【課題】外耳道内に骨肉導音センサを装着して被検者の骨肉導音を取得し、被検者に特別な労力をかけることなく長時間にわたって安定的に被検者の血管音と呼吸音を同時に測定できるようにすること、計測中においても被検者が周囲の音を聞き易くする装置を提供する。
【解決手段】外気導音マイク6が設けられている本体部1及び被検者の外耳道8に挿入可能で先端付近に骨肉導音センサ4と外気導音スピーカ7が設けられている挿入部2を有し、被検者の耳に固定可能な筐体3並びに骨肉導音センサにより取得された音響信号を処理する音響信号処理手段5からなり、音響信号処理手段は、音響信号から血管音波形を抽出する低域バンドパスフィルタ51及び呼吸音波形を抽出する高域バンドパスフィルタ52を備える生体情報取得装置。
前記骨肉導音センサは、表面にダイヤフラムを有するエレクトレットコンデンサマイクと、前記ダイヤフラムの前面を覆う充填剤と、前記エレクトレットコンデンサマイクの側面及び後面を覆う樹脂ケースからなり、
前記挿入部を前記外耳道に挿入したとき、前記充填剤が前記外耳道壁に接する状態となる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報取得装置。
前記音響信号処理手段は、前記骨肉導音センサにより取得された音響信号に対して所定周波数より低い周波数の信号のみを通過させる処理を行って血管音波形を抽出する低域バンドパスフィルタ又はローパスフィルタ及び前記音響信号に対して所定周波数より高い周波数の信号のみを通過させる処理を行って呼吸音波形を抽出する高域バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタを備えている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体情報取得装置。
前記音響信号処理手段は、前記音響信号又は抽出した血管音波形における所定値以上の極大点が発生する時点から次の極小点が発生する時点までの期間にある呼吸音波形を除去する処理を行う脈拍ノイズ除去手段を備えている
ことを特徴とする請求項5に記載の生体情報取得装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている心拍数及び呼吸数計測装置は、簡易な装置で手軽に心拍数及び呼吸数を高い精度で同時に計測することができるが、体導音センサを被検者の脇の下に挟んで音響信号を取得するため、長時間にわたる安定的なデータ測定は困難である。
また、特許文献2に記載されているイヤーセンサは、雑音遮断用の防音シールドを有しているため、計測中は身体外で発生した周囲の音が聞きづらいという問題がある。
そして、特許文献3に記載されている生体センシング機能を備えた音響機器は、被検者の耳に生体センサを挿入するものではあるが、その生体センサは、受光部及び発光部を用いる血流センサ若しくは脈拍センサであるため、被検者の血管音と呼吸音を同時に測定することができない。
なお、特許文献3には、生体センサとして体温測定センサを併用することも記載されているが、その場合でも被検者の血管音と呼吸音を同時に測定することはできない。
この発明は、これらの問題を一挙に解決しようとするものであり、外耳道内に骨肉導音センサを装着して被検者の骨肉導音を取得し、被検者に特別な労力をかけることなく長時間にわたって安定的に被検者の血管音と呼吸音を同時に測定できるようにすることを第1の目的とし、計測中においても被検者が周囲の音を聞き易くすることを第2の目的としてなされたものである。
さらに、骨肉導音センサの装着感を良くすること、確実に血管音と呼吸音を分離すること及び分離した呼吸音波形から脈拍ノイズを除去し、肺の異常状態や呼吸数をより正確に検出することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の生体情報取得装置は、
骨肉導音を取得する骨肉導音センサと、
本体部及び該本体部から延び被検者の外耳道に挿入される挿入部を有する筐体と、
前記骨肉導音センサにより取得された音響信号に基づいて血管音波形及び呼吸音波形を抽出する音響信号処理手段を備える生体情報取得装置であって、
前記骨肉導音センサは前記挿入部の先端付近に設けられ、
