【解決手段】発泡剤を含む溶融樹脂組成物を、スクリュ1を内蔵するバレル2から、前記スクリュを前進させることにより、バレル先端のノズル5を通じて、金型のキャビティ8内に該キャビティ容積の60%以上を満たすように射出充填する充填工程、前記発泡剤を発泡させて、溶融樹脂組成物中に気泡を発生させる発泡工程、及び前記スクリュを射出充填完了時の位置から後退させることにより前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂組成物中の気泡の位置を制御するプルバック工程、を有する、発泡成形品の製造方法とする。
発泡剤を含む溶融樹脂組成物を、スクリュを内蔵するバレルから、前記スクリュを前進させることにより、前記バレル先端のノズルを通じて、金型のキャビティ内に該キャビティ容積の60%以上を満たすように射出充填する充填工程、
前記発泡剤を発泡させて、前記溶融樹脂組成物中に気泡を発生させる発泡工程、及び
前記スクリュを射出充填完了時の位置から後退させることにより前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂組成物中の気泡の位置を制御するプルバック工程、を有する、発泡成形品の製造方法。
前記プルバック工程の後に、前記バレル内の前記溶融樹脂組成物を前記キャビティ内に再度射出充填する再充填工程を有する、請求項1又は2に記載の発泡成形品の製造方法。
前記プルバック工程において、前記キャビティ側から前記バレル側への前記溶融樹脂組成物の流路が開いている、請求項1から3のいずれか一項に記載の発泡成形品の製造方法。
前記プルバック工程において、前記バレル内の前記スクリュ側から前記ノズル側への前記溶融樹脂組成物の流路が閉じている、請求項1から4のいずれか一項に記載の発泡成形品の製造方法。
前記充填工程において、前記スクリュを最も前進させたときの前記スクリュの先端部に滞留している前記溶融樹脂組成物の量が前記キャビティ容積の20%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の発泡成形品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、発泡成形品とは、内部に気泡構造を有する成形品のことをいう。
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態は、発泡剤を含む溶融樹脂組成物をキャビティ内に充填するとともに、発泡剤を発泡させることで溶融樹脂組成物中に気泡を発生させた後、キャビティを拡大せず(キャビティ容積を維持した状態で)スクリュを後退させることによりキャビティ内を負圧にして溶融樹脂組成物中の流動末端側に偏在する気泡をノズル側に移動させて気泡の位置を制御する、発泡成形品の製造方法である。すなわち、本実施形態に係る発泡成形品の製造方法は、発泡剤を含む溶融樹脂組成物(以下、単に「溶融樹脂組成物」ともいう。)を、スクリュを内蔵するバレルから、スクリュを前進させることにより、バレル先端のノズルを通じて、金型のキャビティ内にキャビティ容積の所定割合以上を満たすように射出充填する充填工程、溶融樹脂組成物中の発泡剤を発泡させて、溶融樹脂組成物中に気泡を発生させる発泡工程、及び、スクリュを射出充填完了時の位置から後退させることによりキャビティ内に充填された溶融樹脂組成物中の気泡の位置を制御するプルバック工程を有する。
【0011】
本実施形態に係る発泡成形品の製造方法によれば、通常、樹脂の流動末端側に偏在しやすい傾向にある発泡成形品中の気泡を、流動開始側(射出成形機のノズルに近い側)に移動させることで、気泡の位置や分散状態を制御することができる。また、スクリュを後退させる際の移動量(ストローク)、速度、及びタイミング(遅延時間)を制御することによって、流動開始側により近い位置で発泡させたりより遠い位置で発泡させたりすることができる。よって、本実施形態に係る製造方法によれば、発泡成形品中の気泡の位置を容易に制御することができる。
【0012】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、射出成形に用いることができる熱可塑性樹脂であればよく、特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、ポリオレフィン、アラミド、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリーレンサルファイド、ポリアセタール、液晶ポリマー(芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミド等)、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて使用することが可能である。中でも、機械的特性、耐熱性、耐薬品性に優れる点で、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリーレンサルファイド、ポリアセタール、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を含むことが好ましく、更に成形性に優れる点で、ポリアリーレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマーから選ばれる1種又は2種以上の樹脂を含むことがより好ましく、特に外観性に優れる点で、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリアリーレンサルファイドが好ましい。
