増殖能を評価した。各群3ウェルずつ実施し、各群のOD450(平均値)及び標準偏差を算出し、表1及び図1に示した。また、比較品1の値を1とした場合の実施品1の相対値について算出し、表1に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1及び図1より、実施品1を添加した細胞では、添加無し及び比較品1より高い吸光度を示すことが分かった。つまり、脾臓細胞の増殖が、枯草菌の芽胞形成株の添加よりも芽胞形成能欠損株添加により促進されることが分かり、枯草菌の芽胞形成能欠損株が優れた細胞増殖促進作用を有し、芽胞形成株の添加に比べ約1.2倍も促進されることが分かった。
【0024】
よって、枯草菌の芽胞形成能欠損株は、脾臓細胞の増殖促進作用がみられたことから、免疫を強化する免疫賦活効果が期待できる。
【0025】
[評価試験2]
(サイトカイン産生促進作用)
BALB/cマウスの脾臓から採取した脾臓細胞を、予め、T細胞活性化抗体である抗CD3抗体0〜2μg/mLで処理した細胞培養プレートに播き、実施品1もしくは比較品1の菌体粉末を50μg/mlとなるようにそれぞれ添加、又は菌体粉末添加無しで、37℃で48時間培養した後、ELISA法によりインターフェロン−γ(IFN−γ)濃度又はインターロイキン−10(IL−10)濃度を測定した。各群3ウェルずつ実施し、抗CD3抗体処理無し(T細胞の活性化未実施)の細胞培養プレート各群の平均値及び標準偏差を算出し、表2に示した。また、比較品1の値を1とした場合の実施品1の各相対値について算出し、表2に示した。さらに、IFN−γ濃度又はIL−10濃度について、各抗CD3抗体濃度における細胞培養プレート各群の平均値及び標準偏差を算出し図2に示した。
【0026】
【表2】
【0027】
表2より、抗CD3抗体で処理していない細胞において、菌体粉末を添加しなかった細胞がほとんどIFN−γ及びIL−10の産生が見られなかったのに対し、比較品1及び実施品1の菌体粉末を添加した細胞では、IFN−γ及びIL−10が何れも産生されていた。さらに実施品1を添加した細胞では、比較品1を添加した細胞に比べ、IFN−γ産生量が2.8倍、IL−10産生量が1.1倍と、IFN−γ及びIL−10の産生がより促進されていた。つまり、T細胞の活性化を行うことで通常産生されるIFN−γ及びIL−10が、T細胞の活性化を行わなくとも、枯草菌の死菌体粉末の添加で産生され、さらに、芽胞形成能欠損株の死菌体粉末の添加により、より促進されることが分かった。
また、図2より、IFN−γ及びIL−10の産生量は、抗CD3抗体の濃度に比例して増加しており、特に比較品1を添加した細胞より、枯草菌の芽胞形成能欠損株である実施品1を添加した細胞でより顕著な増加がみられた。
【0028】
IFN−γの産生が促進されることで、マクロファージやナチュラルキラー細胞が活性化され、抗腫瘍作用や感染防御等の細胞性免疫賦活効果を発揮すると思われる。さらに、タイプ1ヘルパーT細胞(Th1)であるIFN−γの産生が促進されることで、タイプ2ヘルパーT細胞(Th2)が抑制されるため、抗アレルギー効果を発揮すると思われる。また、免疫抑制サイトカインであるIL−10の産生が促進されることで、Th2が抑制されるため、過剰な炎症反応を抑え、抗アレルギー効果を発揮すると思われる。
【0029】
評価試験1及び2の結果から、枯草菌芽胞形成能欠損株の死菌体粉末の添加により、強力な脾臓細胞増殖促進作用、IFN−γ産生促進作用及びIL−10産生促進作用がみられたことから、枯草菌の芽胞形成能欠損株は、免疫賦活効果や抗アレルギー効果が期待でき、枯草菌の芽胞形成能欠損株を有効成分とした、アレルギー疾患、自己免疫疾患等免疫系疾患の予防又は改善剤、免疫賦活剤等に使用可能な免疫調整剤として有用と思われる。
図1
図2