前記挿入部を前記外耳道に挿入したとき、前記筐体は前記被検者の耳に固定可能であるとともに、前記挿入部の先端は前記外耳道における第1カーブと第2カーブの間に到達可能であり、かつ、前記骨肉導音センサは前記被検者の外耳道壁に接する状態となることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の生体情報取得装置において、
前記本体部には、外部の音を取得する外気導音マイクが設けられ、
前記挿入部の先端付近には、外気導音マイクが取得した外部の音を出力する外気導音スピーカが設けられており、
前記挿入部を前記外耳道に挿入したとき、前記外気導音スピーカは前記外耳道壁に接しない状態となることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の生体情報取得装置において、
前記筐体には、前記本体部の外面から前記挿入部の先端付近まで貫通する空洞部が設けられ、
前記挿入部を前記外耳道に挿入したとき、前記空洞部の挿入部側は前記外耳道壁に接しない状態となり、前記空洞部の本体部側は前記被検者の皮膚に接しない状態となることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報取得装置において、
前記骨肉導音センサは、表面にダイヤフラムを有するエレクトレットコンデンサマイクと、前記ダイヤフラムの前面を覆う充填剤と、前記エレクトレットコンデンサマイクの側面及び後面を覆う樹脂ケースからなり、
前記挿入部を前記外耳道に挿入したとき、前記充填剤が前記外耳道壁に接する状態となることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の生体情報取得装置において、
前記音響信号処理手段は、前記骨肉導音センサにより取得された音響信号に対して所定周波数より低い周波数の信号のみを通過させる処理を行って血管音波形を抽出する低域バンドパスフィルタ又はローパスフィルタ及び前記音響信号に対して所定周波数より高い周波数の信号のみを通過させる処理を行って呼吸音波形を抽出する高域バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタを備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の生体情報取得装置において、
前記音響信号処理手段は、前記音響信号又は抽出した血管音波形における所定値以上の極大点が発生する時点から次の極小点が発生する時点までの期間にある呼吸音波形を除去する処理を行う脈拍ノイズ除去手段を備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の生体情報取得装置において、
前記骨肉導音センサよりも前記第1カーブ側及び前記第2カーブ側の少なくとも一方に、膨張及び収縮可能な第1膨張収縮部がさらに設けられ、該第1膨張収縮部は、膨張時に前記外耳道壁を圧迫することを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の生体情報取得装置において、
前記骨肉導音センサが接する外耳道壁とは反対側の外耳道壁と前記挿入部との間に膨張及び収縮可能な第2膨張収縮部がさらに設けられ、該第2膨張収縮部は、膨張時に前記反対側の外耳道壁を圧迫することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の生体情報取得装置によれば、骨肉導音センサが挿入部の先端付近に設けられているとともに、挿入部を被検者の外耳道に挿入したとき、筐体が被検者の耳に固定可能であり、挿入部の先端が外耳道における第1カーブと第2カーブの間に到達可能であり、かつ、骨肉導音センサが被検者の外耳道壁に接する状態となるので、被検者に特別な労力をかけることなく長時間にわたって安定的に被検者の血管音と呼吸音を同時に測定できる。
また、外耳道壁に接触させて骨肉導音を取得するタイプの骨肉導音センサを利用しているため、雑音の影響を小さくすることができ、しかも筐体を被検者の耳に固定できるので、被検者が日常生活を送っている状態で血管音と呼吸音を計測することが可能となる。
そして、継続的に取得される血管音からは心臓の異常状態や脈拍数を検出することができ、呼吸音からは肺の異常状態や呼吸数を検出することができる。
