(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-109912(P2020-109912A)
(43)【公開日】2020年7月16日
(54)【発明の名称】周波数混合器
(51)【国際特許分類】
H03D 7/10 20060101AFI20200619BHJP
H03D 7/12 20060101ALI20200619BHJP
【FI】
H03D7/10
H03D7/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-470(P2019-470)
(22)【出願日】2019年1月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発−300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術−」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】高野 恭弥
(72)【発明者】
【氏名】藤島 実
(57)【要約】
【課題】アップコンバージョン周波数混合器として高い周波数帯域の信号を扱う場合であっても、入力信号と出力信号との間の線形性を向上させることができる周波数混合器を提供する。
【解決手段】ミキサ1は、差動信号である局部発振信号の一方の信号(LO+信号)とベースバンド信号(BB信号)とを入力し、差動信号である中間周波数信号の一方の信号(IF+信号)を出力する第1のトランジスタ10と、局部発振信号の他方の信号(LO−信号)とBB信号とを入力し、中間周波数信号の他方の信号(IF−信号)を出力する第2のトランジスタ11と、を備える。また、第1のトランジスタ10から出力されるIF+信号を、キャパシタ12aを介して第2のトランジスタ11のゲートに入力し、第2のトランジスタ11から出力されるIF−信号を、キャパシタ13aを介して第1のトランジスタ10のゲートに入力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号である局部発振信号の一方の信号とベースバンド信号とを入力し、差動信号である中間周波数信号の一方の信号を出力する第1のトランジスタと、
前記局部発振信号の他方の信号とベースバンド信号とを入力し、前記中間周波数信号の他方の信号を出力する第2のトランジスタと、を備え、
前記第1のトランジスタから出力される前記中間周波数信号の一方の信号を、キャパシタを介して前記第2のトランジスタのゲートに入力し、
前記第2のトランジスタから出力される前記中間周波数信号の他方の信号を、キャパシタを介して前記第1のトランジスタのゲートに入力する、
ことを特徴とする周波数混合器。
【請求項2】
前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタは、
前記局部発振信号をゲートから入力し、前記ベースバンド信号をソースから入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数混合器。
【請求項3】
前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタは、
前記局部発振信号と前記ベースバンド信号とをゲートから入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数混合器。
【請求項4】
前記キャパシタの容量は、以下の式
C=Cgd(1+rg/rs)
ただし、Cgdは寄生容量、rgは電界効果トランジスタの小信号パラメータとしてのゲート抵抗、rsは入力ポートの抵抗
で表される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の周波数混合器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数混合器に関する。
【背景技術】
【0002】
無線送信機において出力信号を生成するための、トランジスタを用いた周波数混合器が種々開発されている(例えば、特許文献1)。このような周波数混合器では、入力されるベースバンド信号と出力される中間周波数信号との間に線形性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−262251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の周波数混合器では、線形性を低下させる寄生容量の影響を低減するために、ミキサ回路負荷のLC同調回路の同調周波数をずらすための回路を追加する。したがって、周波数混合器全体の回路構成が複雑化する。
【0005】
また、電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いた周波数混合器では、取り扱う信号の周波数が高くなると、トランジスタのゲート−ドレイン間に存在する寄生容量である非線形キャパシタンスの影響が大きくなり、入力信号と出力信号との間の線形性が劣化する。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、周波数混合器として高い周波数帯域の信号を扱う場合であっても、簡単な構造で、入力信号と出力信号との間の線形性を向上させることができる周波数混合器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係る周波数混合器は、
差動信号である局部発振信号の一方の信号とベースバンド信号とを入力し、差動信号である中間周波数信号の一方の信号を出力する第1のトランジスタと、
前記局部発振信号の他方の信号とベースバンド信号とを入力し、前記中間周波数信号の他方の信号を出力する第2のトランジスタと、を備え、
前記第1のトランジスタから出力される前記中間周波数信号の一方の信号を、キャパシタを介して前記第2のトランジスタのゲートに入力し、
前記第2のトランジスタから出力される前記中間周波数信号の他方の信号を、キャパシタを介して前記第1のトランジスタのゲートに入力する。
【0008】