【0013】
熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂の特性を十分発揮する点で、全樹脂組成物中30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0014】
樹脂組成物の溶融粘度は、当該樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂のうち、最も添加量が多いものを基準に、当該熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であれば融点+30℃、非晶性樹脂であればガラス転移温度+120℃、及びせん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度が、10Pa・s以上600Pa・s以下であることが好ましく、50Pa・s以上500Pa・s以下であることがより好ましく、100Pa・s以上400Pa・s以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることで、射出時の圧力を過度に高くすることなく良好な成形性を確保できるため、発泡が阻害されず、かつプルバック工程による気泡の位置の制御も容易な樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物は、上記範囲の溶融粘度を有する樹脂を1種又は2種以上含むことができる。
【0015】
発泡剤は、物理発泡に用いられる揮発性発泡剤や、化学発泡に用いられる分解性発泡剤等が挙げられる。揮発性発泡剤としては、例えば、不活性又は不燃性ガス(窒素、炭酸ガス、フロン、代替フロン等)、水、有機系物理発泡剤[例えば、脂肪族炭化水素(プロパン、n−ブタン、イソブタン、ペンタン(n−ペンタン、イソペンタン等)、ヘキサン(n−ヘキサン等)等)、芳香族炭化水素(トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(三塩化フッ化メタン等)、エーテル類(ジメチルエーテル、石油エーテル等)、ケトン類(アセトン等)等]が挙げられる。また、分解性発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機炭酸塩又はその塩;クエン酸等の有機酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等);2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸アミド等のアゾ化合物;ベンゼンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド化合物;N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)等のニトロソ化合物;テレフタルアジド等のアジド化合物等が挙げられる。これらの発泡剤のうち、ブタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、クエン酸等の有機酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等)等を用いる場合が多い。これらの発泡剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0016】
発泡剤の含有割合は、熱可塑性樹脂100質量部、又は熱可塑性樹脂と後述の必要に応じて含有してもよいエラストマーとの合計量100質量部に対して、0.1質量部〜40質量部、好ましくは0.3質量部〜35質量部、より好ましくは0.5質量部〜30質量部、さらに好ましくは1質量部〜20質量部程度であってもよい。なお、発泡剤としてガスを用いる場合は、所望の発泡倍率に応じて適宜注入量を調節すればよいが、例えば樹脂組成物全体に対して、1〜60体積%、好ましくは5〜50体積%、より好ましくは10〜40体積%程度であってもよい。
【0017】
発泡剤は、必要に応じて発泡核剤とともに用いることができる。発泡核剤としては、前記発泡剤の項で例示の重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機炭酸塩又はその塩;クエン酸等の有機酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等)等の他、ケイ酸化合物(タルク、シリカ、ゼオライト等)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム等)、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ等)等が挙げられる。これらの発泡核剤は、単独で又は二種以上組み合わせ使用してもよい。前記発泡核剤のうち、特に、タルク等のケイ酸化合物等を使用すると、気泡構造を均一化できる。
