【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公開日:2019年3月25日 第63回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨集、第168頁 2.公開日:2019年11月20日 第6回生物音響学会年次研究発表会講演要旨集、第74−75頁
【解決手段】超音波を用いてコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫を作物から忌避させるか、又はカメムシ類害虫の摂食を阻害することによりこれらの害虫の生育密度を減少し防除する、方法。
超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を作物から忌避させる方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることにより前記成虫を前記作物から忌避させることを含む、方法。
コナジラミ類害虫がタバココナジラミ及びオンシツコナジラミからの1種又は2種であり、アブラムシ類害虫がワタアブラムシ及びモモアカアブラムシからの1種または2種である請求項1に記載の方法。
超音波を用いてコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫を防除する方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることによりコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の前記作物における生息密度を低減せしめることを含む、方法。
超音波を用いてカメムシ類害虫を防除する方法であって、カメムシ類害虫の摂食を阻害する超音波を該カメムシ類害虫の成虫が生息している作物上又は果樹上の生息域付近に集束して適用し、該カメムシ類害虫の摂食を阻害することによりカメムシ類害虫の前記作物又は果樹における生息密度を低減せしめることを含む、方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は集束超音波を用いる、タバココナジラミ、オンシツコナジラミといったコナジラミ類害虫、ワタアブラムシ、モモアカアブラムシといったアブラムシ類害虫、及び/又はチャバネアオカメムシといったカメムシ類害虫を作物から忌避させる方法、及び該害虫の防除方法に関する。
【0002】
害虫を防除する方法には化学的防除、物理的防除及び耕種的防除等による方法が挙げられるところ、殺虫剤を用いる化学的防除が主流である。
【0003】
例えば、行動制御を利用した害虫防除の方法は、化学合成殺虫剤における普遍的な問題である薬剤抵抗性の問題や、人体、環境及び非標的生物に対する悪影響の問題を伴わないといった利点を有する。したがって、かかる方法は、薬剤に抵抗性を持つ害虫の出現や、環境・食品の安全・安心志向の高まりから、長年にわたり社会的に求められている、薬剤の代替となる環境調和型の害虫防除技術の開発に資するものである。
【0004】
農園芸作物を加害する害虫による経済的な損失も少なくない。このような害虫にはタバココナジラミやオンシツコナジラミといったコナジラミ類害虫が包含されるところ、これらの害虫種の成虫及び幼虫は各種農園芸作物の葉に加害し、作物の生育を阻害し商品価値を著しく低下させる。そのため、このような害虫は農園芸作物栽培における防除の対象となるが生物多様性の維持と食の安全の観点から、環境保全型の防除技術を開発する必要にも迫られている。
ワタアブラムシ、モモアカアブラムシといったアブラムシ類害虫、及びチャバネアオカメムシといったカメムシ類害虫もコナジラミ類害虫と同様に農園芸作物栽培における防除の対象である。
【0005】
施設園芸においては薬剤抵抗性を発達させたコナジラミ類、ハダニ類やアザミウマ類、あるいはアブラムシ類及びカメムシ類といった防除が困難な微小害虫の問題もあり、殺虫剤抵抗性の発達しにくい防除方法の確立も求められている。
特許文献1においては、「振動」といった作用力を、植物や地面といった「伝達物」を介して害虫に作用させて防除する技術が報告されている。
特許文献2においては、特定波長域の超音波によって防除対象害虫であるノシマダラノメイガを忌避させる技術が報告されている。一方で、星(2013)の開発した小型超音波集束装置は、非接触で対象物に力を与えることが可能であるという特徴を有しているため、イチゴの人工授粉の用途としての応用が期待されている(特許文献3、非特許文献1及び2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり超音波を用いてチョウ目害虫等の害虫を防除する試みがなされているが、これらの既存技術はコナジラミ類害虫、アブラムシ類又はカメムシ類の防除における実用性が立証されたものではない。例えば特許文献1に開示されている発明では、トマトの株を振動させることにより施設栽培トマトの微小害虫であるコナジラミ類の離脱を試みている。しかしながらかかる方法について同文献にはコナジラミ類害虫の防除効果は具体的に示されていない。またかかる方法においては、トマト地上部全体が揺らされることからトマトの着果への影響により、可販果率が低下するという問題も想定される。