また、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタは、
前記局部発振信号をゲートから入力し、前記ベースバンド信号をソースから入力する、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタは、
前記局部発振信号と前記ベースバンド信号とをゲートから入力する、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記キャパシタの容量は、以下の式
C=Cgd(1+r
g/r
s)
ただし、Cgdは寄生容量、r
gは電界効果トランジスタの小信号パラメータとしてのゲート抵抗、r
sは入力ポートの抵抗
で表される、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の周波数混合器によれば、クロスカップリング構造の負性容量帰還を用いて、寄生容量の影響を低減することができるので、簡単な構造で入力信号と出力信号との間の線形性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るミキサの回路図である。
【
図2】実施の形態に係る整合回路の例を示す回路図である。
【
図3】実施の形態に係る整合回路の変形例を示す回路図である。
【
図4】実施の形態に係る周波数混合器における線形性の例を示すグラフである。
【
図5】寄生容量の影響の抑制原理を示す図であり、(A)は、LO信号をゲートに入力し、BB信号をソースに入力した場合の概念図、(B)は、LO信号とBB信号とをゲートに入力した場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る周波数混合器について説明する。
【0014】
本実施の形態では、差動信号である局部発振信号(以下、LO信号という)と、シングルエンド信号であるベースバンド信号(以下、BB信号という)とを混合して、差動信号である中間周波数信号(以下、IF信号という)を生成するアップコンバージョン周波数混合器を例として説明する。本実施の形態に係るアップコンバージョン周波数混合器であるミキサ1は、
図1の回路図に示すように、第1のトランジスタ10と、第2のトランジスタ11と、第1の帰還路12と、第2の帰還路13と、第1の整合回路21と、第2の整合回路22とを備える。
【0015】
第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11は、入力されたLO信号とBB信号とを混合し、IF信号を出力する素子であり、例えば電界効果トランジスタである。
【0016】
第1のトランジスタ10は、差動信号であるLO信号の一方の信号(以下、LO+信号という)をゲートから入力するとともに、BB信号をソースから入力し、IF信号の一方の信号(以下、IF+信号という)をドレインから出力する。
【0017】
第2のトランジスタ11は、LO信号の他方の信号(以下、LO−信号という)をゲートから入力するとともに、BB信号をソースから入力し、IF信号の一方の信号(以下、IF−信号という)をドレインから出力する。第2のトランジスタ11に入力されるBB信号は、第1のトランジスタ10に入力されるBB信号と同じ位相の信号である。
【0018】
第1の帰還路12は、
図1に示すように、第1のトランジスタ10の出力端子であるドレインと、第2のトランジスタ11の入力端子であるゲートとを接続するものであり、負性容量となるキャパシタ12aを備える。これにより、第1のトランジスタ10から出力されるIF+信号を、キャパシタ12aを介して第2のトランジスタ11のゲートに入力する。
【0019】
第2の帰還路13は、第2のトランジスタ11の出力端子であるドレインと、第1のトランジスタ10の入力端子であるゲートとを接続するものであり、負性容量となるキャパシタ13aを備える。これにより、第2のトランジスタ11から出力されるIF−信号を、キャパシタ13aを介して第1のトランジスタ10のゲートに入力する。
【0020】
第1の帰還路12と第2の帰還路13とにより、第1のトランジスタ10と第2のトランジスタ11とはクロスカップル接続されている。これにより、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のゲート−ドレイン間に生じる寄生容量である非線形キャパシタンスCgdの影響は、負性容量を構成するキャパシタ12a、13aで打ち消される。したがって、入力信号であるLO信号と出力信号であるIF信号との間の線形性を向上させることができる。
【0021】
より具体的には、電界効果トランジスタの寄生容量はMiller効果により、寄生容量Cgd、電界効果トランジスタの小信号パラメータとしてのゲート抵抗r
g、入力ポートの抵抗r
sを用いて、Cgd(1+r
g/r
s)と表すことができる。したがって、キャパシタ12a、13aの容量をこれと同じ容量に設定することにより、非線形キャパシタンスCgdの影響を打ち消すことができる。
【0022】
第1の整合回路21は、第1のトランジスタ10、第2のトランジスタ11の上流側、すなわち図示しないLO信号の生成回路と、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のゲートとの間に配置された整合回路である。
【0023】
第2の整合回路22は、第1のトランジスタ10、第2のトランジスタ11の下流側、すなわち第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のドレインとIF信号の出力端子との間に配置された整合回路である。
【0024】
図2の回路図は、本実施の形態に係る第1の整合回路21及び第2の整合回路22の構成例を示している。
図2に示すように、第1の整合回路21は、第1のトランジスタ10にLO+信号を入力する伝送線路及び第2のトランジスタ11にLO−信号を入力する伝送線路に、それぞれショートスタブ21aと、キャパシタ21bとを備える。
【0025】
