【解決手段】ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤B1、非繊維状無機充填剤B2、及びα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含有し、繊維状無機充填剤B1及び非繊維状無機充填剤B2の質量比B1/B2が1.0を超え、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が2.0以下である繊維状無機充填剤B3の含有量がポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して50質量部以下であるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物とする。
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤B1、非繊維状無機充填剤B2、及びα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含有し、
繊維状無機充填剤B1及び非繊維状無機充填剤B2の質量比B1/B2が1.0を超え、
長手方向に直角な断面の長径と短径との比である異径比が2.0以下である繊維状無機充填剤B3の含有量がポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して50質量部以下である、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
繊維状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上80質量部以下である、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
非繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上60質量部以下である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して5質量部以上30質量部以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
金属、合金又は無機固体物を含むインサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、前記樹脂部材が請求項1から8のいずれか一項に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含むことを特徴とする、インサート成形品。
前記樹脂部材が、前記樹脂組成物の流動末端同士が接合したウェルド部、及び膨張収縮により発生する応力が集中する応力集中部のいずれか又は両方を有し、前記ウェルド部及び/又は前記応力集中部の少なくとも一部の領域の厚さが2mm以下である、請求項9に記載のインサート成形品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
[ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物]
ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、異径比が3.0以上である繊維状無機充填剤B1、非繊維状無機充填剤B2、及びオレフィン系共重合体Cを含有する。
【0018】
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂A)
ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
−(Ar−S)− ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0019】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0020】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を有する、p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形品を得ることができる。
【0021】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形品を得るという観点から好ましい。p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)である。
【0022】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、一般にその製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、本実施形態においてはその何れのタイプのものについても有効である。
【0023】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの溶融粘度は、310℃及びせん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上50Pa・s以下であることが好ましく、7Pa・s以上40Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度が5Pa・s以上50Pa・s以下の場合、優れた高低温衝撃性及び良好な流動性を維持することができる。
【0024】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、低分子量のポリアリーレンサルファイド系樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することでポリアリーレンサルファイド系樹脂Aを製造することができる。
【0025】
(繊維状無機充填剤B1)
樹脂組成物は、繊維状無機充填剤B1を含有する。「繊維状」とは、異径比が1以上10以下、かつ、アスペクト比が2を超え1500以下の形状をいい、後述する「板状」(異径比が10より大きく、かつアスペクト比が1以上1500以下の形状)、「粉粒状」(異径比が1以上10以下、かつ、アスペクト比が1以上2以下)とは区別される。なお、「異径比」とは、長手方向に直角な断面の長径と短径との比であり、詳しくは「長手方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)/短径(長径と直角方向の最長の直線距離)」である。「アスペクト比」とは、「長手方向の最長の直線距離/長手方向に直角の断面の短径(「断面の最長の直線距離」と直角方向の最長の直線距離)」である。これらの形状は、いずれも初期形状(溶融混練前の形状)である。
【0026】
本実施形態では、繊維状無機充填剤B1は、異径比が3.0以上であり、好ましくは、3.5以上である。異径比の上限値は、10以下であり、好ましくは、8.0以下である。このような異径比を有する繊維状無機充填剤B1を含有することで、インサート成形品の成形収縮率及び線膨張係数の異方性を低下させ、高低温衝撃性及び機械的物性を向上させることができる。
【0027】
繊維状無機充填剤B1の材料としては、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質、ポリアミド繊維、高分子量ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、フッ素繊維等の合成繊維が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラス繊維、カーボン繊維が好ましい。