【0018】
発泡核剤の割合は、特に限定されず、上記熱可塑性樹脂100質量部、又は熱可塑性樹脂と後述の必要に応じて含有してもよいエラストマーとの合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部〜10質量部、好ましくは0.2質量部〜8質量部、さらに好ましくは0.3質量部〜5質量部程度であってもよい。
【0019】
発泡剤、発泡核剤は、それぞれ、上記樹脂組成物(樹脂ペレット等を含む)に予め含有させてもよく、発泡成形過程で樹脂組成物に添加又は圧入してもよい。
【0020】
樹脂組成物は、発泡成形品の強度(特に耐衝撃性)の低下を抑制するため、エラストマーを含有してもよい。エラストマーの種類は特に制限されず、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー及びコアシェル系エラストマー等が挙げられる。
【0021】
オレフィン系エラストマーとして好ましいものは、エチレン及び/又はプロピレンを主成分とする共重合体であり、具体的にはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン等のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと未水素化及び/又は水素化した共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
ポリエステル系エラストマーの例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったポリエーテル、またはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
ポリアミド系エラストマーの例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0025】
ウレタン系エラストマーの例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルもしくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
コアシェル系エラストマーは、コア層(コア部)と、このコア層(コア部の表面)の一部又は全部を被覆するシェル層とで構成された多層構造を有するポリマーである。コアシェル系エラストマーはコア層がゴム成分(軟質成分)で構成され、特にアクリルゴム成分(アクリル系ゴム)が望ましい。ゴム成分のガラス転移温度は、例えば、0℃未満(例えば、−10℃以下)、好ましくは−20℃以下(例えば、−180〜−25℃程度)、さらに好ましくは−30℃以下(例えば、−150〜−40℃程度)であってもよい。
【0027】
ゴム成分としてのアクリル系ゴムは、アクリル系モノマー[特に、アルキルアクリレート(ブチルアクリレートなどのアクリル酸C1−12アルキルエステル、好ましくはアクリル酸C1−8アルキル、さらに好ましくはアクリル酸C2−6アルキルエステル)などのアクリル酸エステル]を主成分とするポリマーである。アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独又は共重合体(アクリル系モノマー同士の共重合体、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体など)であってもよく、アクリル系モノマー(および他の不飽和結合含有モノマー)と架橋性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0028】
エラストマーの含有量は、好ましくは、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上15質量部以下である。
【0029】
樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、帯電防止剤、染料・顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤等を含有することができる。これらの添加剤等も、樹脂組成物にあらかじめ添加されていてもよく、必要により、充填工程の適当な段階で、樹脂組成物に添加してもよい。
【0030】
樹脂組成物の形態は、粉粒体混合物であってもよいし、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)であってもよい。樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。発泡剤としてガスを用いる場合は、樹脂組成物を溶融して金型内に射出する際にガスを注入して、発泡剤を含む溶融樹脂組成物とすることができる。
【0031】
以下に、
図1を参照しながら本実施形態に係る発泡成形品の製造方法の各工程について説明する。
(充填工程)