さらに、血管音と呼吸音が同時に測定できることにより、従来は病院の設備でしか診断できなかったような循環器疾患や呼吸器疾患を早期発見することも可能となる。
【0015】
血管音と呼吸音の同時測定により、早期発見することが可能となる循環器疾患としては、慢性心不全(急性増悪も含む)・不整脈(徐脈、頻脈など)・狭心症・弁膜症・チェーンストーク呼吸(心不全末期に出現する)・心筋症(拡張型、肥大型)・心筋炎が挙げられ、呼吸器疾患としては、慢性閉塞性肺疾患:COPD(急性増悪を含む)・肺血栓塞栓症・気管支喘息・肺炎・気管支炎・睡眠時無呼吸症候群・肺がんが挙げられる。
また、詳細については後述するが、呼吸変動(σRR)と脈拍変動(σHR)の比であるストレス指数(SI)は、精神科疾患一般・過換気症候群・パニック障害の診断や痛みの定量化(PTSD)、すなわち痛み刺激の大きさの判定にも利用可能である。
【0016】
請求項2に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、本体部に外部の音を取得する外気導音マイクが設けられ、挿入部の先端付近には、外気導音マイクが取得した外部の音を出力する外気導音スピーカが設けられているとともに、挿入部を被検者の外耳道に挿入したとき、外気導音スピーカが外耳道壁に接しない状態となるので、被検者は計測中においても常時周囲の音を聞きとることができる。
そのため、被検者の血管音と呼吸音を計測している期間中においても、被検者はテレビ・ラジオの音声並びにオーディオ装置からの音楽等を両耳で視聴することができる。
【0017】
請求項3に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、筐体に本体部の外面から挿入部の先端付近まで貫通する空洞部が設けられているとともに、挿入部を被検者の外耳道に挿入したとき、空洞部の本体部側は被検者の皮膚に接しない状態となり、空洞部の挿入部側は外耳道壁に接しない状態となるので、被検者は計測中においても常時周囲の音を聞きとることができる。
そのため、被検者の血管音と呼吸音を計測している期間中においても、被検者はテレビ・ラジオの音声並びにオーディオ装置からの音楽等を両耳で視聴することができる。
【0018】
請求項4に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1〜3のいずれかに係る発明の効果に加え、骨肉導音センサが表面にダイヤフラムを有するエレクトレットコンデンサマイクと、ダイヤフラムの前面を覆う充填剤と、エレクトレットコンデンサマイクの側面及び後面を覆う樹脂ケースからなっているとともに、挿入部を外耳道に挿入したとき、充填剤が外耳道壁に接する状態となるので、骨肉導音センサの装着感が良くなり、骨肉導音の測定精度も良くなる。
【0019】
請求項5に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1〜4のいずれかに係る発明の効果に加え、音響信号処理手段が、骨肉導音センサにより取得された音響信号に対して所定周波数より低い周波数の信号のみを通過させる処理を行って血管音波形を抽出する低域バンドパスフィルタ又はローパスフィルタ及び音響信号に対して所定周波数より高い周波数の信号のみを通過させる処理を行って呼吸音波形を抽出する高域バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタを備えているので、確実に血管音と呼吸音を分離することができる。
【0020】
請求項6に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項5に係る発明の効果に加え、音響信号処理手段が、音響信号又は抽出した血管音波形における所定値以上の極大点が発生する時点から次の極小点が発生する時点までの期間にある呼吸音波形を除去する処理を行う脈拍ノイズ除去手段を備えているので、呼吸音波形から脈拍ノイズを除去することができ、肺の異常状態や呼吸数をより正確に検出することができる。
【0021】