特許文献2に至っては、同文献に記載の発明について、コナジラミ類害虫、アブラムシ類又はカメムシ類に対する適用性については示されていない。
そのため、地域を問わず利用可能な、農園芸作物を加害するコナジラミ類、アブラムシ類又はカメムシ類の防除に有効な新規技術が渇望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、これまで試されることさえなかったある主の媒体を用いることによってコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫の行動を制御し、もってコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫の防除ができる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]
超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を作物から忌避させる方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることにより前記成虫を前記作物から忌避させることを含む、方法。
[2]
コナジラミ類害虫がタバココナジラミ及びオンシツコナジラミからの1種又は2種であり、アブラムシ類害虫がワタアブラムシ及びモモアカアブラムシからの1種または2種である[1]の方法。
[3]
超音波が、変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波である、[1]又は[2]の方法。
[4]
超音波が適用される時間が、連続した10秒間〜90秒間である[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5]
作物がトマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、キャベツ、又はキクである[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6]
超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を防除する方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることによりコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫又は前記作物における生息密度を低減せしめることを含む、方法。
[7]
超音波を用いてカメムシ類害虫を防除する方法であって、カメムシ類害虫の摂食を阻害する超音波を該カメムシ類害虫の成虫が生息している作物上又は果樹上の生息域付近に集束して適用し、該カメムシ類害虫の摂食を阻害することによりカメムシ類害虫の前記作物又は果樹における生息密度を低減せしめることを含む、方法。
[8]
超音波が以下を充足する[1]〜[7]のいずれかの方法:
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波である。
[9]
超音波が以下を充足する[1]〜[7]のいずれかの方法:
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のDuty比が40%〜60%である。
[10]
超音波が以下を充足する[1]〜[7]のいずれかの方法:
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のパルスの強さが10 mN〜30 mNである。
[11]
超音波が以下を充足する[1]〜[7]のいずれかの方法:
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のDuty比が40%〜60%であり、
超音波連続的に発生され、該連続的に発生される時間が10秒〜90秒である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、農園芸作物を加害するコナジラミ類害虫あるいはアブラムシ類害虫を農園芸作物を作物から忌避させ、又は農園芸作物もしくは果樹を加害するカメムシ類害虫の摂食を阻害し、作物又は果樹における生育密度を従来の方法とは異なる手法により低減し、これらの害虫を防除することができる。