図1に示す発泡成形品の製造方法では、スクリュ1を内蔵するバレル2、バレル2内に樹脂材料を供給するホッパ4、図示しないスクリュ回転駆動手段及びスクリュ移動手段、を備えており、バレル2の外周面にヒーター3が設けられている射出成形機を用いている。バレルの先端部にはノズル6が設けられている。
【0032】
図1に示す製造方法では、まず、発泡剤を含む樹脂組成物(例えばペレット状のもの)を、射出成形機のホッパ4から、スクリュ1を内蔵し外周面にヒーター3を有するバレル2内に供給し溶融することで溶融樹脂組成物10にする(
図1(a))。ホッパ4から発泡剤を含む樹脂組成物をバレル2内に供給し溶融する方法は、射出成形機が備える図示しないスクリュ回転駆動手段によりスクリュ1を回転させることにより行うことができる。スクリュ1を引き続き回転させることにより、溶融樹脂組成物10は混錬圧縮作用を受けてスクリュ1の前方(金型側)に送られる。固定金型6及び可動金型7(以下、固定金型6及び可動金型7をまとめて「金型」ということがある。)を閉じて固定金型6及び可動金型7の間にキャビティ8を形成した後、バレル2の先端部に位置するノズル5を金型スプルー部分に接しさせる(
図1(b))。なお、ここでは分割面を一つ有する金型を用いているが、金型の種類や構成は特に限定されず、分割面がない金型や分割面が2以上ある金型など、射出成形機で使用することができる種々の金型を用いることができる。この後、図示しないスクリュ移動手段を用いてスクリュ1を金型側へ前進させることにより、ノズル5からキャビティ8内に溶融樹脂組成物10を射出充填する(
図1(c)〜(e))。発泡剤がガスの場合は、例えば、図示しないガス充填装置を用いて、キャビティ8内又はバレル2内の溶融樹脂組成物中にガスを注入することで発泡剤を含む溶融樹脂組成物10とすることができる。
【0033】
射出充填は、キャビティ8の容積の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上を満たすように行われる(
図1(e))。キャビティ8の容積の60%以上を満たすように射出充填することで、後述する発泡工程において発泡剤の発泡に伴う気泡の発生による溶融樹脂組成物10の膨張と合わせて、キャビティ8内が完全に充填された状態になる。その結果、後述するプルバック工程においてスクリュ1を後退させる動作によりキャビティ8内は負圧になり、気泡の移動が促進される。なお、射出充填する量の上限は特に限定されず、キャビティ8の容積の100%まで充填してもよい。この場合、射出工程でキャビティ8内が完全に充填されることから、後述する発泡工程が進行しないように思われるが、見かけ上キャビティ8内が完全に充填されていても、発泡を伴わない通常の射出成形で言ういわゆる「ゲートシール」の状態になるまでは、キャビティ8内には、まだ発泡可能な余地があるため、その分を発泡させればよい。
【0034】
射出圧力及び射出速度は、特に限定されず、例えば、射出圧力を5〜100MPaとし、射出速度を5〜100mm/secとすることができる。保圧時間は、特に限定されず、0〜300secとすることができる。
【0035】
金型温度、バレル温度及びノズル温度は、特に限定されず、例えば、主成分の熱可塑性樹脂の溶融温度よりも0℃〜50℃程度高い温度とすることができる。
【0036】
後述する発泡工程において発泡をより促進する点と、後述するプルバック工程において気泡の移動をより促進する点で、充填工程においてスクリュ1が最も前進したときのスクリュ1の先端部分(バレル2内部の先端部分)に滞留する溶融樹脂組成物10の量(クッション量)は、キャビティ容積の20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、絶対値で表す場合、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、0.1〜2mmであることがさらに好ましい。クッション量の調整は、計量値と射出量の設定により行うことができる。例えば、計量値を初めは多目に設定して、ショートショットの状態から射出量と発泡量によるキャビティ充填状態を把握し射出量を決定した上で、クッション量が上記範囲になるように計量値を減らしていくことにより調整することができる。クッション量が極端に大きい場合、後述するプルバック工程でスクリュ1を後退させても、当該クッション量相当部分の溶融樹脂組成物10の発泡(あるいはそこで発生した気泡の拡大)が、キャビティ8内の溶融樹脂組成物10の発泡や気泡の移動を阻害する場合があり、気泡の発生位置の制御が困難になり得るため、それを見込んでスクリュ1の後退量を設定することが必要となる。
【0037】
(発泡工程)