請求項7に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1〜6のいずれかに係る発明の効果に加え、骨肉導音センサよりも第1カーブ側及び第2カーブ側の少なくとも一方に、膨張及び収縮可能な第1膨張収縮部がさらに設けられ、第1膨張収縮部は、膨張時に外耳道壁を圧迫するので、第1膨張収縮部を膨張させ外耳道壁を圧迫して血流を止めた後、第1膨張収縮部を収縮させコロトコフ音が取得できた瞬間における第1膨張収縮部の圧力が最高血圧となり、さらに第1膨張収縮部を収縮させ再度コロトコフ音が取得できなくなる瞬間における第1膨張収縮部の圧力が最低血圧となるので、血圧計として機能させることもできる。
【0022】
請求項8に係る発明の生体情報取得装置によれば、請求項1〜7のいずれかに係る発明の効果に加え、骨肉導音センサが接する外耳道壁とは反対側の外耳道壁と挿入部との間に膨張及び収縮可能な第2膨張収縮部がさらに設けられ、第2膨張収縮部は、膨張時に反対側の外耳道壁を圧迫するので、第2膨張収縮部を膨張及び収縮させることで、請求項7に係る発明の生体情報取得装置と同様に、血圧計として機能させることができる。
また、第2膨張収縮部を適当な大きさに膨張させておくことによって、骨肉導音センサを常にしっかりと被検者の外耳道壁に接する状態にしておくことができるので、骨肉導音センサにより取得される音響信号の振幅を大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は実施例1に係る生体情報取得装置の概念図である。
実施例1に係る生体情報取得装置は、
図1の概念図に示すように、本体部1及び挿入部2を有する筐体3と、挿入部2の先端付近に設けられている骨肉導音センサ4により取得された音響信号を処理する音響信号処理手段5を備えている。
本体部1には外部の音を取得する外気導音マイク6が設けられ、挿入部2の先端付近には、骨肉導音センサ4以外に外気導音マイク6が取得した外部の音を出力する外気導音スピーカ7が設けられている。また、挿入部2は被検者の外耳道8に挿入できるようになっており、その先端は挿入部2を外耳道8に挿入したとき、外耳道8における第1カーブ9と第2カーブ10の間に到達可能な形状に成型されている。
なお、挿入部2を標準的な外耳道8に適する形状に成型して汎用の生体情報取得装置とする場合と、挿入部2を装着する被検者の外耳道8に適する形状に成型して被検者専用の生体情報取得装置とする場合があるが、後者の方が高い精度で音響信号を取得できる。
【0026】
図2は人間の耳の断面図と骨肉導音の測定部位を示す図である。
図2から分かるように、外耳道8における第1カーブ9及び第2カーブ10は、外耳道8に2箇所ある屈曲部のうち入口11に近い方が第1カーブ9であり、鼓膜12に近い方が第2カーブ10である。
そして、挿入部2を外耳道8に挿入したとき、筐体3は被検者の耳に固定され、また、挿入部2の先端付近に設けられている骨肉導音センサ4は、
図2に示されている第1カーブ9と第2カーブ10の間にある測定部位(外耳道壁)に接する状態となり、外気導音スピーカ7は外耳道壁13に接しない状態となるようになっている。
そのため、骨肉導音センサ4は、耳周辺の動脈を音源とする骨肉導音及び副鼻腔や口腔反響骨導音、耳管を音源とする骨肉導音を同時に取得することができ、被検者は計測中においても常時外気導音スピーカ7から出力される周囲の音を聞きとることができる。
なお、骨肉導音センサ4による測定部位を第1カーブ9と第2カーブ10の間としているのは、
図2から分かるように、この部分に頭蓋骨の端部が張り出しているため、主として骨を伝わる骨肉導音を取得するのに適した位置であることによる。
【0027】
図3は骨肉導音センサ4の断面図である。
骨肉導音センサ4は、全体の形状は円柱状であり、
図3に示すように表面にダイヤフラムを有するエレクトレットコンデンサマイク14と、ダイヤフラムの前面を覆う充填剤15(ポリウレタンエラストマ製やメディカルグレードシリコン製等)と、エレクトレットコンデンサマイク14の側面及び後面を覆う樹脂ケース16(ポリカーボネート製等)からなっている。
そして、充填剤15の表面は、樹脂ケース16の周縁より前面側に膨らんでいるとともに、挿入部2の先端付近においてその表面が露出するように設けられているので、挿入部2を外耳道8に挿入したとき、充填剤15の表面が第1カーブ9と第2カーブ10の間の外耳道壁13に密着し、精度良く骨肉導音を取得できる。
【0028】
次に、音響信号処理手段5について説明する。