本発明の方法によれば、コナジラミ類害虫のオス成虫又はメス成虫に、集束超音波による非接触作用力(変調振動数は例えば1 Hz〜1000 Hz)を与えることにより、前記オス成虫又はメス成虫の作物上の生息域からの飛翔を促進し、もってこれらの害虫の成虫を飛翔させ該作物から離脱させることにより前記作物おける生息密度を低減せしめることができるのである。
オンシツコナジラミやタバココナジラミといったコナジラミ類害虫は小型の吸汁性害虫であり、幼虫及び成虫がトマトをはじめ、イチゴ、ナス、キュウリなどの野菜の多くの作物や花卉に寄生し加害する。コナジラミ類害虫は、葉裏に生息することから、密度が低い場合には見つけづらいばかりでなく生息部位に薬剤が行き届かないことも多いため、防除が難しい。
ワタアブラムシ、モモアカアブラムシといったアブラムシ類害虫、及びチャバネアオカメムシといったカメムシ類害虫もコナジラミ類害虫と同様に防除が難しい害虫である。 難防除害虫であるコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫に対する防除を合成殺虫剤を用いずに可能にする本発明の方法が奏する効果は、従来技術では不可能であった格別なものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は前記のとおり以下に再掲して示す方法に関する:
超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を作物から忌避させる方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることにより前記成虫を前記作物から忌避させることを含む、方法、である。
また本発明は、上記のとおり超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を防除する方法であって、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波をコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫が生息している作物上の生息域付近に集束して適用し、該成虫を飛翔又は逃避させ該作物から離脱させることによりコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の前記作物における生息密度を低減せしめることを含む、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を防除する方法にも関する。
さらに本発明は、超音波を用いてカメムシ類害虫を防除する方法であって、カメムシ類害虫の摂食を阻害する超音波を該カメムシ類害虫の成虫が生息している作物上又は果樹上の生息域付近に集束して適用し、該カメムシ類害虫の摂食を阻害することによりカメムシ類害虫の前記作物又は果樹における生息密度を低減せしめることを含む、方法にも関する。
上記本発明の超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を作物から忌避させる方法を以下において「本発明の忌避させる方法」ということがある。また、上記本発明の超音波を用いてコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫を防除する方法を以下において「本発明の防除方法」ということがある。これら本発明の忌避させる方法、摂食を阻害する方法及び本発明の防除方法を併せて、本明細書において「本発明の方法」ということがある。
以下の説明は、他の記載がない限り、上記本発明の忌避させる方法及び本発明の防除方法に共通して当てはまることである。
【0014】
本明細書において「超音波」とは、20 kHz〜50 kHzの範囲の特定の周波数を有する音波を意味する。超音波における周期性については、ある一定の持続時間の超音波を繰り返す周期性が存在してよいし、周期性はなくてもよい。なお、超音波には、帯域に対応した僅かな周期性が存在してもよい。
本明細書において超音波の「集束」、あるいは超音波を「集束する」とは、圧電振動子等により発生した超音波の波の頂点をトランスデューサーアレイの制御等によってほぼ一個所に集中させることを意味する。
本明細書において「集束超音波」とは、上記のようにして集束された超音波を意味する。
【0015】
<本発明の忌避させる方法又は摂食を阻害する方法>
本発明の方法において用いられる超音波は集束されてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の飛翔又は逃避を促進する超音波であり、該超音波によりコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫のメス成虫及びオス成虫の飛翔行動又は逃避行動が促進される。また本発明の方法において用いられる超音波は集束されてカメムシ類害虫の摂食を阻害する超音波であり、該超音波によりカメムシ類害虫の摂食行動が阻害される。