上記充填工程とともに、キャビティ8内において溶融樹脂組成物10に含まれる発泡剤を発泡させることで、溶融樹脂組成物10中に気泡を発生させる。ここで発生した気泡により、溶融樹脂組成物10が膨張することで、充填工程での溶融樹脂組成物10の射出量と合わせ、キャビティ8内が完全に充填された状態となる。この発泡工程は、充填工程と並行して行われてもよいし、充填工程の後で行われてもよいし、後述するプルバック工程と並行して行われてもよいし、さらにプルバック工程の後にも継続して行われてもよく、これらのうち2つ以上のタイミングにわたって行われてもよい。発泡工程が充填工程と並行して行われる場合、発泡剤は、充填工程における温度及び圧力により反応又は揮発して発泡する。発泡工程が充填工程の後に行われる場合、通常の射出成形(発泡させずに保圧でゲートシールを行う射出成形)よりも低い圧力(例えば0〜30MPa)で、0〜300sec保圧することで発泡剤が反応又は揮発して発泡する。発泡工程がプルバック工程と並行して又はプルバック工程の後に行われる場合は、プルバック工程における温度及び圧力により発泡剤が反応又は揮発して発泡する。また本実施形態では、発泡工程が充填工程の前に行われる場合を排除するものではないが、発泡後の溶融樹脂組成物10を射出充填する場合、発泡の進行状況による容積の変化を見込んだ射出量の調整や、射出圧力が気泡の圧縮に消費されてロスが生じることを見込んだ射出圧力の調整が必要となる。なお、発泡工程において、発泡剤を反応させて気泡を発生させるのでなく、ガス等の発泡剤を注入して気泡を発生させる場合は、注入位置及び/又はタイミングを変更することで上述の充填工程や後述のプルバック工程との順序を適宜調節してもよい。
【0038】
(プルバック工程)
上記充填工程と発泡工程によりキャビティ8内への溶融樹脂組成物10の充填が完了した後、金型を閉じたまま(キャビティの容積を維持した状態で)スクリュ1の位置を射出充填完了時の位置から後退(サックバック)させることにより、キャビティ8内に充填された溶融樹脂組成物10中の気泡を移動させて、気泡の位置が制御された発泡成形品20を得る(
図1(f))。スクリュ1の位置を射出充填完了後の位置から後退させることにより、キャビティ8内からバレル2内の先端部にかけて負圧になり、溶融樹脂組成物10は、負圧になったキャビティ8内から射出成形機のノズル5側(バレル2側)に引き戻される。これにより溶融樹脂組成物10中の気泡が移動する。また、溶融樹脂組成物10中の発泡剤の発泡が促進される。そのため、気泡の発生位置を制御できるとともに、固定金型6及び可動金型7を拡大せずに発泡を促進することができる。この点で、本実施形態に係る発泡成形品の製造方法は、キャビティ内にフル充填した後キャビティを拡大することにより樹脂を発泡させる従来の方法とは大きく異なる。
【0039】
プルバック工程は、キャビティ8の容積及び射出成形機のノズル5の位置を射出充填完了時と同じ状態に維持したまま(言い換えると、固定金型6及び可動金型7を閉じたまま、かつ射出成形機のノズル5を金型スプルー部分に接しさせたまま)スクリュ1を後退させることにより行うことができる。
【0040】
スクリュ1を後退させる速度やタイミング(遅延時間)は、発泡させたい範囲や位置を考慮して適宜設定することができる。スクリュ1を後退させる速度が遅い場合、成形品中の広い範囲にわたって発泡する傾向となり、スクリュ1を後退させる速度が速い場合は、発泡する範囲が狭くなる傾向となる。また、後退させるタイミングが早い場合(遅延時間が短い場合)、流動末端側が発泡しやすい傾向となり、後退させるタイミングが遅い場合(遅延時間が長い場合)、流動開始側(射出成形機のノズル5に近い側)が発泡しやすい傾向となる。
【0041】
スクリュ1を後退させる際のキャビティ内の圧力、金型温度、バレル温度及びノズル温度は、特に限定されず、上記の充填工程や発泡工程と同じにしてもよいし、気泡の移動が阻害されない範囲で適宜変更してもよい。
【0042】
スクリュ1を後退させることでキャビティ8内の溶融樹脂組成物10をバレル2側に引き戻してキャビティ8内を負圧にできるよう、キャビティ8側からバレル2側への樹脂の流路は開いているように構成することが好ましい。一般的に、溶融粘度が低い樹脂を用いる場合は、ノズル先端からの樹脂漏れ(いわゆるハナタレ)を防ぐため、射出するとき以外はノズル孔が閉じる構成を有する、いわゆるシャットオフノズルを備える射出成形機が用いられることが多い。しかし、本実施形態では、プルバック工程においてノズル孔が閉じていると、キャビティ内の溶融樹脂組成物10をバレル2側に引き戻すことができないため、射出充填後もキャビティ8側からバレル2側への樹脂の流路を開いておけるよう、シャットオフノズルは用いないか、プルバック工程時にノズル孔の開閉が可能な射出成形機を使用することが好ましい。
【0043】
一般的に、射出充填完了後にスクリュ1を後退させる際は、スクリュ1の回転は止められている。しかし、スクリュ1が回転していない場合でも、スクリュ1を後退させる際にバレル2内のスクリュ1側からノズル5側への樹脂の流路が開いていると、溶融樹脂組成物10がスクリュ1の前方に送られ、クッション量が増えることがある。クッション量が増えると、キャビティ8内の溶融樹脂組成物10をバレル2側に引き戻してキャビティ8内を負圧にすることが難しくなることがある。そのため、気泡の移動及び発泡剤の発泡をより促進する点で、プルバック工程では、バレル2内のスクリュ1側からノズル5側への樹脂の流路が閉じていることが好ましい。バレル2内のスクリュ1側からノズル5側への樹脂の流路を容易に閉じることができるよう、射出成形機はスクリュ1とノズル5との間に、スクリュ1側からノズル5側への樹脂の流路を外部から機械的に開閉可能な逆流防止弁を有していることが好ましい。そのような射出成形機としては、スクリュプリプラ式射出成形機や、住友重機械工業株式会社製射出成形機「SK−2」を挙げることができる。プルバック工程において、逆流防止弁を閉じることにより、バレル2内のスクリュ1側からノズル5側への樹脂の流路を閉じることができる。