音響信号処理手段5は、骨肉導音センサ4から有線又は無線の送受信手段を介して、
図4(a)に示すような音響信号を受信する。
その後、その音響信号に対し、低域バンドパスフィルタ51を用いて、所定周波数(通常は200Hz程度)より低い周波数(通常は20〜200Hz程度)の信号のみを通過させる処理を行い、
図4(b)に示すような血管音波形を抽出する。
また、同じ音響信号に対し、高域バンドパスフィルタ52を用いて、所定周波数より高い周波数(通常は200〜700Hz程度)の信号のみを通過させる処理を行い、
図4(c)に示すような呼吸音波形を抽出する。
抽出した血管音波形及び呼吸音波形は、その後の利用目的に応じて、例えば医師等がそれらの波形をチェックする場合には波形表示手段に送信され、脈拍数や呼吸数を演算表示したり、脈拍数の変動、呼吸数の変動又はストレス指数(SI)を演算表示したり、演算した脈拍数や呼吸数等に基づいて状態判定を行い判定結果を表示したりする場合には脈拍数・呼吸数等演算表示手段に送信される。
【実施例2】
【0029】
図5は実施例2に係る筐体30を示す図である。
実施例2に係る生体情報取得装置の筐体30以外の構成は実施例1と同様であり、実施例1における筐体3と相違しているのは、外気導音マイク6及び外気導音スピーカ7に代えて空洞部17が設けられている点である。
そこで、筐体30及び空洞部17以外の構成に対しては実施例1と同じ番号を用い、空洞部17以外についての説明は省略する。
空洞部17は、挿入部2の先端付近から本体部1の外面まで貫通しており、挿入部2を外耳道8に挿入したとき、挿入部側にある開口は外耳道壁13に接しない状態となり、本体部側にある開口は被検者の皮膚(耳介等)に接しない状態となる。
そのため、実施例1のように外気導音マイク6及び外気導音スピーカ7を用いなくても、被検者は計測中においても常時周囲の音を聞きとることができ、マイクやスピーカを用いないので故障しない上に低コストであるという長所もある。
【実施例3】
【0030】
図6は実施例3に係る音響信号処理手段50のブロック図である。
実施例3に係る生体情報取得装置の音響信号処理手段50以外の構成は実施例1と同様であり、実施例1における音響信号処理手段5と相違しているのは、脈拍ノイズ除去手段53が追加されている点である。
そこで、音響信号処理手段50及び脈拍ノイズ除去手段53以外の構成に対しては実施例1と同じ番号を用い、脈拍ノイズ除去手段53以外についての説明は省略する。
【0031】
音響信号を高域バンドパスフィルタ52によって処理し抽出された呼吸音波形(
図4(c)参照)には、周波数が高めの脈拍ノイズが分離しきれずに残っている。
脈拍ノイズが残った状態の呼吸音波形を用いた場合、呼吸数等の演算に悪影響を及ぼすこともあるので、その問題を解決するために、呼吸音波形に残っている脈拍ノイズをできる限り除去する工夫を追加したのが実施例3である。
ところで、骨肉導音センサ4によって取得された音響信号(
図4(a)参照)において、脈拍に由来する周波数の高い信号(脈拍ノイズとなる信号)は、
図7に示すように、脈拍のピーク部分から始まる急峻なアンダーシュート部分に集中している。
そこで、脈拍ノイズ除去手段53は、まず、取得された音響信号又は抽出された血管音波形における所定値以上(
図7の血管音波形の場合、0.7V以上)の極大点が発生する時点から次の極小点が発生する時点までの期間(
図7のt1からt2の期間及びt3からt4の期間)にある呼吸音波形を削除する処理を行う(
図7の「脈拍ノイズ集中期間を削除した呼吸音波形」を参照)。
そして、脈拍ノイズ集中期間を削除した呼吸音波形に対して、
図8に示すように、脈拍ノイズ集中期間の前後にある呼吸音波形(楕円形で示した領域にある波形)を用いて脈拍ノイズ集中期間を補完する処理を行う(
図8の「波形補完した呼吸音波形(呼吸音処理波形)」を参照)。
【0032】
脈拍ノイズ除去手段53による処理を行って得られた呼吸音処理波形に基づけば、より正確な呼吸数を演算することができるので、循環器疾患や呼吸器疾患の判定精度を上げることができ、また、ストレス指数(SI)を利用した精神科疾患一般・過換気症候群・パニック障害等の診断や痛み刺激の大きさの判定にも資することとなる。
【0033】
最後にストレス指数(SI)について説明する。