理論に束縛されるものではないが、本発明の方法は、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫に直接適用される前記非接触作用力により奏される飛翔行動又は逃避行動の促進効果、又はカメムシ類害虫に直接適用される前記非接触作用力により奏される摂食を阻害する効果に基礎を置くものであると考えられる。
タバココナジラミ雄雌成虫が交尾信号に振動を用いていることは知られている(非特許文献3)。しかしながらタバココナジラミを含むコナジラミ類害虫に対する非接触作用力により奏される飛翔行動又は逃避行動の促進効果についてはこれまで知られていないし、アブラムシ類害虫に対する非接触作用力により奏される飛翔行動又は逃避行動の促進効果やカメムシ類害虫に対する非接触作用力により奏される摂食を阻害する効果もこれまで知られていない。本発明が依拠する飛翔行動又は逃避行動の促進効果や摂食を阻害する効果は、従来技術からは想到し得ないものなのである。
本発明の方法が適用されるコナジラミ類害虫はとくに限定されず、タバココナジラミ及びオンシツコナジラミが例示される。
本発明の方法が適用されるアブラムシ類害虫は限定されず、アブラムシ類害虫としてワタアブラムシ及びモモアカアブラムシが例示される。
本発明の方法が適用されるカメムシ類害虫は限定されず、カメムシ類害虫としてチャバネオアカメムシ及びクサギカメムシが例示される。
【0016】
本発明の方法における超音波の周波数はとくに限定されないところ、20 kHz〜50 kHzが好ましく、30 kHz〜50 kHzはより好ましく、30 kHz〜45 kHzは一層より好ましい。
本発明の方法における超音波の変調振動数はとくに限定されないところ、変調なし又は1 Hz〜1000 Hzが好ましく、変調なし又は1 Hz〜500 Hzはより好ましく、変調なし又は1 Hz〜60 Hzは一層より好ましい。
本発明の方法における超音波のDuty比(超音波のON時間の比率)はとくに限定されないところ、40%〜60%が好ましく、約50%はより好ましい。
本発明の方法における集束超音波による非接触作用力はとくに限定されないところ、10 mN〜30 mNが好ましく、10 mN〜20 mNが好ましく、12 mN〜20 mNがより好ましい。
本発明の方法におけるパルスの強さは限定されないところ、120〜170dBが好ましく、140〜170dBはより好ましく、160〜170dBがより一層好ましい。超音波のパルスの強さは超音波の振幅により規定され、装置の駆動電圧、PWM、振動子の個数及び超音波の焦点距離によりすることができる。
本発明の方法における作物と超音波集束装置との距離はとくに限定されないところ、10cm〜40cmが好ましく、10cm〜30cmがより一層好ましい。 本発明の方法における超音波を集束して照射する作物上の部位はとくに限定されないところ、作物の葉面上などの平面が好ましく、葉面上の該成虫の生息域付近がより好ましく、該成虫に直接、集束超音波が触れることが一層より好ましい。
本発明の方法における集束超音波を照射する焦点位置の変更は、とくに限定されないところ、焦点位置をトランスデューサーアレイの制御などにより50cm×50cmの範囲で移動させることが好ましく、20cm×20cmの範囲で移動させることがより好ましく、5cm×5cmの範囲で移動させることがより一層好ましい。
【0017】
本発明の方法において、上記パラメータは適用期間中において任意のタイミングで変更してもよい。
本発明の方法における、特定のパルス長及びパルス間間隔により連続的に発生させる超音波(超音波バースト波)の持続時間は限定されず、例えば約1秒間〜約90秒間であってよい。本発明の方法において、かかる持続時間として約10秒間〜約60秒間は好ましく、約30秒間〜約60秒間はより好ましい。
【0018】
本発明の方法において、集束超音波が適用される合計時間は限定されず、1日あたり約1時間〜約5時間が例示され、約2時間〜約5時間が好ましく、約3時間〜約4時間がより好ましい。
【0019】
本発明の方法における集束超音波を発生するために用いられる装置としては、作物に接触しない位置に配置されて、コナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫の成虫の飛翔又は逃避を促進する集束超音波を発生するもの、又はカメムシ類害虫の摂食を阻害する集束超音波を発生するものであれば限定されない。かかる装置として、トランスデューサアレイを用いた装置は好ましい。
【0020】
トランスデューサアレイを用いた装置による超音波集束又は集束超音波について、以下の特性が知られている(非特許文献2):
・数100個の超音波振動子を用いることで、数10mN程度の力を発生させることができる。