【0028】
繊維状無機充填剤B1としては、例えば、長手方向に直角な断面形状が、長円形、楕円形、半円、まゆ形、矩形又はこれらの類似形である繊維状の無機充填剤を挙げることができる。なお、「まゆ形」は、長円形の長手方向の中央付近が内側に窪んだ形状である。
【0029】
繊維状無機充填剤B1の断面積は、製造しやすさ及び非繊維状無機充填剤B2との組み合わせの効果をより高める点で、1×10
−5〜1×10
−3mm
2であることが好ましく、1×10
−4〜5×10
−4mm
2であることがより好ましい。繊維状無機充填剤B1の平均長さは、特に限定されないが、成形品の機械的物性、成形加工性等を考慮し、成形品内の平均繊維長で50〜1000μmが好ましい。「平均繊維長」は、数十本程度の繊維片の長さの平均値である。また、樹脂組成物の比重を軽くする等の目的で、繊維状無機充填剤B1として中空の繊維を使用することも可能である。
【0030】
繊維状無機充填剤B1は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め繊維状無機充填剤B1に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、または材料調製の際に同時に添加してもよい。
【0031】
繊維状無機充填剤B1及び後述する非繊維状無機充填剤B2の質量比B1/B2は、1.0を超え、好ましくは1.2以上、4.0以下である。質量比B1/B2が1.0を超える場合に、樹脂組成物を高低温衝撃性が低下しやすい構造を有するインサート成形品に用いた場合でも、優れた高低温衝撃性を達成することができる。
【0032】
繊維状無機充填剤B1の含有量は、非繊維状無機充填剤B2との組み合わせの効果をより高めて高低温衝撃性をより向上させ、また、さらに低反り性を同時に達成することができる点で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上であることが好ましく、より好ましくは35質量部以上、80質量部以下である。
【0033】
(非繊維状無機充填剤B2)
非繊維状無機充填剤B2としては、粉粒状無機充填剤、板状無機充填剤等を挙げることができる。粉粒状無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化硼素、各種金属粉末等を挙げることができる。板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ、各種の金属箔等を挙げることができる。
【0034】
上記のうち、粉粒状無機充填剤から選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましく、炭酸カルシウム又はガラスビーズを含有することがより好ましい。粉粒状無機充填剤の含有量は、非繊維状無機充填剤B2中に50質量%以上、又は90質量%以上とすることが好ましい。粉粒状無機充填剤の含有量を上記範囲にすることで、繊維状無機充填剤B1及び非繊維状無機充填剤B2の組み合わせによる高低温衝撃性の向上効果をより高めることができる。非繊維状無機充填剤B2は、炭酸カルシウム又はガラスビーズであるように構成してもよい。
【0035】
非繊維状無機充填剤B2の平均粒子径(50%d)は、機械的強度や高低温衝撃性をより向上させる点で、粉粒状充填剤は、初期形状(溶融混練前の形状)において、10μm以上、50μm以下であることが好ましく、板状充填剤は、初期形状(溶融混練前の形状)において、10μm以上、1000μm以下であることが好ましい。なお、平均粒子径(50%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を意味する。
【0036】
非繊維状無機充填剤B2の含有量は、機械的強度や高低温衝撃性をより向上させる点で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましい。非繊維状無機充填剤B2の配合量の上限値は、機械的物性が低下することを抑制する点で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して60質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは55質量部以下である。
【0037】
繊維状無機充填剤B1及び非繊維状無機充填剤B2の総含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの特性を維持しながら上記無機充填剤B1,B2の組み合わせによる作用を発揮させる点で、ポリアリーレンサルファイド樹脂A100質量部に対して70質量部以上220質量部以下であることが好ましく、より好ましくは、80質量部以上200質量部以下である。
【0038】
(繊維状無機充填剤B3)
樹脂組成物は、異径比が2.0以下である繊維状無機充填剤B3の含有量がポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して50質量部以下である。また、繊維状無機充填剤B3の含有量は、30質量部以下、又は10質量部未満とすることもできる。繊維状無機充填剤B3の含有量を50質量部以下に抑えることで、インサート成形品の成形収縮率及び線膨張係数の異方性をより低下させることができ、その結果高低温衝撃性をより高めることができる。繊維状無機充填剤B3の含有量は、少ない方が好ましく、樹脂組成物中に5質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。繊維状無機充填剤B3の含有量が樹脂組成物中に5質量%以下である場合、樹脂組成物は繊維状無機充填剤B3を実質的に含まない。繊維状無機充填剤B3としては、例えば、長手方向に直角な断面形状が、円形又は略円形である一般的な繊維状の無機充填剤を挙げることができる。繊維状無機充填剤B3の材料としては、例えば、上記した繊維状無機充填剤B1の材料と同様のものを挙げることができる。
【0039】
(オレフィン系共重合体C)
オレフィン系共重合体Cは、共重合成分としてα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有する。こうしたオレフィン系共重合体Cを含有するので、インサート成形品の高低温衝撃性を著しく高めることができる。オレフィン系共重合体Cは、中でも、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であることが好ましい。オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0040】
α−オレフィンとしては、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、ブチレン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。α−オレフィンは、上記から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。α−オレフィンに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中1質量%以上8質量%以下とすることができる。
【0041】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、以下の一般式(II)に示される構造を有するものを挙げることができる。