ストレス指数は、一定時間中(例えば1分間)における単位時間中(例えば5秒間)の呼吸数群についての標準偏差(σRR)である呼吸変動(Respiratory rate variability:RRV)を、一定時間中(例えば1分間)における単位時間中(例えば5秒間)の脈拍数群についての標準偏差(σHR)である脈拍変動(Heart rate variability:HRV)で除したものであり、SI=σRR/σHRの式で表すことができる。
なお、呼吸変動は副交感神経の神経活動と関連し、脈拍変動は交感神経の神経活動と関連していることが分かっている。
そして、SIが小さくなる時には被検者が安定状態から不安定状態に向かっていると判定でき、SIが大きくなる時には被検者が不安定状態から安定状態に向かっていると判定できる。
そのため、ストレス指数(SI)は、精神科疾患一般・過換気症候群・パニック障害の診断を行う際の参考データとして利用することができる。
さらに、同指数は、痛み刺激の大きさの判定にも利用することができる。
その理由は、「痛み」は生体にとって包括的不安定状態であり、脳は「痛み」を感じる
と原始的反射を使って優先的に、かつ、可能な限り速やかに、この包括的不安定状態から
脱しようとするからである。
すなわち、脳は自分(脳)自身の維持の為に、心臓と肺のサイクルを副交感神経と交感神経の神経活動を調整することによって、脳内の酸素濃度と持続時間を確保しようとしているものと考えられる。
【実施例4】
【0034】
図9は実施例4に係る生体情報取得装置の概念図である。
実施例4に係る生体情報取得装置は、
図9に示すとおり、実施例1に係る生体情報取得装置の本体部1に加えて、挿入部2の先端より第2カーブ10側に膨張及び収縮可能な第1膨張収縮部18を設けるとともに、第1膨張収縮部18の空気圧を制御するためのポンプ19及び第1膨張収縮部18とポンプ19を接続するホース20を有しており、また、実施例1に係る生体情報取得装置の音響信号処理手段5に代えて、音響信号処理手段54を有している。
そこで、本体部1、挿入部2、筐体3及び骨肉導音センサ4等については実施例1と同じ番号を用い、第1膨張収縮部18、ポンプ19、ホース20及び音響信号処理手段54以外についての説明は省略する。
【0035】
第1膨張収縮部18は、挿入部2の先端より第2カーブ10側に、膨張させた状態で挿入部2の先端に接触しない位置であって、耳周辺の動脈の一つである深耳介動脈21を圧迫可能な位置に配置する。
そして、第1膨張収縮部18にポンプ19からホース20を介して空気を送り込み、第1膨張収縮部18を膨張させると外耳道壁13が圧迫されて深耳介動脈21の血流が止まる。そのため、その血流が止まる前の状態において骨肉導音センサ4で取得できるコロトコフ音は、血流が止まってしまうと取得できなくなる。
その後、第1膨張収縮部18からホース20及びポンプ19を介して空気を排出し、第1膨張収縮部18を収縮させると、血流が止まった状態からコロトコフ音を伴う血流が流れ出し、さらに第1膨張収縮部18を収縮させて深耳介動脈21を全く圧迫しない状態にすると、再度コロトコフ音は取得できなくなる。
ここで、深耳介動脈21の血流が止まった状態からコロトコフ音を伴う血流が流れ出す瞬間における第1膨張収縮部18内の圧力は最高血圧であり、さらに第1膨張収縮部18を収縮させていき深耳介動脈21が全く圧迫されない状態になって再度コロトコフ音を取得できなくなってしまう瞬間における第1膨張収縮部18内の圧力は最低血圧である。
【0036】
次に、音響信号処理手段54について説明する。
音響信号処理手段54は、実施例1の音響信号処理手段5と同様、低域バンドパスフィルタ51及び高域バンドパスフィルタ52を有するとともに、
図9右側のブロック図に示すとおり、抽出した血管音波形に基づいて、コロトコフ音を検知するコロトコフ音検出手段55を有している。
そして、第1膨張収縮部18内の圧力上昇中にコロトコフ音検出手段55がコロトコフ音を検知しなくなった時点における第1膨張収縮部18内の圧力を最高血圧、第1膨張収縮部18内の圧力低下中にコロトコフ音検出手段55がコロトコフ音を検知しなくなった時点における第1膨張収縮部18内の圧力を最低血圧として表示する血圧表示手段を備えている。
すなわち、実施例4に係る生体情報取得装置は、血圧計としての機能も有している。