・位相制御によって集束点(焦点)の位置を3次元空間の任意の位置に変更することができる。
・
図1に描かれたような正方形のトランスデューサアレイを用いたとき、焦点面に生じる超音波の音圧分布がほぼsinc関数に従う。これは、各超音波振動子から位相差をもつ球面波が放射されたと仮定したときに解析的に得られた結果である。
・正方形のトランスデューサアレイの一辺の長さをD、超音波の波長をλ、焦点距離をRとしたとき、集束点の径wは2λR/Dに等しい(
図2参照)。
・超音波振動子に供給される矩形波のパルス幅制御(PWM)によって、集束点における非接触作用力の強度を制御することができる。
【0021】
本発明の方法における集束超音波を発生するために用いられる装置として、特許文献3に開示されている装置に相当する装置はより好ましい。かかる装置は、植物体から離隔して配置される、複数の超音波振動子が配列されたトランスデューサアレイと、前記複数の超音波振動子にこれらの位置関係によって定まる分だけ互いに位相が異なる超音波を発生させることによって、前記複数の超音波振動子で発生した超音波を前記植物体の標的部位(コナジラミ類害虫が生息している葉)の位置に集束させると共に、前記葉の位置における非接触作用力の大きさが超音波帯よりも小さい変調振動数で周期的に切り替わるように、前記トランスデューサアレイを制御する制御手段とを備えている装置である。
かかる装置によれば、作物が受粉期にある場合には受粉を促進することもできるため好ましい。
【0022】
上記好ましい装置を用いる場合、本発明の方法として、複数の超音波振動子が配列されたトランスデューサアレイ及びこれを制御する制御手段を用いた方法であって、前記トランスデューサアレイを、植物体から離隔して配置する第1ステップと、前記複数の超音波振動子にこれらの位置関係によって定まる分だけ互いに位相が異なる超音波を発生させることによって、前記複数の超音波振動子で発生した超音波を前記植物体の標的部位(コナジラミ類害虫が生息している葉)の位置に集束させると共に、前記葉の位置における非接触作用力の大きさが超音波帯よりも小さい変調振動数で周期的に切り替わるように、前記制御手段を用いて前記トランスデューサアレイを制御する第2ステップとを備えている方法は、好ましい。
【0023】
<本発明の防除方法>
本発明のコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫に対する防除方法は、集束超音波を用いてコナジラミ類害虫又はアブラムシ類害虫を作物から忌避させる上記本発明の忌避させる方法、又はカメムシ類害虫の摂食を阻害する方法を用いるものである。
本発明の防除方法によれば、トマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、キャベツ、及びキクといった施設栽培作物等の成苗におけるコナジラミ類の防除が可能である。
また本発明の防除方法によれば、トマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、及びキクといった施設栽培作物等の成苗及び幼苗におけるアブラムシ類の防除が可能である。
さらに本発明の防除方法によれば、ウメ、モモ、スモモ、ナシ、カキ、及びカンキツ類といった果樹におけるカメムシ類の防除が可能である。
またさらに本発明の防除方法によれば、上記作物の苗に付着したコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫を該苗から離脱させることにより、これらの苗の定植時に本圃内にコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫が持ち込まれることを抑制して、本圃内におけるコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫の発生を予防する防除も可能である。
【0024】
本発明の防除方法において設置される超音波発生装置の種類は、所定の超音波を発生させることができるものであればとくに限定されない。また、設置される超音波発生装置の個数は、圃場や施設の広さに応じて適宜決定してよい。また、水平に敷設したレールに沿って物体を移動させることができる搬送装置に超音波発生装置を固定して、施設内で移動させてもよい。
本発明の防除方法によりコナジラミ類害虫の防除がなされる作物は限定されず、コナジラミ類害虫が寄生するいかなる作物であってもよい。かかる作物としてトマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、キャベツ、及びキク等が例示される。
また本発明の防除方法によりアブラムシ類害虫の防除がなされる作物は限定されず、アブラムシ類害虫が寄生するいかなる作物であってもよい。かかる作物としてトマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、及びキク等が例示される。