図2に示すLO+信号の線路上の2つのショートスタブ21aのうち、第1のトランジスタ10に近い方のショートスタブ21a、及びLO−信号の線路上の2つのショートスタブ21aのうち、第2のトランジスタ11に近い方のショートスタブ21aは、ゲートバイアスの供給を兼ねることとしてもよい。
【0026】
また、第2の整合回路22は、第1のトランジスタ10からIF+信号を出力する伝送線路及び第2のトランジスタ11からIF−信号を出力する伝送線路に、それぞれショートスタブ22aと、キャパシタ22bとを備える。
【0027】
具体的な、第1の整合回路21及び第2の整合回路22の設計方法としては、LO信号の周波数とIF信号の周波数とが近似する場合、第1の整合回路21と第2の整合回路22とが同時共役整合を満たすように、又はIF信号の出力電力が最大となるようにロードプルシミュレーションを行い決定すればよい。
【0028】
ここで、LO信号の周波数とIF信号の周波数とが近似する場合とは、例えば、LO信号が140GHz、IF信号が150GHzのように、両信号の周波数の差が、各信号の周波数のおよそ10%以下となる場合をいう。
【0029】
図3は、LO信号の周波数とIF信号の周波数との差が大きい場合、例えば周波数の差が各周波数の10%を超える場合における第1の整合回路21’及び第2の整合回路22’の構成例である。第1の整合回路21’は、上記の構成例に示した第1の整合回路21に、伝送線路21cとオープンスタブ21dとを追加した構成である。
【0030】
伝送線路21c及びオープンスタブ21dは、ショートスタブ21a及びキャパシタ21bの下流側、かつ第1の帰還路12及び第2の帰還路13のゲート側接続点の上流側に配置されている。オープンスタブ21dの線路長は、IF信号の周波数の4分の1波長に設定されている。これにより、ゲート側へ流れるIF信号のリーク成分は、オープンスタブ21dで位相反転された反射波と打ち消し合う。したがって、LO信号の入力端子側へのIF信号のリークを防止することができる。
【0031】
また、伝送線路21cは、クロスカップリング構造のキャパシタ12a、13aへ、第1の帰還路12、第2の帰還路13からのIF信号を反射する。そして、伝送線路21cにより、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のドレイン側からゲート側を見たときのアドミッタンスの虚部がキャンセルされる。
【0032】
また、第2の整合回路22’は、上記の構成例に示した第2の整合回路22に、伝送線路22cとオープンスタブ22dとを追加した構成である。
【0033】
伝送線路22c及びオープンスタブ22dは、第1の帰還路12及び第2の帰還路13のドレイン側接続点の下流側、かつショートスタブ22a及びキャパシタ22bの上流側に配置されている。オープンスタブ22dの線路長は、LO信号の周波数の4分の1波長に設定されている。これにより、ドレイン側へ流れるLO信号のリーク成分は、オープンスタブ22dで位相反転された反射波と打ち消し合う。したがって、IF信号の出力端子側へのLO信号のリークを防止することができる。
【0034】
また、伝送線路22cにより、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のゲート側からドレイン側を見たときのアドミッタンスの虚部がキャンセルされる。
【0035】
図4は、本実施の形態に係るミキサ1、すなわち
図2に示すミキサ1と、従来のミキサ、すなわち負性容量帰還を用いない周波数混合器との線形性シミュレーションの結果を示している。具体的なシミュレーション条件としては、40nmプロセスCMOSを用い、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11であるMOSFETのサイズはW/L=32μm/40nm、キャパシタ12a、13aの容量は10fF、LO信号の周波数は150GHz、BB信号の周波数は1GHz、IF信号の周波数は151GHz、LO電力は5dBmとした。
図4に示すように、ミキサ1を用いることにより、入力信号であるBB信号と出力信号であるIF信号との間の線形性が約3dB改善されていることがわかる。
【0036】
本実施の形態では、
図5(A)の概念図に示すように、LO信号をゲートから入力し、BB信号をソースから入力することとしたがこれに限られない。例えば、
図5(B)の概念図のように、LO信号とBB信号とをゲートに入力することとしてもよい。この場合、ソースを接地し、ドレインからIF信号を出力することとすればよい。これにより、第1のトランジスタ10及び第2のトランジスタ11のソースを接地することができるので、利得を大きくすることができる。
【0037】
また、本実施の形態では、BB信号はシングルエンド信号であることとしたが、これに限られず、BB信号は差動信号であることとしてもよい。この場合、2つのミキサ1を並列に構成し、一方のミキサ1にBB信号の一方の信号(BB+信号)を入力し、他方のミキサ1にBB信号の他方の信号(BB−信号)を入力する。そして、各々のミキサ1から出力されるIF+信号同士、IF−信号同士を合成して、差動信号のIF信号を出力することとすればよい。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態に係るミキサ1では、クロスカップリング構造の負性容量帰還を用いて、寄生容量の影響を低減することができるので、簡単な構造で、入力信号と出力信号との間の線形性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、入力信号と出力信号との間に高い線形性が求められる無線送信機におけるアップコンバージョン周波数混合器に好適である。特に、テラヘルツ波等の高周波信号を用いて通信を行う無線送信機に好適である。
【符号の説明】
【0040】
1 ミキサ、10 第1のトランジスタ、11 第2のトランジスタ、12 第1の帰還路、13 第2の帰還路、12a,13a キャパシタ、21,21’ 第1の整合回路、22,22’ 第2の整合回路、21a,22a ショートスタブ、21b,22b キャパシタ、21c,22c 伝送線路、21d,22d オープンスタブ