なお、波形表示手段又は脈拍数・呼吸数等演算表示手段については、実施例1に係る生体情報取得装置と同様である。
【実施例5】
【0037】
図10は実施例5に係る生体情報取得装置の概念図である。
実施例5に係る生体情報取得装置は、
図10に示すとおり、実施例4に係る生体情報取得装置の挿入部2、第1膨張収縮部18、ポンプ19及びホース20に代えて、挿入部22、第2膨張収縮部23、ポンプ24及びホース25としたものであり、他の構成は実施例4に係る生体情報取得装置と同じである。
そこで、本体部1、筐体3及び骨肉導音センサ4等については実施例4と同じ番号を用い、挿入部22、第2膨張収縮部23、ポンプ24及びホース25以外についての説明は省略する。
【0038】
第2膨張収縮部23は、骨肉導音センサ4が接する外耳道壁13とは反対側の外耳道壁と挿入部22との間に設けられ、膨張させることによって骨肉導音センサ4が深耳介動脈21を圧迫できるようにしている。
そのため、挿入部22の骨肉導音センサ4の後面側には、第2膨張収縮部23を収容するための凹部26が設けられている。
そして、第2膨張収縮部23にポンプ24からホース25を介して空気を送り込み、第2膨張収縮部23を膨張させると外耳道壁が圧迫され深耳介動脈21の血流が止まり、逆に第2膨張収縮部23からホース25及びポンプ24を介して空気を排出し、第2膨張収縮部23を収縮させると、血流が止まった状態からコロトコフ音を伴う血流が流れ出し、さらに第2膨張収縮部23を収縮させて深耳介動脈21を全く圧迫しない状態にすると、再度コロトコフ音は取得できなくなるので、実施例4と同様に血圧を測定できる。
【0039】
さらに、実施例5では、第2膨張収縮部23を適当な大きさに膨張させておくことによって、骨肉導音センサ4を常にしっかりと被検者の外耳道壁に接する状態にしておくことができるので、骨肉導音センサ4により取得される音響信号の振幅を大きくすることができる。
図11は、骨肉導音センサ4により取得される音響信号の振幅の変化についての実験結果を示す図である。
図11(A)は、実施例1に係る生体情報取得装置を装着した被験者の両耳を結ぶ線が水平となっている状態における音響信号、
図11(B)は、実施例1に係る生体情報取得装置を装着した被験者の両耳を結ぶ線が鉛直となっている状態における音響信号、
図11(C)は、実施例5に係る生体情報取得装置を装着した被験者の両耳を結ぶ線が鉛直となっており、第2膨張収縮部23内の圧力が最低血圧と最高血圧の中間の値である状態における音響信号を示している。
この実験結果から、第2膨張収縮部23内の圧力を最低血圧と最高血圧の中間の値程度にしておけば、被検者の姿勢によらず音響信号の振幅をほぼ一定の大きさ以上で取得できることが分かる。
【0040】
実施例1〜5の生体情報取得装置に関する変形例を列記する。
(1)実施例1及び3〜5では外気導音マイク6及び外気導音スピーカ7を用いて、また、実施例2では空洞部17を用いて、挿入部2を外耳道8に挿入し筐体3を固定した状態であっても、筐体3を固定した方の耳で外部の音を聞くことができるようにしている。
しかし、通常は筐体3を両方の耳に固定することはなく、筐体3を固定しない方の耳で外部の音を聞くことができるので、実施例1及び3〜5においては外気導音マイク6と外気導音スピーカ7を設けなくても良く、実施例2においては空洞部17を設けなくても良い。
(2)実施例1〜5では、骨肉導音センサ4として、ECM14と、充填剤15と、樹脂ケース16からなるものを用いたが、挿入部2の先端付近に凹部を設け、その凹部に直接ECM14を嵌め込み、その開口側を充填材で覆うようにしても良い。
また、ECM14に代えて通常のコンデンサ型、可動コイル型、圧電型などのマイクロホンを用いても良く、充填材としてはポリウレタンエラストマ製やメディカルグレードシリコン製に限らず、硬化後の状態で人体の皮膚と同等の音響インピーダンス特性をもつ疎水性の樹脂であれば、適宜の弾性高分子材料が採用可能である。
【0041】
(3)実施例1〜5では低域バンドパスフィルタを用いて血管音波形を抽出し、高域バンドパスフィルタを用いて呼吸音波形を抽出したが、所定周波数より低い周波数の信号は全て通過させるローパスフィルタを用いて血管音波形を抽出し、所定周波数より高い周波数の信号は全て通過させるハイパスフィルタを用いて呼吸音波形を抽出するようにしても良い。