さらに本発明の防除方法によりカメムシ類害虫の防除がなされる作物・果樹は限定されず、カメムシ類害虫が寄生するいかなる作物・果樹であってもよい。かかる作物・果樹としてウメ、モモ、スモモ、ナシ、カキ、及びカンキツ類等が例示される。
【0025】
本発明の方法における超音波の波長はとくに限定されないところ、20 kHz〜50 kHzが好ましく、30 kHz〜50 kHzはより好ましく、30 kHz〜45 kHzは一層より好ましい。
本発明の方法における超音波の変調振動数はとくに限定されないところ、変調なし又は1 Hz〜1000 Hzが好ましく、変調なし又は1 Hz〜500 Hzはより好ましく、変調なし又は1 Hz〜60 Hzは一層より好ましい。
また本発明の方法における超音波のDuty比はとくに限定されないところ、40%〜60%が好ましく、約50%はより好ましい。 本発明の方法における集束超音波による非接触作用力はとくに限定されないところ、10 mN〜30 mNが好ましく、10 mN〜20 mNが好ましく、12 mN〜20 mNがより好ましい。
本発明の方法におけるパルスの強さは限定されないところ、120〜170dBが好ましく、140〜170dBはより好ましく、160〜170dBがより一層好ましい。
超音波のパルスの強さは超音波の振幅により規定され、装置の駆動電圧、PWM、振動子の個数及び超音波の焦点距離によりすることができる。
【0026】
本発明の方法における作物と超音波集束装置との距離はとくに限定されないところ、10cm〜40cmが好ましく、10cm〜30cmがより一層好ましい。
本発明の方法における超音波を集束して照射する作物上又は果樹上の部位はとくに限定されないところ、作物の葉面上などの平面が好ましく、葉面上の該成虫の生息域付近がより好ましく、該成虫に直接、集束超音波が触れることが一層より好ましい。
本発明の方法における集束超音波を照射する焦点位置の変更は、とくに限定されないところ、焦点位置をトランスデューサーアレイの制御などにより50cm×50cmの範囲で移動させることが好ましく、20cm×20cmの範囲で移動させることが好ましく、5cm×5cmの範囲で移動させることがより一層好ましい。
本発明の忌避させる方法についての上記説明事項は、本発明の防除方法にも当てはまることである。
【0027】
また、適用される超音波がさらに以下を充足するものである(a)〜(d)の本発明の忌避させる方法及び本発明の防除方法は、コナジラミ類、アブラムシ類又はカメムシ類に対する効果をより確実に奏することを可能にするため好ましい:
●(a)
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波である。
●(b)
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のDuty比が40%〜60%である。
●(c)
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のパルスの強さが10 mN〜30 mNである。
●(d)
超音波の周波数が20kHz〜50kHzであり、
変調振動数が1Hz〜1000Hzである変調超音波、又は非変調超音波であり、
超音波のDuty比が40%〜60%であり、
超音波連続的に発生され、該連続的に発生される時間が10秒〜90秒である。
【実施例】
【0028】
本発明を、以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
(実施例1)タバココナジラミに対する効果(試験(1))
供試虫:タバココナジラミ(バイオタイプQ)
供試植物:インゲン(品種:長うずら豆) 24.5℃に設定した恒温室内(湿度50%±10%)で1週間育苗したインゲン苗にタバココナジラミのオスまたはメス成虫を放飼し、数時間後に成虫60が20匹以上ついた葉を切除し、アクリルケージ50の内壁にインゲン葉70を固定した。アクリルケージ50内の葉から20cmはなれた位置に害虫防除用超音波集束装置1のトランスデューサーアレイ30を設置した。害虫防除用超音波集束装置1は超音波振動子285個を搭載し、位相を個別に制御可能な超音波フェーズドアレイである。害虫防除用超音波集束装置1の詳細は特許文献3に開示されている。振動数40kHzで+12Vと-12Vを繰り返す駆動信号を、1Hz、10Hz、30Hz、60Hz、120Hz、240Hz、480Hzまたは1000Hzで変調させた。葉上のタバココナジラミ全成虫の虫体に集束超音波が触れるように、入力装置15で焦点位置を縦横20cm×20cmの範囲で移動させるように設定し、奥行き20cmの位置に焦点位置を設定し、処理時間が10または60秒間となるように設定した(
図3−1)。処理前後で葉面上に残っている虫数を調査した。実験室内はエアコンで24.0℃に設定した。