【化1】
(但し、R1は、水素又は炭素数1以上10以下のアルキル基を示す。)
【0042】
上記一般式(II)で示される化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル(GMA)、エタクリル酸グリシジルエステル等を挙げることができる。中でも、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量は、全樹脂組成物中0.05質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量がこの範囲である場合、高低温衝撃性をより維持しつつモールドデポジットの析出をより抑制することができる。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル)等を挙げることができる。中でも、アクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸エステルに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.5質量%以上3質量%以下とすることができる。
【0044】
α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体、及び、さらに(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記オレフィン系共重合体を得ることができる。オレフィン系共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0045】
本実施形態で用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0046】
オレフィン系共重合体としては、より具体的には、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0047】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学株式会社製)等を挙げることができる。
【0048】
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0049】
オレフィン系共重合体Cの含有量は、高低温衝撃性をより高めつつモールドデポジットを抑制する点で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して5質量部以上30質量部未満であることが好ましい。
【0050】
(その他の添加剤等)
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ちバリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を要求性能に応じ配合することが可能である。バリ抑制剤としては、例えば、国際公開第2006/068161号や国際公開第2006/068159号等に記載されているような、分岐型ポリフェニレンサルファイド系樹脂、シラン化合物等を挙げることができる。シラン化合物としては、ビニルシラン、メタクリロキシシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メルカプトシラン等の各種タイプが含まれ、例えばビニルトリクロロシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトトリメトキシシラン等が例示されるが、これらに限定されるものではない。添加剤の含有量は、例えば、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができる。
【0051】
また、樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂成分を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な樹脂であれば何れのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の、芳香族ジカルボン酸とジオール、或いはオキシカルボン酸等からなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等を挙げることができる。また、これらの熱可塑性樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、全樹脂組成物中20質量%以下にすることができる。
【0052】
樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り込み押出してペレットを調製し、その後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、いずれも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0053】
[インサート成形品]
インサート成形品は、金属、合金又は無機固体物を含むインサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有する。樹脂部材は、上記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を含む。樹脂部材が上記樹脂組成物を含むので、高低温衝撃性が優れたインサート成形品とすることができる。
【0054】
インサート部材を構成する金属、合金又は無機固体物は、特に限定されないが、成形時に樹脂組成物と接触したとき、変形したり溶融したりしないものが好ましい。例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄等の金属、真鍮等の上記金属の合金、及びガラス、セラミックス等の無機固体物等を挙げることができる。
【0055】
インサート成形品の形状及び大きさは、特に限定されず、用途に応じた形状とすることができる。特に、上記した樹脂組成物を含む樹脂部材は、高低温衝撃性が低下しやすい構造を有している場合でも優れた高低温衝撃性を達成することができる。そのため、インサート成形品は、ウェルド部及び応力集中部のいずれか又は両方を有し、ウェルド部及び/又は応力集中部の少なくとも一部の領域の厚さが2mm以下、又は1.5mm以下である構造を有していてもよい。
【0056】
さらに、インサート成形品は、樹脂部材がウェルド部及び応力集中部の両方を有し、両者が少なくとも一部の領域で一致している構造を有していてもよい。例えば、
図1に示すインサート成形品1は、インサート部材11、及びインサート部材11の少なくとも一部を全周にわたり覆う樹脂部材10を有している。インサート部材11は、二つの側面で形成される角部を有しており、該角部の稜線から樹脂部材10の側面にわたって応力集中部が形成される。このインサート成形品11において、樹脂部材10の、インサート部材11の角部と接する領域の反対側の領域の側面に、樹脂注入口の痕跡(ゲート痕)が形成されている場合に、樹脂流動末端の接合部であるウェルド部が応力集中部と少なくとも一部の領域で一致する領域に形成される。この場合に得られるインサート成形品11は、ウェルド部及び応力集中部が少なくとも一部の領域で一致している構造となる。
【0057】