(4)実施例1及び2の音響信号処理手段5、実施例3の信号処理手段50並びに実施例4及び5の音響信号処理手段54においては、音響信号に対し、低域バンドパスフィルタ51を用い、所定周波数(通常は200Hz程度)より低い周波数(通常は20〜200Hz程度)の信号のみを通過させる処理を行うことで血管音波形を抽出し、同じ音響信号に対し、高域バンドパスフィルタ52を用いて、所定周波数より高い周波数(通常は200〜700Hz程度)の信号のみを通過させる処理を行うことで呼吸音波形を抽出した。
しかし、どの範囲の信号を通過させるかについては、個人差や計測時の被検者の状態に応じて適宜変化させても良い。
例えば、被検者の脈拍音の周波数が低い場合には、所定周波数を150Hz程度とした上で、低域バンドパスフィルタ51では15〜150Hz程度の信号のみを通過させる処理を行って血管音波形を抽出し、高域バンドパスフィルタ52では150〜600Hz程度の信号のみを通過させる処理を行って呼吸音波形を抽出すれば良い。
【0042】
(5)実施例4では、膨張及び収縮可能な第1膨張収縮部18を挿入部2の先端より第2カーブ10側に挿入部2とは分離させて設けたが、第1膨張収縮部18を設ける位置は、深耳介動脈21を圧迫可能な位置であれば、骨肉導音センサ4の第1カーブ9側、第2カーブ10側のいずれでも良く、骨肉導音センサ4の第1カーブ9側及び第2カーブ10側の両方であっても良い。
また、第1膨張収縮部18に加えて、実施例5の第2膨張収縮部23を合わせて設けても良い。
ただし、第1膨張収縮部18を膨張させた時に骨肉導音センサ4の位置がずれたり、骨肉導音センサ4が外耳道壁13から離れたりすることの無いように、
図12に示す(c−1)、(c−2)及び(c−3)の各例のような配置が好ましい。
さらに、骨肉導音センサ4からずれた位置に設ける場合には、できるだけ一方向のみに伸縮するものが好ましいが、
図12に示す(b−1)、(b−2)及び(b−3)のように骨肉導音センサ4の真上や同図に示す(a−1)、(a―2)及び(a―3)のように骨肉導音センサ4の片側及び両側に設ける場合には、複数の方向に膨らむ球体や楕円体の膨張収縮部を用いても良い。
【0043】
実施例1〜5の生体情報取得装置の応用例を列記する。
(A)被検者への装着が容易であり、しかも脈拍数と呼吸数を同時に計測できるため、心筋細胞又は冠状動脈硬化巣に中性脂肪が蓄積する難病で“心臓の肥満”と呼ばれることもある中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の医学研究用生体量計測装置として病院での治験用として好適に利用できる。
なお、TGCVの医学研究用に限らず、各種の呼吸器や循環器系疾患に関する研究や治験用としても利用できる。
(B)実施例1〜5の生体情報取得装置で取得した血管音波形や呼吸音波形又はそれらの波形に基づいて演算された脈拍数や呼吸数等の各種データをインターネット回線等の通信手段を経由して病院にあるサーバやクラウドサーバに送信できるようにして、在宅患者の遠隔診断システムを実現することができる。
特に、ぜんそく、睡眠時無呼吸症候群又は心疾患等、呼吸器や循環器系の病気に罹患している通院患者に適用するのに適している。
また、呼吸器や循環器系の病気に罹患していなくても、そのような病気にかかる可能性の高い中高齢者等に適用して健康管理を行う健康管理システムに利用できる。
さらに、睡眠不足がアルツハイマー病の原因になることに鑑み、脈拍数、呼吸数、ストレス指数等の各種データに基づいて睡眠状態を監視し、睡眠不足の解消に向けてアドバイスしたり環境を整えたりすることで認知症の予防に役立てることもできる。
【0044】
(C)実施例1〜5の生体情報取得装置を災害現場で治療を必要としている被災者に装着するとともに、各生体情報取得装置からのデータを収集、解析できるようにすることにより、脈拍数、呼吸数、ストレス指数等のデータに異常のある被災者を的確に把握して警報や指示を発するトリアージ支援用のシステムを構築できる。
(D)実施例1〜5の生体情報取得装置を運転者に装着するとともに、脈拍数、呼吸数、ストレス指数等のデータに異常のある場合に、運転者や同乗者に対して警報を発する装置を車に搭載するか運転者が所持するようにすれば、居眠り運転や心身異常の検知システムを構築できる。