【0044】
本実施形態において、プルバック工程における気泡の移動をより促進する点で、ホットランナー方式の金型を用いることが好ましい。ホットランナー方式の金型は、金型内の流路で溶融樹脂組成物10が固化することを防ぐことができるので、スクリュ1を後退させることによりキャビティ8内の溶融樹脂組成物10をバレル2側により容易に引き戻してキャビティ8内を容易に負圧にすることができるので、気泡の移動を容易に促進することができる。
【0045】
プルバック工程において、発泡の制御が完了した後、射出成形機のノズル5を金型スプルー部分から離すとともに、可動金型7を移動させることで固定金型6と可動金型7とを離間させて金型を開き(
図1(g))、エジェクタピン9を突き出して発泡成形品20を離型させる。
【0046】
(発泡成形品)
本実施形態に係る発泡成形品の製造方法は、樹脂の流動開始側(射出成形機のノズルに近い側)への気泡の移動及び流動開始側での発泡をより促進することができる。よって、本実施形態に係る製造方法によって得られる発泡成形品は、樹脂の流動開始側(キャビティのゲート側)にも多くの気泡が存在した構造にすることができる。一例として、
図4(b),(c)に、本実施形態に係る製造方法で成形した発泡成形品のX線写真を示す。
図4(b),(c)に示す発泡成形品は、
図3に示す成形品(ASTM D790に規定される曲げ試験片成形用金型のキャビティに繋がるゲート部を塞ぎ、スプルー及びランナーにのみ樹脂が充填されるようにしたものであり、スプルーが流動開始側、ランナーが流動末端側となる)を用いて発泡成形した際の、スプルー及びランナーのX線写真である。なお、この例においてはスプルーとランナーを合わせてキャビティと称する。
図4(b)は射出圧力10Mpaでキャビティの容積の90%まで溶融樹脂組成物を充填し、10MPaで1秒間保圧後にプルバックした場合の例であり、
図4(c)は射出圧力10MPaでキャビティの容積の90%まで溶融樹脂組成物を充填し、10MPaで5秒間保圧後にプルバックした場合の例である。
図4(b),(c)に示す発泡成形品はいずれも、スプルー部分(すなわち、樹脂の流動開始側)に多くの気泡構造を有している。この発泡成形品は、樹脂の流動末端側の強度を維持した状態で軽量化を実現することができる。なお、溶融樹脂組成物が固化する前であれば、再度スクリュを前進させて、サックバック部に引き戻した溶融樹脂組成物を充填する再充填工程を行ったり、そこから必要に応じ発泡工程、及びプルバック工程を繰り返したりして、更なる気泡位置の調整を行ってもよい。再充填工程は、上記充填工程と同様の方法で行うことができる。
【0047】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態の発泡成形品の製造方法を従来の製造方法と併用することで成形品中の気泡の発生位置を制御することが可能な発泡成形品の製造方法に関する。
【0048】
上記したように第1実施形態に係る発泡成形品の製造方法は、樹脂の流動開始側(射出成形機のノズルに近い側)への気泡の移動及び流動開始側での発泡をより促進することができる。これに対して、従来のショートショット法は、樹脂の流動末端側に気泡が存在しやすい傾向にあることがわかった。
【0049】
図2に基づいて、ショートショット法について説明する。
図2で用いている射出成形機は、
図1と同じであり、発泡剤を含む溶融樹脂組成物100を固定金型60及び可動金型70の間に形成されるキャビティ80内に射出充填する方法(
図2(a)〜(c))についても
図1(a)〜(c)と同じであるので、ここでは記載を省略する。なお、固定金型60及び可動金型70についても、
図1と同じ金型を用いることができる。
【0050】
図2に示すショートショット法は、キャビティ80内に溶融樹脂組成物100をキャビティ80内に完全に充填する前に、または完全に充填した時点で射出を停止し(
図2(d))、発泡を阻害しないよう、通常の射出成形(発泡させずに保圧でゲートシールを行う射出成形)よりも低い圧力で保圧することにより発泡を促進しキャビティ内を完全に充填させる(
図2(e))。このときスクリュ11は移動していない。発泡完了後、射出成形機のバレル2を後退させてノズル50を可動金型70から離し(
図2(f))、可動金型70を移動して固定金型60と可動金型70とを離間させて金型を開き(
図2(g))、エジェクタピン90を突き出して発泡成形品200を離型させる(
図2(h))。
【0051】
図4(d)に、従来のショートショット法のみを用いて成形した発泡成形品のX線写真の例を示す。
図4(d)は、上述した
図3に示すスプルー及びランナーからなる成形品を用いて発泡成形した際の、スプルー及びランナーのX線写真である。
図4(d)は射出によりキャビティの容積の99%まで溶融樹脂組成物を充填し、プルバック工程は行わずに0MPa(無加圧)で20秒間保圧しつつ発泡を進行させた場合の例である。
図4(d)に示す発泡成形品は、ランナー部分(すなわち、樹脂の流動末端側)に多くの気泡構造を有している。この発泡成形品は、樹脂の流動開始側の強度を維持した状態で軽量化を実現することができる。