適用した超音波のDuty比は50%であり、超音波のパルスの強さは16 mNとした。
その結果、タバココナジラミのオスまたはメス成虫に当該装置を用いて非接触作用力(変調振動数:1〜1000Hz)を与えることにより、飛翔を促進した(
図3−2)。
【0029】
(実施例2)タバココナジラミに対する効果(試験(2))
供試虫:タバココナジラミ(バイオタイプQ)
供試植物:インゲン(品種:長うずら豆)
実施例2において用いた方法により、タバココナジラミに対する本発明の方法の効果を調べた。 24.5℃に設定した恒温室内(湿度50%±10%)で1週間育苗したインゲン苗80の1株につきタバココナジラミ成虫60の雌雄10ペアを放飼し、それぞれ閉鎖型アクリルケージ50内に入れた。アクリルケージ50は底面のみ0.5mmメッシュであるものを使用した。超音波振動区のみ数時間後にアクリルケージ50の下に実施例1において用いられた害虫防除用超音波集束装置と同じ害虫防除用超音波集束装置1のトランスデューサーアレイ30を垂直方向上向きに設置し、振動数40kHzで+12Vと-12Vを繰り返す駆動信号を30Hzに変調させた。インゲン苗80の葉上のタバココナジラミ全成虫の虫体に集束超音波が触れるように、入力装置15で焦点位置を縦横20cm×20cmの範囲で移動させるように設定し、奥行きが底面からインゲン葉面までの距離(15cm〜24cm)と一致するように焦点位置を固定し、処理時間を4時間(11:30〜15:30)となるように設定した(
図4−1)。処理後に葉面上に残っている生存成虫数および卵数を調査した。実験室内はエアコンで24.0℃に設定した。
適用した超音波のDuty比は50%であり、超音波のパルスの強さは16 mNとした。
インゲン苗上のタバココナジラミ(オスまたはメス成虫)に当該装置を用いて非接触作用力を上記の方法により長時間与えると(変調振動数30Hz、4時間/日)、2日後のタバココナジラミの生存成虫率・産卵数が抑制された(
図4−2)。
【0030】
(実施例3)ワタアブラムシに対する効果(試験(3))
供試虫:ワタアブラムシ
供試植物:ナス(品種:千両)
ガラス温室内(温湿度は成り行き、冬季は15℃以上となるよう加温)で約1か月育苗したナス苗にワタアブラムシの有翅成虫又は無翅成虫61を放飼し、数時間後に成虫が20匹以上ついた葉を切除し、アクリルケージ50の内壁にナス葉71として固定した。
アクリルケージ50内の葉から20cmはなれた位置に害虫防除用超音波集束装置1のトランスデューサーアレイ30を設置した。振動数40kHzで+12Vと-12Vを繰り返す駆動信号を、1Hz、10Hz、30Hz、60Hz、120Hz、240Hz又は1000Hzで変調させた。
葉上のワタアブラムシ全成虫の虫体に集束超音波が触れるように、入力装置15で焦点位置を縦横20cm×20cmの範囲で移動させるようにし、奥行き20cmの位置に焦点位置を固定して処理時間が60秒間となるように設定した(
図5−1)。
処理前後で葉面上に残っている虫数を調査した。実験室内はエアコンで24.0℃に設定した。
適用した超音波のDuty比は50%であり、超音波のパルスの強さは16 mNとした。
その結果、ワタアブラムシの有翅成虫及び無翅成虫に当該装置を用いて非接触作用力(変調振動数:有翅の場合1〜240Hz、無翅の場合30Hz)を与えることにより、離脱を促進した(
図5−2)。
【0031】
(実施例4)チャバネアオカメムシに対する効果(試験(4))
供試虫:チャバネアオカメムシ
供試餌:ダイズ、落花生、水
試験開始1日前より絶食させ、水のみを与えたチャバネアオカメムシ成虫10匹(雌5匹、雄5匹)86を上面のみゴースを展張した照射区用ケース81に水84とともに入れ、ケースの20cm上方に害虫防除用超音波集束装置1のトランスデューサーアレイ30を
図6−1のように設置した。ついたて85で仕切った隣には、無照射区のケース82を設置し、同様にチャバネアオカメムシ成虫(雌5匹、雄5匹)86及び水84を入れて上面のみゴースを展張した。
2日間の試験で日中の計10時間、照射区用ケース81内の餌83にのみ集束超音波が触れるように焦点位置を固定し、振動数40kHzで+12Vと-12Vを繰り返す駆動信号を、変調をかけずに適用した。
適用した超音波のDuty比は50%であり、超音波のパルスの強さは16 mNとした。餌83はいずれも、照射処理を行った計10時間のみ、照射区用ケース81又は無照射区用ケース82の中に入れた。
2日間の経過後、各区におけるチャバネアオカメムシ成虫10匹の体重を計測したところ、集束超音波無照射区ではチャバネアオカメムシ成虫の合計体重が増加したが、照射区ではチャバネアオカメムシ成虫の合計体重は減少したことから、本発明の装置を用いて非接触作用力を餌のある場所に与えることによって、チャバネアオカメムシの摂食阻害効果が奏されることが示された(
図6−2)。