なお、「ウェルド部」は、樹脂組成物の流動末端同士が接合(溶接)した部分であり、一般的に他の箇所よりも機械的な強度が劣る傾向にある。そのため、ウェルド部は他の箇所よりも高低温衝撃性が劣る傾向にある。「応力集中部」は、膨張収縮により発生する応力が集中する部分であり、例えば、角部(コーナー部)、切り欠き部、傷部、貫通孔、肉抜き部、肉薄部、肉厚変化が大きい箇所及びフローマーク部等を挙げることができる。よって、樹脂部材がウェルド部及び応力集中部の両方を有し、両者が少なくとも一部の領域で一致している、上記した構造を有している場合、通常は高低温衝撃性が顕著に劣ることが想定されるが、本実施形態に係るインサート成形品は、このような構造を有する場合に高低温衝撃性を高める効果がより顕著に発現する。
【0058】
インサート成形品は、樹脂部材の樹脂注入口の痕跡がある側の領域の厚さt
1と、最も肉厚の薄い領域の厚さt
2との比t
1/t
2が3以上となる形状を有していてもよい。さらに、インサート成形品は、インサート部材が角部(コーナー部)を有しており、該角部の先端部分の曲率半径rが0.8mm以下、又は0.5mm以下であってもよい。
【0059】
インサート成形品の製造方法は、特に限定されず、例えば、上記した樹脂組成物と予め所望の形状に成形されたインサート部材とをインサート成形することができる。インサート成形は、例えば、金型にインサート部材を予め装着し、その外側に上記樹脂組成物を射出成形又は押出圧縮成形等により充填して複合成形することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0061】
[実施例1〜9、比較例1〜3]
以下に示す材料を用いて、表1に示す組成及び含有割合で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂、繊維状無機充填剤、非繊維状無機充填剤及びオレフィン系共重合体をドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して溶融混練することで、実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを得た。
【0062】
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂)
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A:ポリフェニルサルファイド樹脂(PPS)、株式会社クレハ製「フォートロンKPS」(溶融粘度:20Pa・s(せん断速度:1216sec
−1、310℃))
【0063】
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂の溶融粘度の測定)
上記ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの溶融粘度は以下のようにして測定した。
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec
−1での溶融粘度を測定した。
【0064】
(無機充填剤)
繊維状無機充填剤B1:ガラス繊維、断面が長円形、長径28μm、短径7μm、長径/短径の比4.0、日東紡績株式会社製「異形断面チョップドストランド CSG 3PA−830」
非繊維状無機充填剤B2:炭酸カルシウム、平均粒子径25μm、旭鉱末株式会社製「MC−35W」
非繊維状無機充填剤B2:ガラスビーズ、平均粒子径20μm、ポッターズ・バロティーニ株式会社製「EGB731A」
非繊維状無機充填剤B2:ガラスフレーク、平均粒子径600μm、日本板硝子株式会社製「REFG‐108」
繊維状無機充填剤B3:ガラス繊維、断面がまゆ形、長径24μm、短径12μm、長径/短径の比2.0、日東紡績株式会社製「異形断面チョップドストランド CSH 3PA−860」
【0065】
(オレフィン系共重合体)
オレフィン系共重合体C:住友化学株式会社製「ボンドファースト7M」、共重合成分として、エチレンを67質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを6質量%、及びアクリル酸メチルを27質量%含む。
【0066】
[評価]
(高低温衝撃性)
樹脂組成物と金属製のインサート部材とを用い、射出成形により
図1〜
図3に示す試験片をインサート成形し、高低温衝撃性を評価した。
図1は、インサート成形した試験片1を示す図であり、
図2は、インサート部材11を示す図であり、
図3は、試験片1の寸法を示す図である。試験片1は、
図1に示すように、樹脂組成物からなる円柱形の樹脂部材10に金属製のインサート部材11が埋入した状態で成形されている。円柱形の樹脂部材10は、上記のようにして得られたペレットを用いて成形されたものである。インサート部材11は、
図2に示すように、柱状であって、その上面及び底面の形状が、一側が円弧形状、他側が鋭角形状の涙型の形状をなす。鋭角形状部分は、部分拡大図である
図2(b)に示すように、先端は円弧状になっており、この曲率半径rは0.2mmである。また、インサート部材11は、円柱形の樹脂部材10の高さよりも高く、その一部が突出している(
図1(a)参照)。さらに、
図3(a)に示すように、インサート部材11の円弧を一部とする円の中心O
1と、樹脂部材10の円の中心O
2とは一致せず、インサート部材11の鋭角形状側が樹脂部材10の側面に近接するように配置されている。そして、インサート部材11の鋭角形状の先端と、樹脂部材10の側面との距離dwは1mmであり、樹脂部材10において、インサート部材11の鋭角形状の先端近傍が応力集中部を形成しており、かつ肉厚が最も薄い領域となっている。なお、
図3に、試験片の寸法について数値を示しているが、その単位はmmである。
【0067】
上記の試験片に対し、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製)を用い、−40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するというサイクルを繰り返し、20サイクル毎にウェルド部を観察した。ウェルド部にクラックが発生したときのサイクル数を高低温衝撃性の指標として評価した。結果を表1に示す。サイクル数が230以上である場合に高低温衝撃性が優れており、260以上である場合に高低温衝撃性が特に優れている。
【0068】
(低反り性)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を用いて、射出成形によりシリンダー温度320℃、金型温度150℃、保圧力70MPaの条件で、80mm×80mm×厚さ1.5mmの平板状樹脂成形品2を5枚作製した。1枚目の平板状樹脂成形品2を水平面に静置し、株式会社ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状樹脂成形品2上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。
図4中に黒丸で高さを測定した位置を示す(d
1=3mm、d
2=37mm)。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さから、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状樹脂成形品についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、反り量の値とした。結果を表1に示す。反り量が少ない程、低反り性が優れている。
【0069】
【表1】