【0052】
このように、第1実施形態に係る発泡成形品の製造方法と従来の発泡成形品の製造方法とは発泡を促進する位置が異なるので、両者を組み合わせることで、樹脂の流動末端側及び流動開始側の気泡の発生位置を制御することが可能になる。
【0053】
すなわち、第2実施形態に係る発泡成形品の製造方法は、第1実施形態の前における充填工程の前に、樹脂組成物をキャビティ内にキャビティ容積よりも少ない量射出充填し、キャビティ内に充填された樹脂組成物を発泡させる前発泡工程を有する。
【0054】
(前発泡工程)
前発泡工程では、上記した
図2に例示した従来のショートショット法のうち、溶融樹脂組成物をキャビティ内に射出し発泡させる工程までを行う(
図2(a)〜(f))。前発泡工程において、溶融樹脂組成物をキャビティ内に射出充填する量は、発泡後の溶融樹脂組成物の容積がキャビティの容積の100%未満、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは60%以下となる量とする。射出充填量は、この範囲内において、発泡成形品に求められる気泡構造により適宜設定することができる。例えば、樹脂の流動末端側に気泡が多い構造にするためには、ショートショット法による前発泡工程で発生する気泡の量を多くする、すなわち前発泡工程での発泡が促進されるよう射出充填する樹脂組成物の量を少なくし、かつ、引き続き行われる充填工程と発泡工程の後のプルバック工程において、遅延時間を短くすればよく、反対に樹脂の流動開始側に気泡が多い構造にするためには、ショートショット法による前発泡工程で発生する気泡の量を少なくする、すなわち前発泡工程での発泡が促進されにくいよう射出充填する樹脂組成物の量を多くし、かつ、引き続き行われる充填工程と発泡工程の後のプルバック工程において、遅延時間を長くすればよい。また、発泡成形品の全体に均一に気泡構造を有することが求められる場合は、前発泡工程で射出充填する樹脂組成物の量を少なくして前発泡工程での発泡を促進しつつ、引き続き行われる充填工程と発泡工程後のプルバック工程において、遅延時間をやや長くし、かつスクリュ後退速度を遅くすることが好ましい。これら射出充填量などの条件は、発泡成形品中の気泡の発生量と分布を観察しつつ適宜調節することができる。
【0055】
射出圧力、射出速度、クッション量、保圧時間、金型温度、バレル温度及びノズル温度等は、第1実施形態の充填工程と同様に設定することができる。
【0056】
前発泡工程において、射出充填が完了後、通常の(発泡させない)射出成形よりも低い圧力で保圧することにより発泡を促進する(
図2(e))。このときスクリュの位置は射出充填完了時と同じ位置にある。保圧時間は、発泡の進行状況と溶融樹脂組成物の固化状態を考慮しつつ適宜設定すれば良く、例えば、0〜100secとすることができる。溶融樹脂組成物が固化してしまうと、続く充填工程が困難となるが、保圧時間を短く設定すると前発泡工程での発泡が十分進行しないといった場合は、溶融樹脂組成物の固化を遅くするため、金型温度を高く設定することが好ましい。
【0057】
(充填工程、発泡工程、及びプルバック工程)
前発泡工程において発泡が完了した後、樹脂組成物が固化する前に、再度スクリュを前進させることにより溶融樹脂組成物をキャビティ内に完全に充填し(充填工程)、新たに充填された溶融樹脂組成物中の発泡剤を発泡させ(発泡工程)、スクリュを後退させることにより気泡の位置を制御する(プルバック工程)。充填工程、発泡工程、及びプルバック工程は、第1実施形態の各工程と同様にして行うことができる。充填工程、発泡工程、及びプルバック工程の詳細については、上記のとおりであるのでここでは記載を省略する。なお、樹脂組成物が固化する前であれば、さらに充填工程(再充填工程)、発泡工程、及び/又はプルバック工程を繰り返してもよい。
【0058】
[発泡成形品]
本実施形態に係る発泡成形品の製造方法によって得られる発泡成形品は、前発泡工程における発泡により樹脂の流動末端側に気泡構造を有するとともに、その後の発泡工程とプルバック工程における発泡及び気泡の移動により樹脂の流動開始側にも気泡構造を有している。前発泡工程における樹脂組成物の射出充填量とその後の充填工程における樹脂組成物の射出充填量とを制御することにより、得られる発泡成形品中の気泡の発生位置をさらに制御することができる。さらに、プルバック工程においてスクリュの後退量、後退速度及び後退のタイミング(遅延時間)を制御することで、樹脂の流動開始側の気泡の発生位置をさらに制御することができる。これにより、広範囲に均一に気泡が存在する発泡成形品や、特定部位の気泡を増やしてそれ以外の部位の気泡を減らすことにより特定部位の強度を維持しながら軽量化が可能な発泡成形品にすることができる。
【実施例】
【0059】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
ポリプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート樹脂「ジュラネックス(登録商標)PBT 532AR」95質量%に対して、発泡剤として積水化学工業株式会社製「ADVANCELL P501E1」(熱膨張性マイクロカプセルのPEマスターバッチ)を5質量%含む樹脂組成物を、株式会社ソディック製射出成形機「TR−100EH」のホッパに投入し、スクリュを回転させて外周面にヒーターを備えた250℃のバレル内に導入して溶融混錬した。引き続きスクリュの回転を維持するとともに、射出成形機のノズルを、ASTM D790の曲げ試験片成形用金型のゲート部を塞ぎスプルー及びランナーのみとした
図3に示す金型のスプルーブッシュに接しさせスクリュを前進させて、溶融樹脂組成物を、射出速度30mm/sec、射出圧力10MPaでキャビティ容積の90%となるようにキャビティ内に射出充填した。続いて、10MPaで1秒間保圧しつつ発泡剤を発泡させた。このときのクッション量は3mmであった。その後、スクリュとノズルとの間に外部から開閉可能に設置されている逆流防止弁を閉じ、かつノズル孔が開いた状態で、金型及び射出成形機のノズルの位置を維持しながらスクリュを速度3mm/secで10mm後退させて気泡を移動させるとともに発泡を促進させた。このときキャビティ内は負圧20MPaとなっていた。その後、金型を開き成形品を突き出して発泡成形品を得た。発泡成形品の寸法は、
図3に示すスプルー部分に相当する箇所が直径5mm×長さ50mmの円柱形状(ランナー側に向かって太くなるテーパーを有するため、直径は平均値)であり、ランナー部分に相当する箇所が6mm×6mm×70mmの角柱形状であった。
【0061】
[実施例2]
保圧時間を5秒にした以外は、実施例1と同じ方法で発泡成形品を得た。
【0062】
[比較例1]
従来のショートショット法により発泡成形品を製造した。実施例1と同じ樹脂組成物を、株式会社ソディック製射出成形機「TR−100EH」のホッパに投入し、スクリュを回転させて外周面にヒーターを備えた250℃のバレル内に導入して溶融混錬した。引き続きスクリュの回転を維持するとともに、射出成形機のノズルを、実施例1と同じ金型のスプルーブッシュに接しさせスクリュを前進させて、溶融樹脂組成物を、射出速度30mm/sec、射出圧力20MPaでキャビティ容積の99%となるようにキャビティ内に射出充填した。続いて、プルバック工程は行わずに、0MPa(無加圧)で20秒間保圧して発泡を完了させた。その後、金型を開き成形品を突き出して発泡成形品を得た。
【0063】
[参考例1]
発泡剤を含まないポリプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート樹脂「ジュラネックス(登録商標)PBT 532AR」を、株式会社ソディック製射出成形機「TR−100EH」のホッパに投入し、スクリュを回転させて外周面にヒーターを備えた250℃のバレル内に導入して溶融混錬した。引き続きスクリュの回転を維持するとともに、実施例1と同じ金型のスプルーブッシュに接しさせスクリュを前進させて、溶融樹脂組成物を、射出速度30mm/sec、射出圧力80MPaでキャビティ容積の90%となるようにキャビティ内に射出充填した。続いて、プルバック工程は行わずに、80MPaで20秒間保圧してゲートシールを完了させた。その後、金型を開き成形品を突き出して射出成形品を得た。
【0064】
[評価]
(気泡構造の観察)
実施例、比較例及び参考例で得られた成形品を、X線撮影装置Luminous社製「ME7100−VC」を用いて、管電圧60kV、2mAでX線写真を撮影した。結果を
図4に示した。実施例1の発泡成形品(
図4(b))は、ランナー部分(樹脂の流動末端側)だけでなくスプルー部分(樹脂の流動開始側)にも気泡構造を多く有している。実施例2の発泡成形品(
図4(c))は、ランナー部分(樹脂の流動末端側)には気泡構造が少なく、スプルー部分(樹脂の流動開始側)に気泡構造を多く有している。比較例1の発泡成形品はランナー部分(樹脂の流動末端側)に気泡構造を多く有している(
図4(d))。なお、参考例1の射出成形品では気泡は観察されなかった(
図4(a))。
【0065】
(発泡倍率)
実施例、比較例及び参考例のX線写真から、Adobe社製Photoshopを用いて画像処理を行い、樹脂部と気泡部の投影面積をピクセル数として測定し、発泡倍率を算出した。まず参考例(気泡が存在しない通常の射出成形品)のスプルー部分とランナー部分それぞれの樹脂部の投影面積を測定し、次いで実施例及び比較例のスプルー部分とランナー部分それぞれの気泡部の投影面積を測定した。その結果から、((参考例のスプルー部分の投影面積)+(実施例又は比較例のスプルー部分中の気泡部の投影面積))÷(参考例のスプルー部分の投影面積)をスプルー部分の発泡倍率とし、((参考例のランナー部分の投影面積)+(実施例又は比較例のランナー部分中の気泡部の投影面積))÷(参考例のランナー部分の投影面積)をランナー部分の発泡倍率として計算した。なお、参考例には気泡部が存在しなかったため、発泡倍率はスプルー部、ランナー部ともに1とした。各部における発泡倍率を表1及び
図5に示した。表1及び
図5に示すように、従来の製法による比較例1の発泡成形品は流動末端側の発泡倍率が高くなっている。これに対して、実施例1,2の発泡成形品の製造方法は、流動開始側の発泡倍率を高く制御したり、流動開始側と流動末端側の発泡倍率との差を小さく制御したりすることが可能である。
【表1】